学園艦誕生物語   作:ariel

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第67話 マズルカの調べ

1977年8月 日出生台演習場 (第27回戦車道全国大会1回戦 第3試合)

マズルカ学園 隊長車 7TP DW型 

 

「アンナ隊長。相手の大洗女子学園はまだ一度も勝った事がないようですし、うちの二年連続一回戦突破は固そうですね。まさに、主の御心ここに有り!ってとこですかね。」

 

「馬鹿!あなた達まで油断していてどうするのです?まだ勝った事はないと言っても、うちの戦車より、あちらの戦車の方がはるかに強力なのですよ?余程上手に戦わないと、うちが勝てるような相手ではありません。気を引き締めてください。主はそんな簡単に私達に御心を示してくれませんよ。」

 

マズルカ学園の隊長車である双砲塔タイプの7TP DW型の車内では、試合開始直後、操縦手達が気楽なおしゃべりを楽しんでいた。昨年度の全国大会で、久しぶりに初戦突破を果たしたマズルカ学園の選手達は、今年の一回戦の相手は新規参入校で未だに練習戦も含めて一度も勝った事がない大洗女子学園であるため、与しやすい相手だと考えていた。しかし隊長のアンナはそんな隊長車内部の緩みきった雰囲気に危機感を抱き、同乗者達に喝を入れる。

 

「第一、あなた達も大洗女子学園の一回戦に参加してくる登録戦車の情報は見ているでしょう?向こうは88mm砲搭載のティーガーも居ますし、一部の戦車を除けば全て75mm砲搭載車ばかりなのですよ?うちで対抗出来る戦車なんてT-34/76しか居ないのですから、それこそ『ヴィスワ川の奇跡』でも起こさない限り、こっちが殲滅させられます。」

 

「隊長・・・ヴィスワ川の奇跡って・・・。ポーランドからうちに来ている教官達も良く言いますが、あんな伝説的な奇跡を起こさないと負けるなんて言われたら、うちは勝てないという事じゃないですか?そりゃ、隊長の指揮は信じますけど、それでもあの奇跡を起こしたビウスツキ元帥のようには、そう簡単には行かないと思うのですが・・・。」

 

アンナの言葉は、余程の事がない限りマズルカ学園は大洗女子学園には勝てないという現実を示した言葉だった。しかもその確率というのは、1920年に奇跡的にポーランド軍がソ連赤軍を機動戦術により撃退したヴィスワ川の奇跡並である事を言われると、流石に同乗者達も、今回の戦いが想像以上に厳しい物だという事を理解した。

 

「ヴィスワ川の奇跡は、流石に例えだけど・・・それでも、余程のリスクを負って戦わないと、勝てないのは間違いないわ。だから、今回はうちの得意戦術を封印して、全戦車で一気に大洗女子学園の戦車隊に突入するつもりよ。たぶん大洗女子学園の隊長車は私達と同じようなロートル戦車だから、初勝利を意識していれば前線には出ていないでしょう。だから、大洗女子学園の前線さえ突破すれば、うちに勝機はある筈よ。」

 

マズルカ学園の得意戦術は、7TPや10TPそしてR35を用いて相手を攪乱しながら、徐々にT-34/76が待ち構えている地点に相手を誘導し、T-34/76の火力に全てを賭けるやり方だった。しかし、流石に今回程の戦力差がある場合は、この戦術が通用しない事を隊長のアンナは経験的によく理解していた。自分達に勝機があるとすれば、相手の隊長車だけは何故か理由は知らないが、自分達と同じように古い戦車を使用している事。相手の前線を突破し、大洗女子学園の隊長車に肉薄する事が出来れば、隊長車のみを撃破し勝利する事が出来る。そして、おそらくこのやり方しか、自分達が大洗女子学園に勝つ事は出来ないだろう。

 

だとすれば、自分の隊長車が途中で撃破されるリスクを負ってでも、少しでも相手前線を突破する確率を上げるために、マズルカ学園の全車で相手の前線に突撃をするしかない・・・隊長のアンナは決断した。

