学園艦誕生物語   作:ariel

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以前に書きましたように、ここからは知波単学園ではなく黒森峰女学園と西住流に主役が移ります。黎明期の黒森峰女学園は、ガルパン時代の黒森峰女学園よりも部隊運用能力が高い設定にしています。

今回の準決勝では、少ししか片鱗を見せていませんが、部隊を分ける作戦にも柔軟に対処できる小隊指揮官が揃っていますので、そう簡単に負けるような事はありません。


第23話 完勝

 

黒森峰女学園 宿舎

 

戦車道第1回大会は全ての一回戦が終了し、準決勝の組み合わせが出揃った。ソ連がバックアップしているプラウダ高校とポーランドのマズルカ高校の対戦、そして黒森峰女学園はまさかの勝利をおさめたマジノ女学院と対戦する。プラウダ対マズルカの戦いは、プラウダが圧倒的に有利だと言われているが、プラウダ側も一回戦で戦ったアメリカがバックアップをしているサンダース高校との対戦で、かなりのダメージを受けており、整備に問題が残っていた。ちなみにプラウダ高校に負け、ソ連との代理戦争に負けたアメリカは、優秀な搭乗員の確保を痛感し、自分達が作ったサンダース高校の上に大学を新設することで、より優秀な生徒を集める方針を取ることになる。また今回のダメージを完全に回復する前に準決勝を戦わなくてはならなくなったソ連も、大会運営に口を出し、次回の大会からは対戦の間を長めにとる事も決まった。この提案には、プラウダ高校だけに限らずマジノ女学園なども賛同していたと言われている。しかしいずれにせよ、今回の大会では整備が不十分なまま準決勝にのぞまなければならない事は変わらず、プラウダ高校も一抹の不安が残っていた。

 

準決勝を明日に控えた黒森峰女学園の宿舎では、少し前まで西住流で指導をしていたドイツ人教官達が訪問しており、西住流から入学した生徒達は久しぶりの再会を喜んでいた。彼等が日本に滞在していた頃に通訳をしていたコンラートも、そのまま日本に残ることを選択していたため、久しぶりに彼らと再会出来て喜んでいた。

 

「よぉ、元気にしてたか?なほ。相変らずお前は真面目というか固いというか…もう少し明るくならないと駄目だぞ。隊長というのはムードメーカーでもあるんだからな。俺をみて見ろ、こうやって無理を…」

「しておらず、それが地ですよね、曹長は。なほさん、元気そうですね。一回戦は見ていましたよ。相手も素晴らしい技量を持っていましたが、あなたの冷静な指揮は十分合格点だと思います。」

 

なほを直接指導していたバルクマン元曹長とカリウス元中尉が、なほに挨拶した。なほも久しぶりの再会にうれしそうに表情を崩し、二人と握手をする。

 

「教官殿、わざわざ日本まで来ていただいて、本当にありがとうございます。一回戦、少し不覚をとりましたが、それでもなんとか私達の今の実力をお見せ出来たと思います。」

 

なほは、知波単学園にパンターを撃破され不覚をとったと考えていたが、バルクマンは笑ってそれを否定する。

 

「なほ、あれは相手が一枚上手だった。あの距離からこっちの主砲が避けられたんだ、相手を褒めるしかないだろうよ。それを差し引いても十分お前はやったと思うぞ。まぁ、済んだことはどうでもいい。次だ、次。相手はマジノ女学院とかいう蛙さん達だ。まぁ、普通にやれば問題ないんだが、二両ほどズルしているからな~、あれはちょいとやっかいだぞ。カリウスはどう思う?」

 

