異界の魂   作:副隊長

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19話 奇妙な調査班

「やってほしい事がある」

 

 ルウィー大臣の執務室。そこに呼び出された僕とネズミ君に向け、大臣は神妙な顔をして切り出した。

 マジックと出会いユニと再会したあの日から幾らかの時間が経ち、ルウィーの教会から出る依頼を幾つかこなしながら生活していた。一応僕も七賢人側の人間な為、ネズミ君と二人で大臣から与えられる仕事をこなしつつ、ルウィーの中で様子窺っていると言う状況だった。大臣主導で行っている政策の一つである鉄道事業。それを進めるのに障害となる魔物たちの排除と言うのが主な仕事だろうか。小型の魔物の群れや、時には危険種の討伐などの依頼もあったが、今のところ特に問題も無く計画は進んでいるようである。

 

「と言うと、今回も討伐でしょうか?」

「まー、アニキと一緒に呼ばれるって事は、厄介ごとだろうっちゅ。けど、小間使いみたいにこき使わわないでほしいっちゅね」

「呼ばれないよりはマシだと思う事にしようかな」

 

 バトルはシンドイっちゅと愚痴を零すネズミ君を宥めつつ、大臣を見る。マジックは元々大臣の養っていた子供たちの一人である。言ってしまえばマジックの親代わりなので、友好的な関係は維持しておきたい。それにマジックが元に戻った理由を調べるため、大臣には協力を依頼されてもいる。女神に成れなかった子供たち。その子たちを元に戻す為なら、拒否する理由も思い浮かばない。そう言う理由もあって、なるべく良い関係でいたいとは思う。

 

「いや、ネズミの言う通りじゃよ。すまんなこき使って」

「解ってるなら、休みを要求するっちゅ!」

 

 軽く謝罪する大臣に、文句を言うネズミ君。まぁ、何時もの事なので特別何かを言う必要も無いだろうか。所謂恒例行事みたいなものだ。

 

「それはそのうち考えておくとして、頼みと言うのは何時もの様に討伐じゃな。ただし少しばかり今回は毛色が違う」

「と、言うと?」

 

 それから大臣は神妙な表情を崩さず続ける。何処となく気が重そうではあるが、続きが気になるため促す。

 

「結論を先に言おうかのう。今回の依頼は、ルウィーの女神と合同で行う事になる」

「……成程。白の女神、ホワイトハート。女神が出てくるほど厄介な相手だと」

「そう言う事になるわいな」

 

 溜息を吐きながら大臣の表情が曇った。どちらかと言えば、七賢人と言うのは悪の組織なのではあるが、完全に悪に傾倒している訳でも無い。彼らにも彼らなりの思いがあるのだろう。

 

「今回の該当エリアは、元々ルウィーの軍を使って建設予定地の確保を行っていたのじゃがなぁ。厄介な事が起きてしまってのう。派遣した部隊。幾つかに分けた隊の一つが、全滅したのじゃよ」

「全滅って、本当ちゅか?」

「うむ。撤退する事も出来ず、部隊の者は皆殺しにされたようじゃな。本来は小型の魔物の討伐の任務じゃった。それがこのような事になるとは。……予想外の事とは言え、悪い事をしたものじゃよ」

 

 女神の敵を自称する彼らだが、だからと言って人間が憎い訳では無い。死なせてしまった人たちの事を思ったのか、大臣は疲れたように溜息を零した。

 確かに、女神が出てきても不思議では無い案件であった。既に人死にが出ていた。何より僕は現場を見た訳では無いけれど、軍の人間が逃亡を図る事も出来ず全滅させられるような相手であった。明確な情報は無く正体不明の相手。並の人間では太刀打ちできないと判断したのだろう。白の女神が直接動くのには充分に思える。

 

「と言う事は、今回の仕事は女神の共闘。もしくは護衛と言った感じですか?」

「そんなところじゃな。今回の件、小娘も気に入らなかったようで、自分が行くと言って聞かぬのよ。問題ないとは思うが、正体不明の敵じゃしのう。お目付け役が欲しい。頼めるだろうか?」

「構いませんよ」

 

 頷く。理由はどうであれ、正体不明の敵と言うのは気になる。魔物による被害と言うのは避けられないだろうけど、減らせるのならば減らしておきたい。勿論自分の手に負えないならその限りでは無いけど、そこまでの相手はそうそういないと思うし。今の僕が勝てない相手と言えば、ユニ位だろうか。これまでの経緯から泣かせた事もあって、勝てる気がしない。そもそもあの子と戦うなんて選択肢が無い。……勝てない方向性が違うか。

