魔法戦記リリカルなのはWarriorS   作:雲色の銀

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第4話 遠すぎる目標

 暗い夜景の中、赤い光が見える。その正体は激しい炎に包まれた空港。

 

 ソラトはそのおぞましい光景の中心にいた。火災の只中だというのに体は熱く感じず、ただ呆然と燃える建造物を内側から見ていた。

 ふと真横をみると、火災に巻き込まれた女の子が泣いている。青い髪と緑の瞳を持つ、ソラトのとても見知った少女だった。周囲は既に瓦礫と火の海で逃げ道が塞がれ、生き延びるには絶望的な状況だ。

 けど、自分ならこの娘を救える。砲撃魔法で炎と瓦礫を吹き飛ばし壁に穴を空ければ、この娘を連れて脱出出来る。

 ソラトが少女に手を伸ばそうとした時、突然誰かが空を飛びながら少女の近くに降りてきた。今と変わらない白いバリアジャケットと栗色の髪を白いリボンで2つに纏めた姿。手には不屈の心を象徴する金色の杖。

 その人は安心するよう優しく話しかけると、保護魔法で少女を守りつつ砲撃魔法で天井を打ち抜き、少女を抱えて空を飛び脱出した。容易く、見事に少女を救出したのだ。

 ソラトは最後までその魔導師の活躍を見ていることしか出来なかった。

 

 

「──っ!?」

 

 勢い良くソラトがベッドから起き上がる。目の前は火災現場などではなく、真っ白な部屋の壁。窓辺のカーテンからは朝日の光が差し込んでいた。二段ベッドの上からは、同室になったエリオの寝息が幽かに聞こえる。

 今まで見ていたのは夢だと、ソラトが気付くのと同時に目覚ましのアラームが鳴り響く。

 アラームを止めようと腕を伸ばすと、ソラトの体を痛みが襲う。初めて獣人と戦ったあの日、たった数瞬の隙を突かれ受けたダメージがまだ残っていたようだ。

 

「獣人……あんなのがこれからもっと出て来るんだ」

 

 ソラトは今回の六課が当たる事件の"敵"と"その目的"について教えられたことを思い出す。

 そして、初見とはいえやられそうなった時に颯爽と獣人を葬ったのは、現在の上司であるなのはだった。

 以来、ソラトは今見ていたような夢をよく見るようになった。昔、彼がなのはを目標として見るようになった出来事の夢を。

 

「……朝練の支度、しなきゃ」

 

 悪夢を思い出さないようソラトは呟き、まずは汗だくの顔を洗いに洗面所へ向かった。

 

 

◇◆◇

 

 

 機動六課、再設立から約1週間が経過した。

 今日もフォワードメンバーは高町なのはとヴィータの教導を受けていた。

 だが、なのはの教導を受け慣れていないソラトとエドワードはともかく、旧六課のフォワード3人も久しぶりの教導に付いていくのがやっとだった。

 唯一、解散から再設立までの間特別救助隊(レスキュー)に身を置いていたスバルは持ち前のスタミナの高さもあり、まだまだ余裕を見せていた。

 

「お前等だらしねぇぞ! 特にティアナ! お前体力落ちてるぞ!」

「す、すみません……」

 

 ヴィータからの叱咤を受けるティアナ、エリオ、キャロ。

 ティアナは執務官勉強の為、解散から再結成までの間あまり体を鍛えられなかったのだ。最も、執務官はデスクワーク主体なので仕方ないと言えば仕方ないのだが。

 

「あと3分休んだら次始めるからな」

「はい!」

 

 ヴィータがスバル達4人を鍛える一方で、新メンバーのソラトとエドワードはなのはに呼び出されていた。

 なのはは2人にも他のメンバーと同じ練習をさせたのだが、何とか付いてこれていた。但し、エドワードはいつも体力が限界間近だったが。

 

「今日は改めて2人の実力を確かめさせて欲しいな」

「はい?」

「内容は簡単な模擬戦。2人で私と戦うこと」

 

 なのはの提案は2対1。2人共気絶するか降参したら負けというシンプルなものだ。

 

「勝てば今日はお休み。負ければ反省のレポートを書いてもらうね」

「はいっ!」

 

 勢い良く返事をしたのはソラトだった。若干敵意か何かが混ざっていた気もするが。

 

