学園艦誕生物語   作:ariel

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もうすぐ年度末になり忙しい時期になりますが、皆さんいかがお過ごしでしょうか。私の方も、三月に入りますとかなり時間がなくなってしまうため、書ける内に出来るだけ話を進めておこうと思いまして、今回の話としました。本当は第五章に直接入ろうとも思ったのですが、あとがきにも書いたとおり、このまま第五章に突入しますと最終話が微妙な感じになりそうなので、幕間2という形でエピソードを追加しました。


幕間2
第56話 過去の栄光


1975年  6月 中旬 大洗女子学園

 

「はぁ~…やっと練習終了…疲れた~」

 

大洗女子学園では、戦車が学園艦にやってきた次の翌々日から、東北大学の西の指導による戦車の練習が始まっていた。そして戦車をこれまでに動かした事のある経験者が少ない大洗女子学園では、最初は戦車の操縦方法の訓練から始まっており、マニュアルを片手に必死の練習となっていた。しかしドイツ戦車と帝国陸軍の戦車が混じっているため、双方の戦車で動かし方や照準の定め方が微妙に違っており、これが混乱に拍車をかけていた。とはいえ、訓練開始から一週間程が経過した今では、どの戦車でもなんとか最低限の機動が出来るレベルにはなっており、指導している西も少しホッとしていた。

 

戦車を大洗女子学園に持ち込み戦車道を行う人員を確保した辻正子は、当然の事ながら周りから推されて戦車隊の隊長となっていたが、西の指導は隊長の辻に対しては特に厳しい物になっており、練習が終了する頃には辻は毎日クタクタの状態になっていた。もっとも、これまで辻に散々自分の時間を掻き回されていた学園長の青山にしてみると、毎日のように辻が学園長室に押しかけてくる事もなくなった事で、平穏な時間を過ごす事が出来ており、辻達を指導している西に心から感謝しているようだ。

 

「辻さん…残念だけど、教授から呼び出し…たぶん、これから素敵なお説教タイムよ。」

 

「え~~。今日も…お説教?中村、あんたも付き合いなさいよ!一応、あんたも副隊長なんだから。大体、なんで私ばっかり…教授は厳しすぎだよ…」

 

辻達は、東北大学からやってきた西の事を『教授』と呼んでいる。西も最初は『自分は助教授だから、その呼び方はやめて欲しい』と、その都度訂正を求めていたが、辻達に全く改めるそぶりが見られないため、最近は諦めてその呼び方を受け入れている。もっとも、流石に東北大学から連れてきたスタッフ達が『西教授』と冗談で呼ぶ事については、厳しく説教をしたようだ。

 

西は、知波単学園で自分が現役時代に受けていたように、練習終了後に検討会と称して、隊長の辻や副隊長の中村を呼び出し、その日の練習についての反省点や翌日の練習の打ち合わせをしていたが、辻達にしてみるとそれは『説教タイム』以外の何物でもなかった。

 

「辻さんは、まだマシだと思うけど…。通信手に選ばれた子達は、これから夜まで電話級アマチュア無線技師の資格を取るための勉強だし、近藤に至っては、教授とマンツーマンで二級アマチュア無線技師取得のための猛特訓…」

 

「まぁ、教授が言うには、通信手の子は電話級アマチュア無線技師の資格がないと困るみたいだから、仕方ないかな…。近藤は…自業自得ね!」

 

一般的には、戦車道に参加する戦車間の通信はトランシーバーを用いる所が多いため、無線技士の資格は必要ない。しかし知波単学園や黒森峰女学園など一部の強豪校では、通信手に電話級アマチュア無線技師の資格を取らせ、430MHz帯の無線により通信手段を確保していた。そのため西は、ここ大洗女子学園でも通信手は最低限電話級アマチュア無線技師の資格が必要だと考えたようで、練習後に通信手候補生を集めて資格取得のための授業まで行っていた。また西は、自分が現役時代に考えていたが結局様々な問題で完全には実現出来なかった事をここ大洗女子学園で行おうと考えているようで、そのためには通信士全員に無線技士の資格は必要だったようだ。

