学園艦誕生物語   作:ariel

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黒森峰女学園との『練習戦』に向けて、新体制に移る知波単学園側のパートです。黒森峰女学園側の体制は前回の終わりに出てきた通り、これまで指揮をしてきた二人がそのまま指揮をとりますが、知波単学園側は新しく入学してきた西をいきなり副隊長にして、新コンビで黒森峰女学園と戦うことになりました。


第33話 知波単学園の思惑

1962年 4月 知波単学園 戦車格納庫

 

「みんな注目。今日から新しい一年生が知波単学園に入学してきて明日は新一年生の歓迎会だけど、みんな一年生の面倒をよく見てあげてね。それと、これまで副隊長として頑張ってきた早紀江さんから、最後の一年間はもう少し自由な立場で楽しみたいという申し出がありました。私としては、引き続き副隊長をお願いしたいところなんだけど、最後の一年くらい早紀江さんに自由にやってもらいたいという気持ちもあるから、これを認めようと思います。早紀江さん、みんなに副隊長として最後に挨拶と、後任の副隊長の指名をお願いね。」

 

知波単学園の入学式が行なわれた日の午後、隊長の池田美紗子は今年から二年生と三年生になった搭乗員達を格納庫に集合させて、明日からやってくる一年生の面倒をお願いした。また、これまで美紗子の右腕として活躍してきた副隊長の村上早紀江の希望を受け入れ、副隊長の辞任を認めた。副隊長としての最後の挨拶と後任の副隊長を指名するように言われた早紀江は、並んでいる搭乗員達の前に立った。

 

「私はここに入学した年は隊長として、そして去年は副隊長として皆さんと一緒に戦車道を楽しんできました。ですが最後の一年だけは、もっと自由な立場で戦車道を楽しみたいと思い、美紗子様に無理を言って今年で副隊長を辞めさせてもらうことにしました。我侭を言って申し訳ないのですが、これまでの事に免じて私の我侭を許してください。勿論、これからも小隊長として頑張りますが、全体を指揮する副隊長には新しい子を指名したいと思います。」

 

そういうと早紀江は、一人の少女を格納庫の入り口から呼び寄せた。その少女の顔を見た、池田流本家から知波単学園に入ってきた搭乗員達は、『やっぱりそうだよね。これで知波単学園の本当の姿になったよね。』と小声で話し始めた。

 

「入学したての一年生に重責を背負わせるのは、ちょっと気が引けますが、私の中では…いえ、池田流本家からこの学園に入ってきた人間はおそらく皆そう思うと思いますが、私は知波単学園の隊長は美紗子様、そして副隊長は佳代さんしか居ないと考えていました。ですから私は、今年入学してきた西佳代さんを後任に指名します。」

 

早紀江に指名された佳代は、美紗子の方を向いて頷くと、並んでいる知波単学園の搭乗員達に挨拶した。

 

「今年から知波単学園に入ってきました西佳代です。これからは私が早紀江さんに代わって美紗子を支えていきます。まだ入学してきたばかりですが、どうぞよろしくお願いします。」

 

入学式で大立ち回りを見せ、既に在校生達の間では話の種になっていた佳代だったが、知波単学園に入ってから戦車道を始めた少女達は、初めて近くで見る佳代の顔を興味しんしんに見た。昨年、知波単学園は公式戦である全国大会でこそ準決勝で敗れたが、練習試合では破竹の勢いを見せており、二回目となるマジノ女学院、聖グロリアーナ女学院、サンダース大付属高校、そして全国大会後に再戦したプラウダ高校を撃破し、負けなしの状態だった。しかし練習試合の際に美紗子の近くに居た搭乗員達は、『ここに佳代ちゃんが居てくれたらな…もっと楽に戦えるのに…』という独り言を何度か聞いており、『佳代』という少女のことを美紗子が心待ちにしている事を知っていた。そのため、この子が隊長が心待ちにしていた子なのかと思い、興味があったからだ。

 

「佳代ちゃん、良かったよ。今年は黒森峰女学園と雌雄を決する年だから、佳代ちゃんが居てくれないと困っていた所だよ。流石に、私や早紀江さんだけだと、なっちゃん相手に勝つのは厳しいからね。そういうことで、これから私をしっかり支えてね。」

 

「私の晴れ舞台をぶち壊しにしてくれた美紗子が、そう言うかな…。大丈夫、分かってる美紗子。これから頑張って美紗子を支えるよ。それにしても、『やっぱり』黒森峰女学園の西住なほさんとは仲が良いんだね。」

 

