大泥棒の卵   作:あずきなこ

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21 死の奇術

 クラピカが動くのであれば、それに伴い発生するであろう混乱、連携や統率の乱れに乗じてヒソカも確実に動く。それを思えばこそ、今日のヒソカの試合は増々重要性を帯びる。

 昨日キルアと食事の後にそこら辺をぶらつき、宿泊先のホテルに戻ってからミルキ君に電話をかけ、チケットを確保してもらった時に聞いた事よりも更に詳しい話を聞いてみたところ、なかなか興味深い情報が出てきた。

 本日のヒソカの対戦相手の名はカストロ。近接格闘戦闘を得意とする武道家でひらひらした服を纏っており、虎咬拳という掌を虎の牙や爪に模して裂く拳法の使い手。それは達人ならば刃物を持たずとも人体や大木を薙ぐのは容易な、極めて攻撃力の高い拳法だ。

 計10勝すればフロアマスターと呼ばれる200階以上の階層の支配者への挑戦権が得られ、逆にそれより先に4敗すれば天空闘技場の選手登録からやり直しとなるルールの中、カストロの戦績は現在9勝1敗。フロアマスターへの挑戦権に王手をかけた状態。

 しかもその1敗は、200階クラスでの最初の試合のみ。しかも対戦相手はヒソカで、その頃カストロは念を習得しておらず、ヒソカから念に攻撃を受けたことによって念を扱えるようになったらしい。

 念を習得していなかったカストロがヒソカとの試合で生き残ったということは、つまりヒソカは大いに手加減をしたということだ。それはヒソカがカストロの将来性を見抜き、成長した暁には自分で潰して快楽を得るという異常性癖によって起こった事態。

 カストロ唯一の敗北から2年。ヒソカが青田買いするほどの才能の持ち主という点を考えれば、これだけの月日があれば念能力者としてある程度の型は完成しているだろう。つまり応用技も全て習得し、自身の戦い方に合ったオーラの運用等も心得ているはず。通常、念能力者はまずその自分の型を完成させ、そこからさらに伸ばしていくものだからだ。

 どうやって集めたのか知らないが、ミルキ君から送られてきたカストロの試合動画も確認したところ、見た限りでは能力を使った形跡はなかった。彼は全力を出さずに9連勝したということになる。先ほどの試合前インタビューでの、勝算がなければ戦わないという発言からしても、この試合によほどの自信があるのだろう。

 だけど、本気で試合を行なっていないのはヒソカも同じ。まるで嘲るように、弄ぶようにこれまで6名の死者を出している。

 ヒソカは戦績こそ8勝3敗とカストロよりも下だが、この敗北は全て不戦敗らしい。なんでも試合の予定は組んだが、当日に会場に現れずに不戦敗となっているようだ。3度もそれを行ったのは、試合に出れば必ず勝てるという自信の現れか。

 今日は既に私の眼下にあるリング上にてカストロと対峙しており、まもなく告げられるであろう試合開始の合図を待っている。

 正直、カストロが勝てるとは微塵も思っていない。高々2年の修業では、百戦錬磨のヒソカに敵うわけがない。実力もそうだが、念を用いた戦闘の経験に差がありすぎる。

 ただ、少なくともいい試合はしてくれるはずだ。それをヒソカも期待しているからこそ、この会場にマチが居るのだ。

 念で作られた糸で、傷口を縫合して治療ができる彼女は、私の居る観客席ではなく会場への通路に居る。気配を絶って居なければ、知り合いのオーラを感知するぐらいは出来る。キルアのオーラも客席に確認済み。

 観衆の中対峙し、言葉をかわすヒソカとカストロ。やがてカストロの闘気が膨れ上がり、審判の試合開始の声が響いた。

 

 気合が十二分に込められた一声とともに、カストロが先に仕掛ける。

 まっすぐにヒソカに接近したカストロは、”流”でオーラを集めて攻撃力を増した右腕をヒソカの顔目掛けて振るい、ヒソカはそれを屈んで回避。

 しかし、回避したはずの右腕は、再び同じ方向から繰り出され、反応の遅れたヒソカは直撃を喰らい、吹き飛ばされるも足でブレーキをかける。

 審判がクリーンヒットの判定を出し、カストロに1ポイントが入る。10ポイント先取かKOで決着の着くルールでのカストロの先制打に、観客が湧き上がる。

 心情的にはカストロ応援派。なので私も彼らと同じ行動、同じ表情を取りながら、内心で今の事態を分析する。

 

