学園艦誕生物語   作:ariel

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これまで使用していたPCがついにオシャカになりました。早速新しいPCに乗り換えたわけですが、最近のPCはノートでも本当に性能が良いですね…。それにしても、PCを新しく出来たことはうれしいのですが、これまで使用していたプログラムの移動や、データ移動は毎回の事ながら、もの凄く時間がとられる訳で…。完全にデータの移行が終わるまで、もうしばらくかかりそうです。


第52話 交渉と藪蛇

1975年4月中旬 豊橋市 池田流本家正門前 明け方

 

四月の中旬とはいえ、明け方は流石に冷え込む。昨日から池田流本家の正門前で持久戦をしていた大洗女子学園の辻正子は、肌寒さを感じて目が覚めた。そしてふと横を見ると、大洗女子学園から一緒に来た中村静子は未だに熟睡状態だった。自分も昨晩はいつの間にか意識が飛んでいたため、お互いに移動などでかなり疲れていたのだろう。辻は序々に意識が覚醒してくると、見慣れない物が自分と中村にかかっている事に気付いた。昨晩、自分達は用意してきた新聞紙に包まって野宿をしていたはずだったが、いつのまにか自分達に筵のような物がかけられている。おそらく自分達が寝ている間に誰かにかけられたのだろうが、一体誰が…。そう考えていると、中村も目が覚めたようだ。

 

「あっ、辻さんおはようございます。どうしたのですか?」

 

「中村おはよう。いつのまにか、私達にこんな物がかけられていたんだけど、お屋敷の人がかけてくれたのかな…どうせなら、布団の方が良かったけど。」

 

屋敷の人間がかけてくれたのであれば、一応自分達がここで野宿している事を把握しているという事か…そう辻は考えた。そして、『一応気にかけてくれているとすれば、屋敷に入れてもらえる可能性はあるということか』と結論づけた。

 

「辻さん、とりあえず買い込んだ食べ物がまだあるから、朝ごはん食べましょう。でも、流石に二日間お風呂に入れないのは、きついですよ…。」

 

「中村、あと少しの我慢だと思うよ。一応私達の事を気にかけてくれているみたいだから、たぶん入れてもらえるんじゃないかな。ま、中に入ってからが勝負だから、今のうちに腹ごしらえして、力をつけておきましょう。」

 

そう言うと、辻は中村から食事を受け取り口に入れ始めた。そして食事が終わりしばらく二人で話していると、正門の扉が開き、昨日自分達を門前払いした男が外に出てきた。

 

「若い女性が野宿をするのはあまり感心出来ないのですが…まだ居たのですね。家元がお会いになるそうです。中にどうぞ。」

 

男の言葉を聞いて、辻は中村に『まずは第一関門突破』とささやいた。そして、外に出てきた男に促されて二人で門内に入った。二人が玄関から屋敷内に入ると、初老の女性が二人を待っていた。戦車道関係の雑誌でそれなりに戦車道の事を知っている中村は、辻に『たしか、この人は池田流の師範の人だったはずだよ。』と囁いた。

 

「ようこそ…と言うよりは、招かれざるお客さんのような気もしますが…家元が会うと言っていますので、私が案内しましょう。私は池田流師範の池田美奈子です。家元の母は、応接室で待っていますから、ついていらっしゃい。今日はお客様もいらしていますから、失礼のないように。それと…、若い娘が野宿などするものではありませんよ。かなり匂いますから、家元の所に行く前にお風呂にいってらっしゃい。」

 

自分達が匂う事は自覚していたが、改めて他人から指摘されたことで、流石の辻も赤面した。そして師範の美奈子に連れられて、中村と共に池田流の風呂場に直行した。

 

「二人とも、着替えも用意しておきますから、それに着替えなさい。今来ている制服は洗っておきますから、そこにある洗濯籠に入れておくといいわ。お風呂から出たら、私はそこの部屋に居ますから二人とも来てください。それではごゆっくり。」

 

そう言うと美奈子は二人を置いて、脱衣場の外に出て行った。残された二人はしばらく顔を見合わせたが、二日間風呂に入っておらず自分達がかなり薄汚れている事は自覚していたため、黙って風呂に入っていった。池田流本家の風呂は、学園艦にある大浴場程ではないが、それでも個人の家としては別格の広さで、二人そろって湯船に漬かっても十分にスペースがあった。

 

「ふぅ~。生き返るわ。流石、大流派池田流の本家、風呂も並の広さではないね~。そう思わない、中村?」

 

