異界の魂   作:副隊長

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10話 ルウィーの七賢人

「ところで、君の方はどうするつもりなのかな?」

 

 時間がまだ暫くありそうなので、クロワールに問う。ルウィー入国の際、手続きの方はネズミ君に一任していた。ネズミ君と同じ七賢人の一人がルウィーの重鎮になって居た。その人が色々手を回してくれたおかげで、僕はルウィー生まれと言う事になっている。だから身分証の提示の際に一緒に居ただけで、他の細々とした事は任せていた。最初は本当に大丈夫なのだろうかと半信半疑だったが、何の問題も無い様だ。だから細かい事は任せたと言う訳だった。とは言え、特にやるべき事も無い。その為、時間を持て余していたところにクロワールが現れたので話していると言うのが現状だった。自分が聞きたかった事は一通り聞けたので、今度は目の前に居る小さな友達に話を振る。

 

「あー? そーだな、今んところ優先してやるべき事はねーんだわ。お前と同じで、暇って言えば暇だな」

「……人には詰まらないとか言って置いて、自分も似たようなモノなんだ」

 

 僕に話に来る位だから、今のところは急ぎの用も無いのかとは思っていたけど、どうやら当たりのようだ。しかし、人の事を予定が無いから詰まらないと言っておきながら、自分も似たようなモノなのは、この子らしいと言うかなんというべきか。

 

「そりゃ、歴史ってのはすっげー長いからな。色々弄っちゃいるけどそう簡単に動くもんでもねーよ。まー、色々仕込みをして大局を動かすって言うのか? 何かしたからって、全部が全部直ぐに効果が出る訳ではねーよ。だから暇つぶしながらゆっくり見物するんだよ」

「……。言いたい事は解るんだけど君が何かしている時って、大体ロクな事にならないよね」

「……はは、言うじゃねーか。まー確かに、俺は場が面白くなるように仕込みをしてるわけだかんな。当事者であるお前たちには面倒事かもしんねーよ」

「まぁ、慣れたものだけどね。君との付き合いも、それなりになるからね」

「そーだな。俺も誰かと長くつるむのはあんまりしねーけど、結構一緒に居るな。お前のやる事は、傍で見てると面白いんだよ」

 

 俺が面白ければいーんだよ、っとクロワールは悪い笑みを浮かべる。まぁ、確かにこの子のする事は、自分の中の基準の面白いかどうかってのが多いと思う。だけど。

 

「んー、大体はロクな事じゃないし、苦労ばっかりする羽目になりそうだけど……、まぁ、感謝もしてるよ。僕は君に救われたからね」

「っ、んだよ行き成り」

「まぁ、助けてくれた友達にはちゃんとお礼を言っておきたくてね。ありがとう」

 

 そんなこの子は、確かに僕を助けてくれた。歴史を観察し記述するだけならば、僕が犯罪神を閉じ込めたところまで記述してその後の歴史を見れば良いだけにも拘らず、態々マジックと協力して僕を自由にしてくれていた。それは多分、この子も僕を友達と認めてくれたからだと思う。何と無くその事が解るのが、嬉しかった。

 

「友達、……か。ふん。別にお前の為にしたわけじゃないから気にすんなよ。俺は自分が面白いと思う歴史になるように細工しただけだから、別にお前を助けようと思ったわけじゃねーし。異界の魂だったお前が居た方がこれから先も面白くなりそうだと思ったから、続投してもらったって訳だ。選ばれし人間とかレアもんだろ? そう簡単に消えたら勿体ないじゃねーか。だから結果的にそうなっただけだけだから、一々礼を言われる筋合いはねーよ」

 

 そんな僕の言葉を聞いたクロワールがそっぽを向き、そんな事を早口で捲し立てる。十中八九照れているのだろう。どこかで見たような反応だなっと思うと、少しばかり悪戯心が芽生えてしまった。

 

「くく。そこまで露骨だと、僕としても察してあげないといけない気がしてきたよ」

「ああ? おい、お前、何か勘違いしてねーか!?」

「んー。クロワールが照れ隠ししているのが可愛らしいなって思ってるだけだよ」

「っ~~!? べっつに照れてなんかねーよ! なんで俺がお前に礼を言われた位で照れなきゃいけないんだよ!!」

 