バルクマンとカリウスは、一回戦のマジノ女学院対聖グロリアーナ女学院の試合を見ていた。二人とも聖グロリアーナ女学院が圧勝するだろうと考えていたが、結果はまさかのマジノ女学院の勝利。そしてマジノ女学院が使用した戦車を見ていると、二人もあまり知らない強力な戦車が出場していた。試合後、二人はマジノ女学院が使用したARL44について調べたところ、自分達が降伏してから作られた戦車だということが判明し、ルールぎりぎりの戦車だなと考えていた。これについては、西住流の師範である西住さほも、試合後すぐに審判団に確認をとっていたが、ドイツ降伏後も大日本帝国は降伏しておらず、第二次世界大戦は継続していたとの理由から、今回マジノ女学院が使用したARL44は、ルールの範囲内だと判定が出ていた。

 

「たしかにあの戦車は強力で、単体としてはやっかいでしょうね、曹長。しかし二両しかないようですし、どうやら狙撃をメインに戦っているようですから、それほど脅威にはならないと思いますよ。きちんと偵察を行い、あの2両の場所さえ判明してしまえば、あとは数と機動力に物を言わせて攻撃してしまえば、それほど長くは持たないでしょう。それに…我々の真の敵はその後に控えているイワン達です。フランス如きに遅れを取るような生徒を私はもった覚えはありませんよ。」

 

バルクマンの疑問にカリウスが答える。それを聞いていたなほは、準決勝の編成に、偵察用の戦車として機動力の高い三号戦車を何両か組み込む事を考えた。

 

「教官殿、ありがとうございます。教官殿に言われた事に気をつけて準決勝は戦います。それで一つお願いがあるのですが…。私は準決勝もそうですが、勝ち抜いたら決勝でもティーガーIに搭乗しようと思っています。それで…できたらカリウス教官の戦車の番号をマークさせてもらえませんか?」

 

「私の番号というと、217番ですか?それは構わないのですが…。なほさん、あなたは作戦立案も上手いですし、指揮能力も高いと思います。しかし、あなたの本質は一人でも卓越した機動で戦える部分。どちらかというと、私よりも西部戦線で戦死したミハエル・ヴィットマン大尉に似ているのではないかと思うのです。ですからあなたさえ良ければ、私の番号ではなく、彼の212番をマークしてみてはどうですか?」

 

カリウスはなほに告げる。西住流本家でなほを教えていた頃、小隊指揮や中隊指揮で才能の片鱗を見せていたが、カリウスがなほに最も驚いたのは、自分の戦車を巧みにあやつる姿だった。

 

「あの…やっぱり217番は、私にはふさわしくないでしょうか?」

 

しかしなほは、カリウスの番号をマークする事をカリウスに拒否されたと感じていた。

 

「いえ、なほさんそうではありません。あなたはドイツの戦車乗りにとって、真のエースであるミハエル・ヴィットマンの番号の方がふさわしいと私は言っているのです。そうですね…私の番号は、副隊長の戦車にでもマークしてください。」

 

カリウスは笑ってなほに答える。ヴィットマンの番号が隊長車で、自分の番号が副隊長車。こんな組み合わせが本当に実現していたら、面白かったかもしれないな…とカリウスは昔を思い出した。しかし、これを全く面白いと思わない人間もいた。

 

「おぃ。俺様の424番の方が良くないか?」

 

バルクマンは少し拗ねた感じでなほに提案する。しかし、それに答えたのはカリウスだった。

 

「曹長の番号は偉大すぎてなほさんには使えませんよ。しかし…なほさん、曹長も拗ねているようですから、第二小隊の小隊長車にでも424番をマークしてあげてください。」

 

「お…お前等。覚えておけよ。俺様の番号が第二小隊で、カリウスの番号が副隊長っていうのは、納得いかねぇよ!」

 

この会話がきっかけになったのかどうかは定かでないが、これ以降、黒森峰女学園の戦車隊では、隊長は212番がマークされたティーガーIに搭乗し、副隊長は時代によって変わる事もあったが、多くの場合217番をつけて戦う事になる。

 

「ところで、今回ハインリツィ閣下はいらっしゃらないのですか?」

 

