学園艦誕生物語   作:ariel

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ようやくリアルの方のゴタゴタも少し収まり、少し環境が変わって新年度を迎える事になりました。完全に落ち着くまでにはもう少し時間がかかりそうですが、この物語の投稿については、これまで通り1週間に1話か2話のペースで投稿していきたいと思います。


第64話 資金難

1977年3月 大洗女子学園生徒会室

 

「あ~ぁ、結局今年度は私達が出来た試合って、本戦も含めて2試合だけだったよね…。中村、もう少し試合したかったよね…。」

 

「仕方ないよ、辻さん。うちの学園は貧乏で、試合したくてもお金がないから…。知波単学園との練習試合で今年度の予算はほとんど消えちゃったから、後半は練習するのも経費節減で一苦労だったでしょう?」

 

1976年度の大洗女子学園の試合は、全国大会の聖グロリアーナ女学園戦と練習試合の知波単学園戦の2試合に終わっていた。全国大会の試合は、戦車道連盟が試合の経費を全額負担するため問題ないが、練習試合はそれぞれの学園が燃料代や砲弾代、試合会場の賃料などを負担しなくてはならず、大洗女子学園のような新設の公立高校の予算規模では自ずと試合数の制限が出てきてしまう。一般的な公立艦で行われているような5両以下の比較的小規模な戦車道の試合であれば、それらの負担もそれ程大きくはないが、一度に20両は動かす大規模な戦車道を行っている大洗女子学園では、この負担は馬鹿にはならない。また国立艦では歴史があるためOG達による寄付や、建艦経緯で関わった外国からの様々な援助も期待できるが、これも新設校で公立艦である大洗女子学園では全く期待出来ないため、一回の試合をするだけでも大変な支出となり学園艦の予算を圧迫していた。

 

「中村、学園長は何と言ってるの?やっぱり、これ以上は県から予算もらえないのかな?」

 

「たぶん無理だと思うよ。この間も学園長先生に相談しに行ったんだけど、これ以上の予算は県からは下りないと言われたみたい。残念だけど、打つ手はないと思う…。」

 

大洗女子学園学園長の青山一郎は、戦車道をする以上はかなりの予算が必要だとは考えていたようで、県から大洗女子学園の戦車道に対する臨時予算を得る事には成功していた。しかし県が想定していたのは、県立茨城学園と同様の規模の小規模な戦車道であり、戦車の数だけでも4倍はある大洗女子学園の大規模な戦車道の予算としては不足していた。そのため、実際に戦車を運用し練習を開始した時点で、運用コストだけでも茨城学園とは段違いの物になる事が分かり、青山としては地元大洗町などに対して急遽寄付などのお願いもしていたのだが、それも焼け石に水の状態だった。また当初の県の試算では、大洗女子学園が4~5試合の練習戦が出来るような予算を渡していた筈だったが、これも規模の問題で1試合の練習試合がやっとという事態になっていた。

 

「う~ん…、たぶん私が直接学園長の所に行っても、無い袖は振れないから、結果は同じだよね…。かといってお金の問題だから、教授にお願いした所で意味はないし…困ったな。」

 

「たぶん辻さんが学園長先生の所に直接怒鳴り込んでも、予算は変わらないからね…。たぶん、学園長先生のストレスが増えるだけだと思うよ。ただでさえ、最近学園長先生は『胃が痛い』なんて言っているから、これ以上追い詰めるのは…」

 

「私だけが原因ではないと思うけど・・・分かっているって、中村。」

 

流石の辻も、学園長にこの問題について苦情を言っても仕方がない事くらいは理解しており、この事で学園長の所に乗り込むつもりはないようだったが、最近は練習に使う燃料にも事欠いている状態で、満足に練習も出来ないため弱りきっていた。そんな話をしていると、生徒会室の電話がなり、副会長の中村が受話器をとった。

 

「辻さん!学園長先生から呼び出し来ていますよ。急いで来てくれと連絡が来ていますが…」

 

「学園長から?春休みももうすぐ始まるし、この時期に呼び出される理由なんて何もないと思うんだけど…。分かった、とりあえず行ってくるよ。」

 

