異界の魂   作:副隊長

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9話 仲直り

「なんか、アンタには恥ずかしいところばっかり見られてる気がする」

「ギアちゃんに負けたり、癇癪起こしてどこかに消えて、最後には一人でうじうじ泣いてたりしてた事かい?」

 

 日が暮れ辺りが暗くなり始めていた為、教会に戻る途中にユニ君がぽつりと言った。肩を並べて隣を歩く素直になれない女の子に、にやりと笑みを浮かべながら答えた。我ながら意地の悪い言い方だとは思うけど、今のユニ君の場合は少し怒らせるぐらいが丁度良い。

 

「ちょ、そこまで酷くは無いわよ! 良い奴だと思ったのに、ケンカ売ってんの!?」

 

 すると、案の定ユニ君はぎゃあぎゃあと突っかかって来る。うん、っと小さく頷く。やはり落ち込んでいるより、これくらいうるさい方がこの子らしい。

 

「んー。それだけ気の置けない仲になりたいって事だよ。あと、ちょっと苦労させられた事への意趣返しもある」

「ぐ、それを言われると強く出れない……」

 

 むーっと上目使いで睨み付けてくる。言葉の通り、少しだけしおらしくなる。そんなユニ君がおかしくて、ついつい笑みを零す。

 

「何で笑うのよ! ……て言うか、ギアちゃんってネプギアの事?」

「ん? ああ、あの子とも仲良くなったからね。ギアちゃんって呼ばせてもらってるよ」

「……ふーん」

 

 笑う僕が気に障ったのか、文句を言おうとしたユニ君が不意にとまり、何か釈然としなさそうに言った。僕がネプギアさんの事をギアちゃんと呼んでいる事が気になったのか、じとっとした目で此方を見てきた。うん、と肯定すると、何故か白い目で見られた。

 

「アンタ、アタシを支えてくれるって言ったわよね」

「言ったね」

 

 むむむ、っと眉間にしわを寄せつつユニ君が言った。

 

「その割に、アタシよりネプギアの扱いの方が良くない?」

「そうかな? あんまり変わらないと思うけど」

「いや、絶対違うわよ! ネプギアの方がちゃんと女の子扱いされてるじゃない!」

「いや、二人とも女の子扱いしてるけど」

 

 ユニ君の言い分に耳を傾けつつ、答える。二人の年齢は見た感じ同じな為、特に分けて扱っている事は無かった。勿論、突き詰めて言えば二人の扱いに差はあるけど、僕にとっては二人とも大きく年の離れた女の子と言う扱いな事には変わりない。具体的に言えば、妹とその友達みたいな感覚だろうか。

 

「じゃあなんでアタシは君付けなのに、ネプギアはちゃんなのよ」

「ああ、気に障ったのはそこなんだ。正直、印象でしかないよ」

 

 正直言って、呼び方に他意は無い。ユニ君については第一印象だし、ギアちゃんに至ってはコンパさんを真似てるだけだった。

 

「それに、ずるいじゃない。ネプギアだけ愛称なんて。……アタシだって友達なんでしょ?」

 

 俯き気味になりながらユニ君は零した。ああ、そう言う事かと納得する。何をそんなに突っかかって来るのかと思えば、要するに愛称が羨ましかったと言う訳だ。思いのほか子供っぽい理由にくすりと笑ってしまった。

 

「だから、なんで笑うのよ!」

「いや、ユニ君も子供っぽいところがあるんだと思ってね」

「何よ、悪いの!?」

 

 顔を赤くしながら怒るユニ君を見ていると、どこか嬉しくなってくる。色々な表情を見せてくれると言う事は、それなりに信用してくれていると言う事だと思う。仲直りできたんだなっと、しみじみと思う。

 

「友達だからって愛称で呼ぶわけじゃないよ。それに、ユニ君を愛称で呼ぶとか名前的に無理だし」

「う、まぁ、確かにそうだけどさ。こう、なんかずるいのよ」

 

 プイッとそっぽを向きながらユニ君が零す。

 

「別に名前の呼び方で友達の良し悪しが決まる訳じゃないよ」

 

 そんな子供っぽい事を言う彼女が、最初の印象と違いすぎる事がおかしくて、くくっと笑いながらその頭を撫でてみる。彼女の扱いを妹と例えたけど、完全に妹扱いしている気がしないでもない。

 

「ちょ、子ども扱いするな! 頭撫でるんじゃないわよ!」

「あはは、僕からしたら充分子供だし、仕方ないよね」

 

