異界の魂   作:副隊長

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5話 新たな出会い

「つまり、七賢人って言うのは、女神によって統治されている現状を良しとせず、女神以外の者たちで平等な世界を作ろうと言う集団なわけだね」

「平たく言えばそんな感じっちゅね」

「成程ね……」

 

 七賢人の事についてネズミ君に様々な事を聞き、大雑把にまとめる。要するに、七賢人って言うのは女神が国を動かしている現状を良く思っていない者たちの集まりらしい。言ってしまえば女神による統治と言うのは、変わる事の無い王政。見方を変えれば独裁と言えなくも無い。元の次元の女神たちを知っているけど、確かにそう言う面がある事は否定できないと思う。前の世界での話だけど、女神が国民の事を慈しんでいた事は良く知っていた。今の世界はその世界と極めて似た世界であるから、この世界の女神たちも国民の事を大事に思っていると思うけど、それを全ての人間が理解し良く思っている訳では無いのだろう。

 そう頭では理解できるけど、色々と複雑な心境だった。僕は元々女神を、世界を救う為に呼び出された存在である。そして女神たちに出会い、救世を成していた。文字通り魂を賭して護ったものを否定されたような気がしたから。

 

「アニキは、七賢人には賛同できないッちゅか?」

「そうだね。僕は女神たちが好きだから。大切な友達を護りたかった。だから僕は此処まで辿り着いた。今の僕があるのは、女神のおかげだからね」

 

 心配そうに尋ねてくるネズミ君に、苦笑を浮かべながら答える。それは、前の世界で成した事。犯罪神との戦いの顛末。女神たちが好きだったから護り抜いた。その想いを否定されているようで、少しだけ寂しかった。

 

「別に、アニキはそれで良いと思うっちゅよ。呼び出したオバハンが七賢人だったって言うだけだっちゅ。アニキはアニキの想いを大事にするといいっちゅ」

「と言うか、僕の話を信じてくれるんだ」

「何と言うべきか、自分でも不思議なんっちゅけど、アニキが嘘を言っているとは全く思えないんっちゅよ」

 

 七賢人の話を聞きながら、ネズミ君にも僕の事を語っていた。世界を救うために呼び出された事。女神と一緒に戦った事。敵対した事。歴代の女神たちの嘆きと想いを知った事。そして救世を成した事。そんなこれまでの出来事を思い出しながら話していた。我が事ながら、あまりにも突拍子の無い事なのだけど、ネズミ君は疑う事無く信じてくれていた。それが不思議だったけど、どうもネズミ君にも良く解っていないようだ。世界を超えたつながりだろうか? 流石に有り得ないか。

 

「けど、話している時に寂しそうに笑うとことか、大事な事を想い出す顔を見ると、とても嘘とは思えないっちゅ。それに、あのおっかない女神を加えた三人の女神を相手にあっさり勝ったっちゅ。それだけでも只者じゃないっちゅから」

「あはは、そっか」

 

 鞭は、鞭はもう沢山っちゅとぶるぶると震えるネズミ君に苦笑が浮かぶ。完全にトラウマになっているようだ。まあ、ノワールを楽しそうに投げ飛ばす姿から、なんとなくどう言う事が起きたのかは想像できる。アレが相手ならこうなるのも仕方ない気はするし。

 

「まぁ、そう言う訳であんまり女神とは事を構えたくないんだよ」

 

 ネズミ君にそう言いながら剣を構築してみる。手の中に瞬時に一振りの剣が生まれた。剣の極地。想剣の中でなくとも、問題なく使える。異界の魂から別の存在に変わっていたけど、それでも充分に力は発揮できるようだ。

 

「それが、アニキの本当の能力っちゅか?」

「そうだよ。剣に特化した能力だね」

 

 しげしげと眺めるネズミ君に剣を手渡す。そしてもう一振り生み出し、地に突き刺す。

 

「で、これが剣の極地」

「ちゅ、ちゅちゅ!?」

 

