学園艦誕生物語   作:ariel

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西住なほと島田真由子の知波単学園生活初日です。幕間は、この話も含めて残り3か4話で終了させたいと考えています。あまり長くなってしまうと、幕間ではなくなってしまいますから^^;


第29話 意気投合

1961年 7月 知波単学園学園艦 戦車格納庫前

 

 

「はい、みんな集合。今日から一週間だけだけど、一緒に戦車道をやる仲間が転校してきたから紹介するね。まずこっちが西住なほさん、それでそっちが島田真由子さん。みんな仲良くしてあげてね。それと、誰かうちの戦車搭乗員用の服持ってきてあげて。一週間たったら黒森峰女学園に帰っちゃうけど、今はうちの生徒だから。あ、なっちゃんもまーちゃんも自己紹介よろしく。」

 

放課後、同じクラスで知波単学園の副隊長である村上早紀江と前副隊長の高橋節子に連れられて、西住なほと島田真由子は知波単学園の戦車格納庫前にやってきた。そこには既に、隊長の池田美紗子をはじめとして知波単学園の戦車搭乗員達が集まっており、あっという間に美紗子によって自分達が全員に紹介された。

 

「は…はじめまして。私は黒森峰女学園から一週間だけ知波単学園に転校することになった西住なほだ。短い間だが、よろしくお願いする。」

 

「皆知っているとは思うけど、なっちゃんは黒森峰女学園の隊長さんね。短い間だけど、折角うちに来てくれたんだから、戦車道についてみんな色々聞いてみるといいと思うよ。あと、気軽になっちゃんと呼んであげてね。」

 

美紗子の言葉を聞いた知波単学園の搭乗員達は『絶対に無理』と心の中で思っていた。西住なほと言えば、泣く子も黙る黒森峰女学園の隊長であり、西住流の家元の孫娘。知波単学園に入学してから戦車道を始めることになった少女達ですらその名前を知っている。そんな子を、『なっちゃん』と気軽に呼べと言われてもそんな事は出来ない。

 

「私は、島田真由子ね。真由子と呼んでくださいね。私も隊長と同じで、黒森峰女学園から一週間だけ知波単学園でお世話になる事になりました。みなさん、よろしくお願いしますね。」

 

「…まーちゃんに先手を打たれたか。ということで、まーちゃんは黒森峰女学園の副隊長さん。みんな、色々とお願いするかもしれないけど、よろしくね。」

 

二人の自己紹介が終わった頃、二人分の知波単学園のパンツァージャケットを持った少女がやってきて、二人にジャケットを手渡した。なほも真由子も、黒森峰女学園のパンツァージャケットを着ていたが、美紗子は知波単学園の物に着替えるように言う。美紗子が言うには、例え短期間であっても、今は知波単学園の生徒なのだからこちらを着るべきだということで、これにはなほも真由子も黙って従った。二人が知波単学園のパンツァージャケットに着替えると、美紗子は早速戦車に乗ろうと言い出した。

 

「なっちゃんは、私のチハに通信手として搭乗してね。そしてまーちゃんは…折角だからチハ5号車に同じように通信手として搭乗してもらおうかな。どうせなら、去年自分を撃破したチハに乗ってみるのも悪くないでしょ?」

 

「昨年の全国大会で私を撃破した戦車ね。それは是非乗せてもらいたいわ。実際にどんな車長に撃破されたのか、私も気になっていたからね。ありがとう美紗子」

 

美紗子は、自分の戦車になほを乗せ、真由子は例の問題児達の戦車に乗せる事にした。美紗子は、真由子が搭乗予定のチハに向かう前に一応、『かなり変わった車長だから、気をつけてね』とアドバイスをしていたが、真由子はよく分かっていないようで『あぁ』と曖昧に答えただけだった。

 

「美紗子の九七式に乗せてもらえるのは嬉しいのだが、本当にいいのか?私は黒森峰女学園に戻ったら美紗子の敵になるんだぞ。手の内を見せるのはあまりお奨め出来ないと思うのだが。」

 

なほは、美紗子があっさりと自分の戦車に搭乗させてくれる事に逆に戸惑っていた。自分が搭乗することで美紗子の搭乗車の錬度などは直ぐに分かる。本来は敵同士である自分にそんなものを簡単に見せて良いのだろうか、となほは考えていた。

 

