異界の魂   作:副隊長

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45話 勇士の墜ちる時

「ブレイブ……」

「来たか、女神候補生たちよ」

 

 ユニは対峙する敵に万感の思いを込め、その名を呼ぶ。貧しい子供たちの為に剣を取ったと言っていた。女神の統治では救いきれない子供たちを救う為、希望を見せる為に自身は戦うのだと答えた相手と、ユニをはじめとする四人の女神候補生は対峙する。

 ブレイブと女神。どちらも弱き人間たちの為と言う、根底にある理想は同じだったのにも拘らず、その志が交わる事が無く、運命の悪戯か、刃を交わす結末に至っていた。どれだけユニが言葉を重ねようとも、ブレイブが止まる事は無い。子供たちの為、自分が自分であるが為、そして友の為に刃を抜き放つブレイブには、どれだけの言葉を交わそうともその想いが覆る事は無い。これまで交えた言葉から、ユニはその覚悟を嫌と言うほど痛感していた。

 

「お前たちは強い。それは素直に認めよう。だが、最早引けぬところまで来てしまった。俺が俺で在る為に、お前たちを倒す」

「もう、何を言ってもアンタは止まらないんだよね……」

「ユニちゃん……。大丈夫?」

 

 悲壮とも言える覚悟を固め、決戦に挑んできたブレイブをユニは悲しげに見つめる。対峙する子供たちの為に戦う事を決めた勇士が、自分の言葉では止められない事を悟ってしまった。それでもユニにだって譲れない想いがある。犯罪組織はこの世界を壊す破壊神である犯罪神を蘇らせるために戦っている。その事実を知ってしまったからには、例えブレイブを倒してでも止めなければいけないからだ。ブレイブの想いは尊いし、正しい部分もあると認める一方、だからと言ってこの世界に生きる者達全てを天秤にかけられるはずが無いと言う訳であった。そんな葛藤に苦しげに表情を歪めるユニを、ネプギアが心配げに覗き込む。

 

「大丈夫よ、ネプギア。例え相手がブレイブでも、アタシは戦える」

 

 そんなネプギアの目をしっかりと見据え、ユニは小さな笑みを浮かべ答える。仲間が支えてくれる。一人じゃない。だからユニは戦える。以前、四条優一が支えてくれたように、自分にも大事な仲間がいる。それを実感していた。

 

「別にみてるだけでもいーわよ。サイキョーなラムちゃんとロムちゃんが、あんな奴倒してあげるから!」

「辛いなら、私たちが代わるよ。でも、それで良いの?(じー)」

 

 そんなユニを見詰め、ラムが焚き付ける様に言い放ち、ロムは静かに見つめる。正反対の双子の女神候補生も、自分なりの言い方でユニに手を差し伸べていた。

 

「ふふ、ありがとう。でも残念。アタシは、最後まで戦うわ。それが、この世界を護る事に繋がるから。子供たちの未来の為にも、ブレイブ! アンタには絶対負けられないの!!」

 

 だから、ユニは笑顔で差し出された手を掴んでいた。そしていつもの様な自身の満ちた笑みを浮かべ、大事な仲間たちを見据え、宣言していた。負けられない想いがある。護りたい世界がある。大切な未来がある。だからユニは、立ち塞がる敵を見据え、戦う意思を漲らせる。

 

「その意気や良し。ならば、これまでの因縁、此処で終わらせようか、女神達!!」

 

 そんなユニの意思を感じ取ったブレイブは、手にする愛刀を強く握りしめ、気炎を放った。女神候補生などでは無く、対峙する強大な敵を姉たちと同じ女神と認めていた。そして全力を以て切り伏せる。それが、ブレイブの示した意思だった。

 