 何時も好き放題されている意趣返しのつもりだったけど、思った以上に効果があったようだ。出会った時からそれなりの時間が流れているので、この子の事も幾らか解ってきていた。天邪鬼。ユニ君やノワールもそう言う性質があったけど、この子が一番へそ曲がりだった。そう言う相手には、ストレートにものを言うと効く事が多い。僕としても素面で言うのは少しばかり気恥ずかしい事も無いけど、この反応を見ると少しばかり悪乗りしてしまうのは許してほしい。

 

「と言いながら頬を真っ赤に染めていると、まったく説得力が無いよね」

「誰が真っ赤だ!!」

「クロワールだよ」

「嘘つけ!! 俺のどこが真っ赤なんだよ」

「いやいや、ホントだって。はい」

 

 そう言い、小さな剣を創り出す。刀身を研ぎ澄まし、鏡の様に成した物だった。磨き上げられた剣が、クロワールを確りと映し出す。そこには、確かに真っ赤になった可愛らしい妖精が居た。

 

「っ~~!?」

「くく。ね、可愛いでしょ?」

 

 これでもかと言うほど現実を直視したクロワールは、声にならない声を上げる。追い打つように、にっこりと笑みを浮かべて言い放つと、クロワールは此方をキッと睨み付けた。うん。正直やり過ぎたかもしれない。瞳の端に浮かんだ雫を見ると、悪ノリが過ぎたと自覚する。とは言え、時すでに遅し、だが。

 

「もう帰る!」

「あーうん、解った。ごめんね」

 

 こちらを睨み付け、鼻息荒く言ったクロワールに思わず謝っていた。と言うか、少し浮かれていたとはいえ、剣の極地まで使って僕は何をしているのか。

 

「いいや、許さねーし! 次ぎ合う時はぜってー泣かしてやる!! ぜってー覚えとけよ!!」

「……あはは、来てはくれるんだ」

「あったりまえだろ!! 忘れたら承知しねーからな。首を洗って待っとけよ!!」

 

 そう言い、ビシッと僕を指さしクロワールは怒ったように告げた。こう言っては何だけど、少し安心してしまった。怒らせこそしたけど、嫌われたわけでは無い様だから。

 

「うん、楽しみにしておくよ」

 

 そのまま普段は腰かけている本を開くと、力の収束を感じた。僅かな発光。それが終わった時にはクロワールの姿は消えていた。悪ノリはほどほどにしよう。帰ったクロワールの様子を見て、そんな事を思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何やら騒がしい感じだったっちゅけど、何かあったっちゅか?」

 

 クロワールが姿を消してからやる事が無くなったので、施設内にある無料開放されている情報端末を弄っていると、ネズミ君が戻ってきた。手続きをしていた為、僕が誰と話していたかまでは解ってはいないようで、不思議そうにしながら聞いてくる。

 

「ん、偶然にも知人が居てね。少し話してただけだよ」

「知人、ちゅか?」

「ああ。騒がしい子だよ」

 

 ネズミ君の問いに小さな笑みを以て答える。クロワールの事を語るのはなかなか難しいため、印象だけなのは仕方が無い。

 

「こんなところで会うなんて、凄い偶然っちゅね」

「あはは。確かにね。それで、ルウィーには入れそうかな?」

「大丈夫っちゅ。その辺の工作とかは抜かりなく手配してくれてたっちゅから、本気でルウィーに住む事もできるっちゅよ。と言うか、ルウィーに家まで用意されてるっちゅよ」

「家って、それはまた凄い……」

 

 特段クロワールについて話す必要も無いため、目的であるルウィーに入れるかについて話題を変える。入国できるのかと言う問題は全く問題が無かったようで、ルウィーに住むと言う選択もできるようだ。思わず息を呑む。詳しく聞いてみると、七賢人がルウィーで活動する際に用いる拠点の内の一つと言う事だ。それなりに立派な大型共同住宅の様で、早い話が高級マンションの一室と言う事だ。ちなみに隣の部屋がネズミ君の部屋らしい。ネズミ君は兎も角、僕は七賢人ですら無い。そんな僕にそこまでして良いのだろうかと疑問に思ったところ。

