異界の魂   作:副隊長

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紅き魂
1話 召喚


「勝っちゃったね……」

「あっはっは、そーだな。これでもかと言うほど解り易く、ぶった切ったなぁ。流石は剣に於いて絶対的な力を持つだけはあるよ。あの犯罪神が、真っ二つになるとは俺も予想してなかった」

 

 倒せてしまった。犯罪神の大本ともいえる力の塊を、お手玉のようにして遊ぶクロワールを見ながら言った。想剣によって斬り裂かれた犯罪神は、これまでの闘いである程度消耗していた事もあり、遂に実体を維持できなくなったのか、その姿を黒き光と変えその場に漂っていた。その場に漂っていた力の塊を、クロワールは無造作に掴み取ると、こね回すように両手を動かし、球状に肩固めてしまった。そしてお手玉のようにして遊んでいると言う訳だ。その光景を、何とも言えない気持ちで見つめる。あれ程の猛威を誇った犯罪神、文字通り玩具にしていた。この子は何をしたのだろう。

 

「と言うか、君なら単体でも犯罪神に勝てたりした?」

「あー? どーしたんだよ行き成り」

「いや、だって、ねえ?」

 

 そう聞きたくもなると思う。だって、お手玉だし。何と言うかもう、理解できる範疇を越えている。ある程度は予想していたけど、そう言う扱いをするとは予想していなかった。

 

「勝てるわけねーじゃん。あんな化け物とまともにやりあえんのは、異界の魂だったお前ぐらいだよ。仮に俺がなぐり合っても、5秒も持たないんじゃねーの? 瞬殺されるよ、瞬殺」

 

 にんまりと笑いながら黒の妖精はそう続ける。両手で黒い力の塊を殴るように拳を振るう。黒の塊が、此方に飛んでくる。それを手に取った。異質でありどこか懐かしい感じもするし、何より強い力を感じるけど、それだけだった。犯罪神が即座に蘇ると言う事にはなりそうにない。そのままクロワールに塊を投げ返した。

 

「じゃあそれは?」

「ああ、これはお前が事実上犯罪神を無力化したからだな。一時的でも、そこまで弱くなればどうとでも細工できんだよ。あれだ、元気な奴を取り押さえるのは疲れるけど、ばててるやつならラクって事だ」

「成程」

「なんだよー、反応うっすいなー。もっと喜べよ。お前は自分の能力であんなバケモンを撃ち破ったんだぜ。もっと胸を張れよ、胸を!」

 

 お前はすげー事を成し遂げたんだよ。っと言いながら、僕の頭の上に座り込んだクロワールに苦笑が零れる。きっとこの子が言うように凄い事を成し遂げたんだとは思うけど、何と言うか、クロワールの行動が何時も通り過ぎて実感が持てないから。救世を成したと言う事実より、腐れ縁の友達が何時ものように接してくれるのが少しだけ嬉しい。

 

「まー、良いよ。ユーイチ。お前は確かに俺とのゲームに勝ったな。見届けたよ。今度は俺が約束を果たす番だな」

「犯罪神の脅威をこの世界から消し去る。そう言ったよね」

「ああ。だから消し去ってやるよ。けどな、ユーイチ。一つだけ問題が在んだよ」

「何かな?」

 

 クロワールは意地の悪い笑みを浮かべた。ああ、どうせロクでもない事なんだろう。これまでの経験から、それが解った。そして、同時に僕には必要な事でもあるのだろう。なんだかんだ言って、この子は僕に不利益だけを与える事は無いから。苦労はするけど、僕の為でもある。今回もきっとそう言う事だろう。

 

「コイツを消し去っても、お前はアイツらのいる世界では生きられない」

「……と言うと、どう言う事?」

「簡単な話だよ、魂は生まれ変わったけど、身体がねーだろ」

「ああ、確かに」

 

 クロワールの言葉に思わず納得してしまっていた。僕の体はシェアで構成されていた。そしてそのシェアは現在は想剣の維持に使われている訳で、僕の手から離れている。つまり、魂は確かに生まれ変わっていたけど、想剣から出たところで、その世界の身体となるべきものが無い。要するに、そのまま死ぬって事だと思う。

 

「つーわけで、お前の体を作ってやりてー所だが」

「何か交換条件かい?」

「いんや、違うよ。そうしたいところだけど、単純に俺にはそんな事ができねーんだわ。つーわけで、もう一度お前には異界の魂召喚の儀式で呼び出されてもらう必要があんだよ。まぁ、お前を確実に呼び出すように細工するから、紅き魂召喚の儀式、か?」