「私はこの世界が好きなんです。だから、この世界に生きる人たちを守る為、貴方を倒します! 刮目してください!」

「ネプギアちゃんとユニちゃんの護りたい世界。私もラムちゃんと一緒に護りたい……。だから、私も戦う。本気で、行くよ」

「アンタの言う事は難しいから全部はわかんないけど、アンタ達のしようとしている事は、きっとダメだよ。だから、ネプギアやユニ、そしてロムちゃんと一緒に戦うのよ。私だって女神なんだから!」

「ブレイブ、アンタの言う事にも一理あるわ。だけど、それじゃ駄目なの。ルールを無視したアンタたちのやり方じゃ、心の底から楽しむ事なんてできやしない。本当の意味で、子供に笑顔を与えるなんてできはしないの! だから、アンタを倒して私は子供たちを、世界を救う! アクセス!!」

 

 そして子供たちの為に戦う勇士の意思を受け止めた四人の女神は、各々の想いを前面に押し出し、人々の祈りの力を身に纏う。優しき光が辺りを包み込み、暖かな力がその場を満たした。そして、

 

「女神ネプギア、此処に参上です!!」

「プロセッサユニット装着完了。行こうラムちゃん」

「プロセッサユニット装着完了っと! 一緒だからね、ロムちゃん!」

「ラステイションの女神の妹として、全身全霊を以て倒させてもらうわ! 行くわよ、ブレイブ!!」

「負けられぬ理由が在る。それは、俺とて同じだ!! 行くぞ!!」

 

 成長した四人の女神がその姿を現す。互いに引けない想いがあった。譲れない、大切なモノ。それを守り貫く為、戦いが始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「貴様たちと戦うのは、三年振りか……」

 

 四人の女神と対峙するマジックは何の感慨も無い様子で告げた。三年前の戦いでは、女神たちは成す術も無く敗北していた。その時と同じ状況で戦おうとしていた。

 

「そうだねー、だけど、今回も同じだと思わない方が良いよ!! あの時よりも、ずっと成長したんだからね!!」

「ええ。私たちを助け出すために、様々な人たちが力を尽くしてくれましたわ。その方たちに支えられて今の私たちがあるのです」

「だから、私たちは以前とは違う。沢山の人達が支えてくれている。その想いに応える為にも、負ける訳には行かないの……」

「そして、大事な人に助けて貰って背中も押して貰った。その人が、世界を壊そうとしている。それを止めなきゃいけないの。貴女何かに時間を掛けている訳には行かないの!!」

 

 女神たちを見据えるマジックに、四人の女神はそれぞれの想いをぶつける。かつては勝てなかった。だけど、あの時とは違う。沢山の仲間がいた。だから負けられないんだと、暖かな絆で結ばれた女神たちは自信をもって告げる。

 

「……ふざけるなよ。沢山の人達に支えられて立っているだと? 女神として強き力を手にしながら、他者にも助力されていると言うのか」

「そうよ。例え女神だとしても、独りじゃできる事は知れている。だから私たちは、皆の力を借りて、貴方たちを倒す!!」

 

 女神たちの言葉を聞いたマジックの瞳には、確かに感情の色が宿る。それは、敵意。怒りすら超えた先にある冷たい怒り、殺意すらも超えた憎悪の炎が宿っていた。そんなマジックを見返し、ノワールは宣言する。支えてくれる人がいる。だから、強くなれるのだと。一人だけじゃなく、皆が手を差し伸べてくれたから、自分たちは戦えるのだと……!!

 

「ふふふ、くく、あはははは!! そうか、お前たちは皆に支えられているのだな!! だから立ち上がる。だから諦めない!! ……自分は一人じゃない。手を貸してくれる相手がいる。女神らしくご立派な口上だ。だが、貴様たちは考えた事があるのか? 手を貸す相手の事を」

 

 女神の言葉を聞き、マジックは狂ったように嗤う。その様子に呆気にとられた女神たちを尻目に、一通り笑い終えると、先程よりもさらに深い憎悪を瞳に宿し、マジックは言う。支えて貰って、力を貸して貰って、貴様たちは良い。借りるだけならば、何の代償も払わずに済むのだから、と。

