学園艦誕生物語   作:ariel

82 / 85
第69話 読みあい

1977年 8月中旬 東富士演習場 メインスタンド

 

 

この日、東富士演習場では、この年の戦車道全国大会二回戦として黒森峰女学園対大洗女子学園の試合が行われようとしていた。メインスタンドには、一回戦に引き続き会長の岸と副会長の中曽根が陣取り、黒森峰女学園の戦いという事で西住流家元の姿も見えた。またその周辺を良く見ると、ギャラクシーリーグ所属の黒森峰女学園出身者や、何故か知らないが池田流家元の姿、そして知波単学園出身のプロ選手達の姿まで見える。更に本来であれば、それぞれの学園の応援席に居る筈の、両校の指導者もまたメインスタンドに居た。そのため、戦車道の事情を良く知る人間であればある程、今回の試合が通常の試合と異なる雰囲気を持っている事を察知していた。

 

「佳代、あなたも本当は大洗女子学園側の観戦席に居たかったのでしょう。ごめんなさいね、私の我が儘に付き合ってもらって。」

 

「いえ家元、黒森峰女学園の美鈴もメイン観戦席に居ますし、それに・・・私がやるべき事はもう終わっていますので、問題ありません。」

 

「で、佳代ちゃん?勝てそうなの?」

 

「う~ん、ベストは尽くしたし、やるべき事は全部やったけど、絶対に勝てるとは流石に言えないわね。それに、黒森峰女学園がそう簡単に勝てるような学校ではない事は、美紗子もよく知っているでしょう?」

 

大洗女子学園で戦車道を指導している西の周りには池田流関係者が集まっており、特に知波単学園時代に隊長・副隊長として組んでいた池田美紗子は、久しぶりの西との会話を楽しんでいた。そして西の後ろには西住流や黒森峰女学園関係者が座っており、西の話に乗ってきた。

 

「いくら知波の魔女でも、私がここまで育ててきた黒森峰女学園を簡単にやらせるつもりはないわ!まぁ、今年は確かに谷間の世代ではあるけど・・・それでも、今回こそ魔女に目にもの見せるつもりで鍛えてきていますからね。」

 

「美鈴・・・そんなに力込めなくても、黒森峰女学園の強さは分かっています。まぁ、普通にやったとしたら、うちは勝てないでしょうね。」

 

「あっ、また何か企んでいるでしょう!」

 

「いえいえ、そんな事はありませんよ。それに、そういう事は試合を見ていれば何れ分かる事ではないですか?落ち着いてください、美鈴。」

 

「くぅぅ・・・」

 

何故か知らないが、今回はメインスタンドで観戦するように西住流家元から指示されたため、黒森峰女学園の指導者である野中美鈴はメインスタンドに来ている。そして予想はしていたもののそこで、自分にとってトラウマでもある西と鉢合わせとなり、試合前からつばぜり合いが始まっていた。そしてその様子を溜息混じりに見ていた西住流家元が、仲裁に入る。

 

「野中さん、お止めなさい。西住流は、勝利のためにいかなる準備も惜しまないですし、どんな相手に対しても勝ちに行く流派。佳代さんもその一員である以上、あなたが指導している黒森峰女学園を倒すために様々な作戦を考えている事は、むしろ当然です。」

 

「も・・・申し訳ありません、家元。」

 

家元のかほに止められ、野中はしぶしぶ納得する。実際には、目の前に居る西が西住流の一員である事が既におかしな話なのだが、家元がそのように言っている以上は、納得するしかない。しかし、かほの仲裁でようやく収まりかけたつばぜり合いに、池田美紗子が新たな爆弾を投下し、再び火がつく。

 

「というか・・・これ、もし黒森峰女学園がこの試合で負けたら、戦車道連盟としては大問題になるよね。これまで黒森峰女学園が決勝まで残らなかった事って確かないよね、なっちゃん?もし今回その記録が途切れたら・・・愉快だわ、ア~ハハハハ。」

 

「美紗子!黒森峰女学園は、絶対に負けない!」

 

「またまた~。なっちゃんだって、この間言っていたでしょう?大洗女子学園は強くなっているから、万が一という事もありえるな・・・って。今回、その万が一が起きる可能性だってあるじゃない。」

 

「えっ、隊長までそんな事を言っていたのですか?」

 

美紗子の放言に直ぐに反論したなほだったが、続けられた美紗子の言葉に黙ってしまう。たしかに昨年度の大洗女子学園と知波単学園の練習戦の話を聞いた際、なほはそのような感想を美紗子に伝えていたが、あれをここで言い出さなくてもいいだろう。そして、なほがそのように考えていたことを知った野中は、ショックを覚えていた。しかし、そんな美紗子達の会話を聞いていた西は溜息をつきながら、つい先日の辻との会話を思い出して会話に参加する。

