魔法戦記リリカルなのはWarriorS   作:雲色の銀

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第6話 過去のない男と喋る獣人

 機動六課、会議室。そこに珍しく各フォワード分隊の隊長、副隊長が集められていた。

 

「皆に集まってもらったのは他でもない、獣人達のことや」

 

 と、集めた張本人のはやてが口を開く。それと同時に、モニターには今までミッドチルダや他の次元世界に現れた獣人達の記録映像が流れた。中には、六課と交戦した馬獣人やイノシシ獣人の物も含まれている。

 

「今までの獣人は正しく獣、理性のないものばかりやった。けど、先日確認された獣人には理性のあるような仕草がいくつか見られた」

 

 これまでソラトやスバル達が戦った獣人は闘争本能に従って暴れていた。

 だが、つい先日他方で見かけられた獣人は僅かながら言葉を喋ったり、細かな感情を露にしたりと、まるで理性があるように見えたのだ。

 結局逃げられてしまったのだが、発見した部隊からの報告は有力な情報だった。

 

「これで話の出来る相手から、何かしらの情報が聞き出せるね」

 

 フェイトの言う通り、理性があるタイプの獣人なら鹵獲すればこちらにとっての情報源になりうる可能性がある。

 

「そう。んで、奴等の動きには共通点がある」

 

 次にはやてがキーボードを操作すると、映像を流していたモニターにミッドチルダの地図とその上に幾つかのマーカーが現れた。

 

「これまで獣人がミッドに現れた時の図、だね」

「でも、何の共通点があんだ?」

 

 なのはが補足説明をする。だがヴィータが疑問に思う通り、地図上の分布は東西南北バラバラで規則性はないように見える。

 

「でもこうすると……」

 

 ヴィータの疑問に答えるべく、はやてがまたもやボードを操作する。すると、地図上には獣人の出現地点と被るように別のマーカーが映し出された。

 

「恐らく、ロストロギアの反応ですね」

「正解。獣人はロストロギアの反応がある場所に現れとった」

 

 シグナムが答えた通り、新しいマーカーはロストロギアの反応が確認された場所を示していた。今まで獣人の出現地点の近くにはロストロギアがあり、敵はその反応を辿って獣人を送り込んでいたのだ。

 

「じゃ、今後は先回り出来るね」

 

 確かに相手が狙うロストロギアの反応を掴んでいれば、獣人が送り込まれる前に先回りし、対処が可能である。

 今後の対応がスムーズになるとなのはは喜ぶが、はやては首を横に振った。

 

「そうはいかん。反応を出していたロストロギアの種類はバラバラ。中には影響の小さすぎるものまであった」

「手当たり次第って感じだね……」

 

 次に何が狙われるのかが分からなければ先回りが出来ない。捜査は着実に進んでいるものの、未だに少なすぎる共通点になのは達は顔を顰めていた。

 

「連中が狙ってるモンが何か分かってんだろ? 何で先回り出来ねぇんだ?」

「それや。奴等が手当たり次第になっとる理由は」

 

 先回り出来ないという現状に未だ納得が出来ないという風に、ヴィータが口を挟む。

 はやてがまたもやボードを操作すると、モニターには今度はある動物を模った小像が映し出された。

 

「S級ロストロギア、セブン・シンズ。これが奴等の狙い」

 

 映っているのは狐を模ったエメラルドグリーンの像。材質は不明だがまるで宝石のような美しい輝きになのは達も思わず感嘆の声をあげる。

 

「これとは形も色も違うものが、全部で7つある。因みに、これは"強欲(グリード)"。この前何者かに奪われたものや。所有者も行方不明、現場には少量の血とアタッシュケースだけが残ってた」

 

 他の6つの小像はまだ未確認であり、六課や管理局でも調査が続けられている。

 はやての説明に対し、前の持ち主は十中八九死んだのだろうとこの場にいる誰もがそう思った。

 

「セブン・シンズ最大の特徴は、特有の反応にある」

 

 アタッシュケースに入れて持ち運べるほどのサイズに似合わず、セブン・シンズは膨大な量の魔力を有しているため、特殊な反応を放っているのだ。

 

「けど、それを読み取るには当たりハズレが大きくてな」

 

 他のロストロギアの反応によく似ていたり、コロコロと反応が変わったりするため、測定装置が間違えて別のロストロギアの反応をセブン・シンズとして拾ってしまうことがある。

