学園艦誕生物語   作:ariel

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黒森峰女学園対プラウダ高校の決勝戦前編になります。機動防御戦で戦う事を選択した黒森峰女学園は、相手よりも数的に少ない戦車で防御線を構築しています。その防御線を突破するために全車で攻撃をかけるプラウダ高校。黒森峰女学園にとって、苦しい防御戦闘の話になります。


第25話 決戦

決勝戦 黒森峰女学園側 観戦席

 

 

「カリウス、どうも今回の編成はよく分からんな。なほは、今回は自分達で作戦を考えたから黙って観戦席で見ていろと言っていたが、大丈夫だと思うか?」

 

「曹長は心配性ですね。我々やハインリツィ閣下が教えられる事は全て彼女に教えていますから、大丈夫でしょう。たしかに曹長の言うとおり中途半端な編成だとは思いますが、彼女の作戦を我々は知らないわけですから、黙って見守るしかないでしょうね。」

 

バルクマンとカリウスは、黒森峰女学園の観戦席で決勝戦の開始を待ちながら、今回決勝戦に黒森峰女学園が登録した戦車隊の編成に首をかしげていた。決勝戦の戦車は、なほの搭乗する隊長車も含めてティガーIが2両、それにティガーIIが2両、ヤークトティガー1両、ヤークトパンター4両、エレファント1両、四号駆逐戦車70(V)が2両、そしてパンターG型が8両と発表されている。編成としては駆逐戦車がかなり多く、更に機動力のあまりない重戦車が入っているかと思えば、パンターの最終形であるG型が8両も登録されている。一体この編成で、なほは何をやる気なのだろうか?とバルクマンもカリウスも不安を感じてはいたが、自分達が教えたなほの成長した姿が見られると、楽しみにもしていた。

 

「あらお二人さん、こちらでしたか。てっきり中央観戦席に居ると思ったのですが、ここで観戦していたのですね。どうですか?今回、うちは勝てそうですかね。」

 

西住流師範のさほが、二人に話しかけてきた。今回の試合が終わると、二人は再びドイツに戻ってしまうため、最後の試合を三人で一緒に観戦しようと思い、バルクマンとカリウスを探していたようだ。

 

「最初は、中央観戦席で見ようと考えていたんだが、今日はイワンのお偉いさん達が大挙してやってきていてな。どうもあいつ等と一緒に見る気にはなれんから、こっちに退散してきたわけよ」

 

「それに、こちらの方が気楽に見られますからね。折角ですから、これまで教えてきた生徒達と共に決勝戦を観戦しようと考えたのです。ところで、さほさんは今回黒森峰女学園がどのように戦う予定か知っているのでしょう?なほさんは、どのように戦うつもりなのですか?先程から曹長と話していたのですが、編成が中途半端な感じがすると二人で話し合っていたところなのですよ。」

 

バルクマンとカリウスは、黒森峰女学園の作戦を知っているであろう師範のさほに尋ねる。しかし、さほは笑うだけで一言だけ二人に返した。

 

「私の娘を信じて、最後まで見守ってあげてください。」

 

丁度さほの言葉とかぶるように、試合場の中心付近で信号弾が打ちあがった。いよいよ決勝戦が開始した。

 

 

 

黒森峰女学園 隊長車

 

 

「全車、一端後退。作戦地点に移動しろ。真由子、パンター部隊の指揮を頼む。豊子、真美、防御線の両翼は頼むぞ。」

 

なほの指示で、黒森峰女学園の戦車隊は、作戦通り防御線を作るために試合場内の小高い丘に向かって後退を始めた。また副隊長である島田真由子が率いるパンターの部隊は、防御線よりも更に後ろに後退を始めた。プラウダ高校は、黒森峰女学園が試合開始早々に速攻に出てくると考え、防御陣形を組んでいる最中だったため、黒森峰女学園は何も妨害を受ける事なく目的の地点にたどり着く事が出来た。防御線の中央を担当する隊長のなほは、自分が直接指揮を取るティガーI 2両と、ヤークトティーガー、エレファントの合計4両の搭乗員に指示を出す。