 今日の私の擬態。昨日と似たような服装とは別に行なっていることが、”なりきる”ことである。

 学校に通った1年間、そこで学べることはいくらだってある。貪欲に織り込んでいった知識の中には、同世代の一般的な少女の思考、行動が含まれている。

 それをトレースし、プロレス好きなクラスメイトの要素を多めに取り入れる。それにそって行動すると、私らしさは消え失せ、周囲に違和感無く溶けこむことが出来る。

 余り使い所がない技能だな、と思っていたけれど、こういう時には役に立つものだ。おかげでヒソカは私に気づかないだろう。

 ただ、この状態でも念を使えばヒソカの気を引いてしまうので、”凝”を使うことは出来ない。まぁ、それは私自身の特性が解決してくれる。

 オーラを奪ってそれを自身に適用、更には除念。他者のオーラに干渉する私は、その能力を磨くことによってオーラを感知する力が優れている。それこそ、暗殺一家で曰く付きの品も数多く所持しているゾルディック邸に足を運べば、壁越しであろうとも周囲から様々な残留思念を感知できる程に。

 指向性の定まっていない死者の念ですらそれなのだから、”陰”で隠された程度であっても、生きた者が扱い、さらに明確な害意があるわけだから、姿こそ見えなくとも感知は可能。

 ヒソカの持つ能力、伸縮自在の愛(バンジーガム)については彼が仕事中に使ってるのをよく見るので知っている。雑魚相手だから、相手を引き寄せる程度の使い方しかしていなかったけれど。

 ヒソカが”陰”の状態でバンジーガムを使っても何となくわかるし、カストロの能力はどうせ死ぬと思うから別に見れなくても良い。ヒソカが既知の能力以外も持っているのであれば、それによってもたらされた結果から推察すればいいので、”凝”は使わず能力の使用を感知できれば十分だ。

 

 今のカストロの攻撃。一度は避けたはずの右手がもう一度攻撃。可能性としては、最初の腕は幻、催眠術による誤認識、腕の具現化、短期間内での肉体の状態の復元辺りか。

 誤認識は即座に除外。見きれなかった観客が大半だろうけど、見えた奴は全員違和感を覚えている。これだけ広範囲に催眠術をかけるのはほぼ不可能だし、バリバリの格闘タイプだから性格的にもこの能力はないだろう。同じ理由で幻も除外。

 状態の復元もないだろう。カストロの位置情報を僅かに戻し、腕を振る前にしたならば、カストロ全体がブレるはず。腕だけ時間を戻しても、身体との位置情報のズレのせいでもげるだろうし、コレも無し。

 消去法で行けば、腕の具現化が妥当か。あのひらひら服なら具現化の際に死角を増やせるから辻褄が合うし、何より私の感覚が攻撃の直前に何かが増え(・・)、2度目の攻撃の際にそれが消えた(・・・)のを認識している。

 恐らく最初に放った攻撃が具現化した腕によるもので、当たったのは本体か。こう考えると今の事態もしっくり来る。

 具現化出来るのが右腕だけ、それに腕は腕と同じ場所からの具現化だけという可能性も低い。全身をあのゆったりした服で覆っていることから、四肢をある程度自由な場所から具現化出来るはず。

 それにしても、こうして俯瞰していると全体像が見えるから分析しやすくて良いね。いい練習にもなるし。

 

 リング上ではカストロが再びヒソカに接近。

 先ほどと同じように、ヒソカが回避した具現化された左腕の死角から本体の腕で攻撃し、顔に食らったヒソカは流血。実際に戦っているヒソカは、まだ彼の能力の本質に気づいていない。

 そして続く次の攻撃で、私は自身の認識が少し間違っており、本質は掴めていなかったことを悟る。

 カストロの追撃を回避したヒソカの頭部に放たれた蹴り。そこからカストロがもう1人(・・・・)現れ、服で遮られた死角から防御しているヒソカの背後へ気配を殺しつつ回る。

 ヒソカが背後の気配を察し、意識を向けた時にカストロが蹴りを放つ。それと同時に目眩ましの役目を担った具現化されたカストロが消失し、ヒソカがダウン。

 恐らくまだカストロの動きに違和感を覚える程度だったはずのヒソカが、後ろのカストロに気づいたのは流石と言わざるを得ない。結局今の流れで審判がクリーンヒットとダウンを宣告してカストロに2ポイントが入った。