 

「マズルカ学園、全戦車へ。隊長のアンナです。我が戦車隊は、これより大洗女子学園の前線突破を目指して一斉突撃を行います。突撃する場所は、相手の前線の形によってその場で決めますから、突撃中は私の無線をよく聞いて、指示通り速やかに動いてください。相手前線を突破した後は、試合会場中央の川もそのまま強行渡河して、後方に居ると思われる大洗女子学園の隊長車のみを狙いに行きます。突破した後は、時間が勝負です。前線突破までは、一塊になって行動しますが、突破後の機動は各車に一任します。特に機動力の高い10TPには期待していますから、頑張ってください。マズルカ学園に主のご加護を・・・全車、前進!軍歌『Szara Piechota(灰色の歩兵)』!」

 

Maszerują strzelcy, maszerują, (我ら銃兵は進む)

Karabiny błyszczą, szary strój, (ライフルを持ち、灰色の軍服を身に纏い)

A przed nimi drzewa salutują,  (木々は我らを称える)

Bo za naszą Mazurek idą w bój! (我らはマズルカのために戦うために)

 

 

マズルカ学園は、その学園艦の建艦経緯から、今でもポーランドの雰囲気が色濃く残っている。そのため、非常に熱心なカトリック系の学園であり、在籍している生徒達もそのほとんどが熱心なカトリック教徒だった。このような事情から、隊長のアンナが命令の最後に『主のご加護を』と言った事で、これからの戦いが自分達にとって非常に厳しい物になるという事を、全戦車の搭乗員達が理解することが出来た。そして、ポーランドから来ている教官達に教えてもらい、自分達も普段よく口ずさんでいるポーランド軍の軍歌『灰色の歩兵』を口ずさむ事で、全戦車の気持ちを一つにし、この苦しい戦いをなんとか勝利で乗り切ろうと決意した。

 

マズルカ学園の戦車隊は、隊長のアンナの指示に従い、T-34/76を中央に配した楔形を形成すると、一路大洗女子学園の戦車隊が待ち受けていると思われる方角に向かって前進を開始した。

 

 

 

大洗女子学園 隊長車

 

 

「火力はこっちが有利・・・でも次の試合を考えて、今回は機動戦を封印して戦うとなると、やれる事は限られてくるよね・・・。オーソドックスに前線に戦車を配置して、前線のラインで相手を迎え撃つくらしか選択肢はないか・・・。問題は相手がどうやって出てくるかだけど・・・中村はどう思う?」

 

「う~ん・・・やっぱりうちの戦車の方が性能的にはだいぶ有利だから、教授が言っていたように、囮を使って私達を釣り上げてT-34/76で撃破するという、マズルカ学園の得意戦術は封印するんじゃないかな・・・。たぶん教授が予想していたように、こっちの前線突破を狙って強引に全戦車で突撃してくると思うよ。こっちの弱点は私達の八九式中戦車だから、間違いなく私達を狙って強行突破してくると思う。機動戦が出来ればそれを防げるかもしれないけど、それが封印されている以上は、なんとか前線部隊の細かい戦術機動で向こうの突撃を止めるしかないんじゃないかな・・・。」

 

今回の一回戦が始まる前の最後の打ち合わせの際、大洗女子学園を指導している西は、辻達に『冷静な指揮官がマズルカ学園を指揮していたら、おそらく彼我の戦力差を考えれば、これまでのようにT-34/76を待ち構えさせて、そこに誘導するような戦術は使わないだろう』と言っていた。そして辻には、もしマズルカ学園の隊長と話せる機会があったら、冷静に考えそうな子かどうかを見極めるように、と伝えていた。

 

試合開始前、辻は少しだけマズルカ学園隊長のアンナと話す機会があったが、話した感じでは堅実そうな子でおそらく冷静な考えが出来る人間だと辻は感じていた。そのため西が言ったように、おそらくこちらの隊長車を撃破する一点に賭けて、全車で突撃してくるだろうと、マズルカ学園の戦法を読んだ。問題は、相手の突撃に対して機動戦に持ち込んで一両ずつ撃破する作戦を今回は採用する事が出来ないため、大洗女子学園の前線の動きを、相手の突撃に合わせて対応しなければならない事だった。