 

「全搭乗員は、少しでもこちらの防御力を高めるために戦車壕を作れ。ただしヤークトティーガーはこちらの切り札だ。敵から見えないように後方の下り坂の途中で待機しろ。陣地の配置は、エレファントが中央、私のティーガーが左翼で、もう1両が右翼だ。急げ!」

 

なほの指示で、搭乗員達は急いで自分達の戦車の周りに出来る限りの土を盛った。ヤークトティーガーの搭乗員も自分達の戦車を移動させると、なほ達の戦車壕の準備を手伝う。だいぶ土が盛られてきた頃、遙か前方から土煙がこちらに近づいて来る様子が確認出来た。どうやら黒森峰女学園側が攻撃をかけてこない事に気がついたプラウダ高校が、逆に攻撃をかけるためにやってきたようだ。それを確認したなほは、全搭乗員を各戦車に戻す。なんとかそれなりの防御力が期待出来そうな戦車壕は出来た。後はこの陣地で出来るだけ多くの敵を引きつけて、相手を消耗させるだけだ。

 

「小隊各車に連絡。我々はここで一両でも多くの敵を引きつけ、敵を消耗させる事が目的だ。おそらく敵は、ソ連お得意の縦深攻撃をかけてくると思うが、こちらも陣地を築いて防御力を高めているから、そう簡単には撃破判定は出ないだろう。お互いに敵が死角に入らないように連携して敵を叩くぞ。ヤークトティーガーは敵の重戦車が突撃を仕掛けてくるまで待機しろ。各車、ここが正念場だ。黒森峰女学園の力を見せてやれ!」

 

プラウダ高校は、黒森峰女学園が陣地を形成している姿を発見したようで、その進撃を一端止めていた。黒森峰女学園は既に小高い丘の上に陣を作っており、いきなりの突撃は無謀だと考えたのだろう。距離を十分に保った状態で横三列の陣形を組んでいた。

 

「小隊各車、長距離砲撃戦準備。主砲、被帽徹甲弾装填!目標、敵第一列目のT34-85 Feuer!(撃て)」

 

なほが指揮をしている小隊が長距離砲撃を開始したのと同時に、左右に展開している黒森峰女学園の各小隊も長距離砲撃を開始した。これに対応し、プラウダ高校側も黒森峰女学園の陣地に目掛けて長距離砲撃で応射してきた。双方の距離はおよそ2500mとかなりの長距離戦のため、命中弾は発生していないが、それでも両校の戦車の周辺には弾着を示す土煙が派手に上がっていた。

 

「左翼部隊及び右翼部隊に連絡、しばらく長距離砲撃に付き合って、相手にたっぷり無駄弾を打たせてやれ、そうすれば敵もそのうち焦って突撃を仕掛けてくるだろう。勝負はそこからになるから、合成硬核徹甲弾は温存しろ。それと榴弾も時々混ぜて砲撃を行なえ。」

 

その後、なほの予想通りしばらくの間、長距離砲撃戦が続く事になる。プラウダ側は、こちらの砲撃位置から陣形や数を確認しようとしているようだったが、それを見破ったなほは、小隊各車を時折陣地から移動させ、異なる位置から砲撃させる事で、こちらの戦車の正確な数が分からないように工夫していた。

 

「隊長!エレファント、陣地に戻ります。ティガーIの2号車、今陣地から出て砲撃地点に移動中、本車はこれより砲撃します。」

 

「了解だ。左翼と右翼の部隊も上手くやっているようだな。おそらく敵はこちらの正確な数を読み違えてほぼ全車がここに居ると思っているだろう。それに、そろそろ苛立って勝負を仕掛けてくる可能性がある。ティガーIの2号車は今回の砲撃が終わったら陣地に戻るように連絡しろ。それと左翼と右翼部隊にも、敵の突撃に備えるように連絡するように。」

 

