学園艦誕生物語   作:ariel

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昨日投稿した第三章の最終話では、どちらかというと学園艦そのものの将来の話を中心に書き上げましたが、やはり第二章と第三章で活躍してきたキャラ個人の将来も多少書いておきたいなと思い、外伝として各キャラのその後について少し書きました。元々、こちらを第三章の最終話にするか昨日投稿したものを最終話にするかは悩んだのですが、結果的には第四章につなげるためには昨日投稿したものの方がいいな…と思い、こちらを外伝にした形です。


池田流と西住流の二人については、当初からプロリーグに進ませる事を決めていたのですが、西さんはどうしようかね…と思い、正直悩みました。ただアニメ本編に少しでも設定を近づけようと思うと、こういう形がいいかな…と考え、このようにしてみました。


外伝5 それぞれの未来

1963年 3月下旬  知波単学園

 

 

「美紗子、春休みだからと言ってダラダラしないで。今日は西住流の家元が細見前学園長に会いに知波単学園に来る日なのだから、しっかりして!それに、なほさんも一緒に来るかもしれないよ。」

 

「分かってるよ、佳代ちゃん。お母様のような事言わないでよ。それが嫌で学園艦に早々に戻ってきたのだから。それに西住流の家元が来るのは午後の予定だから、まだ大丈夫だよ。あと、なほさんは来られないと思うよ。プロリーグに行くからその準備などで大変だと手紙を貰っているから。」

 

「ふ~ん、そうなんだ。」

 

佳代が少し笑ったような感じで美紗子に返答をしたが、美紗子は何も気づかず再び机につっぷすような姿勢に戻った。

 

知波単学園では、最初の卒業式が少し前に行われ現在は春休みの真っ最中。ほとんどの学園の生徒は休みという事で親元に帰郷していた。勿論、美紗子と佳代も実家に戻っていたが、学園艦での生活の方が気楽だという事で、早々に学園艦に逃げ戻りノンビリとしていた。そして今日も、美紗子は佳代を捕まえて知波単学園の食堂の一角を占拠し、ダラダラとした生活を送っていた。

 

卒業式で学園長の細見が健康上の理由から急に退任の意向を示し、集まっていた在校生と卒業生は驚いたが、退任後も知波単学園に残って生活する事とそれまで学園の戦車道顧問を行っていた星野利元が学園長を引き継ぐ事も発表されたため、星野をよく知る美紗子達戦車道を行なっている生徒達は、比較的落ち着いて事実を受け入れる事が出来た。また春休みに入ってからは、退任した細見に挨拶をするために様々な外部からの人間が学園艦にやってきており、今日来る西住流家元の西住かほもそのうちの一人だった。

 

「美紗子、休憩中に邪魔をして本当に申し訳ないのだが…」

 

そんな美紗子の背後から、美紗子のよく知った声が聞こえる。美紗子はその声に反射的に飛び上がると、後ろを見て驚くことになる。

 

「な…なんで、なっちゃんが居るのよ!いつも急過ぎ。来るのなら、ちゃんと連絡くらい入れてよ!佳代ちゃんも、なっちゃんが居る事分かっているなら、意地悪しないでちゃんと言って!あとお祖母様、今日はたまたまノンビリしているだけで、いつもはこんな風には過ごしていませんから…その…。」

 

美紗子が振り向くと、卒業式が終わっているため私服のなほと、なほの祖母で西住流家元のかほ、そして自分の祖母である美代子の三人が居た。

 

「美紗子、あなたがいつもきちんと生活していれば、急なお友達の訪問にも問題なく対応出来るのです。先日実家に帰ってきたかと思えば、すぐに学園艦にとんぼ返り…。私は、あなたにそんな自堕落な生活をさせるために、学園艦にやった訳ではありませんよ。後で美奈子さんから、注意をしてもらいますから、覚悟しておきなさい。」

 

「なほ、美紗子さんに何も言っていなかったのですか?お友達と会うのでしたら、事前に連絡の一つくらい入れるものです。あなたはもう高校を卒業したのですよ?もう少し一般常識を身につけなければいけません。いいですね?」

 