 

「……っ!? 有るわよ!! 私が、私たちが弱かったから……、私の大事な友達の運命を狂わせた。それは、私たちの罪なの……。だから、狂わせてしまったユウの為にも、私はこの世界を救わないといけないの!! この世界を救うためにあの人を呼び出した。だから、何が何でも世界を救わなきゃいけないのよ!!」

 

 ノワールもまた、四条優一の受けた理不尽の一部を知っていた。だから、この世界に呼び出してしまった彼の為にも、呼び出すに至った原因を何とかしなければいけない。そう思っていた。

 

「それが貴様の贖罪と言う訳か」

「そうよ。全てが終わったら、私はどうなっても構わない。それだけの事をしてしまったから……。だからあなたを倒して世界を救ったら、贖罪する。ユウに全てを委ねる。それで死ねと言われたら、喜んで死ぬわ」

 

 暗い感情を覗かせながら問うマジックを見詰め返し、ノワールは自身の覚悟を示す。理不尽に呼び出し、運命を狂わせてしまった。知らないで良い筈の痛みを与え、何度も縋った。心を支えて貰い、友達と言って貰った。そして少しずつ惹かれた相手。その人にどれだけ自分が酷い事をし続けたのか知った時、そう決断できてしまった。それが、ノワールの覚悟だった。

 

「ちょ、ノワール!?」

「貴方、そこまで思いつめて……」

「その覚悟は驚嘆しますが、女神が簡単に死ぬなんて言うモノではありませんわよ。貴女が死ねば、ラステイションはどうなるのですか」

 

 ノワールの覚悟を聞いた三人の女神は慌てて止めに入る。

 

「大丈夫。そう言う気持ちがあるってだけよ」

 

 詰め寄る三人に、苦笑しながらそう告げていた。

 

「……、話にならんな。やはりお前たちは、事の本質を理解していない。それではあの男と共に居る資格は無い。貴様たちの因縁、此処で絶たせてもらう。自身の無力さを嘆き、死んで行け」

 

 言葉を聞いたマジックは深い失望の溜息を吐くと、一息に言い放った。身に纏うプロセッサユニットを戦闘態勢に移行させる。

 

「そう言われても、負ける訳には行かないよーだ! 私の本気、見せちゃうよ! 刮目せよ!!」

「貴方たち犯罪組織の悪行、これ以上見過ごせません。本気を出させてもらいますわ」

「あの子たちを悲しませないためにも、これ以上負ける訳には行かないの。女神の本気、見せてあげる」

「貴女には何度も負けてきた。だけど、もう負ける訳には行かないの。私の為にも、あの子たちの為にも!! 見せてあげる……私の本当の力!! アクセス!!」

 

 同時に四人の女神も信仰の力を収束し、その暖かな光も身に纏う。マジックが大鎌を構えた。同時に、女神が降臨する。

 

「プラネテューヌの女神の力、見せてあげるわ!!」

「以前の借り、返させてもらいますわ!!」

「装着……完了。テメーはぜってー此処で倒す!!」

「貴方を倒し世界を救う。そして、もう一度ユウと話すためにも、此処で勝たせてもらうわ!!」

 

 かつて敗れた女神たちは、自分たちを信じてくれる者達の想いに応える為、その姿を見せる。世界を壊そうとする犯罪組織を阻むため、一度は敗れた強大な敵に立ちふさがっていた。

 

「光に満ちた輝き。何故これ程までに虫唾が走る……。お前たちに差し伸べられた手の数に比べ、何故異界の魂には誰一人として手を差し伸べない……っ!」

「だったら私が、私たちが助けるのよ!! その為にも、勝たせてもらう!!」

 

 紅の女神と黒の女神の刃が交錯する。十を超える激突音が響き、早すぎる剣閃に火花だけが幻想的に辺りを赤く染める。紅の女神と四人の女神。真実を知るものと知らぬもの。壊す者と護る者。感情同士のぶつかり合いを合図に、戦いが始まった。

