学園艦誕生物語   作:ariel

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今回の戦いの部分までは、前話の『狂った歯車』で描いた部分と密接に絡んでいるため、その整合性を乱さないように少し注意していました。そのため、実は第41話のかなりの部分まで前話の投稿時に書き上げてありまして、それが理由で今回はいつもより少し短い間隔で投稿する事になりました。ということで、練習戦の第二話『死戦』を投稿します。


第41話 死戦

黒森峰女学園 隊長車 ティーガーI 西住なほ

 

 

「しまった…。あの子に嵌められたか…。」

 

左翼部隊の援護に向かうために、超信地旋回を行なっていたなほは、正面の様々な場所から砲撃によると思われる多数の光が放たれるのを見て、自分達が知波単学園の作戦に嵌められたことを悟った。そしてこの戦い方は、自分がよく知る美紗子によるものではない事を確信し、これを実行した人間が誰なのかという事を正確に理解していた。

 

「黒森峰女学園 ヤークトティーガー 命中 判定撃破。」

「第二小隊小隊長車 ティーガーII 命中 判定撃破」

「第三小隊小隊長車 ティーガーII 命中 判定撃破」

「エレファント 命中 判定撃破」

「ヤークトパンター2号車 命中 判定撃破」

「パンターG型 4号車、5号車 命中 判定撃破」

 

佳代が実施した奇襲による狙撃は、的を違えずに全砲戦車が目標に対して命中弾を叩き込んだ。近距離から弱点である側面や背面を撃たれてしまっては、いくら重装甲のドイツ戦車と言えども撃破判定が出てしまう。そのため、ヤークトティーガーやエレファントといった、正面装甲であれば知波単学園の全ての戦車の主砲弾を弾き返す事が可能な重駆逐戦車も、その真価を発揮する前に撃破されてしまった。また、左翼と右翼部隊の要である第二小隊と第三小隊の小隊長車ティーガーIIも二両とも撃破されてしまったため、左翼と右翼部隊を指揮するはずだった小隊長と共に早々に退場となってしまった。このままでは、知波単学園に一気に崩されると感じたなほは、左翼部隊と右翼部隊をこれまで自分達が育ててきた来年度隊長候補の二人の一年生に委ねる事を決断し、指揮権の委譲を伝達した。

 

「桜井、免許皆伝には少し早いがやむを得ない。残存している第二小隊の指揮を取れ。右翼部隊の指揮は全てお前に任せる。野中、お前は残存している第三小隊を指揮しろ。左翼の指揮を任せる。真由子、第五小隊と一緒に正面に戻ってこい。この攻撃を行なったあの子に落とし前をつけさせてやる。この事態を作り出したのは、間違いなくあの子だ。私は現地点から北に向けて後退するから、お前も直ぐに合流しろ。」

 

「隊長、了解しました。佳代には私達をこれまで騙し続けた落とし前を、きっちりとつけさせてやります!…それにしても、ここまで完全に嵌められると逆に清々しますね。敵ながら天晴れですよ。」

 

なほと真由子は、少ない情報から今回の狙撃が佳代により計画されたもので、ここまで綺麗に狙撃を決められた理由は、自分達が佳代の性格を誤って理解していた…すなわち見事に騙された事を認識し、敵ながら天晴れという思いを二人とも抱いていた。もっとも、やられっぱなしで終わらせるつもりは毛頭なく、この落とし前は必ず練習戦中につけてやると決意した。

 

しかし、知波単学園の戦車を1両も撃破していない内に7両もの戦車を撃破された事は痛恨の出来事であり、この結果黒森峰女学園は苦しい立場に立たされていた。黒森峰女学園の右翼部隊は本来であれば第二小隊小隊長である玉田豊子が指揮しているはずだが、現在は一年生の桜井芳子が臨時に指揮を取る事になり、自らが搭乗するヤークトパンター、そして第一小隊から連れてきたティーガーIと第二小隊の生き残りであるヤークトパンター1両と四号駆逐戦車1両の計4両で知波単学園の高橋節子が率いる第三小隊と対峙していた。

 

また左翼部隊は、こちらも第三小隊小隊長の吉村真美が撃破されてしまったため、同じく一年生の野中美鈴が臨時に指揮を取る事になり、自らのティーガーI、そして第三小隊の生き残りであるヤークトパンター2両と四号駆逐戦車1両の計4両で、こちらは知波単学園の村上早紀江が指揮する第二小隊と睨みあっている。

