――なんでアンタがここにいるの!? お姉ちゃんじゃなくて、アンタが、アンタ何かが何でここにいるのよ!?
――アタシだったら助けられたかもしれない。ついて行ったのがアンタなんかじゃなくて……、アタシだったら!
――うるさい! 話しかけないで。二度と、アタシに話しかけないでよ!
「そりゃ君が悪いよ。相手の子だって、見捨てたくて助けなかった訳じゃないんだろ? なら、間違いなく言い過ぎだと思うよ」
「そう、だよね……」
「なら、次に会った時には何をすればいいか。解るよね?」
「それは……」
ユニ君の言葉を聞き、率直に意見を出す。ソレを聞いた目の前の女の子は、少しだけ落ち込んだように頷く。
ラステイションの教祖直々の依頼。ソレを受け、目的地に移動している最中にユニ君の話を聞いていた。それは、ごく最近の出来事だった。ユニ君と同じ女神候補生の女の子に出会った時の話である。
女神たちの不在。その事実は知っていたが、その事情により踏み込んだ話だった。ユニ君が言うには、三年前の話である。四人の女神たちは協力して犯罪組織と戦い、敗れた。そして、その所在を消した。その時に女神候補生でただ一人、女神と共に戦い姿を消した人物がいた。それが、ユニ君が出会ったと言う女神候補生だった。
後に協会が調べたところ、女神たちはギョウカイ墓場と言う特殊な場所に囚われていると言う事が判明し、丁度ひと月ほど前に救出作戦が行われ、女神候補生だけが助け出されたようであった。女神では無く、女神候補生。それでも助け出せたことには違いない。それ自体は喜ぶべき事だと思う。
だけど、ユニ君はそう思えなかった。ただ一人の姉では無く、自分と同じ候補生。他の女神だったならばまだ可能性はある。だけど、自分と同じ候補生でしかない。女神が四人いても勝てなかった相手。ソレに女神抜きで挑まなければいけない。そんな想いが抑えきれなかったのだろう。ユニ君は女神候補生の子に酷い言葉を浴びせてしまったと、僕に告白してきた。
ユニ君の気持ちは話を聞き、想像する事が出来た。だからこそ、戒める。多分、それを彼女が望んでいるような気がしたから。自分でも解っていると思う。だけど、他人の口から聞く事で刻みつけようとしていると言うのが、なんとなくわかった。
「ユニ君だって、解ってるよね。態々僕にそんな話をしてしまうほど、気にしている訳だからさ」
「ベ、別に気になんかしてないわよ。ネプギアに言いすぎちゃったなんて、これっぽっちも思ってないんだから」
「ユニ君は、素直じゃないのに解り易いよね。寧ろ、素直じゃないから解り易いのかな」
「うぐ……」
余り説教するのは柄では無い。何よりもユニ君自身がどうすれば良いのかは理解していると思う。だから、この話は掘り下げる必要は無い。少しばかり辛辣な言葉だったかもしれないけど、ユニ君の背中は推せたような気がした。
「……仲直りできるかな?」
「できるよ。自分の気持ちをしっかり伝えたら、相手もきっと応えてくれるよ。ユニ君と同じ、女神候補生なんだからさ」
「うん」
この素直じゃない女の子が、友達と仲直りできますように。今は不在のラステイションの女神に、心の中でそう願う。自分の妹の事だ、きっと何が何でも叶えてくれるだろう。そんな気がした。
何処からともなく磯の香りが届く。美しい海水浴場に建てられたリゾート地の更に奥。魔物の出現の増加により、一時的に封鎖された区画。其処が今回の依頼の目的地であった。
「さて、ようやく見えてきたね」
「そうみたいね。あそこが、セプテンリゾートよ」
先ほどの会話以降、口数の減ったユニ君だったが、目的にに近付くにつれ少しずつ調子を取り戻してきていた。まだ少し表情は硬いけど、少し時間が経ったおかげかある程度持ち直してきているように思える。とは言え、少し沈んだ表情をしているのは確かなので、僅かばかり心が痛む。案外自分もメンタルが弱いんだな、等と再確認でき思わず苦笑いが零れる。
「っと、テコンキャットは何処かしら」
「見当たらないね。手分けして探してみる?」
とは言え、目的地に着いた以上何時までものんびりとしている訳には行かない。心地よいさざ波の音色をしばらく楽しみたいという欲求が無いでもないが、それはまた今度に取って置く事にする。