なほは、バルクマンとカリウスに質問した。西住流の本家で彼等に教育を受けていた頃、ハインリツィ元上級大将には、機甲部隊の部隊運用方法や、戦車隊全体の作戦立案などを教えてもらっていた。なほは、西住流の生徒の中でもとくに優秀だったこともあり、ハインリツィには可愛がられていたため、彼に再会できる事を楽しみにしていた。しかし残念ながらハインリツィはドイツに残っているようで、今回再会は出来なかった。

 

「あ~、閣下も年齢が年齢だからな。流石に日本までの長い船旅は堪えるみたいだ。そういえば、閣下からなほに渡すように頼まれていた物があったな、ちょっと待っていてくれ」

 

バルクマンはそういうと、ここに来るために乗ってきた自動車に戻り、後部シートから青い花が咲いた植木を一つ取り出した。

 

「教官殿、この花は?」

 

「なほさん、この青い花は我がドイツのKornblumeという花です。たしかこちらでは、矢車菊と呼ばれていたと思います。ハインリツィ閣下からは、もうおそらく日本に行く事は出来ないが我々の教えを忘れないようにという願いを込めて、この花をあなたに渡して欲しいとお願いされました。」

 

なほの疑問にカリウスが答える。今回は、自分達二人は再び日本に来る事が出来たが、そう何度も日本に足を運ぶ事は出来ないだろう。自分達が直接教えたのはなほ達の世代だけだが、その教えを後々まで伝えて欲しい。それを忘れないでもらうために、ドイツの花をなほ達の傍に置いてもらいたい。ハインリツィから花を渡すように依頼された時、バルクマンやカリウスも同じような気持ちだった。

 

「教官殿、ありがとうございます。ハインリツィ閣下にも決して教えは忘れませんと伝えてください。私が再来年学園艦に移動することになりましたら、この花を学園艦に植えて大切に育てていきます。いつか、この青い花が黒森峰女学園に咲きほこる時が来たら、その時は見に来てくださいね。」

 

なほは、ハインリツィからの贈られた青い花の植木を大切に抱えた。

 

 

 

準決勝 黒森峰女学園 隊長車

 

 

「Panzer Vor ! (戦車前進!)」

 

なほの合図に従い、黒森峰女学園の戦車隊がパンツァーカイルを形成して突き進む。準決勝は20両同士の勝負であるが、黒森峰女学園はそのうちの5両を三号戦車にして偵察の任務を与えていた。そして残りの15両は、なほのティーガーIを中心にパンツァーカイルを作り前進している。結局、マジノ女学院は一回戦での聖グロリアーナ女学院との試合のダメージを完全に回復する事が出来なかったようで、準決勝に登録されたARL44は1両だけだった。また、なんとか20両の戦車を掻き集めていたが、その多くはルノーD1やD2といった旧世代に属する戦車であり、黒森峰女学園にとって脅威になる戦車はそれ程なかった。しかし士気だけは異常に高いようで、なほは黒森峰女学園の戦車隊に油断はするなと改めて伝えている。

 

「隊長、マジノ女学院は前回の試合で速攻をかけてきたと思います。こちらも三号戦車は相手の速攻に備えて近くに置いておいた方がよくありませんか?」

 

副隊長の島田真由子が、なほに通信を送ってきた。試合開始前の作戦会議で既にこの事は決定済だったが、それでも副隊長の真由子は心配に思ってなほに伝えてきたようだ。

 

「真由子、さっきも言ったと思うが、今回に限って言えばそれはない。前回マジノ女学院が速攻を出来た理由は、聖グロリアーナよりも全体的な機動力が優っていた事と、一回限りの奇襲だったからだ。今回はもう手の内は見られていて奇襲は通用しない、それにこちらの方が機動力は上だ。だから余程の愚か者が隊長をしていない限り、フランスの定番である超守備的な配置で戦おうとしているだろう。それに…仮にも聖グロリアーナ女学院に勝ったのだから、愚か者ではないと考えた方が無難だろう。全車作戦どおりに動くように。偵察任務の戦車は指示通りの地点を中心に警戒にあたれ、ただし敵を発見しても深追いはするな。どうせ向こうは、それ以上逃げられないからな。」