 

中央部隊はもっとも深刻な状態で、隊長のなほこそ無事だったが、これに第四小隊の生き残りであるパンターG型が1両の2両のみとなっていた。流石にこの戦力で佳代が率いていると思われる部隊と戦うのは厳しいと考えたなほは、左翼部隊に応援に行かせた副隊長の真由子と第五小隊のパンターG型3両を呼び戻し、自車も含めて5両で佳代の部隊と勝負することを決めた。

 

「黒森峰女学園全車へ、こちら隊長。こちらが多少不利にはなったが、まだ負けた訳ではない。この上は、死力を尽くして眼前の相手を撃破して勝機を掴むのみ。これまで我々が三年間に渡って積み上げてきた黒森峰女学園の栄光を、こんな所で失うわけには行かない。全車死力を尽くせ!」

 

 

 

知波単学園 五式砲戦車ホリ 西佳代

 

 

自分が計画した狙撃が完璧に成功した事を確認した佳代はニヤリと笑い、残っている戦力を計算した。現在この場に居る戦車は、知波単学園が15両、これに対して黒森峰女学園は13両だ。しかし重駆逐戦車を撃破したとはいえ、残っている戦車でも自分達より性能は上だ。とはいえ、なんとか数だけはこちらが有利な状態にする事が出来た。黒森峰女学園はおそらく残存戦力の再編成を急いでいるだろう。だとしたらこの機を逃さず一気に勝負に出て、混戦に持ち込み勝機を掴むべきだ。そう考えた佳代は、自分が指揮をしている全車に急いで指示を送った。

 

「第二小隊、第三小隊、それと砲戦車部隊へ、こちら副隊長。天佑を確信し、全車眼前の黒森峰女学園戦車隊に突撃せよ。勝機は我等にあり。戦車隊 前へ!」

 

佳代の指示に従い、正面からは7両の砲戦車がダグイン状態から地上に躍り出ると、前進を開始した。また戦線の左右では、早紀江の第二小隊と節子の第三小隊も、それぞれ眼前の黒森峰女学園の戦車隊に対して一気に距離を詰めるべく前進を開始した。

 

「砲戦車部隊の各車へ。こちらは固定砲塔のため、接近戦は本来不利です。しかし、今は混戦に持ち込むため敢えて突撃します。各車は目標となる戦車を見つけたらその戦車に向けて突撃してください。やるかやられるかです。初弾が外れたら相手に撃破されるでしょうから一撃必殺、体当たりするつもりで突っ込んでください。各車の健闘を祈ります。操縦手、私達の五式砲戦車は後退中のなほさんのティーガーIを狙います。目標2時の方角。距離約800m。突撃!」

 

自分達の正面では、なほのティーガーIと配下のパンターG型の2両が北方に急速後退している。正面をこちらに向けての後退のため、おそらくこの距離では撃破判定を出すのは厳しいだろう。しかし、現在はこちらが7両に対して相手は2両。いずれ増援が合流するだろうが、やるなら今だ、と考えた佳代は指揮下の砲戦車と共に自らも突撃を開始した。

 

 

 

メイン観戦席 貴賓席

 

 

佳代の奇襲が黒森峰女学園の戦車隊に大打撃を与えた瞬間、メイン観戦席では一般席を中心にざわめきが起こっていた。それは、前評判では戦車性能が高くこれまで無敗の黒森峰女学園が若干有利だという予想だったが、この奇襲により一気に知波単学園に流れが傾いたためだった。貴賓席でも同様のざわめきが起こっており、それまで歓談しながら観戦していた政治家達も固唾を呑んで次の動きを見守っていた。

 

「岸、お前は黒森峰女学園が若干有利だと先ほど説明していたが、これで分からなくなったね。」

 

陛下はそう言うと、それまでこの試合を解説していた戦車道連盟会長の岸信介にニヤッと笑った。

 

「はっ、臣の不明をお許しください陛下。たしかに、あの攻撃で知波単学園が有利にたったと思われます。この後どのような展開になるかは、臣も全く分かりかねます。誠に申し訳ありません。」

 

