白物語   作:ネコ

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104 信用?

「何故私をここに連れてきたの?」

 

 小南が白に会って最初に発した言葉がこれだった。白は慌てることなく返答する。この場には自来也がいるために、下手なことは言えなかった。

 

「治療するためかな……」

「聞きたいことはそんなことではない」

「まあまあ。意識が戻ったばかりでは「先生は黙ってて」……わしは心配して……」

 

 小南の言葉に遮られた自来也は、嬉しそうな顔から落ち込んだ表情へとすぐさま切り替わる。そんな自来也など気にせずに、真意を見極めようと小南は白を見つめてきた。

 

「今カンパニーを運営してるんだけど、実際かなりの人材不足なんだ……。1度死んだ身なんだし、生き返らせた分の貸しを返すと思って手伝って貰おうと思ってね」

「…………」

 

 白の言葉に何も答えず、小南は黙したまま見つめ続ける。本当のことなど白に話せるわけもなく、また、少しは白の思いも入っていた。

 

 ナナは木の葉の里から戻って来たはいいが、記憶の抜けが著しく、まともに仕事ができる状況ではなかった。そのため今は療養中である。

 

 自来也には島の守りと修行を頼んであるし、まともにカンパニーの仕事をするとは思えなかった。香燐には診療所を任せてあるが、サスケの行方が分かったら出て行くだろうことが容易に想像がつくために、任せることに不安がある。そのため、カンパニーの経営に回せる人材が居なかった。

 

 実際に人材はいるのだが、信頼ができなかったのだ。その点小南は、後ろに誰もいない。仕事については、これから覚えていけば十分だと言う考えもあった。

 

「こんな世の中だからね。信頼できる人が欲しいんだ。後ろでどこにも繋がってない人なんかは特に」

「そう……」

「取り敢えずゆっくり休んで、身体を回復させるといいよ」

 

 小南は納得したのかしてないのか、曖昧な返事をすると、白から視線を外して天井を見上げると黙ってしまう。そこへ、自来也が小南へと声を掛けていた。

 

「それよりも、身体の調子は大丈夫なのかの?」

「先生はいつも心配し過ぎ」

 

 白はその光景を見てから診療所を後にした。

 

 白が診療所を出てきたところで香燐も一緒に出てくる。診療所の扉には本日休診の札を下げていた。2人の邪魔をしないためだろう。

 

「どうしたの?」

「あんな空気のところにいつまでもいられないっつーの」

 

 師弟で色々と話したいこともあるのだろう。それ以外の者がいるには微妙な空気が漂っていた。それに耐えきれずに、香燐は白を追って出てきていた。

 

 それ以外にも、毎日恒例の香燐による白への質問が目的でもある。

 

「それよりも、サスケの情報は入ってきてないか?」

「今のところ来てないね。木の葉も無事みたいだし。戦争が始まったらそれどころじゃなくなるから、サスケが木の葉に来るのは……戦争の後になるかな?」

「やっぱり、戦争が終わるまで待ちかあ……」

「たぶんね」

 

 白は適当に相槌をうつ。香燐はサスケの行方が分からないことから、少し悲しそうな顔をするが、それもすぐに変わり、白に要求してきた。

 

「そう言うわけでもう昼だよな?」

「どういうわけか分からないけど昼だね」

「この前食べたかつ丼は美味かったなあ」

「俺はラーメン派なんだけど」

 

 香燐はわざとらしく、白を見ながら言ってきた。

 

「そんなこと言わずにかつ丼作れっつーの! 私はかつ丼が食いたいんだよ!」

「昼はラーメンだろ! むしろラーメンでいいだろ!」

 

 白と香燐の言い争いはしばらく続き、何故か最終的にジャンケンで決める結果になった。この時点で白に勝機はなく、5回先勝のジャンケン勝負にストレート負けを喫したのは言うまでもない。

 

 物資の手配を終えた白は、波の国の大名たちからの説明を求められていた。それと言うのも、他国の大名たちが、今回の大戦にあたり、敵から身を守るために移動するという情報を得て来たからだった。

 

 波の国での情報伝達能力は早く、それはあっという間に浸透する。それが今回の大名たちからの説明要求に繋がっていた。

 

 白は面倒臭がりながらも、波の国内での大名会議をテレビ会議にて行う。通常大きな国で無ければ保有すらしていない物であったが、そこは金に物を言わせて購入済みである。また、一番電源の消費の激しい本部……ガトーカンパニーのある島には白がいた。白は雷刀を電池替わりに使って電源をまかなっていたのである。これも購入する要因のひとつだったりする。

 

