学園艦誕生物語   作:ariel

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最初は第3回全国大会の試合は少し書こうかな…と考えていたのですが、第三章はあくまでも池田流対西住流に絞って書こうと思いなおし、今回の話のように全国大会はあっさりと終わらせる事にしました(といいますか、戦いの様子を書くのはとても苦手という話もありますが^^;)。


第37話 復活

1962年 7月 黒森峰女学園学園艦

 

 

知波単学園の池田美紗子達が黒森峰女学園に転校してあっという間に期限の一週間が過ぎようとしていた。比較的自由な知波単学園での生活に対して、規律を重んじる黒森峰女学園での生活は、特にこれまで自由奔放に生きてきた美紗子にとって少し窮屈な生活だったが、それでも黒森峰女学園の隊長である西住なほとの共同生活は非常に楽しい時間でもあった。

 

「なっちゃんがそんな悩みを持っていたなんて知らなかったよ。私は、これまであまりそういうプレッシャーは感じたことないかな。だって、うちは公式戦では負ける事が前提で戦っているから。」

 

黒森峰女学園での最終日から一日前、最後の練習終了後に部屋に戻った美紗子は、なほから『勝たなければいけないという重圧を最近いつも感じるのだが、美紗子の方はどうだ?』という相談を受けた。これに対して美紗子は少しだけ考えたが、『自分はそういう物は感じない』と返答した。

 

「美紗子、しかし知波単学園も練習戦では負けた事がないだろう?この試合で負けたらその記録が途切れる、と試合中に不安を感じる事はないのか?」

 

「なっちゃんの言いたい事は分かるんだけど、私はないかな。だって、勝敗は時の運だから負ける時は負けるからね。ただ、負けるとしても恥ずかしい戦いは出来ないとは思うから、ある意味それがプレッシャーなのかもしれないけど、これはうちの流派の基本的な考え方でもあるから、本当の意味での重圧とはちょっと違うんだよね。」

 

おそらく自分と同じ状況に居る美紗子なら自分の重圧を分かってもらえると思ったなほだったが、美紗子の答えは自分が想像している物とは全く異なっていた。たしかに知波単学園の場合、九七式中戦車を中心に全車突撃する事が決まっている公式戦では負けがほぼ確定しているが、その分練習戦では負けられないという重圧があると、なほは思っていた。しかし美紗子の答えではそのような物はなく、ただ恥ずかしい負け方は出来ないという考えがあるだけだと言う。

 

「美紗子の池田流では、勝敗は特に拘らないという事は分かるんだが、それでも今まで勝ち続けていた物を失うというのは、やはり悔しい物ではないのか?私は西住流の人間だから特にそう思うのかもしれないが、負けるという事の怖さをこれまでほとんど経験していない分だけ凄く怖いと思うし、それがこの重圧になっている気がするんだ。」

 

「う~ん、たしかになっちゃんが言う通り、負けたくないという気持ちはあるけど、重圧という程ではないかな…。ごめんね、あまり分かってあげられなくて。あっ、でもうちの副隊長の佳代ちゃんは、どちらかというと私よりなっちゃんに近い考え方だから、その気持ちは分かるかも。佳代ちゃんは池田流に入門しているけど、限りなく西住流に近い考え方だから…」

 

「あの子か…。ただ、あの子は今年知波単学園に入学したばかりだから、まだそういう実感はないだろうな。あの子が二年生や三年生であれば、私の気持ちが分かるのかもしれないが、今は無理だろう。美紗子こちらこそ申し訳ないな、こんな話をしてしまって。」

 

なほは池田流と西住流の違いを考えると、美紗子にそのような重圧がほとんど無い事は仕方ない事なのかもしれないと、美紗子との会話を通して理解出来た。勝利をなによりも尊ぶ西住流では負ける事は即ち失敗であったが、池田流では負ける事自体はそれ程重要視されていない。従って、それぞれの家元の孫として育てられてきたなほと美紗子では、勝利に対する考え方が根本的に違うという事になほが気付いたためだった。『この重圧は、自分だけで背負うしかない』という事に改めて気付かされたなほだったが、自分の悩みを口に出して美紗子に相談出来た事で多少は気が晴れたのか、少しだけ軽口を叩いた。

 

「ところで美紗子、ちょっとお願いがあるのだが…」

 

「駄目。渡さないよ。」

 

「まだ、何も言っていないのだが…」

 