 

 

 

 

 

 

「アイエフさんは何処ですか?」

「別の部屋で眠っているよ。外傷は無い。無事だよ」

「そうですか……」

 

 目を覚ましたイストワールさんの質問に答えていた。プラネテューヌの教会を占領していた。部下として回されたワレチューとリンダに頼み、イストワールさんと二人だけで話せるようにしてもらっていた。あいちゃんが無事と解った事で、目の前の小さな少女は安堵の溜息を零した。

 

「確かに私たちは斬られたはずですが、傷一つありませんね。治療を施してくれたのですか?」

「違うよ。斬るモノを選んだんだよ。身体では無く、意識を少しだけ斬ったんだよ」

「え……」

 

 それは自身の能力を追及する過程で辿り着いた境地。こと剣に関して絶大な力を持つ能力だった。それは剣と言う概念に干渉する能力であり、剣技にも影響を及ぼす力だった。そして極地に至る過程で、辿り着いた一つの斬撃だった。目に見えないもの、実体の無いものすら切る事の出来る斬撃。僕の目的を達成するに於いて、必要な技術だった。

 

「まぁ、それは良いんじゃないかな。今はあんまり重要では無いよ」

「それはそうですが」

「とりあえず現状は、女神と女神候補生を分断しているよ。それぞれ、マジックとブレイブが戦っている」

「……っ!? ネプテューヌさんや、ネプギアさん、他の女神はどうなっているんですか!?」

 

 あの子たちの話をすると、イストワールさんは露骨に反応を示した。相変わらず、優しい人だと思う。僕も何度か助けられていた。その事が遠い思い出のようで、少しだけ寂しく思う。

 

「それぞれ応戦中だね。だけど、決着が着くのも時間の問題かな」

「そんな……」

 

 目の前の小さな妖精は、表情を悲しみに染める。女神たちが犯罪組織に敗れると言う、最悪の事態を想定しているのだろう。

 

「おそらくだけど、犯罪組織が女神たちに負けてこの戦いは幕を下ろす」

「え……!?」

「まぁ、驚くのも無理が無いよね。だけど、きっとそうなる」

 

 それは、確信だった。マジックやブレイブは強い。だけど、女神もまた強かった。個の力は負けているが、集の力では女神に分があるとみていた。女神たちに勝ってほしいと思う反面、ブレイブたちにも負けて欲しくは無い。だけど、解ってしまうのだ。魔剣が、僕に教えてくれていた。

 

「この戦いはね、勝っても負けても変わらないんだよ。どちらにしろ、犯罪神は蘇る。魔剣ゲハバーンが教えてくれた」

「それが、魔剣……」

 

 魔剣を呼び出していた。小さな妖精は息を呑む。イストワールさんはこの世界の歴史を書き記す史書だと言っていた。魔剣の存在を知っていても不思議では無い。とはいえ、実物を見たのは初めてのようだ。

 そんな様子を見詰めている間にも、手にする魔剣は今も僕に語り続けている。犯罪神の復活は最早止める事はできないと。倒すためには、女神の持つ膨大なシェアを奉げろ、と。

 

「これはね、女神の命を、女神の持つ膨大なシェアを奉げる事で強くなる魔剣なんだ。その力を以て、犯罪神を斬り続けてきた、女神による救世と悲壮の元凶」

「……何故それを貴方が?」

「必要だからだよ。シェアを奉げる事で強くなる魔剣。それが、必要になる」

 

 それが僕には必要だった。手にしたのは必然だったのかもしれない。僕は女神の脅威を取り除くためにこの世界に呼ばれた。そして、この魔剣に出会ってしまった。過去の女神の悲壮な決意による救世の記憶を垣間見た。女神の脅威(・・・・・)の排除。それが僕に課せられた役割である。そう考えると辻褄はあっていた。こと剣に関して絶大な力を持ち、未来を切り開くための力を得ていた。天啓としか思えない。