既に長距離砲撃戦が始まって10分程が経過している。お互いにかなりの無駄弾を撃っているが、砲撃距離の問題で未だに有効弾は発生していない。そろそろプラウダ高校側も焦れて勝負に出てくるだろうと考えたなほは、全車を陣地に戻し敵の攻撃に対応出来る体制をとった。

 

敵は横三列の陣形をとっているため、おそらく三波に分けて突撃してくる。そして連続した攻撃を行なう事で、こちらの消耗を狙ってくるだろう。プラウダ高校側は第一列、そして第二列の戦車はT34-85で固めているが、最後の第三列にはKV-2重戦車、JSU-122重駆逐戦車、JSU-152重自走砲が各1両、そしてJS-2重戦車が3両見える。これら重戦車群が攻撃に投入されてからが正念場だと、なほは考えていた。

 

 

 

黒森峰女学園側 観戦席

 

 

「なほの奴、あれをやる気だったのか…。たしかにあれが決まれば、プラウダに完勝する事になるだろうが…。それにしても、まさかこんな作戦を立てていたとはな。相手も戦争後期の戦車を使ってくる以上、攻勢に出ずに防御戦で戦う事を考えたわけだな。」

 

「マンシュタイン元帥閣下の機動防御作戦を行なうつもりだったとは驚きましたよ。たしかにこの作戦のための兵力編成としては、ピッタリですね。それに陣地を作ってからの砲撃や陣地移動も上手くやっているようです。あれならプラウダ側は、こちらが全ての戦力をここに投入していると思っているでしょう。あとは、プラウダの縦深攻撃をいかに凌ぐかですが、これは面白い物が見られそうですね。」

 

バルクマンとカリウスも、なほがパンター部隊を後方に下げ、重戦車や駆逐戦車部隊で陣地を作り出した頃、黒森峰女学園の作戦の全てを理解した。どうやら自分達が教えたドイツ機甲師団の戦い方の中でも、特に難易度の高い機動防御作戦を実施するようだ。二人は、なほの成長具合を確認出来て喜んだのと同時に、これだけ難易度の高い作戦を黒森峰女学園が本当に実施出来るのか?という不安も覚えていた。

 

「曹長、どうやらプラウダが動くようですね。第一陣と第二陣のT34-85が14両動き始めましたよ。おそらく、このまま二列で陣地に突入するつもりでしょう。第三陣からの援護射撃も激しくなっているようですから、最初の試練になりそうですね」

 

「最初の第一陣は問題ないだろうが、続けて第二陣に突っ込まれると、厳しい戦いになりそうだな。もっとも高低差と陣地がある分、こちらの防御力もかなりの物だろうがな・・・。」

 

プラウダ高校の先鋒が黒森峰女学園の陣地に向かって動き出した事を確認して、カリウスもバルクマンも、プラウダ高校が勝負を仕掛けてきた事を認識した。第一陣と第二陣、合わせて14両のT34-85が二波に分かれて進撃する姿は、モニター越しからでも迫力がある。また、第三陣に配置された重戦車からの砲撃も激しさを増しており、黒森峰女学園側には至近弾が多数発生していた。前線に居る黒森峰女学園の戦車は、隠蔽しているヤークトティーガーを除くと11両。これに対してプラウダ高校側は20両全てが攻撃に参加しているため、歴然とした火力差が存在していた。第三陣からの砲撃は距離があり、砲撃間隔を短めにした牽制射撃のため現在は問題ないが、これが狙いを付けて射撃を始めると脅威になる。また進撃してくるT34-85の主砲が命中すると、距離が近づいているため場所によっては撃破判定が出る恐れもあった。そのため、黒森峰女学園側の戦車は陣地に篭もり、発砲を極力避けるようにして耐えていた。

 

「そうだなほ、それでいい。今の時点で無理する必要はないし、今は耐える時間だ。もう少し近づけばこちらにも射撃チャンスがやってくる。だから焦る必要はないぞ」

 

「温存しているヤークトティーガーを、どの時点で戦線に投入するかがポイントになりそうですね。なほさんは、おそらく第三波の進撃に対応して投入する事を考えていると思いますが、そこまで我慢出来るかですね。」