 

 

 

回想シーン

試合前々日 大洗女子学園学園艦

 

 

「辻さん、上手くいけば今回、あなたの夢が叶うわね。黒森峰女学園を戦車道で倒す事が目標だったのでしょう?」

 

「そ…その…教授?ちょっと、いいかな?」

 

試合日を二日後に控えたその日、ミーティングが終了し生徒達が部屋から退室する際、西は軽い気持ちで辻に言葉をかけた。池田流の家元達から話を聞いているが、辻は大洗女子学園で戦車道を始めるにあたり、池田流と西住流の家元達から戦車を譲り受けている。その時、西住流家元の西住かほ本人に対して、『戦車道で西住流と黒森峰女学園を倒す』と言い放ったと言う。達成は至難の業だが、今回の戦いで上手くやれば・・・。ところが、辻は少し戸惑った表情を浮かべて西の方を向いている。一体どうしたのだろうか。西は、辻以外の生徒達を先に返し、辻に席を勧めた。

 

「どうしたの?辻さん。」

 

「その・・・私達、今回本当に黒森峰女学園に勝ってもいいのかな?」

 

一瞬、西は辻が何を言いだしたのか理解出来なかったが、少し思うところがあったのか、辻に先を促した。

 

「あれから少し考えたのだけど、黒森峰女学園は現在戦車道全国大会に参加している学校の中で、唯一優勝か準優勝しかしてない学校だよね?もし二回戦で私達が勝ったとしたら・・・戦車道連盟としては大打撃じゃないかな・・・と思って。私のお祖父ちゃんが作った戦車道に不利益な事を、孫の私がやって問題ないのか・・・と。」

 

辻の発言に西は驚くのと同時に、少し安心した。辻は黒森峰女学園に本当に勝てると思っている事、そして戦車道連盟の事まで考えられる余裕そして視野を持っている事、おそらく現在の戦車道全国大会に参加している現役生の中で、戦車道連盟の立場まで考えている子は居ないだろう。

 

「辻さん、言いたい事は分かるけど、そういう事はまず勝てる状態に本当になってから考える事ね。それと・・・こればっかりは、私の口からは何も言えないわ。辻さんが納得出来る結論を出しなさい。」

 

「教授?私の決断次第で、色々な人が迷惑を被る事もある訳だよね?大丈夫かな?」

 

こればかりは、戦車道連盟から直接頼まれ大洗女子学園で指導をしている自分が意見を言う訳にはいなかい。辻の夢を叶えるのであれば、黒森峰女学園に勝たなくてはならないが、戦車道連盟の人間であれば、こんなところで黒森峰女学園に負けてもらっては困ると考えるだろう。

 

「辻さん、この大洗女子学園の戦車道はあなたが始めた事。そして、あなたがここまで人を集めて頑張ってきたのよ。あなたの決断であれば、大洗女子学園の生徒はどちらを選んでも納得してくれるわ。それと・・・連盟の事など考えなくて、あなたの夢を叶えてもいいのよ?」

 

こんな事をわざわざ自分に言ってくるという事は、辻は連盟の希望に沿う形で決着をつける事も考えているはずだ。しかしここまで頑張ってきた辻には、是非自分の夢を叶えてもらいたい・・・それは、西の偽らざる本心だった。その後、西と辻は二三言葉を交わし、その日のミーティングは終了したが、西は、辻が自分の祖父が関わってきた戦車道連盟の事を、自分が考えている以上に意識している事を理解した。

 

 

 

回想終了

 

 

「勝敗は時の運といいますからね・・・。まぁ自慢ですけれど、うちの辻は今回参加している選手の中では、最優秀選手と言ってもいいくらいの指揮能力は持っていますよ。それに広い視野も・・・。少し言い過ぎかもしれませんが、私の分身が今回の試合に参加しているような物です。・・・で、現役時代に私にやられていた美鈴は、どうしますか?」

 

「何さりげなく自慢してるのですか・・・この魔女は。いいですか?今回の試合は私の現役時代のリベンジでもあるのです。今回は絶対に魔女には負けませんよ。分身もろとも撃破してやります!」

 

「目先の試合の事だけしか考えていない美鈴のような指導者では、辻の今の心境は理解出来ないですよ。まぁ、今回の試合は私も楽しみに見ていますけど。」

 

「く・・・。何訳分からない事言っているのですか!目先であれ何であれ、この試合は絶対にうちが勝ちますから!試合後まで、そんな余裕があるかどうか、私も楽しみですよ!」

