白物語   作:ネコ

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10 港町?

 いつもの習慣が根付いてしまっているのか、夜明け前に目が覚めた。

 

 朝食を作るべく炊事場に向かう。昨日のすき焼きの残りを確認し、材料を付け足してからかまどに火を入れる。

 

 かまどに張り付けてあった服は少し湿ってはいたが、着れなくはない状態にまでなっていた。これならば、着ているうちに乾くだろう。

 

 鍋を再度暖めている間に、米を洗って炊いておく。昨日は時間的に、すぐに夕食が食べたかったので炊かなかったが、元?日本人からすれば、米は主食から外せないものだ。

 

 ひと通りの準備が済み、後は待つだけとなったところで、後ろを振り返るといつの間にか再不斬が既に椅子に座っていた。

 

「おはようございます(再不斬さんの気配に、全く気付けないのも問題だな)」

「ああ。朝は昨日のやつか?」

「それにご飯を炊いてます。結構合いますよ」

「確かに合いそうだな」

「ご飯が炊けるまで少しかかるんですが、あれは片付けた方がいいですか?」

 

 白が指差したのは、昨日作成した白用ベッドのことである。ふかふかにするために、服を幾つもバラバラにして重ねており、片付けようとすると結構時間が掛かってしまいそうだった。

 

「一応片付けておけ。引出しに入れる程度でいい」

「分かりました。適当に入れておきます」

 

 入れる程度で良いと言われたので、気にせずに引出しに入るくらいに分けて入れていく。恐らくは、ここに戻って来ることはないだろう。そう思い入れていると、再不斬から一言―――

 

「本当に適当だな」

 

 再不斬本人が、入れるだけでいいと言ったので、言われた言葉を無視して作業を続ける。適当などと文句を言われても、相手をする気はなかった。

 

 作業自体は入れるだけなのですぐに終わり、再度炊事場へと向かった。すき焼きの方は暖めが完了していたので、テーブルへと持っていくと、待ってましたとばかりに、再不斬が蓋を開けて食べようしたので、急いで止める。

 

「ちょっと待ってください!」

「何故だ?」

「まだ完成じゃないんですよ!」

「俺はこれだけでいい」

 

 そう言うと、再度蓋を開ける手に力を込めてきたので、慌てて言葉を被せる。

 

「待てばもっと美味しくなりますよ!」

 

 その言葉に再不斬は、ピタッと止まりこちらを見てきた。美味しくなると言う言葉のためだろう。

 

「いいだろう」

 

(どんだけはまってるんだ……)

 

 鍋の蓋から手を離し、ご飯の状態を確認すると、ご飯は炊けていた。本来ならもう少し時間がほしいところではあるが、あの様子では、それほど待ってはくれないだろうと思い、むらす手間を省いてどんぶりにご飯を盛り付けていく。

 

 どんぶりをテーブルまで持っていき、すき焼きを上からかけて再不斬の前に置いた。

 

「これで完成ですよ。すき焼き丼です」

「あまり変わったように見えないな」

 

 そう言いつつも、すぐさまどんぶりを手に取り、口へと入れていく。それを見てからこちらも、どんぶりに同じようにのせて食べた。

 

(やっぱり、米だよな)

 

 感慨深げに食べていると、目の前にどんぶりが突き出された。その突き出された方を見ると、再不斬がこちらを見つめているのが分かる。

 

「おかわりだ」

 

 自分でよそえばいいのにと、一瞬思ったが、養って貰っている状況で言えるはずもなく、どんぶりを受け取り、ご飯をよそって再不斬へと手渡す。

 

「上にのせる量は好きにしてください」

 

 再不斬はその言葉に、すぐさまお玉でどんぶりに大盛りで盛り付け食べ始めた。この調子では、次もおかわりしそうだと思い、ご飯の入った鍋をテーブルまで持ってきて、食事を再開した。

 

(それにしても、思ったより食べきれないな)

 

 どんぶり一杯で胃が限界を伝えてきていた。前世であれば、まだまだ食べれるところである。

 

 ひと息ついて休んでいると、再不斬も食べ終わったようで、その顔は満足そうだった。鍋の中を見ると、全て無くなっており、ご飯だけはさすがに食べきれなかったのか、残っていた。

 

「残ったご飯は握り飯にして持っていきますね」

「そうだな」

 

 若干上の空で答えた再不斬へと一応確認しておく。

 

「かなり食べてましたが、大丈夫ですか?」

「たまにはいいだろう」

 

(抜け忍なのに、なぜこんなに余裕そうなんだ?)