 

プラウダ高校の第一波は、黒森峰女学園の中央から左翼にかけて、第二波は中央から右翼にかけて進撃を続けてくる。そして距離が1000m程になった時、黒森峰女学園側から満を持しての砲撃が始まった。また、その砲撃を受けてプラウダ高校側も一気にT34-85の速度を増速する。

 

 

 

黒森峰女学園 防御線左翼部隊 第二小隊長車

 

「小隊長! プラウダ高校第一波、正面から来たよ。こちらに4両、隊長の所に3両。車種は全てT34-85。どうする?」

 

「隊長からの指示どおり、距離1000mまでは我慢しますよ。こっちは、私達のティーガーIIも含めて88mm砲搭載車が3両いるのだから、この距離なら何処に当たっても撃破判定が出ます。ただ相手も4両いますし、敵には援護射撃があるのでそれだけは気をつけてね。」

 

黒森峰女学園の防御線左翼部隊は、第2小隊が守備についており、小隊長の玉田豊子が搭乗するティーガーIIが1両、ヤークトパンター2両、そして四号駆逐戦車が1両と、かなりの戦力が揃っていた。

 

「小隊長、敵まで距離1000m。撃ち方準備よし!」

 

「Feuer ! (撃て!)」

 

豊子の射撃命令で、小隊各車は一斉に射撃を開始した。

 

「小隊長!敵T34-85、 2両に撃破判定です!」

 

距離が1000m程と中距離射撃であり、停止射撃による命中率の向上により、第2小隊は正面から突撃してきたT-34の2両に対して撃破判定を与えた。しかし陣地から顔を出しての砲撃のため、こちらが砲撃をした隙をつかれ、敵第三陣からの長距離射撃にあい、ヤークトパンターと四号駆逐戦車が撃破判定を受ける。

 

「小隊長!ヤークトパンター2号車、四号駆逐戦車1号車が撃破されました。相手は敵第三陣のJSU-122とJS-2です。」

 

「流石に一方的にはいかないか…。でも、まだ後退するには早いわ。相手の重戦車群の方が装填に時間がかかるはず。こちらの装填準備出来次第、次弾を撃ちます。」

 

しばらく時間が経過した後、第2小隊の残された2両は再び射撃を行い、突撃してくるT34-85を1両撃破する。流石に4両のうち3両に撃破判定が出たため、突撃してくる戦車も一端後退し、こちらの砲撃から死角になる位置に退避した。防御線左翼はこうして再び戦線が膠着した。

 

「通信手、中央部隊と右翼部隊の様子はどうなってるの?こちらの敵が一端停止しているから、まだ突破はされてはないと思うけど、もし状況が確認出来るならお願い。」

 

「右翼の第3小隊は厳しい状況のようです。敵の第二波4両からの攻撃を受けて、被害2、相手への撃破判定2のようです。ヤークトパンターが2両とも第三陣からの長距離射撃で撃破されて、残りは隊長車のティーガーIIと四号駆逐戦車ですから、かなり厳しい状況ですね。なほ隊長の中央は・・・エッ? 優勢の模様。流石は隊長ですね。」

 

 

 

黒森峰女学園 防御線中央部隊 隊長車

 

 

「隊長、敵T34-85正面から来ます。数、第一波が3両、第二波が3両の計6両です。左右にも同じように攻撃が行っていますので、両翼からの援護は期待出来ません。」

 

「敵が焦って第三陣を前進させてくるまでは、現在の陣地で防御するしかない。第三陣の長距離射撃に気をつけつつ、敵の突撃部隊を迎撃する。距離1000で攻撃開始。」

 

なほが率いている中央部隊は、距離1000mで一斉に砲撃を開始した。今回の作戦では、防御線中央は敵の攻撃に対して様々な対処が求められるため、最精鋭の第1小隊が中央の守備に割り振られていた。第1小隊の各車は、距離1000mで第一波として突撃してくるT34-85の3両に砲撃を行い、3両全てにあっさりと撃破判定を与えた。もっとも、こちら側も流石に無傷とはいかず、第二波のT34-85からの集中砲火を浴び、ティーガーIの二号車に撃破判定が出た。しかし、第三波からの長距離射撃は全て回避に成功し、被害を1両だけに留める事に成功する。プラウダ側の突撃部隊も第一波の3両が瞬時に撃破されたため、このまま突撃するのは拙いと考え、一端距離を取るように後退を始めた。