 そのまま二本、四本、八本とどんどん数を増やしていく。ネズミ君が驚きの声を上げた。百二十八本まで増やしたところで収拾がつかなくなって来たので、全て消滅させる。

 

「まぁ、こんな感じだよ。あとは魔法も使える」

「アニキって、何気に多芸っちゅね……。初めて会った時は変身もしてたし、これなら本気で世界を救えるっちゅ」

 

 呆れたようにネズミ君が呟く。

 

「とりあえずこれからどうするっちゅか?」

「そうだね。さっきも言ったけど、できる限り女神と戦ったりはしたくないかな」

「なら、オイラは思いっきり顔が割れてるっちゅから、一旦プラネテューヌからでるっちゅ。七賢人の一人がルウィーにいるっちゅから、そっちに向かうって言うのはどうっちゅか?」

「ルウィーね。ちなみに何をしているのかな?」

 

 ルウィーと言えば、白の女神が治めていた国である。白の女神と語り合った事は無いけど、その想いは本物だったと思う。この世界にも白の女神がいて国を治めていると僕を呼び出した主であるマジェコンヌも言っていた。だから、その名を聞いた時少しばかり懐かしい様な思いが過った。

 

「詳しくはおいらもまだ知らないっちゅけど、ルウィーの重鎮になっているようだしきっと何か企んでるっちゅよ。でもまだ派手に動くような段階じゃないッちゅから、とりあえず暫く匿って貰うのがいいっちゅ」

「ん、了解。それじゃ、ルウィーに行こうか」

「その前に少し連絡してくるっちゅ!」

 

 そう言い、ネズミ君は携帯を取り出し連絡を取り始める。暫く黙って携帯を手にしていたネズミ君が、相手と繋がったのか喋りはじめる。それを、やる事も無いのでぼんやりと聞いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、どうしようかな。と言っても僕にできるのはこれ位しかないけど」

 

 

 ネズミ君がルウィーに居る七賢人の一人と連絡を取り、ルウィーに向かう事になったのだが、相手側の都合により何日かの時間が出来てしまっていた。その為、少しばかりプラネテューヌの街を散策して時間を潰していると言う訳であった。ネズミ君は七賢人として女神たちに顔が割れてしまっているから街中はあまり歩きたくないとようで、合流場所を決め今は一人で行動していた。僕も女神に見られているのだけど、幸いな事に見られたのはマジックに与えられた紅き守護者の姿であった為、街中でも自由に行動が出来ると言う訳だ。とは言え、何かをする宛てが多くある訳でも無い。だから、ある場所に向かっていた。ギルドである。

 ネズミ君に聞いた話では、この世界にも以前僕のいた世界にあったギルドと同じシステムがあるらしく、誰でも依頼を受けれると言う事だった。だから、今回は仕事を受けるために向かっていた。

 この世界にマジェコンヌに呼び出され、既に女神と戦っていたけど、それだけでは自分がどれだけの事をできるのか正確に把握したわけでは無かった。今の僕はマジックの魂と融合し、新たな世界に行く過程で新たな体を得ていた。感覚的には前とさほど変化は無いのだけど、気付いていないだけで何か変わっているかもしれない為、それを調べるついでに先立つ物を得ようと言う考えだった。ルウィーに行くまでの間、ネズミ君の脛を齧り続けるのはできれば遠慮したいし。そんな俗っぽい理由もあいまり、仕事を探していたと言う訳であっる。

 

「ここか。さてと、どんな仕事があるのか……」

 

 やがてプラネテューヌのギルドの辿り着く。そのまま入口を抜け、受付に向かう。

 

「すみません、此処の利用方法を窺いたいんですが……」

「すみませ~ん。仕事を受けに来ました~」

 

 そして受付の担当者に話しかけたところで、声が重なる。僕の少し後ろから聞こえたのは、独特に間延びするほんわかした感じの暖かな声音だった。

 