美紗子となほは、それぞれの祖母から苦言を呈され、少し落ち込むような表情をしていたが、やがて二人の祖母は自分達の所要のため席を外したため、二人共ホッとしたような表情を浮かべた。

 

「もう…なっちゃんが連絡くれなかったから、また怒られちゃったじゃないの!この後、お母様からもお説教もらうのは確実だよ…。それにしても、プロリーグに入る準備で今は忙しいと手紙で書いていたと思うけど、もう大丈夫なの?」

 

「悪かったな美紗子。いや、たしかに忙しいのだが、お祖母様が折角の機会だから知波単学園に一緒に来るか?とおっしゃってくれたので、一緒に来ることにしたんだ。これからしばらくは、美紗子と会うことも出来なさそうだからな。まぁ、来年には美紗子もプロに来るのだろう?だとしたらまた戦う事になりそうだな。…あと、そっちの佳代もな。美紗子から聞いていると思うが、プロリーグではお前の好きにはさせないから、覚悟しておけ。」

 

なほは来月から、戦車道プロリーグに所属する事になり、その準備などで本来忙しい時間の合間を縫って知波単学園に来ていた。おそらく来年一年は、美紗子と会う事も難しくなるだろう。そのため今のうちに一言挨拶をしておこうとなほは考えていたのだが、今回の訪問でなほは、思いもよらない事を聞くことになる。

 

「あの、なほさん?申し訳ありませんが、私がなほさんと戦う事はもうありませんよ?私は、プロリーグには行かずに大学に行く予定ですから。」

 

佳代の返答に、なほは勿論のこと美紗子も驚愕した。美紗子は、これまで将来の話を佳代から聞いたことはなかったが、当然佳代もプロになると考えていた。そのため、まさか戦車道を辞め大学への進学を考えていたとは思ってもいなかったためだった。

 

「な…なんだと?勝ち逃げするつもりだったのか?嫌、駄目だ。お前もプロリーグに来て私と再戦しろ!」

 

「ちょ…ちょっと、佳代ちゃん。いきなり何言い出すの?冗談だよね?私と一緒にプロに入って、また助けてくれるのではなかったの?」

 

佳代の言葉を聞いて、美紗子となほは揃って反対の声を上げた。特になほは、自分にとって高校時代唯一の敗北を喫した相手として、そのうち雪辱を果たす事を考えていたため、まさかの佳代の話にかなり焦っていた。

 

「あの…美紗子もなほさんも反対しているけど、私の将来の話だから、私自身で決めます。まぁ、そのうちお金に困ったら『西住なほに唯一負けなかった女』とかいうタイトルで手記でも書けば儲かるかな…と。って冗談ですよ、冗談。だから、あまり睨まないでください。」

 

佳代のつまらない冗談に反応して、なほは佳代を睨みつけていたが、やがて少し落ち着いたのか佳代に前から疑問に思っていた事を質問をした。

 

「ところで、私は佳代とこれまであまり話した事がなかったのだが、一体どういう経緯で池田流に入門する事になったのだ?お前と実際に戦って感じたのだが、どう考えても私達西住流の方が合っていると思うのだが…。それに、プロリーグには進まずに大学に行くと言っているが、あまり戦車道が好きではなかったのか?」

 

「えっと、まず池田流に入門した経緯は、完全に成り行きです。美紗子!少し黙っていて、実際にそうなのだから仕方ないでしょう? 気がついたら、辻さんに連れられて池田流に入門する事になっていたので、特に理由はありません。でも、私は池田流が気に入っていますので、今更西住流には移らないですよ?それと、戦車道自体は大好きです。…だからこそ、私は大学に進むつもりなのですから。」

 

戦車道が好きだから大学に進むという意味が、最初はなほもよく分からなかったが、佳代から更に話を聞いていくと、『今の試合では染色弾や目視の判定が行われているが、将来的にはもっとスマートな方式で撃破判定などが出されるようになるだろう。そのためには、システムの構築や戦車の装甲の素材なども変わっていくことになる。自分はそういう物の研究を行い、結果的に戦車道に貢献したいと考えている』という答えを聞き、自分達よりも更に難しい道に佳代が進もうとしている事を知った。

 