 

「よし、とりあえず初戦はこちらが勝ったな。あとは敵の主力である第三波を無理やり戦闘に引きずり込むだけ・・・少し揺さぶってみるか。中央部隊、陣地を放棄して後退しろ。逆斜面に隠してあるヤークトティガーのラインまで後退。左翼と右翼の守備部隊には、現状を維持しつつ指示を待てと伝えろ。それと、我々は逆斜面で待機すると敵の位置が分からなくなるから、中央に来る突撃部隊の位置をこちらに常時連絡するように伝えろ。副隊長の真由子には、そろそろ反撃命令を出す事になるから戦闘地域の近くで待機するように連絡!」

 

なほは、現時点では少し有利であるにも関わらず、陣地の放棄と偽装後退を指示した。おそらく相手はこちらが被害に耐えられず、再編成のために後退を始めたと考えるだろう。そうなれば予備戦力である第三波も含めて、一気に中央突破を狙ってくるはずだ。あとは、こちらの機動部隊の反撃タイミングさえ間違えなければ、理想的な後手からの一撃が決まる。

 

なほ達が陣地を放棄して後退し始めた事に気づいたのか、プラウダ高校は一気に勝負を決めるために、予備として長距離砲撃に徹していた第三波が前進を始めた。また、一端後退していたプラウダ高校のT34-85も第三波と合流して前進を開始する。防衛線の左翼と右翼で未だに頑張っている第2、第3小隊は、中央に突撃してくる部隊の全容を隊長であるなほに連絡した。

 

「こちら第3小隊の吉村。中央に進撃中の部隊は、第三波部隊全てとT34-85が三両だ。現在、退避した陣地まで800mの位置まで来ているぞ。先頭がJS-2、とT34-85、そして最後尾にKV-2、JSU-122、JSU-152が居るぞ。速度が違うようだから、だいぶ後続と先頭集団の間は空いているようだな。おそらく先頭集団は、あと2分もすれば隊長達の居る所に到着すると思うぞ。」

 

右翼部隊を纏める第3小隊から連絡を受けたなほは、『こちらの作戦通りに敵がかかった』と考えていた。敵は中央部分を厚くして、一気にこちらの突破を行うつもりのようだ。あとは突撃してきた敵の中央に対して一斉攻撃を行い、それに怯んだ瞬間を狙ってこちらの反撃部隊を敵に突入させるだけだ。そう考えたなほは、黒森峰女学園の各部隊に作戦開始の命令を伝える。

 

「現刻をもって『夏の嵐作戦』を開始する。防御線中央部隊は、敵が丘の上に顔を出した瞬間を狙って砲撃開始。JS-2に集中砲火を浴びせて黙らせろ。真由子、こちらが砲撃した瞬間を狙って、全車突撃。後方の重戦車部隊を一気に叩け。第2小隊、第3小隊、苦しいと思うが、それぞれの前面の敵を撃破しろ。撃破した後の行動は各小隊長の判断に委ねる。頼むぞ。」

 

 

 

黒森峰女学園側 観戦席

 

 

「どうやら、一番危険な時間は過ぎたようだな。防御線の左翼と右翼は一気に戦力が半減したから、どうなる事かと思ったが、流石になほが指揮する中央は上手くやったな。これなら、さほも安心して見られるだろう。」

 

「そうですね、バルクマン。あのまま左右いずれかに戦力を集中されていたら危なかったかもしれませんが、プラウダはあくまでも中央突破に拘ったようですね。おそらく陣地を捨てて後退したという事を重く見たのでしょう。そういう意味では、なほの読み勝ちでしょうかね。」

 