 

「そうかそうか。ならば安心じゃのう」

「なーにーが、安心か! 態々呼び出されたので来て見れば、女神の小間使いをやれだと? ふざけているのか爺!」

「ちゅつ、その声は……!? オバハン!!」

 

 唐突に執務室の扉が開き、黒き魔女が大臣を睨みながら入ってくる。ネズミ君が驚いたように声を上げるが、そこまで驚く事でも無かった。僕を呼び出したのはマジェコンヌであり、目に見えない繋がりがあった。近くに居るのは何となく解っていたからだ。

 

「だーれーがーオバハンだ!」

「その計ったような絶妙な話し方! 実年齢を考慮しない妙な服装! 今時流行りそうにないケバイメイク! 間違いなくオバハンっちゅ!」

「おい、ネズミ! 人を基地外みたいに言うのはやめろ!」

「むりっちゅ。本音を言うのはやめられないっちゅ!!」

「きっさまぁ! 消し飛ばしてやろうか。表に出ろ!」

「ちゅちゅー! 態々消されるために付いて行く馬鹿はいないッちゅよ!」

 

 マジェコンヌが現れた途端、ネズミ君が目を輝かせながら弄り始めた。と言うか久々に会った知人に対して酷い言い様である。それだけ仲が良いと言うべきなのか、腐れ縁とでも言うべきなのだろうか、とにかくマジェコンヌも怒ってはいるが攻撃する気は無いと思う。多分。

 しかし、見れば見る程僕の知っている犯罪神とは違う。ネズミ君に小馬鹿にされているのが、この世界の犯罪神だと言って、誰が信じるだろうか。いや、正確に言うと犯罪神では無いのだけれど、僕の中でマジェコンヌ=犯罪神の構図が出来上がっている為そう思ってしまうんだろう。

 とは言え、この次元のマジェコンヌは見ての通り力の強い魔女でしかない。悪ではあるが、世界の敵と言う訳では無かった。なら、それで良いじゃないか。嫌いと言う訳ではないが、どこか釈然としない自分にそう言い聞かせる。

 

「相変わらず仲が良いようだね」

「貴様は現状を見て、本当に仲が良さそうに見えるのか!?」

「険悪には見えないよ。気の置けない仲って奴かな」

「貴様の目は節穴か!」

 

 くく、っと口角が緩むのを自覚する。確かに少し面白い。ネズミ君が怒涛の勢いで弄るのも解らないでは無い。が、話が進まないので話を軌道修正する。

 

「全く、騒がしい奴らよのぅ」

「まぁ、にぎやかで良いんじゃないかな。さて、マジェコンヌを含めて七賢人が三人いる訳だ。そのうち二人が女神の護衛をすると。七賢人としては気の利いた皮肉だね」

「全くじゃな。とは言え、お前さんからしたらそう悪い話でもあるまい」

 

 大臣の言葉に頷く。今の僕の存在意義は、女神を護る事では無い。だけど、倒すと言う訳でも無かった。距離感さえ間違えなければ、敵対する必要はない。とは言え、寧ろ女神から仕掛けて来る理由はあるか。召喚者が七賢人だし。

 

「女神ホワイトハートの護衛と言ったところか。中々あくの強いチームだろうが、頼むぞ」

「解りました」

「おい。貴様ら、何勝手に話を終わらせているのだ! 私は女神の護衛などやらんからな!」

 

 駄々をこねる大人が一人。まぁ、七賢人の存在理由を考えれば気持ちは解らないでもないけど、往生際が悪いと言うかなんというか。

 

「別にオバハンの協力なんてなくともどうとでもなるっちゅ。年増は年増らしく、観光でもしてればいいっちゅ」

「はっ、雑用如きが良く吼える。貴様に何ができると言うのだ?」

「ちゅちゅ。オイラだって七賢人ッちゅ。楽勝っちゅよ。まぁ、オバハンにも後で何があったかぐらい教えてやるっちゅから、好きにすれば良いっちゅ」

「はん、良いだろう。そこまで言うなら見せて貰おうでは無いか」

 

 さてどうなるのかと眺めていると、上手い事ネズミ君がマジェコンヌをその気にさせたようだ。黙って大臣と二人で成り行きを見守っていたが、結局マジェコンヌも参加する様だ。

 

「では、女神様を頼むぞ」

 

