白物語 作:ネコ
固まっていたのはほんの一瞬。すぐさまマダラへと攻撃を仕掛けるが、マダラは樹の根を操り近付くのを塞ぐと同時に、連合軍へとその根を伸ばしていった。
ナルトとミナトにより、連合軍の生きている者たちは飛雷神の術により遥か彼方へと移動させる。こと、ここに至っては、連合軍にやれることはなかった。
「どうやってあの封印を逃れた?」
「ああ。本体の方は封印されたようだな」
「本体?」
「説明してやる義理は無いが……そうだな。無限月読までの時間潰しに教えてやろう」
根で攻撃を受け流しながらも、マダラは説明をし始めた。
「今の俺は陰陽遁で作られた意識体だ。お前たちで言うところの黒ゼツと言われていたやつだな。本来ならば、長門かオビトのやつを使って輪廻転生するはずだったんだが、予定が狂ってしまったようだ。俺も遊びが過ぎたようだし、反省せねばなるまい」
今度は油断しないとばかりに根の範囲を増やすばかりか、樹の再生速度も上げていく。その速度は削り取る速度を遥かに上回っていた。それでも諦めることなく攻め続ける。
あと数分もなく、また、今から斬っても間に合わないにも関わらず、なかなか諦めない者たちにマダラは呆れたような声で続ける。
「もうすぐ、俺の望んだ恒久の平和が訪れる。意思は統一され、国同士……里同士……人同士が争うことなく過ごすことのできる世界……」
「それは所詮幻にすぎぬぞ! マダラ!!」
「お前の掲げる理想では、いつまで経っても変えることなどできぬ。今回の連合も所詮は一時的なものだ」
それぞれが仙術で攻撃しても、効果は無く、満月は無情にも樹の真上へと近付き、同じくして樹の真上の蕾も開き終わるところだった。
「もう、終わりだ」
その言葉を合図にしたかのように、樹の真上にあった蕾は開き終わり、輝き始める。それと同時にマダラも姿を消した。
根の動きも止まり、樹の再生も止まる。それでも諦めずに攻撃を続ける他のメンバーを余所に白は違う手を打つ。
(あの花の光を月に反射させて無限月読に掛けると言うなら、その光を遮れば……)
花の上まで一瞬で移動した白は、花の中心にある瞳のような場所を雷刀で傷を入れようとするが、雷刀のチャクラを吸い取られて通常の短刀にされてしまう。仙術チャクラを練って攻撃をしても、下の根とは違い傷すら付かない。
それでも白は諦めずに霧隠れの術を使う。花からの光を月へと漏らさないように。より濃密になるように。その間に樹を斬り倒すことを願って。
時間は無情にも過ぎ去る。
そして満月は、樹……花の真上に来てしまった。
霧隠れの術などお構いなしに、花から月に向かって光が上り、霧を払いのける。その光は月に向けて一直線に進んでいった。その光を妨げられるものは何もなかった。
月に光が当たった時に、花の中央にある眼のような模様と同じものが月にも投射される。その月を見ないようにと白は目を逸らした。大部分の者が白と同じ行動を取っただろう。
オビトの説明していた無限月読ならば、月を直接見なければいいと、誰もが考えたからだ。
その月に映しだされていたのは写輪眼の瞳だった。
それを見たものは、一瞬にして倒れ、その光を浴びた者も同じようにして倒れていく。
光は障害物など関係なく、降り注いでいった。
それはチャクラを持つものすべてを、幻術に掛けていく。
世界にいるすべての人・獣などチャクラを持つ生き物たちは、全て倒れ伏して動きを止めた。
そして、満月が花の真上を通り過ぎて光が止んだ時に、マダラは花の上に影のような黒い状態で立っていた。
「後は世界を作るだけか……いや……まだいたか……」
無限月読が完成した後も動けたものがいた。ナルトとミナトである。2人は不思議そうに手元を見て、すぐさま行動に移す。
2人は身体の中にいる尾獣によって、中から叩き起こされていた。
「しっかりするってばよ!」
「駄目だナルト……。この幻術は他者に触れられた程度では解除できない」
ナルトとミナトは、その場に居た者たちに触ることで幻術を解こうとするが、無限月読に外からの幻術破りは効果がなかった。
そんな2人にマダラから声が掛けられる。
「人柱力なだけはある。無限月読を耐えるとはな」
「みんなを元に戻せってばよ!」
「取り敢えず、術者を倒すよナルト」
「そう簡単にいくかな?」
ナルトとミナトによる螺旋丸は、閃光の名に相応しい速度をもってマダラへと当たるが、マダラは全くその場を動くことなくそれを受けた。
「しまった! 陰陽遁で術の効力がないんだ!」
「とうちゃん! そう言うことは早く気づいてくれってばよ!」
ナルトの非難を無視する形でミナトは続ける。
