学園艦誕生物語   作:ariel

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第3部は、池田美紗子が入学した次の年(西佳代が入学してから)からになる予定のため、幕間として池田美紗子入学年の話を何話か投稿する予定です。歴史に詳しい人は知っていると思いますが、辻~んは、この年の4月に東南アジアに視察に行った際、行方不明となり死亡扱いになります。したがって、今回で辻~んの出番は終了になります。史実では、辻~んの指揮刀などは、辻~んの捜索費用のために売りに出されていたと思います。


幕間
第27話 別れ


1961年3月30日 愛知県豊橋市 池田流本家

 

その日、池田美紗子は知波単学園の学園艦入学を明後日に控えて、その準備に追われていた。明日には知波単学園が停泊している鈴鹿沖に向かい明後日の入学式に備える為、この日が美紗子にとって本家で過ごす最後の日だった。実の母である美奈子は学園艦で戦車道の教官をしているが、祖母であり家元の美代子とはしばらく会えなくなる。また池田流本家でこれまで一緒に戦車道の練習をしてきた西佳代とも、しばらくは顔を合わせる事が出来なくなる。しかし美沙子にとってはそのような寂しさよりも、これから一人暮らしが出来るという楽しさ、そして学園艦に実際に入学することへの期待が勝っているようだった。

 

「美紗子も、明日には学園艦に行っちゃうんだね。しばらく寂しくなるな~。来年には私も入学するけど、しばらくお別れだね。」

 

「そうか…佳代ちゃんは来年入学だもんね。しばらく会えなくなるね。私、学園艦で早紀江さん達と頑張ってるから、早く入学してきてね。」

 

約3年前、佳代が池田流本家に辻に連れられてきてから、美紗子と佳代はお互いに波長が合ったのか、寝食を共にして戦車道に邁進してきた仲だった。そのため、どちらが年上なのかを全く気にして来なかったが、今回初めて長期に渡って離れることになる。本家に居た頃は、美紗子は作戦立案は全て佳代にやってもらい、作戦指揮を執るだけで良かったが、流石に学園艦に入学して佳代と離れると、そういう訳にはいかなくなる。そのため、学園艦への入学に心が躍っている美沙子だったが、肝心の戦車道については少しだけ不安を感じていた。

 

「あ、準備邪魔しちゃってゴメン。実は、美代子様から美紗子を応接間に呼ぶように言われて、ここに来たんだ。なんか普段と感じが違ってたから、早く行った方がいいと思うよ。」

 

「え、お婆様が?私が準備で忙しいと分かっていると思うんだけどな…。この忙しい時に、池田流の訓辞を小一時間も聞かされそうで嫌だけど…分かった直ぐに行くよ。」

 

たぶん学園艦に入学する前に、家元の娘としての心得を色々言われるんだろうな…と思いつつ、美紗子は美代子が待っている居間に急いだ。ところが居間では、美紗子を美代子と意外な人物が迎えた。

 

「美紗子ちゃん、久しぶりですね。明日には学園艦に移動すると聞いていたので、ちょっと挨拶に来たのですよ。私も来月の始めには海外視察が入っているので、しばらくは会えないと思いますから。」

 

「あれ?辻の小父さん久しぶり。私が入学する前に会いに来てくれたんだね。ありがとう。でも、どうして?これまでも辻の小父さんは海外視察に結構行っていたと思うのだけど、こんな風に挨拶に来た事なんてなかったよね?」

 

まだ美紗子が小さかった頃から、辻は時々こうやって池田流の本家にやってきては、家元の美代子とよく話していた記憶が美紗子にはあった。また自分が訓練で苦しかったとき、よく愚痴を聞いてもらったりして居たため、美紗子にとって辻は身近な人間であり、こうやって入学前にわざわざ会いに来てくれた事はうれしかった。しかし、いくらしばらく海外視察で会えなくなるからとって、わざわざこうやって改めて挨拶に来た事などなかった筈だ…と少し不思議に思っていると、家元の美代子が口を挟んだ。

 

「美紗子。辻さんはあなたに大事な話があるので、わざわざこうやって訪ねられて来たのです。これから辻さんから色々聞かれると思いますが、あなたの思う事を正直に話すのです。いいですね?」

 

「は…はい。お婆さま。」

 