 このことが、獣人が手当たり次第に送り込まれている理由、そして管理局内でもセブン・シンズを調査中である理由なのだ。

 

「確実性が無いから、手当たり次第に調査しないと分からないってことだね」

「その通り」

「めんどくせー」

 

 なのはが現状を理解し纏めると、ヴィータが文句を垂れた。

 いずれにしても、今後はセブン・シンズの捜査に加え獣人の鹵獲という任務が加わることになる。六課隊長陣も一層気を引き締めねばならない。

 

 

◇◆◇

 

 

 一方、本日は教導のないフォワード達は機動六課と協力関係にある陸士108部隊と合同で市街地の警邏に当たっていた。

 

「ギン姉ー!」

「スバルー! ソラトー!」

 

 拠点場所に辿り着くと、紫色の長髪の女性に手を振りながら駆け寄るソラトとスバル。対する女性も2人の知り合いのようで、手を振りながら迎え入れる。

 そう、陸士108部隊にはこの女性――スバルの姉であるギンガ・ナカジマが所属しているのだ。久々の再会にスバルと、幼馴染のソラトは浮かれていた。

 

「久しぶりだな、ギンガ」

「エド、寂しくなかった?」

 

 2人から遅れて、エドワードもまた知り合いのようにギンガへ声を掛ける。エドワードは六課に来る以前、108部隊所属だったので、当然と言えば当然である。

 

「皆も、久しぶりね」

「はい!」

「お元気そうで何よりです」

 

 JS事件時にギンガは六課に出向したことがある為ため、他のフォワード達とも顔見知りである。特にティアナとは六課以前に、スバルの紹介で会ったことがあった。

 

「ところで、エドさんって108部隊ではどんな感じだったんですか?」

 

 警邏任務といっても何も起きなければただのパトロールであり、平和な一時が流れる。そんな中、ふとキャロがエドワードとギンガに尋ねる。

 エドワードはあまり自分のことを語りたがらないし、ギンガとも話せる機会が少ない。よって六課に来る前のエドワードを知るものは兄弟分のスバルとソラトぐらいしかいなかった。

 

「そういえば聞いたことなかったわね」

〔私も、特にギンガとの馴れ初めとか気になるー!〕

 

 そういう訳でティアナや、拠点から通信で話を聞いていた通信士、シャリオ・フィニーノまで便乗する。どうやら先程のかなり親しげな対応から、何かあるのではないかと乙女の勘で察知したのだ。

 年頃の女性はその手の話には敏感だ。きゃいきゃいと話を弾ませる女性陣を、男性であるソラトとエリオは苦笑しながら遠目で眺めている。

 

「え、えー……」

 

 当の本人であるギンガは頬を赤くしながら苦笑し、何から話していいのかと思い返す。一方で、エドワードは自分のことを語られるのが恥ずかしいのか、距離を取って歩いていた。質問攻めに遭っているギンガからすれば逃げた、とも言える。

 

「馴れ初め、か……」

 

 赤面しながら困惑しているギンガを尻目にエドワードは1人、彼女との出会いを思い出していた。

 

 

◇◆◇

 

 

 エドワードの回想は、約9年前にまで遡る。否、それより前には遡れない。

 

 当時、エドワードはミッドチルダ南の辺境の地にあった研究所から、管理局に保護された孤児であった。研究所は管理局の捜査が入る際に内部からの発火で焼け落ち、エドワードは唯一の生き残りだった。だが、ショックが大きかったからか保護された時以前の記憶を失ってしまっていたのだ。

 記憶喪失の少年は救出されてからも、まるで魂の抜け殻のように物静かだった。名前も思い出せず、名無しのままでは不便だったので、少年は辞典を適当に引いて"エドワード・クラウン"と名乗ることにした。

 やがてエドワードは退院して孤児院に迎えられたが、すぐに陸士訓練校に入学した。理由は単純に、自分が何者であるかを探すためである。卒業後は陸士108部隊に配属。狙撃手として実績を積み重ねていき、無名だった少年は三等陸尉にまで成り上がったのだった。しかし、依然としてエドワードの記憶や素性が明らかになることはなかった。

 