西住流師範のさほが言う通り、プラウダ側が防御線の左右いずれかに戦力を集中させ突破を図っていれば、なほは防御線を構成する戦力の配置転換などに追われていただろう。そして、その配置転換の混乱がどのように転んだか分からない。しかし、プラウダ高校はあくまでも黒森峰女学園の陣地の中央突破を狙ってきた。

 

「さほさんの言うとおり、わざわざ時間をかけて作った陣地を放棄してまで急いで後退する姿を見れば、あと一歩で防御線を突破できると考えても不思議ではありませんね。おそらく、プラウダが斜面を登りきった地点で一気に反撃に出るのでしょうが、このまま行けば理想的な『後手からの一撃』になりそうですね。」

 

カリウスも、戦況をモニターで見ながらさほの意見を肯定した。プラウダ側が丘を登りきった時点で、おそらく戦況は一気に変わる。防御線の中央部隊は既に逆斜面側で攻撃態勢に入っているし、黒森峰女学園の機動戦力であるパンター8両も、既に突撃体制を取っている。こちら側も既に5両に撃破判定が出ているが、ここから先は一方的な展開になるだろう。どうやら、イワンの戦車が完全に殲滅される姿を見る事が出来そうだ。こんな素晴らしい物を見られる機会はそれ程ない、ならば我々もおおいに盛り上がって楽しもう。そう考えたカリウスは、席を立ち上がると、大戦中に歌い慣れた戦車隊の歌を歌い始めた。

 

Ob's stürmt oder schneit,  (嵐の日も雪の日も)

Ob die Sonne uns lacht,   (太陽 我らを照らす日も)

Der Tag glühend heiß    (炎熱の真昼も)

Oder eiskalt die Nacht.   (極寒の夜半も)

Bestaubt sind die Gesichter,(顔が埃にまみれても)

Doch froh ist unser Sinn,  (我等の士気は旺盛ぞ)

Ist unser Sinn;       (我等の士気は旺盛ぞ)

Es braust unser Panzer   (戦車は轟然と)

Im Sturmwind dahin.     (暴風の中を邁進する)

 

カリウスがPanzerliedを歌い始めたのを見て、バルクマンやさほも立ち上がり、一緒に歌い始める。それをきっかけに、観戦していた黒森峰女学園の生徒や西住流の門下生達も、一緒になって歌い始め、やがて観戦席を包み込むようなPanzerliedの大合唱となった。歌が佳境に入る頃、観戦席のモニター画面にはプラウダ高校の突撃隊が丘を登りきる姿が写る。いよいよ黒森峰女学園の反撃の時がやってきた。

 

 

「第一小隊、砲撃開始! Feuer !」

 

「パンター全車、敵を追い落とせ! Panzer Vor !」

 

 

 




本物の機動防御作戦はこんな数では出来ないため、『後手からの一撃』を主眼にした作戦で黒森峰女学園は戦っています。ですから、機動防御なのに黒森峰女学園の防御線がちゃんと機能しているというツッコミは無しの方向でお願いします。プラウダ側の攻撃がチグハグな感じもしますが、プラウダ側は隊長が全て後方から統制しているために、前線は自由に動けないという雰囲気を少しでも出せれたらな…と思い、このような感じにしました。また黒森峰女学園側は、本編で大洗が決勝戦でやったような陣地を構築していますので、通常よりも防御力は高めになっています。

考えてみますと、東部戦線で数的に同数か優勢のドイツ軍がソ連軍に敗北した事、ほとんどない気がするんですよね^^;。ですから、戦車の数が同数の戦車道の場合、黒森峰女学園側の指揮官になんらかのアクシデントがあったり、プラウダ側が余程優秀な指揮官が指揮をとっていない限り、負けない気がしました。今回、プラウダ側の戦車としてISU-152などを出場させていますが、自走砲もルール的に大丈夫なのでしょうかね?もっとも、あれはカテゴリーとしては自走砲ですが、実態は駆逐戦車のようなもんだと思っていますが^^;。

次回が、おそらく第二部の最終回になると思います。今回も読んでいただきありがとうございました。

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