異界の魂   作:副隊長

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44話 動き出す最後の時

「派手にやられたようだな」

「ああ。奴らはこの短期間に、予想を超える成長をしているようだ。強い、確かにそう感じた」

 

 犯罪組織の拠点の一つに帰還したブレイブは、マジックに声を掛けられていた。雄大な機械の体のいたる所を破損させられ、方々から煙が噴き上げているが、その声から戦意が薄れる事は無い。

 

「だが、だからこそ負けるわけにはいかん。犠牲を強いられた者の嘆きを知りもしない者達に、負けるわけにはいかんのだ」

 

 それどころか、熱く秘められた思いが更に熱を増していた。今の女神があるのは、偏に四条優一と言う犠牲者のおかげであると、ブレイブは知っていたからだ。自分が女神の所為で死に追いやられたという事実を知りながら女神を救出する事を選んだ人間に対し、たとえ本人の意思で知らせなかったと言えども、笑顔の裏の嘆きに気付きもしない女神達に対し、激しい敵意に突き動かされていたのだ。

 女神が憎いのではない。犠牲に気付かず、助けられている事実に気付きもしない事が憎かった。そして、哀れでもある。

 

「そうだな。異界の魂。既に殺された人間。それが、自分を殺した女神を肯定するどころか、救おうとすらしていた。何故、あの男はそうまでして女神を助けようとするのか。何故、楽になろうとしないのか……」

 

 ブレイブの言葉に小さく頷き、マジックは疑問を零す。彼女には、異界の魂の成そうとしている事が理屈で理解はできても、納得できなかった。

 

「それは、友誼(ゆうぎ)故にだな。この世界に来て最初に出会った友好的な存在が女神だと言っていた。身一つで放り出された四条優一は、心の底から感謝したと言う事なのだろう。その時は、まだ事実も知らなかった。その情を消せないのだろう」

「……そう言うモノなのか? ならば、最初に出会ったのが私だったとしたならばあの男は……」

 

 ブレイブの言葉に興味深く頷くと、マジックは顎に手を当て考え込む。変わる事の無い無機質な瞳にはどのような感情も宿っているようには見えない。

 

「いや、このような仮定、考えるだけ無駄か……」

 

 数秒の沈黙。思考の海から戻ったマジックは、つまらなさそうに零す。

 

「マジックよ、お前も変わったな」

「何……?」

 

 そんなマジックを見て、ブレイブは不思議なものを見つけたように言った。マジックの表情が僅かに歪む。それは、困惑の色を宿していた。

 

「お前は冷酷だ。それは今も昔も変わらん。だが、最近ではそれ以外のモノが見えるようになった」

「何だと言うのだ、それは」

 

 ブレイブの言葉を促す。

 

「優しさと怒りだな。異界の魂に出会ってから、お前は僅かに感情の起伏が激しくなった」

 

 どことなく向きになっているようなマジックを見詰め、ブレイブはどこか嬉しそうに零していた。ブレイブの眼から見て、マジックは異界の魂と出会ってから、確かに変わっているように思えた。それは、ブレイブにとっては好ましい変化だったと言える。

 

「そうか……、私は変わったのか」

「嫌か?」

「いや、悪くは無い。犯罪神様以外の何かに執着すると言うのも、女神に対し怒りを覚えるのも、これまで無かった事だ。なにより、私はあの男を生かしてやりたいと思い始めている」

 

 その変化を自覚したマジックは、少しだけ驚いたように目を見開くも、直ぐに何時もの無表情に戻り確認する様に言葉を出した。

 

「やはり変わったのだな、あのマジックが」

「ふ、そうだな。確かに変わったようだ。私ならば、私たちならばあの男を生かしてやれる。そう思うと、負けは許されない」

「そうか、お前は……」

 

 無感動だった瞳に、僅かな感情の色を乗せたマジックの言葉にブレイブは思い当たる。四条優一を仲間にするために言い放った言葉。それは、マジックの本心でもあったのかもしれない、と。

 

「どうかしたのか、ブレイブ?」

「いや、何でもない。次の作戦が予定通り最終で良いのだな?」

「……ああ。予定通り、プラネテューヌに強襲を掛ける。次で、終わらせる」 

 

 しかし、その事をブレイブが尋ねる事は無い。真偽はどうであれ、自分は友の為、子供たちの為、そして自身がブレイブ・ザ・ハード足る為、剣を取るだけなのだから。

 

「解った。四条優一にも会うのか?」

「そのつもりだ」

「そうか。ならばこちらも準備に移ろう」

 

 そう言い、ブレイブはマジックと別れたのだった。

 

 

 

 

 

 

「次の戦いが決まった」

「そっか」

 

 唐突に表れたマジックの言葉に頷く。別れは済ませていた。立てそうに無かった女神を叱咤し、立ち上がらせていた。ユニ君とは別れを交わす事が出来なかったけど、精神面では寧ろ妹であるあの子の方がノワールよりも成長しているように思える。きっとあの子は大丈夫だ、と、思い定めていた。だから、後は最後の作戦を待っているだけであったと言う訳だ。

 

「意外と冷静なのだな」

「覚悟はできていたからね。ずっと以前から」

 

 淡々と尋ねてくるマジックの言葉に頷く。覚悟なんて、ずっと以前から固まっていた。その所為か、自分でも意外に思うほど、落ち着き払っている。

 

「そうか、それ程以前より女神たちを気に掛けていたか……」

「そうだけど、マジック?」

 