 

辻は、相手の突撃に合わせてこちらの戦車隊を指揮するためには、なるべくリアルタイムで戦況を確認しながら指揮を取らざるを得ないと考え、指揮を執るのに良い場所はないか調べるために試合会場の地図を確認する。今回の試合会場は真ん中に川を挟んでおり、おそらくこの川付近が最初の戦場になるだろう。そしてその川の周辺の地形を見ていくと、ある一点に川から少し離れた場所に小高い丘がある事を確認する。自分の戦車をそこに配置し、前線は川の向こう側に置けば・・・、そう考えた辻は無線で自分の指揮下の戦車に指示を送る。

 

 

「大洗女子学園全戦車へ、想定2に基づいて作戦を行うよ。三田ちゃんの三号突撃砲部隊を中心、三式中戦車は左翼、イーレンのティーガーと四号D型は右翼に、渡河ポイント3から対岸に渡って横一列の隊形で待機。そこでマズルカ学園を迎え撃つよ。渡河ポイント3の両側は水深が結構あるみたいだから注意して渡河するように。対岸で隊列が出来たら、三式中戦車の2号車は前進してマズルカ学園戦車隊の捜索に向かって。私の八九式は後方の丘から指揮をとるから、私の指揮で迎撃するよ。それと四号F2は念のためにわたしの護衛に残すからよろしく。前線の戦車の数はこっちの方が少ないけど、個々の戦力はこっちが上だから冷静に対処して。それじゃ、私達の初勝利を目指して頑張るよ!作戦開始!」

 

辻の指示に従い、大洗女子学園の各戦車は割り振られた目標地点に向かって一斉に前進を開始した。相手のスタート地点からの距離を考えれば、こちらの布陣の方が早いだろう。戦車の総合力でこちらが有利なため、今回は相手を迎え撃つ事になるが、このような戦い方はこれまで大洗女子学園は一度もしていないため、若干不安のある作戦開始となった。

 

 

 

マズルカ学園 隊長車

 

 

「アンナ隊長!2時の方角、大洗女子学園の戦車です。型番は帝国陸軍の三式中戦車!」

 

「全車増速!たぶん、あれは偵察任務の戦車だと思うけど、一両でも早めに叩いた方がいいでしょう。出来るだけ距離を詰めて、攻撃!」

 

アンナ達、マズルカ学園の戦車が試合会場の中央付近に向かって前進を開始してからしばらくすると、前方の右側から大洗女子学園の戦車が姿を表した。一両だけで行動している以上、偵察任務の車両だと思われるが、隊長のアンナは即座にこの車両を叩く事を決断する。強豪校であればわざと偵察車両を逃して、それを追う事で相手側の本隊の位置を確認する場合もあるが、マズルカ学園のような弱小校では、少しでも早く相手の戦車を一両でも多く撃破しておきたいため、偵察車両は絶好の孤立した相手だった。

 

ところが三式中戦車の最大速力は時速約40km、これに対してマズルカ学園が隊列を組んで侵攻出来る速度はルノーR35に合わせると時速約20km、ルノーR35を後方に待機させたとしても時速約30km・・・三式を追っては離され、三式が速度を緩めては追っかけの繰り返しとなり、マズルカ学園の戦車隊は、いつのまにか大洗女子学園の三式中戦車に良いように誘導されていた。

 

「相手の方が遙かに優速ですね・・・。こちらの戦車であれを確実に追えるのは10TPとT-34/76のみです・・・流石に私達の最大戦力の三両を切り離すとこちらが拙いですから、誘導されている事を覚悟してもこのまま追うしか手がないですね・・・。ただこの位置であれば、相手がいそうな場所は渡河出来るポイントを考えれば予想は出来ます・・・全車、一旦停止!」

 

