学園艦誕生物語   作:ariel

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第6話 将来への布石

二日後  長野県松本市

 

 

「おやおや、服部君に辻君、それに西住さんに池田さんか。連絡は服部君から受けたが、楽しい事になりそうだな。ところで、こんな隠居した私に何か用かね?もう既に計画が動き出している以上、私が出来ることなどほとんどないと思うのだが。」

 

公職追放によって故郷である松本に引っ込んで以来、悠々自適な生活を送っていた細見だが、これは再び嵐の中に舞い戻る事になりそうだな、と感じていた。しかし、今や何の力もない自分に今更何をやらせる気なのだろうか。

 

「細見閣下、お久しぶりです。実は、閣下にどうしても手伝ってもらいたい事があり、こうしてやってまいりました。」

 

服部は答える。そう、ここからは戦車の専門家である細見の知恵がどうしても必要だったのだ。

 

「なるほど。我が国が将来的に利するルール策定か、それは難問だな。」

 

二日前の会合で岸が発言していた、将来的に日本が有利になるような制約を考えなくてはならなかったのだ。また世界に広めるためには娯楽性がなくてはならない。戦車の事はあまり詳しくない服部や辻では無理、またかほや美代子も戦車道の家元だが、俯瞰的な立場で世界の戦車事情に明るいわけではない。やはり、旧陸軍における戦車の専門家である細見の力が必要だろう。

 

「出来るかどうかは分からんが、一つだけ案がある。ただし、実行可能かどうかは君達で検討してくれよ。」

 

細見は少し考えて発言する。どうやら案はあるようだ、問題は実行可能な案であればよいのだが…と服部と辻は思う。

 

「まず、使用可能な戦車に制限を付けることだろう。例えば、『先の大戦までに戦線で活躍または設計が完了し試作されていた車両と、それらに搭載される予定だった部材を使用した車両のみ』と制限するだけで、これから米英ソが次々生み出してくる新しい戦車を全て排除可能だ。時代的に同じ戦車の戦いになるから、純粋に作戦立案や搭乗員の腕による勝負なり、娯楽性も高くなるだろうね。」

 

なるほどこれは名案だ、と服部は思った。将来的に各国が参加してきても、使用出来る戦車は1945年の物が最新式。これならば、純粋に搭乗員の練度や作戦の勝負になる。少なくとも我が国の不利になることはないだろう。問題はどうやって、この条件で我が国に利する形にするかだな…いや、手はあるか。

 

「細見閣下、私の認識では前大戦における最強の戦車は、我々の友邦国であったドイツの戦車だと思うのですが、この認識に間違いはないですね?」

 

「そうだな、たしかに最終的には連合国の数に敗れたが、同数の戦いであれば、ドイツもしくはソ連の戦車だろう。しかし、また何故そのような事を聞くのだね?」

 

細見に確認をとった服部は、満面の笑顔を浮かべた。この条件で、我が国は有利になることを確信して。

 

「かほさん、戦時中の話になりますが、細見閣下とお話をした際、もし西住流が終戦後も残った場合、おそらく最強のドイツ戦車で戦車道を続けることになるだろうと聞いていたのですが、今でもそう思っていますか?」

 

「西住さん、それは本当なのですか?帝国陸軍の戦車ではなく、ドイツの戦車で?」

 

服部の質問に、思わず美代子は叫ぶように詰問した。この日本の戦車道で、日本の戦車以外の物を使うつもりだったとは…池田流では考えられないことだった。しかし、かほは落ち着いて答えた。

 

「はい。たしかに帝国陸軍の戦車を捨てるというのは、私達にとっても断腸の思いです。しかし、西住流は前に進む流派、犠牲なくして大きな勝利を得ることは出来ません。そのためであれば外国の戦車でも私達は使います。いえ、そのルール下で使用可能な最強の戦車を私達は使いたいと思っています。それがドイツの戦車であれば、私達は喜んで使いますよ。」

 

かほの答えに服部は満足した。これで問題はない。

 

「かほさん、直ぐに岸さんに連絡をとって、欧州に残っているドイツ戦車の購入をお願いしましょう。例の金でかなりの戦車が購入可能だと思います。私も含めて旧帝国陸軍の軍人は、ドイツ国防軍の軍人に多少なりともコネクションがありますから、なんとかなるでしょう。それに、私は終戦後GHQで働いていましたので、アメリカの高官にもそれなりに顔が利きます。我が国の保安隊が装備する戦車開発の資料として現物のドイツ戦車を使用したいという理由づけで、アメリカの支援もえながら、強力なドイツ戦車を今のうちに手に入れてしまいましょう。とりあえず、購入希望の戦車のリストを作ってください。あらかた目星はつけてあるのでしょう?」

 

服部の考えに真っ先に気づいたのは、辻だった。

 

「なるほど。今でも使用可能なドイツ戦車の数はそれほど多くない。そして、これから作られる事もない以上、今現存している物がなくなったら誰も戦車道で使うことができなくなるわけですね。将来、世界大会で強力なドイツ戦車を各国が使用したくても纏まった数そろっているのは、日本だけ…。まぁ、取りこぼしも出てくるでしょうが、面白いことになりそうですね。将来への布石としては完璧ですよ。」

 

辻の言葉で、細見も気づいたようだ。流石に陸軍の参謀本部の中枢に居たわけではないな、あれだけの情報で将来を見渡した計画が立てられるとはな…と細見は感心した。

 

「美代子さん、あなたはどうするのですか?旧枢軸国側の戦車は残っている物が少ないので、手に入れるなら今のうちです。連合国側の戦車であれば、ソ連の戦車の調達はさすがに厳しいが、それ以外のものでしたら、なんとかしますよ。」

 

服部は、美代子に声をかけた。流石に西住流だけ戦車の手当をするわけにはいかないだろう。池田流にも全く戦車がないわけだから。ところが、美代子は首を横に振った。

 

「いえ、我々池田流は、あくまでも帝国陸軍の戦車で戦います。それが、私の亡き夫池田末男の希望でもありますから。たとえ非力とはいえ、母国の戦車で私達は戦車道を続けたいのです。」

 

細見は美代子の答えを聞いて、頷いた。そうだ、だからこそ私は池田流が帝国陸軍の正当な後継だと考えたのだ。そこまで答えたからには、私も一肌脱ぐしかないだろう。

 

「しかし、美代子さん。我が国の戦車など残っている物はほとんどないでしょう。どうやって手に入れるかが問題になりますね。」

 

「いや辻君。残ってはいるのだ。それも纏まった数でね。ここから少し離れた、松代大本営跡の壕に旧帝国陸軍の戦車があるのだよ。」

 

松代大本営跡、帝国が本土決戦を想定して作った司令部跡。計画ではここに天皇陛下も含め皇室、軍及び政府首脳部が立てこもり、最後まで本土決戦の作戦指示を行うことが考えられていた。そして、立てこもるための壕はあらかた掘られていたのだが、まさかそこに戦車が隠してあったとは、終戦時前線に居た服部も辻も知らなかった。

 

「よければ、明日にでも少し行ってみるかね?」

 

細見の提案に、4人は頷いた。かほも帝国陸軍の戦車を使用するつもりはないが、しばらく見る事が出来なかった本物の戦車を見たかったのだ。




ようやく少しだけ、アニメ版ガルパンの世界が出てきたかな、と思います。設定はかなり無茶ですし、本当に経済効果があるかなど知ったことでありません(たぶん、何も生産しない学園艦では、維持で経済は悪くなるでしょうね(笑))。ですが、そんな細かいことどうでもいいから!な感じで楽しんでもらえたらと思います。

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