異界の魂   作:副隊長

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6話 戦いの始まり

「ゆー君、どぉかしたの~?」

 

 プルルートと言う名前を聞いて、咄嗟に思い浮かんだのが虹の女神だった為、同じ名前をした目の前のほんわかした女の子とのギャップに、一瞬思考の間隙を突かれていた所に心配したような感じの声が届き我に返る。

 

「いや、プラネテューヌの女神さまもそんな感じの名前だった気がしてね」

 

 プルルートと聞いて咄嗟に思いつくのは、鞭をしならせ笑みを浮かべながらネズミ君とマジェコンヌを痛めつけていた姿だ。眼前に居る女の子はその女神と同じ名前ではあるが、あの時見た強烈な存在とは雰囲気がまるで違う。違うはずなのだけど、何だろうか、こう、出会った時に妙な既視感(デジャヴ)みたいなものを感じた事もある。その所為か気になった。じーっと僕を真っ直ぐ見据える女の子に答える。今いる場所はプラネテューヌのギルドだ。だから、少し前に戦った女神と同じ名前だから驚いたと言う訳にもいかないので、当たり障りのない調子で言った。

 

「おぉ~。あたしってぇ、もしかして有名人なのかなぁ? そぉだったとしたらぁ、照れちゃうよ~」

「……あれ、もしかして君が女神さま?」

「そぉだよぉ。あたしが、プラネテューヌの女神なんだぁ。女神の時はぁ、アイリスハートって言うんだよぉ!」

 

 女神さまと同じ名前なんだって言う答えが返ってくるのを期待していたのだけど、見事に期待を裏切られていた。先程とまでは違った意味で、思考が固まる。漫画とかで目が点になる表現があるけど、今の僕がそう言う状況なのではないだろうか。そんな馬鹿な事を考えてしまう辺り、突飛な事態になれてしまったのか、ただ現実逃避をしているだけなのか判断に困る。今回に限って言うと、後者な気がしてならない。そんな僕の内心など知る筈も無く、女の子は照れたように頬を染めながらも、嬉しそうにはにかむ。こんな子が、女王様(アレ)になるのか。この子が言う事が事実なのだとしたら、いろんな意味で複雑である。

 

「えーっと、この子はプラネテューヌの女神さまなんですか?」

 

 女の子なりの冗談なのでは無いかと言う淡い期待を抱きつつ、ギルドの職員さんに聞いていた。プラネテューヌのギルドの人間なら、女神の姿も知って居る筈だろう。まさか、プラネテューヌのギルドの人間が、女神を騙る理由も無いし、答えてくれるだろう。

 

「はい。この方がプラネテューヌの女神様であられる、プルルート様です」

「……嘘じゃありませんよね?」

「プラネテューヌに誓って嘘ではありませんよ。女神様でもなければ、プルルート様ぐらいの女の子一人にギルドの仕事なんか回せませんよ」

 

 あっさりと肯定する職員さん。それが信じられなくて、もう一度確認を取る。そんな僕に苦笑しながら職員さんは答えてくれる。小さな声であのアイリスハート様とは思えませんよねっと耳打ちする辺り、この人も僕と同じような印象を持っているのかもしれない。

 

「ぷるーん。ゆー君が信じてくれなかった。ぷるーん」

「え、あ、なんかごめんね」

 

 さっきまで浮かべていた柔らかな笑みが消え、ずーんとした感じの暗い表情に変わり、その場に座り込みプルルートさんは床にのの字を書き始める。何と言うか、いろんな意味で落差が激しい子だ。

 

「まぁ、プルルート様は女神さまの中でも特に変化が顕著ですからね」

「えぇ~。あたしは変身してもそんなに変わらないよぉ?」

「鏡を見て言ってください」

「ぷるーん」

 

 不満げに零すプルルートさんに職員さんは取り付く島が無い感じで答える。その様子はちょっと天然な感じの女の子にしか見えず、とてもあの虹の女神と同一人物とは思えない。だけど、同じ人物のようだ。

 

「そんな事ないよ~。何なら変身してあげるからぁ、確かめてみてよぉ」

「止めてくださいそれだけは勘弁してくださいまだ死にたくないんです明日もまたここで仕事をしたいんですお願いですからそれだけはあぁぁぁぁ!!」

「あうぅ。そんなに必死にならなくても良いのに~」

 

 職員さんのあまりに必死な様子に、変身しようとしたプルルートさんはしょんぼりしながら引き下がる。そんなに変身したかったのだろうか。と言うか、職員さんが必死すぎる所為か、この子が本当に虹の女神なんだなって納得してしまった。少し見ただけだけど、僕だってアレが手に負えない相手だったら相手はしたくないし、その気持ちも解らないでは無い。