「そうした方が効率はいいけど、連絡手段が無いよね」
「言われてみればそうだね。空に合図を出すって言う事も出来ないでは無いけど、絶対相手にもばれるだろうしだめかなぁ」
「へぇ、アンタってそんな事もできるんだ。アタシなら照明弾撃つなりなんなり方法があるけど、ちょっと意外かな」
「まぁ、ね。ちょこっと便利な力が使えるんだよ」
本来眠ったままになっている力が異界の魂としての特性で蘇っていた。魔法。お伽噺の世界の力を、自分は使えるようになっていた。自由自在と言うほど使える訳では無いのだけど、このひと月でそれなりに物になってきていた。簡単に言えば、魔法剣士っていうヤツだろう。ものすごく今更なんだけど、自分の存在がかなりファンタジーに染まってきているなぁと、しみじみと実感する。やろうと思えば風とか雷とか出せる。流石にもう慣れたのだけど、初めて出した時はかなり高揚した。初めてつかった魔法の身体強化などより、何と言うか、実感がしやすかったからだ。それだけ目に映ると言うのは、偉大だった。
「とは言え、今回はあんまり散る意味も無いか」
「そうね。別に一人でも大丈夫だけど、それじゃ組んだ意味もあんまりないからね」
「ぶっちゃけ僕いなくても何とでもなるだろうしね」
「むー、なんか棘を感じるんだけど」
「あはは」
「笑って、誤魔化すな!」
あははと笑う僕に、ユニ君は少し怒ったように応じた。勿論、本気で怒っているわけではない。言うならば、じゃれあいみたいなものだった。頬を僅かに膨らませ、少しばかり不機嫌ですと言う表情を浮かべているが、さっきみたい沈んでいるよりかは遥かに良い。そう思うと、また笑みが零れた。
「そう言えばさ、アンタってずっと武器持っているよね。片付けたりしないの?」
「ああ、あの粒子になって出たり消したりするやつ?」
「そう。全員が全員ってわけじゃないけど、大抵の人は普段消してるのに、アンタはずっと持ってるよね。と言うか、消してるとこ見た事ない」
結局二人纏まったまま、目的の敵を探している時に、ふと気付いたようにユニ君は言った。
「僕はずっと持ったままかな。と言うよりは、この武器は消せないんだよ。何と言うのかな、文字通りの規格が違う?」
「そうなの? まぁ、全部が全部消せる訳でも無いけど、結構珍しいのね。店で買える物は大抵消せるから少し意外かも」
「……僕としては、消せる方がびっくりだよ。実際目で見ても、イマイチ実感がわかない」
ユニ君が言うように、この世界の武器等一部の物質は消したり出したりできる。はっきり言って理屈はまるで分らないのだけど、そう言う技術何だろうと大雑把に理解していた。ちなみに僕の持つ武器である、長刀の長釣丸にはこの機能は無かったりする。だから、基本的に常時実体化したまま持ち歩いていた。初めて武器を出し入れするところを見た時には驚いたし羨ましいとも思ったけど、無いものは無いから仕方が無い。そもそも、僕が見た記憶から考えれば、長釣丸にはそんな機能がつくはずがないのだ。さっきも言ったけど、武器としての規格が違った。
「けど、不便じゃない?」
「特にそうは思わないかな。多少は気を使うけど、利点もあるよ。タイムラグが少なかったり、持っているだけで結構鍛えられる」
「あ、そっか。ずっと持ってるわけだし、直ぐに使えるか……」
ユニ君は小さく頷く。些細な事でも吸収する辺り、勉強熱心なんだろうと感心する。優秀な女神である姉に追い付きたいと言っていたのは、本当なんだろうなと、その姿を見て思う。
「君は勉強熱心だね。凄いなぁ」
「はぁ? い、いきなりどうしたのよ。急に褒めたって何にも出ないわよ」
「いや、そういうのは期待してないよ。単純に、ユニ君は凄いなって思っただけ。というか、実際今も仕事を頑張ってるしさ普通に尊敬できるよ」
「ちょ、ちょっとやめてよ。……もしかして何か企んでるんじゃないでしょうね!?」
そう言い少し赤くなるユニ君。相変わらず褒められ慣れていないんだなっと思うと、この反応は可愛らしく思う。照れ隠しに怒ったように捲し立てる様が、何とも微笑ましい。
「ふふ、ごめんね。そんなに警戒しなくても何も企んでないから大丈夫だよ」
「どうだか。またにやにや笑ってるし」