 

その通信手候補生の中でも、辻の戦車に通信手として乗り込んでいる近藤早苗は、父親が通信局で本職の通信士として働いていた事もあり、既に電信級アマチュア無線技師の資格を持っていた。近藤としては、『自分は既に電話級より一段階上の電信級の資格を持っているから、座学から解放されるだろう』と考えて西にその旨を申告したのだが、西はそれを聞くとニヤッと笑い、『二級アマチュア無線技師の資格を取ってもらうから、これからしばらくマンツーマンで特訓をする』と言い出し、近藤は自分の言葉が藪蛇になった事を後悔した。そして近藤から既に電信級の資格を持っている事を聞いた西は、自分が考えていた事が実現可能だという思いを強く感じていた。

 

このように、大洗女子学園で戦車道を行うことを決めた生徒達は、様々な形で西から課題を与えられており、戦車道は結構大変なんだな…と改めて認識してきたのと同時に、見かけとは裏腹に西がかなり厳しい先生だという事を理解しつつあった。それもあって、好奇心旺盛な辻などは、西は一体どんな経歴の人間なのだろう…と興味を持ったようで、練習終了後に西の正体を調べるために中村達と共に最近は図書館に篭っているようだ。そしてその日も、検討会が終了したら図書館に行って調べ物の継続をすることを、辻は中村と自分の戦車の装填手兼砲手を頼んでいる真田麻耶と約束していた。

 

「ねぇ、中村、真田?教授の過去は分かったの?たしか、どこかで聞いた事がある名前だから、すぐに分かると言っていたと思うけど…。」

 

「辻さん…今のところ、何も収穫なしね…中村さんも頑張って調べているけど、雲を掴む様な感じ…」

 

「うん…真田さんの言うとおりなんだよね。うちの図書館で知波単学園の事を少し調べたんだけど、まだ何も出てこないよ…。東北大学に先生として居るから、普通科の出身だと思うんだけど…。普通科が開設された時代の知波単学園の戦車道についても調べたけど、教授の名前は載っていないのよね…。そういえば、辻さんのお姉さんは、知波単学園出身だったよね?お姉さんに聞いたら、何か知っているんじゃない?」

 

「却下!あのクソ姉に借りは作りたくないから、問題外よ!あと、教授って本当に普通科なの?」

 

辻の言葉に、中村と真田は『そんな事当然だろう』という表情をした。

 

「辻さん…普通科出身でなければ、旧帝国大学には入れないよ…。辻さんのお姉さんも普通科出身でしょう?…あ~ぁ、教授が何歳か分かれば卒業年次が分かるから、もう少し調べられるんだけどな。」

 

「辻さん?これから中村さんとお説教タイムでしょ?西先生に直接年齢を聞いてみたら?」

 

「う~ん…流石に直接聞くのは…。!そうだ、少しカマかけて聞いてみようかな…。とりあえず中村、あまり遅れると、お説教の時間が伸びそうだから、早いところ行こっか…。」

 

そう言うと、辻は真田に『また後で』と伝え、気が乗らない中村を連れて西が待っている居室に急いだ。

 

 

 

検討会終了後 図書室

 

 

「真田!普通科じゃなくて機甲科だよ!教授の卒業年次を考えたら、知波単学園にはまだ普通科がない時代だよ!」

 