 

お互いの学園の指導者である西と野中のつばぜり合いが続いているのを、少し前方の席から岸や中曽根といった連盟関係者が面白そうに見ていた。

 

「中曽根君、若い者は元気だな。何れはあの世代の者達が、この戦車道連盟を引っ張っていく時代が来るのだろうな・・・前途は明るいか。そう思わないかね。」

 

「そうですね、岸先生。私が会長をする時代・・・いえ、ひょっとしたら私の後は、彼女達が中心になって戦車道連盟は動いていくのでしょうね。」

 

岸と中曽根の話は、遠い将来を思っての会話だったが、その話は現実になる。岸の引退後、第二代戦車道連盟会長として連盟に君臨する事になる中曽根は、その任期の間に、現在眼前で言い合いをしている少女達を連盟の要職に任命したばかりか、自分の引退時、既に西住流家元となっていたなほに、第三代戦車道連盟会長の役目を禅定する事になる。もっともその処置のため、なほは西住流家元の座を自分の娘であるしほに譲ることになり、あまりにも若い家元の誕生に西住流は一時的に混乱する事になるが。

 

「さて・・・そろそろ試合も開始する事だ。西君の言葉ではないが、勝敗は時の運、連盟会長の立場としては黒森峰女学園に勝ってもらいたいが、個人的には辻君のお孫さんがいかに戦うのか・・・興味深いところでもあるな。」

 

岸の独り言が合図になったのか、試合会場中央部で試合開始を告げる信号弾が打ち上がった。いよいよ運命の試合が開始する。

 

 

 

大洗女子学園 隊長車 八九式中戦車

 

 

「大洗女子学園、全戦車へ。作戦通り、エリア11に黒森峰女学園の戦車を誘導するように行動を!多少の犠牲は想定していますから、必ず引きずり出して!」

 

辻の指示に、大洗女子学園の戦車は当初の作戦に従って各地に散っていく。大洗女子学園の登録戦車は、これまでの試合と同様に、隊長車の八九式中戦車をはじめとして、ポルシェ式ティーガーが1両、三式中戦車、一式中戦車、一式砲戦車、三号突撃砲F型、三号戦車J型がそれぞれ3両ずつ、そして四号戦車D型、F2型、38t B/C型が1両ずつの計20両だった。重戦車が数多く登録されている黒森峰女学園の戦車に比べると火力などにおいて絶対的な不利があるが、それでもポルシェ式ティーガーが搭載する88m砲 36L/55や、多くの戦車が持つ75mm砲であれば、ほとんどの黒森峰女学園の戦車を撃破する事は可能だ。

 

今回の大洗女子学園の作戦は、試合会場中央から少し南東のエリア11にポルシェ式ティーガーを始めとする重火力の戦車を配置し、その地点に誘導するように一式中戦車や三号戦車など機動力がそれなりにある戦車を用いてゲリラ戦を仕掛ける物だった。西の考えでは、黒森峰女学園を指導している野中は、現役時代にこれと同じ方法により悲惨な負け方をしているため、必ずこれに対応する方法を現在の黒森峰女学園の戦車隊に伝えているだろう。それは、こちらが待ち構えている場所に誘導されているのを分かった上で敢えて誘いにのり、待ち構えている場所において急激な方向転換や突撃ポイントを変えることで、こちらが対応出来ないようにしてから、待ち伏せ部隊を撃滅するという可能性が非常に高い。だとしたら、その指示が出せないようにしてしまえば・・・。

 

大洗女子学園の戦車隊が、各地に散っていきしばらくすると、偵察任務も兼ねていた38t B/C型戦車からの無線連絡が、辻の指揮車を始め大洗女子学園の他の戦車に入電する。

 

「こちら10号車、黒森峰女学園の戦車隊を発見。位置、エリア6北側。これより南側に退避しつつ、黒森峰女学園をエリア11に誘い込みます。」

 

「HQ了解。偵察任務に出ている各戦車へ!10号車の指示で、黒森峰女学園本隊に対して嫌がらせをして!生半可な攻撃では、どうせ撃破出来ないから、相手を苛つかせる事を目的として、嫌がらせの攻撃をするだけでいいわ!」

 

辻の指示が、指揮用に割り当てられた周波数の無線から、各車に伝達される。黒森峰女学園の戦車隊の編成は、隊長車は伝統に則りティーガーI、そしてティーガーIとティーガーIIが隊長車を除いて2両ずつ登録されており、パンターG型が5両、四号戦車H型が3両と、かなりの機動力を持った中戦車を入れていた。また砲撃力と正面防御力に優れた駆逐戦車についても、ヤークトパンター3両、四号駆逐戦車ラングが3両、そして黒森峰女学園の最大火力であるヤークトティーガーが1両登録されている。