 

「うぅ~、なんでみんなアタシに変身して欲しくないんだろ~」

 

 一人ぼやくプルルートさん。と言うか、他の人にも禁じられているのか。不意に、以前の戦いで思いっきり被害を被っていたノワールの姿を思い出す。確か二人は友達のようだった。……きっと、この次元のノワールに止められているのだろう。以前半泣きになりながら悲鳴を上げていた姿を思い出すと、その姿が容易に想像できる。

 

「まぁ、女神様って言うのは簡単に変身するものじゃないんじゃないかな。っと、それより仕事の話を聞かないとね」

「あー、そぉだね~。よぉし、あたしも頑張っちゃうよぉ」

 

 そんな訳で、変身したいなぁと零すプルルートさんを窘めながら、依頼の詳細を聞く事にする。隣でプルルートさんが握り拳を作り、ほんわかした調子で言った。本人は気合を入れているつもりなのかもしれないけど、色んな意味で心配になってくるのは気のせいだろうか。そんな少し失礼な事を考えつつ、職員さんに詳しい説明をお願いした。

 

 

 

「ねーゆーくん」

 

 仕事の詳細を聞き、フェンリルヴォルフが現れたと言うZECA一号遺跡へと続く山道を歩いている途中。プルルートさんが声を掛けてくる。例の如く間延びした特徴的な口調なんだけど、ギルドに居た時より元気が無いのは気のせいでは無い。そんな声を耳にしつつも歩を進める。だって、既に何回も同じやり取りをしているから。

 

「ねーゆーくん。ねーってばぁ!」

 

ちなみに、僕が呼び出された場所と言うのがそのZECA一号遺跡だったりする。ネズミ君とマジェコンヌを助けた後、ネズミ君と二人で歩いていた道を今は女神と二人で歩いている。何とも言えない微妙な気分になってくる。

 

「ぷるーん。ゆー君が苛めるよぉ」

「別に苛めてるわけでは無いよ」

 

 人聞きの悪い事を言う相方に溜息交じりで振り返る。山道に入り、道が険しくなり始めてから暫くして、プルルートさんが音を上げ始めたから。最初の頃は休憩を挟んでいたのだけど、あまりに頻繁に休憩を催促するので試しに聞き流してみたところ、案外問題なく歩ける事が解ったので、今は聞き流していたと言う事である。

 

「えぇ~。そんな事ないよぉ。ゆー君はアタシを無視するし、待ってくれないし、おんぶだってしてくれないもん。いじめっ子だよぉ。おにー!! あくまー!!」

 

 もう歩けないとその場に座り込み、子供みたいに愚痴を零し始める。

 

「なら、付いて来なければいいのに」

「だってぇ、気になるんだもん」

 

 そんな彼女の様子に苦笑しながら言うと、ぶーぶーっと文句を言いながら両手を伸ばしてくる。……、あれだろうか、さっきの言葉通りこの子を背負えと言う催促なのか。

 

「えっと、何かな。その手は?」

「も~歩けない~。ゆーくん、おんぶして~。おんぶ~、ねぇ、おんぶ~」

 

 そのままパタパタと両手を動かし催促。どうしたものかと考える。できるかできないかで言えば、問題なく背負える。身体能力としては異界の魂だった以前と変わらないように思えるし、小柄な彼女を担ぐぐらいなら訳は無いだろう。

 

「はい頑張ろうか」

「ええー!! こんなに頼んでるのにぃ、おんぶしてくれないのぉ?」

「しないよ」

「ひとでなしー! いじめっこー! おたんこなすー!!」

 

 だからと言って、甘やかそうとも思わない。それにしても、変身前と後では随分と印象が変わる子である。と言うか酷い言われようだった。

 

「それだけ言えるなら、まだまだ頑張れそうだね。それじゃ、行こうか」

「えぇ!? 待ってよぉ」

 

 苦笑を浮かべつつ先に進んでいく。プルルートさんが不満そうな声を上げるが、気にしない事にする。なんだかんだ言って女神である。山道を歩くことぐらい問題ないだろう。比較的ゆったりしたペースで進んで行く。

 流石に置いていく気は無いのでそれ程急ぎはしないが、それでも歩き出すと慌ててついて来る。思った通りまだまだ動けるようで苦笑が零れる。やっぱり歩けるじゃないか。

 

「はいはい、頑張ろうね」

「ぶー。ゆー君のいけずー!!」

 

 少しばかり後方を歩く女神様を、肩越しにちらりと覗き見る。意外としっかりとした足取りで歩いてきていた。ぶーたれてはいるけど、できるかできないかで言えば問題ないようである。

 

「うーん、ごめんね。……おや?」

「ほぇ? 何かあったの?」

 

