異界の魂   作:副隊長

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6話 候補生の戦い

 雷光が迸り、雷鳴が轟く。戦場となったリゾート地を貫く、幾重にも枝分かれした紫電の一撃。美しい海辺にある砂浜を吹き飛ばす程の迅雷。ソレの所為で舞い上がった砂煙に備えるように、目を細める。傍らを見れば、アイエフさんがいつの間にか両手にカタールを取り出している。特徴的なのは、その形状だろうか。普通剣と言うのは、鍔に垂直に柄があるモノなのだが、この武器は平行に握りがある。よって、拳を握るのと同じ感覚で持つ事が出来、そのまま腕を突き出すだけでも武器として成立する。

 一応短剣に属する為、ある程度の事は読み取る事ができた。正式名称はジャマハダルというらしい。

 

「やるじゃない。なら、私と日本一が出るわ。前は任せなさい」

「よし、頑張るぞー。貫くは正義、砕くは悪、ってね! トゥ!」

 

 砂塵が薄くなったところで、手にしていた長釣丸にカタールの腹を軽くカチンとぶつけ、アイエフさんと日本一さんが走り出す。

 

「ちょっと、ユウイチ。どういう状況なのよ!?」

「アイエフさん、日本一さん大丈夫ですか!? あうぅ、もう始まっちゃってるよ……」

 

 コンパさんがユニ君たちを連れて戻ってくる。

 

「見ての通りだよ。君たちが遊んでいる間に、テコンキャットと交戦中だね。」

「ぐ、悪かったわよ」

「まぁ、反省会は後にしようか。補助魔法いるかい?」

「必要ないわ。あんな敵ぐらい、アタシ一人でも充分よ」

 

 先の二人に掛けた補助魔法、エクス・コマンドをユニ君たちにも掛けようと思い尋ねたのだが、思いの外釣れない事を言われた。そのままユニ君は敵を見据えたまま、戦いやすい位置取りをするため駆けて行く。

 

「うーん。まさか断られるとは」

 

 取り付く島も無く敵に向かったユニ君の背中に思わず呟く。ネプギアさんと言い争っていた事で思った以上に血が上っているのかもしれない。すこし、危なっかしい。

 

「えっと、四条さん、私はお願いしても良いです?」

「はい。元々そのつもりでしたからね」

 

 コンパさんが大きな注射器を取り出しつつ、お願いしてくる。小首を傾げお願いしてくる様は可愛らしいのだが、その大きすぎる注射器の存在感はそれ以上のものがあった。左手に魔力を集中しつつ、そんな事を思う。しかし、なぜに注射器?

 

「あ、あの、コンパさんが言うなら、その、私もお願いしても良いでしょうか?」

「問題ないよ。一人も二人も大差ないからね。あ、僕は四条優一です。ユニ君と組ませてもらってるよ」

 

 コンパさんの後に続くように、おずおずと言ったのはもう一人の女神候補生のネプギアさん。流石に初対面で頼み辛いのか、若干恐る恐ると言った具合にお願いされる。ソレに小さく笑みを浮かべ、簡単挨拶と共に応える。

 

「ユニちゃんとパーティーを!? あ、私ネプギアって言います。よろしくお願いします。」

「ん、よろしくね」

 

 すると、少し驚いた後、嬉しそうな笑顔と共にネプギアさんが勢いよく頭を下げた。

 

「そっかぁ。ユニちゃんにも、私にとってのアイエフさんやコンパさんみたいに助けてくれる人が居たんだ。良かった……」

「はいです。やっぱり一人ぼっちじゃ辛いです。けど、頼れる人がいれば頑張れるです」

「はい! うぅ、そう考えると、ユニちゃんも仲間になってくれたら嬉しいのにな」

 

 心底ほっとしたと言った感じでネプギアさんが零した。コンパさんの言葉に、笑顔で頷く。その様子を見ているだけで、良い子なんだろうなっと言うのが解った。言葉の端々から、ユニ君の事が好きなのが感じられる。ユニ君は喧嘩して悩んでいたのだが、目の前の女の子を見ていると、その悩みも馬鹿馬鹿しく思える。ネプギアさんの表情は、友達を心配する女の子にしか見えないのだから。こんな子と喧嘩するとは、ユニ君の素直じゃない性格も相当だと妙な感心をしてしまった。