そういうと、美代子は辻に会釈して居間から出て行った。これまで美紗子は、何度も辻に色々と相談をしていた時も二人きりで話をしていたが、今回のように改まった場で二人になった事はなかったために少し戸惑った。また、それまで胡坐をかいていた辻が、座り方を正座に改めたのを目のあたりにして、その戸惑いは更に高まる。辻はしばらく目を閉じていたが、意を決したのか目を開く。それは美紗子にとっては初めて見る、帝国陸軍の参謀本部の人間として働いていた頃の辻政信の顔だった。

 

「池田さん。今日はあなたに、戦車道復活や学園艦建造を行ってきた人間として伺いたい事があり、こうやって池田流本家まで訪ねてきました。将来の池田流を導いていくことになる家元の孫娘として、私の質問に答えてもらいます。分かりましたか?」

 

美沙子は、これまで全く見たこともない辻の顔を見て、焦りながらも頷いた。そして、座り方を改めて辻を改めて見る。そんな美沙子の姿を見て辻は満足したのか、表情を少しだけ緩めると、話し始めた。

 

「先の戦争中の事です。私は、池田さんのお祖父さんである池田末男大佐、西さんの祖父である西竹一中佐、そして先日亡くなった服部さんの四人で話をした事がありました。池田さんも、ひょっとしたら美代子さんから話を聞いた事があるかもしれませんが、その4人で話した結果が、学園艦の誕生や戦車道復活に繋がっています。今や、この4人の中で生き残ったのは私だけになってしまいましたが、おそらく私以外の3人も、今の戦車道が復活した姿を見れば喜ぶでしょう。」

 

辻の話は、美紗子は一度だけ美代子から聞いた事があった。それはまだ自分が幼かった頃、戦車道の訓練が嫌で嫌で仕方なかった時、へそを曲げて自室に閉じこもった際、祖母の美代子が美紗子に話してくれた記憶だった。『自分達は、色々な人達の希望が結びついた結果、今戦車道を続ける事が出来ました。だから、その人達の夢や努力を無に戻す事は出来ませんし、その人達の夢の結果を後世に繋げなければなりません。それが家元の孫であるあなたの役割です。』と、美紗子は美代子から諭され、それ以来弱音を吐くような事はなかった。今日、改めてこの話を当事者である辻本人から聞く事になり、美紗子は自分の役割という物を再認識した。

 

「そして、池田さんは私達の夢の結晶である戦車道や学園艦を後世に伝えていく役割を持つ、池田流本家の直系です。池田さんは、私達の夢の結果を後世に引き継ぐ覚悟を持っていますか?これが、私が直接池田さんに伺いたかった事です。」

 

「わ…私は…」

 

『…覚悟を持っている』と美紗子は即答出来なかった。おそらく辻は、そんな安易な回答を許さないだろう。美紗子が言葉を続ける事が出来なかった事を確認した辻は頷くと、さらに問う。

 

「そうですね。今の時点でいきなりこのような事を聞かれて『覚悟を持っている』などと簡単に言われては困ります。そんな簡単に覚悟出来るような小さなことではないでしょうからね。これについては、どこか心の片隅にでも留めておいてください。それともうひとつ。池田さんはどのような戦車道をこれからやって行きたいと考えているのですか?これは、回答できますよね?」

 

この問いについては、美紗子は答えを持っていた。これまでも西佳代とよくこの話題で激論しており、お互いの考えはなかなか交わっていないが、それでも美紗子なりの答えがあった。

 

「私の戦車道は守る戦車道です。あ、いえ、守備をするという意味ではなくて、帝国陸軍が作り上げた戦車運用を守る戦車道です。知波単学園の練習試合と公式戦、両方を見ていて感じましたが、おそらく勝つためには、どんどん新しい物を取り入れていかなければならないと思います。しかし私の戦車道は、勝負を捨てるつもりはないですが、これまで色々な人達によって作られてきた伝統と精神を守り、それを引き継いでいくことです。少なくとも、公式戦ではそのような戦車道を続けて行きたいと思っています。」

 

美紗子は一気に自分の考えを辻に話した。この件については、美紗子と佳代はいつも激論になる。勝つためにはどんどん新しいやり方を取り入れないと駄目だ、と言う佳代に対して、伝統と精神を守りやり方を変えるべきではないと主張する美紗子は、いつもぶつかり合っていた。最後はいつも『そんな考えだと、化石と同じ!』『そんなに変えたければ、黒森峰に入学したら!』というような感じで喧嘩別れに終わるものの、次の日にはお互いにケロッとして普通に付き合っているあたり、美紗子と佳代はお互いに持っている考えはともかく、仲は良かった。

