白物語   作:ネコ

16 / 115
波の国
16 手配書?


 辺りが完全に暗くなる前に港町へと到着することが出来た。

 

 この時期に野宿というのは、寒さのために結構厳しいものがある。

 

 街に入ってから、宿を手分けして探すことにした。こんな時のためでは無いが、血継限界である秘術・魔鏡氷昌の応用で、小型の鏡を作成して、それを通信手段としている。

 

 鏡の中に入っての移動さえしなければ、チャクラの消費は微々たるものだ。

 

 二手に別れてしばらくすると、再不斬から連絡があった。

 

「宿を見つけた。別れたところから、俺の行った方向沿いにある。宿の前に波風と看板があるところだ」

「向かいます」

「俺は先に入って手続きしておく」

「お願いします」

 

 建物の間をショートカットしてもよかったが、知らない街で迷子になったら嫌だなと思い直し、一旦別れたところまで戻る。

 

 そこから、波風と書かれた看板を探しつつ進んでいくと、年季の入った宿へとたどり着いた。ここに来るまでにいくつか宿はあったのだが……。

 

(なんでこんなボロいところに?)

 

 宿の中へと入ってみたが、予想を裏切ることなく、外観と同じように古い建物だった。ある意味趣があるといってもいいくらいだ。

 

 入り口近くにある椅子に座っていた再不斬は、こちらが入ってきたことを確認すると、受付へと向かい老婆から鍵を受け取ってこちらへときた。

 

「〈荷を置いたら俺の部屋に来い〉」

 

 ほぼ口パクに近い形での小声にて言われ、鍵番号を見せてくる。それに対して小さく頷き返して部屋へと向かった。

 

(わざわざ部屋に来いってことは、何かあったのかな? そう言えば、時刻が遅いとはいえ、人の通りが少なかったような)

 

 港町に着いてから、住宅街の方を回っていたとはいえ、そこからこの宿に来るまでにも、人が少ないことに今更ながらに気付いた。

 

(こういったことにも、もっと早く気付かないといけないな)

 

 部屋の前に到着し鍵を開けて中へと入る。そこには布団しか無く、ただ寝るためだけの部屋ということがよくわかった。窓すらもなく、あるとすれば壁に掛けてある時計くらいだろうか。これだけ狭ければ、部屋数が多そうなので、かなりの人数を宿泊させることが出来るだろうが、この風化具合を考えると、いつ壊れてもおかしくない。宿泊するための人が来るのだろうか、と疑問に思ってしまうレベルだった。

 

 鍵に関しても、簡単に開けれるようなもの(それなりの開錠スキルか物理的にかだが)であるため、念のため金目の物は所持しておくのと、完全に冷えてしまっているが最後の弁当を持っていく。この様子では外食などしない可能性が高いからだ。

 

 籠に仕掛けを一応施して、再不斬の部屋へと向かう。その途中で一番奥にトイレがあるのがわかった。どうやらここは、共用のようだった。

 

 再不斬の部屋にて、事前に訪れる際の合図として教えられたことを実行する。始めに軽くノックを2回。間を開けて再度2回。そうして少し待つと、再不斬が扉が開けてきた。

 

 その隙間に入り込むと、再不斬はすぐに扉を閉じた。

 

「遅いので弁当を持ってきましたが、外食にしますか?」

「いや。弁当を貰おう」

 

 やはり弁当は冷め切っており、ご飯などはパサパサというよりも若干固めであった。それでも食べられないよりは遥かにマシではあるが……。

 

 弁当を食べ終わり本題を目で催促する。あまり、こちらから余計なことは言わない方がいいだろうと思ったからだ。部屋が狭いということは、隣の声や床下、天井にて誰かが聞いていてもおかしくは無い。再不斬が気付かないとは思えないが、用心に越したことはないだろう。

 

「これからだが、明日の早朝には出るから、今日は早めに寝ておけ〈街は監視されている〉」

「分かりました〈なぜこの宿に?〉」

「かなり狭い宿だが、休むだけなら十分だろう〈誘導だ油断するな〉」

「まあ、休むだけなら十分かもしれませんけどね〈常時警戒ですね〉」

「時間的にはそうだな……8時までに受付に集合としようか〈水分身を置いて5時に出る〉」

「十分寝られますね。明日の朝食はその辺で食べますか〈どこからです?〉」

「8時ならその辺の店は開いてるだろう〈便所からだ、朝は霧が出るらしい〉」

「美味しい店に当たるといいんですけどね〈なるほど〉」

「ああ。そうだな。後は好きにしろ」

「では部屋に戻ります」

 