「なっちゃん、遠慮は無用。私達の錬度を見たからといって、それでどうこうされるものではないし、戦車の能力はなっちゃんの所の方が圧倒的に上なんだから、今更私達は気にしていないわ。それに…なっちゃんは、今はうちの生徒の一人なんだよ。気にしないで乗って乗って。」

 

なほの心配も他所に、美紗子は改めてなほを自分の戦車に誘った。なほもそこまで美紗子が誘ってくれるのであれば、折角のこの機会に知波単学園の錬度というものを体験してみようと思い、美紗子に誘われて隊長車に乗り込む。

 

「美紗子、九七式というのはこんなに狭い戦車なんだな。私は黒森峰ではティーガーIに搭乗しているが、こんなに狭い戦車は初めてだ。去年、知波単学園と公式戦で戦った時、九七式は素晴らしい機動を見せていたが、こんな狭い中であれだけの機動をしていたとは知らなかった。凄いものだな。」

 

なほは、搭乗した九七式中戦車のあまりにも狭い内部に驚く。これまでなほはティーガーIばかりに搭乗してきたため、これほど狭い車内というのは初めての経験だった。そんななほに、美紗子は少し笑いながら答える。

 

「まぁ、なっちゃんの乗っていた戦車に比べると小さいと思うけど、私は昔からずっとこれだからこの大きさに慣れていて、逆にこれより広いと戸惑うよ。さ、それじゃ早速だけど、まーちゃんの搭乗している5号車と模擬戦するよ。なっちゃんは今日はお客さんだから、通信席でよく見ててね。あとかなり激しい機動になると思うから、しっかり掴まっていた方がいいよ。」

 

そう言うと、美紗子は訓練場に向けて九七式を進めるように操縦手に指示を出した。

 

 

 

練習終了後

 

 

「はいちょっと早いけど、今日の練習はこれで終わり。お疲れ様でした。今日は師範も本家に戻っていて反省会はないから、久しぶりに皆で『星詠み風呂』に行って汗を流してから食堂に行きましょう。とりあえず寮に荷物を置いて30分後にここに集合。それじゃ、解散~。」

 

「お疲れ様でした~。」

 

知波単学園の練習はきっかり17:30には終了する。通常であれば、隊長の美紗子や副隊長の早紀江などの主要メンバーは、その後に師範の美奈子や顧問の星野と共に翌日の練習の相談や反省会があるが、幸いな事に今日は二人とも池田流本家に出張中であり、練習終了と同時に自由になっていた。実際には美奈子も星野も、折角なほが知波単学園に来ているため、少しでも長い時間を美紗子達がなほと共に楽しめるように配慮していたのだが、そんな事は思いもせず、美紗子達は自由を満喫しようとしていた。

 

知波単学園の学園艦には、最上甲板の後方に『星詠み風呂』そして第三甲板の前方に『月詠み風呂』と名付けられた大露天風呂が二つ用意されており、夜は満天の星空を楽しみながら風呂に入れるということで、知波単学園の生徒だけに限らず学園艦の住民にも好評だった。通常であれば、反省会などで夕食の時間ぎりぎりまで拘束されるため、美紗子達はこの大浴場を楽しめるのは休日だけなのだが、今日は時間に余裕があるため、なほ達と共にみんなで汗を流そうと考えたようだ。

 

なほと真由子は与えられた寮の部屋に戻り、風呂の準備をするのと平行して、今日の訓練で目の当たりにした知波単学園の実力について話をしていた。

 

「隊長の方はどうでしたか?私は初めて知波単学園の戦車に搭乗させてもらったのですが、まさかここまで凄い物だとは考えていませんでした。車長の性格はかなり変わっていたのですが、あれだけの練度を持っているのであれば、昨年私が撃破されたのも納得出来ます。」

 

「真由子の方もそうだったのか。模擬戦では私が搭乗していた美紗子の戦車が最終的には勝ったが、そっちも凄い戦闘機動だったからな。真由子は知っているか?美紗子の戦車では戦車の機動指示はほとんど声を使っていなかったんだ。全て足で操縦士の肩を蹴る事で指示をしていたし、どうやらその蹴る強さによって微妙な角度も全て指示出来るような事を言っていたな。」

 

「それだけで、あの動きをしていたのですか?驚きました、隊長。」

 