 

「なるほど。西住流とは正反対の考えですね。池田さんの考えは分かりました。おそらくあなたの祖母の美代子さんも同じ考えに至ったのでしょうね。だからこそ、私もそうですが、現在の知波単学園の学園長である細見閣下も、池田流を支援したのでしょう。まぁ、そこで『公式戦では』と付け足している所が勝負にこだわりたい池田さんの葛藤なのでしょうが、同じような事を池田末男大佐本人も言っていた事を服部さんから聞いています。ですから、練習試合は勝負に拘るのも良いかもしれませんね。いずれにせよ、美紗子ちゃんの考えは分かりました。」

 

辻の顔がいつもの顔に戻り、最後の方は口調もいつもの感じに戻っていた。それに気づいた美紗子は、『なんとか合格点がとれたのかな』と感じていた。そう思っていると、辻は日本刀を自分と辻の間に置いた。

 

「美紗子ちゃん、明日から知波単学園に移動するのでしょう。荷物にはなると思いますが、これを持っていきなさい。まだ指揮刀持っていないでしょう?たぶん、知波単学園に入学したら隊長になるでしょうから、持っていた方がいいですよ。」

 

辻が自分の目の前に置いた日本刀を見て、美紗子は驚いた。目の前に置かれた刀は、戦時中に陸軍が大量生産した指揮刀ではなく、本物の日本刀だったからだ。刀の事をほとんど知らない美紗子でも、目の前の刀が非常に高価な物だという事は理解できた。

 

「辻さん、こんな高い物は貰えないよ。こんなの貰ったら、お婆さまに怒られるよ。」

 

「美代子さんには、もう了解はとってあります。ですから問題ありませんよ。まぁ、これは兵科で使用する指揮刀ですから、機甲科で使用する物と違って長いですし、鞘も皮ではないですから、実際に戦車に搭乗してこれを抜くという訳には行かないですけどね…ひょっとして、現在知波単学園の隊長の村上早紀江さんのようになりたいから、これは受け取れないという事ですか?たしかにこの指揮刀では、戦車の上で刀を抜くわけにはいかないですからね。」

 

最後の方は笑いながら辻が返す。先日の戦車道全国大会の第一回戦、知波単学園対黒森峰女学園の試合の最終局面、早紀江が指揮刀を抜き、知波単学園の戦車隊の突撃を指揮する姿は、その後のパンター戦車撃破の衝撃もあって、何度も全国放送されていた。戦後、未だにあまり娯楽がないこの時代、その姿は多くの国民が目にする事になり、本人にとっては不本意ながら早紀江はアイドル化していた。また、これに戦車道への宣伝効果があるという事に気づいた戦車道連盟の前身組織は、早紀江が日本刀を抜いて指揮している姿をポスター化し、『大和撫子、ここに在り!来たれ戦車道』と煽り文句を入れた上で、全国に配布していたため、知波単学園の学園艦が各港に停泊する度に、凄い数のファンが押し寄せて早紀江は自由に行動が出来なくなっているようだ。そのため、既に知波単学園に入学している池田流の友人や早紀江本人から、『早く助けてくれ』という悲鳴のような手紙を何度も美紗子は受け取っていた。

 

「いや…あんな風には私はなりたくないよ…。早紀江さん凄く大変みたいだから。お婆さまの了解もあるのなら、使わせてください。でも、本当に受け取っていいの?これ辻さんにとっては、大切な刀だよね?」

 

「ここまで戦車道の立ち上げに関わったのですから、自分の物を何処かに残しておきたいと思っただけです。ですから気にせずに使ってください。そしていつか、この刀にふさわしい指揮をする姿を私に見せてくれれば、それで満足ですよ。」

 

『自分の物を何処かに残しておきたい』という部分に少しだけひっかかった美紗子だったが、この刀にふさわしい指揮を自分に見せてくれという次の言葉に納得して、受け取る事に決めた。

 

「分かったよ、辻さん。これ、ありがたく使わせてもらうね。それと私の試合いつか見に来てね。約束だよ!それじゃ私まだ準備があるから、知波単学園に来るときは教えてね。」

 

そう言うと美紗子は辻から日本刀を受け取り、部屋を後にした。辻は笑ってその姿を見送ったが、美紗子が部屋を退出する際、小声で『さらばだ』と美紗子の耳には届かないように呟いた。

 

「佳代ちゃん、これ見てよ。辻さんからこんな凄い日本刀貰ったんだよ。私が知波単学園に行ったら、これ使って指揮してくれだって。いいでしょう?」

 