 がーっと怒り狂うユニ君をからからと笑いながら相手にする。完全にじゃれあいだった。ぎゃあぎゃあ怒りながらも相手をしてくれるユニ君を見ると、仲直りが出来て本当に良かったと思った。

 

 

 

 

 

「それじゃあ、開けるよ」

「う、もうちょっと待って」

 

 ラステイションの教会に入り、ケイさんに報告する為、ユニ君と共に彼女がいる部屋の前に立っていた。何故扉の前にいるのか。それはユニ君の問題であった。

 

「ふむ、なら一度深呼吸しようか」

「うん」

「吸ってー、吐いてー」

 

 要するに、ケイさんや教会の人たちにもたくさん迷惑をかけたため、少しばかり入り辛いと言う事だった。思っていたよりもずっと弱い子だった。だから、そんなユニ君が少しでも落ち着けるように、少しおどけて促す。

 

「うん、落ち着いたわ。もう大丈夫。行こう、ユウ」

「ん、じゃあ開けるね」

 

 幾分か落ち着いたユニ君を一瞥し、扉をノックする。どうぞ、と言う入室の許可が下りた。そのままユニ君を伴い、歩を進める。

 ちなみにユウと言うのは、先ほどの愛称諸々の話から出た結論だった。僕がユニ君を愛称で呼びようがないため、逆転の発想でユニ君が僕を愛称で呼ぶと言う事になったわけだ。彼女にユウと呼ばれると、少しばかりの気恥ずかしさと、学生だった頃の懐かしさを感じた。学生時代、友達からはユウと呼ばれていたから。事故に遭って以来、学生時代の友達の大半とは疎遠になってしまったが、今も元気でやっているだろうか。そう考えると、少しだけもの悲しくも思う。現状ではどうやっても会えないから。

 とは言え、別れがあれば出会いもある。今は新しい友達もできていた。傍らを歩く弱いけど頑張り屋の女の子がその代表だった。

 

「ふむ、その様子だと仲直りできたようだね」

 

 部屋に入るなり、ケイさんが言った。にこやかな笑みを浮かべている。

 

「ええ、お陰様で仲直りできました。有難うございます」

 

 ケイさんにもお世話になっていた。まずは礼を告げる。

 

「いや、此方こそ礼を言うよ。落ち込んでこの世の終わりのような顔をしていたユニが、今は穏やかな顔をしているからね。僕じゃこうはいかない」

「……そんなにアタシ、酷い顔してた?」

 

 散々色々言われたせいだろう。ケイさんの言葉を真に受けたユニ君は、若干引き攣りながら零していた。

 

「軽く心配になるぐらいには、ね」

「あんな表情の友達がいたら、放って置けないよ」

 

 二人してしれっと答える。

 

「う、あ、うぅ……、わ、忘れなさい!」

 

 自分でも自覚があるのか恥ずかしそうに赤くなりながらも、ユニ君は怒ったように言う。とは言え、真っ赤になっている為迫力に欠けていた。僕とケイさんに大袈裟な身振り手振りを交え文句を言う姿は微笑ましい。

 

「ふふ、ユニはすっかり元気になったようだね。泣いた烏がなんとやら。貴方のおかげだ。ありがとう」

「大事な友達が泣いていた。なら、何とかするのが友達ってものだよ」

 

 ケイさんが小さく笑いながら言った。これまで見たケイさんの笑みとはどこか雰囲気が違った。打算抜きの優しい笑顔。それを見ると、なんだかんだ言ってケイさんもユニ君が大事なんだろうと言う事が良く解った。この人もユニ君とは違う意味で素直じゃないのかもしれない。

 

「こら、まだ話は終わってないわよ!」

「ああ、解ってるさ」

 

 怒ってますと言わんばかりの様子なユニ君に、ケイさんは余裕のある笑みを浮かべた。その様子に、もう大丈夫だと確信できた。なら、自分はそろそろ退散しようかと考えたところで、扉がノックされる音が響いた。視線を向ける。その直前、ケイさんがにやりと笑った気がした。どうぞっと入室を促す。その様子から、また何か企んでいるのだろうと見当をつけた。

 

「失礼します。……あれ、ユニちゃん?」

 

 可愛らしい声で一言告げた後、女の子が入ってきた。聞き覚えのある声。見覚えのある顔。最初に入ってきたのは

 

「え……? げ、ネプギア!」

 

 ユニ君が零した通り、ネプギアさんだった。 

 

 

 

 

 

 

 

 

「げって、げっていわれた!」

 

 ラステイションの教会内。ギアちゃんのそんな声が響き渡った。その声を聞いたあいちゃんが、後ろからひょいっと首を出した。

 