「あらら、手厳しい。嫌われちゃったかな」
取り付く島の無いユニ君の様子に、そう口にする。
「え、いや、そんな事は無いけど……」
すると、少し焦ったように零す。勿論、本気でそう思ったわけでは無い。ユニ君らしい反応に、この子は素直じゃないからこそ、解り易い良い子なんだななどと思う。
「っと、アレかな?」
「え? ……あ、ホントだ居た!」
ツンツン少女との会話を楽しみながら目的の魔物を探していると、漸く目と鼻の先に標的が現れる。と言ってもそれなりに距離はあるが、充分に視認できる距離であった。小動物が兜の様なものをかぶった魔物。鋭い爪で繰り出す攻撃が危険である。目的の魔物、テコンキャットだった。
「仕掛けるかい?」
「流石にこの距離はまだ遠いと思う。逃がすかもしれないから、もう少し近付きましょ」
「ん、了解」
ユニ君と短く相談し方針を確認したと、腰に携えていた長釣丸を手にする。左手に鞘を持ち、何時でも抜き放てる状態のままユニ君と近付いていく。幾つかの障害物の陰に隠れ、ゆっくりと距離を詰める。
「まだ、気付かれて無いみたいね」
「そろそろかな。次で仕掛けようか」
「ええ、そうね」
相手の数は5体ほど。二人でも充分に相手に出来る数だ。ソレを確認した後、ユニ君と軽く呼吸を合わせる。
「じゃあ、3・2・1で行くわよ」
「ん、了解」
そう言い、ユニ君が小さな声でカウントする。一度小さく深呼吸をし、壁越しにテコンキャットを見据える。ゆっくりと、長釣丸を抜き放つ。そして――
「あれ、ユニちゃん!?」
「やるわよ、ユウ――って、ネプギア!?」
仕掛ける。そう思い躍り出ようとした瞬間、背後から声が聞こえた。その声に、ユニ君は素っ頓狂な声をあげる。仕切り直しかな、っと思いながら半ば動き出しかけた体を無理やり踏みとどまらせ、声の方に視線を向ける。其処には四人の女の子が立っていた。真ん中の薄い菫色の髪をした女の子がこちら、と言うかユニ君を指さし声を上げている。
「あーー!! やっぱりユニちゃんだ! ユニちゃんだ、ユニちゃんだ、また会えた!!」
「う、ぁ、な、なんでアンタが此処にいるのよ!?」
どうやら、知り合いの様だ。と言うか、ユニ君が零した名前には聞き覚えがあった。喧嘩別れしたと言う女神候補生の子の名前が、確かネプギアだった筈だ。自分の記憶が正しければ喧嘩別れしたと聞いたのだが、見たところ特に怒っている様子はなく、寧ろものすごく嬉しそうだ。本当に喧嘩をしたんだろうか?
「あ、私は防衛隊の人が此処の魔物が血晶を落とすって聞いてきたんだ」
「え、アンタも血晶を?」
「そうなんだ。だからユニちゃんも協力してくれると嬉しいな」
「いや、ちょっと待ちなさい。その前にアンタに言わなきゃいけないことが……」
そう言い、ユニ君が言葉を切る。流れからしてきっと謝るんだろう。話に入るタイミングも無かったため静観していたのだが、あの捻くれたところがあるユニ君の方から謝ろうとしている。酷い事を言った手前、とても緊張しているのか耳が真っ赤に染まっていた。見た感じ結構いっぱいいっぱいと言った感じだった。それでも自分が口を出す訳にもいかないので、心の中で頑張れと声援を送る。
「嬉しいな。ユニちゃんが一緒なら、きっと楽勝だよ。一緒に頑張ろう!」
「だから、ちょっと待ちなさいって言ってるでしょ!? うぅ……」
「ん? なに、ユニちゃん」
ネプギアさんが聞き返した事で、僅かにタイミングを逃す。ユニ君は気恥ずかしさや葛藤で既にいっぱいいっぱいだったようで、それが限界に達するのがなんとなく解った。ああ、これはダメかも……。妙な確信と共にそんな事を思った。
「もういい!! ああ、アンタには血晶は渡さないんだから! 私が手に入れるんだから!」
「えええ!? な、なんでそんな意地悪言うの? まだ私の事、怒ってるの?」
「うるさいうるさい! 渡さないの!そう決めたの! ネプギアだけには絶対にあげないんだから!」
「そんなの酷いよ……。だったら私だって、ユニちゃんにはあげないもん。私たちが手に入れるもん!」
そう言い、二人して癇癪を起こしたかのように言い合いだす。一応は敵から隠れていたのだが、二人の声に気付いたテコンキャットは此方を警戒する様に見詰めている。そんな標的の様子に気が付かないまま、二人の言い争いはエスカレートしていく。