なほも真由子も、知波単学園の戦車内で自分たちが見てきたことをお互いに話し合った。真由子の戦車では、模擬戦中は車長が無駄話を含めて大騒ぎしながら操縦士に指示を出していたため、非常にやかましい戦車内だったが、その機動支持とタイミング、そしてそれに対応する操縦士の技術は非常に高度であり、真由子を驚かせていた。また装填手まで含めた3人は、まるで一心同体のように連携しており、西住流本家から黒森峰女学園に入学した真由子ですら、これまで一度も体験した事のない一体感を目の当たりにする事が出来た。

 

また、なほが搭乗した美紗子の戦車では、真由子が搭乗した戦車とは異なり、非常に静かな車内であった。これは、通常の機動についての指示は言葉ではなく全て足で行っていた美紗子の指揮方法によるものだったが、咄嗟の場合の口頭による指示なども含め、操縦士も装填手もまるで美紗子の分身なのではないか?と錯覚する程の阿吽の呼吸であることをなほは感じた。また、なほは美紗子に何故声で指示を出さないのかと質問したところ、美沙子からは『私が考えている事は、操縦士はちゃんと理解してくれているから、わざわざ言葉を出さなくても問題ない』と答えがあり、なるほど・・・と思っていた。

 

「真由子、今年はたぶん、うちと知波単学園は全国大会では当たらないが、今年の知波単学園は去年よりも更に手強そうだな。戦車の性能自体は低いが、ここまで高い練度を持っているとなると、油断は出来ないな。」

 

「そうですね、隊長。それにしても、美紗子が私達を戦車に乗せてくれた時は驚きましたが、これなら乗せてくれた理由は分かります。たしかに、ここまで高い練度を持っているのであれば、見られたところで私達は何も対処出来ません。」

 

なほ達は、集団戦闘や全体の統制であれば自分達黒森峰女学園に軍配が上がると思ったが、個々人の練度となると圧倒的に知波単学園の方が上だと認めざるをえなかった。あの練度に到達するために、これまでどれだけの練習を積んできたのだろうかと考えると、美紗子達が自分達の練度に絶対の自信を持っている理由がよく理解出来る。なほも真由子も、それまで知波単学園の練度はかなり高いだろうと予想はしていたが、実際に体験してみてみると、二人が想定していた物よりも遥かに上だった。

 

「美紗子があそこまで包み隠さずに私達に見せたのは、自分達に絶対の自信があったからだろうな。私が逆の立場だったとき、果たしてあそこまで見せられるだけの自信があるだろうか不安だな。いずれにせよ、今回知波単学園に短期間であれ転校する事が出来たのは、私にとっては本当に良かった。友達…も出来たからな。」

 

「さて、隊長。その友達が待っていますよ。早いとこ準備して集合場所に行きましょう。私、大浴場なんて本当に久しぶりなんですよ。とても楽しみです。まだ時間が早いので、星は見られないかもしれませんが、『星詠み風呂』なんて素敵ですね。…?隊長、なんで水着なんて用意しているのですか?」

 

真由子は、なほが自分の鞄に水着を入れているところを目ざとく見つけた。これから風呂に入るのに、水着など何故準備しているのだろうか?と不思議に思い尋ねたところ、なほの回答は突き抜けていた。

 

「なぜって、みんなで風呂に入るのだろう?水着を着ないのか?一人で風呂に入るなら流石に私だって水着など着ないが、みんなで入るとなると…その…」

 

「…隊長、ここ日本ですよ。風呂に入るときに水着を着る人間なんて居ません。さぁ、そんなの置いておいてさっさと行きますよ。ここに転校してきてから、隊長がどんどん駄目人間に見えてきてしまうのですが、気のせいでしょうか…」

 

真由子は、なほの鞄から水着を取り出し部屋に置くと、なほの手を引いて集合場所に急いだ。なほは、真由子に取り出された水着を未練がましく見ていたが、やがて観念したように大人しく真由子に連れられて集合場所に移動した。

 

 

 

星詠み風呂

 

 

知波単学園の最上甲板の後方部分には、星詠み風呂と呼ばれる大露天風呂が用意されていた。男風呂、女風呂、共に広大な露天風呂で、一度に数百人で入っても余裕がある程の広さで、遅い時間には満天の星を見ながらの入浴となるため、学園艦の乗員や住民も数多く利用しており、知波単学園学園艦の名物の一つだった。

 

「一番のり~。平日に星詠み風呂に来られるなんて、久しぶりだな。早紀江、早く入ってこいよ。」

 