 

「四条さんは、その魔剣でネプテューヌさんやネプギアさんを斬る心算なんですか?」

「さて、ね……。だけど、やろうと思えばできると思うよ」

 

 イストワールさんの問いに、苦笑が浮かぶ。そう聞いてしまう程度にしか、今の僕は信用されていないのだろう。そう考えると、少しだけ寂しく思う。だけど、それで良かった。

 

「ねえ、イストワールさん。シェアって言うのは、女神だけが持っているものじゃないんだよ。シェアは人の信仰が力となったものだね。なら……」

「……っ、まさか、一般人の方から!?」

「それもできるかもしれないね。一人の人間からどれだけのシェアが取れるのか。考えた事も無かったなぁ」

 

 僕の考えとは違う結論に至ったイストワールさんに感心する。確かにシェアは人間の信仰である。その大本である人間を切ったとしたら、少しは手に入れる事が出来るかもしれない。女神の決意と犯罪神の戦いの記憶ばかり見てきた所為か、そう言う考えには思い至らなかった為、そう言う考えもあるのかと感心する。

 

「なら……」

「言ったよね、シェアは女神だけの持つものじゃないよ。例えば女神の武器。或いは魔法。シェアを用い攻撃に転じたソレは、それ自体がシェアの塊だと言える」

「つまり、女神が成す事は、それ自体がシェアを用いている事なんだと言う事だよ」

「確かにそうですが」

 

 女神の力を模倣し、得た力を使い実感した事でもあった。それにイストワールさんも同意する。

 

「そう言えば、どこかの誰かが、女神さま四人分のシェアを用い召喚されていたね」

「……っ!?」

「女神自身が、シェアの塊でもある。つまりその人に宿るそれは、女神四人の命と同等と言う事だね」   

「貴方は……、何を考えているんですか……?」

 

 呆然としたイストワールさんの問いに、小さく笑みを浮かべるだけで答える事はしない。

 

「貴女は、人質です。あの子たちと闘うための、ね」

「答えてはくれないのですね……。なら、なぜそれを私に教えてくれるのですか?」 

「それは、内緒です」

 

 質問に答える気は無い。

 

「さて、僕は行くよ。友達が命を賭けて戦っているんだ。それを見届けなきゃいけない。僕には……その責任がある」

「待って、待ってください!!」

 

 そのまま部屋を後にする。扉を閉める直前まで、イストワールさんの声が聞こえたけど、無視した。これは僕の小さな仕返し。

 

「さて、行こうか」

 

 呟き、友達の下へ向かう。覚悟はできていた。右手にゲハバーンを持ち、左手に黒と紅の大剣を携える。そのまま一度空を見上げる。無情なまでに青々と綺麗な青空をしていた。

 

 

 

 

「エレメンタルバレット!!」

「ミラージュダンス!!」

『アイス・コフィン!!』

 

 双子の女神の放つ巨大な氷柱が降り注ぎ、その合間を縫うように黒の女神が駆け抜け魔弾で襲い掛かる。その全てを切り伏せるブレイブの間合いの内側に踏み込み、ネプギアの持つMPBLの銃剣の刃が強襲する。

 

「ぐおおおお!! まだだ、まだ倒れる訳には行かんのだ!!」

 

 四人の女神の猛攻をただ一人受け止めるブレイブは咆哮する。子供たちの為に戦っていた。自信が守りたいものと思えるもののために戦っていた。だが、その想いは対峙する女神の言葉を聞き、刃を交え続けるうちに、少しずつ少しずつ変わり始めていた。確かに女神の統治では救えない者が存在していた。だが、刃を重ね、その込められた思いに触れるうちに、女神が本当に子どもたちの事を想い、ブレイブに立ち向かって来ている事は武人として嫌と言うほど理解する事が出来てしまった。想いの込められた攻撃は、何百の言葉よりも雄弁に語っていたのだ。女神の志も、ブレイブの志も方向は違えど同じものであると。