「……どうしてそうなった」
うわぁ、と思わず零す。途中までは勇気を出して頑張って謝ろうとしていたのが良く解るのだけど、何処で間違えたのか喧嘩に発展していた。
「ちょ、アンタたち敵を前にして何してるのよ。時と場合を考えなさい!」
青いコートを着て茶髪をサイドテールに結った女の子が溜息と共に零す。なんとなく、この子とは気が合う気がする。
「まだ戦っちゃダメなの?」
「だ、ダメですよ日本一さん。ギアちゃんとみんなで頑張るですよ」
青い髪をしたライダースーツのような服を着た女の子を、桃色のふんわりとした髪の大らかそうな女の子が窘める。ネプギアさんの仲間なのだろう。態度の差はあれ、全員がネプギアさんを見ていた。
「えーと、はじめまして。貴女たちは、ラステイションの女神候補生の知り合いですか?」
「そうだけど、貴方は?」
言い合いをする女神候補生二人をよそに、青いコートの女の子に挨拶をする。パッと見た感じだが、この子と話すのが一番話が早くて済むような気がしたからだ。警戒こそしているが、一応は此方の言葉を聞いてくれるようだった。
「僕は、今回あの子と組む事になった四条優一と言います。……何というか、すみません」
「成程。私はアイエフって言うわ。と言うか、こっちこそうちの連れが迷惑かけてるみたいで、ごめんなさい」
「いや、元はと言えばユニ君が酷い事を言ったのが原因らしいからね。うちのパートナーがごめんなさい。はぁ……」
「そうだとしても、あの子も女神候補生だと言うのに、妙に子供っぽいところがあって。うちのネプギアの方こそすみません。はぁ……」
言い争う二人を見て思わず二人してため息が出る。ユニ君はユニ君なりに頑張ったことは良く解るんだけど、目の前で言い争う二人を見るに、擁護のしようが無かった。アイエフと名乗った女の子も僕とは違う意味で溜息を吐いている。ネプギアさんの事は良く知らないけど、向こうは向こうで苦労しているんだと思うと、妙に親近感がわいた。波長が合うのだろうか?
「な、なによ。そっちがその気ならあたしにも考えがあるんだからね!」
「私だって、ユニちゃんには負けないられないもん!」
「ふ、ふん。口でなら何だって言えるわよ。実力で示しなさい!」
「確かにユニちゃんは凄いけど……、私だって頑張ってるんだから簡単に負けないよ」
少し目を離したところで、なんかもう駄目な方向に話が加速していた。今回の依頼って何だったっけと思わなくもない。素直じゃないのも行き過ぎるとこんな弊害が出るのかとつい感心してしまう。
「止めた方が良いかな」
「やらせましょ。今止めたところで不完全燃焼になるだけだし、いっその事気が済むまでやりたいようにやらせた方が二人の為になるわ」
アイエフさんの言う事にも一理ある。お互い思いの内を吐き出させることが必要なのかもしれない。
「あいちゃん、あいちゃん」
「なにこんぱ」
「あいちゃんばっかり話してないで、私たちにも挨拶させてほしいです」
「そーだよ、アタシにもヒーローらしく名乗らせてよ!」
「いや、別にヒーローらしく名乗らなくてもいいんじゃない」
そんな事を話していると、桃色の髪の女の子がアイエフさんのコートの袖をくいくいと引き、此方を見つつ言った。ライダースーツの子もそれに続く。出会ったばかりだけど、個性豊かな面子だなっとその様子を見てる。面白い子たちであった。
「私は、コンパって言います。プラネテューヌの女神候補生のギアちゃん、あ、プラネテューヌの女神候補生のネプギアちゃんと一緒に旅をしているです」
桃色の髪をした女の子、コンパさんが少し間延びした独特な口調で名乗る。浮かべるほんわかとした笑顔と雰囲気の所為か、優しい人なんだと容易に想像できる。
「アタシは、日本一。ゲイムギョウ界の平和を守る、ヒーローよ!」
続いてびしっとポーズをとりながら名乗りを上げたのが、青髪の女の子こと、日本一さん。元気がよく少年みたいな雰囲気を持っているが、れっきとした女の子の様だ。ボーイッシュと言う言葉がよく似合う、そんな子だった。
「これはご丁寧にどうも。僕は四条優一です。一応、あそこでヒートアップしている子と組ませてもらってます」