 さて、ここからがギンガとの馴れ初めである。

 エドワードがこれまでの功績を認められ、専用のインテリジェントデバイス"ブレイブアサルト"を支給して貰えるようになった際に、彼の上司であるゲンヤ・ナカジマに娘として紹介されたのだった。

 

「ギンガ・ナカジマです。父がお世話になってます」

「エドワード・クラウン。逆に俺がゲンヤさんに世話になっている」

 

 この頃のエドワードは素性の分からぬ自分への負い目からか、無愛想である。同年代の少女にも例外はなく、初対面にも拘らず素っ気ない態度を取ってしまった。

 

「私と同い年なんですってね! 射撃の腕も優秀だとか! ご両親とかは? 局員なの?」

 

 ところが、ギンガはそんなエドワードの態度を気にせず、逆に親しそうに次々と質問を投げかけて来た。

 明るいギンガの性格は初めて見るタイプだったので、エドワードは一瞬戸惑ったがすぐに表情を曇らせ俯く。

 

「……大したことは答えられない。10歳以前の記憶がないんだ。親も恐らく死んでいる」

「えっ!?  ご、ごめんなさい!」

 

 エドワードにとっては、親への情や温もりを知らないので特に気にすることではなかったが、失礼だと知ったギンガの真摯な態度には好感が持てた。エドワードは頭を下げるギンガを一瞥し、ふと湧いた興味を口にすることにした。

 

「気にするな。それより、俺は君の話が聞きたい」

「え、でも……」

 

 エドワードは"家族"という存在がどういうものかを詳しく知らない。だから、同年代から見た家族の話は是非とも聞きたかった。

 しかし、今度はギンガが表情を曇らせる。ギンガにも思う節があるということだろう。エドワードはそれを察したが、絶えぬ興味に負け敢えて頼み込んでみた。

 

「頼む。話しづらい箇所があるのなら、無理しなくていいから」

「……分かった、話せる所だけなら話すわ」

 

 エドワードの熱意に負け、ギンガは父のゲンヤ、そして妹のスバルについて話すことにした。家族3人の楽しい生活の話に、エドワードは珍しく目を輝かせて傾聴していた。

 

「あ、そうだ」

 

 話の途中でギンガが何かに閃いたようで、エドワードは疑問符を浮かべる。

 

「貴方のこと、"エド"って呼んでいい?」

 

 ギンガの発案はエドワードの渾名についてだった。ギンガは新しく出来た友人の、気軽に呼べる愛称が欲しかったのだ。

 他愛のない話だったが、エドワードはまたギンガに驚かされていた。自分に愛称を付けられ、呼ばれることも初めての体験だったのだ。本来"エドワード"という名前も適当に付けたもの。愛着もなかったので、自分がどう呼ばれようと気にはしなかった。

 

「……好きに呼んでくれて構わない」

「これからよろしくね、エド」

 

 だが、"エド"と呼ばれることについては、不思議といい気分がした。

 それから、ギンガとはちょくちょく会う機会があり、自身の近況などを話し合っていた。エドワードにとっては、同年代の話せる相手がいるのは貴重だったのだ。

 現在に至るまで記憶は未だに戻らなかったが、"エドワード・クラウン"としての自分が居られる場所がある。それだけで彼は十分満足であった。募らせていった、自分の気持ちに気付くまでは。

 

 彼が自分の気持ちにはっきりと気付いたのは、6年前の大規模火災の時だった。スバルと同じく、ギンガも巻き込まれてしまっていたのだ。事故の光景を隊舎のテレビで見ていたエドワードは、待機命令も無視して助けに行こうとした。結局他の隊員に止められたが、エドワードは初めて自分の感情を露わにしていたのだ。

 そして、気付いた時にはギンガはエドワードの中で最も大事な人になっていた。

 事件から少し経った後、ギンガは陸士108部隊に配属となった。娘を部隊に引き抜くことが出来て、ゲンヤも嬉しそうにしていたという。

 

「配属おめでとう、ギンガ」

「ありがとう。同じ部隊ね、エド」

 

 108部隊の隊舎裏、エドワードはギンガに祝いの言葉を送った。

 こうして2人きりで話をするのは何度目になるだろうか。エドワードは、またギンガの笑顔が見れることに感謝していた。

 

「少し、話がしたい」

 

 エドワードは周囲に誰もいないことを確認すると、ギンガに向き直った。

 