美紗子と佳代が嬉しそうに話しているのを見た搭乗員たちは、佳代が来てくれたことを誰よりも喜んでいるのは、隊長の美紗子なんだな、ということをよく理解した。そうしているといつもの練習の時間になったのか、師範の池田美奈子と顧問の星野利元が入ってきた。佳代の事を良く知っている美奈子は、入学式を終えたばかりの佳代がもうこの場にいて、既に副隊長となっていることを知り、『入学して早々に、もう佳代をこき使うつもりね。』と美紗子をからかった。そして佳代の方を向くと、早速副隊長としての仕事を佳代に伝えた。

 

「佳代、早速で悪いけど、副隊長としての仕事をお願いします。副隊長として各搭乗員の練習内容を決めてください。ですがあなたはここに来たばかりですから、今日は全員の練習をよく見てください。その上で、今日の練習が終わった後であなたの意見を聞きます。いいですね?」

 

「分かりました、師範。」

 

「おやおや、美奈子さんも厳しくなったようじゃのぉ。まぁ、あの西君のお孫さんなら、それくらいの事は出来るのじゃろうが。」

 

美奈子達の会話を聞いていた、美紗子やそれまで副隊長だった早紀江や節子は、急に副隊長の仕事が増えていないか?と思ったが、その場では何も言わなかった。昨年度までは、翌日の練習内容は反省会の時に、隊長、副隊長、そして師範の美奈子や顧問の星野が話し合って決めていたはずだ。とはいえ三人とも、佳代なら問題なくやれるだろうから、師範がやらせたのだろうな…と軽く考えていたが、その日の反省会での佳代の発言に驚く事になる。

 

その日の練習は、通常よりもかなり早めに終了した。翌日には戦車道を選択する新一年生の歓迎会も予定されており、それらの準備のためでもあったが、佳代の感想を早く聞きたいという隊長の美紗子の意思が大きく働いた結果でもあった。練習終了後、ほとんどの搭乗員達は明日の歓迎会の準備に入ったが、隊長の美紗子と新副隊長の佳代、そしてこれまで副隊長職を務めてきた早紀江と節子の4人は、師範の美奈子の部屋に足を運んだ。美奈子の部屋には既に美奈子と顧問の星野が待っており、訪れた4人に椅子を勧めた。美奈子が椅子を勧めてきた事から、どうやら今日の検討会は長引きそうだ…と佳代を除く3人は考えた。

 

「佳代。知波単学園の練習を初めて見てどうでしたか?池田流本家の練習とは少し違うと思いますが、これからの練習についてあなたは何か意見がありますか?」

 

「師範。私の考えを言う前に一つ確認したいのですが、今年の知波単学園の目標は、練習試合で黒森峰女学園に勝つ事と考えれば良いですか?それとも全国大会で勝ち上がる事が目標でしょうか?」

 

美奈子の言葉に、逆に佳代が質問した。ところが美奈子がそれに答える前に、隊長である美紗子が間髪入れずに佳代に答えた。

 

「佳代ちゃん、目標は黒森峰女学園に勝つ事。知波単学園は、今までのところ練習試合では一度も負けていないの。全国大会で二連覇している黒森峰女学園と、練習試合では負けなしの知波単学園が練習試合で戦ったらどちらが勝つのか?たぶん気になっている人は多いと思う。だから…」

 

「美紗子、確実に黒森峰女学園に勝つ方法はあるけど、たぶん美紗子も師範も絶対に認めてくれないと思うよ。一応聞く?」

 

美紗子の答えに対して、佳代は黒森峰女学園に確実に勝つ方法があると言った。しかもその方法は絶対に自分達が認めない方法だという。そこまで佳代が言う以上、おそらくかなり汚い手だとは思うが、美紗子は少しだけ気になって、佳代に頷く。

 

「実は簡単な方法だけどね。どんな理由でもいいけど、今年の練習試合を回避してしまって、来年に引き伸ばすという方法。そうすれば黒森峰女学園の方は、要のなほさんは卒業して居ないから。なほさんが指揮しない黒森峰女学園であれば、美紗子と私が指揮する知波単学園の本気なら普通にやれば勝てるよ。どう?」

 

「それは絶対に駄目!黒森峰女学園には勝ちたいけど、私はそれ以上になっちゃんに勝ちたいの。だから、なっちゃんが卒業した後の黒森峰女学園に勝っても何も意味はないの!」

 

美紗子の答えを聞いて、佳代はやっぱりそうだろうな、と思った。自分で提案はしたが、美紗子は絶対にそんな方法を認めないことくらいは、付き合いの長い佳代はよく分かっていた。

 

