学園艦誕生物語   作:ariel

40 / 85
黒森峰女学園から西住なほと島田真由子の二人が知波単学園に転校してきました。今回は、様々な誤解を生みつつ、西住なほと池田美紗子が親友になっていく過程のエピソードになっています。


第30話 誤解

1961年 7月 知波単学園学園艦

 

 

西住なほと島田真由子が知波単学園に転校してきて、あっという間に六日間が経過した。その間なほと真由子は、学園艦での生活、そして知波単学園での戦車道を満喫していた。転校してきた当初は、隊長の池田美紗子や副隊長の村上早紀江、そして前副隊長の高橋節子など、限られた生徒しかなほ達と接点を持たなかったが、その後なほ達の方からその他の搭乗員達に戦車道のアドバイスなどをした結果、最後の数日はなほ達の周りから知波単学園の生徒がいなくなる時がなかった。また、美紗子に誘われ九七式に毎日のように乗せてもらったなほと真由子は、そのお礼という事で、知波単学園の生徒に対して黒森峰女学園で行なわれている集団戦闘の訓練を教えることになった。

 

当初、黒森峰女学園の訓練を教える事に真由子は反対していたが、なほは『私達は今は知波単学園の生徒だし、美紗子に借りは作りたくない』の一言で、なほに賛成し自分も率先して教える事になった。また、それを教えてもらう側の美紗子の方も、最初は、『本当にこんな事教えてくれていいの?』となほに尋ねた所、なほは笑って『まるで、私が始めて知波単学園の戦車に乗せてもらった時のようだな。』と返した。その返事を聞いて美紗子は、何も口には出さずに頷くと、なほ達に黒森峰女学園の訓練のやり方を教えてもらうことを決めた。

 

「美紗子様、何故なほさん達に黒森峰女学園のやり方を教えてもらう事にしたのですか?私達の今の戦い方は黒森峰女学園とはだいぶ違いますし、違うやり方を教えてもらっても混乱するだけではないですか?」

 

「早紀江さん、それはちょっと違うよ。やれないのとやれるけどやらないのは、雲泥の差があるし、私達知波単学園も練習戦では本気で戦う以上、色々な選択肢があった方がいいの。それに、今は私達の錬度はとても高いけど、これからもずっとこんな高い錬度が続くとは思えないから、こういう戦い方も知っておいた方がいいと思う。」

 

美紗子の返事を聞いて早紀江は、『美紗子様は、ずっと先の事まで考えて今回の決断をしたんだな。だとしたら私自身も率先して学ぼう。』と感じ、なほの教えてくれた練習方法を必死に学ぶ事になる。

 

また、なほと真由子は転校初日こそ同部屋で生活をしていたが、連日のように美紗子がなほの元を夜に訪れ、夜更けまで居座って話しこむため、真由子は早紀江と節子の部屋に避難する事になる。当初真由子は、なほと美紗子が夜の遅い時間までお互いに真剣に意見を戦わせている姿を微笑ましく見ていたのだが、いつまでたっても美紗子が帰らず、結局は外が明るくなるまで付き合う事になり、翌日の学園生活をボロボロの状態で送ることになった。そして翌日も美紗子がなほの元に押しかけてきた時点で、練習中に仲良くなった早紀江と節子の部屋に荷物を纏めて逃亡した。

 

しかし楽しい時間が過ぎるのは早く、なほと真由子が知波単学園で生活する最後の日は直ぐにやってきた。美紗子は、初日に星詠み風呂で話していたように、最後の知波単学園での夕食が終わり、外も真っ暗になった時間に、なほと真由子を第三甲板にある月詠み風呂に誘った。

 

「知波単学園に二人が来た最初の日に言ったけど、今日は最後の日だからみんなで月詠み風呂に行こうよ。今日は満月だし、月詠み風呂は綺麗だよ。なっちゃんもまーちゃんも準備できてる?」

 

「美紗子、悪いけど私は早紀江と節子と一緒に、もう一回星詠み風呂に行こうと思っているのよ。だから申し訳ないんだけど、隊長と二人で月詠み風呂に行ってもらえるかな?」

 

ところが真由子は美紗子の提案を断り、早紀江や節子と一緒に星詠み風呂に行く事を告げた。これには美紗子も驚いたが、最後の夜くらいは好きに過ごしてもらおうと考え、早紀江と節子に真由子の面倒を頼み、自分はなほと共に第三甲板に降りて行った。

 