 今回の戦争とそれが起こると想定される場所を説明した上で、おそらく波の国まで敵は来ないであろうことを説明を行った。

 

 実際の大戦の影響範囲は何処まで行くのか不明な点が多々あるのだが、戦場の大まかな場所を知っているがゆえに、さすがにここまで来ないだろうと思っていたのだ。

 

 忍びの護衛を付けてほしいと言う大名もいたが、忍びは全て大戦に出払う旨を伝えた。更に、他国の大名たちと行動を共にする場合は、戦場に近付いてしまうことを伝えると、露骨に嫌な顔をしてきたことから、その話も大名たち自身で否定してしまったのである。

 

 そのため、最終的には各自の判断で避難してもらうことに納まった。

 

 説明を終えた白は、通常通り部屋へと戻ろうとしたところで自来也に呼び止められる。

 

「ちょっといいかの?」

「どうしたんですか? こんなところまで来るなんて珍しい」

 

 自来也は、通常カンパニー内には来ずに診療所や島内の店巡りをしていた。それに加えて、最近では公衆浴場を作りたいと言ってきたため、その案の検討中だったりもする。目的が見え見えだが……。

 

「今日の修行はどうするのかと思っての」

「そう言えば大名たちへの説明のせいでいつもより遅れてますね……。今からでもいいですか?」

「おお。構わんぞ」

 

 仙術に関しては、既に隈取りができるまでに達していた。自来也については、保険でいてもらっているような状況である。

 

「それにしても、動きながら仙術が使えるとは思いもせなんだ」

「こっちもですよ。本当は影分身を動かさずに置いておこうと思っていたんですが……なんでできるんでしょう?」

「その手があったか!」

 

 自来也は今気付いたとばかりに手を打つが、あることに気付き問い返す。

 

「しかし、それじゃと影分身でチャクラを消耗せんか? 基本的なチャクラが多くなければ厳しい気もするんじゃが……」

「反応速度と感知範囲が上がるので、全くの無駄と言うわけではないです」

 

 2人は歩きながら、いつも修行を行っている場所へとたどり着く。

 

「まずは仙術チャクラを練ってみるところからかの」

「ではお願いします」

 

 白は仙術チャクラを練るために目を瞑る。自来也は背後から白の肩に手を置いていつもの体勢に入る。そして、仙術チャクラを練り始めたところで白は意識を失った。

 

「こんな手に引っかかるとは……信用されとるというのがわかる分、辛いもんだのぉ」

「先生……。準備はできた。たぶんこれで全部」

 

 そこには白の戦闘時の忍具や医療薬品、巻物が乗せられている荷台を引いている小南がいた。先ほどまでの修行の話は、白を島から連れ出すためのものだったのである。仙術チャクラを練る初期段階の、目を瞑ることで生じる隙を狙い、自来也は白を気絶させたのだった。

 

 自来也はただ大人しくこの島に居たわけではなく、密かに蛙を使って情報収集を行っていた。波の国は情報の伝達が異常に早い。そのため、自来也に戦争の事を知らせないようにすることなど無理な話であった。そのために、島を守ってほしいと言うことに変えたのだが、それも大戦の規模を知ってしまっては無駄に終わってしまう。今回のように……。

 

 自来也は白を小脇に抱えて不思議そうに見る。

 

「こやつは修業はするくせに、戦場に出ようとせんとは……なにを考えとるんだ?」

「さあ……。変人の考えることは分からない」

 

 小南はハッキリと自来也を見つめながら言い切る。まるで先生も変人ですよと言っているような見方だった。自来也は苦い顔をしながらそっぽを向いてしまう。

 

「わしはこやつとは違う……。それよりも……そこに隠れておるお主も来るか?」

 

 それまでそっぽを向いていた顔を、ある木に向けて自来也は語りかける。そこにはチャクラは存在せず、また、音もしていない。しかし、その顔を向けた木の陰から人が現れ言葉を発する。

 

「なんでわかった?」

 

 チャクラを完全に断っていたにも関わらず、自分の居場所がバレた香燐は動揺を隠せなかった。

 

 自分の隠遁にそれなりの自信があったからだ。

 

「わしほどになれば、おなごの居場所を特定するなど朝飯前よ」

「あなたが風上にいたから、匂いで分かったと言ってる」

「これ小南。バラすでない」

「…………」

 

 香燐は自分の居場所が分かってしまった原因が、匂いであることが分かり絶句してしまう。忍犬などの獣ならいざ知らず、人が分かるとは思ってもいなかったからだ。

 

 そんな香燐を後目に、自来也と小南は話を続ける。ひと通り話終えたところで、再び香燐に問いてきた。

 