「召喚ね」

「ああ。この次元のゲイムギョウ界でお前は新しく生まれた。だから、その存在は肯定されている。けど、身体が無い。そして想剣の世界から出たら死ぬ。なら別の世界に行く過程で身体を作るしかねーわけだ。それもシェアがある世界だ。シェアがあれば魂だけの存在でも身体が構築されるのは実証済みだからな。だからゲイムギョウ界に似た世界に行く必要があんだよ。そこで一度身体さえ作ってしまえば、なんとでもなるって寸法だ。目的を達成して送還されようが、仮初でも身体が在ればお前は生きていけるって事だよ」

 

 クロワールの言葉を聞き、話を整理する。要するに、僕の身体を作る為には、一度別の世界に行かなければいけないと言う事だった。それはこの世界と似て非なる世界で、シェアがある世界になる。そして、シェアがあると言う事はきっと女神たちも存在するのだろう。

 

「仮初の体って事は」

「まあ、前と同じだよ。人間ではねーな。まぁ、今更大した問題でもねーだろ?」

 

 つまり、死なないと言う事だろうか。正確には体が維持できなくなれば死ぬのだから、限りなく不死に近いと言うべきかな。

 

「ある意味、都合が良いのかもしれないね。少なくとも、誰かを置いていく心配は無くなったからね」

「限りなく不死に近い上に、凄まじくつえーからなぁ。余程の事が無ければ死なねーだろ。ただ、絶対は無いぜ」

 

 忠告するクロワールの言葉に耳を傾ける。

 

「女神の変身が邪魔されることもあっただろ。シェアの供給を断たれるって事だよ。そう言うのには気を付けねーとあっという間に死ぬぞ」

「肝に銘じておくよ」

「まぁ、身体を作ってしまえばお前自身がシェアの塊だから、そこまで心配しなくても良いけどな」

 

 クロワールは楽しげに笑う。

 

「さて、それじゃーそろそろ仕込みに行くわ。暫く待ってろよ。」

「ああ、解ったよ」

 

 そして、クロワールと別れる。その手には、黒き塊が握られていた。

 

 

 

 

 

 

 

「さーてと、サッサと終らせますか」

 

 神次元と呼ばれるゲイムギョウ異界に舞い降りた黒の妖精こと、クロワールは如何しようかと考える。紅き魂を蘇らせるには、この世界でその術式を用いる事が出来る存在が必要だった。この世界の理は、異界の魂として呼び出された次元、超次元ゲイムギョウ界とはいくらか異なっている。女神でなくとも召喚の儀式を施す事は可能だった。単純に魔力が大きければできるのである。その分、それだけの使い手と言うのはそうそういるものでは無いが。

 

「……そうか、この世界にはアイツもいるのか……。くくく、面白い事考えた!」

 

 黒の妖精は意地の悪い笑みを浮かべる。紅き魂との約束は確実に守る。だけど、それと同時に自分の欲求を満たせそうな方法を思いついたから。

 

「前作の英雄とラスボスがチームを組む。面白そーじゃね? まぁ、アイツには悪いけど、今回は命に関わる誓約もねーし、上手くやるだろ」

 

 その方が俺としても面白そーだしな。そう呟きながら、クロワールは空を駆ける。そして、目的の人物を見つけた。

 

「さっさと行くぞ、ネズミ」

「何でオイラがおばはんの手伝いをしなきゃいけないっちゅよ?」

「っ、だーれがおばはんだ! 私の名はマジェコンヌだ!! いい加減に覚えんか、このドブネズミが!」

「うっさい、おばはんみたいなけばいのは、誰がどう見てもおばはんって言うのが解り易いっちゅ!!」

 

 言い争っている黒の魔女マジェコンヌと、超次元の世界では犯罪組織に属していたワレチューだった。

 

「さーって、どうすっか。折角これがあるんだし、少し使うか」

 

 クロワールはにやりと笑みを浮かべる。犯罪神の力の塊を少しばかり引き裂き、もう一つの力を作り上げる。その中に、紅き魂召喚の儀式の情報を組み込む。

 

「さーて、どんな未来になるのか。まぁ、ネズミもいるし、アイツならうまい事やんだろ」

 

 手にしたもう一つの黒き塊を見詰めた。超次元の犯罪神の力の血晶だった。それを神次元のマジェコンヌに与えようとしていた。

 

「さてさて、これが終わったらもう一つ仕込みをしてから、戻るか」

 

 同時に紅き魂召喚の儀式。それが神次元の世界に持ち込まれようとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よー、おまたせ!」