「ギンガ。俺はお前が好きだ」

 

 急な告白に、ギンガは一瞬笑顔のまま固まった。そしてすぐに、目を丸くして絶叫した。

 エドワードは驚くギンガをしっかり見つめたまま、告白を続けた。普段は表情の読みにくい顔を赤くし腕をプルプルと振るわせており、あの無愛想なエドワードが緊張しているのが分かる。

 

「俺はあの時、怖かった。お前が目の前からいなくなるのが。それで気付いたんだ。俺はお前を失いたくない」

 

 はっきりとした口調で告白するエドワードに、最初は顔を赤くしたギンガだが、次第に暗く悲しい表情に変わっていった。

 

「ごめん、なさい」

「……理由を聞かせてくれるか?」

 

 そして、エドワードの告白を断った。胸元をギュッと握りしめ、辛そうにするギンガに、エドワードはすぐに何か事情があることに気付いた。

 本当にエドワードを好きでないのなら、こんなに辛そうに断りはしない。

 

「私とスバルは、人じゃないの」

「どういうことだ?」

「私達は……戦闘機人(せんとうきじん)、なの」

 

 ギンガが隠していた秘密。それは自分達がただの人間ではないということだった。

 ギンガとスバルは、自身の母親であるクイント・ナカジマによってとある研究所から救出された戦闘機人であった。しかも、何の因果か2人共クイントの遺伝子が使われており、特にギンガは幼い頃のクイントによく似ていた。

 その後、ナカジマ夫妻に養子として引き取られ、そのまま普通の人間として育てられた。しかし、戦闘機人と知れば気味悪がる人間も大勢いる。異形の者と言う事実が、ギンガにとっての負い目だった。

 明かされた事実に、エドワードも流石に驚きを隠せない。

 

「……それだけか?」

「え?」

「それだけが理由なら、俺はお前を諦めない」

 

 しかし、エドワードはしっかりとギンガを見つめていた。

 既に相手がいるとか、自分のことが嫌いだとかなら、エドワードも諦めることが出来た。だが、ただ自分の素性が普通でないことが断る理由なら、エドワードは納得が出来なかった。

 

「で、でも」

「戦闘機人だから人じゃない。それは間違ってる。ギンガは、ギンガ達はちゃんとした人間だ。俺には戦闘機人なんてこと、問題ではない。俺は"ギンガ・ナカジマ"が好きなんだ」

 

 記憶がなく、未だ自分の素性すら分からないエドワードにとって、人間か戦闘機人かなんて些細すぎる問題だったのだ。そんなことではなく、彼はギンガと言う存在そのものを好きになったのだから。

 エドワードは再度、はっきりと告白を口にした。

 

「それとも、過去のない男は嫌か?」

「……ううん、嬉しい! 私もエドが好き!」

 

 ギンガは想いを爆発させ、エドワードに抱きついた。彼はしっかりと受け止め、2人はそのままキスをした。

 守りたい居場所が、愛する人がいる。このことこそ、エドワードが空白の過去を気にせず戦いを続けられる最大の動力源だった。

 

 

◇◆◇

 

 

「と言うことは、エドさんとギンガさんって恋人同士だったんですか!?」

 

 エドワードが回想している途中、衝撃の真実にキャロ達が驚きのあまり叫んでしまった。確かに仲良く見えたが、本当に付き合っていたとは。このことを知っていたスバルは笑顔で頷き、ソラトは苦笑しながらギンガとエドワードの様子を伺っていた。

 そして大声で暴露されてしまったギンガは耳まで顔を真っ赤にしてしまっていた。

 

「それで、告白はどっちからだったんですか?」

「そ、それは……」

 

 恥ずかしい質問をまた繰り返されるギンガに、エドワードがそろそろ助け舟を出そうとする。

 

「っ! 来るぞ!」

 

 その瞬間、何かの気配を察しエドワードが号令を掛ける。恋話で盛り上がっていたフォワード達もすぐに警戒態勢を整える。

 エドワード達から数メートル先の路地から現れたのは、陸戦型のネオガジェット・タイプA。数は十数体程。そして、その背後からはクマの特徴を持つ獣人が控えていた。

 

「あ? 公僕共見つけてどーすんだよ」

 

 言葉を話す辺り、理性がある方だ。丁度いい、そう考えたエドワードがクマ獣人と対峙する。

 