「それで、どうするか決めたかの?」

「うちは別にここにいてもいいんだけど……。んー、サスケが戻って来るのって木の葉の里らしいから、木の葉の里に行ってみる」

「そうか……。では達者での。―――口寄せの術―――」

 

 自来也は口寄せの術でガマブン太を口寄せする。それにより、地響きがなり、周辺の木々はなぎ倒される。

 

「なんじゃ? ……自来也か!? お前は今まで何をしとったんじゃ!!」

「まあそう怒るな。わしにも色々とあった。それに……、これから敵地に乗り込もうと思っての」

「はぁあ?」

 

 自来也は、敵の拠点となっている大まかな位置を把握していた。そのため、ガマブン太に乗って一気に移動することにしたのだった。簡単にではあるが、ガマブン太に状況の説明をしていく。

 

 先手必勝の奇襲を仕掛けようというのである。ただ、戦力として見るならば、少数精鋭とは言え、自来也と自来也の行動に賛同した小南だけでは心許なかった。

 

 そこへ、仙術を扱えるようになった白がいたのである。そして、その能力も申し分ない。しかし、一緒にいる中で、遠回しに何度か誘ってみたものの、全て断られていたことから、あまり自ら戦うことはしない忍びであると考えた自来也は、今回強硬策に出たのだった。

 

 この大戦は世界全体を巻き込む。それほど大きなものであると感じたため、少しでも強い忍びには参加してほしいと言う考えもあった。

 

「海を渡っていってくれ! 場所はこちらで指示する!」

「なんやよう分からんが、戦のようじゃし、わしもやったるわ!」

 

 ガマブン太は自来也たちを乗せて海へ入ると、自来也の指示に従い進んでいった。

 

 

 

 身体を揺さぶる力により白は目が覚めた。すぐに起き上がり周囲へと目を配ると、辺り一面見渡す限り穏やかな波を湛える海が見える。それを呆然と眺めながら白は自分の頬をつねっていた。

 

「そんなことをしても夢ではないぞ」

「なんでこんなところに? ここはどこです?」

「もうすぐ敵地じゃから準備せい」

「はっ?」

 

 白は自雷也の言葉が理解できずに、口を半開きにして固まってしまう。そして、再び頬をつねった上で、自身のチャクラを感じ取る。夢でなければ幻術に掛かっていると考えたからだ。

 

 嘘であると信じたかったが、現実は厳しく、チャクラに乱れはなかった。そんな儚い希望が潰えたところで、自雷也から声が掛けられる。

 

「早う準備せんと危うくなるぞ」

 

 変えられない現実に溜め息を漏らしながら、荷台に乗せられた忍具などを装着していく。

 

 巻物に収められるものは収めていき、医療薬品を自雷也と小南に投げ渡す。

 

 明らかに見た目いじけているように見えた。

 

「よく、俺の道具の場所まで分かりましたね……」

「細かい場所は小南が入れるからの。結界はわしが解いた」

「全部集めるのに苦労した」

 

 それぞれの言葉から、かなり前から、既に今回の計画が進んでいたことが分かった白は、再び溜め息をつく。

 

(これまで持ってきてるとはね……)

 

 巻物を懐に仕舞いこみ準備を整えた白は、自来也に訊ねる。

 

「今どの辺なんですか?」

「もうそろそろ、陸が見えてくるはずなんだがのぉ……おお! あれだの!」

 

 指差した先には確かに陸が見える。しかし、それは白にはどこかで見たような光景だった。

 

「……あそこって雷の国じゃないんですか? 雷の国が敵地ですか? (敵の場所って変わったのか……?)」

「なぬっ!?」

「先生……いつまで経ってもドジ……」

「くっ!」

 

 目的の場所ではなかったのだろう。自来也は苦々しい顔をしている。それを冷めた眼で小南は見ていた。呆れていたのかもしれない。白たちが見えた陸地は、白ゼツたちや穢土転生体が上陸する海岸だったのである。似たような光景を見た気がした白が問いただした結果が、自来也の勘違いだった。

 

 白は保険のために、影分身1体を陸に向けて走らせる。

 

「進路変更! 西へ面舵一杯!」

「ノリで誤魔化そうとしても無駄」

 

 西の方向へと指を指して、自来也はポーズを決めると声高く宣言した。小南はそれに対して、素早く突っ込みをいれるが、自来也が気にした様子はない。

 

 白はそれを眺めてから、諦めたように、敵の注意点を教えておく。

 

 白ゼツにチャクラを吸いとられると、全く見分けがつかないことや、穢土転生により、大量の不死者がいることなどを説明していった。

 


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