「長いのか短いのか、イマイチ判断が出来ないね」

 

 想剣の中でボーっとしていると、いつの間にかクロワールが戻ってくる。相変わらず楽し気な笑みを浮かべている。上機嫌であった。その笑顔に、きっとこの後苦労する事になるんだなっと、何とも言えない覚悟を決める。

 

「全部終わったぜ。じきにお前は呼び出されるよ。お前が居た世界とは似て非なる世界。神次元のゲイムギョウ界だ」

「神次元、ね」

 

 似て非なる世界。あの子たちが居た世界とは似ているけど、違う世界なんだ。

 

「まぁ、そんな顔すんなよ。面白いものが見せてくれたら、俺がまたなんとかしてやっからよ」

「……すこし、希望が見えた気がするよ」

 

 苦笑が浮かぶ。だってそれは、どう考えても苦労する道だから。だけど、それでもやる価値はある。別の次元と言われて途方に暮れている所だったけど、確かにクロワールなら何とかできるかもしれないから。

 

「……これかな?」

 

 それから、クロワールにいくつか質問をしていた時に、不意に存在が揺らいだ。それは、何時だったかジャッジを倒した時に感じた不安定な感覚に似ている。だけど、不快な感覚では無かった。懐かしいような温かいような、そんな不思議な感覚だった。

 

「ああ、漸く来たようだな。くく、面白そうな展開になってきた」

「あー、なんか嫌な言葉を聞いた」

 

 溜息が零れるのも仕方ないだろう。クロワールの面白いと言うのは、大抵当事者にしたら厄介な事だから。

 

「まぁまぁ、そー言うなって。お前にも悪い事じゃねーから」

「どういう事かな?」

「それは言ってからのお楽しみ。ただ、ひとつ教えておくよ。お前のいる世界とお前のいた世界には何のかかわりも無い。似ているだけで違う世界だ。だから、その世界で生きている者達は、誰もお前の事は知らないぜ」

「……つまり、知り合いがいるかもしれないって事かな?」

「そー言う事だよ。だから、知ってる顔が居ても、知らない風に接した方が面倒事は起きないぜ!」

「ん、解ったよ。っと、もう時間が無いか」

 

 クロワールの忠告を頭に刻み付ける。似て非なる世界。それはきっと、その世界を生きている人たちもそうなんだろう。あの子たちもいるのかもしれない。

 

「ああ、行って来いよ。今度は、思うままに生きてみると良いぜ!」

「そうだね、そうさせてもらうよ」 

 

 クロワールの言葉に頷く。この先待っているのはきっと苦労なんだろう。だけど、何処か気持ちが急いている。失くしたはずの未来をもう一度提示されていた。それをもう一度手にする事が出来るかもしれないと考えると、柄にもなく期待してしまったんだ。友達によって差しのべられた手が、嬉しかった。

 

「またね、クロワール」

「ああ、またな、ユーイチ。そのうち様子を見に行ってやるから、期待しとけよ!」

 

 クロワールと別れる。身体が消えていく。どこか懐かしさを覚えながら、その感覚に身を委ねた。

 

 

 

 

 

 

 

「頑張れよ、ユーイチ。その世界で生きている者達は、誰もお前の事は知らないぜ。その世界で生きている者達は、な」

 

 それは黒の妖精の呟き。消えた紅き魂に敢えて明かさなかった言葉だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぢゅーー!! やめて、もう、やめてくだざいっぢゅーー!!」

「う、ぐぅ、あぐぅぅぅ……」 

 

 黒の魔女とネズミが悲鳴を上げていた。理由は単純にして明白だった。

 

「あはははははは!! 良い声でなくわねぇ!! けど、まだまだ足りないわぁ……。もっと聞かせてよぉ。貴方たちが弱すぎるからぁ……詰まんないのよ!!」

 

 彼らよりも強い力を持つ者が居たから。

 それは、空のように蒼き長髪を持ち、怜悧な輝きを宿す紫紺の瞳を持つ女神。アイリスハート。虹の名をする、神次元のゲイムギョウ界にあるプラネテューヌの女神だった。

 黒と紫紺のプロセッサユニットを身に纏い、その瞳と同じ刀身を持つ蛇腹剣を振るわれる。その刃は二人の急所だけを絶妙なまでにはずし、苦しいが致命傷足り得ない痛みを以て、二人を襲う。刃が振るわれる度に、二人の被害者の口から悲鳴が上がる。

 

「ちょ、ちょっとぷるるん。やり過ぎじゃないかしら?」

「確かにそうだけど、私たちで止められると思う?」

 