「止まれ。貴様には聞きたいことがある」

「はぁ? こっちには用はねぇよ!」

 

 獣人の合図で、ネオガジェットがエドワードに襲い掛かった。

 

「ブレイブアサルト、セットアップ」

〔Standing by〕

 

 しかし、エドワードは素早く両腕を左腕を上に交差させて前へ突き出し、そのまま右腕を内側へ入れる様に腕を回して胸の前へ持って来る。

 すると、左腕の腕輪が光り出し藍色の帯常魔法陣が現れ、エドワードを包んでネオガジェットの攻撃から守った。

 そして中から赤いシャツの上に、黒地に赤いラインが入ったスーツ、青いズボンの姿になったエドワードが現れた。右手にはライフル型デバイス、ブレイブアサルトが握られている。

 

「抵抗するなら……撃ち墜とす」

 

 エドワードの背後でも、各々のデバイスを起動させたギンガ達がネオガジェットと戦闘を行っていた。

 

「でりゃああああ!!」

 

 抜群のコンビネーションでネオガジェットを次々に破壊していくナカジマ姉妹。

 負けじと、ソラトとエリオの前衛コンビもネオガジェットの軍団を自慢のアームドデバイスの連撃で一掃する。

 離れたところではティアナが援護射撃、キャロは白竜フリードリヒを操り火炎攻撃を仕掛けていた。

 

「くっ、キリがない!」

「こんなに、何処から……」

 

 だが、戦いが長引くにつれて誰もが異変に気付いた。最初は十数機程しかいなかったはずが、倒しても倒してもワラワラと湧いて出てくる。

 

「まさか、転移魔法……何処から!?」

 

 ティアナはこの現状は、自分達の死角から転移魔法で次々と送り込まれているのだと予想した。転移魔法の出所を辿れば、敵の尻尾を掴めるかもしれない。

 

「シャーリー! 近辺で転移魔法が行われていないか調べて!」

〔やってみる!〕

 

 ティアナはシャリオに指示し、転移魔法の地点と敵の魔力反応を探らせた。

 

〔場所は右37度の方角! 魔力は……嘘っ!? 探知出来ない!〕

「えっ!?」

 

 場所は考えていたよりすぐ近くに見つかった。しかし、敵もみすみす探られるようなことはしなかったようだ。探知妨害魔法を掛けており、正体まで探ることが出来なかった。ティアナは苦い顔をしつつ、スバル達に転移魔法の地点を叩くよう指示した。

 ソラト達がネオガジェットと戦っている間、エドワードは付近のネオガジェットを掃討し終え、クマ獣人と睨み合っていた。

 

「言え、ロストロギアは何処だ?」

「こちらが質問をする方だ。貴様等の正体と黒幕、セブン・シンズについて!」

 

 先に質問をしてきたのは獣人だった。武器を向けているのはエドワードの方だが、獣人は余裕そうだ。

 

「なら情報交換ってのはどうだ?」

「情報交換?」

「ああ。ロストロギアの居場所を教えりゃ、俺も知ってることを話してやる。悪い話じゃねぇだろ?」

 

 この近辺にあるロストロギアの場所を教えるだけで、相手の情報を得られる。

 しかし、相手は何故こんな取引を?

 勿論、罠の可能性もある。偽の情報を与え、混乱させることも考えられる。

 

「オラ、どーした? 探すのめんどくせぇから早くしろ」

 

 エドワードは考えていた。あの獣人に理性はあるが知恵があるとは思えない。どちらにしろ、相手を鹵獲すれば情報を得られることに変わりはない。

 

「答えは決まっている……断る!」

 

 エドワードは答えると同時に獣人の頭を狙撃する。だが、動きを読まれていたようでギリギリでかわされてしまう。

 

「チッ、じゃあ食ってやる! 腹も減ってきたしな!」

 

 獣人も臨戦態勢に入る。面倒くさそうな表情から獲物を駆る眼へと変わり、鋭い牙や爪を剥き出しにしてエドワードに襲い掛かった。

 

〔Forte burst〕

 

 獣人の巨体は的として狙いやすかった。エドワードは太い腕を狙い撃ち、獣人の突進攻撃を冷静に避けた。

 ダメージを受ける獣人だが、分厚い毛皮と筋肉で覆われているので深い傷には至らなかった。

 