もうすぐ今期の生徒会の任期も終わるため、この時期に学園長から何か生徒会に言ってくるような事はないはずだ。しかし、わざわざ自分を指名して呼び出している以上、行かざるをえないだろう。辻は、少し不審に思いながらも艦橋付近にある学園長の執務室に足を運んだ。

 

 

 

学園長室

 

 

学園長に呼び出された辻が学園長室に入ると、学園長室には学園長の青山と戦車道で顧問をしてもらっている西、そして一人の男性と自分と同年代の少女が一人、応接用のソファーに座っていた。

 

「学園長、呼び出されたから来たけど、こんな時期に何?私の会長の任期はもうほとんど残ってないから、会長としての仕事じゃないよね?」

 

「辻さん、よく来てくれました。まぁ、少し長い話になりそうですから、とりあえず席についてください。それと、こちらの方は台北駐日経済文化代表処の張正鼎(チャン・ジョンディン)さんと娘さんの怡仁(イーレン)さんです。イーレンさんは来年度から新入生としてうちに入学しますので覚えておいてください。」

 

「は…はぁ。学園長、新入生の紹介はいいんだけど、何か特殊な事情がある新入生なの?それと台北駐日経済文化代表処って何?あと、そういう事なら私じゃなくて、来年度の会長に話をした方がいいと思うけど…。」

 

呼び出されて一体何があるのだろうかと思って来てみれば、学園長からは新入生の紹介…名前を聞けばおそらく中国からの留学生だと思われる子を紹介されて、辻は少し戸惑った。そんな辻の戸惑いを見て、学園長の青山も少し説明が必要だと感じたのか、同席している張に断りを入れてから、辻に少し事情を説明した。

 

「たしかに何も説明もなく『面倒を見てください』といっても、よく分からないですね。辻さんすいませんね。まず、台北駐日経済文化代表処というのは日本にある台湾の大使館のような物だと考えてください。張さんはそこに昨年度から来ていまして、娘さんのイーレンさんは昨年は東京にある中華学校の中等部に通っていました。」

 

学園長の話を聞いて辻は、中国ではなく台湾からの留学生だという事を理解した。しかも父親は大使館のような場所に勤務しているという事は外交官の娘という事になる。そんな子が、どうしてこんな学園艦にやってきたのか…、辻の中ではますます疑問が広がる。

 

「そして今年からイーレンさんは高校生になるのですが、本人の希望で中華学校の高等部ではなく、一般的な日本人が通っている高校で勉強したいという事になり、お父様と相談してうちに通う事になったのです。」

 

「ちょっと待って、学園長。うちは公立の学園艦だから、私のような一期生は別にして、茨城県の人しか入学できないはずだよね?それにそういう理由だったら、うちでなくても国立の学園艦だっていい筈だよね?」

 

辻の疑問はもっともな物だったが、学園長の青山はどうやって答えようか少し迷った。するとそんな青山の迷いが分かったのか、紹介された父親の方が日本語で辻に答えた。

 

「その質問には私の方から答えましょう。私は娘のイーレンの希望を聞いて、どの高校に進学させるかを迷った末に私の日本に居る友人に相談を持ちかけたのです。そうしたら、その友人がこの学園を紹介してくれましてね。折角の友人の紹介です。この学園に入学させるために、とりあえず娘の住所だけを茨城県に移して、大洗女子学園に入学させました。」

 

「は…はぁ…わざわざ住所まで移したんだ・・・。でもこの学園って、生徒会長の私が言うのも変だけど、普通の公立の学園艦だよ?どんな友人の紹介か私は知らないけど、本当に良いの?」

 

「えぇ、私はその友人の事を信用していますから。」

 

どんな友人に紹介されたのかは知らないが、本人がそこまで言っている以上良いのだろう。それと、今の説明では留学生としての入学ではなく、正規の入学生という事だ。

 

「辻さん、理解出来ましたか?それで、イーレンさんは他の新入生と一緒にこの学園艦で来年から学びますが、一応台湾から来た新入生ということで、生徒会長の辻さんに少し留意してもらい、何かあったら助けてやって欲しいと思いましてね、それで今日この時期に呼び出したのです。」