 二人を嬲る虹の女神を少しは慣れたところから見ている二人の女神が少しだけ表情を顰める。確かに二人は敵であったが、少しばかり虹の女神の行動はやり過ぎの様に思えるのだ。紫の女神であるネプテューヌと、この次元の黒の女神であるノワールだった。

 

「無理ね。彼女たちには悪いけど、犠牲になってもらいましょう」

「でしょ。アレがこっちに向く事に比べたら、ね」

 

 あっさりと二人の女神は、哀れなる二人を見捨てる。女神とは言え、自分の身は可愛いのだ。態々敵であった者達を助けるために、獅子に挑む理由は無い。獅子と言うよりは、女王様だが。

 

「ぢゅーぢゅー。だれか、誰か助けてっちゅ……」

「あはははは! 良いわぁ、もっと地べたに這いつくばって情けない声を聞かせてぇ」

「ぐ、ぐぐ……」

 

 悲鳴を上げるネズミと歯を食いしばり耐える黒き魔女に、虹の女神は気分が最高潮に達したのか、恍惚とした表情で刃を振るう。その姿はもはや女王としか表現する事しか出来ない。

 

「ぐぐぐ、また、負けるのか? 私は……また負けるのか?」

「あらぁ? なぁに、貴女はアタシ以外にも負けた事あるんだぁ。ふふ、なら今回も負けて負けっぱなしな訳ねぇ……。ああ、可哀想な人。歯を食いしばる姿を見ていると、応援したくなるわねぇ。健気に頑張ってるから」

「くそが……」

 

 虹の女神の言葉も耳に入らない黒き魔女は、自身の無力さを呪う。彼女にとって女神は倒すべき敵だった。倒さなければいけない相手だった。だけど、その想いとは裏腹に倒れているのは自分で。それが情けなくて、悔しくて。心の底から声を上げる。

 

「私はもう、負ける訳には行かんのだ」

 

 それは、黒の魔女マジェコンヌの想いであり、マジェコンヌがこの世界で生を受け、これまで生きてきた人生の外から来る想いでもあった。マジェコンヌは自分でも理解できない狂おしい程の想いに身を委ね、残る魔力の全てを解き放つ。

 

「あらぁ? 最後の抵抗かしらぁ? けど、ざぁんねん。それじゃ、アタシは倒せないわよぉ」

 

 辺りを黒の魔女の魔力が包み込む。その場の空間が揺れる。それ程の、力だった。その魔力の奔流の中心近くに居た虹の女神は、それでも余裕を崩す事は無い。マジェコンヌでは自分を倒せないと確信していたから。だから、楽し気な笑みを浮かべ、最後の抵抗を嬉々として見詰めていた。

 

「ちょっと、ぷるるん!? 大丈夫なの!?」

「そうよプルルート! 油断してると痛い目を見るわよ?」

 

 そんな虹の女神を見る二人の女神は慌てて声を上げる。

 

「……あらぁ? もう終わりかしら?」

 

 そして、魔力の奔流が消えた時、虹の女神には傷一つつく事は無かった。

 

「これで終わり……、じゃないようねぇ」

 

 そもそもそれは、虹の女神を攻撃する為に使われた力では無いから。その力は、女神に勝つために使われたモノだった。そして、その力がもたらしたものとは。

 

「……さて、どういう状況なのか」

 

 魔力の奔流により舞い上がった砂煙が薄れていく。虹の女神に相対する形で、一つの影が浮かび上がっていた。それは、真紅。紅の外套を身に纏い、真紅の翼を持つ存在。紅の髪に一筋だけ黒が走り、その存在を主張している。かつて女神によって呼び出され、世界によって不条理を課せられながらも救世を成した者。紅き魂となった、守護者だった。

 

 

 

 

 

 

 

「ぢゅ……、助けてっちゅ……」

「……ネズミ君?」

 

 召喚の術式に呼び出された直後に目にしたのは、ネズミ君だった。全身に浅い傷を負い、苦しそうにうめいている。この世界に居る者達は、僕の知る者達とは違っている。そう頭では理解していても、実際にその光景を見ると心が痛んだ。

 

 ――月光聖の祈り

 

 躊躇なく、自身の魔力を解き放つ。魔力が、新たな体を通して迸る。もう一度、生きる事が出来るのか。そう漠然と思う。だけど、あまりその気持ちを堪能する暇は無い様だ。

 

「あらぁ、今度は貴方が相手をしてくれるのかしらぁ……?」

「ああ、そのようだね」

 