 気を取り直して左手に魔力を集中させ、言葉を紡ぐ。先ほども使った身体強化魔法。言の葉を紡ぎ、内なる力を解き放つ。

 

「わわ、力が溢れてくるです」

「温かい力……。あれ? でもこの力って、どこかで感じた様な……」

 

 再びエクス・コマンドを発動させ、ネプギアさんとコンパさんの身体能力を向上させる。コンパさんは驚き目を丸くしているが、ネプギアさんはどこか不思議をそうしていた。彼女の言葉を聞く限り、何処かで会っているのかもしれないが、勿論自分にはそんな記憶は無い。ならばどういう事なのだろうか。

 

「それじゃ、行こうか」

 

 とはいえ、悠長に考えている暇も無い。促す。

 

「はい、よろしくお願いしますです。私、看護師をしていましたので、もし怪我をしてしまった時は直ぐに言ってくださいです」

「あ、任せてください。私も女神候補生ですから、ユニちゃんにも負けないように頑張ります!」

 

 二人の言葉を聞き、戦いに参戦する。前方では、アイエフさんと日本一さん、そしてユニ君が既に各々の武器を使い、何体かの敵を倒し始めていた。

 

 

 

 

 

「これで、倒します! 音速剣、フォーミラーエッジ!」

 

 ネプギアさんが近くにいたテコンキャットに向け一気に踏み込み、刃を振るう。手に持つのは、何と言うべきか、ビームサーベル。機械的な鞘から噴き出る、桃色の刀身。ネプギアさんがその手にしているのは、男の子なら大抵は知っている、アレだった。ブオンと軽快な音を鳴らし、ネプギアさんがテコンキャットを切り伏せる。

 

「ふぅ、次は……」

「ギアちゃん危ないです!」

「わわっ!?」

 

 一体倒した事で生まれた隙を突き、巨大な魚の骨の様な魔物が向かって行く。魔物に突進され吹き飛ばされる、そのギリギリのタイミングで、コンパさんの注射器が魔法弾を連続して放った。

 

「助かりました。ありがとうございます、コンパさん!」

「おお、ナイス援護」

「大した事ないです。ギアちゃんが危なかったから、身体が咄嗟に動いたんです」

 

 助けて貰ったお礼を言うネプギアさんに、コンパさんはにっこりと微笑んだ。二人の仲の良さが感じられる。ネプギアさんのパーティーは人間関係も良好の様だ。

 

「さぁ、頑張るです。って、きゃあ!?」

 

 気を取り直して、次の敵に向かおうとしたところで、直ぐ近くにいた青い覆面が浮いているような魔物、シーボーイが迫ってきていた。コンパさんに向かい魔法弾が放たれる。

 

「こら、そう言うコンパだって、油断してちゃだめよ」

「あ、あいちゃん~。ありがとうです」

 

 魔法がぶつかる直前に、驚き尻もちをついたコンパさんの前にアイエフさんがカタールを煌めかせながら滑り込み、魔法を撃ち落す。両の手に持つ刃に魔法が断ち切られ、粒子となって掻き消える。続けざまに、目の前にいるシーボーイを切り伏せる。

 

「まったくだ、ねっ! 敵が多いとフォローが大変だ」

 

 今度はそのアイエフさんの背後から襲い掛かろうとしていた他のシーボーイに狙いを定め、刃を振るう。白刃が弧を描きシーボーイの体を一閃し仰け反らせる。

 

「これも、おまけだよ」

 

 そのまま左手に集中していた魔力を雷撃に変換し、手を振り抜く形で魔法を解き放ち追撃し、倒す。

 

「ありがと、貸が一つできたわね。でも」

 

 此方を一瞥したアイエフさんがにやりと笑みを向け、カタールを小さく握り直す。

 

「これで貸はチャラよ」

 

 そのまま一気に振り抜き、飛びかかってきていたテコンキャットを撃ち落す。

 

「だね。これで終わりかな」

「そうみたいね」

 

 互いに小さな笑みを浮かべ、カタールと長刀の刃をこつんとぶつけ合う。言葉通り、周りの敵は一掃していた。

 