その日の検討会で、辻は西の年齢を聞きだすことに成功していた。西からの話が一段落した際に辻が『学園長から聞いたのですが、西先生はまだ20代なのに旧帝国大学で先生をしているなんて、凄いですね!』と水を向けた事に対して、西は『自分の事を西先生と呼ぶのは珍しいな』と少し疑念を持ったが、特に変な事を言ってきた訳でもなかったため『まぁ、20代と言っても今年でそれも終了だから、そう言えるのも今年が最後かな。』と答えた。そして更に辻が、『私も高校を卒業したら、西先生のように大学に行こうと思っているんだけど、西先生は大学に入るときにやっぱり浪人生活したの?』と質問してきたため、西は『なるほど、大学の事に興味があって辻は先程の質問をしたのか…』と誤解し、辻に対して『私は浪人はしなかったわね。辻さんも現役で大学に行けるように勉学に励みなさい。』と答えていた。西の答えを聞いた辻は『やった!』と内心でガッツポーズを取ったが、その場では何も表情には出さずに西の部屋を退室した。西の部屋を退室した二人は、真田が待つ図書館に向かう道すがら、西が知波単学園を卒業した年を計算しはじめた。そして図書館に着くころにようやく、西が知波単学園の三期生だという事が判明した。またその結果、その時代には知波単学園に普通科は存在せず機甲科のみだったため、自然と西が機甲科出身の人間で、今まで自分達が調べていた事は全て無駄だった事も判明した。

 

「そんな…絶対に普通科出身だと思ったのに…。道理で、見つからなかった筈だよ…。でも、知波単学園の機甲科なら有名だから簡単に調べられるよ。辻さん…ちょっと待ってね。教授は知波単学園機甲科の三期生だから…1962年入学…だとしたら、この辺りの戦車道の雑誌を見れば…。」

 

そう言うと、真田は図書館に置かれていた戦車道関連の雑誌の中から創刊号に近い古い雑誌を引っ張り出してきて、中村と共にページをめくり始めた。

 

「1962年って…たしか、中村が言っていた戦車道の天覧試合があった年だよね…教授も出場していたりして…って、流石にそれはないか。まだ一年生だった筈だし。…って、どうしたの中村?もう見つかったの?」

 

辻は、中村が雑誌のページをめくる作業を止め、とある記事を凝視している姿を見て声をかけたが、中村は辻の声に反応しなかった。そして、その頃には中村の横で雑誌をめくっていた真田も固まっていた。

 

「中村!どうしたのよ、急に黙っちゃって!何かあったの?それに、真田まで黙り込んじゃって、どうしたのよ!」

 

辻は、先程よりもだいぶ大きな声で中村達に声をかけると、中村は我に返って辻に雑誌の記事を指し示しながら、早口で話し始めた。

 

「見つかった…というより、記事を見ていて途中で思い出したのよ!西佳代、天覧試合の時の知波単学園戦車隊の副隊長で、その後に第三代知波単学園戦車隊の隊長を勤めた人。この人が指揮を執った時代の知波単学園は、練習試合では一度たりとも負けた事がない…そう、あの黒森峰女学園にも…。真田さん、そっちの雑誌にも教授の事載っているでしょ?」

 

「うん、中村さん。このページなんて教授の特集になっているよ…。教授、こんなに有名人だったんだ…。辻さん、この雑誌は教授が知波単学園を卒業した年の雑誌で、教授の戦歴が特集されているけど、本当に三年間練習試合で一回も負けていないみたい。それと、この年の黒森峰女学園との定期戦が教授の最後の戦いだったみたいだけど、あの黒森峰女学園を完膚なきまでに打ち負かしたみたいだよ…。この時の黒森峰女学園の隊長と副隊長が呆然とした表情になっている写真も掲載されているし…。」

 

「えぇぇぇ、教授ってそんなに凄い人だったの!?でも、練習試合は負けた事なくても、公式戦は負けてるって事?だとしたら、教授も私と同じで本番には弱い人って事?」

 

辻の言葉に、戦車道の情報には詳しい中村は呆れたような表情で、知波単学園の特殊な事情を説明してやった。

 

「あのね…辻さん。知波単学園はちょっと変わった学校で…公式戦では学園の方針として使用できる戦車に制限があって、技術はともかく本当の強さではないの。それで、その制限がなくなる練習戦こそが知波単学園の本当の姿で…。毎年開催される黒森峰女学園との定期戦は特に有名だけど、練習戦では黒森峰女学園相手でも、これまで五分五分の戦績なんだよ。でも教授が現役だった時代は、その定期戦の最初の三年間になるんだけど、この時代は知波単学園が三連勝しているの!」