「さて…お二人さん?それでは私達も月詠み風呂に行くよ。こんな楽しそうなチャンスを逃す訳には行かないだろう。」

 

「そうそう、美紗子様となほさんの関係をちゃんと確認しないとね。あの二人、この一週間ずっと部屋も一緒だったんでしょう?真由子さん。さしずめ、美紗子様が押しかけ女房みたいなものでしょうけど。」

 

「私が途中で二人の部屋に避難してからは、美紗子は隊長の部屋で生活していたみたいですから、たぶんあの二人はずっと一緒だった筈です。二人とも、私達は星詠み風呂に行っていると思っている筈ですから、二人の本当の姿が見られそうです…これは楽しみでもありますが怖いものもありますね。」

 

美紗子となほの姿が見えなくなったのと同時に、真由子、早紀江、節子は二人の後を追って、第三甲板の月詠み風呂に向かった。三人とも、美紗子となほがここ数日、ずっと同じ部屋で過ごしていた事を知っており、三人の中ではお互いの隊長の同性愛疑惑が出ていたため、それを確認するために今回の騒ぎとなったようだ。3人が月詠み風呂に到着し浴場に入ると、既に時計は夜の11時を回っており、普段は込み合っている月詠み風呂も流石に閑散としていた。しかし、注意深く浴場を見渡してもなほと美紗子の姿を見つける事は出来なかった。

 

「あれ?隊長と美紗子がいませんね。月詠み風呂にいないとなると、何処にいったのでしょう?」

 

「おかしいな…どこに…あっ!そういえば、月詠み風呂には隠し湯があったはずだろ、早紀江。そこじゃないのか?」

 

「あ~、そういえば、あの岩の裏側でしょう?あの裏側にたしか小さなお風呂があったよね。たぶんあそこよ。」

 

月詠み風呂の女湯は複雑な形状をした露天風呂になっており、大浴場の内部が岩によって細かく分かれていた。そして、知波単学園の生徒達が『隠し湯』と呼んでいる場所は、そのような細かく分かれた風呂の一つで、大岩によって完全に大浴場部分から分離されており、誰かに邪魔をされず静かに風呂を楽しみたい時などに使用する格好の穴場として知られていた。おそらく二人はそこに居るだろうと考えた三人は、気づかれないようにそっと大岩の傍に移動した。そうすると、考えていたとおり美紗子となほは隠し湯に居るようで、二人の声が聞こえてきた。

 

「最後の日だから、折角みんなで楽しもうと思ったのに、みんな星詠み風呂の方に行っちゃたね、なっちゃん。」

 

「いや、私は美紗子が居るならそれでいいぞ。元々、今回知波単学園には美紗子に会うために来た訳だからな。それに美紗子とは長い間一緒にいて、お互いに思う所も伝え合う事が出来た。本当に楽しい時間だったな…。」

 

「そうだね、私も毎晩凄く楽しかったよ、なっちゃん。たぶん、私となっちゃんは水と油、私達の戦車道は絶対に交わる事はないと思う。でも正反対の場所に居るけど、戦車道を大事に思っているのは一緒なんだよね。」

 

「そうだな、美紗子。だが私は、それでもいいと思っている。お互いに正反対の場所に居るが、思っている事は一緒だと分かっているんだ。私は安心して、自分が行く事が出来ない反対側を美紗子に任せる事が出来る。」

 

美紗子となほはこの一週間、毎晩のように遅い時間まで二人で話に花を咲かせていた。普段の生活やお互いの学園での話については二人で多いに盛り上がったが、戦車道に対する考え方はお互いに尽くぶつかり合い、時には激論になった。それでもお互いに戦車道を大切に考えている事は分かっていたため、それで気まずい仲になるような事はなかった。『前に進む戦車道』と『伝統を守る戦車道』、お互いの考えは水と油。しかし、美紗子もなほも不思議と相手の考えている事はよく理解出来る様で、最後はお互いに違う方向に向かって頑張っていくことで、戦車道を盛り上げていこうという結論に落ち着いた。

 

「たしか私達のお祖母様やお母様達も、私達と同じように考え方は正反対でも、お互いに信頼して協力しているようだし、私達も同じように最後まで一緒にやっていこう。美紗子も、そのうち池田流を継ぐのだろう?私も西住流を継ぐ事になると思うが、家元となる私達が協力している限り、戦車道は大丈夫だと思う。」

 

「そうだね、なっちゃん。私将来家元になっても、なっちゃんと今回の一週間に話した事は忘れないと思うよ。だから、最後まで一緒だよ。まぁ、途中でお母様達に勘当でもされたら、無理かもしれないけど…ハハハ」