「これで、ラスト!」

 

 そんな声と共に、銃声が響き渡った。ユニ君の放った銃撃、それが最後に残ったテコンキャットを討ち貫き、戦いが終わった。

 

 

 

 

 

「あ、血晶ってこれかな?」

 

 戦いが終わり、一度全員が集合したところで、日本一さんが言った。手にしているのはこぶし台の赤い石。見た感じ、赤い色がついている以外は普通の石だけど、これも宝玉と同じときの様にある種の力を感じた。

 

「ええ、それが血晶よ」

「ふうん。それが血晶なんだ。妙な力を感じるし、確かに納得」

 

 事前に資料を見ていただろうユニ君の言葉に血晶を眺めながら頷く。

 

「本当、ユニちゃん!? やった、これで依頼完了だよ。ユニちゃん達が手伝ってくれたおかげだよ!」

「良かったです。これでゲイムキャラさんの居場所を教えて貰えますね」

「そうね。けど、またアイツに会いに行くとなると、気が重いわ」

「そうかな? アタシは別に平気だけど」

「……」

「ユニ君?」

 

 ユニ君が血晶であることを確認すると、ネプギアさんは嬉しそうに笑う。皆釣られて笑みを浮かべるが、ユニ君は黙ったまま俯いていた。良く見れば、肩が少し震えている。戦っている時にも感じたけど、やはり様子がおかしい。少し心配になり声をかける。ぎりっと、歯を食いしばる音が聞こえた。

 

「……アンタは、アタシを信じてくれる?」

 

 小さく絞り出すような声音で、ユニ君が言った。声が震えている。

 

「ん、どう言う事?」

「それは、見ててくれれば解るわよ」

 

 聞き返すが、それ以上は何も答えてくれそうになかった。

 

「解ったよ。君を信じる」

 

 聞きたい事はあるけど、今のこの子の様子じゃ聞けるとは思えなかった。だから、ユニ君の言葉にただ頷く。彼女にはお世話になった。それだけで、信じるには充分だ。

 

「……ありがと」

 

 小さくお礼を言った。その声音は、どこか嬉しそうにも泣きそうにも思えた。

 

 

 

 

 

「ねぇ、ネプギア」

「なに、ユニちゃん」

 

 ユニ君の言葉にネプギアさんは、嬉しそうな笑みを向け尋ねる。血晶が見つかり、過程はどうあれユニ君と一緒に仕事ができたのが嬉しかったと言うのが良く解る。太陽のように眩しい笑顔をユニ君に向けるネプギアさんは素直な良い子なんだろうなと思わせる。

 

「アタシと、血晶をかけて戦って欲しいの」

 

 ユニ君は静かに告げる。自分はユニ君の後ろにいる為どんな表情をしているか解らないが、強張っているのは想像できた。

 思いの他、提案に驚く事は無かった。何か言い出すだろうと言う事は、ユニ君の言葉から解っていた。だから、ただ事の成り行きを見守る事に専念する。

 

「ユニちゃん、本気なの?」

「ええ。ラステイションの女神候補生として、ネプギア、アンタと全力で戦いたいの」

 

 ユニ君の言葉からその意志を感じ取ったのか、ネプギアさんが笑みを消し真剣な表情で問い返した。 

 

「そっか、本気なんだね」

「ちょ、ちょっと何を言ってるのよアンタたち!?」

「そ、そうですよ。お友達同士で戦う必要なんかないです」

 

 唯頷いたネプギアさんに、アイエフさんとコンパさんが声を荒げる。彼女たちの言う通り、態々二人が戦う必要は無かった。戦闘が終わった直後に聞いたのだが、彼女たちもラステイションの協会に血晶を持っていけば良いようで、依頼の系列としては同じ筋だったからだ。ユニ君は元々ラステイションの女神候補生なので、自身の仕事をこなしているだけなため、ネプギアさん達と一緒に提出したところで元々報酬がある訳でも無いので変わらないのだ。だからこそ、ユニ君とネプギアさんが戦う意味はあまりない。どちらにしろ、ラステイションとしては仕事が完了する。

 厳密に言えば僕の方の依頼は失敗になるかもしれないため、僕が報酬を貰えないと言う事態になる可能性はあるけど、元々ユニ君の頼みごとという気持ちでいたため、別に報酬が無くとも構わなかった。