岸は恐縮して陛下に答えた。これまで岸は、お互いにの戦車の性能を考えると、いくら知波単学園が四式中戦車や五式中戦車を装備しているとはいえ、ドイツ戦車を装備する黒森峰女学園に軍配が上がるだろうと考えていた。しかし、今回の奇襲の成功で勝負は全く分からない状態になったことを理解していた。岸が冷や汗をかきながら陛下の相手をしていると、一般席と貴賓席両方から『オーッ』という歓声が沸いた。モニターには知波単学園の戦車隊が姿を現し、一気に勝負を決めようと黒森峰女学園の戦車隊に突撃していく姿が映し出されていた。

 

「岸、あの林から出てきた戦車には全て『ニ七』と描かれているが、あれは何を意味しているのだ?それと正面から出てきた戦車には『↑』が記されているようだが、あれも何か意味があるのか?」

 

「陛下、少々お待ちください。今調べさせますゆえ…」

 

岸は近くに居た戦車道連盟の職員に陛下から尋ねられた事を伝えると、連盟職員は岸に答えを耳打ちした。岸は耳打ちされた答えを話すべきか少し悩んだが、陛下からの御下問に嘘を言うわけにはいかず、返答した。

 

「陛下、お答えすべきか少し悩みましたが、正直にお答えいたします。まず『ニ七』の数字ですが、あれはあの部隊を率いている少女の祖父が所属していた部隊の印のようです。また『↑』についても同様だそうです。」

 

「なるほど…祖父が所属していた部隊の印をつけて戦っているという事か…。それでどこの部隊なのだ?岸、それも分かっているのだろう?」

 

「はっ、『ニ七』は帝国陸軍戦車第27連隊の印でして、この連隊は沖縄防衛戦で全滅しております。現在あそこで戦っている少女はその連隊の連隊長だった者の孫とのことです。また、『↑』は戦車第26連隊の印でして…硫黄島防衛戦で全滅しております。こちらもその連隊の連隊長だった者の孫が指揮しているとのことです。」

 

「そうか…あの防衛戦を戦った者達の子孫か。」

 

そう一言つぶやいた後、陛下はしばらくの間何も言わず黙ってモニターを眺めていたが、やがて何かに気付くと岸に話した。

 

「岸、知波単学園は池田流という流派の戦車道を中心に行なっているとお前は説明していたが、池田流というのはたしか終戦時に占守島で防衛戦を戦った者の流派だそうだな。これに対して黒森峰女学園は西住流が運営しているとのこと。西住流は先の大戦の初戦で活躍した者の流派、そして学園長の島田も先の大戦では開戦時に活躍した者だ。こうして考えてみると、先の大戦で初戦の攻勢時に活躍した者たちの子孫が黒森峰女学園を率いており、終盤の防衛戦を戦った者達の子孫が知波単学園で戦っているということか。偶然かもしれんが、綺麗に別れたものだな。」

 

岸は陛下の発言を聞いて、たしかに攻勢時に活躍した者達と、防衛戦を戦った者達の子孫に綺麗に別れていることに改めて気付いた。そしておそらくは偶然であるが、何か運命的な物があるのかもしれないと考えた。

 

 

 

知波単学園 五式中戦車 村上早紀江

 

 

「第二小隊各車、これより正面の部隊に突撃します。ここから先は自由戦闘としますが、必ず目標と決めた相手を倒すように。数は同じですから、一人一殺出来れば、まだ美紗子様達が残っている分、私達の勝ちです。」

 

早紀江は佳代の奇襲が成功した事にホッとしたのと同時に、自分達に突撃命令が出された事を喜んだ。これまでは囮という役目もあり、ひたすら黒森峰女学園からの攻撃に耐え忍ぶだけだったが、これでようやく攻撃に移れる。しかも、こちらと相手の戦車の数は同じ。性能を考えると若干不利はあるが、最後の最後で互角に近い条件で黒森峰女学園と戦う事が出来る…そういう想いで一杯だった。

 

早紀江は、これまで握り締めていた指揮刀を持つとキューポラから半身を外に出した。そして、二年前に対黒森峰女学園との公式戦初戦で行なったように、皮鞘から指揮刀を引き抜くと、黒森峰女学園の戦車隊が居る方向に向けて指揮刀を振り下ろした。