「あ~、もう佳代ちゃんの言っている事は難しくて、私には分からないよ!とりあえず、大学に進みたいという事は分かったし、なっちゃんも納得したみたいだけど。何処の大学に進むつもりなのよ?佳代ちゃんが言った話だと、理系に進むという事だよね?」

 

「まだ具体的な目標はないけど、たぶん旧帝国大学の何処かに進む事になるのかな。それに私がもし旧帝国大学に入学出来れば、今年入学してくる後輩達の中からもそういう道を選ぶ子が出てくるかもしれないから、知波単学園にとってもいい事でしょう?」

 

美紗子は、佳代の目標はあまり理解していなかったが、『旧帝国大学』という言葉だけはよく理解出来て、呆れたように佳代に伝えた。

 

「あのさ、佳代ちゃん。目標は高い方がいいと言うけど、流石に旧帝国大学はやりすぎだと思うよ。それにそんな所に入学しようとしたら、受験の勉強で戦車道は続けられないと思うけど、戦車道はもう辞めるの?」

 

「辞めないよ、美紗子。三年生の全国大会までは戦車道も頑張って、それが終わったら受験に集中するつもり。それに、一杯一杯の状態で入学しても、たぶんついて行けないから、ある程度余裕を持って受験するよ。それで駄目だったら、私には縁がなかったと思って諦める。それに、一応受験に向けて勉強は普段からしているから、なんとかなるよ。」

 

佳代の答えに美紗子は半分呆れつつも、とりあえず佳代の夢は分かったようで、一緒にプロリーグに来ない事については、無理やり自分を納得させた。なほは、そんな二人の様子を面白そうに見ていたが、やがて美紗子に気になっていたことを伝える。

 

「ところで美紗子?今年、知波単学園を卒業した池田流の子は、全員がプロリーグを選択しなかったみたいだが、何故そうなったのだ?うちは、私や真由子が率先して西住流の子を中心に同級生に対してプロリーグへの移動を勧めたから、ほぼ全員がプロになるのだが。そちらは、私が一年目に戦った時の隊長はプロになったが、副隊長の方は結局違う道を選んだようだし、知波単学園…いや、池田流では、あまりプロになる事を勧めなかったのか?」

 

なほの質問に美紗子と佳代は顔を見合わせると少し苦笑した。実際に、元隊長だった村上早紀江はプロになったが、元副隊長だった高橋節子はプロからのスカウトもあったが、結局自衛隊に入隊する道を選んでいた。また、知波単学園を卒業した戦車道選択者の中には、短期大学への進学や、節子と一緒に自衛隊に入隊した生徒もそれなりに居た。当初そういう生徒達に、美紗子はプロになるように説得するつもりだったが、佳代から『自分の道なんだから、自分の好きなように選んでもらった方がいいよ』と言われて、彼女達の好きなようにさせた経緯もある。

 

「まぁ、なっちゃんの所と違って、知波単学園では好きなように進みなさいとしたからね…。もっとも、それの言い出しっぺの佳代ちゃん自身が、他の道を選ぼうとしていた事までは気づかなかったけどね。ところでなっちゃんは、福岡シリウスに入るみたいだけど、副隊長の真由子さんは広島カペラだから、別々なんだね。」

 

「あぁ、真由子とも相談して、プロになったら別々のチームに所属して、発足したばかりのプロリーグを盛り上げようと決めたんだ。それで、これまで黒森峰女学園で小隊を率いてきた小隊長達も二つに分かれて、私と真由子の両方にそれぞれついていく事になった。まぁ、私の場合は最終的に熊本の西住流本家に戻らなくてはならないから、九州に本拠地のある福岡シリウスしか選択肢はなかったわけだが。そっちも、知波単学園の卒業生の多くは名古屋のチームに所属したのだろう?たしか、名古屋スピカだったか?」

 

「うん。やっぱり池田流の本拠地が愛知県だからね。名古屋スピカなら、本拠地から近いからそこに入る事を希望した子が多かったみたい。それで結局、早紀江さんと教祖様が中心になって、みんなを纏めたんだよ。」

 

美紗子の言葉で、知波単学園では比較的自由に卒業生に進路を選ばせた事をなほは知り、そちらの方が良かったのか?とも思ったが、肝心の佳代自身が好きに選ぼうとしている事を知った今となっては、全て佳代が自分のためにそうしたのではないのか?とも勘ぐっていた。また今後プロで戦う事になるが、知波単学園の主要メンバーが集結している名古屋のチームは、相当強力だろうな…と来年度からの事も考えていた。

