異界の魂   作:副隊長

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7話 優劣

「コンパさん。ユニちゃんの手当てを!」

「はいです。あいちゃんと日本一さん、ユニちゃんを治療するので少し手伝ってもらっても良いです?」

「仕方ないわね。私たちで担いでいくから、コンパはその間に準備」

 

 意識を失ったユニ君を抱えたネプギアさんが、此方に向かって速度を上げながら叫んだ。女神同士のぶつかり合いだった。見た目通り凄い力のぶつかり合いだった所為か、手合せにも関わらずユニ君の体は至る所に小さいが傷を作っていた。見知った、と言うほど長い間共にいた訳ではないが、それでも自分にとっては思い入れの強い人だった為、そんな子が傷だらけになっている本人の意思とは言え心が痛む。

 

「よいしょっと! それで、何処に運べば良いの?」

 

 ネプギアさんからユニ君を抱き受けた日本一さんが、ぐるりとコンパさんの方へ向き尋ねる。

 

「うぁ……」

「ちょ、怪我人なんだからもう少し丁重に扱いなさい!」

「わわ、痛かった!? ごめんね」

 

 日本一さんの軽快な動きに体を揺すられたのか、ユニ君が小さく呻く。アイエフさんの叱責が飛び、日本一さんが慌てて聞くも返事は無かった。気絶しているので当たり前なのだけど、意識が無いせいか余計に心配してしまう。

 

「とりあえず、ここに寝かしてくださいです」

「う、うん、解ったよ」

「なら、サッサと運びますか」

 

 治療のし易いある程度広い場所に陣取り、治療に使う薬品などを鞄から取り出しつつコンパさんが指示を出す。それを聞いた日本一さんとアイエフさんがユニ君を協力して担ぎ、コンパさんの下へ向かった。それを自分は遠目から見ているだけである。本来ならば何かをしてあげたいんだけど、ユニ君は全身傷だらけで、少しばかり服の上からも怪我を負っていた。恐らく治療は服を脱がすだろうから、男の僕がその場にいる訳にもいかないため、手伝う事が出来なかった訳だ。

 

「ユニちゃん大丈夫かな……?」

 

 直ぐ近くにいたネプギアさんが小さく零した。ユニ君を撃ち落した張本人であるのだから、言葉の端々から罪悪感と不安を感じ取れる。何か、言葉をかけてあげなきゃいけない気がした。

 

「大丈夫、だよ。あの子は僕なんかよりもずっと強い子だからね」

 

 自分だってそこまで長い付き合いでは無いけど、それは知っていた。ラステイションの女神候補生であり、自分にできる事を一生懸命頑張っている女の子だった。強い子だとすぐに解った。女神の姉に追い付こうと頑張っている姿を少しだけど知っていた。そんなユニ君を見ていると、一回負けたぐらいでへこたれる様な子だとは思えなかった。

 

「でも、危うく大怪我をするかも知れなかったんですよ? ううん、もしかしたら死んでいたかも……。嫌われても仕方が無い事をしちゃいました……」

「それでも、あの子が望んだことに君は応えてあげただけだよ。なら、それを恨むのは筋違いだから、ユニ君はそんな事で怒らないと思うな」

 

 そんな僕の言葉では納得できないのだろう。ネプギアさんは少しだけ不安そうに言葉を続ける。第一印象は笑顔が印象的な子だと思ったけど、精神的にはそこまで強くないのかもしれない。その姿は、とても弱弱しく見える。

 

「でも、もっと私がうまくできれば」

「もし、を考えてたらキリが無いよ。ネプギアさんは、ユニ君と対等に戦って勝った。なら、負けたユニ君の為にも、そんな泣きそうな顔してたら駄目だよ。もっと胸を張らなきゃ、あの子はきっと怒るよ」

 

 言葉を聞いていると、友達思いな子だと言うのが十分に理解できた。自分を責めている事が痛いほど良く解る。だからこそ言ってあげなきゃいけない。ユニ君はそこまで弱い子じゃないって。

 

「けど……、ううん、そうですよね。ユニちゃんに怒られちゃいますね」

 

 それでも何か言葉を続けようとしたネプギアさんだが、小さく頭を振ると少しだけ吹っ切れた表情でそう零した。

 

「うん。アタシに勝ったのになんて顔してるのよ! とか言って怒るんじゃないかな」

「ふふ、何ですかそれ。全然似てないですよ」

「ですよね。けど、似ていたらそれはそれで嫌だなぁ」

 