 

 カストロの能力の本質は、任意位置への四肢の具現化ではなく、カストロそのものを具現化する能力だったのか。

 扱いは難しいが、戦力差を覆せる良い能力だ。分身が本体と同じ力だとすると、実力でヒソカに劣るカストロでも、もしかしたらがあっただろう。

 そう、あったのだ。だけど、それはもう過去の話。今のは最悪の悪手。

 

「気のせいかな? キミが消えたように見えたが……♣」

 

 ゆっくりと立ち上がりながらそう言い、自身の違和感を口にするヒソカ。

 ヒソカはおそらく今のでカストロの能力をほぼ理解した。その証拠に、本気を出し虎咬拳の構えで接近するカストロ相手に、無防備に左腕を差し出した。

 カストロは虎咬拳を繰り出す。ヒソカの誘いに乗って、分身による目眩ましを利用して背後に周り、右腕へと。

 具現化された分身のカストロが左腕に咬みつく直前に消え、本体が右腕を咬み千切る。

 鮮血を散らしながら舞う右腕。私が顔をしかめて口元を覆っている間に、カストロの追撃を避けたヒソカは右腕の落下予測地点へ移動していた。

 

「くっくっく、なるほど♥ キミの能力の正体は……」

 

 分身(ダブル)。ドッペルゲンガーとも呼ばれるそれを口にしたヒソカの言葉を、カストロが肯定する。

 千切れた腕を弄びながら、自身の感じた違和感とその推察を述べるヒソカに対し、分身を出したカストロが肯定し、私の出した答えと同様のものを口にする。

 これぞ虎咬真拳である、と構えるカストロに対し、ヒソカは狂気に満ちた笑みを浮かべて、千切れた右腕を喰らう。その様子に観客席はどよめいた。

 ヒソカが滾らせるドス黒いオーラ。戦闘態勢に入ったそれは、怒りと落胆を感じさせた。

 

 確かに良い能力だった。扱いが難しくはあるが、それでもヒソカに対抗し得る可能性さえ存在していた。

 ただ、使い方が悪かった。勝つためであれば、最初のように一部分だけの具現化に留めて能力の全貌を隠し、ヒソカが本気をだす前にダメージを蓄積させ、頃合いを見て分身との同時攻撃で一気に攻め落とすべきだったのだ。

 惜しむらくは、カストロの馬鹿正直なまでの格闘家気質か。死合ではなく試合向きの男で、手の内を見せるのが早すぎたのが敗因だ。

 ヒソカが腕を一本差し出したのは、能力について確信を得るためでもあるが、片腕が無くとも勝てると確信したからだ。

 

「ボクの予知能力をお見せしようか♦」

 

 そう言ったヒソカは裏表共に真っ白なスカーフを取り出し、右腕を覆い隠すとそれを真上に投げた。

 右腕の代わりに舞い落ちてくる、それぞれ別の数字が書かれた13枚のトランプ。

 そして謎かけ。その中から思い浮かべた数字に4を足して倍にし、さらに6を引いて2で割った後に最初の数字を引くといくらになるか、と言うどれを選んでも答えの変わらない陳腐なもの。

 ヒソカはその答えを、右腕の傷口の中から取り出し、そのあり得ない行動によって会場の意識を自身とトランプにのみ集中させた。対戦相手のカストロさえも。

 ヒソカの右腕の傷口辺りから伸びる思念。粘着質な2つのそれを辿ると、試合会場のドーム天井に貼り付けられた右腕と地面のスカーフに行き着く。そして同様に左腕から伸びる思念は、地面のトランプへ。どちらも巧妙に”陰”で隠されていて、”凝”を行わない限り視認は不可能。私もそこに何らかの思念を感知はできるけど、何も視えていない。

 先ほど投げた際に、腕をスカーフとトランプで目眩ましをしている間に、天井に予め羽って貼り付けていたバンジーガムで急激に引っ張り上げたのだ。観客も実況もリング上に気を取られて気づかない。

 精神的な揺さぶりをかけ、更にはトリックも仕込み済み。ヒソカの中で既に勝利の方程式が組み上がっていることだろう。取り敢えず今ので分かったのは、バンジーガムの有効射程が結構長いことだ。

