白物語   作:ネコ

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11 血継限界?

 宿の中は、特に色々と飾ってあるわけではなく、ごくシンプルなもので、カウンターと広間、それから上へと上がる階段くらいしか無かった。壁は白で統一されており、特に絵が貼られていたりなどはしておらず、天井からランプのようなものが垂れ下がっているだけだった。

 

 宿の対応は再不斬に任せて、宿内を確認しておく。無いとは思うが、もし奇襲などを受けた際に、いつでも逃げる道を確保するためである。

 

「おい、いくぞ」

 

 再不斬は受付から鍵を貰ったようで、それを指にかけて、階段を上がっていった。こちらも同じように階段を上がり再不斬の後についていく。

 

 二階も一階と同じく、シンプルな造りで、通路の片側には窓。反対側が部屋となっていた。再不斬は一番奥の部屋の前で止まると、こちらに振り返り鍵を渡してくる。

 

「ここがお前の部屋だ」

「空さんは別の部屋ですか?」

「ああ、俺は隣だな。元々ここには一人部屋しかないらしい」

「なるほど(端から見たら、大の大人二人が同室とか、変な目で見られたら嫌だしね)」

 

 この世界にそう言った考え方があるのか不明であったが、白としては気になってしまう。

 

「明日は、店が開いたら出航前に買っておけよ」

「何をですか?」

 

 再不斬は、お前は何を言ってるんだと言わんばかりの顔を向けてきた。その顔は完全に呆れている。

 

(何か忘れてるかな? 明日は船に乗るから、食糧とか船酔い止めの薬とか?)

 

「お前が服が欲しいと言ってきたんだろうが」

「ああ!すっかり忘れてました」

 

 再不斬は呆れを隠そうともせずに白へと言ってきた。

 

「いらないのか?」

「もちろんいります!」

「それなら覚えておけ」

「すいません(すっかり忘れてた。変化の術を解いたら、あのボロ服なんだった)」

 

 変化の術で、白自身が見ても、着心地だけが違うだけで見た目は普通の服に見える。その事に思い至り、白は自分の間抜けさに肩を落として謝った。

 

「夕食と朝食は街中で適当に済ませておけ、前に渡した袋にまだ金はあるだろう?」

「出来る限り節約したので、ほとんど減ってないですよ。古着でしたら、多分この余ってるお金でもいけると思います」

「それなら買っておけ。11時にそうだな……この宿前に集合だ」

「分かりました」

 

 その後、再不斬と別れて部屋に入り、窓から外の景色を見る。誰かに狙われているのであれば、危険な行為かもしれないが、狙われていたとしても、それは再不斬の方だけのはずであり、自分には関係ないと、自身に言い聞かす。

 

 外は既にどこも暗く、店や建物の付近だけに明かりが灯っており、そこだけがくっきりと見えるような状況だった。そんな中でも、潮の香りだけはこの部屋へと入ってくる。

 

(久しぶりの海だな。街に入ったときに遠目で見たけど、木造の船ってなんか不安があるなあ。途中で穴が開いたり、腐食してたりしないんだろうか? 最悪水の上に立てるとはいっても、海を渡りきる自信はないし、波が激しかったら、すぐに捲き込まれるだろうし……。沈まないことを祈ろう)

 

 明日からの船旅のことは一旦忘れて、部屋のなかを確認する。部屋の中はビジネスホテルのようなもので、シャワー室とトイレが別にあるくらいで、部屋にはベッドがあるだけだった。

 

 取り敢えず、一日中歩いた汗を流すべくシャワーを浴びることにした。シャワー室はそこまで広くはなく、二人はいれば狭く感じるくらいの空間だった。

 

 変化の術を解いてから服を脱ぎ、身体を洗い終えてから、備え付けのバスタオルを身体に巻き付けてから、暫し考える。

 

(水場自体が、部屋内にはここにしか無いみたいだし、さすがにトイレの水を使うのは抵抗あるから、ここで訓練するか)

 

 巻物に書かれていた印を思い出しながら、ゆっくりと印を組んでいき、チャクラを練っていく。

 

(―――氷遁秘術・魔鏡氷昌!)

 

 印の完成と共に、一枚の鏡が目の前に現れた。その現れた鏡にて改めて自分の姿を見る。

 

(こうやってハッキリとした鏡で、自分の姿を見るのは初めてだな。……やっぱりこれって白の若い頃だよね? 見た目が女みたいだ……。せめて普通でいいから男顔がよかった……)

 

 自身の姿に少しショックを受けつつも、術の効果を確認する。恐る恐る指を伸ばして鏡へと近付けると、指はそこに鏡など無いかのように、突き進んでいく。手首まで入ったところで、反対側を確認するも、そこには手首から先は出てはいなかった。

 

(鏡の中に入れるのは間違いないと……。これって中に居るときに、鏡が破壊されたらどうなるんだろう? 閉じ込められるとかは勘弁してほしいなあ。取り敢えず、中に入ってみるかな)

 