「西君のお孫さんは、面白い考え方をするのぉ、美奈子さんや。一応池田流で彼女も学んできていると思うのじゃが、池田流の思想とは少し違うようじゃのぉ。いや、それが悪いと言っている訳ではなく、面白いものだと思ってるだけじゃが。ただ、たしかに勝つだけならもっとも効率が良い方法ではあるがのぉ。」

 

「星野閣下、池田流でも勝ちに行く時はありますよ。そういう時に佳代の力は絶対に必要です。でもね佳代、今回はなほさんの居る黒森峰女学園に勝たなければ意味はないのです。それを踏まえた上で、先の質問をもう一度します。これからの練習について、何か意見はありますか?」

 

師範の美奈子は、佳代に目標を示した上で再び同じ質問をした。佳代は少しだけ考えていたが、やがて美奈子に返答した。

 

「師範。私はこれまで黒森峰女学園と知波単学園の試合は練習試合も含めて基本的に全て見てきました。おそらくうちと黒森峰女学園が戦うとなると、鍵となるのはうちの砲戦車の運用です。少なくとも7両程砲戦車を使う事になると思うので、それに対応可能な搭乗員、特に砲手の練習が必要です。」

 

「砲戦車ですか…。あなたがどのような作戦を考えているのかは、私は分かりませんが、少なくとも7両分の砲戦車の乗員が必要ということですね?分かりました。あなたを信じましょう。美紗子、直ぐに7両分…いえ、6両分の砲戦車の乗員を選んでください。最後の1両は佳代が本家に居た頃から一緒だった子に搭乗してもらいましょう。佳代、他にありますか?」

 

師範の美奈子は、佳代の考えている事の全ては分からなかったが、池田流本家に居た頃から、こういう時の佳代の能力はよく理解していたため、佳代の思うようにやらせてみせようと思い、美紗子に佳代の言うとおりの準備を指示した。

 

「師範、急ぎで必要なことはそれだけです。私はまだ新しく戦車道を始めた子達の全員の能力は分かっていないので、今の段階ではこれだけしかありません。それと出来れば池田流から来た子以外の子も、黒森峰女学園と戦う前に試合に出られるように搭乗員の割り振りをお願いします。黒森峰女学園戦は総力戦ですから、池田流から来た子達だけで戦うわけにはいきません。」

 

「佳代、それは少しずつ見ていけばいいですよ。砲戦車の部隊はたぶんあなたが直接指揮する事を考えていると思うので、美紗子が選んだ搭乗員を早い段階であなたにつけますから、しっかり訓練をしてください。それと、池田流以外の子を搭乗員として選ぶ事については、私も同感です。」

 

佳代が、池田流以外の搭乗員も黒森峰女学園との戦いまでに、出来るだけ試合に参加させようとしていることの意味は、師範の美奈子はよく理解していた。最近は新しく戦車道を始めた搭乗員達の腕も上がってきてはいるものの、それでも池田流から来た搭乗員と比べると未だ未熟なため、試合に出られる子はほとんど居ない。しかし、ある程度は彼女達を試合に出場させなければ、早晩彼女達はやる気をなくして、戦車道を辞めてしまうだろう。ただ、もっとも重要だと考えている黒森峰女学園戦で彼女達のうちの何人かが実際に出場することになれば、彼女達は自分達の出番がまだあるかもしれないと思い、より練習に励む事になるだろうし、今年入ってきた後輩達にもチャンスがある事を見せることが出来る。そのためには、本番前までにある程度経験を積ませる必要がある。自分が考えている以上に、佳代が知波単学園の実情を知っている事に師範の美奈子は少し驚いていた。

 

「佳代ちゃん、これでなっちゃん達に勝てるかな?隊長の私がこんな事を言っていたら駄目なのかもしれないけど、厳しい戦いになるだろうな…と私は思っているんだよね。」

 

美紗子は、なほの指揮能力を全国大会などで見て知っているため、厳しい戦いになるだろうな…と思い、佳代にその旨を伝えたのだが、佳代から戻ってきたのは意外な問いかけだった。

 

「美紗子がそんな事言っていたら駄目でしょう!ところで美紗子?なほさんが負ける時って、黒森峰女学園がどのような状態になっている時か分かる?」

 

佳代の質問に美紗子もそうだったが、一緒に居た早紀江や節子も顔を見合わせた。三人ともなほの凄さを分かっており、彼女が勝った所しか見た事がないため、負ける所など想像が出来なかったからだ。そんな様子を師範の美奈子と顧問の星野は面白そうに見ていた。一体、佳代はどんな解答を持っているのか二人も気になったからだ。