「なっちゃんが何を私にお願いしようとしているかは、分かっているよ。絶対に駄目。」

 

なほのお願いに対して、美紗子は言下に否定した。ここ数日、特に黒森峰女学園に来て2,3日が経過してから、なほは美紗子に対して同じ事を何度もお願いしている。そしてその都度、美紗子が却下するという会話がここ数日続いていた。『佳代をこちらに本当に転校させてくれ』それがなほのお願いだった。ここに転校してきてから知波単学園の現副隊長である西佳代の世話は、黒森峰女学園副隊長の島田真由子達が中心に行っていたが、真由子から『あの子はとんでもない能力を持っていますし、本人は西住流に憧れに近い感情を持っています。ですから是非うちに転校させるべきです。そうすれば、うちは後2年間は安泰です。』と報告を受けており、実際に佳代が小隊指揮をしている姿を見て、なほも『是非、うちに欲しい』と思ったことが切っ掛けだった。そしてそれ以来、何度も美紗子にお願いをしているのだが、美紗子の答えは『駄目』の一点張りだった。既に何度もこの繰り返しが行われていたため、この会話は二人の間では半分冗談になっており、いつもであれば二人の言葉遊びに終わった筈だったが、今回のなほは食い下がってきた。

 

「しかし、あの子の戦い方はまさに西住流の姿だ。だとしたら池田流に居るよりも、西住流に移ったほうがあの子にも良いと思うのだがな…。それに、一応本人と直接話くらいさせてくれても…。」

 

「駄目、絶対に駄目。なっちゃんが直接お願いしたら、本当に転校しちゃいそうだから、駄目。」

 

「いや…そんなに否定しなくても。うちを助けると思って…。」

 

「そんな事したら、こっちがボロボロになっちゃうから駄目。」

 

しかし、なほがどんなに頼んでも美紗子の返答は変わらなかった。既に副隊長の真由子が何度か佳代に直接この話をしているのだが、そちらは早紀江や節子の立会いという妨害に合っており、思ったような成果は得られていない。そこでなほが直接佳代に話をしようと考えたわけだが、こちらは美紗子が牽制しており、そのきっかけすら掴めない状態だった。このようにお互いに牽制状態が続いていたため、結果的に佳代はきな臭い話に巻き込まれずに、同級生である野中美鈴や桜井芳子と楽しい黒森峰女学園での生活を送る事が出来ていた。

 

「まぁいい。明日のお別れ会の時に、直接本人に話してみるから。あの子の代わりの人間が知波単学園に必要なら、うちから野中と桜井の二人に熨斗をつけてそちらに渡すから、それで我慢しろ。」

 

「だ~め。明日は私が完全になっちゃんをブロックするよ。だから、佳代ちゃんは渡さないよ。」

 

 

 

翌日 お別れ会

 

 

美紗子達が黒森峰女学園に転校してきていよいよ最後の日がやってきた。黒森峰女学園に在学中、佳代の件で美紗子となほ、そして早紀江や節子と真由子の間で様々な駆け引きが展開されたが、それでも基本的に仲は良いようで、ここまで大きな問題も起きずにこの日を迎える事になった。肝心の佳代は、滞在中に思う存分ドイツ戦車を指揮する事が出来、また西住流の同級生達と様々な話をする事が出来たようで、こちらも最終日を非常に満足して迎える事になった。

 

「今回、美紗子をはじめ知波単学園から4人も私達の所に転校してきてくれて、こちらも本当に勉強になった。これからもお互いに切磋琢磨して戦車道を頑張っていこう。今年の終わりにはうちと知波単学園で練習戦を行うが、その時は是非お互いに良い勝負がしたいと思う。今回は本当にありがとう。」

 

お別れ会の中で、隊長のなほはこのように美紗子達にお別れの挨拶をした。なほの挨拶が終わったと思い、美紗子達も楽しい一週間を送らせてもらった感謝をなほに伝えるべく、壇上のなほに軽く頭を下げたが、なほの挨拶は終わっていなかった。

 

「最後にこの場を借りて、伝えたい事がある。知波単学園の副隊長をしている佳代さんには、是非うちの学園に転校してきてもらいたい。もしこちらに来てくれるのであれば、来年度の黒森峰女学園の隊長を任せたいと考えている。前向きに考えて欲しい。」

 