 

 手早く片付けと握り飯を作り、出発の準備を整える。外は既に明るくなってきており、予定よりも少し遅れているようだった。

 

「お待たせしました」

 

 再不斬と共に変化の術を使用し、笠を被って籠を背負い町を後にする。

 

 未だに早朝ということもあり、出歩く人は少かったが、同じような考えの人もいるのか、街道を同じ方向へと歩いている人が数名見受けられた。

 

「みんな同じ考えなんですかね」

「この時間に出なければ、途中で野宿だからな」

「と言うことは、ほぼ一日歩きなんですね」

「そうなるな」

 

 その言葉通り、途中にあった店に寄り休憩と食事をしつつ、夕方近くになってそれを感じた。

 

「潮の香りがしてきましたね~。港町は近いですか?」

「もうすぐだ」

 

 白は自分の発言した内容に気付かず、港町がもうすぐという言葉に喜んでいるようだったが、再不斬には逆に怪しまれていた。

 

 港町へと入ると、奥の方に大型の木造船が幾つか見えた。あれで移動するのだろう。

 

 乱立する建物は、石で出来ているようで、木造建築物ばかり見てきた白には真新しく感じた。

 

 ここでも再不斬は迷わずに進み、ある建物へと入っていく。そこには、きちんと看板が設置してあり、簡易に《渡し舟》とだけ書かれていた。

 

 ここで、渡航のための券を購入するのだろう。そう思い中に入ると、店員の言葉が聞こえてきた。

 

「ですから今いる大型船は、最近海賊や天候の関係を想定して造られているので、料金が高くなっているのです。一般の船であれば、後一週間お待ちいただければ到着します。出発は更に遅いでしょうが、そちらの方がお安いですよ」

「早めに出たい。海賊が来る可能性があるということなら、護衛はどういう扱いになる?」

「それは一時的なものと見て間違いないですね?」

「そうだな」

「それでも、安くできて五割、海賊討伐によっては褒賞金を出します」

「それでいい」

「でしたら、真向かいにある派遣会社に、この札を持っていってください」

 

 店員から黄色の札をなにも言わずに貰い受け、すぐさま踵を返すと、店を出て、真向かいにある派遣会社へと入っていってしまった。

 

 入って数分後、再不斬が出てきた。

 

「白。お前も来い」

 

 そう言って再度中へと入っていく。護衛関係なので、もしかしたらある程度の実力を見せろということかな。と思っていると、案の定会社の一室にて模擬戦を行うことになった。

 

 始めに自分から行うということになり、三人を纏めての組み手?となった。相手は武器ありで、こちらは無しの状態である。

 

(普通だったらひどいハンデ戦だな)

 

 審判と思わしき人物からの、突然の開始の合図に三人の内二人が一気に詰め寄ってきたが、特に慌てることなく、その二人間を抜ける際に、手刀を首筋に入れて気絶させ、残りのひとりへと詰め寄る。

 

 いきなりの展開に、ボケッとしていたが、すぐさま切り替えたようで、木刀を正眼に構え直していた。

 

 その行動は、一般人としては早かったのだろうが、こちらにとっては余りにも遅かったため、木刀を振ろうとする前に、木刀自身を片手で掴み取り、もう片方の手を相手の首へと持っていく。

 

「これでいいですか師匠?」

「まあまあだな」

 

 師匠とわざと言ったのは、無駄に再不斬の試合を行わせないためである。相手が素人では、特に学ぶべきものがないのは分かりきっている。再不斬も師匠と言われて、なにも言わなかったところからも、面倒が回避できるならいいかと思っていたに違いない。

 

「実力は見せたと思うが?」

「十分だ。この札を持っておいてくれ。出航は明日の昼からになる。あいにくここ会社の部屋は、従業員で埋まっているので、宿は別にとってくれ。その際に、ここの会社の名前と、先ほどの札を見せれば安くなるはずだ」

「集合は昼でいいんだな?」

「ああ。だからと言ってギリギリは止めてくれ。出航の少し前までに来てもらえれば問題ない」

「分かった」

 

 その後、宿の場所を確認してから、夕食を取った後に宿へと向かった。

 

 港町と言うだけあって、宿というよりホテルのような大きさであり。かなりの人数が泊まれるであろうことは容易に想像がつく。

 

(なんかすっごい違和感あるなあ)

 

 まるで、前世に戻ってきたような感覚で、本日泊まることになる宿へと入っていった。

 


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