 不満そうな顔で此方を見ながら唸るプルルートさんをあしらいながら歩いていると、その場所に辿り着いた。

 

「ん。お仕事の時間だよ」

 

 山道を進み、少しばかり開けた小高い丘の上から見下ろしながら言った。

 

「あー!! フェンリルヴォルフだぁ」

 

 視線の先には、人をゆうに超える体躯を持つ狂獣。蒼き毛皮に鋭く光らせる紅の瞳が印象的な獣だった。フェンリルヴォルフ。この辺り一帯を縄張りとする、危険種と認定された人間の脅威だった。

 僕の視線の先にあるものに気付いたのか、傍に居た女神さまがびっくりしたように声を上げた。思わず額に手を当てる。だって、これから起きる展開が予想できたから。

 

「声、大きいよ……」

「わぁー!! すごぉーい。って、こっちに来るよぉぉ!!」

 

 女神さまの驚いた声に気付いたのだろう。蒼き狂獣がこちらにゆっくりと振り向く。紅の瞳が鋭く細められた。思った通り気付かれたようだ。女神さまが慌てたように僕の服の袖を引っ張る。そんな様子を横目に、空いている右手を軽く前に突き出した。

 

「ゆー君、ゆー君てば! どぉしたのぉ?」

「聞こえてるよ。仕方ないし、はじめようか」

「はじめるって?」 

 

 こちらに向かい臨戦態勢に入ったフェンリルヴォルフを、若干不安そうに見つめるプルルートさんを宥めながら集中する。一度は剣と化した自身の記憶から、強い力を読み取り手繰り寄せる。

 それは闇に落ちた者達の怨念を宿した魔剣。マジックの魂と融合し、闇の力にも明確な耐性を得ているのが感覚的に理解できてた為、確認も兼ねてその力を解放した。できると言う感覚に身を委ね、その形を再構築していく。そして、

 ――デュナミスエンド

 闇の力を宿した剣。その姿を再びこの世界に顕現させていた。

 

「お仕事だよ」

「それがゆー君の武器? うぅー。何かその剣、ヤダぁ」

「これだけじゃないけど、ヤダって……」

「だってぇ、なんか怖いんだもん!」

 

 フェンリルヴォルフが向かって来ていると言うのに、難しい顔をしながらそんな事を零す女神様より一歩前に出る。魔剣の力を肌で感じ取ったのかもしれない。女神である事を差し置いても凄まじい感性を持っているようで、思わず呆れてしまう。

 

「なら、次があったら他の武器にするよ」

「絶対だよぉ! そぉーいう武器はぁ、使わない方が良いんだから」

 

 何だかそのまま勢いで怒られてしまった。何とも締まらない始まり方だけど、フェンリルヴォルフ討伐戦が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

「でさぁ、私の世界に居たその異界の魂って言う存在の男の子が、ブレイク・ザ・ハードって名乗ってたんだよね」

「成程。興味深いお話ですね。異世界から呼び出された人ですかφ(。。)メモメモ 」

「異界の魂、ねぇ。選ばれし者って奴かしら。御大層な存在ね。……けど、強さは本物だった。こっちの世界でも、そう言う類なのかしら?」

 

 プルルートが四条優一と共にギルドで仕事を受けて居た頃、ネプテューヌと神次元のイストワール、そしてノワールは三人で話し合いをしていた。ネプテューヌが女神に戻れたことや七賢人との戦いの話まではプルルートも一緒に居たのだが、それからネプテューヌが次元を超えてこの世界に居ると言う話に発展してきたところで、プルルートが眠りだした為、眠らせておくよりはとギルドに行かせたと言うのが二人が出会った顛末だった。とはいえ、それはこの場に居る三人には知る由も無い。

 

「そーかもしんないね! あっちの世界のいっ君ってすっごく強かったけど、こっちの世界のいっ君もおんなじ位強かったし、見た事ある魔法も使ってたからね。色とかは紅くなってたし、気配みたいなのもなんとなく違うように感じたけど、あれはいっ君だと思うよ!」

「ふーん。ネプテューヌが居た世界のアイツもそんなに強かったんだ」

「アレは強かったなぁ。女神が四人掛かりでやっと勝てたんだから」

 

 ネプテューヌは昔を思い出すように目を閉じながら懐かしそうに語る。異界の魂による救世。それは彼女に、彼女たち女神にとっては何年も昔の事だったから。

 

「なにそれ。貴方たちの世界の女神って、少しだらしないんじゃないの?」

 

 その話を聞いた神次元のノワールは弛んでるんじゃないのと発破をかける。

 