「あら、仲直りできたんだ」

「ああ、お陰様でね。皆さんありがとうございました」

「良いわよ別に。あの時も言ったけど、乗り掛かった舟よ」

 

 礼を言うと、あいちゃんは軽く手を上げにっと笑った。直ぐ傍にいるユニ君を見て、どんな感じで話が落ち着いたかが解ったのだろう。その仕草が女の子の筈なのに、少し格好良かった。

 

「おー、良かった良かった。これで一件落着だね!」

「ですです。やっぱりギクシャクしているより、仲良しの方が良いです」

 

 続いて顔を出したのは日本一さんとコンパさん。二人とも素直に喜んでくれているので。こちらとしても素直に嬉しかった。

 

「あ、四条さん、ユニちゃんと仲直りできたんですね」

「うん。見ての通り、何とか元通りになれたよ」

「そっか……良かった」

 

 最後にギアちゃん。最初にユニ君にゲッて言われたのが微妙に堪えたのか、若干泣きそうになっていたが此方を見るとほっとしたように微笑んでくれた。相変わらず優しい子のようで、此方としても悪い気はしない。

 

「……それで、ネプギアは何しに来たのよ」

「なんで君はそんなに喧嘩腰なのさ」

「う、うるさいわね。ユウは黙っててよ!」

 

 ユニ君は元に戻ったけど、相変わらずギアちゃんが相手の時は素直になれない様子に苦笑する。ユニ君にとっては一難去ってまた一難と言ったところだろうか。

 

「あう、えっと、血晶を持って来たんだ」

「そうなんだ。ならさっさとケイに渡せば良いじゃない」

「うぅ、ユニちゃん……。やっぱり嫌われたんだ……」

 

 何時ぞやと同じく一杯一杯のようで、ユニ君の言葉には棘が見受けられる。その歩み寄る余地のない言葉に、ギアちゃんが泣きそうになっていた。前回は口を出さないでいたけど、今回もそうしようとは思わなかった。ユニ君が素直になれない女の子なのは良く解っている。ならば、誰かが補ってあげれば良い。それが僕のやるべき事だろう。

 

「ネプギアさん」

「……なんですか?」

「良いこと教えてあげようか?」

「えっと、教えてください」

 

 そんな意図をもって語りだす。唐突にそんな事を言いだした僕に不思議そうに首を傾けつつも、此方をじっと見据えた。

 

「実はね、ユニ君は君と仲直りしたいと思ってるんだよ。血晶のクエストを受ける時もその相談されたし。けど素直になれないからこんなにツンツンしてるんだよ。いじらしくて可愛らしいところがあるよね」

「ちょ、ユウ!? あ、アンタ、何ふざけたこと抜かしてんのよ!」

「ええ、それ本当ですか!?」

 

 恐らくユニ君にとってネプギアさんに一番ばれたくない話。それを今此処で暴露する。すると悲しみに染まっていたギアちゃんの目に明るい光が宿った。嬉しそうに聞き返してくる。そんなギアちゃんと対照的にユニ君は焦ったようにこちらに詰め寄ってくる。まぁ、それも仕方ないかな。恥ずかしくて話せない本音を暴露されれば誰だってこうなるだろう。襟元を両手で掴んでガクガクと僕を揺らし怒り狂うユニ君をしり目に、勿論だよとネプギアさんに片手を上げ告げた。

 

「ちが、そ、そんな訳ないんだから!」

「ユニ、それだけ必死に否定するのは図星だと自分で言っているのと同じだよ」

 

 否定しようと言葉を荒げるユニ君に、ケイさんがにこやかに言った。この場に限り僕もケイさんもユニ君の敵であるため、四面楚歌と言った具合だった。

 

「ユニちゃん……」

「あ、あう。う、ぅぅ」

 

 期待のこもった眼でユニ君を見詰めるギアちゃん。その視線に押され、ユニ君は言葉を失う。自分の想いがばれた事が余程恥ずかしいのか、顔が真っ赤に火照っている。……良かれと思ってやったことだけど、後の事を考えるとちょっと怖い。

 

「……えげつないわね」

「公開処刑みたいだね」

「ユニちゃん、頑張るです!」

 

 冷や汗を流すあいちゃんと日本一さん。そんな二人とは対照的に、ユニ君にエールを送るコンパさん。

 

「まぁ、無理やりな形にしちゃったけどさ、仲直りしたかったんでしょ?」

「……うん」

「なら、頑張れ」

 

 進退窮まった感じのユニ君の背を少しだけ押した。

 

「……ネプギア」

「何、ユニちゃん」

 