 

「学園長…さっきも言ったけど、私の会長としての任期はもうすぐ終わるんだけど。そういう事なら、来年度の生徒会長にお願いした方が・・・」

 

「??来年度も辻さんが会長をやれば良いだけではありませんか?それに西先生から聞いていますが、辻さんの進路希望は戦車道プロリーグですよね?でしたら、来年度の最後まで生徒会長をやっても何も問題はないと思いますが。それに副会長の中村さんからも、辻さんを来年も支えるという風に聞いていますよ?」

 

「中村の奴いつのまにそんな事を・・・。学園長…一応、生徒会の選挙があるんだけど…。まだ私が当選するか分からないし、そもそも私は立候補するかも決めていないんだけど。」

 

「何言っているんですか。今更辻さん以外の生徒が立候補するとは思えませんし、来年度の三年生と二年生の支持は堅いですから、間違いなく会長をやる事になりますよ。ということで、よろしくお願いしますね。」

 

そんな学園長の話を聞いて、新入生のイーレンと呼ばれた少女も辻に頭を下げながら『辻会長、よろしくお願いするネ』と言った。そして、そこまで言われてしまうと、元々面倒見の良い辻としては断る事は出来なかった。ただ辻としては、イーレンが台湾出身という事で少し気になる事があり、学園長に訊ねる。

 

「学園長、生徒会長の件は少し置いておくけど、イーレンさんの事はちゃんと私が面倒みるから安心して。ただ一つだけ先に確認したい事があるんだよね。面倒見るという事は、イーレンさんはなるべく私に近い場所に居るという事だよね?学園長もよく知っていると思うけど、私課外活動では戦車道やっているから、イーレンさんも戦車道に入れるの?…というより、大丈夫なの?もう一個の中国から何か言われても私知らないよ?」

 

辻の疑問に青山は『たしかに少し問題があるかもしれないな』と感じた。他の部活ならともかく、戦車道となると実際の戦車を用いての活動になるし、台湾の大使館の身内がそれに参加するのは問題になる可能性がある。しかし、辻に面倒を見てくれと言っている以上、課外活動は辻と同じものの方が良い事はたしかだ。

 

「流石に私の娘が日本の戦車道に参加するくらいなら、中共も何も言ってこないでしょうし、日本政府が心配するような事にはならないでしょう。辻さんと言いましたね。娘の事はよろしくお願いします。」

 

ところが辻の疑問に対して、父親の方は問題ないと言い切った。

 

「私の友人というのは、現在戦車道連盟の副会長をしている中曽根さんでしてね。彼からも、『折角だから、その学園で娘に戦車道をやらせてみたらどうか?きっと面白い経験が出来るだろう』と言われています。日本の政治家のお墨付きですから、この件については政府として問題ないという判断なのでしょう。それに、あなたは私達が台湾出身という事で瞬時にその問題に気付けるような人ですから、あなたなら任せられそうです。」

 

なるほど、戦車道連盟絡みでうちの学園に入学してきたという事か…それなら、わざわざ公立艦の中からうちを選んだ理由も分かる。辻は疑問に思っていたことが氷解したが、先程の『本人の希望で普通の日本人が通う高校に入学したい』という説明とは少し違いがあり、少し胡散臭い点がある事にも気づいた。とはいえ、また父親の方がそこまで言ってきている以上、今更断る事は出来ない。

 

「分かったよ。それじゃ私が、課外活動も含めてイーレンさんの面倒を見るから安心して。もっとも、現在うちの戦車道は資金難で停止状態だから、来年度の最初は何も出来ないけどね。」

 

さっきまで生徒会室で話していたように、現在大洗女子学園の戦車道は、今年度の活動費を全て使い果たしており、戦車を動かす事は出来ない。そのため、静止状態での砲撃練習や無線を使った練習など、限られた事しか出来なかった。また来年度の予算が使えるようになるまでは、しばらくかかるだろう。しかし、そんな辻の言葉にイーレンの父親の方が反応した。