「と言うことは、仙術で倒すしかないね」
「わかった!」
ナルトは影分身をして、その場に座禅を組むと仙術チャクラを練り始める。しかし、マダラがそれを許すはずもなく、攻撃を仕掛けてきた。
それをミナトは飛雷神の術を使い、遠くへと移動させる。マダラはナルトたちを追わずに樹の方へと戻っていく。
しばらくすると、仙人モードになったナルトが、ミナトと共に戻ってきた。
それに合わせて、溜め息混じりにマダラは応じる。
「今度こそやってやるってばよ!」
「諦めたらどうだ? 俺をやったところで、この無限月読は解けんぞ?」
「そんなことはやってみなくちゃわかんねえ! ……それに俺は諦めねえ! それが俺の忍道だ!」
それから、ナルトとミナトによるマダラへの攻撃が始まった。マダラはところどころで攻撃を受けるが、ダメージを受けているのかが、身体が黒いために判断ができない。
今回は、ミナトの移動速度にもマダラはついていき、逃がさないとばかりに、逆に攻め立てる場面もあった。
決定打に掛ける攻防は、ずっと続くわけではなかった。ナルトの仙人モード用の影分身が減っていき、最後の一体になってしまう。
そして、ナルトに決定的な一撃を入れるところで、マダラの身体が一瞬硬直し、次の瞬間、身体は鎖によって縛り上げられ止められる。
「なにっ!?」
「今度こそ終わりだな」
驚くマダラを余所に、イタチのスサノオの一撃を受けたマダラは、十拳剣に吸い込まれていった。
唖然としているミナトとは別に、ナルトは確信を持ったような顔で頷く。
「信じてたってばよ!」
「これは結局どういうことだい?」
「仙人モードの時ってば、俺の感知範囲は広がるんだってばよ」
時間は無限月読が完成し、花からの光が終わったところまで遡る。
あの時に、無限月読が効かなかった者がもう1人いた。
それが白である。
倒れた状態から起き上がり、何が起きたのかとしばらく呆然としていたが、下で戦闘音がしたことでそちらへとそっと覗いたところ、ナルトたちが戦っていたのである。
状況がよく分かっていなかったが、2人が戦っているのは分かった。そこで気付く。
なぜマダラは、ナルトばかりを狙っているのかと。
(もしかして、感知できないんじゃ?)
駄目元で仙術チャクラを練り始める。しかし、マダラが白の元へ来ることはなかった。
仙人モードになった白は、穢土転生した2人を口寄せする。
イタチとクシナを。
口寄せした時は、特に他の者と同様に動くことはなかったが、新たにクナイによる命令の上書きで動くことが可能になったのである。
2人に状況を簡単に説明し、いざ、ナルトに加勢しようとしたところで、イタチに止められたのである。
「待て。確認したいことがある。……まず、この樹はもうチャクラを吸収していないようだな」
「そう言えば……」
仙術チャクラを纏っていないにも関わらず、チャクラの吸収は無くなっていた。イタチの言葉にクシナは自分の身体を確認していた。
「後、幻術を解けば、その後は無限月読に掛かることはないということだ」
「そうですね」
イタチの言葉通り、会話している以上無限月読に掛かっているわけではない。マダラの言葉が本当であれば、このような惨状の世界を作るとは思えなかったからだ。それに加えて、自分のチャクラに乱れが無いことも感じ取っていた。
その後は、ナルトが攻撃しているのを観察し、マダラの情報を集めていく。
「あそこで、なぜ追撃しないんでしょう? マダラにとって結構有利になったはずなのに……」
「どうやら、この樹の根の広がっている部分が、マダラの活動できる範囲のようだな」
「私が鎖で縛れれば……」
悔しがるクシナにひと目やると、イタチは白に確認する。
「白……他人のチャクラに仙術チャクラを纏わせることは可能か?」
「やったことないですね……」
「ナルトができたんだ。他の者もやれるだろう」
「やってみますよ」
それからクシナの鎖に仙術チャクラを混ぜる練習をやってみたが、結果はうまくいかなかった。他人のチャクラに合わせるなど、そう簡単にいくものではない。それも、扱いが難しい仙術チャクラならば尚更だった。
しかし、これもイタチの提案で覆される。
「外から無理ならば、中からでどうだ?」
「つまり、クシナさんを操ってってことですか?」
「そうだ」
ナルトたちの戦闘を見ながら、白へと言ってくる。
この言葉は、予想外の結果を白にもたらす。白は、他者がそう簡単に、仙術チャクラを練れるとは思っていなかったのである。
しかし、操っているのは白。チャクラ比を合わせるのも白ならば変わってくる。
そして、それは簡単にできてしまった。