 

メイン観戦席での会話中に西が野中から聞いた話では、自分達の現役時代、重装甲重火力重視で編成した結果、知波単学園時代の西に痛い目に合わされた経験を踏まえて、機動力を有した四号戦車など多少の火力低下を覚悟して中戦車中心の編成にしたようだ。もっともそれを聞いた西は、『機動力も火力も中途半端な編成ね』と野中に返して激論になり、近くに居た美紗子やなほが止めに入る事になったが。いずれにせよ、黒森峰女学園を指導してきた野中は、大洗女子学園がゲリラ戦を仕掛けてくる事を最初から想定しており、それに対応出来る編成で今回の試合を戦おうとしていた。

 

 

 

黒森峰女学園 隊長車 ティーガーI

 

 

今年の三月、それまで一年間黒森峰女学園の副隊長として勤めてきた飯山詩織は、三年生に進級したのと同時に黒森峰女学園の隊長となった。しかし、昨年度の知波単学園との定期戦で当時の2年生を中心とした編成で臨んだところ、手痛い敗北を喫していた。最近の黒森峰女学園では、知波単学園との定期戦で敗れた年は『谷間の世代』と呼ばれる事が多く、事実、口の悪いOG達の間では『今年の黒森峰女学園は谷間の世代だ』と言われており、なんとしてでもそれを見返してやろうという思いで、本大会に出場していた。

 

そして顧問の野中からは今回の戦いに向かうにあたり、『言うまでもありませんが、何としてでも勝つように!』と言われ、大洗女子学園が今回の戦いで使用しそうな作戦、そしてそれへの対抗策などを事細かに説明されていた。一般的に言われている黒森峰女学園の戦い方は、重装甲重火力を基本とした正面きっての撃ち合いにあり、いかに相手をその土俵に引きずり出すかが、勝敗の分かれ目となる。

 

しかし、今回の試合を行うにあたり顧問の野中は、これまで以上に中戦車の割合を多くし、場合によっては機動戦に打って出ることも可能な編成を登録していた。当初、隊長の飯山は『パンターはまだしも、四号H型を入れるくらいなら、エレファントの編入やヤークトパンターの比率を上げて、装甲・火力の総合力をあげた方が良いのでは?』と野中に提案していたが、野中から『今回の大洗女子学園はゲリラ戦を仕掛けてくる可能性が非常に高いから、それに対応可能な中戦車の比率を上げる』と言われ、納得した経緯がある。そして、今回の試合で大洗女子学園の偵察車両と接敵があって以降、執拗と言える程のゲリラ作戦を仕掛けられた飯山は、顧問の野中の先見の明に感謝していた。

 

「隊長、8時の方向、大洗女子学園3号J型2両、つづいて1時の方向から四号D型。」

 

「全戦車、進路はそのまま南東に。左翼後部、パンターG型7号車、8号車、8時の方向に居る敵三号J型に対して牽制射撃。無理して撃破する必要はありません。隊列を乱さないように気をつけて!右翼先頭ティーガーIの2号車、1時の方角の敵に対応して。突っ込んできたら、それに対応しますが、どうせ突っ込んでは来ないでしょう・・・、冷静に対処してください。」

 

これで何度目になるか分からない対応指示を僚車に指示すると、隊長の飯山はため息をつく。試合前の野中からの指示で、大洗女子学園による執拗なゲリラ戦は予想していたが、ここまで嫌らしく何度も付きまとわれるとは考えていなかった。大洗女子学園の戦車は、射程外からこれ見よがしに姿を見せつけ、こちらが少しでも突出するような素振りを見せると逃げ出す。そして、こちらの突出により少しでも隊列が乱れると、それに呼応するように別方向からの偽装突出が始まる。

 

そのあまりの執拗さに、毎回のようにその対応指示を出している飯山はイライラしてきたが、顧問の野中から『相手は、嫌がらせを目的として動いてくる事が考えられるから、絶対に熱くならないように』と言われていた事を思い出し、この事態を想定してアドバイスをくれた野中に心の中で感謝した。熱くなって、相手の小規模部隊に対して全車突撃の命令でも出そうものなら、相手の思う壺だ・・・それを自分に言い聞かせながら、飯山は慎重な指揮を取り続ける。

 

 

 

メイン観戦席

 

 