 何度か深呼吸した後、ユニ君が観念したのかネプギアさんに向き直った。

 

「あの時は悪かったわ。ごめんなさい」

「え?」

「二度と話しかけないでって言った時の話よ。言いすぎたわよ……」

 

 ユニ君の言葉に、ネプギアさんの表情が驚きに変わった。そして

 

「ゆ、ユニちゃん……っ」

「ちょ、なんで泣くのよ」

「だって、だって……っ。ユニちゃんに嫌われたと思ってたから、嬉しくて……」

 

 感極まったのか、ギアちゃんは泣き出してしまった。流石に予想外だったのだろう。ユニ君も慌てていた。泣いてしまうほど気にしていたにも拘らず、僕を手伝ってくれた優しさには頭が下がる思いだった。

 

 

 

 

 

 

「まさかユニのあんな表情が見られるとはね。貴方やネプギアさんのおかげかな」

「どういたしまして。あとは、あの二人に任せとけば大丈夫かな」

 

 ケイさんが傍に着て言った。視線の先には泣いてるギアちゃんを何とかしようと頑張ているユニ君が映る。流石のユニ君も泣いている相手を邪険にできないのか、慌ててフォローしようとしている姿は微笑ましい。こちらももう大丈夫そうだと見当がついたところで、ケイさんに尋ねる事にした。

 

「所でケイさん。少し聞きたい事があります」

「ふむ、なんだい?」

「ネプギアさんが言ってたんですが、血晶はシェアの力を増幅させる効果がありますか?」

「ああ、あるよ」

 

 僕の質問にケイさんは頷いた。もしかしたらまた何か対価を求められるのではないかと覚悟はしたが、杞憂に終わったようで安堵する。幾らなんでも何かを聞く度に対価を求められては心が廃れてしまう。

 

「なら、シェアの力以外にも増幅させるものは?」

 

 シェアの力を増幅すると言う裏付けを取ったうえで、本題に入る事にした。ネプギアさんは血晶を持った時シェアの力が増幅されていると言った。僕も妙な感覚を感じたし、それ以外の人は何も感じないとも聞いていた。その事が気になっていたから。

 

「いや、血晶が増幅させるのはシェアの力だけのはずだよ。以前に取ってきてもらった宝玉も出力の差はあれ、似たようなモノさ」

「成程」

 

 ケイさんの言葉を噛みしめる。シェアの力を増幅する効果だけがあると言った。となれば、僕がその力を感じる事が出来た理由がある程度絞られるわけだ。何らかの要因、例えば異界の魂として召喚された際に得た力などにより、自身がシェアの力を感じる事が出来る。或いは自分しか感知できない他の力がある。若しくは血晶自体が知られていないだけで他の力を備えている。それ以外だとすれば、

 

 ――僕自身がシェアの力を持っている可能性もある。

 

「血晶がどうかしたのかい?」

「ええ、少し気になる事があって」

「そうか。良ければ話を聞かせて貰うよ。君にはユニの事で世話になったからね」

「ありがとうございます。しかしこればかりは話しても良いモノか」

 

 ケイさんの言葉に考え込む。異界の魂。今考えている事を話すには、自分の存在についても語る必要があるように思えた。ラステイションの教会の教祖に協力を得られたとすれば何かが解るかもしれない。だけど、我が事ながら信じて貰えるとも思えなかった。自分は異世界人です。なんて言ったところで笑われるのがオチな気がする。少しばかり考え込む。

 

「話すだけ話してみるだけでも違うんじゃないかな?」

「そうですね。ではケイさん。『異界の魂』と言う言葉を知っていますか?」

 

 悩んでいても何も解決しないだろう。だから少しだけ情報を出す事にした。ケイさんほどの人だ、仮に知らなかったとしても興味があればその情報を元に何か調べてくれるかもしれない。今、全てを話したところで信じて貰えるとは思えないけど、自分で調べた裏付けがあれば信じてくれるかもしれない。彼女の能力の高さを利用するようで気は退けるけど、それ以外に妙案は思いつかなかった。

 

「いや、聞いた事のない言葉だね。それが関係しているのかな?」

「ええ。ですが知らないようでしたら話さないでおきます。正直、自分でもイマイチ信じられませんし」

「つまり、それだけ常識外れな事を考えていると言う訳だね」

「そんなところです」

 

 ケイさんの言葉も仕方が無い。異界の魂の召喚と言うのは、本来この世界にある術ではない。別の世界で禁忌にあたる術なのだ。異界の魂としての知識が、それを僕に教えてくれていた。だけど僕は呼び出された。ならば何らかの要因により術自体は存在するのだろう。そうでなければ僕がこの世界に存在する意味が解らない。