アンナは、三式中戦車を追いかけている自分達が、大洗女子学園の都合の良い場所に誘導されている事に気付いた。大洗女子学園は隊長車を後方に置いていると思われるため、おそらく前線を形成する戦車は中央の川を渡っているだろう。この付近であの川を戦車が渡河する事が可能な地点は限られており、現在地を考えればほぼ相手が待ち構えて居そうな地点を特定出来る。相手の布陣状況は分からないため、最初は正面から攻撃するしかないが、それでも相手の居場所がなんとなく想像出来れば、こちらも覚悟した状態で接敵出来るため、奇襲を受けて戸惑う事はおそらくない。

 

「マズルカ学園全戦車へ、Punkt Trzy(ポイント3)で接敵する事になりそうです。現在の私達の地点を考えると、相手の戦車隊と正面からぶつかる事になりますが、相手の布陣を見極めてから、こちらの戦闘機動を決めますので通信をよく聞いていてください。目的は相手前線の突破及び後方に存在すると思われる大洗女子学園隊長車の撃破です。一両でも多く、相手の前線を突破しましょう。マズルカ学園に光あれ・・・進め!」

 

 

 

大洗女子学園 隊長車

 

 

「辻さん、偵察中の三式中戦車2号車から連絡。目的地付近まで誘導は成功。ただし現在は相手が停止したため、誘導は出来ないとの事。指示を求めているけど、どうする?」

 

「近藤、三式2号車に連絡。相手はおそらくこちらの場所を見極めたと思う。だから今の内に防衛戦まで後退するように伝えて。」

 

「了解!」

 

辻は、これまで誘導してきたマズルカ学園の戦車隊が停止した事を知り、こちらの居場所がバレた事を認識した。おそらく渡河可能な地点が限られているため、誘導方向と現在地点から推測されたのだろう。そう考えると、現在マズルカ学園を指揮している隊長のアンナはかなり優秀な指揮官であり、戦車こそ旧式が多いものの油断すると大変な事になりそうだ・・・と気を引き締める。既に大洗女子学園の本隊は、川の向こう側で布陣しており、中央に三号突撃砲3両、左翼に偵察に出ていた車両も含めて三式中戦車3両、そして右翼にP式ティーガーと4号戦車D型の2両が居た。自分の戦車は川のこちら側にある丘の上にあり、近くには護衛の4号F2型が居る。例え相手が強行突破し渡河してきたとしても、4号F2型であれば問題なく撃退できるはずだ。

 

「辻さん、マズルカ学園戦車隊が現れました。三田達、前線部隊の正面。現在一斉に増速して突撃してきています。」

 

「前線部隊全戦車へ、中央の三田ちゃん達は停止射撃開始。左翼、右翼はそのまま微速前進して攻撃。可能なら左右両翼から包囲しちゃって!」

 

簡単には相手も包囲を許さないだろうと辻も考えていたが、こちらの戦車の方が速度・装甲・火力の全てにおいて優位なため、運がよければ両翼からの包囲殲滅も可能であり、一応狙ってみる価値はあると考えた。そして辻の指示で、大洗女子学園の戦車隊は横一列の隊形から凹形陣に変わりつつあった。その時、マズルカ学園の戦車隊の進路が、これまで正面突破を狙っていた方向から急激にこちらの右翼方向に変わる。

 

「う~ん・・・こちらの数が少ない事を考えて、あえてティーガーの居る方向に来たか・・・アンナさんやるね・・・でも・・・」

 

辻は当初の目論見が外れて、相手がこちらの右翼を突破しようと作戦行動に出たことに少し驚いた。辻の考えでは、相手が突破を仕掛けるとしたら、防御力が一番弱い左翼の三式中戦車の部分であり、防御力・火力共に強力なイーレン達のP式ティーガーは無視するだろうと考えていたのだが、マズルカ学園は少しでも数が少ない場所を強引に突破しようと考えたのか、辻の考えとは逆にティーガーの居る右翼の突破を狙ってきたのだ。

 