「誰かさんが指揮していた頃と違って、なかなか乗ってきませんね・・・。こちらの嫌がらせに熱くなって、追っかけてきたら機動戦に持ち込んでキリキリ舞させるつもりだったのですが・・・。」

 

「フン!現役時代にあれだけ痛い目に合わされれば、これくらいの事は予想していたわよ、知波の魔女さん!ちゃんと、教え子達には対応策を指示しているから、今回は安心して見ていられるわ。お生憎様ね!」

 

売り言葉に買い言葉、大洗女子学園の西の言葉に、即座に黒森峰女学園の野中が反応する。まるで掛け合い漫才のようなタイミングの会話に、近くに居る岸や中曽根など連盟関係者は大笑いする。しかし美紗子やなほと言った西をよく知る友人達や、家元達は、『元々、西は今回の試合で機動戦など仕掛けるつもりはなかったのではないか』と考え始めていた。

 

現在、大洗女子学園が黒森峰女学園に仕掛けている嫌がらせは、比較的小口径の主砲を持つ、38t B/C型や、三号J型、四号D型、そして一式中戦車が中心になって行われている。三号J型の主砲は60口径長砲身だが50mm砲、四号Dに至っては同じ50mm砲でも短砲身の48口径でしかない。これらの戦車では側面に当てたとしても、黒森峰女学園が運用している重戦車をこの距離で撃破する事は出来ない。そしてその程度の事は、知波の魔女とまで呼ばれた西が知らない筈はないだろう。だとしたら・・・。

 

「野中、たぶん佳代は機動戦など仕掛けるつもりは全くなかっただろう・・・また騙されているぞ。おそらく佳代は、お前たちが戦った時のように大洗女子学園の陣地前まで引きずり込んで一気に撃破を狙っているはずだ。」

 

「・・・なほさん、そんな簡単にネタをばらさないで欲しいのですが・・・。折角、美鈴が良い気分になっているのですから、もう少し喜ばせてあげても・・・。」

 

「なっ!また私を騙そうとしていたのですか!まったく・・・。でも隊長、ご安心ください。ちゃんとそういう事態も想定して、うちの飯山には指示を出してあります。流石に何度も同じ手には引っかかりませんよ。」

 

なほの指摘に、野中は少し西に対してムッとした表情を見せたが、直ぐに笑顔に戻ると、そういう事態も想定して黒森峰女学園の現役生達に指示を出してある事をなほに伝える。

 

「しかし野中、この佳代が同じ事をしてくるとは、私にはとても思えないのだが・・・。私は今の黒森峰女学園で隊長をしている子の事をあまり知らないのだが、咄嗟の場合の指揮は大丈夫なのか?」

 

「そ・・・それは・・・。」

 

なほの更なる指摘に、野中は少し言葉を詰まらせる。現在隊長をしている飯山は、自分の指示を忠実に守り、指示通りに指揮を執る事は非常に上手い。しかし咄嗟の事態への対応と言われると、副隊長時代の指揮を見る限り少し疑問が残る。実際に、昨年度の知波単学園との定期戦では、隊長車が不慮の事故で撃破された後、副隊長である飯山が指揮を掌握するまでに時間がかかり過ぎた事も、敗因の一つだと分析されていた。

 

「飯山も一度は痛い目に合っていますから・・・今度は経験を活かし大丈夫だと信じています。」

 

野中としては、そう答える事が精一杯だった。そしてそんな野中の言葉を聞いて西は、やはり自分が考えていた黒森峰女学園の弱点というのは当たっていたとの思いを強く持つ。そんな話をしていると、急に周りの観客からの声援が大きくなる。モニターを見ると、黒森峰女学園の戦車隊が、大洗女子学園の主力と思われる戦車隊を発見し、楔型陣形のまま大洗女子学園に突撃を敢行していく姿が映し出されていた。これまで小規模なゲリラ戦のみの戦いのため両校に被害はなく、ある意味膠着状態になっていた試合だったが、いよいよそれが動く時が来たようだ。




今回の黒森峰女学園戦は、どちらかというと試合をしている当事者達の視点からというより、それを俯瞰的な位置から見ている観戦席からの視点を多めにして書いてみました。ですから選手達の動きといより、それを今まで指導してきた指導者から見た試合という形で書いています。

実際のところアニメ版のGuPでは、戦車道を指導している人というと自衛隊の蝶野さんしか出ていないですが、どういう感じでやっていたのでしょうかね(大洗女子学園については、いきなり始めるという設定だったため、そういう人間が居ないという設定でしたが)^^;。一応予定では、残り2話+エピローグという形で学園艦誕生物語を終わらせようとしていますが、最後までよろしくお願いします。

今回も読んでいただきありがとうございました。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。