 何と言うべきか、蛇腹剣を鞭のようにして持つ女王様としか言い様の無い女性に応える。女神の持つプロセッサユニットを展開していた。それだけで、この次元の女神なのだと言う事は解った。

 

「に、げろ……」

「大丈夫だよ。貴方たちが逃げる時間ぐらいなら、充分に稼げるさ」

 

 ネズミ君の傍で何とか立ち上がろうとしている女性の言葉を遮る。不意に、魂が震えた。僕の中にある、もう一つの存在。マジックが何かを語り掛けてきた気がした。その所為もあって、今この場でやるべき事は、既に決まった。

 

「それに……」

「それに……?」

「それほど難しい相手でもないよ。何なら、倒してしまおうか?」

 

 見知った顔もいるしね、っと言いかけたところで言いなおす。

 

「新しい敵!? プルルート、私たちも手伝うわ」

「……似てるけど、初めて見る存在ね。皆、油断してはダメよ」

 

 だって、少しは慣れた場所に居た二人の女神に見覚えがあったから。紫の女神と黒の女神。僕が救世の想いを確かめた相手であり、護ろうとした人たちだったから。だけどそれは僕だけの知る事であり、この世界の彼女たちには何の関係も無い。気持ちを切り替える。虹の女神、紫の女神であるネプテューヌ。そして僕の良く知る女の子と同じ存在である黒の女神ノワールが相手だった。もう見る事も無いと思った相手と、早すぎる再会を果たしていた。とは言え、相手は僕の事など知りもしないのだが。

 

「……あらあら、あの子たちも楽しみたい訳ね。人気者ねぇ。妬けちゃうわぁ。けど、良いわぁ。それなら皆で楽しみましょうか」

「構わないよ、女神たち。僕が相手をしてあげよう」

「馬鹿な……」

 

 女神たちの言葉に頷く。黒の魔女が驚いたように此方を見た。笑みだけで応じる。

 

「すまない……」

「ぢゅ……、せ、せめて名前だけでも教えてくださいっちゅ」

「……僕の名かい? それは――」

 

 そう言えば以前もこんな事を聞かれたなっと、ネズミ君の言葉を聞き思い至った。あの時の僕はまだ異界の魂であり、僕だけの存在だった。だけど、今は紅の女神と一つになり、友に生かされてこの場に立っていた。今の僕は、紅き魂の守護者の姿をしている。ならば――

 

「ブレイク・ザ・ハード。それが僕の名だよ」

 

 ブレイブとマジック。僕にとって大事な二人の名を掛け合わせた名でもある、もう一つの名を名乗る。女神が変身した時にもう一つの名を名乗るように、僕もまた、ブレイクの名を再び名乗っていた。それは、女神に運命を壊された者の名であり、女神の運命を壊した者の名でもあった。様々な想いが宿った名前だった。

 

「見せて貰うよ、女神の力を」

 

 そして、三人の女神に向き直った。別に僕にはこの三人と戦う理由は無い。だけど、マジックに懇願されていた。魂が、そう僕に訴えかけていた。だから、倒すのではなく阻む。自分にそう言い聞かせた。右手、虚空に突き出す。淡き光が生まれ、紅の大鎌が存在していた。それは、マジックの持つ武器。僕の持つ力で生み出したものでは無く、紅のプロセッサユニットが持つ力だった。自身の能力を使う気は無かった。だってそれは、女神を救うための能力だから。

 大鎌を構える。マジックが力を貸してくれるのが解った。使った事の無い大鎌であるにも拘らず、どう動けばいいのか手に取るようにわかっていた。

 

「良いわぁ、強そうな男の子を屈服させる。それもまた、すっごくそそられる……」

「ちょっとプルルート。こいつはアタシが貰うんだから、あんまりいじめないでよね!」

「二人とも何言っているのよ。良いから行くわよ!」

 

 三人の女神が各々の武器を構える。黒の女神と紫の女神の太刀筋は良く知っていた。その雰囲気が懐かしくて。こんな状況だけど、また出会えたことがどうしようもなく嬉しくて。僕の知っている彼女たちとは違うと言う事は知っていたけど、それでも嬉しさで笑みが零れていた。

 

「へぇ、女神三人が相手でもその余裕……。まずはそれを崩させてもらおうかしらぁ」

 

 虹の女神が踏み込んでくる。紫紺の刃を持つ蛇腹剣が宙を駆ける。戦いが、始まった。

 

 

 

 




第二部始まります。
まさかのマジェコンヌ召喚ルート。誰がこれを予想しただろうか。前作ラスボス&主人公チーム完成。初っ端から女神戦、開始です。


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