学園艦誕生物語   作:ariel

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外伝2-3 銀髪の少年

1954年5月初旬 ドイツ 西ドイツ首都ボン

 

それから2週間程が経過した同年の5月初旬、ポルシェから三人と数日後にボンで会う段取りがついたとの連絡をかほ達は受けた。その間、ワシントンD.Cに滞在中の服部卓四郎からも連絡があり、アメリカそしてイギリスに鹵獲されていたドイツ戦車の大半を受領する事が可能となったとの連絡を受けるなど、かほにとっては吉報が続いていた。また、かほに取っては初めての欧州での滞在であり、日本では体験出来ないような出来事も多く、ドイツまで来て本当に良かったとかほは感じていた。

 

そんな中、かほと藤村はボンでの滞在先のホテルの傍にあるカフェでいつものように珈琲を楽しんでいた。かほは日本では、珈琲を口にする事はほとんどなかったが、ボンに来てオープンテラスのカフェの席に座って珈琲を飲む楽しさに目覚めたのか、ここ数日毎日のように同じカフェに通っていた。そしてその日も藤村と楽しい午後のひと時を楽しんでいたのだが、身なりがあまり良くない銀髪の若いドイツ人らしき少年が席の近くにやってきて、いきなり日本語で話しかけてきた。

 

「すいません。日本の方ですか?いえ、日本語が聞こえたのでそう思ったのですが…」

 

身なりのあまり良くない少年からいきなり声をかけられたので、かほも藤村も一瞬緊張したが、特に危害を加えられそうな感じもなかったため、落ち着きを取り戻した。

 

「そうですが、何か御用ですか?日本語も流暢ですし…何か日本に関係している方ですか?」

 

かほが尋ねた。未だ連合国に統治されているドイツで日本語が出来る人間は珍しい。どことなく日本人のような感じも見られるが、髪は銀髪で目の色は青い少年だ。藤村は少し怪訝な顔をしていた。見た感じでは10代の子供だ。この年齢でこれだけ流暢に日本語が話せるとなると、どこかで専門の教育を受けている可能性がある。しかし、彼が生まれたのは先の大戦中か直前であろう。そんな時代から現在にかけて、どうやってドイツで日本語を学んだのだろうか…ソ連のスパイではないだろうか?ところが、藤村が内心で考えていた疑問は、少年の次の発言で氷解した。

 

「僕の父は日本人で、戦時中ベルリンの日本大使館で書記官として働いていました。残念ながら父はソ連のベルリン進攻の際に流れ弾で戦死して…また母も脱出時に行方不明になりました。状況を考えるとおそらくもう生きていないでしょう。僕は終戦後、叔母を頼ってボンまで出てきたのです。今日、町を歩いていましたら父が教えてくれた日本語が聞こえたので、懐かしくなってこうやって声をかけました…驚かしてしまってごめんなさい。」

 

「ん?ベルリンの日本大使館の書記官だと?ひょっとして、君の父上は嵯峨祐樹さんではないですか?」

 

藤村が聞き返す。たしか、彼は外務省から派遣されていた書記官で、私が赴任する前、先の大戦が始まる前からドイツに赴任していたドイツのエキスパートだ。部署が異なるため、あまり会話をした記憶はないが、同僚の話ではドイツ人女性と結婚していたという話だ。そして、私がソ連のベルリン進攻直前にスイスに脱出した際、ベルリン大使館残留部員として最後まで大使館に残る役目を引き受けていたはずだ。そうか…その時に亡くなっていたのか。

 

「はい!嵯峨祐樹は僕の父です。何故、ご存知なのですか?」

 

少年が驚きに満ちた様子で藤村に尋ねる。

 

「私は、君のお父さんの元同僚…になるのかな。私も先の大戦時にベルリン大使館に居たのだよ。君の名前は?」

 

「はい、コンラート・サガ・シュスターと言います。まさか、父の同僚の人にここで会えるなんて…」

 

コンラートは勿論の事、藤村やかほも非常に驚いた。父親が日本人であれば、この少年が日本語をこれだけ流暢に話せるのも当然だろう。更に話を聞くと、コンラートは現在16歳で、叔母の家で生活はしているものの、このご時世では仕事も特になく生活は困窮しているという話だ。藤村は、少年の今の境遇に同情した。父親は自分の同僚であった人間で同じ日本人だ。ここで会ったのも何かの運命だろう。何か助けてやれないだろうか?ところが、かほも同じような事を考えていたようで、しかも名案を思いついたようだ。