そんな感じにコンパさんと日本一さんにも挨拶を返す。
「君たちは、ネプギアさんを含めた四人で旅を?」
「ええ、そうね。四人の女神が捕えられているから、その救出の為にゲイムキャラを集めているの。それと、並行して、他の女神候補生に力を貸してくれるように頼んでいるところね」
「ゲイムキャラ、ね。そっちは知らないけど、候補生の方はと言うと……」
彼女たちが旅する理由を聞き、件の候補生たちに視線を戻す。ゲイムキャラと言うものについては一切力になれないけど、候補生については少しだけ力になれるかもしれないからだ。女神を救う。妙にその言葉が心に残る。なんとなく、成さなければいけない気がした。
「良い加減に譲りなさいよネプギア!」
「駄目だよ、絶対に負けないもん!」
いまだに言い争っている。
「ユニ君はさ、癇癪起こしているけど本心では協力したいと思っているんじゃないかな」
「でもでも、ぎあちゃんの事すごく怒っているですよ?」
「いやいや、あの年頃の女の子は色々と難しいからね。本音と行動が伴わないんだよ。要するに、素直じゃない」
好きな人には素直になれない。そんな心境じゃないかなっと、続ける。
「ああ、なるほど。なんとなくあの子の事解ったかもしれないわ。けど、それだと一度こじれたら、性格的に難しいんじゃない?」
「かもしれないね。けど、本心は決まってるわけだから、何れは協力してくれるはずだよ。今回無理なら、また日を改めればいいさ」
「むぅ、本心では仲間になりたいと思っているなら、協力してくれたらいいのに」
「まったくだね。けど、難しい年頃なんだろうなぁ」
とは言え、それだけ思える相手がいるのは喜ぶべき事では無いだろうか。言い争いつつも、何処となく嬉しそうなユニ君を見ていると、そう思わずにはいられない。
「まぁ、あの子たちの事は当人同士で任せておくとして」
「ええ、テコンキャットね」
一度鞘に戻していた長釣丸を再び抜き放ちつつ、視線を戻す。すっかり警戒して此方を睨め付けているテコンキャットを見据える。女神候補生の二人が言い争っているうちに、間合いも大きくとられている。
「一旦離れるべきか、……なに?」
どうしたものかと考えたところで、妙な力を感じた。何だろう、そう思った瞬間、テコンキャットに異変が起きた。
「ぐぁ? ぐあああああ!!」
「な、なんです、なんです!?」
唐突な咆哮。雄叫びと言うよりは、断末魔に近い。コンパさんが驚き、悲鳴を上げた。反射的に長釣丸を構えつつ、左手に力を収束させ集った魔力を包むように握りしめ、言葉を紡ぐ。
――エクス・コマンド。
それは魔力を纏う事により、身体能力を全体的に活性化させる魔法。自分が初めて使った魔法だった。全身を淡い光が優しく包み込む。
「これって、魔法?」
「わっ、凄い。力が湧いてくるよ!」
近くにいたアイエフさんと日本一さんが少し驚きながら零す。
「来る、みたいだね」
「見たいね。コンパ、其処のおバカ二人を呼んで!」
「解ったです」
五体いたテコンキャット全てが、此方に敵意を向け威嚇してきていた。先ほどまで距離を少しずつ取っていて逃げ腰だったのだが、その態度が嘘のように爪で襲い掛かろうと距離を詰めてきていた。
気付けば、先ほどの叫び声に触発されたのか、他の魔物も少しずつ集まってきている。
「今の反応。アンタ結構戦えるんでしょ、頼りにさせてもらうわよ」
「そっちこそ、女神様救出を掲げてるんだから相当できるよね。背中は任せるよ」
「はっ、言ったわね。上等。背中どころか、アンタの分の見せ場も任せてもらうわ」
「おお、なんかヒーローっぽい事言ってる! アタシも混ぜて!」
コンパさんが少しは慣れたところで言い合うユニ君とネプギアさんを呼びに行っているうちに、アイエフさんと日本一さんと三人で魔物と対峙する。
「先制、仕掛ける。良いかな?」
先ほどと同じように左手に力を収束しつつ、二人に訪ねる。
「任せるわ」
「おっけい!」
二人が各々の武器を構え、そう答えたところで、魔を開放する。
――天魔・轟雷
紡がれた言葉を追い越すかのように凄まじい雷鳴と轟音が鳴り響く。魔によって呼び出された雷。それが魔物に牙を剥き、戦いが始まった。