なほの挨拶が終わった瞬間、黒森峰女学園の生徒から、特に佳代と同級生の黒森峰女学園の一年生からは『ワーッ』という歓迎を示す歓声が響いた。逆に美紗子達には『しまった、お別れ会の時に本人に直接言うとは言っていたが、まさかこのタイミングで仕掛けてきたか』という驚きの表情が浮かぶ。美紗子は思わず隣に座っていた佳代の手を握ると焦ったような顔で『絶対に駄目よ』と佳代に言った。佳代はそんな美紗子に少しだけニヤッと笑うと、席を立ち上がりなほが居る壇上に向かった。佳代の突然の行動に会場には沈黙が広がる。

 

「なほさん、ありがとうございます。私も是非、黒森峰女学園に転校してドイツの戦車を思う存分動かしてみたいと思っていました。」

 

佳代は、壇上に上りなほからマイクを借りると、黒森峰女学園への転校に前向きな発言をした。その発言に美紗子は思わず『ちょ…ちょっと佳代ちゃん、それはないよ。』と叫んだが、佳代はそんな美紗子を見てニヤッと笑うと、言葉を続ける。

 

「しかし、私は美紗子となほさんの間に入り込む程、野暮な人間ではないですし、三角関係は怖いですから、この話を受けることは出来ません。ですからごめんなさい。」

 

その言葉に一瞬、会場全体が静まり返ったが、続いて割れんばかりの爆笑が轟いた。特に黒森峰女学園の副隊長である真由子や、知波単学園から来ている早紀江や節子は、目に涙を浮かべる程の大爆笑をしており、あっという間に会場は緊張感ある雰囲気から『全て冗談だった』という雰囲気に変わった。その様子を見たなほは、佳代の決意が固い事を知り『やっぱりな』と思ったが、ある意味ホッとした表情をした。流石にここで佳代が自分の申し出を受け、本当に黒森峰女学園に転校してくるような事になれば、折角築いてきた美紗子との信頼関係は終わってしまう事が分かっていたためだった。それが分かっているにも関わらず、佳代に対して一度は『西住流に移らないか?』と全員の前で提案をしたのは、なほの佳代に対する高評価の証でもあった。もっとも今回の転校中の佳代は、自分の最も得意とする戦術を封印しての行動であったため、それにも関わらず高評価をされた事は、佳代の能力の高さの証明でもあったが、この時点ではなほ達もそこまでの事情を知らなかった。

 

会場が笑いに包まれたことを確認した佳代は、もう一言言っておいてやろうと思い、更に悪乗りして美紗子に壇上から話しかけた。

 

「ただ私は甘い物に弱いから、なにか賄賂的な物を黒森峰女学園から貰ったら、美紗子を裏切ってなほさんの元に行っちゃうかもしれないけどね…美紗子?」

 

佳代はそう言うと、黒森峰女学園の真由子の方を見て目で合図する。真由子は心得たという表情をすると、佳代に答える。

 

「佳代、もし黒森峰女学園に来るなら、うちの名物Schwarzwälder Kirschtorte(黒森のサクランボ酒ケーキ)を一ヶ月食べ放題ですけど、どうですか?」

 

「う~ん、真由子さん。もう一声欲しいです。」

 

「だったら追加で、Baumkuchen Torteも付けますけど、どうですか?転校してくる気になりました?」

 

隣に居たなほは呆れたような顔をして真由子を見たが、真由子の言葉に真っ先に反応したのは、知波単学園の美紗子だった。

 

「佳代ちゃんは洋菓子なんて好きではないでしょう!もし知波単学園に残るなら、今度関東の方に停泊したら、『とらやの羊羹』奢ってあげるから、知波単学園に残りなさい。」

 

「え~、でも美紗子、向こうは一ヶ月食べ放題だよ?どう考えてもあっちの方が条件いいと思うけど。」

 

「だったら、学園艦の甘味処『桜庵』で一ヶ月間、和菓子食べ放題でどう?」

 

「う~ん、仕方ないな。美紗子それでいいよ。私知波単学園に残るわ。」

 

美紗子と佳代のやり取りに会場は大爆笑となり、特に早紀江や節子は美紗子に対して、『高くつきましたね』と笑っていた。そんな美紗子と佳代の会話を聞いたなほは、『こんな冗談がここで言えるくらい信頼関係がある以上、うちには絶対に来てくれないだろうな』という事が分かり、残念に思うのと同時に美紗子を羨ましいと思った。そんな隊長の様子を見て、副隊長の真由子や一年生の美鈴や芳子が壇上にやってきて、なほを元気付けた。

 