 その結果に満足したのか、大臣は僅かに皮肉を織り交ぜながら言う。女神様ねぇ。っと、マジェコンヌが呟いた。まぁ、良い思いはしないだろう。

 

「女神は?」

「今日は準備をしている頃だろう。直ぐに連絡がいくと思う。何時でも出れるようにしといてくれ」

「ふん」

 

 それ以上何か言う事も無く、小さく息を吐き捨てると部屋から出て行った。

 

「さてと、僕たちもいこうか」

「ちゅちゅ。オバハンにはああ言ったっちゅけど、戦うのは専門外ッちゅ。アニキに期待してるっちゅ」

「ああ、やっぱりフリだったんだ。まぁ、それなら僕が頑張るさ」

 

 それで話は終わりだった。直ぐにでも連絡がいくと言う事である。何時でも出れるように準備する為に、一度解散する事になった。

 

 

 

 

 

「ふぅん。それで、こっちのブランさんと一緒に仕事する事になったんだ?」

「そうだね。ホワイトハート一人でも大丈夫だとは思うけど、一応僕たちも呼ばれた訳だね」

「女神の護衛ね……。と言う事は、お兄ちゃんが一緒なわけだ。あの時のアタシみたいに」

 

 翌日。早速呼び出しが来た為目的地に向かう途中、ユニが思い出しながら言う。あの時と言うと、女神を救出に向かった時の事だろうか。たった二人で敵陣に乗り込んだ時の事を想い出す。まぁ、乗り込んだと言うか、忍び込んだ、だけど。

 

「……アタシも付いて行くからね」

「ああ、うん。それについては了解したよ。まぁ、ユニなら心配する事は無いけど……無理はしないでね。今は女神じゃないんだから」

 

 ついて来ると言い、隣を歩く妹分に視線を向ける。手にしているのはかつて見たライフルではなく、紅き銃剣だった。勇気の剣(ブレイブソード)。僕がブレイブの力と自身の剣を用いて、ユニの為に遺した剣だった。想剣は犯罪神に打ち克つ為ノワールに遺したものだった。だからと言う訳ではないが、ユニの為に遺したのが勇気の剣だったと言う訳だ。僕にとって、二人とも大事な女の子であった。想いの質の差はあれど、二人とも妹の様に思える。ノワールもユニも、放って置けなかったから。だから、二人に一振りずつ遺す事にしたのだ。その片割れをユニは大事そうに抱えている。遺したものを自分で見ると言うのは不思議な感じである。

 

「アタシね。あの時言ったように、この剣をずっと使ってるよ。まだまだお姉ちゃんには勝てないけど、少しずつものに出来てきてると思う」

「……そっか」

「ずっと、お兄ちゃんに見せたかったんだよ。あの時言った、お姉ちゃんを超えるっていう目標はまだ達成できてないけど、お兄ちゃんのおかげでこんなに強くなれたんだよって」

 

 僕の目を真っ直ぐ見据えてユニはそんな想いを教えてくれる。それにどう答えるべきか。直ぐに言葉が出ずに、困ってしまった。そんな僕の手を取り、ユニは自信ありげに笑う。

 

「剣って言うと、お兄ちゃんはお姉ちゃん以上に凄いよね。ネプテューヌさんとお姉ちゃんの二人を同時に相手に出来たんだから」

「……あの時は必要があったからね。ごめんね」

「あ、別に責めてる訳じゃないよ。ただ、女神二人の剣戟を片手で捌いてた。本当に凄かったなって。今でも思い出せるよ」

 

 言葉の通り、責めると言うよりは本当になつかしそうにユニは零す。この子たちの前に敵として立ち塞がったころの話。ユニを含めたら三人の女神を相手に立ち回った。客観的に見ると、凄い事なのだろう。僕が異界の魂として与えられた力があったから成し得た事だった。

 

「剣ではお姉ちゃんにもお兄ちゃんにもまだまだ追いつけてないけど……、それでもアタシはアンタに見て欲しい。だから、一緒にいくよ」

「ああ、一緒に行こうか」

 

 ユニの言葉に頷くと、それだけで上機嫌になったようで嬉しそうに頬を緩ませる。

 

「相変わらず、仲が良いっちゅね……」

「まぁ、いつもこんな感じだよ」

 

 話しながら歩いていた為、目的地にたどり着いた。それと同時にネズミ君がしみじみと呟く。その言葉を否定できる要素が見つからないし、そもそも否定する意味も無い。が、少しばかり気恥ずかしくも感じる。苦笑を浮かべながら同意する。

