学園艦誕生物語   作:ariel

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第18話 試合開始

同日 練習試合 開始地点

 

東富士演習場の中心地点に、両校の代表者と審判長が試合開始の挨拶のために集まっていた。知波単学園からは、隊長である村上早紀江と高橋節子、そしてマジノ女学院からも二人の少女が来ていた。

 

「あら、あなたが知波単学園の隊長さんね。もう先の戦争も終わってしばらくしていますし…帝国陸軍の格好なんて今時もう流行らないわよ。もっと、私みたいにスタイリッシュな装いをした方がよろしいのではなくって?あ、自己紹介がまだでしたわね。わたくし、マジノ女学院の戦車隊隊長をやっております、服部佳奈と言いましてよ。普段は、パトリシアと呼ばれているので、そちらで呼んで頂けると嬉しいのですけど。そして、こちらは副隊長の道重雅代よ。普段はミシェルと呼んでいますけどね。今日は、お互いに優雅に楽しみたいものですわね…もっとも、貴方たちのように野暮ったい格好をしている子に、優雅さなんて分からないのでしょうけれどね…あら、失言だわ。ごめんあそばせ。」

 

いきなりの無礼な先制パンチに早紀江は、頭がクラクラしてきた。こんなフランス被れの偽お嬢様は徹底的に叩き潰してやると内心で思っていたため、出てきた言葉もまた過激だった。

 

「私は、知波単学園戦車隊隊長の村上早紀江です。そして、こちらは副隊長の高橋節子です。今日は練習試合を私達に申し込んでくれて、本当にありがとうございます。わざわざ私達の踏み台になるために、遠路はるばる来ていただいて本当に感謝しています…。まぁ、せいぜい泥まみれになって、私達の踏み台になってくださいね。」

 

そこからは、審判長が止めに入るまで両校の副隊長も巻き込み大騒動となった。両校の顔合わせは最悪の形で終わり、試合開始の礼もそこそこに、お互いの戦車隊にところに戻っていく。

 

「いいですこと! あんな野蛮で下品な未開人達に私達フランスの教えを受けた高貴な人間が負けるはずはありません!ソミュア部隊は前方に進出して警戒線を形成しなさい。主力部隊はしばらく待機。網にかかったら全車で包囲して、徹底的に叩き潰して、ボロボロにしてやりますわよ! Les char de combat .. avance ! (戦車隊 前進!)」

 

「大和撫子のつつましさまで売り渡した蛙食いの手先に、負ける訳にはいきません!。今回は全力で叩き潰してやります。まずは敵の機動戦力を吊り出します。捷一号作戦開始です。戦車隊、進め!」

 

試合開始の合図と共に、両校の戦車が動き出した。

 

 

 

観戦席

 

 

「池田さん、いよいよ始まりましたね。それにしても練習試合は何も制約なしで戦うと言っていましたが、本当に凄い戦力を出したのですね。あの戦力差ですと、マジノ女学院が勝つ可能性などほとんど残っていないでしょう。」

 

「西住さん、しばらくぶりですね。今回の練習試合は勝つつもりで編成しているようですから、勝ってもらわないと困りますよ。それに辻さんも来ていますが、他にも旧帝国陸軍の方も多く見に来ていますから、負けられませんよ。」

 

美代子が答えたように、今回は久しぶりに開催された戦車道の試合のため、練習試合にも関わらず観戦席は満員だった。観戦席には帝国陸軍の元軍人らしき人物も大勢見られ、天気も良いためか既に酒も入っているようで、ところどころで顔を少し赤くした男達が、知波単学園の戦車の姿が見えると『帝国陸軍万歳!』『知波単学園万歳!』と騒いでいた。

 

 

そんな観戦席の様子を見ながら、池田流の家元である池田美代子と西住流の家元である西住かほが談笑している。お互いに学園艦についての実際の仕事や戦車道の指導は師範を勤める娘に任せており、自分達は戦車道発展のために協力して活動している間柄でもあるため、全く異なる思想の上にある戦車道の流派の家元でありながら、二人の関係は良好だった。

 

試合が開始してまだ序盤だが、両校共に手探り状態のようで、未だに大きな動きは出ていない事もあり、美代子とかほは勿論、見学をしている人間も談笑しながら試合の動きを見ている。また、未だ学園艦に入学していない池田流の門下生の少女達も見学に来ており、観客席の一角に集まっていた。