「辻さん…あまり寛いでいる余裕なんてないよ…。これからどうするの?さっきの師範さんも言っていたけど、私達は招かれざる客よ?家元さんに何て言うか考えているの?」

 

「中村は心配症ね~。もう、ここまで来たらなるようにしかならないわ。当たって砕けろの精神で正面突破あるのみよ!」

 

『やっぱり何も考えていなかったか…』と中村は思ったが、ある意味辻らしいなと感じていた。自分も、ここまで辻に巻き込まれてやってきたが、池田流本家の風呂に入るという貴重な経験も出来た。招かれざる客とは言われたが、こうやって風呂にも入れてもらい、家元と会って話す事も出来る以上、かなり恵まれた招かれざる客だろう。そう考えると辻の言うとおり、事ここに至ってはクヨクヨしても仕方ないだろう。

 

「それにね、中村。私はたぶん、私達がさっき言われたような招かれざる客ではないと思うんだよね。だって、私達の服まで洗濯してくれるわけでしょ?ということは、私達の洗濯物が乾くまではここで時間を過ごすという事だから、それなりの時間を使って会ってくれるんだと思う。『戦車を譲ってくれ』というこちらの希望は最初に伝えているから、その上で話を聞いてくれる以上、こっちの希望が叶うチャンスはあると思うんだよね…。」

 

「う~ん、たしかにそうかも。それにしても、流石は辻さん。こんな時でも冷静だよね…。でもそうだとしたら、なんで私達に戦車を譲ってくれるんだろうね、池田流にとっては何のメリットもないと思うんだけど。」

 

「それが、私もよく分からないんだよね。全国大会の新規参入校を求めているという理由もあるかもしれないけど、それなら別に私達でなくても良い訳だしね。まぁ、もし希望が叶ったらここの家元に話を聞いてみるわ。それとたしか中村が前に言っていたけど、黒森峰女学園を仕切っている西住流は池田流にとってライバルなんだよね?だとしたら、ここの家元に『西住流と黒森峰女学園を戦車道で倒すために戦車が欲しい』と言ったら、戦車譲ってくれないかな…。実際、私も黒森峰女学園の戦車隊に勝って、私を落とした事を後悔させてやりたいし。」

 

「辻さん…それ案外名案かもしれないよ。池田流の知波単学園と西住流の黒森峰女学園は毎年定期戦があるようなライバルだから、西住流を倒すためと言えば、本当に戦車を融通してくれるかも…辻さん、頭いいね。」

 

辻の提案が盛大な薮蛇になる事は、この時点では二人は全く予想していなかった。そして、しばらくの間これから会う池田流の家元が何を考えているのだろうか?という話で二人は話し合ったが、今考えても仕方がないと思い二人揃って風呂から出た。脱衣場には二人分の着替えが用意されていたが、そこに置かれていたのは洋服ではなく和服だった。普段、和服など着た事もない二人は、『これは何かの嫌がらせか』と思いながらも、悪戦苦闘してなんとか着物を自分達の体に巻きつけて脱衣場から出たが、見る者が見れば直ぐに分かるような崩れた着こなしだった。そして風呂に入る前に言われていた部屋に入ると、先程の池田流師範と名乗った女性が待っていたが、二人の姿を見ると大笑いした。

 

「あらあら…貴方達、着物は着た事がないようね。でも家元と会うのに、流石にその着方では問題がありますから、直してあげましょう。二人ともこっちにいらっしゃい。」

 

二人は、美奈子によって和服を再び着せ直されたが、普段慣れていないため、『帯がキツイよ…』などと弱音を吐き、その度に美奈子から『我慢なさい』と言われた。しばらくすると美奈子によって二人とも、それなりに和服を着ることが出来たようで、いよいよ家元に会う準備が整ったようだ。しかし、この段になって師範の美奈子は『家元に会うのは一人だけで、もう一人はここで待つように』と言いはじめた。

 

「中村、私が行って来る。だから、中村はここで待っていて。」

 

「辻さん、大丈夫?」

 

「元々、私が言い出した事だから、私が最後まで頑張るよ。だから、中村はここで待っていて。」

 

「相談は纏まったかしら?別に取って喰われる訳ではないのだから、大丈夫よ。さぁ、それじゃそろそろ行きますよ。家元が待っていますから。」

 

そう言うと、美奈子は辻を連れて部屋を出て行った。しばらく屋敷内の廊下を歩いていくと、ある襖の前で美奈子が止まった。どうやら、この襖の奥が応接間になっているようで、そこに家元が居るのだろう。