 鏡の中に完全に入り込むと、そこは真っ白な空間が広がっていた。振り向くと、鏡の形の分だけが、シャワー室を映している。

 

 試しとばかりに、再度鏡の中で術を発動すると、すぐ手前にもう一枚の鏡が現れる。

 

(移動に関しては、認識するだけか……)

 

 目の前に見える鏡へと移動することをイメージした瞬間、既に移動を終えており、見える景色が変わったことで初めて移動したことに気付いた。

 

「……これは速すぎなのか、距離が近いからなのか、いまいち分からないな。取り敢えず、術自体は成功ってことでいいか」

 

 鏡から出て術を解く。解いた瞬間に鏡はうっすらと溶けるように消えていった。

 

 その結果に満足して、この日は寝ることにした。どうも、この氷遁秘術・魔鏡氷昌は、かなりの負担がくるようで、解いてすぐにかなりの眠気が襲ってきていたからである。

 

 なんとか、ベッドまで辿り着き、そのまま倒れ込んで意識を手放した。

 

 

 

 翌朝。日の光を感じると共に、肌寒さを感じて目覚めると、ベッドに備え付けになっている時計は、7時を示していた。

 

(昨日何時に寝たんだっけ。それほど遅くに寝たとは思えないけど、秘術は消耗がかなり激しいみたいだ。現状では切り札としてしか使えない。あそこまで使いこなすためにもこれから訓練あるのみ! ……それに、昨日は夕食も食べそびれてるし。取り敢えずお腹減ったから朝食を食べに行こう)

 

 ベッドから起き上がり、身体にタオルだけの状況に寒いはずだと納得し、脱ぎ散らかしたままの服を再度着込み、変化の術を行う。

 

 出発の準備が出来たところで、窓から外の景色を見ると、昨日とは違い、港町全体がほぼ見渡せる。

 

 宿に食事をするところが無いためだろう。宿の反対側に例の会社はあるが、その横から飲食店が幾つか並んでおり、それに連なるように他の店が港へと続いていた。

 

 店の奥側は普通の民家が見受けられたので、店があるのはおそらくこの通りだけなのだろう。

 

(ここだけ見ると、普通の街に見えるのに、平和とは程遠い世界とはねえ)

 

 街の全体図を見える範囲で頭に刻み部屋を出た。一階に降りて、カウンターにいる受付に鍵を返す際に尋ねる。

 

「ここら辺で旨い店はどこになります?」

「どこも美味しいですが、ここから一番近い店には人が多く入っているようですよ」

「ありがとう」

「またのお越しをお待ちしております」

 

 宿をあとにして、早速教えてもらった店へと向かう。宿の窓から見たが、朝7時でも開いてる店は2~3件しか無かった。

 

 受付に言われた店はその中に含まれており、確かに朝から開いているのであれば、味に大差が無い限り、集客率は高いだろう。実際に幾人かが、店へと出入りしているのが見えた。

 

 店に入ると、テーブルがいくつもあり、相席が基本のようだ。適当に空いている席に座る。メニュー表はどこにあるのかと探していると、女性がやってきた。

 

「ここは初めてですか?」

「ええ」

 

 おそらくメニュー表を探すのにキョロキョロとし過ぎたためだろう。店のシステムが分からない以上こちらとしても聞くしかない。

 

「朝は魚定食か肉定食のどちらかです。お代はどちらも一緒ですよ。初めてでしたら、新鮮な魚の方がおすすめです」

 

 周囲を見てみると、頼んだ料理はバラバラのようだったが、港町なら新鮮な魚料理が出るだろうと思い注文する。

 

 しばらくして運ばれてきた料理を食べる。

 

(焼き魚と刺身を同じ皿に盛るとは……)

 

 メインが魚で、あとはご飯と味噌汁がついているくらいだった。確かに美味しかったが、毎回来たくなるようなものではなかったように感じていた。

 

 お代を払い店を出る。時刻は八時近くになっており、ボチボチと開店作業を行っていた。

 

 開いた店を巡り古着屋を探しつつ、薬などを調達していく。薬についての知識はほぼ無いため、店員に確認しまくりであったが、他の客がいなかっためか、嫌な顔をせずに対応してくれた。

 

 結局薬局を出たのが、9時過ぎとなっていたので古着屋へと足を進める。

 

 古着屋に入り、ひと通りみてみたが、子供の服はやはり少なかった。理由を尋ねてみると、この港町に住む人は、互いに譲り合っているようだ。そのため、本当に要らないときに売っているので、子供服の数は少ない。また、買い手も少ないので、店としては丁度いいようだ。

 

 贅沢はいってられないので、店にある中から、自分の丈に合いそうなものを複数選び支払いを済ませ、背負った籠へと詰め込んでいく。

 

 時刻は10時手前。再不斬との待ち合わせまで十分に時間はある。

 

(時間もあるし船でも見ておくか)

 

 どの船に乗るかは分からないが、事前に船を見るべく、港へと向かっていった。

 


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