 

「強い! だけど、それでも負けられないの!!」

 

 ユニはブレイブの咆哮に一瞬気圧されるも、自身を叱咤する様に声を上げ、XMBを構える。

 

「ユニちゃん、任せるからね!!」

「解ってるわ、絶対に決めなさい!!」

 

 そんなユニを見たネプギアが一直線にブレイブに向かう。ユニを信頼している。その背中からは、そんな強い思いが感じられる。

 

「あー、二人だけで盛り上がってずるい!」

「私たちも手伝う」

 

 双子の姉妹がユニとネプギアに魔力を重ね、二人の力を底上げする。ネプギアが、ブレイブの間合いに入っていた。

 

「速いが、迂闊だ! ブレイブソード」

 

 神速からの斬撃。それに移行しようとした僅かな隙を逃すブレイブでは無い。渾身の魔力を大剣に乗せ、振り下ろす。ブレイブの名を冠した必殺剣。ネプギアに襲い掛かっていた。

 

「大丈夫」

「行きなさい、ネプギア!!」

「なにっ!?」

 

 にも拘らず一切速度を落とさず、それどころか刃に何の関心もむけずに踏み込んでいた。僅かな驚きがブレイブの声に宿る。その声とほぼ同タイミングで、ユニの叫び声が上がっていた。同時に、銃撃の音が鳴り響き、何かを砕く鈍い音が響き渡った。

 

「馬鹿な……」

 

 それはブレイブの剣が半ばから砕け散る音で。

 

「道は開けたわよ」

「ありがとう、ユニちゃん!!」

 

 その時には既に紫の女神がブレイブに肉薄していた。そのまま刃を滑らせ

 

『シュタルクヴィータ!!』

「ぬ、おおおおおお!?」

 

 ユニとネプギアの連携攻撃が炸裂していた。刃を砕いた銃弾がブレイブの体に突き刺さり、肉薄していたネプギアの刃が、音速を越えた速さで振るわれる。刃が装甲を削る音が鳴り響き、ブレイブの絶叫が響き渡る。

 

「あうう!?」

「ネプギアちゃん!?」

「ネプギア!?」

 

 それでもブレイブが膝をつく事は無い。剣が折れたと悟るや、即座にその柄を投げ捨て、ネプギアを殴り飛ばした。もろに直撃したネプギアは吹き飛ばされるも、小さな笑みを浮かべた。だって拳を振り抜いたブレイブのすぐそばに、友達が到達していたから。

 

「ユニちゃん、私たちの勝ちだね」

「ええ、アンタのおかげよ、ネプギア!!」

「しま――」

 

 ブレイブの眼前にユニがXMBを構えていた。

 

「ネプギアがくれたチャンス、これで決めるわ! N.G.P!」

 

 ユニの持つXMBがその力を解き放った。シェアを収束した、必殺の一撃。光の奔流とも言えるそれは、ブレイブに直撃した。

 

「ぐ、あああああああ!!」

 

 再びブレイブの絶叫が上がる。それでも放たれた力は止まる事が無い。そして、

 

「ま、けたか……」

 

 ブレイブの半身を吹き飛ばしたのだった。

 

「私の、勝ちね」

「そのようだな……」

 

 どこか悲しげに言うユニに、ブレイブは何処か清々しげに答えていた。全力を賭して挑み、敗れていた。負けはしたが、その結果に悔いは無いと言う心境だった。

 

「お前は、子供たちを救う事が出来るか? 貧しき子供たちにも、笑顔を見せてやれるか……?」

「約束するわ。アタシの全身全霊を掛けて、子供たちを笑顔にする」

 