 

「美紗子が勘当されたら、その時は西住流に来ればいい。私が美紗子くらいなら面倒を見てやる。」

 

「なっちゃん、それ冗談に聞こえないよ…ハハハ。」

 

その頃、二人の会話を大岩の裏側で盗み聞きしていた三人は、お互いにヒソヒソと会話をしながら聞き耳を立てていた。

 

「隊長…それ直球過ぎます。私も全く冗談に聞こえないです…」

 

「なぁ、真由子さんよ。やっぱり、なほさんはそうなんでないか?うちの美紗子様も、『最後まで一緒だよ』なんて言ってるから、疑惑は更に深まっているが…」

 

「…やっぱり二人はそんな関係だったんですね。これは大ニュースですよ。うちにも黒森峰女学園にとっても。」

 

まさか大岩の裏側でそんな会話がなされている事には気づいてない美紗子となほは、今日がお互いに話し合える最後の日だと考え、思っている事を話し続けていた。その都度、大岩の裏側ではヒソヒソ話が続いていたが。

 

「あ~ぁ、これでなっちゃんと呼べるのも最後か…これからはせいぜい、なほさんと呼ぶくらいかな…それとも西住さんがいい?」

 

「ん?美紗子どうしてだ?私はなっちゃんで構わないが。」

 

「私が構うのよ。流石に私達はこれからライバルとして戦っていく事になるわけだから、あまり気軽に呼んでいると、お互いの学園の搭乗員達がどんな風に考えるか分からないよ?とりあえず私はなほさんと呼ぶよ。なっちゃんは、私の事は美紗子でいいと思うけどね。私の方が年下だから。」

 

「そ…そうだな。なかなかお互いに思うようにはいかないな。だが、私達二人だけの時は、これまで通りに呼んで欲しいな。私をそんな風に呼んでくれるのは、美紗子しかいないのだから。」

 

なほの知波単学園滞在の期間が終わると、なほと美紗子はライバル関係に逆戻りする事を二人とも分かっていた。西住流と池田流の家元の孫娘として、二人の対決は戦車道発展のために必要であり、これは避けられない。そうなると、もはや気軽に話す事も出来なくなる。立場的に仕方ない事は二人とも理解していたが、それでも親友と呼べる間柄になった二人にとっては、厳しい現実だった。

 

「今日はまだ問題ないからなっちゃんと呼ぶけど、なっちゃんが黒森峰女学園に帰っちゃうと私も寂しくなるな。ここでの一週間忘れないでね。」

 

「分かってる、美紗子。私もここでの一週間はとても楽しかった。絶対に忘れることはない。そうだ、私達の学園艦が完成したら、美紗子も一度黒森峰女学園に転校して来るといい。今回のお礼だと言えば、お母様達も納得するだろう。」

 

「そうだね…来年、うちと黒森峰女学園は練習試合をする事になってるから、その前にでも考えてみるよ。その時は、また一緒に遊ぼうね。」

 

なほは黒森峰女学園の学園艦が完成し自分がそこに移ったら、一度美紗子を招待しようと考えていた。美紗子も、違う学園艦を一度見てみたいとは考えていたようで、なほの提案は渡りに船だった。なほの言うとおり、今回の返礼ということで黒森峰女学園側から美紗子達を招待してくれれば、おそらく自分の母親達も反対はしないだろう。

 

「あっ、お月様が丁度私達の間に入ってきたよ。海の上の学園って本当にいいでしょう?空も綺麗だからこんな素敵な事も体験できるし。…なっちゃん、これでしばらくお別れだね…やっぱり寂しいよ…。」

 

なほは知波単学園に居た間美紗子に、初めて気楽に話せる友達が出来たとよく言っていたが、それは美紗子にとっても佳代の存在を除けば同じだった。美紗子の周りには早紀江や節子達もいるが、二人とも自分の事を美紗子様と呼び、遠慮がある。そういう意味では、美紗子にとってもなほは、佳代以外で初めて普通に話せる友人だった。そんな友人と明日は離れなくてはならないと考えると、美紗子も急に寂しく感じたのか、少し目に涙を浮かべてなほにくっついた。

 

「美紗子…私もこれからしばらく寂しくなるな。でも会おうと思えばいつでも会えるのだから、なにも泣くことはないだろう。学園艦が何処かに停泊している時なら電話でも話せるのだから。」

 