「はいはい、節子。ちょっと待ってよ。やっぱり、大浴場いいな~。月詠み風呂もいいんだけど、やっぱり最上甲板の星詠み風呂が最高。」

 

その日は師範等が出張中だったため、小隊長クラスも含めて数多くの搭乗員達が星詠み風呂にやってきていた。その中には、いつもであれば反省会などのために平日はほとんど来られない早紀江や節子の顔もあり、節子は一番乗りで露天風呂に突撃していった。節子に続いて、美紗子と早紀江は真由子と一緒に星詠み風呂に入っていったが、いつまで経ってもなほが入ってこない事を心配して、美紗子は真由子に尋ねた。

 

「まーちゃん。なっちゃんちっとも入ってこないけど、ひょっとして風呂嫌いなの?女の子だから、風呂嫌いはちょっとどうかと思うけど…」

 

「美紗子、それがね…。隊長はみんなで入るのが恥ずかしいみたいで、始めなんて水着を持ってこようとしていたのよ。まぁ、今までこんな風に皆でワイワイとお風呂に入る事なんてなかったから。あれ?美紗子どうするの?」

 

真由子の答えを聞いて、美紗子は仕方ないな…と思いながら、なほを連れてくるために、湯船から出ると脱衣所に向かった。

 

「あっ、やっぱりまだ居た。まーちゃん心配していたよ。女の子しか居ないんだから、恥ずかしい事なんてないって。ほらいくよ、なっちゃん。」

 

「美紗子、その…やっぱり私は…。」

 

「あ~、もう言い訳はいいから、さっさと脱ぐ!それで私と一緒に入る!なっちゃんは私よりもスタイルいいんだから、恥ずかしい事なんてないの。ほら、一緒に入るよ!」

 

尚も抵抗するなほだったが、美沙子に促されしぶしぶ服を脱ぎ、美紗子にくっつくような形で大浴場に入った。

 

「あ…あのね、なっちゃん。くっつき過ぎ。背中に思いっきり当たってるんだけど。」

 

「す…すまない。」

 

美紗子の言葉に、なほは美紗子から少しだけ離れたが、それでも美紗子の傍からは離れなかった。そんななほの姿を見て美沙子はヤレヤレと思いながらも、とりあえず真由子や早紀江そして節子がいる湯船の辺りになほを連れて行った。

 

「はい、到着。なっちゃん連れてきたよ。どう?結構いいお風呂でしょう?ここは知波単学園自慢の場所なんだよ。黒森峰女学園の学園艦でもこういう場所作ってもらったら?それに、こうやって裸のお付き合いというのも悪くないでしょ?」

 

「は…裸のお付き合いというのは、その…。ただ、たしかにもう少し夜遅い時間に来れば、満天の星空を見ながらお風呂に入れそうで、凄く良い感じだな。真由子、私達の学園艦にも作ってもらおう。私は、今でも少し恥ずかしいが、慣れてしまえば大丈夫だと思う。」

 

湯船に身を沈め、ようやく落ち着きを取り戻したなほは、美紗子が自慢気に言う姿を見て、たしかにこんな場所が自分の学園艦にもあったらいいな、と感じていた。そして、黒森峰女学園に戻ったら一度学園長と相談してみようと決めた。

 

「ところで、美紗子。訓練の時に持っていた指揮刀なんだけど、あれって本物の日本刀でしょう?よくあんな凄い刀もっているね。黒森峰では指揮刀は使わないから、私もあまり詳しくないけど、あれが凄い刀だってことくらいは分かるよ。どこで手に入れたの?」

 

なほも真由子も、美紗子が指揮刀として本物の日本刀を使用している事は、自己紹介の時に気づいていた。なほはそれ程興味を持たなかったが、真由子は自分の祖父で学園長である島田豊作も本物の日本刀を持っていたため、少しだけ興味があった。美紗子の指揮刀は鞘も本格的なもので、普通に指揮刀として使用するようなものではなかった。

 

「…」

 

ところが、真由子の問いかけに美紗子は湯船をジッと見て、黙り込んでしまった。

 

「あれ?私、何か変な事聞いたかな?もしそうだったらごめん。」

 

いつも明るい美紗子の態度が急変したため、真由子は少し驚いたが、ひょっとしたらあの刀には何かあるのかもしれないと思い、美紗子に謝罪した。

 