「イーレン!ティーガーと四号はそのまま急増速してマズルカ学園の矛先を一旦躱しなさい。そして相手隊列をやり過ごしたら反転して相手の左翼から圧力を加えて。左翼三式中戦車も増速、相手隊列の後方まで廻り込んで。三田ちゃん、三号突撃砲は左翼を押し上げて斜線陣を形成してから攻撃。三田ちゃん達の後ろしか渡河可能な地点はないから、どうせマズルカ学園は三田ちゃんの方に向かってくるから、そこを落ち着いて叩けば問題ないよ。・・・これで、包囲は完成ね。アンナさん達、どう出てくるかな・・・。」

 

マズルカ学園の右翼突破に当初は驚いた辻だったが、冷静に部隊を動かし再びマズルカ学園の包囲を計画する。イーレンの右翼部隊は、間一髪でマズルカ学園の突撃を躱すと、そのまま反転しマズルカ学園の左側から締め上げる。そしてその頃には、大洗女子学園の左翼部隊である三式中戦車の部隊も、マズルカ学園突撃部隊の後方に展開が終了しつつあった。その結果、マズルカ学園の突撃隊列は前方を渡河不可能な川、左側を自分達の突撃を躱したイーレンが指揮するティーガーと四号、後方を三式中戦車、そして右側を三田の三号突撃砲に囲まれ、集中砲火を喰らう事になる。

 

おそらくマズルカ学園のアンナが考えた作戦は、大洗女子学園の右翼を強行突破し、そのまま中央の三号突撃砲の体制が整う前に右方向から雪崩込み、一気にその後方のポイントから渡河する事を考えていたのだろう。しかし辻の素早い指揮により、いち早く中央の三号突撃砲が斜線陣を形成し強力な砲撃をしてきたため、マズルカ学園の突撃隊の足は完全に止まってしまった。そしてその頃には、大洗女子学園の各戦車は指定の場所に展開が終わっており、マズルカ学園の戦車隊を三方向から締め上げ始めていた。

 

 

 

マズルカ学園 隊長車

 

 

「・・・私の目論見が、甘かったですね。あの位置で急に攻撃地点を正面から相手右翼に変更してしまえば、向こうがそれに対応するよりも先に突破出来ると考えたのですが・・・これ程早く対応されて、包囲されてしまっては・・・。」

 

「アンナ隊長、うちは包囲される事は慣れているので戦列の維持は今のところ問題ありませんが、後方のルノーR35部隊に砲撃が集中しています。このままでは、後方から崩される可能性が…。」

 

いつのまにか三方を大洗女子学園に囲まれてしまい、強烈な砲撃で足が止まってしまったマズルカ学園だったが、士気は未だに軒昂で戦列は維持されていた。これは弱小校であるマズルカ学園にとって、包囲下に置かれるのは今回に限った話ではなく、このような状態に慣れている事も一つの要因だった。しかし少しでも本隊の防御を固めるため、本隊後方に位置し、大洗女子学園の三式中戦車の部隊と撃ち合っていたルノーR35は、戦車の性能差から序々に押し込まれており、一両が撃破され残りは二両となっていた。

 

また本隊の左側には、先程自分達の突撃を躱したティーガーと四号D型の二両がいるため、こちらにはマズルカ学園の最大戦力であるT-34/76の二両が対応し、必死の防戦を行っていたが、火力の差から撃破されるのは時間の問題となっていた。

 

「後ろと左が持ちこたえている今のうちに、正面の三号突撃砲のラインを擦り抜けるしかないですね…。勝算は少ないけど、やるしかないわ。本隊の7TPと10TPは私に続いて!無理やりにでも突破してしまえば、まだ勝機はあります!」

 

「隊長、無理です。正面の三突からは榴弾まで打ち込まれていますし、このままでは私達は射撃の的です。こんな状態では、とても突破なんて…。」

 

「それでもやるしかないのです。聖母マリア様・・・私達マズルカ学園のために祈り給え・・・今を・・・そして私達が撃破されるその時まで・・・主よ、私達にご加護を・・・その光でマズルカ学園を照らしたまえ・・・本隊、突撃!」