そう言うと、なほは美紗子を抱きしめ、美紗子の髪を撫でてやった。

 

(真由子、乗り出しすぎだぞ。こら早紀江、あんまり押すな。これ以上押されたら体が…)

 

(隊長が…隊長が…隊長が…やっぱりそうだったんだ…)

 

(ちょっと節子、私だけ見られないじゃない、もう少し前に行ってよ!あっ…)

 

その瞬間、なほと美紗子が居る風呂と大浴場を隔てていた大岩の横から、なほも美紗子もよく知った三人が転がり込むように隠し湯に突っ込んできた。

 

「なっ…、お前たち何でここに居る?真由子!一体これはどういうことだ!」

 

急に目の前に出現した三人を前に、なほと美紗子は直ぐに離れると、転がり込んできた三人を睨みつける。

 

「い…いえ隊長、なんでもありません。ただ、星詠みの風呂ではなくて、急に月詠みに風呂に行ってみたいな、と考え直したのでここに居るだけで、決して隊長と美紗子の会話を盗み聞きしようなんて、これっぽちも思っていませんでしたよ。そうよね?節子さん、早紀江さん。」

 

「そ…その通りだ。私達も決して二人の恋路を邪魔しようなんて思ってなかったさ、ただ、ちょっと風呂に入っていたら美紗子様となほさんの会話が聞こえてきたんで、気になって覗いて…ではなくて、心配になって…その…」

 

「美紗子様、私は二人に騙されて着いてきただけです。それに、決して二人が抱き合ってる所を覗こうなんて、私は思っていませんでした。だから私は許してください。」

 

「なっ、早紀江さん!」

 

「早紀江!裏切るな!」

 

三人の言い訳を聞けば、何が目的でここに三人が居るのか、美紗子もなほも直ぐに分かった。またその後早紀江が全て白状したことで、ほぼ最初から聞き耳を立てていた事も分かり、自分達が話してきた内容を思い返せば思い返すほど、誤解を招くのに十分な会話内容だった事を思い出し、美紗子もなほも顔が真っ赤になった。

 

「美紗子、真由子への罰は黒森峰女学園に戻ったら必ず私が行う。だから美紗子も、そちらの二人への罰を頼むぞ。真由子!戻ったら必ず反省してもらうから、覚悟しておけよ。」

 

「早紀江さん、節子さん、貴女たちも分かっているわね。私達はそんな関係ではなくて、ただの親友よ。まったく、どうしてそんな風に考えたのだか…。いずれにせよ、来週二人ともしっかり反省してもらうからね!」

 

三人は直ちにその場で正座をさせられ一通り美紗子となほから説教をされたが、二人が風呂で抱き合っていた姿を直接目撃した三人は、内心では『折角の機会に邪魔をされたから二人とも怒っているだけだろう』と考え、全く反省していなかった。こうして、なほと真由子の知波単学園での最後の夜は、大いなる誤解が生じたまま幕を閉じた。

 

 

 

翌日 知波単学園学園艦 最上甲板

 

 

翌日、いよいよなほと真由子が黒森峰女学園に帰る時間となり、最上甲板のヘリポートには、二人を運ぶためのヘリコプターが既に待機していた。戦車道の練習の際、なほ達は多くの生徒にアドバイスなどをしていたため、二人との別れには多くの知波単学園の生徒達が集まり、二人に最後のお別れをしていた。勿論その場には、隊長である美紗子や、副隊長の早紀江と前副隊長の節子の姿もあったが、早紀江と節子の首からは大きなプラカードが下げられており、そのプラカードには『私は女風呂を覗き見した悪い女です』と書かれていた。また、これから黒森峰女学園に戻る真由子の首にも同じプラカードがかけられており、集まった知波単学園の生徒達は、昨夜一体何があったのだろうか?と様々な想像を働かせていた。

 

「なっちゃん、いよいよお別れね。これ、知波単学園に居た思い出として持って行って。それと私も来年黒森峰女学園に一度転校するから、その時はよろしくね。あと、全国大会お互いに頑張ろうね。それと…」

 

「美紗子…もう何も言うな。美紗子の気持ちは十分に分かっている。それと、パンツァージャケットありがとう。私にとってはいい思い出の品になりそうだ。来年、美紗子達がうちに来たら歓迎する。今回は本当に世話になったな、また会おう。」

 

美紗子は、なほが知波単学園に居た時に使っていたパンツァージャケットを手渡した。なほも嬉しそうにそれを受け取り、美紗子に別れを告げた。そして、最後に美紗子を軽く抱き寄せて耳元で囁く。