「あはは、そーかも知れないね。あ、でも」

「ん、どうしたのよ?」

「いやいやぁ。そんな事言っちゃって良いのかなぁ?って思ってね。あっちの世界では、ノワールが一番揺れ動いたんだから。いろんな意味で」

 

 私たちと戦った時は本気じゃなかったんじゃないかな。と言う言葉を飲み込み、にやにやとした笑みを浮かべながらネプテューヌは言った。負けず嫌いなノワールの事だ。そんな事を言えば、余計にリベンジに燃えるだろう。別にそれ自体は構わないのだが、そうなったらネプテューヌも何らかの特訓などに駆り出されるのは目に見えていた為、少しでも被害を減らすために敢えて言わない事にする。

 何より、何故異界の魂が女神たちと戦ったのか。それは簡単に言ってしまって良いような事では無いと思ったから。

 

「な、何よ色んな意味って」

「べっつにー。でもノワール、最後とか泣いてたよ」

「べ、別に私が泣いてたわけじゃないわよ!!」

 

 だからネプテューヌは茶化すようにして、話を終わらせる。

 

「うーん。それにしても不思議ですね(*゚ω゚*)」

「いーすん、どうかしたの?」

「いえ、その異界の魂の男の人にあったんですよね|・ω・)?」」

「そーだよ。アレはきっといっ君だと思うな」

 

 うーんと 頭を捻るイストワールにネプテューヌは頷く。ネプテューヌのいた世界である超次元に居た様に、この世界にも異界の魂が存在する。その事にイストワールは違和感を覚えていた。

 

「それがどうしたのよイストワール」

「いえ、ネプテューヌさんのいた世界の異界の魂は、召喚されたんですよね。つまり本来向うの世界に居なかった人なわけです。そしてネプテューヌさんのいた世界はこの世界に酷似した世界。つまり……」

「つまり……?」

「本来呼び出されない限り異界の魂はいない筈なんです(´・ω・`)」

 

 確かに二つの世界は酷似している。だけど、召喚魔法で呼び出された存在まで酷似するモノなのだろうか。女神による召喚と、魔女による召喚。その二つの差はあるが、呼び出す者まで同じと言う事は有り得るのか。召喚で呼び出される存在と言うのは、言ってしまえばイレギュラーである。異なる酷似した世界が、偶然にも同じイレギュラーを呼び出す。そんな事があり得るのか。

 

「じゃー、今いるいっ君は何なんだろ?」

「それは解りませんが……(´-ω-`)」

「えー、そこまで行って結局わかんないの!? もー、ちっちゃいーすんは使えないなぁ!」

「ちょ、誰が使えないですか(メ`皿´)ノ」

 

 明確な回答の出ないイストワールの疑問にネプテューヌが煽ると、イストワールは小さな体全体を使い怒り出す。

 

「わー、いーすんが怒った!」

「そう言えばネプテューヌ」

「何ノワール」

 

 イストワールから逃げるネプテューヌにノワールは声を掛ける。

 

「その異界の魂って何て言うのかしら?」

「いっ君だよ」

「いや、そうじゃなくて名前よ名前。まさかいっ君って訳じゃないでしょ?」

 

 ここまであまり重要では無かったから追及しなかったが、異界の魂の名は何と言うのか。唯一名を知るネプテューヌはいっ君としか言わない為、名前が気になったのだ。

 

「あーそれはね、それは……」

「如何したのよ。もしかして忘れたの?」

 

 名前を聞いたところで考え込み若干焦り出すネプテューヌを見ると、もしかして忘れたのかと思いノワールはもう一度聞いてみる。

 

「……いや、そんな馬鹿な。幾ら私でも恩人の名前を忘れる訳……」

「……なら言いなさいよ」

 

 嫌な汗をだらだらと流すネプテューヌを白い目で見ながら問う。数瞬の沈黙。

 

「いっ君ってフルネームなんて言うんだっけ!?」

「私が知らないわよ!! まったくあなたは……」

 

 非常に申し訳なく零すネプテューヌに、ノワールは呆れたように呟くのだった。

 

 

 

 

 




ネプに主人公の本名が忘れられるのは仕方が無い。何回か聞いてるけど、口に出したのは一回だけですし。
そしてあっさりばれるぷるるんの正体。ギルドで出会ったら聞けば一発ですねー。
他には書いてて思ったけど、いーすんの顔文字探しとかなきゃ。

さて更新頻度ですが暫く落とします。色々あって既に落ちてますが。
こっちがひと段落つくまで、別作の竜騎を駆る者の更新を止めていたのですが、そろそろ再開したいと思うので下がる予定です。予定では交互に更新していくつもりです。
二作品で作風はかなり違うと思うますが、異界の魂も竜騎を駆る者も両方読んで貰えると嬉しいです。

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