 

「佳代ちゃん、なかなか試合動かないね。早紀江さんも知波単学園として初めての試合だから慎重に動いているみたいだけど…、佳代ちゃんならどうする?」

 

「そうね…私だったら、この試合は砲戦車を使わずに中戦車のみで編成して、一気に全戦車で警戒線の一角を突破するかな…。今回の知波単学園は、全員池田流で修行していた子で編成しているから、相手よりは間違いなく錬度は上。相手の警戒線の一部を急襲してそのまま敵の重戦車隊に突っ込んでしまえば、錬度の差もあるし、相手が包囲を作る前に重戦車隊の殲滅は容易いと思う。あとは各個撃破ね。包囲網なんて完成しなければ各個撃破の対象にしかならないからね。」

 

美紗子は佳代の話を聞きながら、佳代が知波単学園に入学する二年後が早く来ないかな…と思っていた。自分が隊長として皆を引っ張り、佳代が副隊長として作戦を立案する、それが知波単学園戦車隊の理想的な姿になるのだろうな、と。

 

「おやおや、今回はお嬢さんたち二人とも見学ですね。本当は自分も参加したくてウズウズしているのでしょう?」

 

「あっ、辻の小父さん。」

 

二人が話している所に、辻政信がやってきた。美紗子は池田流で訓練をしていた頃から、辻とは面識があるし、佳代も辻に連れられて池田流にやってきた経緯があるため、辻は二人にとって恩人でもある。最近でこそ辻は忙しいようで、なかなか池田流本家に顔を出さないが以前は頻繁にやってきては、二人の話し相手になっていた。

 

「辻さん、知波単学園の戦車整備場に行っていたのでしょう?皆どんな感じでしたか?早紀江さん達、今回勝てそう?」

 

「佳代ちゃんも心配なようですね。みんな元気ですし、気合も入っていましたから大丈夫です。今回は知波単学園が勝つでしょうね。なんといっても作戦の神様でもある私も今回の作戦立案のお手伝いをしているのですから。」

 

辻が関係者しか立ち入りが許可されていない知波単学園の戦車整備場に入っていく所を見ていた佳代は、辻に池田流で一緒に訓練をしていた仲間達の様子を聞く。どうやら、みんな今回の試合に向けて凄く気合が入っているようだ。おそらく大丈夫だろう。しかし、口から出てきた言葉は悪態だった。

 

「…辻さんの作戦だと…すごく不安なんだけど…」

 

佳代の悪態に美紗子も辻も大笑いした。佳代がこんな悪態を吐けるという事は、この試合には余裕があるという事だということを、付き合いの長い美紗子は知っていたし、辻も佳代の本来の性格を知っているため、今はリラックスしているということが分かっていたからである。もっとも周りに居る池田流のその他の少女達の中には、将来入学予定の知波単学園初の試合を、祈るように見ている者達もいたが…。

 

そうこうしていると突如、観戦席に歓声が上がる。知波単学園の偵察任務を受けていた四式軽戦車「ケヌ」の一両がマジノ女学院の警戒線を形成するソミュアS35とついに接敵したようだ。

 




いよいよ試合開始です。相手はフランス戦車を使用するマジノ女学院。フランス戦車を調べていて思ったのですが、ここ相手なら九七式中戦車装備でも勝てそうなんですよね(笑)。今回は練習試合ということで、『強力版』の知波単学園ですから、普通に勝ちそうです。

ちなみに、マジノ女学院の隊長さんの性格ですが…フランス人ってこんな感じです。いえ、実際に私の同僚のフランス人どもと話していると、まさにこんな感じ(笑)。ところが、その彼等をしてもパリに居るフランス人は別格のようで、よく私にこう言います。

「パリはいい所だぞ、フランス人が居なければもっといい場所だけどな。」
「…(お前等よりも強烈なフランス人がいるなら、俺は絶対に行きたくないわ!)」

ということで、この性格の悪さは私の独断と偏見で書いていますので、笑って流してください。ちなみに「蛙喰い」はフランス人の蔑称ですが、これくらいの悪口は普通に言いますので、適当に笑って読んでもらえたらと思います。

今回も読んでいただきありがとうございました。

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