 

なほは改めて三号戦車5両に偵察に向かうように指示を出した。なほの指示で、三号戦車はそれぞれ割り振られた地点に向かって散っていく。しばらく時間が経過した頃、一両の三号戦車から、敵の前哨線を発見し攻撃にあっているという通信が入った。なほは、三号戦車の現在位置から敵の前哨線が存在していそうな地点を予想し、その場所に向かって残りの三号戦車を移動させた。

 

10分程経過した頃、偵察に出した5両の三号戦車から次々に敵を発見したという知らせが入ってきた。その配置を地図に書き込んでいったなほは、本隊に更なる前進を指示した。西住流の本家に居た頃、教官であるカリウスからは耳が痛くなる程偵察の重要さを指導されていたため、なほはこの点については全く手を抜いていなかった。その結果、全戦力の1/4を投入した偵察戦力によって敵の前哨線はほぼ解明できた。前哨線の位置が分かってしまえば、敵の本隊が居そうな場所も粗方絞り込める。そして敵の配置や数もほぼ予想出来たため、なほは勝利を確信した。どうやらマジノ女学院は伝統的な守備的布陣をしているようだ。これまでに8両程の快速戦車が前線で見つかったということは、敵はおそらく10両程度を前線に出して警戒体制を敷いている。そして残りの10両が本隊だろう。

 

「本隊の全車に連絡、これより敵の前哨線を一点突破し敵本隊を殲滅する。前哨線突破の際は相手の撃破を無理に狙う必要はない、突破する事だけを考えろ。機動力こそが我々の生命線だ。相手の前線部隊が戻ってくる前に本隊を叩く。いくぞ!」

 

 

 

黒森峰女学園 観戦席

 

 

「よし、これで勝ちだな。しかし蛙さん達、今回はなんというか…元に戻った感じだなぁ。前回の聖グロリアーナ女学院との戦いで見せたような強さが見られんぞ。そう思わないか、カリウス。」

「そうですね。頼みの綱だったARL44が1両しか居ないのは分かりますが、前線に半分も戦車を置いてしまっては、いざという時の本隊の打撃力が足りなくなります。たしかに残った1両のARL44で狙撃をするためには、何処から我々が攻撃に出るかをいち早く知る必要がありますが、この配置はあまりにもバランスが悪いでしょうね、曹長。」

 

バルクマンとカリウスは黒森峰女学園の観戦席で試合の様子を見学していた。モニター画面に、なほの率いる黒森峰女学園の本隊が、丁度マジノ女学院の前哨線を強行突破していく姿が映っている。なほはパンツァーカイルの陣形のまま、マジノ女学院の前線の一角を形成していたソミュアS35を一両撃破すると、他の敵には目もくれずに、そのまま敵本隊が居ると思われる場所に向かって進撃を続けている。その姿を見た二人は、黒森峰女学園の勝利を確信していた。

 

「どうですか、うちの娘は?ちゃんとお二方の教育の成果は出ていますか?」

「お、さほか。なほは頑張ってると思うぞ。今回の戦車隊の編成も、おそらくこうなる事を予想していたんだろう。ティーガーIIは使わずにパンターを増やしてるからな。なほのティーガーIの機動力がちょっと問題かもしれんが、それでも蛙さん達相手なら十分に機動力で優位に立てるし、大丈夫だろう。問題は次のイワン共との戦いだよな。」

「そうですね、曹長の言うとおりで、隊長車のティーガーIは機動戦には向きませんが、フランスの戦車相手なら何も問題ないでしょうね。もっとも、決勝戦で当たることになるプラウダ高の時に機動戦を行うのでしたら、少し考えないといけませんけどね。」

 