 

「アニキは、オバハンでも負けた女神三人を相手取れる程の腕前っちゅからね。形の上ではオバハンの下って事になってるっちゅけど、同格に扱われてるってことっちゅよ。まぁ、正直、女神を相手にして負けない時点で、負けてるオイラ達より格上な気がするっちゅけどね」

「一度戦っただけで、随分と評価されてるんだね」

「そりゃ、あのおっかない女神もいたっちゅからね!」

「あはは。かなり苦手意識を植え付けられたみたいだ」

「ちゅちゅ。できる事なら金輪際会いたくないッちゅよ」

 

 どうやらネズミ君とマジェコンヌから他の七賢人に僕の話が伝わっているようで、その評価が拠点やルウィー入国の際の便宜に繋がっているようだ。ルウィーでの活動拠点は勿論存在しない為、部屋を貰えるのは有りがたいが、少しばかり気になってしまう。例えば対価として女神と戦えと言われたりするかもしれない。

 

「うーん。理由は解ったけど、家となると流石に気が引けるなぁ。代わりに女神に仕掛けろって言われたらいやだし」

「その辺りは大丈夫っちゅよ。アニキについては上手く説明しておいたし、ルウィーの七賢人もまだ暫く大きく動くつもりは無いようっちゅから、表の顔での仕事とちょっとした雑用を手伝ってくれれば良いって話だっちゅ」

「そっか。それならいいけど」

 

 僕の考えは杞憂だったようだ。勿論ずっと先の事は解らないけど、暫くは女神と事を構えるような事はなさそうだ。尤も、ネズミ君の言葉が正しいとしたら、だけど。ネズミ君は兎も角、相手の七賢人とは会った事も無い。少しぐらいは警戒しておくことも忘れない。まぁ、僕一人を陥れる必要性も無いだろうから、大丈夫だとは思うけど。

 

「ところで、ルウィーの七賢人って言うのは、結局どう言う人なのかな?」

「ちゅ。そう言えば説明してなかったちゅね。大臣をやってるらしいっちゅ」

「まぁ、そう言う感じだとは思っていたけど、大臣とはまた……」

 

 これまでの経緯や重鎮と言う言葉からある程度予想はしていたけど、まさか大臣だとは思わなかった。どういう仕事をしているのかは詳しく解らないけど、大臣と言う事は国の大事を決定したりもするのだろう。大きな影響力を持っているのだと思う。つまりルウィーと言う国は、自国の中枢に敵がいると言う事になる。気持ちは兎も角として、現状は七賢人側の僕が言うのもアレだけど、ルウィーの女神は大丈夫だろうかと心配してしまう。護るべき国民の中に敵が潜んでいる。女神にとって、これ程辛い事はそうそう無いだろうから。

 

「今のところ、ルウィーで開発されている魔力と機械の複合動力で動く大型電車を実用化直前まで漕ぎ着けたようっちゅから、その路線を確保する為、開通予定地に居座っているモンスターの討伐とかをお願いしたいって事らしいっちゅよ」

「複合電車、ね。凄いのかな、それ」

「かなり大規模なプロジェクトって言ってたっちゅ。オイラも詳しい事は知らないけど、数年を掛けて取り組んでいるらしいっちゅ」

「成程。そんなに昔から、七賢人は国の中に居た訳だ」

「そうっちゅね。とは言え、それ自体は大臣が出した政策の一つらしく、上手くいけば国民はさらに便利になるっちゅ」

「大臣の政策、か。成程、女神の政策ではなく人による政策なんだ。つまり、女神にシェアは余り集まらないわけだ」

「ちゅちゅ。アニキは良いところを突いてるっちゅね。まったくいかない訳では無いけど、大臣の名がルウィーで強くなるっちゅ。勿論女神が一番なのには変わりがないけど、七賢人にとって布石の一つになるっちゅね」

 

 ネズミ君の話を聞き、改めて七賢人の力を認識する。マジェコンヌの様に正面から女神と戦う者がいれば、今回の大臣の様に搦め手から攻める様な者も居た。実際にルウィーに入り込み、国の中枢で少しずつ力を蓄えている。大胆にも周到にもなれる。あまり表だって動いていないと言う事だけど、女神にとっては随分と厄介な敵に思えた。