 

「美紗子、私にとって美紗子は、初めて気楽に話す事が出来た友達だ。本当にありがとう。」

 

「なっちゃん、私はもう一人友達が居るんだけど、全く同じ立場の友達が出来たのは初めて。私も本当に嬉しかったよ。今度、その子もなっちゃんに紹介するから。それじゃ、またね…」

 

なほと美紗子は短く会話をするとお互いに離れ、なほ達はヘリコプターに乗り込む。その時、知波単学園の学園艦から大きな汽笛の音が鳴り響いた。それと同時に二人を乗せたヘリコプターは最上甲板を離陸する。美紗子を含め知波単学園の生徒達はヘリコプターの姿が水平線上に消えるまで手を振り続けていた。こうして、知波単学園初となる転校生騒動は終わった。

 

 

 

1961年8月 戦車道全国大会

 

 

「プラウダ高校、全車戦闘不能。よって黒森峰女学園の優勝!」

 

第二回全国大会は再び決勝戦で黒森峰女学園とプラウダ高校があたったが、今回は大差で黒森峰女学園が勝利し、大会二連覇を果たした。

 

「やっぱり、なっちゃんの所強いよね。いきなり二連覇だよ。うちも今回は一回戦勝ったけど、やっぱり絶対的な力が足りないよね。早紀江さん、節子さん。」

 

「美紗子様、ですが私達も今回は準決勝でプラウダ高校相手にかなり良い勝負をしましたよ。結局うちは負けてしまいましたが、観戦席はお祭り騒ぎでしたし、なほさんからも『やっぱり知波単学園は強いな』と電話をもらったではないですか。」

 

「うちがあそこまでソ連の戦車相手に戦えるなんて誰も考えていなかっただろうし、あそこまでやれれば私は満足だよ。練習試合で強い戦車が使えるようになったら、プラウダ高校には勝てると思うんだけどな。」

 

第二回全国大会、知波単学園はポーランドが後押しするマズルカ高校相手に見事初戦を制し、準決勝に駒を進めた。そして準決勝ではプラウダ高校を相手に、あわやという所まで善戦した。最後は地力で圧倒的に勝るプラウダ高校に敗れはしたものの、プラウダ高校の20両の戦車のうち13両を撃破しての敗戦だったため、知波単学園の精強さを全国に示すことには成功した。そして準決勝でこれだけの大ダメージを受けたプラウダ高校は、結局決勝戦までに被害を回復する事は出来ず、結果的に知波単学園は黒森峰女学園の二連覇を大きく助ける事となった。

 

また準決勝の最終局面で、最後に残った美紗子率いる『士』と書かれた九七式中戦車2両が、10両程残っていたプラウダ高校の戦車隊に正面から果敢に突撃し見事に3両の戦車を撃破した姿は、その後何度も放送され戦車道の人気を更に高める事に貢献する。美紗子達がそんな話をしていると、黒森峰女学園の制服を着たなほと真由子がやってきた。試合が全て終わり、お互いの学園に帰る前にここで会おうと決めていたため、撤収の忙しい時間の合間を縫ってこうやって美紗子達に会いに来たのだ。

 

「なほさん、二連覇おめでとう。やっぱり黒森峰女学園は強いよね。今回はお互いに戦えなかったけど、来年の練習試合では私達も負けないよ。」

 

「美紗子、今はなっちゃんでいい。美紗子達も準決勝で凄かったじゃないか。ソ連の戦車相手にまさかあそこまで戦えるなんて、誰も考えていなかったからな。私も美紗子達の最後の突撃には驚いたよ。あそこから三両も更に撃破するとは、流石は知波単学園だな。来年の練習試合、美紗子達の本気と戦えると思うと、不安もあるが私達も楽しみだよ。」

 

美紗子となほは嬉しそうに抱き合うと、お互いの全国大会での健闘を称えあった。二人は少し離れた場所で真由子と早紀江、そして節子がこちらをチラチラ見ながら、何か封筒をやりとりしているのを見たが、おそらく二人が知波単学園に来ていた頃の写真でもやりとりしているのだろうと思い、特に気には留めずに久しぶりの再会を喜んだ。

 

「知波単学園から黒森峰女学園に戻った後、真由子にはしっかり反省させたし誤解は解けたと思うから、あの事について美紗子はもう何も心配しなくていい。美紗子の方もちゃんとあの二人に説教はしたか?」

 