「えと、じゃあお昼から。よろしくね」

 

 元気の良すぎるソラトに一瞬呆気に取られたが、なのははすぐに話を切って教導に戻った。

 

「あまり張り切りすぎるな。お前の悪い癖だ」

「ゴメン、エド兄……でも大丈夫!」

 

 戻る途中で冷静な態度でソラトに注意するエドワード。ソラトの真っ直ぐな性格には好感が持てるが、見えていないところでミスを犯す悪癖があるのが偶に傷だ。

 しかし、ソラトは既になのはを倒すことばかりを考え、エドワードの忠告をあまり気にしていないようだった。

 

 それから昼休みが終わった頃。なのはとソラト、エドワードペアの模擬戦が始まろうとしていた。

 

「ソラト、いつもと違う感じだけどどうかしたの?」

 

 他のフォワード達は訓練場の外からモニターで見学していた。

 ふと、ティアナが素朴な疑問をぶつける。いつもは真面目で好印象なソラトが、何時になく真剣な眼差しでなのはを睨んでいたのだ。雰囲気がガラリと変わっているのは誰が見ても明らかだった。

 

「そういえば、普段からなのはさんを見る時だけ目付きが変わっていたような……」

 

 キャロも続いて疑問を口にする。最初の自己紹介の時にもソラトはなのはに対し、宣戦布告のような発言をしている。一体2人の間にどんな因縁があるのだろうか、フォワード達は頭を捻らせた。

 

「それ、私の所為なの」

「えっ?」

 

 すると、その答えはスバルから帰ってきた。驚きの声を上げるティアナ達。

 

「6年前の空港火災で、私がなのはさんに助けられたってことは知ってるよね?」

 

 スバルの問いに3人共頷く。特にティアナはペアになってから、憧れのなのはの活躍を含め何度も聞かされていた。

 新暦71年4月。ミッド臨海空港の大規模火災に巻き込まれたスバルをなのはが華麗に助けに来たのだ。以来、スバルはなのはに憧れを抱き管理局入隊を決心する程影響を及ぼしたのだった。

 当然、この出来事を幼馴染のソラトも知っている。

 

「それで私がなのはさんの話をしたから、ソラトの対抗心に火が付いちゃって……」

 

 つまり、好きな女性を救う役目を取られて以来、相手を好敵手視しているのだった。加えて命の恩人を尊敬し、夢中になってしまったばかりにソラトの嫉妬心がどんどん膨れ上がったのだと言う。一直線な性格のソラトらしい理由である。

 

「そりゃあアンタのことだから散々聞かせたんでしょうね」

「あはははは……すみません」

 

 経験者からの鋭い指摘に苦笑するしかないスバルだった。

 

 一方で、既にデバイスの起動を終え、戦闘体勢を整えているソラトとエドワード。

 赤いラインの入った黒いコートを着たエドワードが、黒いシャツと青緑色の独特の模様が入った白い半袖の上着を身に纏ったソラトに注意を促す。

 

「あまり無理はするな」

「平気。エド兄はあまり手を出さないで。僕の力で勝たないと意味ないことだから」

 

 ソラトは笑顔で答えると遠くのなのはを見据え、自身の大剣型アームドデバイス"セラフィム"の柄を強く握り締めた。こうなってしまったら殆どの言葉は耳に入らないだろう。

 

「こういう所はスバルに似てるな……」

「じゃあ始めよっか!」

「はい! お願いします!」

 

 未だ心配の拭えないエドワードを差し置いて、模擬戦は開始された。

 

「はぁぁぁぁっ!!」

 

 開始と同時にセラフィムを構えて真っ直ぐ走るソラト。飛行魔法が使えず、スバルやエリオのように移動手段を持たないソラトは走って敵に近付くしかないのだ。

 なのははソラトの無計画に見える行動に疑問符を浮かべるが、容赦なくソラトに射撃魔法を連続で放つ。

 しかし、別方向からの鋭い射撃でなのはの魔力弾は阻まれた。

 

「俺の仕事はこれだけか」

 

 エドワードは後ろからゆっくり追いつつ、ライフル型インテリジェントデバイス"ブレイブアサルト"による精密射撃でソラトを援護する。

 エドワードの援護射撃に気を取られた隙に、ソラトがなのはの近くまで達したところで一気に跳んで来た。

 

