白物語 作:ネコ
マダラはサスケの無差別攻撃により、ぼろぼろに倒れ伏す香燐を見ながらサスケに話し終えると、その場から消え去ってしまう。その後、サスケはゆっくりと香燐へ近付いていった。
白は感知結界を張ってみるが、白の感知範囲には誰もいないことが分かる。それを感じ取った白の顔には、冷や汗が伝っていった。
(もしかして……俺がやってしまった……?)
サスケは香燐の傍まで歩いて行くと、手元にチャクラを集め出した。それは次第に高まっていき雷遁チャクラへと変わっていく。このまま、その雷遁を纏った手でとどめを刺すつもりなのだろう。
(ダンゾウが稼ぐはずの時間を潰してしまった……まずいな……)
サスケが腕を振り上げたところで、サスケに向けて周囲から水の千本が降り注ぐ。サスケはすぐさま後退し、それを放った本人……白を睨み付けた。
「何のつもりだ」
「出張るつもりは無かったんだけど、香燐が危険みたいだったから……お節介を焼きに来ただけだよ」
香燐から離れた位置に、突如として現れた白に驚くことなくサスケは訊ねる。
「なぜお前がここにいる?」
「ダンゾウしか見えてなかったんだね……。五影会談の場にもいたんだけど……」
白はわざとらしく悲しそうな素振りを見せつつ、チャクラを高めていく。白がチャクラを高めたと同時に、サスケは白に向かって瞬身の術を使い迫っていった。
白は素早く印を結ぶ。
サスケが白に向けて突きを放った時には、そこに白の姿は無く。代わりに、サスケの周囲を囲むようにして白が数人いた。
「影分身か……」
「不正解。水分身でした。……それでは攻撃開始」
白の合図と共に、水分身はサスケに向けて次々と襲いかかっていく。サスケは雷遁チャクラを纏った手で、つまらなさそうに次々と屠っていった。白はそれを気にした様子も無く、懲りずに何度も水分身を作り上げては、サスケに向けて襲わせていく。
「こんな無駄なことをいつまで続ける気だ」
「これはただの時間稼ぎ」
しばらく続いた水分身からの攻撃に、サスケがイライラし始めた頃を見計らい、白はサスケに向けて瞬身の術を使い近付くと、サスケの足元に集まった水に向けて手を付ける。
水は一瞬にしてサスケを包み込み、水球となってサスケを閉じ込めた。
「サスケ……だいぶ思考能力が落ちてるみたいだね。眼も写輪眼じゃなくなってるし、チャクラも少なそうだ」
「…………」
サスケを包む術の名は水牢の術だった。サスケは余計なことを喋らずに白を見据える。この術は話せば話すだけ、肺の中の空気を出してしまい、最終的には溺死してしまう。
水牢の術は、中から破ることは通常では出来ないが、抜け道は幾つもある。術の対象者よりも遥かに巨大なチャクラを持っている者は強引に破ることができるし、天照や心転身のように、視界の範囲内の対象に術を行使できる者には、術者が水球に触れていなければならないことから、簡単に破られてしまうのだった。
しかし、今のサスケは天照を使えるほどの体力、精神力共に無いといっていいほどだった。無理をすれば命に係わるだろうことが白には感じ取れる。
それを分かった上で、白は水牢の術を使ったのだった。
水分身を使い香燐を十分に遠ざけてから、白は水牢の術を解いてサスケから離れる。
「これで終わりか?」
サスケは何事も無かったかのように、水で濡れた髪を掻き上げて白に向けて訊くと、再びチャクラを手に集め始めた。
「サスケ……。ここから早く離れた方がいいよ」
「いまさら命乞いか?」
「そこまで見えなくなってるとは驚きだね。俺が影分身であることすら分からないなんて」
「…………」
サスケは無言で白に向けて突きを放ってきた。白は慌てることなく風鎧を纏い、その手を避けることだけに努める。チャクラを纏ってもおらず、写輪眼すら使っていない突きは、白に容易く避けられる。
何度か当たりそうになるものの、それすら風鎧に逸らされて白は無傷のままだった。
そうして避け続けていると、白が待ち望んだ時が来る。
「サスケくん!!」
「サクラか……」
サスケは攻撃を止めると、サクラを見て呟く。サスケのその眼はサクラの声がする方を見ているだけで、ほとんど見えていないに等しかった。サスケの視力はダンゾウとの戦いの後のスサノオの暴走行為により、そこまで落ちていたのだ。
「あなたは波の国の……」