 

「えー、別に戦っても良いと思うけどな。ライバル同士の戦いとか、燃えるじゃん!」

「日本一、話がややこしくなるからアンタは少し黙ってなさい」

 

 目を輝かせて言う日本一さんに、アイエフさんは少し怒ったように言った。そのままこちらに視線を向ける。

 

「四条も黙って見てないで止めなさい。態々今更戦う意味が無いわよ」

「……アンタもそう思うの?」

 

 アイエフさんの言葉のあと、ユニ君は此方に振り向いて言う。自分の答えは決まっていた。

 

「君には何か考えがあるんだろう。なら、僕はそれを信じるよ」

「……ありがと」

 

 そう告げると、ユニ君はひどく嬉しそうに笑い、ネプギアさんと向かい合う。

 

「ちょ、アンタ何油注いでるのよ」

「あはは、ごめんね。けど、僕が組んでるのはあの子だから、あの子の肩を持つのは許してほしいな」

「ああ、もう!? どいつもこいつも勝手ばかりして!」

「あ、あいちゃん、落ち着くです」

 

 うがーっと怒り狂うアイエフさん。コンパさんが慌てて宥めにかかる。少し悪い事をしてしまった。

 

「ネプギア、どうなの?」

「良いよ。ユニちゃんが言うなら、戦うよ」

「そう、ありがと。けど、手加減なんかしたら許さないんだからね!」

「ユニちゃん相手に手加減なんかできる訳ないよ。だから、全力で勝たせてもらうよ」

 

 二人が言葉を交わし、場の空気が張りつめていく。魔力や気とは違う不思議な力、女神の力の源であるシェアの力が渦巻いているのが自分にも感じる事が出来る。単純に凄いと思った。

 

「言うじゃない。なら、アタシはそれ以上の強さでアンタに、ネプギアに勝つ」

「負けないよ。私はもう、負けない。だから……ユニちゃんが相手でも、勝って見せる」

 

 二人の力が最高潮に達したとき、二人は高らかに宣言する。

 

「――アクセス!」

「――プロセッサユニット装着!」

 

 瞬間、二人の姿が光に包まれる。シェアの力が辺りに吹き荒れ、その勢いに思わず目を背ける。やがて、光が収まり視界を戻したとき、それは現れていた。

 

「ネプギア、アタシの本気、見せてあげる」

 

 一人は黒と銀の少女だった。言葉を聞く限り、彼女がユニ君の変身した姿なのだろう。

 陽の光に照らされ、美しく輝く銀髪を両サイドでくるくると螺旋を描くようにまとめており、黒いボディースーツの様な露出度の高い服を身に纏っている。更に特徴的なのは、腰や肩、背中の辺りに羽を模したかのような機械の翼のようなモノが展開されている。あれが、プロセッサユニットと言うものだろうか。女神や女神候補生が女神化したときにのみ使える装備だと聞いていた。

 更に両手には大きな銃。これまでユニ君が使っていたのは、ライフルのような銃であったのだが、今持っているのはそれと比べても大きすぎる。それこそSFに出てくるような、ロボットなどが持っていそうな物を人間台にしたようなモノであった。小さな少女には不釣り合いでありながら、異様なまでにしっくりくる。

 それが、ラステイションの、黒の女神候補生だった。

 

「私だって手加減なんかできないよ。本気で行くよ」

 

 黒の女神候補生と向かい合う形で現れたのは、白と桃色の少女。ユニ君と同じく、白色をしたボディースーツを身に纏い、淡く輝く桃色の髪を下ろした少女が立って居た。対面に居るのがユニ君なので、彼女がネプギアさんだった。彼女も腰や翼のような装備を展開し、その手には巨大な銃と剣が一体化したような武器を持っている。同じく、愛らしい少女が持つには不釣り合いなものであるはずなのに、ソレを持っているのが当たり前のように思えた。

 

「……アレが、女神か」

 

 ソレを、自分は知っていた。異界の魂としての知識が知っていた。この世界に来て生活をする中、女神の話を聞く事は何度もあった。だが、そう言う次元の話では無い。言うならば、魂が何かと繋がっている感覚。そんな何とも言えない不可思議な感覚。それが、全身を駆け巡る。明確な理由は解らない。だけど、確かに女神を知っていた。