 これで話は終わりとばかりに、再不斬は布団に横になる。このような形を取ったということは、誰かが聞いているのだろう。いつもであれば、読唇術の練習とばかりに口パクは長くなるのだが、今回は要点のみだった。

 

 部屋へと戻る前にトイレへと入り中の状態を確認しておく。トイレは寝る部屋よりも大きかったので少しショックではあるが、泊まる人数を考えれば、これくらいの空間は普通かもしれない。窓に関しては木枠で出来たもので、簡単に外せそうであった。用を足して部屋へと戻る。

 

 部屋に入り鍵を掛けて、籠を確認すると、僅かに動かした形跡が見て取れた。慌てず何事もなかったかのように取られてもいい金品を幾つか籠の中に入れていく。元々食材とその調理道具しか入っていないので、盗まれても問題はない。問題があるとすれば、この籠を確認した者がいるということ。そして恐らくは、扉以外からもこの部屋へと侵入することが可能ということだ。

 

 前者はまだいいとして、後者は完全に不意打ちを受けること前提になってしまう。

 

(あの島での鍛錬がいきなり役に立つなんて思いもしなかった)

 

 布団に横になり明かりを小さくする。時間は夜の8時で睡眠時間としては沢山ある。仮眠をしたふりをしつつ、部屋の周囲へと意識を飛ばし誰かいないかを確認する。

 

(遮蔽物があると、どうしても意識を集中しないと見つけられないな。これは今後の課題っと……2人か)

 

 横の部屋に1人と天井に1人どうやらいるようだ。ただの監視ならば、迂闊な行動さえしなければ問題ないだろうが、物盗りの類であれば予定を変更しなければならない。

 

 どうやら時間ごとに交代のようで、数時間おきに交代しているのが分かる。建物が古いせいもあるのだろう、移動の際の音が完全に消し切れていない。

 

(ある程度の技術のある組織の人、もしくは忍者かもしれないけど、上忍クラスではないのは間違いないかな。よくて中忍クラス)

 

 監視している相手の情報を頭に控えておき、時計を確認する。もうすぐ指定された5時に近づいていたので、ワザとらしく起き上がり、欠伸をしながらトイレへと向かう。その際に天井にいた者が移動する微かな音がした。どうやら監視は宿全体にて行っているわけでは無く、ひとりひとりに担当がついているのだろう。

 

 トイレにて大の方に入り扉を閉めて、気配を確認すると、入口の天井付近にて気配を感じていた。真上に来ていたらどうしようかと、色々考えていたが杞憂に終わったようだ。

 

 その後水分身を行い、自分の気配を消して、水分身に鍵を渡し部屋へと戻らせる。鍛錬の成果で1体分だけではあるが、水なしでも水分身が作れるようになったのは進歩だろう。その分チャクラを多めに消費してしまが、チャクラの最大値を増やしていけばいいだろうと考えていた。

 

 監視が離れたことを確認して木窓を開けると、霧が入り込んでくる。

 

(そういえば再不斬さんが言ってたな)

 

 未だ外は暗かったが、木窓を潜り外へと音が出ないよう気を配りながら出て窓を閉める。宿から出たのはいいが、どちらに進むべきかと考えていると、突然肩を叩かれ反射的に離れてから、相手が再不斬であることに気付いた。反射的に飛んでしまったので、着地の際に少し音が出たのは仕方ないだろう。気付かれないことを祈りながら、肩を叩いてきた再不斬に対して溜息が出る。せめて少しくらい気配を出しておいてほしいものだった。

 

 再不斬は、こちらの心情を全く気にしないとばかりに指をクイクイとして、ついてこいと言っているようだ。

 

 今度は音を立てぬように、足元にチャクラを送り込みながら建物の隙間を移動していく。港町を入口からではなく、壁の方から出ていき一旦街や街道から離れる。

 

 周囲に誰も居ないことを確認してから、再不斬は話し始めた。

 

「どうやらいまのこの姿は、手配書に載っているようだな」

「手配書というとお尋ね者ということですか?」

「そこまでではないが、最初に乗っていた大型船の到着先がさっきの港町だ。いつまで経っても来ないから乗員全員の手配書でも回っているんだろう。顔までは書かれた記憶はないが、特徴くらいは伝わっているはずだ」