 

「第二小隊!目標、正面の黒森峰女学園戦車隊。躍進距離…約1200m。戦車隊 前へ! 突撃!」

 

早紀江の指揮に従い、小隊長車である五式中戦車を中心に四式中戦車3両は、横一列の隊形で、美鈴が臨時に指揮を取る黒森峰女学園の左翼部隊に突撃を開始した。黒森峰女学園の戦車隊は距離1000m付近で一斉射撃を行なったが、この砲撃は全て知波単学園の戦車隊に避けられてしまう。

 

「第二小隊。小隊機動はここまでとします。各自散開してください。相手はヤークトパンターや四号駆逐戦車など固定砲搭載車が多いですから、相手の射界になるべく入らないように突撃を続行してください。私の五式は真ん中のティーガーIを相手にしますから、残りを各自お願いします。」

 

早紀江は自分の小隊に最後の指示を出すと、目の前の戦闘に集中した。相手のティーガーIはこちらに正面を向けているため、おそらくかなりの近距離でない限り撃破判定は出せないだろう。しかし、今更側面に回りこむような機動を取る事も出来ない。そう考えた早紀江は、体当たり覚悟で正面から突っ込み、ゼロ距離射撃に近い形で相打ちに持ち込むしかない、と覚悟を決めた。

 

「操縦士、相手の射撃間隔を考えると私達が接近するまで、あと2発程度の砲撃が来るでしょう。一発なら副砲の射撃で牽制できますが、残りの一度は自力で避けなければいけません。頼みますよ。」

 

「了解、小隊長!ここまで来たら、意地でも避けますよ。」

 

しかし、ティーガーIからの次の砲撃は早紀江の方向には飛んでこなかった。

 

「知波単学園、四式中戦車 3号車 命中。 判定撃破。」

 

「ちっ…やりますね。敢えて私の戦車ではなく、撃破しやすい戦車を狙ってくるとは…。しかし、今度はこちらの番ですよ。副砲射撃開始!撃破する必要はありません。牽制で十分です。」

 

早紀江の命令で五式中戦車は副砲をティーガーIに目掛けて射撃する。副砲弾は、狙い通りティーガーIの砲塔部分に命中したが、流石に撃破判定は出なかった。しかし副砲弾が砲塔部分に命中したことで、美鈴が搭乗しているティーガーIの内部では、主砲弾の装填作業に遅延が生じ、これにより砲撃が遅れてしまうことになる。そしてこの遅れは致命的な遅れとなった。

 

「操縦士、どうやら狙い通りティーガーIの砲撃を遅らせたようですね。このまま私が合図するまで突撃。…距離、150m…100m…70m。主砲砲撃、撃て! 操縦士、進路急速変更、左!」

 

距離300mで貫通威力118mmとされている五式中戦車の主砲56口径75mm砲を距離70m付近で使用した以上、ティーガーIの正面装甲が100mmと言えども無事で済むはずがなく、美鈴の搭乗していたティーガーIに撃破判定が出た。

 

「…勝った。帝国陸軍の戦車で正面からティーガーIを…。」

 

早紀江は、ティーガーIに撃破判定が出た事を知ると、全ての体の力が抜けたのかキューポラから崩れ落ちるように車長席にへたり込んだ。しかし戦闘はまだ終わっておらず、次の瞬間、早紀江が搭乗する五式中戦車に物凄い衝撃が左側面から襲う。それは砲撃ではありえないような衝撃であり、早紀江達全員は座席から放り出されることになる。幸いな事に怪我をした者はなかったが、一瞬何が起こったのか分からず全員が放心状態となっていた。

 

「黒森峰女学園 四号駆逐戦車、知波単学園 第二小隊小隊長車 五式中戦車、双方衝突のため戦闘不能。判定は双方撃破。」

 

早紀江が指揮をしていた第二小隊の四式中戦車3両はヤークトパンター2両と四号駆逐戦車1両と激突していた。突撃の過程で四式中戦車1両が、美鈴が搭乗するティーガーIの砲撃により撃破されていたが、残りの四式中戦車2両は、ヤークトパンター2両と相打ちに持ち込む事に成功しており、第二小隊の突撃はほぼ成功していた。そんな状態で、早紀江の五式中戦車がティーガーIを撃破した事を見た四号駆逐戦車の車長は、現在自車が装填中のため直ぐに主砲を撃てない事から、このまま戦闘を継続したら自分達がやられる事は必至だと考えた結果、ティーガーI撃破で隙を見せた五式中戦車の側面に対して正面から激突することで相打ちに持ち込む事を決断した。そして、見事に五式中戦車を道連れにすることに成功した。