「あれれぇ~? おにーさんもお仕事探しに来たのぉ?」

「え? ああ、そうだよ。この都市のギルドは初めてだからね、最初に話を聞いておこうと思ってね」

 

 偶然声が重なったせいか、女の子に声を掛けられていた。振り返る。ふんわりとしたくせ毛の女の子が此方を見ていた。数瞬、赤い瞳と視線が混じり合う。当たり前だけど、知らない女の子だった。だけど、何故かどこかで見た気がした。

 

「そっかぁ。あたしとおんなじだね~。……あれぇ? うーんと、うーんとぉ。おにーさん、どこかであった事あるかなぁ?」

「いや、多分初対面だと思うよ」

 

 そんな筈は無いだろうと思ったところで言われた言葉に内心で驚きを示す。僕だけでなく、目の前の女の子もそう感じていたから。僕だけならば他人の空似か何かで、既視感を感じているだけだろうけど、女の子の方も同じように感じたのなら、単なる偶然とも思えない。

 

「そっかなぁ~? どこかで見た気がするんだけどぉ」

「そう? まぁ、他人の空似じゃないかな?」

「う~ん。そぉかなぁ?」

 

 悩まし気に首をかしげる女の子の様子に苦笑が浮かぶ。初対面だけど、中々表情豊かな子のようだ。

 

「まぁ、良いかぁ。おにーさんも、お仕事に来たんだよね~」

「うん。簡単な討伐関係にしようかと思っているんだ」

「そぉなんだ~」

 

 気を取り直したのか、女の子が尋ねてくる。にこにこと柔らかな表情で聞かれると、特別隠す気も無いためあっさりと話してしまっていた。

 

「あ、申し訳ありません。討伐の依頼でしたら、本日は危険種討伐位しか残っていません」

「危険種ですか。ちなみにどの程度の相手ですか?」

 

 危険種。並の冒険者では相手にならないほど強いと言われる魔物。前の世界で倒したシーハンターや、エレメントドラゴンなどが該当した筈だった。どちらも容易い相手では無かったけど、今の僕はあの時よりも遥かに強くなっている。余程の相手でもない限り、勝てるとは思う。聞いてみる。

 

「フェンリルヴォルフになります。とても少人数で相手に出来る魔物ではありませんよ」

「ほえぇ。危険種って、とぉっても強いんだよね~?」

 

 受付の職員さんが一人で行くつもりならやめた方が良いと暗に言ってくれた。女の子も出された名前に聞き覚えがあるのか、可愛らしく口を開け目を丸くする。

 

「問題ないですよ。受けさせてもらいます」

「本気ですか?」

「ええ、大丈夫です」

 

 僕の返事が予想外だったのか、職員さんは念を押すように聞いてくる。それに、小さく頷く。

 

「おにーさん、本当に大丈夫ぅ?」

「ああ、大丈夫だよ」

「そっかぁ。おにーさんは強いんだぁ」

「世界を救えるぐらいには、ね」

 

 心配そうに聞く女の子に、軽い調子で答える。僕からすれば本当の事なのだけど、女の子は冗談と取ってくれるだろうと思ってそう言ったんだけど、

 

「ふえぇ。おにーさんすごぉーい。世界を救っちゃえるんだぁ!」

「え、あはは。まぁ、そうだよ。きっとできるんじゃないかな」

 

 まさか、言葉通りに受け止めるとは思わなかった為、困ってしまう。女の子が尊敬するような瞳で見ていた。予想外の展開に、苦笑が零れる。気付けば、説明をしてくれていた職員さんも小さく笑っていた。

 

「じゃあさ、じゃあさぁ。あたしもぉ、一緒に連れてって貰っても良いかな?」

「……え? もう一回言ってくれるかな?」

 

 思わず聞き返す。だって、今さっき出会ったばかりの名前も知らない子にそんな事を言われるとは思わなかったから。

 

「だからぁ、あたしもぉ、一緒に連れてって欲しいなぁって」

「……ああ、やっぱり聞き間違えじゃないんだ」

「ねぇ~、だめ~? あたしも、結構強いよぉ?」

 