「お久しぶり」
白は、すぐさまサスケから離れてサクラの近くに移動する。サクラが白を見ていたのはそこまでだった。その後すぐにサスケへと視線を向け直す。
「以前のサスケじゃないから気を付けてね」
白の言葉にサクラからの返事はない。何故なら、サクラはこの時、サスケに視線を固定して、サスケの口から紡がれる言葉を聞き逃さないように集中していたために、白の言葉が聞こえていなかったからだ。
白は、そんなサクラを見て溜め息をつく。サクラには、サスケしか見えていないことが分かったからだ。
サクラはサスケが動かないことから、自身の身体を前に進める。
「サスケくん! 私を連れていって! 私も木の葉の里を抜ける!」
「お前になにができる? なにを企んでいる?」
サスケは無表情にサクラへと問いかける。その声からは何も感じ取ることはできなかった。それでもサクラはそれに対して返答する。
「私は綱手様のもとで医療忍術を学んだから、前の時とは違ってサスケくんの役に立てる! 私はサスケくんが里から出ていったあの時……一緒についていかなかったことを後悔してた……。今度こそ後悔したくないの!」
「俺がこれから何をするのか知っているのか?」
「知らないけど……サスケくんの望み通り動くわ」
サクラの言葉には、何かを決心したかのような意思を感じられた。しかし、その意思もサスケの次の言葉で揺らぐことになる。
「俺はこれから木の葉を潰す。徹底的にだ」
「えっ……」
「それでもついてくるのか? 木の葉を裏切れるのか?」
「……サスケくんが……そうしろと言うなら……」
言葉とは対照的に、サクラの顔は強張り、声は幾分小さくなる。
「……それならついてこい。丁度医療忍者の代わりが欲しいと思っていたところだ」
「分かった」
サクラはサスケに向かって歩いていく。サクラがサスケの傍に来たところで、サスケは白のいる場所を少し見てから、後ろへと向きを変えた。
それを待っていたかのように、サクラはフードの下で握っていたクナイをサスケに向けて突き刺そうとするが、それはサスケに刺さる寸前で止まる。
サクラは目を瞑り泣いていた。
先ほどまでの決心を忘れて、ひたすらに涙を流し続ける。
「いつまで経っても甘いな……」
サスケは雷遁を纏った手をサクラへと突き出す。その手に迷いは無く、逆に殺意が込められていた。サクラは泣くばかりでサスケの行動を見てすらおらず、ただクナイを構えて立ち尽くしたままだった。
サスケの手がサクラに届く前に、その間へとカカシが割って入る。カカシはサスケの突き出していた腕を片手で掴み、反対側の手でクナイを突きつけようとしたが、掴んだ腕で逆にバランスを崩される。
カカシがバランスを崩した隙に、サスケはカカシに蹴りを放つ。しかし、カカシはサスケの腕を支点にして上に飛び上がり、その蹴りを避けるとサスケに向けて蹴りを放った。サスケはその蹴りを喰らって少し飛ばされるも、ほとんどダメージはない。
「次から次へと……邪魔な奴らだ……」
カカシはサスケから視線を外さずにサクラへ声を掛ける。その言葉により、サクラは泣き止みカカシを見つめた。
「サクラ……サスケを1人で殺ろうとしたんだろう?」
サクラはカカシへと向けていた視線を落とし、俯いてしまう。その行動は肯定していることと同義だった。
「サクラがそんな重荷を背負うことはないんだ……」
カカシはサクラへと言葉を投げかけると共に、自分の不甲斐なさを悔いていた。
サクラへ慰める言葉を掛けるが、それは自分への言葉でもあった。
最後にカカシはサクラへ謝ると、意識をサスケに戻してサスケに最後の警告をする。思いが届くようにと……。
サスケは黙ってその言葉を……冷めた目を向けながら聞いていた。
「サスケ……俺は何度も同じ言葉を言うのは好きじゃない……。しかし、もう一度だけ言おう。……復讐に取りつかれるな!!」
それまで黙って聞いていたサスケはその言葉を聞いて笑い出した。そんな言葉など意味が無いとばかりに……、肺の空気を全て出す勢いで笑い続ける。
ひと頻り笑い終わった後に、呟くようにサスケは言葉を紡ぐ。
「イタチを……、両親を……! 一族を全てここへ連れてこい!! そうすれば復讐なんて止めてやる!!」