 

「家元はこの部屋で待っています。先程も言いましたように、お客様もいらっしゃいますから、くれぐれも失礼のないようにしてくださいね。それでは、ごゆっくり。」

 

そう言うと美奈子は辻を置いて、来た道を引き返していった。辻は美奈子の言った言葉に少しだけ引っかかった。『自分達は昨日の昼頃から本家の正門前に居たが、その間来客があったようには思えない。それに、客がいるのにこれから自分は家元と会うのか?一体どんな客なのだろう。』しかし、今そのような事を考えても仕方ないため、覚悟を決めて室内に居るであろう家元に聞こえるように声を上げた。

 

「失礼します。大洗女子学園の辻です。」

 

辻が襖の前で声を掛けると、中から『お入りなさい』という女性の声が聞こえた。辻は一度深呼吸をすると、襖を開けて室内に入った。

 

 

 

池田流本家 応接間

 

 

襖を開けた辻の目には、二人の老齢の女性が並んで座っており、談笑している様子が飛び込んできた。そして入室してきた辻と二人の目が合うと、談笑していた二人の内、目つきがやさしそうな方が辻を招きながら話しかけてきた。

 

「いらっしゃい、辻さん。私が池田流家元の池田美代子です。あなたのお祖父さんの辻政信さんには、昔本当にお世話になったのよ。残念ながら、私は最後まで辻さんにその恩を返せなかったのだけれど、今日ここにあなたがやってきたのは、天の差配ね…。そこにお座りなさい。」

 

辻は美代子に促されるまま、向かい合うような形で席についた。そして先程の言葉から、何故自分が戦車道の大流派の家元とこうやって話をする事が出来たのか理由を知った。ただ、大流派の家元がこれだけ恩を感じているのに、何故自分は戦車道をこれまでやらせてもらえなかったのか?辻の中で疑問が生じた。

 

「あなたの姿格好は、あなたのお祖父さんと似ても似つきませんが、雰囲気はどことなく似ている物がありますね・・・。それに、全くゼロの状態から戦車道を行いたいと思って、そして実際に行動に移したことを、私は高く評価しているつもりです。ですが、戦車をあなたに渡す前に一つだけ聞かせてください。辻さんは、何を目標にして新設校で戦車道を始めるつもりなのですか?」

 

やっぱり来たか・・・と辻は思った。しかし、この答さえ正解すれば、戦車はたぶん手に入るだろう。先程、風呂で中村と『黒森峰女学園と西住流を池田流はライバル視している』という事は確認済みだ。ならば、この答で正解だろう。

 

「私は、黒森峰女学園の入試に失敗し、今の学園艦に来ました。一期生ですから、全くゼロからの出発です。ですが・・・、私は今の学園艦で必ず一旗挙げて、私を落とした黒森峰女学園を見返してやろうと考えています。ですから・・・戦車道をゼロから立ち上げて、黒森峰女学園が最も得意としている戦車道で勝ってやろうと考えています。たとえ、黒森峰女学園に西住流がついていたとしても、全部粉砕してみせます!」

 

その答を辻が口にした瞬間、先程から黙っていた目つきが鋭そうな老婦人がニヤッと笑った。また美代子は、あらあら・・・といった表情を浮かべている。失敗したか?と辻は一瞬思ったが、特に怒られるような素振りもないため、どうしたものかと沈黙していると、美代子が口を開いた。

 

「なるほど・・・黒森峰女学園を戦車道で負かしたいという事ですか。まぁ、なんといいますか、大それた願いと言えばそれまでなのですが、辻さんらしいのかもしれませんね・・・。ただ、この池田流では知っていると思いますが、帝国陸軍の戦車を使用しています。ですから、うちの戦車で黒森峰女学園に勝とうとしたら、かなり難しいと思いますが、その辺りはどう考えているのですか?決して無理とは言いませんがね。」

 

「えっと・・・西住流からも戦車を手に入れようかと・・・。別に、帝国陸軍以外の戦車が混ざっていても全国大会には出場出来ますよね?でしたら、西住流からも戦車を譲ってもらって、帝国陸軍の戦車と一緒に使って、全く新しい戦車道で黒森峰女学園に勝ってみたいな・・・と」

 