西住流師範のさほがバルクマン達に話しかける。彼等が西住流本家で指導を行っていた頃、三人はよくこんな感じで練習試合を見たり戦車の話をしていた。久しぶりにまた三人で観戦して話が出来るということで、師範のさほも今回の大会を楽しみにしていたのだ。また、彼等二人の中では既にこの試合は終わった事になっているのだな…と理解できた。そうこうしていると、黒森峰女学園とマジノ女学院の本隊の戦いが始まった。

 

 

黒森峰女学園 隊長車

 

 

「前方、敵本隊発見。真由子、ここで敵本隊を殲滅する。四号戦車を7両連れて右から周りこんで敵の側面をうかがいつつ退路を断て。一両たりとも逃がすな。残りのパンター6両は正面から敵を粉砕する。主砲榴弾装填 Panzer Vor …撃て!」

 

なほは敵の本隊の姿を発見すると、主力であるパンター戦車のみを連れて一気に最大速度まで増速した。そしてある程度距離を詰めた時点で一斉砲撃を行なった。マジノ女学院の主力戦車隊は隊長のパトリシアが搭乗するARL44の他は、ルノーB1bisや中戦車のD1やD2であり、ドイツ軍のティーガーIやパンターに対抗出来る力はなかった。最初の一斉射撃の砲撃による直撃こそなかったが、榴弾による射撃のため至近弾が多数発生し、マジノ女学院の戦車隊は身動きが取れない状態に陥った。パトリシアの搭乗するARL44も本来は狙撃行動に移っていたはずなのだが、至近弾による土煙で目標をロストしてしまい砲撃が出来なくなった。このままでは一方的に捕殺されると感じたパトリシアは、砲撃後の一瞬の空白を見計らって、黒森峰女学園の本隊に向かってARL44を先頭に全車突撃の命令をくだした。

 

「やはり突撃してきたか。流石に聖グロリアーナに勝っただけの事はある。この状態からこちらに突撃出来るということは、それだけ士気が高く指揮系統が確立しているということか…だが、相手が悪かったな。」

 

なほはマジノ女学院の突撃を見て、冷静に攻撃を指示した。突撃されて混乱してこちらの隊列を乱してしまえば相手の思う壺だ。黒森峰女学園は集団戦闘や連携戦術に訓練の多くの時間を費やしてきただけあって、余程の事がない限り隊列を乱すような混乱は生じない。

 

「全車、先頭の大型戦車を狙え。あれが敵の隊長車でありマジノ女学院にとっての切り札だ。あれを撃破してしまえば敵の戦意も落ちるだろう。装填準備が出来次第、各個に射撃しろ。」

 

なほの指示に従い、正面から進撃中の7両は、マジノ女学院の隊長車に砲火を集中させた。パトリシアの搭乗するARL44はあっという間に多数の命中弾を受け、染色弾による染料が戦車のあちらこちらに付着した。ARL44も撃破される瞬間、最後の砲撃を行い、黒森峰女学園のパンター1両に撃破判定を与えたが、抵抗もそこまでだった。

 

「マジノ女学院 隊長車 被弾多数 判定撃破」

 

突撃の先頭を走っていたARL44に撃破判定が出て、これまで常に指示を出してきた隊長のパトリシアが退場してしまったため、マジノ女学院の突撃隊には、遠目からでも分かる程動揺が走っていた。そしてその動揺を見逃すほど、なほは甘い指揮官ではなかった。

 

「真由子、敵右側面から攻撃を開始しろ。その距離なら一方的に攻撃出来るはずだ。本隊はこのまま正面から敵車両を砲撃。数はこちらが上だ。二両で相手の一両を撃破していけ。」

 

真由子が率いる別働隊が右側面から砲撃を開始したのと同時に、正面のなほの部隊も砲撃を再開した。マジノ女学院の本隊はあっという間にその数を減らしていく。

 

「真由子、敵背面に向けて部隊を展開させろ。本隊は敵左側面に向かって展開。敵を包囲する。」

 