「大丈夫。こっちもちゃんとあの二人に説教して反省させたから大丈夫だと思う。ただね…最近、何故か知らないのだけど、うちの搭乗員達が私を見る目が変なんだよね。練習の時は問題ないのだけど、普段の生活で何か避けられているというか、遠巻きに見られている気がするんだよね…なっちゃんはそんなことない?」

 

「私は元々練習が終わったら真由子と一緒か一人で居る事が多いからな。ん?そういえば私も少し変な事がある。何故か知らないのだが、黒森峰女学園の隊員達から『知波単学園の隊長さんって可愛い子ですね。隊長頑張ってください』と時々言われるんだ。その時は知波単学園と戦う時は頑張れと言われていると思っていたのだが…考えてみると少し変だな。今年は知波単学園との試合はないのだから。」

 

「…なっちゃん。たぶんだけど、私達の疑問の答えはあそこに居てこっちの様子を伺ってる3人が良く知ってそうなんだけど…そう思わない?」

 

なほよりは勘が良い美紗子は、嫌な予感がして、急いでなほを連れてこちらを伺っている3人の元に行くと、早紀江と真由子が持っている封筒を渡すように言った。

 

「3人とも動かないで。早紀江さん、手に持っている封筒ちょっと見せてくれるかな?別に問題ないよね?」

 

「美紗子様、こ…これは、お二人が知波単学園に来ていたときの写真で、あの時はまだ現像出来てなかったので、今日こうやって渡そうと…」

 

「真由子、お前は知波単学園に行った時にはカメラなど持って居なかった筈だな。だから、お前が手渡そうとしている封筒には何が入っているんだ?」

 

「こ…これは、早紀江さんと節子さんにうちの学園の風景を見せようと思って…それで」

 

早紀江と真由子がしどろもどろになりながら返答をしている事に、美紗子もなほもますます怪しいと感じ、ついに実力行使に出た。お互いに自分の所の副隊長から封筒を奪い中身を確認すると、中から出てきた物を見てお互いに絶句することになる。

 

「早紀江さん、節子さん、何これ!なんで、こんな写真があるのよ!これって、私となっちゃんが最終日に最上甲板でお別れした時に抱き合っていた写真だよね!?誰が撮影してたの?それに、この手紙にある『美紗子様となほ様の関係を温かく見守る会・黒森峰女学園支部の皆様へ。お二人は最終日にお別れする最後の瞬間まで抱き合っていました。』って何よ!」

 

「真由子!なんだこの写真は!私が知波単学園からもらったパンツァージャケットを見て思い出に浸っている姿なんて、どこで撮影したんだ。しかもこの手紙は何だ!『なほ様と美紗子様の関係を温かく見守る会・知波単学園支部の皆様へ。うちの隊長は、美紗子様のことを思い出しているのか、最近は知波単学園でもらってきたパンツァージャケットを見ながら、ため息ばかりついています。』だと!私はそんな事はしていないぞ!」

 

その後三人は、なほと美紗子から散々に説教をくらい、写真は全て取り上げられ、お互いの学校に存在すると思われる変な会を解散させるように言われた。なほも美紗子も写真を取り上げた事で一安心だと思ったようだが、ネガが存在すればいくらでも写真は焼き増す事が出来る事を二人が知るのは、もう少し後のことになる。




あまりこのようなタイプの文章をこれまで書いたことがなかったため、書くのに非常に苦労しましたw。とはいえ、三章に入る前に西住なほや池田美紗子の人物像を何かのエピソードに絡めて書きたいなと思っていたため、なんとなくお互いの雰囲気が書けたかな…と著者は考えています(伝えられたかどうか、非常に不安なのですが^^;)。これ系のエピソードは、ある意味王道なのかもしれませんが、王道であるがゆえに人物像の紹介には効果があるのかな…と書いていて少し思いました。ちなみに池田美紗子と西住なほの二人ですが、池田美紗子の方が多少マシとは言え、二人とも基本的には世間知らずなお嬢様です。

幕間はいよいよ次回が最後になります。その後は第三章として、幕間で親友になった二人の直接対決に移したいと考えています。また第三章で、今回の返礼として池田美紗子は黒森峰女学園に一度転校することになると思いますが、学園艦間の転校って簡単に出来るのですかね…(入学試験はないのだろうかw)。本編では、黒森峰から大洗に西住みほが転校していますが、実は黒森峰女学園は超進学校で、他の学園艦にはほぼ無条件で転校出来ることになっていたりしてw。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。