「うおおおぉぉぉぉっ!」

「そんなんじゃ狙われるよ」

 

 そして、これまた一直線になのはに斬り掛かる。しかし愚直なまでに真っ直ぐな攻撃はあまりにも避けやすい。

 なのはは冷静にソラト目がけて魔力弾を放った。この至近距離ではエドワードの援護も間に合わない。

 

〔Holy raid〕

 

 セラフィムから電子音声が鳴り、ソラトの口が弛む。

 その瞬間、青緑色の光と共にソラトの姿が消えた。

 

「えっ!?」

〔Grand cross〕

 

 一瞬で魔力弾を回避され、驚くなのは。気が付くと、ソラトはなのはの背後に回っていた。

 短距離移動魔法"ホーリーレイド"。移動距離は短いが、瞬間移動を可能にする魔法だ。ソラトはホーリーレイドを使い一瞬で地面に着地、なのはの後ろに回り再び跳躍したのだった。

 

「グランドォォォォ!」

〔Protection〕

 

 ソラトはセラフィムを縦一線に素早く振り下ろす。だが、いち早く気付いたなのはも右腕で防御魔法を展開し、大剣の重い一撃を防いだ。

 

「隙だらけだよ」

 

 下ろしきった大剣は返りが遅い。なのははレイジングハートの先を隙だらけなソラトに向けた。

 

「クロスゥゥゥゥッ!!」

 

 ところが、なんと下ろしたセラフィムを斜め上に少し斬り込んだ後、横一線に斬り掛かった。

 魔力付加攻撃"グランドクロス"。強力な斬撃を十字を切るように二度連続で放つことによって、二撃目を確実に当てるソラトの得意な攻撃である。

 

(決まった!)

 

 ソラトは確信した。だからこそ気付けなかった。

 グランドクロスの一撃目をしかけた時、既になのはが砲撃魔法の準備を終えていたことに。更に二撃目を加えようとした瞬間、桃色の光輪が自身の腕を捕らえたことに。

 空中でピンク色の大きな爆発が起き、続けて小さな爆発が続いて発生している。その度、ソラトの悲鳴が訓練場内に響き渡った。

 

「ま、自業自得だな」

 

 唖然とするギャラリーの中で、ヴィータが平然と口にする。

 爆煙が晴れると、無傷で飛んでいるなのはとバインドで縛られボロボロになったソラトが見えた。

 なのはの表情はやや無表情だが何処か怒りを含んでいるようで、とても年相応に思えないほどの恐怖を周囲に覚えさせる。

 

「ソラト!?」

 

 ソラトの安否が気になり、スバルが叫ぶ。なのはの容赦のなさにエリオとキャロは呆然とし、経験したことのあるティアナは苦笑していた。

 

「ぐ……」

 

 まだ辛うじて意識があるようだが、戦う気力は残っていない。なのははソラトをゆっくり下ろした後、エドワードに向き直った。

 

「さ、始めよっか」

「……はい」

 

 冷や汗を掻き、ライフルを構えるエドワード。

 2人の模擬戦の結果は、善戦したものの砲撃魔法のぶつかり合いで威力を圧倒されてエドワードの敗北となった。

 

 

◇◆◇

 

 

 模擬戦の後、ソラトはエドワードの倍の枚数のレポートを出され夜まで作業を続けていた。量が多い理由はなのは曰く、問題点が多すぎたから。

 

「はぁ、スバルに格好悪い所見せちゃったなぁ……」

 

 漸く冷静さを取り戻したソラトは、自身の行いに反省しつつレポートを仕上げていた。

 因みに、エドワードは既に自身のレポートを済ませ、自主訓練に励んでいる。

 

「あの時点で砲撃魔法が撃てたってことは、僕の攻撃を予測していたんだ」

 

 恐らく、ホーリーレイドを決めた時には砲撃の準備を始めていた。

 無鉄砲に突っ込んだように見えたからこそ、何かあると予測していたのだろう。

 

「戦況を見極める能力……でも、それだけじゃない」

 

 何度分析しても、何故なのはがあれ程までに自分に対して怒ったのかが分からない。

 もっと重要なミスを犯しているのだろうか? ソラトは頭を悩ませた。

 

「ソーラト♪」

 

 背後から名前を呼ばれ、ソラトが振り向くと優しい笑顔のスバルがいた。

 