「モードツー」

〔Shot form〕

 

 エドワードは獣人の後ろに回り込むと、ブレイブアサルトをライフル型から拳銃型に変形させて敵へ連射攻撃を加える。

 

「無駄無駄ァ!」

 

 ライフル型と比べ、拳銃型は扱い易いが一発の威力が下がる。獣人は魔力弾にびくともせず、エドワードに爪を振り下ろす。

 

〔Net bullet〕

「なっ!?」

 

 間一髪、獣人の腕を避けると同時にエドワードは一発を懐に打ち込む。それは普通の魔力弾と違い、命中すると網のように獣人を縛るバインドとなったのだ。バインドに縛られもがく獣人の姿は捕獲寸前の猛獣そのものだった。

 

「貴様ぁぁぁぁ!!」

「終わりだ」

〔Blaster smash〕

 

 カートリッジを2発炸裂させ、藍色に輝く光弾を獣人の口目掛けて放つ。すると、光弾は口の中で巨大な円錐状のポインターへと展開した。

 

「あががが!?」

「ブラスター……」

 

 苦しみ暴れる獣人だが、バインドの所為で動けない。エドワードはトドメを刺すべく、円錐へ飛び蹴りを放った。

 

「スマッシュ!!」

 

 蹴り押されたポインターはドリルのよう回転しながら,獣人の体を口から貫き絶大な魔力ダメージを与える。同時に攻撃をし終えたエドワードはバク転宙返りを決めながら獣人の正面に着地した。

 勿論、今の魔法は非殺傷設定にしており、エドワードは昏倒した獣人を捕獲して敵の情報を聞き出す――はずだった。

 

「ぐあぁぁぁっ!?」

 

 倒れていた獣人の巨体が突如爆散し、油断して近付いたエドワードを吹き飛ばし壁に打ち付ける。

 

「エド! 大丈夫!?」

 

 エドワードが獣人を倒すと同時にネオガジェットの転移も途絶えた。最後の一機を潰し終えたギンガは素早くエドワードに駆け寄る。

 

「あ、あぁ……済まない、情報を手にするチャンスを失ってしまった」

 

 そう答えるエドワードの身体は爆風でボロボロだった。左腕には先程獣人の攻撃をかわした時に受けたらしき、大きな鉤爪の跡が出来ていた。

 

「どういうこと? いえ、それより手当てを!」

「大したことはない」

〔マスター、また病院送りにされたいんですか?〕

 

 ギンガに心配を掛けまいと強がるが、相方のブレイブアサルトにキツい一言を言われてしまい、大人しく手当てを受けるエドワードだった。

 

「……獣人は、体内に爆弾を仕込まれていた。情報漏れを防ぐためだろうがな」

 

 左腕に包帯を巻かれながら、爆死した獣人の様子を皆に話す。

 あの爆発は魔力ダメージによるものではなかった。獣人を生み出した科学者が、敗北して用済みとなった獣人が自分のことを喋らせないために、昏倒した瞬間自爆するよう予めセットしたのだろう。

 

「鹵獲して敵の情報を聞き出すつもりだったが、その暇もなく敵は爆死してしまった」

 

 自爆までは予想出来なかったとはいえ、情報を何1つ聞き出せずに終わってしまった。エドワードは成果を挙げれない自分の不甲斐なさを責めていた。

 

「俺としたことが、みすみす情報を逃す真似を……済まない」

「そんな、エド兄は何も悪くないよ!」

「自爆するなんて分からなかったんだし!」

 

 成果を挙げられなければ、自分に居場所はない。エドワードは昔からこう考える癖があるようで、大きなミスを感じると自己嫌悪に陥る。そんな彼を、弟分と妹分が励ます。

 

「あまり自分を責めないで」

「……ああ、済まない」

 

 包帯を巻き終えたギンガも、エドワードを落ち着けるように頭を撫でる。仲間達の優しい言葉に漸く安堵するエドワードだった。

 

 

 

 だが、彼等はまだ気付いていなかった。敵は既にロストロギアの位置を特定済みだったことを。

 

「クラナガン西、第3ビルか……ふーん、意外と近かったね」

 

 男の呟く声がよく聞こえる程静かな、薄暗い研究室。ロストロギアの居場所を伝えるモニターの明かりを、男の丸い眼鏡が不気味に反射していた。


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