 

「記念にあげる♦」

 

 腕から取り出したAのカードをカストロに投げつけるヒソカ。その行為に憤ったカストロはそれを弾き、2体の内1体が猛然と突撃。

 勝敗は決した。ヒソカは”陰”で隠された計15本ものバンジーガムにオーラを割いているために、”練”で練ったオーラを”纏”で留める念の応用技”堅”、それを用いて肉体が纏うオーラは少ない。だけどカストロは今の異常な行動も相まって、それがヒソカの余裕からくるものと判断したのか、或いは精神的な余裕が無いのか”凝”を使う素振りがない。

 結果として、ヒソカがトランプを投げつけた際にカストロへと放たれた13の思念に彼は気づいていない。

 本体にバンジーガムが付いたままなのだから、ヒソカには本体がどちらか分かっている。今突っ込んだのは思念がくっついてない方、つまりは分身。

 ヒソカはカストロの方へ左側を向けて半身になり、そのまま左腕も献上。誘いに乗ったカストロはそれをそのまま虎咬拳で吹き飛ばした。腕を向けられた際にそこから放たれた、自身の顎に張り付いた思念に気づかぬまま。

 またも宙を舞う左腕。ダメージを受けたのはヒソカなのに、次の瞬間にはカストロの分身が消失した。

 単純に、自分の意志で消したのか。それとも、吹き飛ばしたはずのヒソカの右腕が、何事もなかったかのように元通りなのを見て驚愕し、精神が乱れ能力をコントロールできなかったせいか。あそこで分身を消す利点も少ないし、恐らく後者。

 

 ヒソカはカストロの攻撃時、半身になることで右腕をカストロから隠した。その時に、天井から腕が、次いで地面からスカーフが引き寄せられ、腕がくっついた直後にスカーフが傷を覆い隠したのだ。

 ただ、不審な点が一つ。あのスカーフは先程まで何の変哲もない、裏表の真っ白なものだった。それが今ではヒソカの肌と同じ色をしている。そのせいで、カストロや観客はヒソカの腕がいつの間にか治ったのだと認識してしまっている。

 恐らく、あれもヒソカの念能力。恐らく肉体を保護するための……? いや、傷口を覆う能力ならばスカーフが不要だ。態々それも使ってるなら、何かの表面を装飾するためのものかな……?

 対象は? ヒソカの肉体のみ? いや、それだと余りにも使い勝手が悪い。そう、もっと広い範囲で、何かの表面に対してであれば発動可能、とか。外観を変えて相手を欺くための。

 ヒソカの気まぐれで掴みどころのない性格から鑑みると、そうやって広義に捉えるのが妥当か。この可能性がある以上、少なくとも過小評価はするべきではない。

 それならば攻撃力や防御力は0だけど、戦闘中に何らかの方法で使用するのも可能だし。これは仮説を立てて対策を練る必要があるな。

 これは大収穫だ。知られざるヒソカの能力が発覚した。よくやったカストロ、後は詰将棋だしもう死んでいいよ。

 

「予知しよう。キミは踊り狂って死ぬ♠」

 

 思考を巡らせながらも意識は戦闘に向け、行動は一般人のそれをトレースしたもの。

 ヒソカはカストロの能力の種が割れたと威圧しながら死の宣告をする。その言葉にカストロは、腕が治るという異常事態も念によるものと気づいて落ち着きかけていた精神が再び揺れる。

 自分のほうが優勢なはずなのに、異常なまでの余裕と自信のヒソカ。それに気圧されながらも、カストロは本体と分身の同時攻撃を決行する。

 本来であればどちらが本物か分からない、と言う利点もあるそれは、様々な要因から一瞬の内にヒソカに見分けられる。

 睨みつけられた本物は恐怖を感じて下がってしまい、分身が単体で必死に攻撃する。しかしそれは全て見切られ、軽々と躱される。

 覆し様のない実力差。カストロも決して弱くはないけれど、本体と同じ力を持つ分身だけではヒソカにダメージを与えられない。うぅむ、いい動きしてやがる。

 ヒソカは攻撃を交わしながら、更にカストロを精神的に追い込む。

 

「戦いの際中にできた汚れまでは再現しきれない♦」

 