 僕の言葉に、ネプギアさんは小さく笑った。まだ少しぎこちないけれど、それでも表情から暗さが抜けていた。おどけて言う僕に、ネプギアさんは今度こそ心からの笑みを浮かべてくれた。この子もまた強い子なんだろう。前を向き小さく笑う彼女を見るとそう思う。

 

「あ、そうだ四条さん」

「ん、なにかな?」

 

 ネプギアさんが思い出したように言った。

 

「さっきはありがとうございます。四条さんの魔法のおかげで何とかユニちゃんを受け止める事が出来ました」

「ああ、気にしないでいいよ。むしろ、僕はあれぐらいしかできなかったから、あの子を抱きとめてくれたネプギアさんには感謝してもし足りないかな」

 

 ネプギアさんが言ったのは、彼女がユニ君を抱き留める時に使った魔法についてのお礼だった。僕としてはそれ位しかできなかっただけなのに、彼女は一度僕の目を見た後頭を下げた。自分にできる事をしただけでしかなく、僕一人だったならばどう考えてもユニ君を助ける事は出来なかった為、お礼を言われるような事では無いと思うのだけど、そう言ったところでこの子はきっと納得しないんだろうなと思い至り、素直にお礼を受ける。むしろ、僕の方こそありがとうと言うべきなのだが、それは心の中だけにしておいた。

 

「あ、少し手を怪我してるね」

「え!? あ、そうみたいですね。全然気付かなかった」

 

 ネプギアさんが頭を下げた時、ふと彼女の手から血が流れている事に気付いた。彼女に教えると、少し驚いたような表情をして、自分の右手の甲を眺めながら零した。流れ落ちる赤色が痛々しかった。

 

「でも、これぐらいなら少し治療すれば大丈夫ですよ。あ、でもいまはユニちゃんの治療しているところだし、向うに行ったら邪魔かな?」

「なら、僕が治療するよ。右手を出してくれるかな」

「あ、はい」

 

 ネプギアさんがコンパさんの下に行こうとして止まる。現在進行中でユニ君の治療をしている為、自分が言ったら邪魔になると遠慮してしまったようだ。実際のところ、彼女一人が言ったところで大した邪魔にはならないと思うのだけど、性格なのか遠慮してしまっている。困ったように言うネプギアさんを見ていると、なんとなく助けてあげたくなってしまった。

 

「失礼。このまま少し待ってね」

 

 一声かけネプギアさんの右手をとり両手で包み込むようにし、自分の右手を傷口にそっと翳し両目を閉じ集中し魔を込める。体の奥から、温かい力が動くのが解った。そのままゆっくりと力を右手に集中させ、言葉を紡ぐ。

 

 ――月光聖の祈り。

 

「わぁ、温かい」

「これで終わり、かな。僕の性質なのか、回復はあんまり上手くできないけど、その位の傷なら大丈夫だと思うよ」

 

 そう言い、小さく笑う。彼女に施したのは回復の魔法だった。自身の魔力を糧に、他者の回復能力を一時的に高める魔法。それを施していた。言葉通り、僕はこの手の魔法があまり得意では無かった。一応ラステイションに来て自身の使える魔法をいろいろ試してみたのだが、自分や誰かを治療するような魔法とは相性が良くないように思えた。何というか、しっくりと来ない。自分は知っているとは言え、詳しいと言う訳では無かった。だから、魔法もある程度は手探りで探っていく必要があるみたいだ。そうして得た結論が、不得意と言う事だった。とは言え、少しした傷ぐらいなら十分治す事が出来る。……良く考えると、小さな傷とは言え治せることが異常なはずなのに、それが当たり前になってきていた。人間の適応力と言うのは凄いモノだと変なところで感心してしまった。

 

「そうみたいです。もうだいぶ塞がっちゃいました」

「そっか、良かった」

 

 ネプギアさんが見せてくれた手を確認し、ほっと溜息が零れた。治療した後にふと思った事だが、変な跡とか残ったらどうしようと若干心配してしまった。そんな心配も不要だったようで、綺麗に塞がっている。

 

「あの、また助けて貰っちゃいましたね。ありがとうございます」

「それこそ気にしないでよ。元はと言えばユニ君が君を傷つけた訳だからね。あの子のパートナーとして、治療位はさせて欲しいな」

「それでも、ありがとうですよ」

「そっか。なら、その言葉は素直に受け取って置くよ」

 