呟くような言葉は次第に大きくなり、それまで無表情だったサスケの顔が怒りに染まる。イタチの真実を……うちは一族のクーデターを……色々と知ってしまった今のサスケには、何を言っても逆に怒りを買うだけだった。
それでも、カカシは説得を試みる。それがサスケの怒りを助長させると分かっていても止められなかった。サスケが自分の教え子だっただけに、その思いは変わることはない。
「サクラは下がってるんだ」
「でも……」
「これは俺の役目だよ」
カカシは布で覆っていた左目を出すと、サクラが離れたのを確認し、白に目を向ける。
「あー。これが終わったら、波の国としてではなく、一個人としてカカシ上忍にお話がありますので、よろしくお願いします」
一瞬その言葉に呆気にとられるものの、すぐにサスケへと顔を向ける。白は言いたいことは言い終えたとばかりにその場を離れて行った。
サスケはその隙ができていた時、顔を下を向けて写輪眼を見せるカカシを睨みつけて呟いていた。
その呟きが終わった瞬間、サスケは下へ向けていた顔を上げて、カカシに叫びながら向かって行く。
「うちは一族でもねえ忍びが! その眼を使ってんじゃねえ!」
走っていく中でサスケの瞳は普通の瞳から写輪眼を経由し、万華鏡写輪眼にいきつく。感情を爆発したせいか、残りのチャクラの事などお構いなしにスサノオを展開すると、その矢でカカシを狙った。
カカシは、サクラに被害が及ばないように、石橋の下に向けて避ける。サスケはその後を追って、下の川へと降りて行った。
カカシへ言いたいことを伝えた白はすぐに香燐の元へ向かっていた。水分身で安全な場所に移動させただけで、怪我の治療などができていなかったのだ。
香燐の傷は致命傷ではなかったが、十分に重体の域には達していた。白は掌仙術にて大きな傷を塞いでいく。
しばらく治療に専念していると、石橋の方から水飛沫が上がり、大きな衝撃音が響いてくる。その音を合図にして白は治療を一旦取りやめると、水分身に手紙を持たせて、カカシたちの元へ向かわせた。
白本体は、照美と共に鉄の国から波の国に向けて移動を。
1体目の影分身は、自来也の元修行を。
2体目の影分身は、香燐の治療を。
そして最後の影分身は、ある里で必死に説得を試みていた。
「お願いします! 教えてください!」
「……しつこい」
「本当にまずいんですって!」
ある国とは雨隠れの里のことで、その相手とは小南のことだった。
雨隠れの里に来てからすぐに感知結界で小南を探り、見つけて押しかけると、挨拶もそこそこにひたすらお願いしていたのである。この時、小南の後を追っていればいずれ目的の場所に行くということが、もう少し考えていれば分かったのだが、小南に聞くという意識に支配されていた白には思いもつかなかった。
それに加えて、自来也が生きていることを伝えていても変わったかもしれないが、視野の狭まった白が気付くことはない。
「何度も言いますが、暁のリーダーであるうちはマダラが、輪廻眼を狙ってるんです。なので、その前に眼を潰さないといけません。あなたが潰せないというなら俺が潰すので、案内をお願いします」
「マダラだろうと誰だろうと、触らせはしない」
「そんなこと言っても、写輪眼の前にはそんな考えも無駄なんですって!」
「…………」
小南は素気なく返事をするのみで、次第に口数や返答も少なくなってきていた。
それでも、今更諦める訳にもいかず、説得を続けていたが、それもこの日までだった。
「あなたが居ては、私が会いに行けない……消えて」
「俺も一緒に会いに行きますよ。……そうだ! この里を出ましょう! この里に居るからいけないんですよ! 遺体も一緒に連れて行けば……!?」
この言葉が引き金となり、紙が白の周囲を囲み始める。
この雨隠れの里は、どんなに酷い環境であろうとも、どんなに周りから酷く見られようとも、小南にとっては故郷だった。それを馬鹿にしたような発言に、さすがの小南も許せず、起爆札を白の周囲を埋め尽くすように舞わせていく。
「えっと……これは一体……?」
「私は警告した」
「いや……さすがにこの展開は……」
「死にはしない……」
小南の言葉と共に、起爆札は爆発を始める。白は爆発に巻き込まれながらも、消える前に、悪あがきのごとく叫んだ。
「手遅れになっても知らないよ!」
その言葉を最後に、白の声は途絶える。そして、起爆札が爆発した後には、何も残ることはなかった。