「隊長、結局佳代にはふられてしまいましたね。やっぱり、美紗子との二股は駄目ですよ。隊長は美紗子と佳代のあのような関係を羨ましいと思っているのかもしれませんが、隊長には隊長を信じてついてくる仲間が大勢居るのですから、それで我慢してもらわないと」

 

「そうだな、真由子。あの子にこっちに来てもらう事は叶わなかったが、私にも私を慕ってついてきてくれる仲間が大勢いるのだからな。私も他から見れば幸せな人間なのかもしれないな。」

 

「隊長酷いですよ。先ほど美紗子さんから聞きましたけど、私達二人を佳代さんとのトレード要員に使おうとしていましたね。たしかに私達は佳代さんに比べたら頼りないかもしれませんが、これからしっかり勉強します。それと、私達は最後まで隊長についていきますから、佳代さんが居なくても大丈夫ですよ。」

 

「すまんな美鈴。たしかに美紗子への提案は半分冗談だったが申し訳ないことを言ってしまった。許してくれ。これから一年しっかり教育するから覚悟しろよ。」

 

「隊長、私も美鈴と一緒に佳代さんに負けないように頑張ります。ですから、今度の知波単学園との練習戦では絶対に勝ちましょう。」

 

「芳子、お前もこれからしっかり私を支えて頑張ってくれよ。そして必ず今度の練習戦で勝とう。」

 

真由子、美鈴、そして芳子の言葉になほは改めて頷いた。たしかに自分は勝利という重圧に押しつぶされそうになりながら今年は指揮をとっている。そして一時は自分は孤独な立場だと考えていたが、考えてみれば自分にも自分を最後まで信じてついてきてくれる仲間達が大勢いるわけで、それほど孤独な立場ではないという事に改めて気付いた。そう考えると、これまでの重圧が少しだけ軽くなった気がした。なほは壇上を降りると、再び美紗子の居る席に戻り、少し苦笑いをしながら美紗子に話しかけた。

 

「美紗子、あの子に黒森峰女学園に転校してもらう件については諦める。美紗子は本当に良い仲間に恵まれたな。帰った後にあの子に約束した件で破産しないことを願っているが。」

 

「まったく…。なっちゃんが変な事言うから、私は破産確実だよ。ああ見えても佳代ちゃんは全然遠慮がないから、戻ったら怖いよ。桜庵って、知波単学園でも高級甘味処なんだよ…。ところで、なんか吹っ切れたような顔しているけど…佳代ちゃんに振られてスッキリしたとか?」

 

「いや、そういう訳ではないが…。美紗子もそうだが、私にも私を信じてついて来てくれる仲間が大勢居る事に改めて気付かされた。そう思うと、以前美紗子に相談していた勝利への重圧など取るに足りないと思ったんだ。美紗子、次の練習戦では私達は絶対に負けない。だから覚悟しろよ。」

 

「あ~ぁ、なっちゃんが元気になっちゃたよ。重圧を感じていてくれれば、私達も勝ち易いと思ったんだけどな。でも、私達だって練習戦では絶対に負けないよ。最後の最後でなっちゃん達に敗北の記憶をプレゼントさせてもらうから、覚悟していてよ。」

 

美紗子となほはお互いの言葉にニヤッと笑いあった。どういう経緯でなほが急に元気になったのか美紗子には分からなかったが、自分のライバルが元気になった事には素直に喜んだ。もっとも、その様子を見ていた佳代は、『これで一気に練習戦で黒森峰女学園に勝つ事は難しくなった』事を知り、改めて作戦を練る必要があると考えていた。美紗子となほはお互いに最後は握手をし、その日のお別れ会は終了する事になる。

 

 

 

1962年 8月 上富良野演習場 第3回全国大会 決勝戦

 

 

第3回全国大会は、プラウダ高校の地元である北海道の上富良野演習場で開催された。学園艦に移る前、プラウダ高校が練習のためによく使用していた演習場だったため、今回の大会ではプラウダ高校に地の利があり、その強さがより際立った大会になっていた。プラウダ高校は初戦でアンツィオ高校、そして準決勝は知波単学園との激戦で満身創痍の聖グロリアーナ女学園を圧倒的な強さで降し、決勝戦へ駒を進めていた。決勝戦の対戦相手は、過去2度にわたり決勝戦で敗れている因縁の黒森峰女学園であり、プラウダ高校としても地の利を生かして是が非でも今回は勝ちたい戦いでもあった。