なほの指示に従って、黒森峰女学園の戦車隊は両翼を伸ばし、完全に包囲する体制に入った。包囲下のマジノ女学院の戦車隊は円陣を作って最後まで抵抗し、四号戦車一両を撃破したが、ティーガーIやパンターの主砲の前に次々と撃破されていき、文字通り全滅した。マジノ女学院の本隊が全滅したことを見届けたなほは、自分達の後背にせまっているであろう別働隊を撃破するために部隊の再編成を急いだ。

 

その頃、マジノ女学院の前線を作っていったソミュアS35の部隊は副隊長のミシェルの指揮の下に、残された戦車が全て集結していた。その数は副隊長車も含めて9両。当初、本隊の危機を知ったミシェルは、ソミュアS35を各個に本隊救援に向かわせる事も考えていたが、想定以上に早く本隊が崩されてしまったため、本隊の救援を断念し、残された全戦車の集結を優先させていた。しかし味方が集結する事には成功したが、敵の偵察車両である三号戦車にも接敵されており、その位置は刻々と黒森峰女学園の本隊に連絡されていた。

 

「偵察小隊に連絡。本隊は再編成を終え、これより敵別働隊の撃破に向かう。本隊の攻撃に呼応して、敵別働隊に対して攻撃に移れ。真由子、四号戦車の指揮を頼む。今度の敵は機動力があるが、三号と四号ならば問題ない。本隊は敵と正面から撃ち合うから、四号戦車を率いて背後に周り込め。挟撃の可能性があれば挟撃して欲しいが、無理ならば敵の退路だけでも塞いでくれ。それでは前進!」

 

なほのティーガーIに率いられ、パンター5両が横一列の隊形で敵の別働隊に向かった前進していく。また、真由子の四号戦車の部隊は大きく周りこむようなルートで敵の後背を目指して最大速度で進んでいった。

 

数分後、敵の別働隊にめがけてティーガーIとパンターの隊列から一斉に砲撃が開始された。横一列の隊形のため、その最大火力が前方に叩き込まれる。ソミュアS35は二列の横隊を作って対抗していたが、火力の圧倒的な差に徐々に後退を始めた。黒森峰女学園側は、マジノ女学院が後退を始め少し隊形が乱れた隙をついて、偵察部隊であった三号戦車を横合いから突撃させた。

 

「隊長、偵察部隊、左側面より突入を開始しました。このまま右側面に抜けるとのことで、誤射に気をつけて欲しいとのことです。副隊長の部隊は移動にもう少し時間がかかるそうです。」

「あそこまで隊列が乱されてしまえば、そう簡単には退却も出来ないだろう。真由子には急ぐように伝えろ。本隊はこのままゆっくり前進して前方から圧力をかけていく。撃破しやすい距離に居る敵車両を優先して撃破していけばいい。ここまで来たのだ、最後の詰めを誤るな。」

 

なほの指揮の下、ティーガーIとパンターは次々とマジノ女学院のソミュアS35を打ち抜いていく。三号戦車の突撃により隊列を攪乱され、更に正面からはティーガーIやパンターの正確な射撃を受け、マジノ女学院の別働隊は前進も後退も困難な状況に追い込まれていった。そしてついに黒森峰女学園の放った最後の矢が戦場に到着した。

 

「隊長、お待たせしました。四号戦車部隊これより敵の後背より攻勢に移ります。」

「真由子、既に勝敗は決している。あとは被害をなるべく受けないように勝つだけだ。まだ決勝戦がある。余計な被弾を受けないように気をつけろ。」

 

勝敗は完全に決した。

 

「試合終了。黒森峰女学園の勝利!」

 

 

 

黒森峰女学園 観戦席

 