 

「コンラート君。もし良かったら、私のためにドイツ語と日本語の通訳をやってもらえますか?これまで、同行している藤村さんが通訳をしてくれていたのですが、いつも藤村さんにお世話になるという訳にも行かないのです。あなたさえ良ければ、明後日ドイツ人と会合があるのですが、その時の通訳をお願いしたいのです、勿論、給料は私が払います。」

 

かほはコンラートに提案した。なるほどこれは名案だ、と藤村も考える。施しを与えてもコンラートもプライドがあるだろうから、受け取らないだろう。しかし仕事をしてもらうのであれば、話は別だ。それに、彼はドイツ語も日本語も問題なく使える。

 

「本当に僕でいいのですか?はい、精一杯頑張りますので、よろしくお願いします。」

 

コンラートは頭を下げた。かほは、コンラートに明後日の会合の場所と時間を伝え、必ず時間前に来るように念を押した。コンラートは仕事を与えてもらった事に感謝し、予定の時間には必ず行くことを約束してから、家に戻っていった。

 

「西住さん、気を使わせてしまって本当に申し訳ありませんね。本当は私がなんとかしなくてはいけないのですが…。当日は、私もコンラート君がヘマをしないようにバックアップはしますよ。それにしても、こんな所で元同僚の忘れ形見に会う事になるとはね…こんな事もあるのですね。」

 

「そうですね。私達の同胞の子供が困っているのですから、同じ日本人として助けなければと思ったこともありますが…私も今年10歳になる孫娘がいるので、どうしてもあれくらいの年齢の子が苦労していると、なんとかしたいと思ってしまうのですよ。」

 

かほは藤村の独白に答えた。かほの孫娘である西住なほは、終戦の前の年1944年に生まれ、今年で10歳になる。彼女にとって祖父になる小次郎は既にこの世には居ないが、両親は共に健在。そういう意味では孫娘は終戦直後の混乱期を経験しているが、まだ恵まれている…とかほは思った。

 

「西住さん、もし西住さんが良いようでしたら、彼を日本に通訳として連れて帰ったらどうですか?これからドイツ人の教官とお会いし、場合によっては…いえおそらく、日本に来てもらって西住流の屋敷で教導してもらうのでしょう?その時の通訳は未だ決まっていないわけですから、彼に頼んだらどうでしょうか?」

 

「なるほど、もし彼の叔母がそれでも良いと許可を出してくれるのであれば、彼にお願いしてみましょう。いずれにせよ、まず私達は明後日の会合で、なんとかドイツの方を説得して、私達に戦術を教えてくれるように頼まなくてはいけません。明後日は大勝負になりそうです。」

 

かほと藤村は、すっかり冷めてしまった珈琲を飲むと、カフェを後にした。

 

後の話になるが、コンラート少年は西住流の通訳として訪日する事になる。そして、教官等と戦車道を学ぶ少女達との架け橋となり活躍することになるが、通訳だけではなく、教官等の罵声を浴びて落ち込んだ少女の心の支えになってやるなど精力的に働いた。その後、「黒森峰女学園」学園艦が完成し、ドイツ人教官達が再びドイツに戻った後も、彼はそのまま日本に留まる事を選択した。ドイツ人教官達が教育していた当時、落ち込んでいた少女とそれを支えていた彼の間に恋が芽生え、その少女が黒森峰女学園を卒業した後、結婚することになったためである。その後、二人の間に子供が生まれるが、生まれてきた子供もまた、コンラート少年と同じく銀髪であった。

 




ドイツ戦車、そしてドイツの機甲戦術が西住流に伝わる事になりそうです。流石に、戦車はドイツだけど戦術は日本式というわけには行かないですから…この外伝2はガルパン時の西住流誕生には必要なプロセスだろうな…と思っています。

…エリカさんの御祖父さん登場(笑)。特に公式の設定ないですから(なかったですよね?)、これでもいいか(笑)。 ガルパンの中では、西住まほと共に逸見エリカは、お気に入りのキャラだったりします(笑)。

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