美紗子が部屋に戻ると佳代がまだ居たため、辻から貰った日本刀を佳代に見せびらかした。ところが、佳代の反応は美紗子が期待していたものではなかった。日本刀を見た佳代は突然顔色が変わり、美紗子に一言だけ伝えると部屋を出ようとした。

 

「辻さんまだ居るよね?ちょっと行ってくる。」

 

「なに?佳代ちゃんも何かもらうつもり?たぶん来年、佳代ちゃんが入学するときに何かもらえるだろうから、一年待ちなさいよ。」

 

美紗子は、佳代が自分が日本刀を貰ったため、自分も何か貰おうとしているのかと思い、そう声をかけたが、佳代は何も反応せずに部屋を出て行った。美紗子は『佳代ちゃんも、そんなところがあるんだな』と思ったが、自分も明日の準備があるため、佳代を追わずに準備の続きを始めた。美紗子はこの時に、佳代を追って自分も辻の元に行かなかった事を、生涯に渡って後悔することになる。その日、佳代は夕食の時になっても自分の部屋から出てこなかった。

 

 

 

1961年4月1日  知波単学園 戦車格納庫

 

 

4月1日、知波単学園では第2期生の入学式が行われた。入学者数は第1期生を大幅に超える1200名近い人数となっており、知波単学園の講堂は保護者達も含めると満員に近い状態になっていた。戦車道第一回全国大会での村上早紀江の姿は、旧帝国陸軍軍人等を中心に年配の人間達の心を鷲掴みにしたようで、自分の孫を同じ学園に入学させようと志願者の数が大幅に増えた事が直接の原因だったが、知波単学園側も急遽入学者数の枠を広げたためこのような事になったようだ。その結果、学園艦の町機能なども大幅に強化されたため、在学中の第1期生もこれを歓迎していた。入学式が終わり、自分達の宿舎が割り振られた後、池田美紗子はすぐに知波単学園の戦車格納庫にやってきた。自分が指揮することになるであろう戦車を少しでも早く見たかったようだ。美沙子が戦車格納庫にやってくると、そこには知波単学園で戦車道を選択している少女達が既に待っていた。隊長の村上早紀江は、美紗子が戦車格納庫に入ってきた姿を見ると、走ってきて抱きついた。

 

「美紗子様、やっと来てくれたのですね。去年一年、本当に大変だったんですよ。とりあえず、美紗子様がいつでも指揮出来るように、去年一年かけて戦車隊をしっかり訓練してきました。ここからは、私は副隊長として支えますので、あとはよろしくお願いします。」

 

「ちょ…ちょっと待ってよ、早紀江さん。あれだけ有名になったあなたが隊長でなくなったら周りが許さないと思うよ。それにあなたにあこがれて今年入学してきた子も多いし、池田流以外の同級生も居るでしょう?」

 

そのうち自分が隊長になるだろうな…と思っていた美紗子だったが、まさか入学して直にそうなるとは思っていなかったので、驚いて早紀江に問いただす。本人としては不本意でもあれだけ世間的に有名になってしまった早紀江が隊長を降りるのは、問題だろうと美紗子は考えたようだ。それに、元々池田流に所属していた人間は自分の事を分かっていても、それ以外から入学してきた子は、後輩である自分が、知波単学園で何も実績がないのに、いきなり隊長になることを許さないだろう。

 

「美紗子様、少なくとも現在の在学生である第1期生は問題ありません。元々、私は一年だけ隊長をやる前提で引き受けていましたし、美紗子様の事は何度も皆に話しています。ですから、私達の事は何も心配しなくて大丈夫です。それに、私も副隊長として及ばずながら助けていきますので、引き受けてください…というより、助けてださい。もう、あんな事になるのは懲り懲りなんです。折角、学園艦が入港して、自由に陸で遊べると思ったら…ブツブツ」

 

「わ、分かったから、早紀江さん。だから落ち着こうよ。ね?そういうことなら、私が隊長引き受けるから、まず落ち着こうよ…うん。」

早紀江が自分の世界に入っていきそうになるのを、美紗子は懸命に止めた。どうやらこの一年間、早紀江は相当苦労したようだ。まして完全に不本意な理由で有名になってしまい、自由に外で遊ぶ事も出来なくなってしまった事には同情もできる。それでも自分に繋げるために一年間必死に頑張ってきた早紀江を見ると、自分がなんとかするしかない、と美紗子は考えたようだ。