 

「教祖様?あぁ、練習戦で私の戦車に体当たりしてきた車長だな。入団会見で大騒動を起こしたから私でも分かるぞ。まぁ、あの子と元隊長が一緒という事は、名古屋スピカは初年度から相当強そうだな。流石に、今度は私も負けるつもりはないが。そういえば、他の強豪校の主要メンバー達は色々なチームに分散したみたいだから、どこのチームと戦うにしても面白くなりそうだ。早く美紗子も、プロリーグに上がって来るんだな。」

 

名古屋スピカの入団会見は、知波単学園卒業生の主要メンバーが顔を揃えていたため、テレビ中継まで入った。しかしその生中継の最中に、教祖と呼ばれる少女が延々と九七式中戦車について語りだしてしまったため、途中で中継画面が切り替わったという放送事故があった。なほもその中継を西住流本家で苦笑いしながら見ていたため、『教祖』と呼ばれる少女の事をこれまで以上に認識することとなった。

 

今年度はプロリーグが発足したばかりのため、あまり大規模な試合は出来ないだろうが、徐々に人数が増えていけば、おそらく現在の学園艦単位で戦っている試合よりも更に大規模な試合になるだろう。しかも、強豪校の主要メンバーがかなりバラけているため、力がより拮抗した状態での試合になる可能性が高い。そう考えると一刻も早く美紗子としては学園を卒業して、プロリーグに入りたいという気持ちがより強くなった。

 

「私は、まだ一年間知波単学園での生活が残っているけど、卒業したらまた戦えるね。今度は佳代ちゃんがいない状態でなっちゃんと戦う事になるけど、今度も勝たせてもらうから、一年間楽しみに待っていてね。」

 

「あぁ、先にプロに行って待っている。あと、今年の全国大会と知波単学園との練習試合は、黒森峰女学園を応援しに行くつもりだから、その時にまた会おう。それと、佳代。残念ながらお前と戦う事はもう出来ないのかもしれないが、お前の夢が叶う事を願っている。それと何か困ったことがあったら、美紗子では頼りにならないだろうから、私の所に来い。」

 

「コラ!うちの門下生の引き抜きは禁止!」

 

美紗子となほの言葉を聞いて、佳代は大笑いしてなほと握手した。そして、これまで戦車道を続けてきて本当に良かったと感じ、自分を戦車道に連れてきてくれた辻に心の中で感謝した。

 

二年後、佳代は自らの夢を叶えるため、東北大学工学部に現役で合格する事になる。それは知波単学園が開校して初めての旧帝国大学への進学だった。その後、佳代の偉業に触発された後輩達の中から大学に進学する生徒が急増し、結果的に知波単学園は進学校としての名声も高める事となっていく。また、知波単学園に遅れる訳にはいかないという理由で、ライバル校の黒森峰女学園でも学園長の島田豊作の号令で進学熱が高まる事になる。そしてその動きが、最終的に両校に普通科が誕生し、学園艦の中でも超進学校として、更に多くの入学希望者が殺到する事に繋がった。




そういえば、原作の方は卒業した後の進路などについては、完全にぼかされていましたが、たぶんこんな感じでプロリーグか何かあるのではないですかね…そうでないと、卒業した後の受け入れ先が自衛隊だけでは、ちょっと悲しすぎるわけでして(笑)。

ちなみに、西佳代が進むことになった大学ですが、材料系の研究では昔から日本で一番進んでいる東北大を選択。本当は東工大辺りの方が個人的に書きやすいのですが、色々と事情があり東北大に最終的に決めました。そのうち彼女が、謎カーボン装甲か着弾時の衝撃検出システムの開発でもすることになるのですかね(笑)。そのうち、佳代の大学時代を外伝で書いてみたいな…とも思いますが、これ書き始めますと止まらなくなりそうなので自粛します^^;。今回は、プロリーグのチーム名も含めて完全に趣味全開にしてしまいましたが、外伝ですから許してください^^;

今回も読んでいただきありがとうございました。

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