 女の子の言葉にどうしようか悩んでしまう。正直言えば、とても戦えるような子には見えないのだけど、確かにその言葉通り強い力を感じた。ほんわかした感じの可愛らしい女の子なのだが、その外見に似合わない魔力を感じ取れる。

 

「えっと、僕の方は大丈夫だけど君は良いのかな?」

「良いよぉ」

 

 聞いてみると、二つ返事で答える。

 

「良いよってまた、あっさり答えるんだね」

「だって~おにーさんは何か信じて良いような気がするんだぁ」

「……一体どう言う根拠があってそう思うのかな?」

「んーっとね、そんな気がするだけかなぁ」

 

 にっこりと朗らかな笑みを浮かべながらそう答える女の子に思わずため息が零れた。幾らなんでも、無防備すぎると言うか、他人を簡単に信じ過ぎだろう。はっきり言って危なっかしい。

 

「君はもう少し相手を疑った方が良いんじゃないかな?」

「えぇ? そぉかなぁ?」

「そうだよ。例えば僕が君と一緒に行って、途中で酷い事をするかも知れないよ」

「あぅ、おにーさん、あたしに酷い事するのぉ?」

「いや、しないよ」

 

 だから、そんな例え話をする。勿論そんな事をする気は無いけど、相手によってはそう言う可能性もあると言う事だ。だけど、

 

「良かったぁ。でもでもぉ」

「ん?」

「そう言う事を言ってくれるおにーさんみたいな人はぁ、信じて良いと思うんだ~」

 

 それでも、何故か目の前の女の子はにっこりと笑いながら信頼してくれていた。それが解らない。どう言う心算なのか。だけど、その所為か放って置けなかった。性格も雰囲気もまるで違うのに、何故かあの二人を思い出すから。女の子の示す信頼に、二人の女神と似た何かを見てしまう。どう言う事なんだろうか。良く解らなかった。

 

「……まぁ、良いか」

「ほぇ?」

「僕の負けだよ。一緒に行こうか」

 

 だけど、何処かあの二人と重なるところがある。このまま放って置けなかった。だから、結局一緒に行くことにしてしまった。

 

「ほんとぉ?」

「ああ。本当だよ」

「やったぁ~」

 

 どう言う心算なのか。自分にそう言いたくなるけど、無邪気に喜ぶ女の子を見ていると何だかどうでも良くなってくる。ほんわか笑う女の子を見ていてふと気付いた。そう言えば、この子の名前もまだ聞いていない。

 

「そう言えば君の名前は何て言うのかな。僕の名前は四条優一だよ」

 

 だから、自分の名を名乗り尋ねる。

 

「じゃあね~、じゃあね~。ゆーくんって呼んで良い~?」

「ああ、まぁ好きに呼ぶと良いよ」

 

 僕の名を聞いた女の子が、しばらく考え込むと名案を思い付いたと言わんばかりの笑顔を浮かべる。まだ名前を聞いていないのだけど、別にせかすような事でもないので女の子の言葉を聞きながら教えてくれるのを待つ。少し見た感じだけど、口調と同じで独特の間を持つ女の子だった。焦らず待てばきちんと教えてくれるだろうから、話してくれるのを気長に待つ。

 

「んとね~、んとね~。あたしは、プルルートって言うんだよぉ」

「え……、プルルート?」

 

 そしてにこにこと笑っている女の子がゆっくりと名前を教えてくれた時、思わず数瞬固まってしまった。だってその名前はごく最近聞いた事があったから。

 

「そうだよぉ。よろしくね~」

 

 女の子の名は、虹の女神と同じ名だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




主人公とプルルート、短期チーム結成。
マイペースなプルルートと、急かさず最後まで話を聞く主人公。
本心をあまり語らない主人公と相手をよく見ているプルルート。
実は作中最も相性のいい組み合わせだったりします。

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