 

「美紗子様、ありがとうございます。おかげで私も助かります。全員集合!四列横隊で整列!急いで。」

 

美紗子が引き受けてくれた事を確認した早紀江は、自分の役割が終わった事を理解し安堵した。これからも副隊長として頑張らなくてはならないが、それでも隊長として全てを纏めていくよりは楽だろう、そう早紀江は考えていた。早紀江の号令で、知波単学園の戦車搭乗員達は四列横隊をとる。自分達の隊長だった早紀江が、今日入学したばかりの一人の少女が格納庫に入ってきた瞬間、走っていき抱きついた事を見て、池田流以外から入学してきた少女達も、彼女が池田美紗子だという事を理解したようだ。隊長の早紀江からは、何度も『自分は本来の隊長ではなく、来年入ってくる池田美紗子さんが隊長になるまでの一年間、私が隊長をします。』と言われていたため、自分達の隊長になる子がやってきた、という事を比較的素直に受け取ることが出来た。搭乗員達が四列横隊をとったのを確認した早紀江は、整列した搭乗員達に話す。いよいよ自分が隊長として行う最後の仕事だ。

 

「全員注目。本日、池田流の池田美紗子さんが知波単学園に入学してきました。皆さんには何度も言っていたと思いますが、私が隊長を勤めるのは1年間だけ、そこから先はここに居る美紗子さんに任せる予定でした。ですから今日、知波単学園の隊長を私から池田美紗子さんに引き継ぎます。私もこれからは副隊長として隊長を支えて頑張りますが、皆さんも新しい隊長を信頼してついて行ってください。よろしくお願いします。それと、一年間ありがとうございました。」

 

早紀江は、そう言い終わると頭を下げた。整列していた搭乗員達からは拍手が起こる。これまで一年間皆の先頭にたって頑張ってきた早紀江の大変さは、ここに整列している搭乗員達が一番よく分かっていた。拍手が終わると、自然とその場に居る全員の視線は美紗子に集中する。美紗子は何か言わないといけないな、と思い整列している搭乗員達に話し始めた。

 

「皆さん、今年知波単学園に入学した池田美紗子です。今日から隊長を早紀江さんより引き継ぎます。まだ私はこの学園では何もしていませんが、どうか私の事を信じてついてきてください。何かありましたら、後輩の私が言うのも変ですが、私のところに相談に来てください。これからどうぞよろしくお願いします。」

 

美紗子の言葉が終わると、池田流に居た少女達がワーッと歓声を上げて美紗子の周りに走りよってきた。池田流で訓練をしてきた少女達は、現在の知波単学園戦車隊の中核メンバーであり、それ以外からやってきた少女達を指導したりしていたため、彼女達は周りから信頼を集めていた。その彼女達がそれだけ慕う美紗子であれば何も問題ないだろ、と池田流以外の少女達も感じたようだ。

 

こうして、池田美紗子は知波単学園に入学し、彼女が卒業するまでの3年間を戦車隊の隊長として過ごすことになる。そして、特に西佳代が入学してからの最後の2年間は、知波単学園の第一次黄金期と後に語り継がれる事となる。




先週は所要でカナダのモントリオールに出張だったのですが、様々な事情で帰国の便をアメリカのオヘア空港経由から、バンクーバー経由に変更して戻ってきました。バンクーバーから成田に戻る便の航路は、知っている人も多いと思いますが、最後は千島列島をなぞるような感じで南下して日本に到着します。ですから、池田末男大佐が戦死した占守島の辺りを飛んでくるわけでして…。流石に航路から少し距離があるため、占守島を見る事は出来なかったですが(完全に晴天なら見えるかも…)、それでも東京までの距離はなんとなく実感出来ました。

現在のジェット旅客機でも、占守島周辺から成田までは約2.5時間。戦時中の輸送機では航続距離から直通は難しいでしょうから、実際には何処かで乗り換えて…となるとかなりの時間がかかると思います。こんなところまで、日本の支配領域だったのだな…と思いましたし、こんな遠い所で最後は祖国の防衛戦争があったのだな…と理解できました。この話の第1部を書くにあたって占守島の戦いなど色々と調べていたため、これまでこの辺りを通ってもあまり感じなかったのですが、今回占守島周辺を通る時にこんな風に感じた次第でして…やはり色々と日本人として知っていないといけない事はあるのだな…と改めて感じたのと同時に、先人の苦労に感謝したいと思いました。

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