 

しかし、なほが率いる黒森峰女学園も今年は大会三連覇がかかっており、黒森峰女学園の各車は昨年以上に士気が高く、また一年生搭乗員達も含めてなほの指揮を信頼して戦い、着実にプラウダ高校を追い詰めていった。ただ今年は、プラウダ高校も必死の抵抗を行なっており、全体的には黒森峰女学園が有利な状態だったが、プラウダ高校側も黒森峰女学園の戦車の数を少しずつ減らしていた。

 

自校の戦車に思っていたよりも被害が出ていた黒森峰女学園だったが、隊長のなほは『これは必要な犠牲』と割り切っており、特に勝負に対して焦るという状態ではなかった。しかしなほの頭の中では、『高校生活の最後の公式戦である以上、強い勝ち方を見せたい』という感情があり、ここから一気に勝負を決める作戦を行なおうと考え、その指示を各車に伝達した。なほからの命令を伝達された黒森峰女学園の各車は、『Jawohl, Fräulein kommander ! (了解! 指揮官どの!)』と命令受諾を伝える無線を送ってきたが、副隊長の真由子だけは、なほに命令の再考を求めてきた。

 

「隊長車へ、こちら副隊長。このまま戦っていけば、私達の勝利は確実です。この戦況で敢えて勝負に出なくても、安全に戦った方が良いのではないでしょうか?勿論、命令とあれば喜んで前に出ますが、今一度命令を再考してもらえませんか?」

 

「真由子、真由子の言いたい事は私も理解しているし、その正しさも分かっている。たしかにこのまま安全に戦った方が、私達は楽に三連覇する事は出来るだろう。そういう意味では、私が今回出した敢えて勝負に出るという命令は間違っているのかもしれない。だが私は、高校生活最後の公式戦は成り行きに任せて安全に勝つのではなく、自分の意思によって完全に勝ちきりたいのだ。そして私が率いている黒森峰女学園の戦車隊はそれが出来ると私は信じている。すまないが、私の最後の我侭を叶えるために、全力をつくして欲しい。」

 

「Jawohl, Fräulein kommander !」

 

副隊長の真由子は、なほからの通信を聞くや否や、去年の強い隊長が戻ってきたという思いで、命令受諾の無線を送った。今年のこれまでの練習戦では、勝利へのプレッシャーからか、練習戦初戦のサンダース大付属高校戦を除き、かなり安全な勝負をしてきたなほだったが、どうやらそのプレッシャーから解放されたのだな…と真由子は考えた。そして、従来の強気の指揮をするなほが戻ってきた以上、自分達はその指揮に応える為にベストを尽くすのみとの思いを、真由子を含めてその通信を聞いていた黒森峰女学園の各車の搭乗員達は共有した。

 

「黒森峰女学園各車へ、こちら隊長車。これより残存するプラウダ高校の戦車隊に対して、右側面より回りこみつつ突撃を敢行する。勝利は我等にあり!全車、合成硬核徹甲弾装填。Panzer Vor!」

 

なほの指揮の下、残った黒森峰女学園の戦車隊は、残存しているプラウダ高校の戦車隊に突撃を開始する。黒森峰女学園の残存戦車の全ては、隊長のなほと共に開校以来黒森峰女学園を支えてきた現3年生達が搭乗する戦車であり、『常勝無敗』という誇りを誰よりも実感している搭乗員達だった。その搭乗員達にとって、これまで自分達を指揮してきた隊長のなほの最後の我侭を叶える事は当然であり、その士気は非常に高かった。

 

黒森峰女学園の最後の突撃は、必勝の信念をもって決勝戦に挑んできたプラウダ高校の残存戦車隊をあっという間に粉砕し、その強さをまざまざと観戦者達に見せつける事になった。また、特にプラウダ高校の関係者には『黒森峰女学園にはとても勝てない』という思いまで抱かせる結果となる。そしてこの大会以降もしばらくの間、黒森峰女学園は全国大会を連覇し続ける事になるが、そのキッカケとなった初回大会からの三連覇を果たしたなほ達は、その後も強豪として名を残す黒森峰女学園の中でも特別な存在として記録されることになる。

 




やはり12月になって、一気に本業が忙しくなってしまい、これまでのように思うように文章も書けなくなってしまいました。おそらくここから先しばらくは、かなり不定期な更新になると思いますが、見捨てずに最後まで読んでもらえたらと思います。今回も読んでいただきありがとうございました。

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