 

「ねぇ、中村?それって、教授は本当に戦車道で凄い選手だったって事?だとしたら、なんでプロに入らずに大学の先生になっているんだろうね…。それと、黒森峰女学園を三年間に渡って負かしたって事は、黒森峰女学園や西住流からは完全にマークされている人って事だよね?でも、教授は西住流師範の資格も持っていると言っていたけど…どういう事か分かる?」

 

「あの…辻さん、中村さん?ここに西住流家元のインタビュー記事が載っているけど、『池田流の門下生でありながら、西住流にも通じる素晴らしい指揮を見せてもらいました。』と教授を称える内容だから、この頃から教授の事を凄く評価していたんじゃないかな…。」

 

真田の言葉に、辻と中村は真田が読んでいた雑誌の記事に目を通したが、たしかに真田が言うとおり、西住流の家元が西の事を手放しで褒めている内容になっていた。こんな頃からここまで評価されていたのか・・・と辻は驚いたが、考えてみれば池田流と西住流の両方から師範免状をもらっている西が普通の人間である筈がない事は当然の事だった。

 

まだ大洗女子学園で戦車道の練習を開始していない時に、学園長の青山から『西先生の言う事をよく聞くように!』と言われたが、当時の辻達はその凄さをあまり理解出来ず、『ふ~ん』という感情しかなかった。しかし戦車道の練習を実際に始めてみて、西の知識の深さや適切な指示を毎日のようにしてもらっている現在は『凄い先生なんだな』と尊敬の念を抱いている。ただそれでも、西がここまで凄い過去を持っていた事までは考えておらず、今回の昔の記事は辻達にとっては衝撃的な物になったようだ。辻が沈黙していると、中村が別の記事を辻に見せるように手渡してきた。

 

「辻さん…ここ読んでみて。あの天覧試合を黒森峰女学園の隊長として参加した、今ギャラクシーリーグの最優秀選手の西住なほさんのインタビューなんだけど『知波単学園副隊長の佳代の作戦に今回は完敗したが、この雪辱はいつか必ず果たすつもりだ。それとあの子が今回見せた作戦は、西住流の師範免状でも渡したいくらい素晴らしい物だった。だから私としては、あの子には是非西住流に来て欲しいと願っている』って書いてあるわ。…あの天覧試合の知波単学園の作戦は、教授が考えたものだったんだね…。」

 

「道理で、西住流から来ている戦車整備員のおじさん達も、教授の指示に素直に従っているわけか…おかしいと思ったんだよね。池田流の整備員のおじさん達は教授を昔から知っているから信頼しているのは分かるけど、西住流から来ているおじさん達があそこまで教授を信頼しているのは、師範だという事もそうだけど、西住流の家元達が手放しで褒めているからか…」

 

辻は中村から渡されたインタビュー記事を目で追うと、溜息をついて雑誌を中村に戻した。そして真田が持ってきた天覧試合に関する特集が組まれた雑誌を中村や真田と一緒に、黙って読み始めた。それらの雑誌には、天覧試合の試合経過や、実際に戦った選手のインタビューや写真も掲載されており、それを読んでいくと嫌でも西の偉業が理解出来た。

 

「また、懐かしい物を読んでいるのね、三人とも。それと…検討会で私の年齢を聞きだしたり、検討会が終わった瞬間に外に飛び出して行ったのは、私の過去を調べるためだった…という事ね。三人とも、興味を持った事を自主的に調べる事は良いことだけど、人の過去を根こそぎ調べるのは、あまり関心しないわね…。」

 

急に後ろから声をかけられた辻達が驚いて振り向くと、そこには自分達に戦車道を教えている西が立っていた。

 

「きょ…教授!…その…これは…。」

 