 

「とは言え、表立って止める事も出来ない、か」

「そうっちゅね。やっている事は完全に国民に対して利益になることっちゅからね」

「ルウィーの女神が内部に七賢人が居る事を把握していれば良いんだけど」

「それは無いと思うっちゅよ。ある程度は信頼されていなければ、大臣なんてなれるはずがないっちゅからね。アニキとしては女神に味方してあげたいんだと思うっちゅけど、難しいと思うっちゅよ」

「それはそうだね。僕が何か言ったところで、意味なんてないだろうし」

 

 大臣はルウィーでの影響力を大きくしようとしている。解っている事はそれだけで、何をしようとしているのかは現状では見当もつかない。そもそもやっていること自体はルウィーにプラスになる事だ。それを阻止する手段なんてない。そもそも阻止するのが正しいかもわからなかった。と言うか、それ自体は手助けする方が良い様に思える。僕はルウィーの七賢人が何をしようとしているのかすら把握できてない。なら、今アレコレと考えたところで、答えなんか出る筈がなかった。ルウィーで七賢人が活動をしている。そう聞いたせいか、いろいろ余計なことまで考えてしまったようだ。

 

「まぁ、今は深く考える時ではないかな」

「そうっちゅね。物事には流れってのがあるっちゅよ。言い事をするにしろ悪い事をするにしろ、時期ってのは大事っちゅ。アニキにも七賢人にも、まだ動く時はきてないっちゅ。だから、今は時を見定めるのが重要っちゅよ」

「……ネズミ君って、結構良いこと言うね」

「ちゅちゅ!? 褒められたっちゅ!! ……あれ? なんか、そこはかとなくバカにされたような気が……」

「いや、そんな事はないよ」

 

 本心から感心したのだけど、何故か釈然としない様子のネズミ君だった。

 

「表の仕事ってのは解ったけど、雑用って言うのは?」

「あー、それっちゅか。七賢人の定期的な仕事っちゅよ。まぁ、文字通り雑用みたいなもんだからすぐ終わるっちゅよ」

「ふむ……何をするのかな?」

 

 もう一つの仕事である、雑用の方に話を移す。どうやら、ルウィーの大臣としての仕事では無く、七賢人としての仕事のようだ。

 

「この世界で女神になる為に必要なレアアイテムに、女神メモリーってのがあるっちゅよ。ルウィーでもそれが出来るところが幾つかあって、その確認っちゅね」

「へぇ……。そんな物があるんだ。と言うか、女神ってアイテムを使ってなるものなんだ」

「いわゆるクラスチェンジっちゅよ」

 

 ネズミ君の言葉を聞き、少し驚く。以前の次元に召喚された際、超次元の女神についての知識は得ていた。異界の魂の特性の一つに、世界の知識を得ると言うのがあったからだ。その時に得た知識と、この世界の女神とでは少しばかりあり方が違っていたからだ。この世界では女神とは人から成るもののようだ。以前の世界では、人々の願いの集合体が女神だった。一言に女神と言っても、世界が変われば色々と違いはあるようだ。

 

「そう言えば女神って人以外でもなれるのかな? 例えば犬とか」

 

 不意に思った疑問を口に出す。まぁ、仮に犬が女神メモリーを使ったら、犬神だろうけど。

 

「それは流石に解らないッちゅけど、女神メモリーを使えば必ず女神になれるって訳でも無いっちゅよ」

「と言うと?」

「女神になれるのはほんの一握りだけで、殆どは適性が無いのか醜い化け物に変わってしまうっちゅよ」

「醜い化け物、か」 

 

 思わず考え込む。女神になろうと試みた者が、その資格が無い為醜い化け物に成り果てる。それは酷く、辛い事なのだろう。僕は想像する事しかできないけど、願いが届かないのは悲しく思える。……あれ?