「終わりましたね。20両同士の戦いで、こちらの被害は2両ですから、完勝と言っても過言ではないでしょう。決勝戦に向けて良い勝ち方が出来ました。」

「次回の大会からは試合の間隔がもっと開くようだから、問題ないのかもしれんが、今回の大会は間隔がほとんどないからな。応急修理で次戦を戦わなくてはいけない以上、なるべく少ない被害で勝たないと大変な事になる。蛙さん達も完全な状態であれば、もう少し戦えたんだろうが、一回戦の被害から完全に回復していなかったようだな。」

 

試合終了を受けて、カリウスとバルクマンは黒森峰女学園が完勝に近い形で勝利したことに満足していた。決勝戦の相手は十中八九、宿敵ソ連がテコ入れしたプラウダ高校になるだろう。そのため少しでも被害を少なくしてこの準決勝を勝つ必要があったため、今回の結果は、二人にしても満足のいくものだったようだ。

 

「本当の事を言うと、四号戦車や三号戦車は多少この戦いで被害を受けても問題なかったのですけどね。決勝戦はおそらく重戦車で戦車隊を編成して勝負することになるでしょうから。」

 

西住流師範のさほは、少し異なる意見だったようだ。たしかに無傷で勝てたのであれば、それに越した事はないが、最悪被害を受けていても決勝戦では異なる車両を中心に戦えば良い。巨大流派である西住流が後ろについているだけあって、黒森峰女学園は多くの戦車を持っているために言える台詞だった。

 

「明日の準決勝の戦いで相手が決まるが、イワン共も流石にポーランドには負けんだろう。そうなると、最初に予想していた通りの決勝戦になりそうだな。」

「そうですね、曹長。それに私達国防軍は、数的に圧倒的劣勢であっても東部戦線をかなりの時期まで守り抜いたのですから、同数で戦うこの大会で遅れをとるような事はないでしょう。決勝戦は楽しみですよ」

 

ドイツからやってきた二人は、楽しそうに会話をしている。二人は、ドイツの戦車がソ連の戦車を叩き潰す所を見るために、わざわざ日本にやってきた。どうやら決勝戦でその願いは叶いそうだと考えているのだろう。同席していたさほは、決勝戦が始まる前に今一度なほに、決勝戦では特に油断しないように伝えなければならないと考えていた。西住流にとって恩人である二人の前で、よもや最大のライバルであるソ連の戦車に負けるわけにはいかないのだから。

 

 

 




ここからは、西住流&黎明期の黒森峰女学園の戦いになります。外伝4であれだけ活躍させたマジノ女学院をある意味瞬殺させなければならなかったため、作者としては断腸の思いなのですが、このような形で黒森峰女学園に完勝させました。また、本文中にマジノ女学院側から見た様子は全くなかったわけですが、そちら側から書きますとある程度はパトリシア達を活躍させなくてはならなくなるため、今回は黒森峰女学園側からのみで書いています。

これは個人的な認識なのですが、ドイツ機甲師団の強さは、勿論戦車も強いのですが、最大の強みは中級指揮官や下級指揮官の質かな…と思っています。ガルパン本編では、部隊をあまり分けずに、西住まほがほとんど全部隊を率いて戦っていましたが(エリカさん、もっと頑張らないと…)、市街戦で西住まほの統制から離れると一気に崩れた印象があります。

しかし本当は、あのような小部隊に分かれてからの戦いこそがドイツの最大の強さだと思うわけでして…そんな事もあり、黎明期の黒森峰女学園は、直接ドイツの元軍人から手ほどきを受けていた設定のため、他の高校では出来ないような小部隊運用が可能な高校という形にしています。ですから、今回マジノ女学院はパトリシアが撃破されて一気に崩れましたが、黒森峰女学園ですと、例えなほが撃破されても、おそらくほとんど崩れないだろうと思います(違う理由で知波単学園も崩れないでしょうが^^;)。史実でも東部戦線が一進一退の頃は、ソ連の大部隊に対して、ドイツ軍は上手に部隊運用して機動防御などにより対抗していたわけですから、それ程無茶な設定ではないな…と考えています。

今回も読んでいただきありがとうございました。

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