「街へ入ってきた2人組がその手配書に似ていたので、確認と人数集めのために監視していたというところですか」

「そうだろうな。あの船には余程の物が積んであったようだ。今も探しているくらいだからな」

「大型の積み荷は見ずにそのままにしてありましたからね。見ておけばよかったでしょうか?」

「そうだな。可能性は低いが忍具であれば欲しかったところだな。今更だが……」

「取り敢えず火の国までは、ここから北西の方へ行けばいいんですよね?」

「そうだな。興味本位で鍛えたがお前はこれからどうするんだ?」

「面白いことは近くで見たいと思いませんか?」

 

 再不斬はこちらが言っていることが分からなかったのだろう。続きを促してくる。どこまで話したものかと思案するも、既に知識について再不斬に怪しまれているのは分かっているので、少しくらいはいいだろうと思い話すことにした。

 

「火の国に、木の葉の里があるのはご存知ですか?」

「それくらいは知っている」

「そこの里内で近々……と言っても数年内ですが内乱が起きる予定です。内乱と言っても一般住民に被害は出ないようですが、その数年後には更に大きな事が起きる予定です。飽くまで予定ですよ?」

「お前は未来が見えるのか?」

「私の血継限界については、再不斬さんに教えた通り雪一族です。雪一族に未来視があれば、簡単に殺られたりはしなかったと思います」

「だからと言ってお前に無いとは限らんな」

 

(さすがに騙されてはくれないか)

 

「未来は人の行動次第でいくつにも変わります。なので知っている私が動けば変わってしまうのは明らかではないですか?」

「変える気は無いということか?」

「全くというわけではないですが、近くで見たいというのが一番の本音ですよ。そういう意味では再不斬さんにあの場で会えたのは幸運でした」

「まるで会えるのが分かっていたかのようだな」

「再不斬さんに名前を貰えなかったら、たぶんあのまま霧がくれの里に居たでしょうね」

「答えになっていないがまあいい。(多少未来を知ったからと言って出来ることと出来ないことはあるからな)……それで? どうやって木の葉の里に入る気だ?」

「……どうやって入りましょう? 孤児院入りだけは何としても阻止したいところなんですよね……」

「普通は親が居なければ孤児院行きだろうな」

 

(火影の上層部の事について、話してもいいものかなあ)

 

 少し悩むが、相談しておいて問題ないと割り切り話し始める。

 

「えっとここからの事は内密でお願いしたいんですが……」

「どちらにしても、子供から聞いた話など誰も信じんだろう」

「再不斬さんの言葉として発されると、信じる人もいるかもしれないので」

「いいからさっさと言え」

「はぁ……お願いしますよ……。孤児院についてなんですが、そこの運営に火影上層部の人が関与していて、そこの子供を自分の部下として教育、もしくは実験をしているようなんですよね。そんなところに行って血継限界であることが分かったら利用される確率高すぎます」

 

 孤児院がどのような所かは知らないが、三歳で今の技術があれば即連れて行かれるだろう。上忍クラスにずっと隠し通せるほどの技術が、今の自分にあるとは到底思えない。それは再不斬を相手にして常々思っていることだ。チャクラを使わずに生活すれば可能かもしれないが、それでは折角の技術も衰えてしまうような気がしてしまうのだ。

 

「まあお前の好きにするといい。俺も取り敢えず水の国を出なければならなかったからな」

「再不斬さんはこれからどうするんですか?」

「仕事だな」

「働き者ですね。では、ひとつだけ言っておきます」

「なんだ?」

「働き先には注意してください。鏡については、こちらのチャクラが枯渇しない限りたぶん維持できるので、そのまま持っていてください。数年後に私が再不斬さんのお手伝いをする予定ですので、それまでに色々と足手まといにならないよう鍛えておきます」

「いまその内容を言ってはいけないのか?」

「先ほども言いましたが、未来への流れを変える気はあまりありませんよ」

 

 再不斬から僅かだが苛立ち始めている雰囲気を感じ取る。

 

「ここでお前が死ぬとどうなる?」

「ただ死ぬ時期が早くなるだけですね」

「あっさりだな」

「簡単に考えるように教えてくれたのは再不斬さんですよ?」

「そうだったな」

 

 再不斬は毒気を抜かれたように、いままでの気配を散らし、いつもの状態に戻った。

 

「取り敢えず次の街までは一緒に行きませんか?変化の術を再不斬さんだけが使えば、親子だと思われるでしょうし、手配書からも目を逸らしやすくなると思いますが?」

「いいだろう。そうと決まればいくぞ」

 

 辺りが明るくなってきた頃、次の街へ向けて2人は歩を進めた。

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。