丁度調べていた本人が目の前に居る事に、三人は慌てたが、西は特に三人に説教をするつもりはないようで、懐かしそうに三人が見ていた雑誌を取り上げるとページをめくり始めた。そして、あるページでめくる手が止まったかと思うと、三人にそのページを見せてくれた。そのページには天覧試合を戦った両校の選手たちの集合写真が掲載されており、西は懐かしそうにその写真を説明してくれた。

 

「この写真は、天覧試合が終わった後の懇親会の時に撮影された写真でね。最初は知波単学園と黒森峰女学園の生徒は別々の集合写真を撮影する事になっていたんだけど…。当時の両校の隊長が、『これから毎年試合をする訳だし、折角だから一緒に集合写真を撮影してもらおう』と言い出して、この写真になったのよ。だから、お互いの学校の生徒が入り混じった形で、いい感じの集合写真になっているでしょう?」

 

西が説明するように、集合写真では黒森峰女学園の制服を着た生徒と知波単学園の制服を着た生徒達がゴチャゴチャに並んで写っていた。そして三人が注意深く集合写真を観察すると、目の前に居る西の高校時代の姿を集合写真の中央付近に発見する事が出来た。また、ギャラクシーリーグのファンである中村は、西の傍に現在ギャラクシーリーグでベテランとしてチームの中核的存在となっている選手達の姿を何人も発見した。

 

「福岡シリウスの西住選手に玉田選手、それに桜井選手も…、あとこっちは広島カペラの島田選手に吉村選手。名古屋スピカの池田選手に村上選手…それと…あっ、これ知波単学園時代の教祖様!凄い…有名選手ばかり…みんなこの試合に出場していたんだ。」

 

中村が急に興奮し始めたのを見た西は苦笑したが、『たしか、この子はギャラクシーリーグの熱心なファンだった』という事を思い出し、当然の反応か…と理解した。

 

また辻や真田も、戦車が来るまでの間に、戦車道について中村から様々な事を聞いていた際、中村が口に出していた名前の選手が何人もその写真に写っている事に気づき、この写真の中に居る人間は現在の戦車道の中心人物ばかりなのだという事が分かった。そして、その中央付近に自分達に戦車道を教えている西の姿もあるため、『やはり、この先生は本当に凄い人だったんだ』という事を改めて認識した。

 

「そういえば、中村さんはギャラクシーリーグのファンだったわね。だとすると…この話を聞いたら、中村さんは大喜びするかもしれないわね…。今度、あなたたちを連れて、本物の戦車道を見せるために知波単学園と黒森峰女学園に行く予定でね…私の昔の友達と途中で合流して訪問する予定なんだけど…ここまで言えば、誰と途中で合流するかは理解出来るでしょう?楽しみにしている事ね。」

 

その言葉に中村が真っ先に反応した。

 

「教授!是非よろしくお願いします。当日は、サイン用紙持参で行きますから!」

 

辻と真田は、中村ほどギャラクシーリーグについて詳しくはないため、中村のようには興奮しなかったが、それでも西の今の説明を信じるならば、目の前の雑誌に写っている『昔の友人』と合流してそれぞれの学園を訪れる事は理解できた。そして、一応自分達もサイン用紙を用意しておこうかな…と考えていた。

 

 

 

大洗女子学園 学園長室

 

 

「青山学園長、とりあえず戦車道の訓練は順調に進んでいますが、やはり一度はきちんとした戦車道を見せたほうが良いと思います。それで私の昔の伝を使って、生徒達を知波単学園と黒森峰女学園に数日連れて行こうと思うのですが、どうでしょうか?一応、両方の学園の学園長からは了承してもらっていますので、青山学園長さえOKしてくれれば話を進めますが…。」

 

「西先生、何から何まで本当にありがとうございます。あの辻も、最近はすっかり大人しくなったようで、本当に感謝しています。勿論、知波単学園や黒森峰女学園で受け入れてもらえるのでしたら、是非お願いします。それで、何人程連れて行く予定ですか?」

 

『まだ入学して半年も経過していないのに、ここまで辻は警戒されていたのか…』と、青山の返答に西は少し苦笑いしたが、青山が訪問の許可を出してくれたため、頭の中で引率可能な人数を考えた。