 

「全く動けない程の資金難なのですか?とはいえ、娘をそこに入れて活動させる事を決めた以上、親としては活動不能では困りますので、少し手を貸しましょうか。とりあえず私の知り合いが何人か台湾で会社を経営していますので、その人達に頼んでこの学園に寄付金を少し出させます。それほど大きな額は無理ですから、無尽蔵にという訳には行きませんが、それでも多少の足しにはなるでしょう。学園長先生、よろしいですね?」

 

「張さん、それは本当ですか!?」

「!えっ、寄付してくれるの?」

 

張の言葉に、学園長と辻は声を合わせて聞き返す。学園長の青山も自分の希望で初めて戦車道が活動資金不足で動けない事を非常に気にしていたため、張の申し出では正に渡りに船だった。

 

「はい。娘がこの学園でお世話になる訳ですから、それに対する感謝という事にしてください。ところで寄付とは別なのですが、M3というアメリカの中戦車が台湾には廃棄待ちで余っていまして・・・良かったらその戦車をここで使用しませんか?もし使いたいという事でしたら、3両ほどであれば融通出来ますが…いえ、先の国共内戦の際に使用した物ですから、もう実戦では使用出来ない戦車なので、現在廃棄待ちなのです。たしか第二次世界大戦時の戦車であれば戦車道では使用出来るのでしたよね?一応出元は、先の大戦の終結後にアメリカから供与されたお古ですから、問題ないと思います。あぁ、古寧頭戦役で使用した軽戦車の方のM3ではないですから、ご安心を。あれは我が国の守り神ですから、流石に渡せませんので。」

 

その話を横で聞いていた西は『何故、そんなルールをこの人が知っているのだろうか…』と少し疑問に思ったが、やがて何かに気づいたのか大きく頷くと、辻に小声で『折角だから貰っておきなさい。』と伝えた。

 

「ありがとうございます。その戦車は、是非うちの学園で使わせてください。」

 

「分かりました。来年度になったらこの学園に運ばせます。」

 

これで、大洗女子学園で使用出来る戦車は23両…これなら試合の相手に合わせて多少の車両の変更も出来る。辻は大洗女子学園の戦力が序々に充実していく事を喜んだ。そういう意味では、目の前に居る少女は自分にとっても福の神のような存在だ。

 

「学園長、用がそれだけだったら、早速イーレンさんに学園艦を案内したいけど、退出してもいい?入学式はまだ先だけど、こういう事情なら特に問題ないよね?」

 

「そ…そうですね。辻さんにお願いしたいのはそれだけですから、案内をよろしくお願いします。」

 

「それじゃ、イーレンさん行こうか。それと張さん、今日は本当にありがとうございます。これで私達もやっと動けそうです。本当に助かりました。」

 

辻はイーレンを誘い部屋を出て行く時、父親の張に向かって深々と頭を下げた。

 

「いえいえ、こちらこそ娘をよろしくお願いします。イーレン、あまり問題は起こすなよ!」

 

「分かってるネ。問題ないヨ。」

 

 

 

戦車格納庫

 

 

「次に見せるのは、うちの戦車道で使用している戦車の置いてある格納庫ね。まぁ、イーちゃんも来年度にうちに入学したら戦車道に参加する訳だから、今のうちにどの戦車に乗りたいか見ておいたら?」

 

「分かったヨ、会長。結構戦車あるネ。さっき、パパにはお金ない言っていたけど、戦車はあるネ。」

 

辻はイーレンに学園艦の最上甲板の町並みを一通り案内した。そして案内している最中、様々な事をイーレンと辻は話していたが、日本人として考えると少し変わった所があるものの、辻にとってイーレンと話をしている時間は楽しかったようで、イーレンの事をいつのまにか『イーちゃん』と呼んでいた。またイーレンの方も辻の事を気に入ったようで、まだ入学していないにも関わらず、知らず知らずの内に辻の事を『会長』と呼んでいた。

 