 

「いい美紗子?なほさんの凄さは、大部隊を指揮している時にその真価が出るの。ある意味、私と同類だと思う。逆に小部隊での戦いは、たぶん美紗子の方が指揮は上手いと思うよ。なほさんは優秀な指揮官でもあるのだけど、本質的には単独で戦える戦車乗りなの。だから、小部隊の指揮になると自分が率先して戦闘に参加してしまうから、小部隊の時の指揮はそれ程上手くないと思う。実際に二年前の決勝戦も、小隊を指揮していた時のなほさんはそれ程傑出した指揮をしていないから、間違いないと思う。だからなほさんが負ける時というのは、黒森峰女学園の戦車の数が減ってなほさんの本来の能力が発揮出来なくなったり、本人が直接戦闘に介入してくる時。それと完全に混戦状態になって戦闘がなほさんやその他の黒森峰女学園の小隊長達のコントロールから外れた時、この二つのパターンにしない限り、私達に勝ちはないの。」

 

「う…うん。でもそんな状態にするのが難しいことだよね?それともその状態にする自信があるの?佳代ちゃん。」

 

佳代の答えを聞いて、美紗子は反対こそしなかったが、賛成もこの時点では出来なかった。例え佳代の言っている事が正しくても、あの黒森峰女学園をそんな状態にする事の難しさを美紗子はよく分かっていたためだ。美奈子や星野は、佳代がここまで黒森峰女学園の事を冷静に見ていたことに驚いたが、やはり美紗子が考えているように、その状態にする事は難しいだろうと考えていた。

 

「そう、その状態にするのは難しいのだけど、そのための砲戦車なの。私の考えは、早紀江さんと節子さんにそれぞれ中戦車を率いてもらって囮になってもらい、その囮を使って砲戦車で一気に狙撃する事を考えているの。つまり、早紀江さん達が全滅するまでに、どこまで砲戦車で黒森峰女学園の戦車を減らせるかが勝負の鍵になると思う。」

 

「ちょ…ちょっと待って佳代ちゃん。早紀江さん達を全滅前提の囮にするつもりなの?」

 

「そうよ美紗子。あの黒森峰女学園が相手でしかも隊長はなほさんよ?『犠牲なくして大きな勝利は得られない』から、勝ちたいのなら美紗子も覚悟を決めて。」

 

佳代の言葉を聞いて、師範の美奈子は『この子はいつから西住流に入門したのだろうか』と思ったが、佳代がそこまで覚悟を決めて黒森峰女学園と戦う準備をしていた事に気づいたため、何も言わなかった。そして、おそらく同じことを考えたのであろう美紗子は佳代に『分かったよ』と短く告げた。

 

「佳代さん、私達は佳代さんが狙撃を行なうための囮をやればいいのね?分かったわ、出来るだけ長く生き残れるように練習するから、任せて。」

 

「囮でも何でもやってやるさ。なほさん達に勝てるなら、犠牲になっても私は構わないぞ。ところで私達は何両ずつ率いる事になるんだ?」

 

早紀江と節子は、知波単学園でのおそらく最後の試合になるだろう黒森峰女学園戦で勝てるのであれば、囮の役目でも何でも喜んでやるつもりだった。自分達は池田流に居た頃から佳代の作戦立案能力は知っている。彼女が立てた作戦で駄目ならば、おそらく今の知波単学園でなほに勝てる人間は誰も居ないだろうと考えていたため、その作戦で必要な犠牲なら自分達がそれを引き受けようと思ったようだ。

 

「二人には、それぞれ3両ずつ率いてもらう事になるから、二人を入れて8両ね。ただし、今回は三式戦車以上の戦車で編成してね。」

 

「ん?ということは、私は4両率いるの?誰を選ぼうかな…。」

 

「美沙子の部隊内の戦車は統一しておきたいから、美紗子が率いるのは全部九七式中戦車になるよ。それと、美紗子の小隊が戦闘に参加する時は、私も早紀江さんも節子さんも誰も残っていないよ。美紗子は私達が打ち損じた敵と最後の勝負をするのが役目。私達の頑張り次第で美紗子の負担は減るけど、美紗子達が一番大変な役になると思う。だから美紗子の部隊だけは、一番の精鋭で固めないと駄目。本家に居た頃の美紗子小隊の3両と、あとは気が乗らないと思うけど教祖様を編入するしかないと思う。」

 

「教祖様?」

 

なんとなく誰の事を言っているかは予想がついた美紗子だったが、一応は佳代に疑問を投げかけた。早紀江と節子は、今日の入学式が始まる前に、正門付近で佳代に『教祖様』と呼ばれた少女が何をやらかしたか知っているため、『あ~、やっぱりあの子の事だよね…』と目で会話をしていた。