唖然とするクシナを余所に、できたことを横目で確認すると、イタチは白に話しかける。
「後は、継続時間を延ばせるように溜めておけ。俺は試したいことがある」
「分かりました」
そう言うと、イタチは根に隠れて倒れている忍びの1人に近付き写輪眼で幻術を解こうとするが、結局解くことはできなかった。
それを確認したイタチは、白の元へ戻ってくると、ナルトの状況を確認してから簡単に仙術を説明し、行動へ移す。それに合わせて、白もクシナを操り移動を開始した。
クシナが最初に白を捕まえた時のように、チャクラを空間へと浸透させていき、根のギリギリの範囲で張っていたのである。ナルトはそれに気付き、マダラをそこへ誘導した。
イタチは、地中でマダラが捕まるのを待ち、捕まえたところをスサノオの十拳剣で貫いたのである。
「後はこの幻術を解くだけだってばよ!」
「しかし、外から解くことはできない……俺の写輪眼でもだ」
「ええっ!?」
それから、色々と試したが効果は無く、時間だけが過ぎていく。
静かな夜明けが出て来た頃に、白は早口でナルトへと詰め寄る。
「ナルト時間が無い。ネジを生き返らせたいからついてきてくれ」
「そんなことできんのか!!」
「今のナルトなら大量のチャクラがあるからできるはずだ」
「それならすぐにでもやるってばよ!」
ナルトを連れてネジの元へとたどり着く。探すのに少々時間を掛けてしまい、少し焦りが白には出ていた。
「なんでそんなに慌ててるんだ?」
「この術は死後1日……24時間以内に使わないと効果が無いんだ」
「ええ!? それじゃあ。連合の皆は……」
「取り敢えず、俺にチャクラを分けてくれ」
「お……おう」
ナルトからの大量のチャクラを受け取り、ネジの胸に手を置いて印を組む。そして術の名を口にした。
「―――起死転生―――」
ナルトからのチャクラがあり、ネジの穴の開いた箇所は、どんどん肉が付いていき、生気が宿り始める。それは傍から見ても生き返ったのが分かるほど劇的なものだった。最初の状態が状態なだけに、分かりやすいと言えるだろう。
しかし、代償はナルトのチャクラだけではなかった。チャクラを精密に扱わなければならないこの術は、白の精神力を削っていく。
小南の時ほどではないが、白は疲れ切った状態でネジから手を離した。
離したというよりも、ネジが起き上がったことにより手がずれたといった方がいいだろう。
「おはようネジ」
「……白か!?」
「俺もいるってばよ……」
「今の戦況はどうなっている!?」
「一応終わった……」
そう言い終わったところで、白は横へと倒れ込んだ。
「おい! 白!」
「ごめん。休む」
白が地面に倒れ込む前にネジが支える。白は気絶はしなかったものの、まともには動けないほど疲れ果てていた。
「死んで生き返った者は無限月読から解放されるわけか……」
「白君のあの状況を見る限りでは時間的に数人が限界かな……」
いつの間にか、イタチを含めて白の傍へと来ていた面々は、それぞれの考えを口に出していく。
「そうだ! 輪廻転生の術で!」
「誰が輪廻眼持ってるのさ?」
「…………」
白の言葉にナルトは黙り込む。しかし、それも束の間。
急に立ち上がると、ミナトの元へ行き、何事かを話してから、手を組み目を閉じて集中し始めた。
それまで九尾モードの状態だったナルトは徐々に変化していく。
それは、九尾のチャクラから十尾のチャクラへと変わっていった。徐々に変わっていったナルトは、オビトの時のように変化していく。そして、オビトの時と似たような形を取った。違いと言えば、九尾モードの時のようにコートを羽織った状態ということだろう。
ナルトは十尾の人柱力となったのである。
その眼は輪廻眼へと変わっていき、手には錫杖が現れた。首には勾玉も9つ現れ、コートの端が十に分かれており、それが尾のように見える。それが十尾の人柱力の完全体であるかのように。
オビトの時とは違い早く終わったのは、尾獣たちが協力したからだろう。
「これでいけるってばよ!」
「輪廻眼!?」
驚く周囲を余所に、ナルトは意気揚々と花のところへ向けて浮かんでいく。
「ナルト! 輪廻転生を使うと死んでしまうんだぞ!」
「俺はそんな簡単に死なねえってばよ!」
ナルトはハッキリ宣言すると花の上までいくと、世界へ手を伸ばすようにして広げると、十尾のチャクラが世界を包むように広がっていく。
ナルトにより、1度皆死んだ状態までもっていき、その後に輪廻転生で生き返った。
これにより、無限月読の呪縛からあらゆるものが解放される。
多大な犠牲を払って……。
次で最後です。