 

四号駆逐戦車が最後の意地を見せて早紀江の小隊長車と相打ちに持ち込んだ結果、黒森峰女学園左翼部隊の戦闘は、双方共に残存戦車0の状態で、幕が降りた。

 

 

 

黒森峰女学園 右翼部隊 ヤークトパンター 桜井芳子

 

 

黒森峰女学園の左翼部隊側で知波単学園の第二小隊が突撃を開始した頃、芳子が臨時に指揮をとる右翼側でも、知波単学園の高橋節子が率いる第三小隊が、ニ方面から突入を開始していた。北方からは五式中戦車1両に率いられた四式中戦車が2両、そして南側からはおそらく最初の偵察を行なっていたと思われる四式中戦車が芳子の部隊に向かってくる。

 

「全車、北方から向かってくる3両を先に仕留めます。北方の部隊に向かって突撃してください。Panzer Vor!」

 

芳子は、以前佳代が黒森峰女学園に転校していた頃、佳代を自分の搭乗車に乗せていたため、佳代と練習中に話す機会が多くあった。その中には、このように二つの部隊に挟み込まれた時どのような対応を取るか?という話題もあった。そしてその時佳代が、『部隊を二つに分けて対応する事は下策、停止状態で戦うのも挟まれている以上あまりお勧めできない。どちらかの部隊に全戦力を集中し突撃してしまうのが一番良いと思う』と答えていたことを思い出した。そこで、1両であれば例え背後から撃たれたとしてもそれ程大きな被害にならないと考え、優勢な側に対して突撃を命令した。

 

「第二小隊ヤークトパンター、四号駆逐戦車、前方から突撃してきている四号中式戦車を叩いてください。私のヤークトパンターとティーガーIで五式を相手にします。戦闘は自由戦闘とします。先輩方…黒森峰女学園を勝たせてください。お願いします。」

 

「Jawohl, Fräulein kommander ! (了解! 指揮官どの!)」

 

第二小隊の生き残り、そして第一小隊に所属するティーガーIから、芳子の指示に力強く『了解』の通信が入る。芳子は、方針を決めるだけであとは自由戦闘にした方が良いだろうと決断して命令を出した。自分が率いている戦車は、これまで黒森峰女学園の快進撃を支えてきた三年生が搭乗する戦車、細かく自分が指示を出すよりは個々の判断に任せた方が良い、という判断だった。

 

芳子が率いる4両の戦車は北方からやってくる知波単学園の戦車と正面からぶつかった。そして交差する瞬間、正面から来る四式中戦車を2両撃破する事に成功する。ただ流石に知波単学園の錬度も非常に高く、芳子の部隊も第二小隊のヤークトパンターが1両撃破された。そして、後方の四式中戦車からも主砲を叩き込まれ四号駆逐戦車にも撃破判定が出る。

 

「…残りは、私のヤークトパンターとティーガーIの2両ですか…。ティーガーI、こちら芳子です。そのまま東の方向から弧を描いて南から来ている四式中戦車に対応します。私の戦車について旋回してください。」

 

「Jawohl, Fräulein kommander !」

 

芳子のヤークトパンターは、知波単学園の戦車隊と交差すると、そのまま東の方向に弧を描きながら南に車体を向けた。そして自分の正面に最後の四式中戦車の姿を捉えると砲撃を指示した。

 

「目標、四式中戦車、砲撃開始!」

 

芳子のヤークトパンターとティーガーIの放った主砲弾は狙いを違えず、四式中戦車の車体に吸い込まれていき撃破判定が出る。しかし芳子達が主砲弾を放ち、次弾を装填しようとしていると、先ほど交差した五式中戦車が方向転換に成功し、こちらに向けて砲塔を指向している姿を視認した。

 

「…もう1両、私の戦車かティーガーIのどちらかは撃破されますね。向こうは既に砲塔を指向していますし、こちらの次弾装填は間に合わないです。ティーガーIへ、こちら芳子です。どちらかの戦車は残りますから、残った戦車は必ず相手を撃破しましょう。」