「そうなんだよね。戦車だけはあるんだけど、動かすお金がね…。まぁそれも、イーちゃんのお父さんの寄付でなんとかなりそうだから、ありがたい話だよ。ということで、スポンサーの身内のイーちゃんには好きな戦車に乗ってもらうけど、どれか気になった戦車はあった?あっ、誤解のないように言っておくけど、試合に出られるかどうかは、イーちゃんの腕次第だからね?スポンサーの身内でも上達しなかったら私は試合に出すつもりないから。」

 

「分かってるヨ。もし、私の腕が未熟でも試合に出る事になったら、パパに怒られるネ。会長、あの戦車がいいネ。」

 

イーレンが指を指したのは、大洗女子学園の戦車の中では最も大きなポルシェ式ティーガーだった。よりにもよってこの戦車を選ぶか…と思った辻だったが、一応彼女の希望を叶えてやろうと考え、折角のこの機会に近くで見せてやろうと考えた。そして、丁度ティーガーの近くにあった三号突撃砲の辺りに現在一年生の三田が居たため、イーレンの紹介と共にイーレンにティーガーを近くで見せようとした。

 

「三田ちゃん、ちょっといいかな。この子はイーレンちゃんと言って来年度からうちの学園に入学してくる台湾の子なんだけど。この子のお父さんがうちに寄付してくれるようで、うちの戦車ももうすぐしたらまた動かせるようになるよ。それで、この子には来年度からそこにあるティーガーに乗ってもらおうと考えているんだけど、問題ないよね?」

 

「辻会長、本当ですか!?これでやっと予算不足で動けなかったうちの戦車がまた動かせるようになりますね。あ、私は来年から二年生になる三田泉美です。来年からよろしくねイーレンさん。でも、ティーガーで大丈夫ですかね?最初はもっと小さな簡単な戦車の方がいいと思いますけど・・・」

 

三田も予算不足で戦車が動かせなかった事に危機感を持っていたため、それが解消される事を辻から聞かされると非常に喜び、少し戸惑うイーレンの手を握りしめて喜びを表した。しかし、イーレンがティーガーに搭乗する事については、少し難色を示す。あの戦車は他の戦車と違い、エンジン系が複雑な分故障も多く、取り扱いには細心の注意が必要なため、全くの初心者には向いていない戦車だったためだ。そのため、現在の大洗女子学園でもポルシェ式ティーガーには、小中学校で多少なりとも戦車道を経験していきている生徒が搭乗している。

 

「やっぱり、三田ちゃんもそう思うよね。あの戦車は結構取り扱い方が難しいから・・・。イーちゃん、あの戦車はあまりお勧め出来ないけど、それでも乗りたいの?」

 

「会長、大きい事は正義ネ。日本人、小さい物好きネ。でも、台湾人違うネ。パパから日本の昔話聞いた事あるヨ。大きな葛篭と小さな葛篭選ぶお話ネ、小さな葛篭を選んで家で開けたら中は金貨で、大きな葛篭選んで途中で開けたら中身は蛇やお化けの話だったヨ。でも、私なら大きな葛篭選ぶヨ。家で開けたら中身は金貨かもしれないし、もし蛇やお化けでも、蛇は食べれば美味しいし、お化けは見世物に使えるネ。どっちにしろ儲かるヨ。だから、大きい方がいいネ。」

 

『舌切り雀』の話か…と辻と三田は理解したが、いずれにせよ日本人の自分達とは考え方が全く違うという事と、想像以上にイーレンが商魂たくましい事だけは分かり、苦笑いしながらも頼もしい仲間の加入を喜んだ。

 

 

 

翌日 戦車道連盟 副会長室

 

 

昨日、大洗女子学園に娘を連れて行った張正鼎は、その日は戦車道連盟本部を訪ね、自分の友人で副会長の中曽根の元に出向いた。

 

「少佐殿。少佐殿の依頼の通り、私の娘を大洗女子学園に入学させ、私の出来る範囲で大洗女子学園への援助を行うと伝えました。娘は今回の事情を知りませんが、早速あの学園の生徒会長に色々と学園艦の案内をしてもらったようで、楽しい時間を過ごしたようです。戦車道の件は別にしても、とても良い学園を私に紹介していただき感謝しております。」