 

「何やら君にも複雑な事情があるようだね」

「はい。詳しく語れない事は心苦しいけど……」

「いや、構わないさ。君には君の事情があるのだろう。無理に僕が根掘り葉掘り聞くのもマナー違反だという訳さ。それにヒントは貰ったからね。なら、僕としては幾らでも調べようはある」

 

 そう言って笑うケイさんに苦笑を浮かべる。こちらの思惑など筒抜けなんだろうと理解すると、しみじみと思た。本当に食えない人だ、と。

 

「で、アンタ達は何をこそこそ話しているのよ」

「こそこそとは人聞きが悪いね、あいちゃん」

「ふふ、確かに心外だよ」

 

 ケイさんと話していると、あいちゃんことアイエフさんが話に入って来て言った。ちなみにユニ君の方はと言うと、泣き止んだネプギアさんと日本一さんコンパさんを交え、ぎこちない様子ではあるけど談笑しているようだった。

 

「なんとなくアンタたち似てるわね。押しても退いても揺らぎそうにない雰囲気とか」

「そうかな? 正直ケイさんには勝てる気がしないよ」

 

 あいちゃんの言葉に首を傾げる。正直、僕よりもケイさんの方が何倍も食えない人物だろう。

 

「褒め言葉として受け取って置くよ」

 

 薄い笑みを浮かべてそう応えるケイさんを見ると、心底そう思う。

 

「やっぱり似てるわよ。って、そうじゃなかった。結局何の悪だくみをしてたのよ」

「悪だくみって、悪事確定なんだ」

 

 ぼそりと呟くも、あいちゃんは聞かなかったことにしてケイさんを促す。

 

「血晶について聞かれていたのさ。どう言う物なのか、ってね」

「ふーん、そうなんだ。そういえば向こうでも不思議な感じがするって言ってたわね」

 

 そう、とあいちゃんは納得したように頷いた。そのまま青いコートの懐から紅い石を取り出しケイさんに渡した。自分も先程渡した石、血晶だった。

 

「それは兎も角、こっちも血晶を渡すわ。四条が先に渡したからって、受け取り拒否なんかしないでしょうね?」

「ふふ、大丈夫だよ。複数あるならそれだけ色々な使い道がある」

「なら、約束通り、ゲイムキャラの事について教えて貰うわよ」

「ああ、そのつもりさ。だけど少しだけ待っててもらえるかな、向うも話の途中だろうし、僕としても四条君にもう少し話がある」

「そうね、なら、終わったら呼んで」

 

 そこでいったん話を切り、ケイさんが此方に向き直った。さて何だろうかと姿勢を正す。

 

「四条君にラステイションの教祖として依頼をしても良いかな?」

「教祖様直々とはまた。聞くだけなら聞かせて貰いますよ」

 

 今回の血晶の入手も教祖からの依頼ではあるのだが、本人に直接頼まれるのは初めてな為少しだけ驚く。

 

「ああ、有難う。君たちが血晶を手に入れてくれたことで、今進めている計画が近々本格的に行えそうなんだ。そのテストにユニと一緒に参加して貰えないかな?」

「ユニ君と、ですか?」

「ああ。君にはユニも懐いているようだし、適任かと思ってね」

「成程」

 

 少しばかり考え込む。とはいえ、答えは直ぐに出た。僕自身がまだユニ君を放って置けないし、ケイさんと繋がりを持っておくことも必要な事である。ならば、断る理由の方が見当たらない。

 

「解りました、受けさせてもらいます」

「そうか、ありがとう。詳しい事はまた後日に連絡するよ」

 

 それで話は終わりだった。詳しい事を聞いたわけではいけれど、ユニ君と一緒にこなすような仕事である。簡単な事じゃないんだろうなと見当だけはついていた。

 

「えー、ユニちゃん一緒に来てくれないの?」

「ああ、もう、無理って言ってるでしょ! ユウ、ちょっと来て!」

「おや、呼ばれたようだね。話したい事は全部言ったし、行ってくると良い」

 

 ケイさんとの話が終わった後、丁度良いタイミングでユニ君に呼ばれた。少し怒っているような声音から、また何かやらかしたのかと振り返る。ユニ君が、困っているけどそれでいてどこか嬉しそうな複雑な顔をしていた。その表情を見るに、ギアちゃんとのわだかまりも何とかなったように思えた。

 

「ああ、そうさせてもらうよ」

 

 薄く笑うケイさんに頷き、歩を進める。視線の先では、どことなく嬉しそうなユニ君が困ったように笑っていた。

 


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