 

「あの問題児達よ!美紗子、あの子達を甘やかしすぎ!今日、あの子達が入学式の前に何をやったか知らないの?今日私達が正門から学園に入ったら、あの子達が九七式中戦車を勝手に校庭に持ち出していて、新入生相手に布教活動をしていたの!『あなたも戦車道に参加して、チハ様を崇めれば必ずあなたは幸せな学園生活を送れます。さぁ、私達と一緒にチハ様を可愛がりましょう!チハちゃん、ばんざ~い』って大騒ぎしていたから、新入生達も完全に引いていたよ。これで戦車道への参加が減ってしまったら、どうするつもりなの?」

 

「…ご、ごめん、佳代ちゃん。私が悪かったわ。あとであの子達を呼び出して注意しておくから。本当にごめん。佳代ちゃんの周りの新入生だけでいいから、誤解を解いておいて。」

 

美紗子は頭を抱えて佳代に謝罪した。美奈子と星野は苦笑いしていたが、流石に戦車道への入部希望者が減ってしまっては問題になるため、美紗子とは別に自分達も一言注意しておこうと考えたようだ。またなんとなくだが、美奈子や星野も佳代が考えている事が理解でき、面白そうな作戦だな…と思っていた。もっとも美奈子は『限りなく西住流に近い作戦だ』と考えていたが、最初に今年の知波単学園の最大の目標は黒森峰女学園に勝つ事だと美紗子が明言してしまっているため、今更勝つ事だけに拘っていないと言う訳にもいかず、佳代の作戦を黙認することにした。

 

「あっ、ところで佳代ちゃん。実は、今年の7月に黒森峰女学園に短期間だけど転校するつもりなんだけど、ついて来る?なんか佳代ちゃんが黒森峰女学園に転校したら、そのまま戻ってこない気がして、ちょっと怖いんだけど…ハハハ」

 

「美紗子?それ、本当に冗談で言ってる?たしかに黒森峰女学園の戦い方や西住流の考え方には興味もあるし、憧れもあるけど、私は池田流の人間よ。大丈夫だから、ちゃんと連れて行ってね。それになほさんとも話してみたいしね。あと美紗子との関係も確認しておかないと。私、毎月早紀江さん達から会報誌送ってもらってるから、美紗子となほさんの関係は知ってるからね!」

 

「か…佳代さん、それ美紗子様には秘密…」

 

「早紀江さん、節子さん、貴方達まだやっていたの!佳代ちゃん、そんなの信じたら駄目よ。佳代ちゃんも黒森峰女学園に連れて行くから、なっちゃんからちゃんと確認して。」

 

美紗子は、顔を真っ赤にして否定していたが、佳代は『本当に違うのかな…会報誌は写真も掲載されてるから、真実のような気がするんだけどな…』と考えていた。この会話を、何の事か知らない師範の美奈子と顧問の星野は、不思議そうな顔をして4人を見る。そして、いずれにせよ7月には、ここに居る4人全員を黒森峰女学園に転校させる事になりそうだな…と思っていた。

 

「それと佳代さん、来月はマジノ女学院と交流戦もありますから、そこでの挨拶も考えて置いてくださいね。こういう仕事は、美紗子様は全く頼りにならないですから、副隊長の佳代さんにお願いします。一応私達の代からの付き合いですから、よろしくお願いしますね。」

 

「早紀江さん、知波単学園って結構色々な学校との交流があるんですね、全然知らなかったですよ。早紀江さんの代からということは一年目からの付き合いなんですね。分かりました、関係を壊さないようにがんばります。」

 

佳代は、まだ入学式を終えたばかりなのに、一気にやる事が増えたな…と感じたが、早紀江や美紗子が苦労してここまで築きあげた他校との関係を、上手に続けていく事が自分の役割だと思い、これから頑張っていこうと考えた。こうして知波単学園の三年目は、隊長が池田美紗子、そして副隊長が西佳代という陣容で始まった。




西さんは池田流には所属しているのですが、どう考えても考え方は西住流だったりしますw。ですから、一番上に美紗子が居る間は問題ないのですが、美紗子が卒業して彼女が3年生になったらたぶん知波単学園は大変な事になるような…。副隊長として優秀でも、一番トップには向かない人というのは、どこの世界にも居るわけでして…。西佳代は、完全にそんな感じの子として書いています。ただこのタイプの人は、一番上がしっかりしていると、物凄い力を発揮したりするんですよね^^;

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