 

「張さん、私の我侭を聞いてくれて助かりました。ところで、この件で戦車道連盟が大きく絡んでいる事は大洗女子学園の関係者には知られていないでしょうね?連盟としては、新設校へのテコ入れという事で今回張さんにお願いしましたが、このような露骨な干渉を大洗女子学園は嫌がるかもしれませんからね。」

 

「少佐殿、おそらく学園長には知られていないと思いますが、同席していた西という女性には知られています。私達が学園艦を退艦する際に小声で私に伝えてきまして…少佐殿や岸閣下によろしく伝えておいてくれと言われています。私が未熟であったばかりに、申し訳ありません。」

 

「西さんであれば、こちらの事情を知られても問題ないでしょう。いずれにせよ、今回は私が張さんに一方的にお願いした事です。感謝こそすれ非難する事など出来ませんよ。」

 

先の大戦の最終局面、張は台湾からの志願兵として帝国海軍に在籍し、呉鎮守府で主計長をしていた中曽根の部下として働いていた。その際、遙か南の台湾から志願してきたその若者を中曽根は様々な形で面倒を見てやったことから、二人の関係は始まっていた。終戦後、二人の関係は一端終わったが、国共内戦を経て台湾からの外交官として日本に派遣されてきた張は、かつての上司であった中曽根が日本で政治家をしていた事から、二人の関係は再開する。そして戦時中に様々な面倒をみてくれた中曽根たっての頼みで、大洗女子学園という公立艦への援助を二つ返事で引き受けていた。

 

「池田流や西住流の家元達は、大洗女子学園の戦車道はかなり強くなっているとは言うが、現実には未だに練習戦も含めて一度も勝っていない。折角全国大会に参入してきた公立の新設校なのだから、どこかの時点で一度は勝ってもらわないとね。」

 

「少佐殿、資金的な問題に折り合いがつけば、練習試合なども出来るようになり経験が積める様になると言っていましたが、実際の資金援助はどう早く見積もっても来年度の後半になります。そうなると実際にあの学園が経験を積んで強くなるのは再来年頃からになりますが…。」

 

「まぁ、そればかりは仕方ないでしょうね。そういう意味では来年度から入学する張さんの娘さんが活躍するかもしれませんね。親としては楽しみではないですか。」

 

「そうですね少佐殿。親馬鹿と言われるかもしれませんが、あの娘があの学園で活躍する姿が見てみたいものですね。」

 

大洗女子学園の学園長は想像もしていないだろうが、資金的な手助けのために戦車道連盟が放った矢は有効に働きそうだ・・・そう中曽根は感じていた。張の話では、資金の他に戦車まで大洗女子学園に引き渡される事になるそうだが、いずれにせよこの手助けで、今年こそ大洗女子学園にはなんとか一勝をしてもらいたいものだ・・・そして場合によっては、全国大会の組み合わせで多少の手心を加える必要も出てくるだろうな・・・と中曽根は内心で考えていた。




M3リーを大洗女子学園に持ってくる話ですが、当初はサンダース大附属高校からの譲渡を考えていましたが、考えてみればここからの譲渡であればM3ではなくM4の方が自然な感じがするんですよね(アニメ版を見た感じでは、サンダースにはかなりの数のM4がありますので、大洗に渡しても問題ないと思いますから)。

ということで、一番最初の予定を少し変更して、資金援助と共に台湾から持ってくるという形にしました。たぶん中華民国への支援としてアメリカがM3くらいは渡しているだろうな・・・という想像ですので、本当は渡していないかもしれませんが、その辺りは大目に見てもらえると^^;。ちなみに、軽戦車の方のM3は、金門島を巡る古寧頭戦役で台湾側が使用して大活躍し『金門之熊』という名前で現在も展示されていたりします。

ちなみに『舌切り雀』の解釈ですが、これは著者の友人の台湾人が言い放った実話だったりします(笑)。まぁ、商売熱心で結構な話ですね^^;。

今回も読んでいただきありがとうございました。

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