辻の答えを聞いて、美代子は呆れたような表情を見せた。自分達池田流でも、戦車道の形を作るまでにかなりの苦労をした。だから、ゼロから新しい物を作り出す事は物凄く大変だという事を知っている。しかし目の前の少女はいとも簡単に作り出すなどと言っているが、その苦労を知っているのだろうか。また、どうやら様々な国の戦車を混ぜて使おうとしているが、そんな運用方法や設計指針が全く違う戦車が混在した状態で、本当に戦車道が出来るのだろうか?ただ、あの辻の孫がやると言っている以上、本当にやってしまう可能性もあるだろう。だとしたら・・・

 

「なるほど。先は長そうですが、面白いかもしれませんね。まぁ、あなたのお祖父さんには恩義がありましたから、その恩を返すという意味で、今回は辻さんの願いを叶えましょう。後で家にある戦車を見せますから、好きな戦車を何両か持ってお行きなさい。ところで、西住流からも戦車をもらうと言っていましたけど、『黒森峰女学園と西住流を倒したいから戦車をください』と言うつもりですか?」

 

辻は、美代子の言葉に喜んだ。どうやら目的は果たせたようだ。しかし何故か知らないが、美代子は意地悪そうな表情で、更に辻に質問してきた。そして、隣でニヤッと笑っていた目つきの鋭い老女性は、ますますその笑みが深くなっている。さて、どう答えたものか・・・。辻は悩みつつも返答した。

 

「流石に、西住流の家元にそんな事言ったら、戦車譲ってくれないですよね・・・。あっちには、池田流を倒したいから戦車くださいとでも言いましょうかね・・・。でも、意外と正直に倒したいと言った方が、良い気もするのですが・・・。家元さんはどう思いますか?」

 

「そうね・・・どちらが良いでしょうかね。私もよく分かりませんから、本人に直接聞いてみたらどうですか?ねぇ、かほさん?」

 

「えぇ、そうね・・・。たぶん、正直に言った方が良いのではないかしらね・・・。はじめまして、辻さん。西住流家元の西住かほです。よろしくね。楽しそうな悪巧みを相談しているみたいだから、私も参加させてもらえますか?」

 

「・・・」

 

「あら、辻さんどうしたの?黙り込んじゃって・・・。私も悪巧みの相談に参加したいだけなのだけど。」

 

『終わった・・・』と辻は、思った。何故ここに西住流の家元が居るんだ!とも思ったが、考えてみれば、家元と自分が直接話し合っているこの場に立ち会っている客など、それなりの人物しかありえない。

 

「あの・・・その・・・。」

 

「どうしたのかしら?辻さん。さっきの話の続きだけれど、西住流と黒森峰女学園の戦車道を叩き潰すために、西住流からも戦車を融通してもらって、あなたの学園で新しく戦車道を開始するのでしょう?丁度、西住流の家元もここに居ることですから、今お願いしてみたらどうですか?」

 

『全部聞かれてしまっている状態で、こんなお願いなんて出来るわけがない』そう辻も分かっていたが、もうここまで来たらどうにでもなれ、と覚悟を決めて切り出した。

 

「あの・・・先程までのお話を聞いていたので、もう知っていると思いますが。西住流と黒森峰女学園を倒すために、私の大洗女子学園で戦車道を始めたいと思っています。ですから、戦車を少し融通してもらえませんか?」

 

辻の言葉を聞いて、美代子とかほは顔を見合わせると、吹き出すように笑い出した。まさか本当に面と向かって『西住流と黒森峰女学園を倒す』と言うとは思ってもいなかったが、言われたかほも怒りは感じなかった。先程、美代子との会話の中で自分達を倒すために戦車を譲ってくれと辻が言った時もそうだったが、本当にそれ程困難な目標を設定して戦車道を開始するつもりなら、最初の手助けくらいはしても良いだろうとかほは考えていた。しかし、辻の孫娘は戦車道をやっていないはずだ。一体どうするつもりなのだろうか・・・。

 

「フフフ、分かりました、辻さん。私に面と向かって『西住流を倒す』といったその勇気に敬意を評して、西住流からも戦車を用意しましょう。いつの日になるかは分からないけど、あなたの大洗女子学園が、戦車道でうちに勝つ日が来る事を楽しみに待っているわ。ところで辻さんは、戦車道は今回初めてやるみたいだけど、誰か戦車道を知っている人は周りに居るの?戦車の動かし方を覚えるだけでも大変よ。それに、全く新しい戦車道を始めるのなら、今の戦車道を知っている人がいないと難しいと思うわ。」

 