 

「はじめましょうか、ネプギア」

「うん。はじめようか、ユニちゃん」

 

 二人の女神はその翼を展開し、空へと舞い上がる。互いの武器を構え、ゆっくりと睨み合う。僅かな静寂。風がふんわりと流れた。膠着。唯時だけが過ぎる。気付けば、他人たちもまた、言葉を呑み、二人に視線を集中させていた。

 

「異界の魂、か」

 

 呟く。瞬間、二人の女神がぶつかり合う。互いの武器が衝突し、火花を散らした。

 ソレを見ながらぼんやりと考える。自分はどういう存在なのか。異界の魂とは、なんなのか。知識は得ていた。だが、そう言う意味では無い。

 黒と白の軌跡がぶつかり合い、離れたかと思えば銃声が鳴り響き、銃弾が駆け抜ける。空を駆ける軌跡が、ただ綺麗だった。

 先ほど感じた奇妙な感覚。アレは何だったのだろう。自分は女神と何か関係しているのだろうか。そんな考えが思い浮かぶ。

 

「この一撃で終わらせる!」

「アタシは、絶対に負けられないの!」

 

 気付けば二人の女神が、再び睨み合っていた。互いの持つ武器を構え、狙いを定めている。次で終わる。それだけの力を感じた。言葉を出す事も忘れ、ソレにただ魅入る。女神同士のぶつかり合い、それは激しく在り、美しくもあった。

 次で終わりと思うと、ほっとする反面、どこか残念でもある。

 

X(エクス)M(マルチ)B(ブラスター)

M(マルチ)P(プル)B(ビーム)L(ランチャー)

 

 二人が宣言する。シェアの力が辺りに吹き荒れ、凄まじい圧力が巻き起こる。

 両者が引き金を引く。瞬間、光が弾けた。二つの砲撃がぶつかり合い、力がぶつかり合い、辺りに衝撃波を巻き起こす。吹き荒れる突風。左手で顔を庇う。前を見ている事ができ無かった。やがて、風が収まり、視線を戻す。

 

「ユニちゃん!?」

 

 最初に聞こえてきたのは、慌てたような女の子の声。空から一人の女の子が落ちていくのが見える。それは、黒の女神候補生だった。淡い光に体がつつまれ、光が消えた時には見慣れた黒髪の少女に戻っていた。しかし、その体が動く事は無い。緩やかに海面に向かい落ち続ける。ネプギアさんが慌てて下降していく。どういう状況下理解したときにはすでに体が動いていた。

 

「駄目、間に合わない!」

 

 ネプギアさんは魔力で足場を作り、ソレを蹴る事で加速するも追いつけない。泣きそうな声が聞こえる。海面とは言え意識が無い状態で落ちれば、命に関わる。左手に一気に魔力を収束させつつ、声を荒げた。

 

「ネプギアさん!」

「ひゃ、ひゃい!?」

 

 突如あげた大声に、ネプギアさんは妙な声を上げるが、気にしている余裕は無かった。言葉を紡ぐ。

 ――ファイン・コマンド

 それは、急激な加速を生む魔法。エクス・コマンドが身体能力全般を向上させる魔法なら、今回用いたのは速度を急激に上昇させる魔法。ソレをネプギアさんに施す。落下地点は海面である。自分ではどう考えてもユニ君を受け止める事などできない。だから、ネプギアさんに力を託す。

 

「あ……。これなら!」

 

 魔法がかかった瞬間、ネプギアさんはもう一度足場を生み出し、ソレを蹴り加速し手を伸ばす。

 

「ユニ、ちゃん!」 

 

 海面に衝突する。そのギリギリでユニ君を抱きかかえることに成功し、一気に軌道を修正した。

 

「よ、かった……」

 

 思わずその場に座り込む。緊張からため息が零れた。数回深呼吸をして、呼吸を整えてから前を見る。ネプギアさんが大きく手を振りながらこちらに向かって来ていた。

 

 




主人公の使う魔法及び剣技などは、アイディアファクトリー作品から持ってきてます。

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