 

アンナの指示で、マズルカ学園の本隊である7TP3両と、10TP1両は、強引に正面の三号突撃砲3両に向かって前進を開始した。既に至近距離での戦いになっており、大洗女子学園の三号突撃砲もここを突破される訳にはいかないため、激しい砲撃をアンナ達に浴びせてくる。そしてマズルカ学園の7TPは一両また一両と撃破されていった。しかし、アンナの必死の祈りが天に届いたのか、アンナの搭乗する7TP DW型と10TPの二両の戦車が、大洗女子学園の三号突撃砲による防御ラインをすり抜ける事に成功した。

 

「隊長、突破に成功しました!このまま渡河します。10TPも後続していますから、2両は突破に成功しましたね。…ただ、私達を守ってくれた後方のR35と左翼のT-34/76は全滅したようです。T-34/76からの最後の通信では、大洗の四号戦車を一両道連れに成功したようですが…すぐに追っ手がかかる事は間違いありません。」

 

「そうね…折角、みんなが作ってくれたチャンスだから、まだ大洗の他の戦車が戻ってきていない今のうちに河を渡って、相手の隊長車を叩きましょう。今なら、2対1で私達の方が有利なのですから。」

 

「隊長、後続の10TPより連絡。10TPはこの地点で防御戦を展開して、少しでも時間を稼ぐと言ってきています。隊長は先行して、大洗の隊長車をなんとか倒して欲しい…だそうです。」

 

大洗女子学園の防御線を突破したとはいえ、大洗の戦車は直に自分達の戦車を追いかけてくるだろう。そして、少なくとも隊長車である7TP DWが河を渡るまでは時間を稼がなくてはならない。そう考えた10TPの搭乗員達は、先程自分達が突破した方角に転進し、直にでも追いすがってくるだろう大洗女子学園の戦車隊を迎え撃つ体制をとった。10TPの搭乗員達の決心が固い事を確認したアンナは、心の中で僚車に感謝すると、急いで河を渡るように操縦手に指示をする。

 

「僚車が稼いでくれた大切な時間を無駄にしてはいけません。急いで河を渡ってください。」

 

アンナ達の戦車が河を渡り終えるころ、時間稼ぎのため迎撃に向かった10TPから最後の通信が入り、アンナはマズルカ学園の戦車が自分達を除き全て撃破された事を知った。しかし自分達は既に大洗女子学園の前線を突破し、相手の隊長車が居る場所までは何も邪魔は無いはずだ。相手の戦車の主砲は18口径57mm砲で、自分達よりは強力な主砲を持っているが、こちらは二門の機関銃装備。八九式の装甲であれば、機関銃でも何発か命中させれば撃破判定は出るだろう。

 

「操縦手、みんなが作ってくれた、この絶好の機会を逃す訳には行きません。主よ感謝します!進め!」

 




ポーランドというと、どうしても有翼重騎兵(フサリア)のイメージが強すぎるため、戦車はほとんど印象がないのですが、7TPなどのように一応国産の戦車があるわけで・・・戦わせるには面白い国だな・・・と書いていて思いました。とはいえ、全て八九式中戦車と同程度の強さのため・・・ここを勝たせるのは非常に難しいかと^^;

途中で出てくるポーランドの軍歌「灰色の兵隊」ですが、個人的にはポーランドの軍歌では一番好きな曲だったりします。メロディーはこんな感じで、少し物悲しいタイプの軍歌なのですが、私の中では非常にポーランドらしい曲だな・・・と感じています。

http://www.youtube.com/watch?v=4Y3Oqzz8sx8

今回の歌詞は、この軍歌の中の二番の部分で、本当は最後のフレーズは『ポーランドのために』なのですが、少し改良して『マズルカのために』に変更しています。

この学園艦物語も残す所、数話+エピローグだけになりましたが、最後までお付き合い願えるとありがたいです。今回も読んでいただきありがとうございました。

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