 心残りがあるとすれば、子供たちを笑顔にできなかった事である。それはブレイブの剣を取った理由であり、存在意義と言っても良かった。それを成す事も出来ない自分が不甲斐ないと思う一方、自分の想いを託すにたる相手が見つかった事に、何処か安堵していた。自分と真っ向からぶつかり合い、下した相手が同じ志を持っていた。それはブレイブにとって僥倖(ぎょうこう)と言えた。

 

「そうか……、ならば俺は安心して逝けるな」

「……後は任せて。絶対にアンタの目指した世界を実現するから」

 

 ユニの言葉を聞いたブレイブは、満足したように頷く。

 

「そう言えば、お前の名をまだ聞いていなかったな」

「ユニよ」

「そうか、ではユニ。後の事は任せたぞ」

 

 そうして後を託すブレイブに、ユニは一筋の涙を零し、頷く。敵であったが倒したかったわけでは無い。同じ志を持つ者だった。だけど、倒さなければいけなかった相手。ユニにとって、ブレイブはそう言う相手であった。

 ブレイブの体がゆっくりと崩れ落ちはじめる。既に半身を失っていた。機械の体を持つとは言え、既に動けなくなっていてもおかしくは無い損傷だった。未だにブレイブの意識があるのは、ブレイブの強靭な意志の所為なのか。

 そんなブレイブの下に、黒と紅が舞い降りる。異界の魂であった。

 

「ユウ!?」

 

 ユニが叫び声を上げるが、一瞥するだけでブレイブの下に向かっていた。

 

「すまない、ブレイブ。途中から全て見ていたけど、僕は参戦しなかった」

「知っていたさ。お前の目的も理解している。恨みごとを言う気は無い。この結果は、なるべくしてなったと言う事だ」

 

 悲しげにつぶやく異界の魂に、ブレイブは気にするなと笑う。

 

「それでも僕は、君を、友を見殺しにしたんだ……」

「そうか……、俺を友と呼んでくれるか。ならば、その気持ちだけで充分だ」

 

 俯く異界の魂に、ブレイブは優し気に告げる。その声音は最期の時を迎えようとしているにも拘らず、酷く嬉しそうであった。

 

「できるならば俺の手でお前を救ってやりたかった、だが、それもできそうにない。すまなかったな」

「そんな事は……」

 

 少しずつ崩れ落ちるブレイブを見詰める異界の魂を見るユニは、不意にどうしようもない悲しみに襲われてしまった。優の友達を、自分が倒してしまった。そう自覚すると、抗いがたい衝動に駆られる。

 

「残り少ない命、我が友のために使おう……」

 

 そう言い、ブレイブはユニを一度だけ見据えた。

 

「え……?」

 

 自分の代わりに、助けてやってくれ。何故か、ユニはそう言われた気がした。

 

「ハードフォーム」

 

 静かにブレイブは呟いていた。瞬間、ブレイブの体が光に包まれる。そして、光が収まった時、

 

「これは」

 

 紅の剣が、四条優一の目の前に刺さっていた。掴む。まるで異界の魂の為に作られたかのように、自然にその手に収まっていた。

 

「そっか、ブレイブは本気で僕を助けようとしてくれたのか……」

 

 悲しげな呟きが辺りに響いていた。剣を読み取る力を用い、ブレイブの残した想いを正確に読み取っていた。不条理を課せられた友を救いたいと言う一念だけが、はっきりと示されていた。

 

「ありがとうブレイブ。僕は君に出会えてよかった」

 

 ほんの小さな溜息と共に、四条優一は女神たちに向き直る。黒と紅の大剣を消滅させ、右手に魔剣、左手に紅の剣を構えた。

 

「行くよ、女神達。君たちの想い、僕に示してくれ」

 

 そして女神に向かい肉薄する。友を失った異界の魂との戦いが、始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 




遂にブレイブ退場。女神たちが勝利を掴む一方で、異界の魂は拠り所を失っていく。
次回はマジックvs女神&主人公vs女神候補生

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