 

「学園長先生、辻さんは良い子ですよ。あれだけ他の生徒達を引っ張っているのですから、凄く頑張っていると思います。ですから、そのうち褒めてあげてくださいね。それと、連れて行く人数ですが、辻さんを含めて4人程を考えています。隊長車に搭乗する辻さんを入れた4人、この子達を連れて行こうかと…」

 

「そうですか、分かりました。人選については西先生に全てお任せします。それとその4名の事務手続きについては、私の方で行いましょう。それで、いつごろ行かれる予定ですか?」

 

青山の質問は事務手続きも絡むため、至極まっとうな物だったが、西は珍しく即答を避けた。

 

「学園長先生、一応連れて行く時期は考えているのですが、ちょっと昔の友人にも連絡をとらなければならないですから、詳しい日程は友人と連絡がついてから決めようかと…ただ、おそらく今年の戦車道全国大会の前に連れて行くことになるので、来月くらいになると思います。それと、知波単学園の方は現在陸地にあるので電車で行きますが、黒森峰女学園の方はヘリで行くことになると思うので、その時はヘリの使用許可をよろしくお願いします。」

 

「分かりました、西先生。手続きの方は私が責任を持って行います。生徒達をくれぐれもよろしくお願いします。」

 

 

 

その夜 西の居室

 

 

学園長から許可をもらった西は、その日のうちに、この件について日程調整をする必要がある友人に連絡を取るために、電話のダイヤルを回し始めた。

 

「美紗子?佳代だけど、今大丈夫?」

 

『あ、佳代ちゃん。いいよ、大丈夫。電話してきたという事は、知波単学園に行く日が決まったって事ね?いつになったの?』

 

「一応、来月を考えていて、美紗子達が開いている日に合わせる予定だけど…。試合がなくて、美紗子が本家に居る日を教えて。」

 

『だったら、再来週は完全に空いているから、7月の第一週目の月曜日でいい?早紀江さん達には私から連絡しておくから。それと当日は池田流の本家で待っているから、知波単学園に行く前に本家に寄ってくれる?そこで合流でいいでしょう?』

 

西は、他の人の都合も聞かずに美紗子があっという間に予定を決めてしまったことに少し不安を感じたが、考えてみれば知波単学園で一緒だった時代もこんな感じだったな…という事を思い出した。おそらく、早紀江達は美紗子が決めたことに文句は言っても、最終的には従うのだろう。だとしたら、自分がとやかく言う必要もないか…そう考えた西は、美紗子の提案を了承した。

 

「分かった、美紗子。そっちの連絡は任せるわ。それじゃ、あとは当日会った時に話せばいいよね?私これから、もう一つ電話をかけないといけない所があるから。それじゃ、またね!」

 

『あぁ、黒森峰女学園にも行くと言っていたから、なっちゃんの所ね?よろしく伝えておいて!それじゃ、またね』

 

美紗子との電話はあっという間に終わった。どうせ再来週になれば直接会うのだから、今日はこれでいいだろうと両方とも考えたようだ。美紗子との電話が終わった西は、続けてもう一方の友人にも電話をかける。

 

「もしもし、先日家元から師範免状をいただいた東北大の西です。西住なほさんと少しお話しがしたいので、取り次いでもらえますか?」

 

たしか今日は、なほは本家に戻っているはずだ。西住流本家に直接電話をかけるのは西にとっても少し緊張するが、今回は致し方ない。しばらく西が電話口で待っているとなほが電話に出た。

 

『久しぶりだな、佳代。そちらから私に連絡をしてくるなんて、珍しい事もあるな。まぁ、佳代も今や西住流の師範だから、不思議な事でもないのかもしれないが・・・。それで、どうしたんだ?』

 

「なほさん、お久しぶりです。その節は大変お世話になりました。実は、そちらの家元からもう話を聞いているかもしれませんが、私は今、大洗女子学園という新設校で戦車道を教えています。それで、一度本物の戦車道を私の教えている生徒達に見せようと思いまして…黒森峰女学園に連れて行こうと思っているのですが、なほさんもし時間がありましたら、一緒に行きませんか?」