 

「ネズミ君って、女神になれなかった人たちがどうなるのか、見た事ある?」

「……そう言う話が残ってるっちゅよ」

「そっか」

 

 断定するような口ぶりや七賢人の仕事から、もしかしたら女神になれなかった人を見た事があるのかと思ったけど、僕の思い過ごしなのかもしれない。

 

「……ちゅ。やっぱり、アニキに嘘は言いたくないっちゅ」

「ん?」

「オイラは、女神になれなかった者達の成れの果てを知ってるっちゅよ」

「そっか……」

 

 推測ですらない憶測ではあったけど、やはりネズミ君は知っているようだった。聞きたい事もあるけど、まずは話を聞く事にする。

 

「あんまり驚かないっちゅね?」

「まぁ、想像がつかない程でもないからね。女神メモリーを集めてる。となれば、やる事は一つだろうし」

「今は新たな女神を増やさない為に集めているっちゅけど、嘗ては自分たちの手で女神を作り上げる。女神の統治を良しとしない七賢人は、そんな事を考えた事もあったっちゅよ」

 

 それは、七賢人にとって都合の良い女神を作ると言う計画。今いる女神が駄目なら、新たな女神を作ってしまえばいいと言う話だった。

 

「何度か女神メモリーを見つけ、それを手に入れる度に身寄りのない子供とか、消えても本気で捜索されないような人間に使っていたっちゅよ。結局一度たりとも成功せず、そもそも人を化け物に変えてしまうって行為を繰り返していく内に、自分たちの愚かさに気付いて、計画は白紙に戻ったっちゅ」

「と言う事は、今は七賢人も無理やり女神メモリーを使ってないんだね?」

「そうっちゅ。元々オイラはそっちの計画には関与してなかったけど、実行してた奴は今も後悔してるっちゅよ。モンスターの姿に変わった子供たちも責任もって育てているっちゅ。それをしているのが、ルウィーの大臣っちゅよ」

「成程」

 

 ネズミ君の話を聞き、かつて七賢人のした事は酷い事だったと思う。

 

「それだけっちゅか?」

「まぁ、話を聞くと酷い事をしたって思うよ。けど、昔の事じゃないかな?」

「そうっちゅね。何年も前のはなしっちゅ」

「僕が怒るよりもずっと早く過ちに気付いていた。それで後悔した。なら、それで充分なんじゃないかな。少なくとも僕は当事者じゃないから、怒ると言うのも何か違う気がするしね」

 

 だけど、それは僕が糾弾する事ではない。自分で言ったように当事者では無いし、その場にいた訳でも無い。全部が終わった後に話を聞いているだけだ。仮に怒る者がいるとすれば、それは化け物に変えられてしまった人達だろう。そして、多分責められたのだろう。どこか元気の無いネズミ君を見ていると、なんとなく想像できる。

 

「アニキは優しいっちゅね」

「僕は優しいと言うより、実感が無いだけだよ。実感が無いから理性で判断できる。その場で姿形が変わるのを見ていたら、多分もっと感情的な事を言ったと思うよ」

 

 そんな事は無いよ、っと否定する。当事者では無いから、一歩引いて発言が出来ると言うだけだった。

 

「一番悩んでるのはルウィーの大臣っちゅよ。身寄りのない子供たちを化け物にしてしまった張本人っちゅから。その罪の意識からか、姿が変わった後でも一人一人を娘として接してるみたいっちゅ。本人は隠しているけど、必ず元の姿に戻そうと色々研究しているらしいっちゅ。オイラはモンスターっちゅからね。モンスターに変わり人の言葉を話せなくなった子供たちとも、意思疎通ができるんっちゅよ。だから、偶に子供たちから直接話を聞いて知ったっちゅよ。大臣は七賢人の行動とは別に、子供たちを自分の手で元に戻す方法を探してたりするっちゅ」

「……そっか。七賢人にもいろいろあるんだね」

「一応、大臣の事は他言無用でお願いするっちゅ。一生かけてでも自分の手で解決する。子供達が言うには、そんな覚悟を持っているみたいっちゅから」

「解ったよ」

 

 ネズミ君の話を聞き、目を閉じる。確かに許せない事をしたのだろう。だけど、それを酷く後悔してもいる。女神の敵対者としての七賢人の話を聞いたけど、思っていた以上にややこしい事になっているようだ。僕はどうすべきだろうか。今はまだ解らなかった。一度、ルウィーの大臣に会ってみよう。そうしてから、何をするか決めよう。そう思った。


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