 苦笑しながら頷く。良い子なのだが、意外と頑固者な様だ。押しの弱い子なのかと思えば、今みたいに若干強い場面もある。中々見ていて飽きない面白い子だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「う……。あ、れ? アタシ、どうなったんだっけ?」

 

 ユニの治療が殆ど終わり、コンパたちが一段落ついたところでそんな声が零れた。寝かされていたユニは、ゆっくりと目を開き、ぼんやりと呟いた。じんわりとした痛みが彼女の全身を包み込んでいる所為か、その動きはユニらしくなく緩慢である。

 

「あ、ユニちゃん。気が付いたですか?」

「え?」

 

 傍らで心配そうな声が聞こえてきた為、思わず視線を動かす。ユニのすぐ傍にいたコンパが、心配そうな顔で覗き込んできていた。一度二度と瞬きをした後、ユニは理解した。

 

「そっか……。アタシは、負けたんだ」

 

 小さく零す。その声は少しだけ震えていた。

 

「そうね。それは兎も角、どうしてあんなことをしたのか教えて貰えると嬉しいのだけど」

 

 ユニが目覚めた事に気付いたアイエフが、彼女の傍にまで来ると尋ねた。戦う必要のない場面で何故戦いを仕掛けたのか。どういう意図があるのかを本人から聞きたかったからだ。

 

「あ、あいちゃん。まだユニちゃんは起きたばかりですよ! そう言うのはもう少し余裕ができてからにしてください」

「そうだよアイエフ、怪我人には優しくしないと」

「う、解ったわよ」

 

 しかし、その言葉は彼女の仲間であるコンパと日本一に遮られた。目覚めたばかりの怪我人にそんな事を聞くのは常識が無いと、コンパに窘められる。本人も自覚があったのか、すんなりと引き下がった。ばつが悪そうにユニを見ると、アイエフは小さくごめんなさいと呟いた。

 

「……元はと言えば、アタシの我儘だから。ごめんなさい」

 

 ユニはそれだけ呟くと、立ち上がった。声が震えている。負けた事で、色々な感情が彼女の中で渦巻いており、それだけ言うのがやっとであった。そのまま立ち上がる。

 

「まだ、動いちゃだめです。もう少し体を休めた方が良いですよ」

「ううん、大丈夫。アタシの体だから、自分の事は自分が一番解る」

「そんな訳――」

「行かせてあげようよ」

 

 そのまま歩いて行こうとするユニをコンパが遮る。看護師である彼女からすれば、もう少し体力を回復してからでなければ動いて欲しくなかった。だから無理に動こうとするユニを止めようとしたのだが、それを日本一に遮られる。

 

「アタシもヒーローをやってるから解るんだ。辛くても、他人に優しくされたくない時もあるんだよ」

「そうね。今無理に引き止めても駄目そうだし、行かせてあげるべきじゃない?」

「あいちゃんまで」

「ごめんなさい。けど、行かせてほしい」

「ううぅ、解りました」

 

 思わぬところからの援護と本人の意思に負け、コンパは遂に折れる。本人としては行かせたくないのだが、止める事を許さない雰囲気になってしまっていた。

 

「ありがと」

 

 ユニは小さく呟く。その言葉は、三人の耳に届いていた。

 その場を離れる。まだネプギアと話をしていない。その為、ユニは彼女の下へ歩を進めた。

 

 

 

 

 

 

「でも、四条さんの力どこかで感じた気がするんだけどな……」

「ん、どういう事?」

 

 右手の甲を眺めながら、ネプギアさんが奇妙な事を言いだす。それがやけに気になった。聞き返す。

 

「あ、はい。四条さんの魔法をこれまで三回かけて貰いましたけど、その時感じる力に覚えがあるんです。なんていえば良いんだろ……、もっと前に四条さんの力を感じた事があるような気がするんです。既視感ってやつなのかな?」

「既視感。それってもしかすると――」

 

 ネプギアさんの言葉に一つの可能性に思い至る。それは、僕がこの世界に居る事についての手掛かりかも知れなかった。だからか、意識がそちらばかりに向いてしまった。その為気付かなかった。

 

「そっか。ユウイチ……、アンタもネプギアが良いんだ……」

「え?」

 

 不意に背後から聞こえた漸く聞きなれた声。その声が震えていた。思わず振り返る。

 