 

西の誘いに、なほは一瞬戸惑った。ただ、全国大会では応援のために会場に足を運ぶ事はあっても、ここしばらく母校に行ったことはない、ならば久しぶりに行くのも悪くないか…と思い、西の誘いに乗ることを決めた。

 

『分かった。私にとっても久しぶりの母校だから、一緒に行こう。それに、今戦車道の顧問として野中も居るから、全国大会前に激励に行くのも悪くないな。野中には私の方から連絡を入れておくから、こちらに任せてくれ。』

 

ところがなほの提案に対して、西は思うところがあるのか、それを引き止めた。

 

「なほさん、ちょっと待ってください。実は私に考えがありまして…。どうせなら、美鈴を驚かせてやりませんか?いきなり私やなほさんが、目の前に現れたら…楽しいと思いません?」

 

『やっぱり佳代は現役時代から変わらず、人が悪いな。野中にはちょっと気の毒かもしれないが、面白い。今回は佳代の提案に乗ろう。しかし、どうせ驚かせるなら真由子達にも声をかけてみるか。佳代、いつ行く予定なんだ?』

 

こっちも大事になりそうだ…と西はなほの言葉を聞いて思ったが、折角なほも悪巧みに乗り気なのだから、別にいいだろうと考えた。おそらく黒森峰女学園で戦車道の顧問をしている自分と同い年の野中美鈴は驚愕する事になるが、現役時代のように彼女を出し抜くのも悪くない。

 

「再来週の週始めに知波単学園を訪れて、そこで2,3日見学をするので、黒森峰女学園に行くのはその後になります。ですから再来週の後半ですから7月の第一週目の後半になりますけど、なほさん予定空けられますか?」

 

『再来週なら問題ない。それに、全国大会の前だから丁度母校の後輩達を激励するにも良さそうだ。佳代、誘ってくれてありがとう。真由子達には私から連絡するから、当日は学園艦に行く前に西住流本家に寄ってくれ。今黒森峰女学園は九州の方に来ているから、本家からヘリで一緒に行けばいいだろう。』

 

「分かりました。なほさん。それでは、当日よろしくお願いします。あっ、間違っても美鈴には内緒ですよ。驚かせないといけませんから。」

 

『佳代、分かっている。それにしても、野中は桜井と一緒に現役時代にあれだけ佳代にやられて、今回も佳代の奇襲を受けるわけだから、いつまでたっても関係は変わらないという事だな。ハハハ。それでは、また。』

 

なほの言葉を聞いて、西はこれで自分が考えていた通りの形で両方の学園を訪れる事が出来ると考えて、安心して受話器を置いた。そして、再来週どちらの学園に行くのも非常に楽しみだと考えながら、その日はいつもよりだいぶ早く床についた。

 




第五章は予定通り第四章の一年後を出発にしますが、やはりそこまでの時間を全部飛ばしてしまいますと、最終話に問題が出てきそうなので、今回も幕間という形でその間の時間のエピソードを追加しようと思います。予定では、今回の幕間は全4話にするつもりなので、おそらく3月中には第五章に入れるかな…と思っています。

ただ、第五章は登場人物が一気に増えそうな感じがしまして…どうやってシンプルにしていこうかな…と少し悩んでいます。アニメ版を元にしたアナザーストーリーや、原作後の時代を書いた二次小説の場合は、原作キャラがそのまま使えるため、登場人物が多くてもなんとかなるのですが、ほとんどオリキャラで話を作ってしまっているこの学園艦誕生物語では、あまり登場人物を増やしてしまうと、書いているこちらも混乱してしまうので、極力登場人物を増やさない方向で書いてきたつもりなのですが、最終章ばかりはそうは行かなさそうで、まだ何も書いていない今から、『どうしよう…』と悩んでいます。

今回も読んでいただきありがとうございました。

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