「あ、いいの。気を使わせちゃってゴメンね。ちょっとあの刀には色々あって、私もまだ心の整理がついていないんだ。そのうち話せる時が来たら、話すよ。だから今はちょっと勘弁してね。」

 

「美紗子、真由子が変な事を聞いてすまなかった。美紗子にも色々あるんだろうな。私からも謝るから真由子を許してやってくれ。」

 

「そのうち心の整理がついたら教えるからさ。だからなっちゃんもまーちゃんもあまり気にしないで。私は大丈夫だから。」

 

美紗子は直ぐに笑みを取り戻し、なほや真由子に答えた。ただ、お互いの間に少し気まずい雰囲気が出来てしまった事には変わりはなく、美紗子は少し話題を変える必要があるなと考えた。

 

「そうだ、なっちゃん達が知波単学園に居る最終日、遅い時間にもう一つの月詠み風呂に行こうよ。たぶん帰る日なら満月だから、月詠み風呂はいい感じだと思うよ。遅い時間なら空いてるし、月を見ながら最後のお風呂というのも、悪くないでしょう?」

 

「そうか、それは楽しみだな。美紗子、今回私達を受けいれてくれて本当にありがとう。学園艦というのは、本当にいいものだな。なんというか、開放的で気分もよくなる。」

 

「そう言ってくれると、こっちも嬉しいな。来年にはなっちゃん達も学園艦に移るんでしょ?早く自分の所の学園艦が出来るといいね。」

 

「そうだな…私も早く自分の学園艦で生活したいな。」

 

昔、知波単学園の学園艦が進水した時、あの天皇陛下でさえ学園艦に来た際に興奮したという話を、美紗子は家元の美代子から聞かされていた。そしてなほも今回、初めての学園艦生活を凄く気に入ってくれたのだな…と思い、美紗子はなほに微笑んだ。

 

その後、何気なくなほを見ていた美紗子だったが、ふと湯船の中に視線を動かすと、なほの体が水に揺られて見えた。美紗子は、私もこんなにスタイルが良かったら、なほのように隊長として颯爽と振る舞えるかな…となんとなく考え、なほの体を見ていると、なほが美紗子の視線に気づき、急に恥ずかしそうに胸などを手で隠した。

 

「その美紗子?あまり私の体を見ないで欲しいのだが…」

 

「あ、ごめん。なんかなっちゃん、すごくスタイルがいいから、いいな…と思って。私なんか、こんなんだから…」

 

「いや、美紗子だって十分いいスタイルをしていると思うぞ。だから、その…」

 

その様子を近くで見ていた、残された3人はヒソヒソと会話をしていた。

 

「なぁ、真由子さんよ、なほさん大丈夫か?なんか、美紗子様を見る目つきが危なそうなんだが…。」

 

「た…たぶん大丈夫だと思うよ。うちの隊長、今まで男には目もくれてなかったんだけど、まさか…違うよね?」

 

「真由子さん、そこで私に同意を求められても困るんだけど。でもなほさんだけでなく、うちの美紗子様の目つきも危なそう…なんか、近寄れない雰囲気だよね。」

 

同じような境遇の3人だけあって、お互いにシンパシーを感じるのか、いつのまにか早紀江と節子、そして真由子は仲良く会話をしていた。

 

「真由子!聞こえているぞ。お前というやつは…黒森峰に帰ったら、覚悟しろよ。」

 

「早紀江さん、節子さん?覚悟は出来てる?来週の練習が楽しみね!」

 

こうして西住なほと島田真由子にとって、初めてとなる学園艦での一日が終了した。




第三章のストーリーを考えると、どこかの時点で西住なほと池田美紗子を出会わせて、親友+ライバル関係にしておかないとならなかったため、この幕間を利用してきっかけを作ってみました。まぁガルパンの本編にも、結束を強めるためにお風呂のシーンが結構出ていましたので、この話でも同じような形でお風呂を利用してみました…って、女性の場合でも『裸のお付き合い』って言うんですかね?

ちなみに辻~んの指揮刀ですが、おそらく本当は恩賜の刀(辻~んは一応恩賜組ですから)を使っていたと思いますが、これとは別に日本刀を使用していてもおかしくはないため、池田美紗子には日本刀の方を渡したという形をとっています。また、この話の時点で辻~んは行方不明になっており、既に死亡したという扱いになっています。

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