 本体を見破られた理由をカストロに明かす。実際にはそれだけではなく、彼が貼りつけたバンジーガムも目印になっている。

 ただそこは言わず、あえてカストロの認識が甘く、彼自身の落ち度であると指摘。結果、恐慌状態に陥ったカストロは冷静さを失い、本体も叫び声を挙げながらヒソカへと向かう。

 攻撃を加えようと腕にオーラが集中した刹那、そのカストロの顎に吸い寄せられるようにして飛来したヒソカの右腕が直撃。

 念による防御力が低下していた頭部への一撃は、カストロの脳を激しく揺さぶった。バンジーガムの収縮力はかなりのものと見ていい。

 カストロの分身が、再び本人の意志とは無関係に強制的に解除される。

 

 念を扱うには、集中力を要する。具現化系の場合ならば特にだ。私だって、パニックに陥った状態で卵を具現化することは出来ない。形だけならできるかもだが、内部のオーラを体から離してもなるべく留める機能は損なわれるだろう。複雑なものほどになればなるほど、高い集中力が必要となるからだ。そういった事情もあり、念能力者は精神面も鍛えねばならない。

 カストロの分身を扱いにくいと評したのもそのため。腕や足ならだけならまだいいけれど、人体のような構造の複雑なものだと必要な集中力は相当なものとなる。

 最初の強制解除も、復活した右腕を見たせいで具現化した状態を保てなくなったため。今回は脳を揺さぶられ、更に精神的にも追い詰められているので、しばらくは分身を出せないだろう。

 何にせよ、コレでオシマイ。結局ヒソカは全力を1度も出さなかったな。態々腕を切られる演出までしたのに、カストロはそれを逆手に取れなかった。

 カストロがこんな簡単に策に嵌らなければ、分身を駆使してヒソカの本気を引き出せたかもしれないのに。

 まぁ、能力が新たに判明したのだから、コレ以上を求めるのは贅沢か。ヒソカはこの勝利で9勝3敗だし、次の相手に期待しよう。

 ……ん? ゴンがここで借りを返すんだっけ? じゃあどうせヒソカは遊ぶだろうし、見る価値無いか。一応対戦カードのチェックだけミルキ君に頼んでおこう。

 

 私のこの試合への興味が完全に失せ、リング上ではふらつくカストロへとヒソカが死神の鎌を振り下ろす。

 地面に貼り付けられていたトランプが、バンジーガムの収縮によって急速にカストロの身体へと襲いかかる。

 黄泉へ誘う13段の階段は、着弾の衝撃でカストロの身体を弄び、正にヒソカの言葉である”踊り狂って死ぬ”を実現してみせた。

 致命傷を受け崩折れるカストロ。審判がヒソカのKO勝ちを宣言し、タンカが運ばれる。ヒソカは死ぬと宣言したのだし、じきに事切れるだろう。

 今回の戦闘、ヒソカは本気を出しては居ないものの、彼が自身を奇術師と評するのに相応しいトリッキーな戦いだった。

 

 血にまみれたカストロの様子に、口元を手で覆い、吐き気を我慢するように俯く。

 その私の様子を心配した隣の席の男性が、肩を貸すからココから出るよう促したので、その言葉に従う。

 名も知らぬ男性と連れ立って会場を後にしながら、隠された口元に浮かぶのは笑み。得たものは大きい。

 男性に丁寧に頭を下げて礼をし、別れてからは宿泊先に戻って、パンツスタイルの私服に着替える。

 そしてマチがヒソカの治療を終えた頃を見計らって、彼女に食事の誘いの電話を掛けた。




今回の試合の日付、4月15日は原作中では明確になっていません。
ゴンが怪我したのが3月11日。キルアがそれを1ヶ月で治しやがったと言った日の試合ですが、1ヶ月丁度の意味じゃないだろうと思い数日ずらしました。

それと今回、試験的にヒソカの台詞のトランプ記号に機種依存文字を使いました。♥♠♦♣、この4つが正常に表示されない場合は、もし良ければ携帯やパソコンのOSも添えて感想欄におねがいします。
状況次第で、今までのように全角記号の★などで代用していきます。
あと一人称視点って、今回みたいな表現ができるから楽しいですね。

それ以外の通常の感想も随時募集中です。エネルギーになります。
どんな内容でもいいので、お気軽にどうぞー。
ちなみにそろそろ活動報告内で、簡易的なオリキャラ紹介を設けるつもりです。あそこ実は機能させてるので、興味が有る方は覗いてみてくださいな。

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