「体、大丈夫?」

「うん。少し痛むけど大丈夫だよ」

「あまり、無茶しないでね?」

 

 非殺傷設定のため外傷はないが、痛覚はそのままなので体の痛みが残る。こっ酷くやられた箇所を擦り苦笑しつつ、ソラトはレポートを完成させる。

 

「さ、終わったし夕御飯食べに行こっか」

「うん!」

 

 キーボードとモニターを消し、ソラトはスバルと仲良く手を繋いで食堂に向かおうとした。

 しかし、和やかな時間を打ち壊すかのようにアラートが鳴り響き、獣人が出現したことを知らせる。

 場所はクラナガン近くの国道。映像では、咆哮する獣人の後ろで被害に合った車が炎上している。

 

「部隊長、ここは僕が行きます!」

「私も出ます!」

〔分かった。気ぃ付けてな!〕

 

 ソラト達が現在いる場所は車庫に近い。

 気分を仕事モードに切り替えたソラトとスバルはすぐにはやてに許可を貰い、ソラトのバイクに乗って急いで現場へと向かった。

 

 

「た、助けてくれぇ!」

 

 出現した獣人はイノシシの特徴を持ち、鋭い牙で車の運転手を襲おうとしている。

 そこへ辿り着いたソラト達がバイクで獣人に体当たりを仕掛けた。跳ね飛ばされた獣人から被害者を守るように立ち並ぶ2人。

 

「行くよ、セラフィム!」

〔Yes,master!〕

 

 ソラトは懐から出した青緑色のクリスタルに呼びかけ、右手を前に突き出した後ゆっくりと腕を捻りながら左側へ移す。

 

「セットアップ!」

〔Standing by〕

 

 そして、起動コードを発声すると同時に右手首を180度回転させる。

 すると、クリスタルから青緑色の帯が何本も出現しソラトを覆う。そして中からバリアジャケットに換装したソラトが現れた。その手には大剣型アームドデバイス、セラフィムが握られている。

 隣では、スバルもバリアジャケットに換装していた。右腕にはギアの付いたガントレット、両足にはローラーブーツが装着されている。

 

「スバルはあの人の救助を。獣人は僕がやる」

「分かった!」

 

 ソラトの指示に従い、倒れた人の下へ走るスバル。

 獣人が唸り声を上げて襲い掛かろうとするが、庇うようにソラトが間に割って入る。獣人にはもう負けたくはない、と真剣な眼差しでセラフィムの切っ先を向けた。

 

「さぁ、鎮魂歌(レクイエム)は歌い終わった?」

 

 

 

 一方、司令室ではなのはとヴィータがソラトの戦いぶりをしっかりと見ていた。

 

「ソラトの評価はこれを見てから決めようかな」

「そうだな」

 

 模擬戦でのソラトは勝利に拘り過ぎた為に実力を引き出せていなかった。そう判断したなのはは、改めてソラトの実力を評価しようと決めていた。

 

「でも私、ソラトに何かしたっけ?」

「あ、いや、さぁな。ハハハ……」

 

 なのはは何故ソラトが自分を好敵手視しているかはまだ知らない様子だが。

 好きな子を助ける役を取られて嫉妬したからです、とはこの場では言いづらくヴィータも口を濁した。

 

 

 

 邪魔が入ったことで興奮した獣人は鼻息を荒くし、まずはソラトへ一直線に突進してくる。対するソラトも、セラフィムで牙を抑え込む。

 何とか弾き返すが、イノシシ獣人はすぐにもう一度突進を仕掛けてくる。

 

「はああぁぁぁっ!」

 

 力強い図体の衝突に苦戦するソラトは牙を剣の腹で押さえながら、獣人の腹を蹴り飛ばした。

 突進の勢いが止み、獣人を地面に叩き伏せることでその場を離れることが出来た。だが、体勢を立て直した獣人はまたもや突進攻撃を仕掛ける。

 いつまでも付き合ってはいられない。ソラトは攻撃を受け流し、追撃を掛けようとした。

 しかし、背後には救助活動をしているスバルがいる。ここで受け流せば、攻撃がスバルや被害者達にまで到達してしまう。

 

「車にもう1人いるんだ! 呼びかけても返事がなくて!」

「分かりました!」

 