「そう、だよね。ネプギアの方が強いし、アタシなんかより女神候補生に相応しいもんね」

「ユニ君……、何を言って」

「良いの。ネプギアと話してるときのアンタ、楽しそうだった。無理してアタシに付き合わなくていいよ」

「無理って、どうしてそうなるのか」

 

 意味が解らなかった。理由が解らなかった。けど、ユニ君が無理しているのだけは解った。誰だってわかるだろう。目の前で泣きそうな顔をされて解らない人間はそうは居ない。だから、言葉を紡ごうとした。

 

「良いって言ってるの! アンタと組むのもこれで終わり! 今日はありがと。一緒に仕事してくれて……嬉しかった」

「ユニ君?」

 

 が、捲し立てるようにユニ君は言った。一方的にパーティーの解散を告げられた。余りの事に、真意を問う為近付こうとする。

 

「仕事はアタシの我儘の所為で失敗したって言っとくから、アンタは何も心配しなくていいから」

「聞きたいのはそう言う事じゃないよ。なんで急に解散するのか。その理由を――」

「アタシは一人でも大丈夫だから! だから、ネプギアを助けてあげて! だから」

 

 ユニ君は僕の言葉を無視して自分の告げたい事を一方的に捲し立てる。其処まで言ったところで一度言葉を切った。その後、泣きそうな笑顔で笑ってから言葉を紡いだ

 

「さよなら」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……訳が分からないね」

 

 軽く瞳を閉じ一連の事を頭の中で整理すると、そんな結論に至った。意味が解らない。その一言に尽きる。ただ、自分があの子を傷付けたと言う事は、直感的に理解できた。あんな泣きそうな笑顔を見せられれば、嫌でも解る。其処まで鈍くは無い。

 

「ユニちゃん、すごく怒ってましたね。それ以上に、泣いてました」

「そう、だね」

 

 とは言え、その理由が思い浮かばない。僕がした事と言えば、ユニ君が気を失っている間にネプギアさんの治療をして少し話をしたぐらいだった。その程度でしかないため、彼女を傷付けるような事をした覚えが無かった。だからこそ、良く解らない。

 

「追わなくても良かったんですか?」

「今追ったところで、どうしようもないからね。あの子が何を怒っているのか。それが解ればいいんだけど、現状だと打つ手がないからね」

 

 おずおずと聞いてくるネプギアさんに応える。一方的に別れを告げたユニ君は、話す言葉は無いと言わんばかりに踵を返し、その場を立ち去った。追いかける事は出来た。が、それでは意味が無い。取り付く島の無い様子に、何を怒っているのかすら聞き出せなかったのだ。ならば彼女に今問うたところで、まともな答えが聞けるとは思わなかった。

 

「どうしたのよ、あの子」

「いや、僕にも解らない」

「あ、あはは……」

 

 こちらに向かって走ってきたアイエフさんに事の次第を聞かれるが、答える事が出来なかった。そもそも自分も置いてけぼりなのだ。僕の方が教えてほしい。ネプギアさんの乾いた笑いだけが、辺りに響く。

 

「アンタと合流して帰るのかと思ってたら、いきなり大声あげるし、かと思ったら走ってどこかに消えるし、何なのよあの子は」

「あー、うん、なんかごめんなさい」

 

 うがーっと声を荒げるアイエフさんにそう言うのがやっとだった。正直に言えば状況が呑み込めず八方塞がりであった。どうしたものか。考え込む。

 

「とりあえず、私たちは血晶を私に行きましょうか。依頼自体は終わってるわけだし」

「それはそうですけど……、このまま行っちゃっていいのかな」

 

 怒りを吐き出した事で直ぐに落ち着いたのか、アイエフさんはネプギアさんに言った。本人もそれ自体には賛成の様だが、先ほどあった出来事の所為か、僕の事を気にかけているのが解った。優しい子である。もう何度目か解らないが、そう思った。

 

「血晶、か。今回の依頼はユニ君と共に血晶の回収。ユニ君が負けたから血晶は手元にない。だから依頼は失敗と言う事になる。その為、パーティーを解散した。そして、依頼の達成自体はパーティーである必要はない。なら――」

 

 アイエフさんの言葉から、一つの答えに行き着いた。これで正しいのかは解らない。もしかしたら正解では無いかもしれない。けど、僕の思っている通りに事が成れば、少なくとももう一度あの子と話をする事はできるかもしれない。なら、今考え付いた手を実行するのに迷いは無かった。