 

「あ、ネズミもいたんだったわね」

「最初からいたっちゅよ。そもそも仕事にいくっちゅからね」

「解ってるわよ。お兄ちゃんには負けるけど、アタシも結構強いんだから」

 

 言外に大丈夫なのかと聞いてくるネズミ君に、ユニは余裕を崩さず答えた。神次元に来た影響か、ユニは女神化する事が出来なくなっていた。その為、戦闘力と言う面では幾らか弱くなってしまったが、それでも戦うには充分な実力と経験を持ち合わせている。これまでネズミ君がユニが戦える事を知らなかったのは、偏に僕が過保護だったからだろう。今のユニは普通の女の子である。女神と違い無理はできない。女神だから無理をして良いと言う訳ではないが、女神だった時以上に油断はできないと言う事である。だから、でき得る限り戦わせたくは無かったのだが、本人に押し切られてしまったと言う訳だった。

 ちなみに僕がこんな感じで心配をしているのを他所に、何故かユニは女神で無くなったことに対し楽観的と言うか、嬉しそうなところがある。一度女神でなくなったことについて聞いてみたところ、普通の女の子として過ごした事など無かったから、嬉しいとのことだった。それに少しだけど成長もしたし、っと心から嬉しそうに呟いていたのを思い出す。特段身長が伸びたと言う印象も無い。と言う事はアレだろうか。流石に聞く訳にもいかないので、妙な疑問を残す事となった。

 

「随分と賑やかな連中が選ばれたようね」

 

 ネズミ君とユニのやり取りに目を向けていたところで、聞きなれない声が聞こえた。敵意も感じない為、ゆっくりと振り返る。最初に見た印象は、紅葉だった。紅白で彩られた和服に身を包み、同じく赤と白の帽子を被った女の子がそこに居た。彼女の着ている服は所謂巫女服に趣が似ており、落ち着いた声音もあってか、どこか澄んだ印象を受ける女の子だ。

 

「僕は四条優一と言います。貴女が女神様でしょうか?」

「ええ、そうよ。女神ホワイトハートこと、ブランよ。公式の場でなければブランって呼んで」

 

 半ば確信しながら尋ねた。思った通り、目の前の女の子はルウィーの女神のようだ。かつて超次元で見たルウィーの女神を思い出す。国際展示場で5pb.のライブを強襲した時だっただろうか。あの時見た女の子に確かに似ている。彼女とはほとんど面識が無かったため、はっきりと覚えている訳ではないが、確かに面影がある。何処かあの時見た白の女神より疲れているような印象を受けるが、確かに目の前に居るのは女神だった。

 

「こ……、は、初めましてブランさん。アタシはユニって言います。よろしくお願いします」

「ちゅちゅ。ワレチューっちゅ。大臣とは古い仲っちゅ」

「ええ、よろしくお願いするわね」

 

 ユニがぎこちない感じであいさつを交わす。超次元のブランさんとは知り合いなのだろう。だからか、普通に挨拶しかけて言い直したと言った感じだった。幸いブランさんも初対面の挨拶であるためぎこちないのだろうと判断したのか、特に不審に思う様子も無く淡々と答えている。と言うか、神次元と超次元で若干ややこしい。呼び捨てなり、女神名なりで呼び分けする方が良いかもしれない。

 

「さて、聞いてる人数に一人足りていないようだけど……」

「連絡は届いている筈なので、そろそろ来ると思います。と言うか、近くには来ていますね」

「解るのかしら?」

「まぁ、そんなところですよ」

 

 ブランさんの言葉に頷く。そんなやり取りをしていると、漸く最後に一人が現れた。

 

「待たせたな」

 

 黒の魔女、マジェコンヌである。

 

「これで全員かしら? 遅い」

「オバハンの癖に重役出勤とは良い度胸っちゅ」

「せめてブランさんよりは早く来るべきよね」

「擁護する言葉が見つからない」

「ふん」

 

 各々の言葉を聞くも、マジェコンヌは悪びれた様子も無い。そんな彼女の様子に諦めたのか興味がないのか、ブランさんは深く追求する事も無く向き直るといった。

 

「それじゃ、行きましょうか」

 

 こうして女神と七賢人、別次元の女神候補生と紅き魂と言う、奇妙なパーティーが結成されたのだった。

 

 

 




夢を明確に覚えてるのはノワだけです。
それはそうと、神次元なら成長が可能。やったねユニちゃん! 胸囲が増えるよ!

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