 

「Jawohl, Fräulein kommander !」

 

ティーガーIの車長から芳子に命令受諾の通信が入った瞬間、正面の五式中戦車の主砲が光る。主砲弾はティーガーIの車体に吸い込まれていき、近距離からの射撃のためティーガーIも耐える事は出来ず撃破判定が出てしまった。

 

「砲手、今度はこちらの番です。主砲の装填が完了次第、砲撃してください。必ず撃破するのです。」

 

「了解、芳子さん。必ず当ててみせます。」

 

芳子のヤークトパンターは主砲弾が装填された瞬間砲撃を行なった。近距離であったこともあり、放った主砲弾は狙い通り五式中戦車の正面下部に命中する。

 

「知波単学園、第三小隊小隊長車 五式中戦車 命中。判定撃破!」

 

黒森峰女学園の右翼部隊の死闘は、最終的に桜井芳子のヤークトパンター1両が生き残る結果となった。

 

 

 

黒森峰女学園 隊長車 ティーガーI  西住なほ

 

 

「よし!このまま後退して真由子の部隊と合流するぞ。流石に7両も居る以上、私達の2両では厳しいからな。」

 

「了解しました、隊長。」

 

なほは自分のティーガーIと生き残ったらパンターG型の2両で、正面から迫る佳代の砲戦車部隊から必死の後退を行なっていた。そして後退中に何発か砲撃をされていたが、その都度なほの的確な回避の指示で砲撃を避けていた。なほがキューポラから半身を出し北方を見ると、真由子の部隊と思われる土煙がこちらに近づいてくる様子が確認出来た。

 

「隊長、お待たせしました。これより合流します。」

 

「真由子、よく戻ってきてくれた。これでこちらは5両だ。ただちに反撃に移るぞ。」

 

真由子の3両のパンターG型と合流したことで、なほの部隊はティーガーIが1両、そしてパンターG型が4両となり、佳代の砲戦車部隊と殴り合いが出来る準備が整った。なほは急いで指揮下のパンターを左右に展開させ、横陣を形成するとそのまま前進を開始した。正面から向かってくる佳代の砲戦車部隊はこちらの姿を確認したのか、除々にこれまでこちらと同じ横陣だった陣形が変化しつつあった。

 

「くっ…あの子は、お母様のような嫌らしい指揮をしてくる。まるで西住流同士の戦いのようだ…」

 

佳代の部隊の陣形が変化していく姿を見たなほは、思わずそう呟いていた。現在黒森峰女学園の戦車隊は、中央に自分と真由子の戦車がおり、左翼にパンターが1両、そして右翼にパンターが2両居る。これに対して佳代は、中央の自分達の正面に自身の五式砲戦車と三式砲戦車で凹陣を形成し、左翼のパンター1両に対して1両、そして右翼のパンター2両に対して3両の三式砲戦車が対応する陣形を作っていた。

 

『このままでは、正面と右翼で数の差から押し込まれる危険性がある』と考えたなほだったが、この状態で下手にこちらの陣形を動かせば、それに附け込まれる恐れがあると考え、多少の不利を承知でこのまま戦闘を開始することを決めた。

 

「黒森峰女学園全車、数の不利はあるが、これまでどんな状態からでも我々は最後は必ず勝ってきた。今回もそれは同じだ。眼前の敵を叩き潰せ!Panzer Vor!」

 

なほの合図と共に、黒森峰女学園の戦車隊は一斉に前方に向かって突撃を開始した。中央に居たなほと真由子の戦車は、まずは中央から来る三式砲戦車を叩くべく砲塔を指向させる。そして双方の距離が500m程になった瞬間、急停止して停止射撃を実行した。放たれた主砲弾は狙い通り三式砲戦車を捉え撃破判定を出す。その頃、左右でも砲撃戦が開始されていたが、こちらは中央ほど上手くは進んでいなかった。

 