 救助対象がもう1人いるようで、まだ時間がかかるようだ。。

 結局、ソラトは先程と同じ様に牙を剣で受け止める。スバルが救助を終えてこの場を離れるまで、ソラトは防御に専念するしかなかった。

 

「このままじゃスバルが……っ!」

 

 この時、ソラトは気付いた。なのはと戦って負けた時、勝利に焦って自分勝手に攻め続けた。

 だが自身の後ろにはエドワードがいた。もしあれが模擬戦でなく今の状況だったら、自分だけじゃなくエドワードも危なかった。

 

「あの時、自分勝手な行動を取ったからなのはさんは……」

 

 ソラトはやっと気付けた。自分がまだまだ未熟だということに。

 

「スバル! その人達を早く安全な所に!」

「うん!」

 

 スバルは意識を失った怪我人を背負い、もう1人と一緒に被害が及ばない場所へ移動した。

 動く獲物に気付いた獣人がスバル達を追おうと、ソラトから離れる。

 

「行かせない!」

 

 ソラトの鋭い一撃で、獣人の片方の牙が切り落とされた。痛みに悶える獣人と、スバルが移動した方向の間にソラトが立つ。これで遠慮は要らなくなった。

 

「僕はまだ強くなれる。気付くこともいっぱいある。そうだ!」

 

 ソラトの足元にベルカの魔法陣が浮かび上がる。

 セラフィムがカートリッジを1発ロード。すると、青緑の光を放ちながら魔力がソラトの前で球体を形成していく。

 

「そして何時か、必ずなのはさんを超えて見せる!」

〔Divine buster〕

 

 セラフィムを右肩から背負うように構え、魔力を高めていく。

 一方、牙を斬り落とされて怒り狂った獣人は、残った牙を使い我武者羅に突進して来た。

 

閃空烈波(せんくうれっぱ)! ディバインバスタァァァァッ!!」

 

 ソラトが目の前のスフィアを大きく斬ると、巨大な斬撃波となって放たれる。

 曲線状の砲撃魔法はイノシシ獣人の身体を簡単に斬り裂き、その場で爆発を巻き起こした。

 

「ふぅ」

 

 砲撃魔法を放ち終えたソラトは、獣人を倒したことを確信し構えを解いた。

 息を吐く表情は、何処か吹っ切ったような雰囲気を見せている。

 

 

 

 管制室にて。ソラトが自分の間違いに気付いたことに、さっきまで満足そうに頷いていたなのはは、あることが切欠で打って変わって目を点にしていた。

 

「あ、なのはちゃんには言ってなかったっけ?」

 

 はやてが気付いて苦笑しながら呟く。

 そう、ディバインバスターは本来なのはの得意な砲撃魔法。それをスバルがアレンジして使っているのは知っていた。しかし、ソラトが更なるアレンジを掛けて使っていることは知らなかったのだ。

 

「あ、あはは……」

「ありゃもう別モンだな」

 

 ヴィータのツッコミ通り、最早全く別の魔法となっている。しかし、確かにディバインバスターの派生魔法であり、これもソラトの「なのはを超える」という心の現れ。

 この後、なのははソラトに何をしてしまったのか真剣に悩むことになったのであった。

 

 

◇◆◇

 

 

 薄暗い部屋。研究室と言っていい程に怪しい機材が並び、不気味な雰囲気を漂わせている。蠢く機械の動作音はするが()()()()()()()()()()は殆どしない。

 そんな奇妙な場所で、1人の少年がとある映像が流れるモニターを不機嫌そうに眺めていた。

 映っているのは先程起こった、国道でのソラトとイノシシ獣人の戦闘光景。丁度ディバインバスターを放ち、獣人を葬り去るシーンだ。

 

「まだまだ強くなる……か」

 

 ソラトが叫んだ言葉を静かに呟く。映像が終わると少年は椅子から立ち上がり、その場を後にする。

 外見年齢は丁度ソラトと同年代だろうか。顔は陰に隠れて見えないが、声と雰囲気から少なくとも喜んでいる様子ではないことが分かる。

 

「貴様にはもっと強くなってもらわなくては困る」

 

 静かな口調に反し、翡翠色の髪に隠れた真っ赤な眼光が怒りに満ち溢れる。

 

「強くなった貴様でないと、殺す意味がない」

 

 少年は誰に聞かせるでもなく、憎しみを込めた独り言を呟き闇の中へ消えていった。

 


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