現在の大洗女子学園に実際に戦車道を行っていた生徒はいるのだろうか?中村も、戦車道の情報には詳しいが、実際に参加していないはずだ。操縦のためのマニュアルはあるのかもしれないが、実際に動かしたことがある人間が居た方が早いだろう。しかも、池田流の帝国陸軍の戦車と西住流のドイツ戦車では、動かし方も整備の仕方も全く違う。本当に、大洗女子学園で両方の戦車を扱えるのだろうか・・・かほに指摘されて、辻は考え込んだ。

 

「あらあら、本当に行き当たりばったりでうちに来たのですね。いくら辻さんでも、何もなしで戦車は扱えませんよ。昔なら、私の娘を戦車道の教育のために大洗女子学園に行かせても良かったのでしょうけれど、今は私の代わりに家元としての仕事をかなりやってもらってますから、そうはいかないわね・・・。孫の美紗子達はギャラクシーリーグで転戦しているから、いつもあなたの学園艦に居るという訳にはいかないし・・・困ったわね。」

 

「美代子さん。たしか、あなたの門下生で大学で戦車道の研究をしている方がいましたよね?ほら、この間衝撃検出システムが開発出来そうだと言っていたあの子です。辻さんの学園の戦車で実際にあのシステムの実施試験をするという事にして、あの子に教えてもらってはどうですか?それに、天覧試合でうちに煮え湯を飲ませたあの子の能力なら、私達の流派のやり方にとらわれないで、全く新しい戦車道が出来るのではなくって?」

 

「佳代ですか・・・。たしかに能力はありますし、実際の戦車にあのシステムを搭載しても良いと言えば、引き受けると思いますが・・・。一度、岸さん経由で頼んでみますか・・・。」

 

自分が知らない間に、どんどん話が進んでしまっているな・・・と辻は二人の家元の話を聞いて感じていたが、せっかくいろいろと気にかけてくれているのだから、任せてしまおうと決めた。ただ今回の事を学園長の青山にどうやって説明しようか・・・と辻は悩んでいた。『池田流と西住流から戦車を融通してもらい、西住流と黒森峰女学園を倒す事を目的に新しい戦車道を始める。勿論、地区大会などと言った小規模な試合ではなく、全国大会に出場する。』おそらく、それを聞いたら青山は卒倒するのではないだろうか。そして、いつのまにやら大学に居る研究者がうちの学園艦にやってきて、研究成果の実施試験と戦車道の教育をする事も決まりそうだ。全てを聞かされたら青山は一体どんな顔をするのだろうか・・・。

 

「まぁ、辻さんの学園で佳代が教える件については、佳代の都合も聞いてみないといけないでしょうね。いずれにせよ、うちと西住さんの所から来月にでも何両か戦車を大洗女子学園に渡します。辻さん、何事もそうですが、新しく何かを始めるというのは本当に大変な事です。しかし、あなたのお祖父さんはそれを遣り遂げたのですから、孫のあなたも遣り遂げる事を期待していますよ。」

 

「私も期待して見ていますからね。それと、今回の事で私達に恩を感じる必要はありません。私達も、元はといえば辻さんのお祖父さん達に助けられて今の私達があるのですから。ですが、もし感謝したいというのでしたら、あなたが先程言っていたように、うち(黒森峰女学園)を本当に戦車道で倒してごらんなさい。それが、私達に対する最高の恩返しです。」

 

「はい…分かりました。私が在学中に出来るかどうかは分かりませんが、必ずいつの日か、黒森峰女学園が倒せるだけの戦車道を私の学園で出来るように、これから頑張ります。」

 

辻は、そう言って二人の家元に頭を下げた。その姿を見て二人の家元は、『久しぶりに、本当に楽しい一日になった。これから辻の孫娘がどのように立ち回るのか、見ているだけでも楽しみだ。』と感じていた。

 




この章、当初考えていたよりも話数が増えてしまうような…。辻の孫娘は、使いやすいキャラですし、結構勝手に動いてくれるので書きやすいのですが、その分文章も伸びてしまうわけで…。アニメや漫画ですと、簡単に出来る部分も文章だけで表現するのは、本当に難しいな…と、特に今回のような話し合いの会を書いていると感じます。そういう意味では、アニメや漫画というのは素晴らしい文化だな…と思うんですよね^^;


自分たちを倒すために始めたいと言っている人間に、手助けをするのだろうか…とも思うのですが、ここまで大流派の家元となると自分たちの利益と言うよりは、この競技全体の事を考えて行動するでしょうから、意外と新規参入による活性化を期待して渡すような気がするんですよね…。まして、相手は自分たちの恩人の孫ですから。ということで、ご都合主義ではありますが、トントン拍子で大洗女子学園に戦車を渡すような形にしてみました。

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