 

「あの、四条さん。とりあえず一緒にラステイションまで行きませんか?」

 

 やる事が決まったところで、ネプギアさんがそう言ってくれた。彼女たちは目的の品物を手に入れたので、この場所にはもう用が無い。当然の流れだと思う。

 

「ごめんね。僕はもう少しやる事があるんだ」

「やる事、ですか?」

 

 けど、僕といえばそういう訳には行かなかった。現状のまま帰ったとしても、ユニ君と話をするのは難しいだろう。ほぼ間違いなく会えない。だからこそ、依頼を失敗したまま帰る訳には行かなかった。僕個人で会いに行ったところで門前払いは見えているが、依頼を成功させ、その流れで教祖に事情を話せば少しぐらいは融通してもらえるかもしれないからだ。

 

「そ、あの子が負けたから血晶は君たちの物だからね。僕はもう一つ血晶を探す。この辺りのテコンキャットが持っているようだから、もう一つぐらい見つかるんじゃないかな」

「そうですか。あ、でも、それなら私たちと一緒に報告したら良いんじゃないですか?」

 

 自分の考えを告げると、ネプギアさんは名案を思い付いたとばかりに言ってくれた。

 

「気持ちは有りがたいけど。多分駄目だよ。それをやったら、あの子の言った通り、僕がネプギアさんを助けるって言ってるようなモノになるからね」

 

 その気持ちを嬉しく思うけど、その提案に乗る訳には行かなかった。ユニ君は去り際に言った。自分では無くネプギアを助けてあげて欲しいと。あの子のネプギアさんへの想いにはいろいろ複雑なものがあるのだろう。それが解るからこそ、僕がネプギアさんたちと一緒に協会へ報告に行ったら駄目だと言う事は想像できた。報告には僕一人で行かなければいけない。その為には、血晶がもう一つ必要だった。

 

「確かに、あのユニちゃんの様子だとそうかも」

「うん。だから、僕は血晶をもう一つ探すよ」

「そう。なら、私たちは先に行くわね」

 

 自分の考えを告げると、納得してくれたのかそれ以上誘って来る事は無かった。アイエフさんが軽く手を上げて別れを告げてきた。

 

「ああ、気を付けてね。また、どこかで会えると良いね」

 

 それに応じる。一度だけ共闘をしただけなのだが、良い人たちだった。また会えると良い。心の底からそう思った。だから笑顔でその背中を見送ろうと思う。

 

「……」

「ギアちゃん?」

「やっぱり駄目だよ」

 

 アイエフさんを先頭に歩きはじめたのだが、ネプギアさんだけが一向に動く気配が見えなかった。じっとこちらを見詰めていた。女の子にじっと見つめられるのには慣れていないため、少し居心地が悪い。何時までも動かない彼女を不審に思ったのか、コンパさんが戻ってきてネプギアさんに声をかけた。小さくネプギアさんは言う。

 

「ネプギア、どうしたのー?」

「何してるのよ」

 

 先に進んでいた二人も此方に戻ってきた。

 

「……ネプギア、アンタもしかして」

「うん、やっぱりこんなところで帰るのは嫌だよ。四条さんとユニちゃんには仲直りしてほしいもん」 

「はぁ、まったく、何時もの癖か。仕方ないわね。どうせ言ってもも聞かないだろうし、付き合ってあげるわよ」

「あれ? じゃあ、まだ戦うんだ。なら、頑張らないとね!」

「はいです! やっぱりこのまま帰るって言うのはいけないって思ってたです」

 

 ネプギアさんの言葉に、アイエフさんはため息とともに言った。その言葉につられたのか、他の人たちも各々の武器を取り出していた。

 

「いや、これは僕が自分の力でやらないといけない事だと思うんだけど」

 

 気持ちは嬉しいのだが、彼女たちにとっては完全にやらなくていい仕事だった。何より、何より本末転倒な気がした。

 

「大丈夫ですよ。四条さんの力を借りるんじゃなくて、四条さんに力を貸してあげるんですから、ユニちゃんの言葉とは違うよ!」

「そういうものかなぁ」

「そうですよ」

 

 とは言え、自分一人で見つかると言う保証も無い。事が事なだけにできれば今日中には終わらせてしまいたい為、彼女たちの助力は素直に心強くあった。結局、押し切られる形でネプギアさんたちに協力してもらう事になったのだった。

 


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