左翼では1対1の戦いとなっていたが、知波単学園の砲戦車に軍配が上がり、黒森峰女学園のパンターは撃破されていた。そして右翼でも黒森峰女学園のパンターは正面から突撃してくる三式砲戦車を2両撃破していたが、やはりパンターは2両とも撃破されており、こちらも知波単学園の三式砲戦車が1両残っていた。そして左右の生き残った三式砲戦車は、一気に勝負をつけようと考えたのか、なほと真由子が居る正面に旋回しつつあった。この2両を叩くのは今しかないと考えたなほは、真由子に砲撃目標を連絡する。

 

「真由子、左の旋回中の三式を撃て、私は右のを撃つ。」

 

「了解、隊長。」

 

流石に黒森峰女学園の戦車の中では最も錬度が高い二人の戦車は、直ぐに主砲弾の再装填を終えると、お互いに次の行動に直ぐに移った。そして二人の放った主砲弾は、それぞれの目標を正確に捉えた。しかしお互いに主砲弾を撃ち、再装填まで時間がかかる状態になっている時、佳代の五式砲戦車が二人の眼前に現れ、なほの戦車に向けて砲戦車の向きが固定された。

 

「くそっ、流石にあの子は優秀な指揮官だな。自分の指揮下の戦車を全て犠牲にしてでも私の戦車を撃破するタイミングを狙ってきたか。全くどこまでもこちらにとって嫌な事をしてくる。西住流の師範免状でも渡してやりたいくらいだ。…再装填までまだ時間がかかるか。向こうは間違いなく私の戦車の撃破を狙っている以上、もはや打つ手はないな。私もここまでか…。」

 

「隊長、私が盾になります。隊長が無事であれば黒森峰女学園は負けません。後はよろしく頼みます!」

 

「真由子…すまない!」

 

そう通信が入ると、真由子のパンターがなほのティーガーIと佳代の五式砲戦車の間に割り込むように入ってきた。その瞬間、正面の五式砲戦車の主砲が光る。

 

「黒森峰女学園 副隊長車 パンターG型 命中。 判定撃破!」

 

「隊長、主砲再装填完了。いつでも行けます!」

 

「砲手、撃て! Feuer!」

 

「知波単学園 副隊長車 五式砲戦車ホリ 命中。判定撃破!」

 

なほのティーガーIが放った主砲弾は、近距離から正確に五式砲戦車を捉え、佳代の戦車に撃破判定を与えた。こうして中央では、なんとかなほが率いる黒森峰女学園が数で勝る知波単学園に勝利したが、これまで一度しか撃破された事がなかった副隊長の島田真由子まで撃破され、隊長のなほの搭乗車1両のみとなってしまった。

 

「黒森峰女学園全戦車へ、生き残っている者は応答しろ!こちら隊長車。」

 

「…」

 

「…誰もいないのか!」

 

「…隊長、こちら桜井です。右翼部隊の生き残りは私だけです。それと左翼部隊は先程から通信が途絶しています。左翼部隊の最後の通信は四号駆逐戦車からの『これより敵小隊長車に突入し相打ちに持ち込む。Sieg Heil!』でしたから、おそらく双方相打ちになったと思われます」

 

「…そうか。桜井、直ぐにこちらに合流しろ。まだ勝負はついていないし、私がいる限り、黒森峰女学園は負けていない。」

 

「! 了解です、隊長。直ぐに合流します。」

 

なほは桜井のヤークトパンターが残っている事を知り少しだけホッとしたが、知波単学園にはまだ5両の戦車が残っている事を考えると、安心は全くできなかった。知波単学園の今回の参加車編成表を見る限りでは、残っている5両は全て九七式中戦車チハ。おそらくゼロ距離射撃で背面や側面から撃たれない限り、自分のティーガーIに撃破判定は出ないが、それを恐らく承知で九七式中戦車に搭乗しているという事は、それを可能にするだけの錬度と自信があるということだろう。そう考えると、なほはここからの戦いは、これまで自分が経験した事がないような厳しい戦いになるだろうと予想した。




ここから先の展開はここまでの話と一端切れるため、まだ何も書いていなかったりします^^;。ということで、次回の投稿はかなり遅れると思いますが、なんとか日曜日に投稿出来たらな…と考えています(あくまでも希望ですが^^;)。もうここまで来ると、どちらが勝つかは皆さん分かっていると思いますが、結果が分かっていても楽しめるような話になんとかしたいな…と考えていますので、引き続き読んでいただけたらと思います。

今回も読んでいただきありがとうございました。

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