 不意に、違和感を感じた。何がとは言えないけど、漠然とした違和感。

 

「私ならば、お前を救ってやれる。女神には出来なくとも、私ならば」 

「……」

 

 静かに言うマジックに、言い返す事が出来なかった。

 

「犯罪組織の思惑とは別に、私はお前を助けたい」

「君が僕を助ける、だって?」

「そうだ。その事を一度だけ言っておきたかった」

 

 その言葉を聞き、困惑してしまう。マジックの意図が解らなかった。

 

「かねてより決めていたプラネテューヌ強襲。お前の案を取った」

 

 そんなマジックの言葉に意識を戻す。それは、最後の戦いの時の為に考えていた事。僕の思惑と、女神を倒したい犯罪組織の思惑。その両方を満たす事が出来る案だった。それが、プラネテューヌ強襲だと言えた。

 

「そうか。それじゃ、これが最後なわけだね」

「違うな。此処から始まるのだ。お前は此処から再び生を得る。私が与えてやる」

 

 僕の言葉をマジックは否定する。そしてしっかりと言った。未来を変えてやる、と。

 

「期待はしないでおくよ」

 

 今になって何故こんな事を言うのか、その意図が解らなかった。マジックにとって、僕は女神たちを揺さぶる為の手札でしかないはずである。だから、そう応える事しかできなかった。

 

 

 

 

 ブレイブのリーンボックス襲撃。その事件が起こった後、惜しくも彼を逃がした女神たちは、一度各々の国に戻ると、やるべき事を成し、プラネテューヌに集結していた。ネプギア達が女神救出の仲間探しと同時進行していたゲイムキャラの捜索、それを終わらせていた為、発案者のイストワールに報告に来たと言う訳であった。

 

 「皆さんありがとうございます。これで、全てのゲイムキャラの力が揃いました。そして、女神たちも全員が揃い、漸く犯罪組織に反撃を行う準備が出来たと言えます」

 

 ゲイムキャラを携え、その力を増した女神たちを一人一人見据え、イストワールは口を開く。彼女の言葉通り、女神たちは自国のゲイムキャラの協力を得た事により、その力を更に増していた。中でも女神の妹達は、その力と相性が良かったのか、今まで続く闘いの中で成長したのか、プロセッサユニットに変化が表れている。少しばかり肌の露出は増えてしまったが、その分シェアが凝縮され、女神候補生の力をより姉たち女神に近付けていた。

 

「漸く、ここまで来たんだよね」

「はいです。ネプネプたちを助け出すって決めてから、随分と時間が経ちましたけど、やっとここまでこれたんです」

「全くね。正直言うと、最初の頃はネプギアを助け出せただけでも奇跡だと思ったぐらいだわ。それを此処まで巻き返せたのは、きっとアイツのおかげね……」

 

 女神が捕えられてから彼女たちを助け出すと決意し、漸く反撃に移る事が出来るところまで来ていた。アイエフとコンパが二人でギョウカイ墓場に訪れた時と比べ、助けだした女神を含め、今は遥かに大所帯になっていた。その仲間たち一人一人を見詰めながらネプギア、アイエフ、コンパの三人は頷く。そして、アイエフはこの場に居ない一人の事を思い出すように言った。

 

「ユウが、皆を助けてくれた……」

 

 ノワールが皆に言い聞かせるように言う。全ての女神が捕えられ、解放された。そしてその時に姿を消した大事な友達。今は犯罪組織についてしまった、異界の魂だった。

 

「お姉ちゃん……」

 

 塞ぎ込んでいた姉が再び立ち上がってくれたことにユニは安堵したのだが、同時にどこか嫌な予感がしていた。何があったのかと問うても、「もう大丈夫だから」と悲しげに笑う姉に、ユニは聞きたくてもそれ以上聞く事が出来なかった。自分がいない間に、何かあったのだと確信した。ブレイブの言葉を思い出す。あれは一体どう言う意味があったのか、と。

 

「皆、聞いて欲しい事があるの。特に、女神には」

「どうかいたしまして?」

「なになに、ノワールに何か言いたい事があるの?」

「最初からそう言ってる……」

 

 ユニが思考の海に沈みかけている時、ノワールが思い切ったようにそんな言葉を掛ける。彼女を除く三人の女神が、各々の反応を示しながら促す。

 

「異界の魂。私は、彼に出会ったわ……」

 

 すーはーっと、深呼吸を繰り返すと、ノワールはゆっくりと告げた。それは、彼女が四条優一本人から聞いた、彼の秘密の一部についてだった。

 

『……!?』

 

 三人の女神が、息を呑む。異界の魂。その言葉には、確かに聞き覚えがあった。かつてマジック・ザ・ハードに完敗を喫した時、最後に試みた逆転の切り札だった。だけど、その時に儀式は失敗していた。召喚の儀式を行うも、何の反応も示さなかったからだ。ただ力だけを失い、徒労と終ったはずだった。

 

「異界の魂ですか?」

「聞いた事ないわね」

「なにそれ、ロムちゃん知ってる?」

「知らない(ふるふる)」

 

 しかし、女神の妹達はその言葉を聞いた事が無かった。女神が縋った最後の希望。本来存在しない筈の術式をクロワールがこの世界に持ち込んだことによって、それは呼び出されたからだ。

 

「あいちゃん知ってますか?」

「いや、私も聞いた事ないわね」

「アタシも知らなーい」

「がすとも知らないですの」

「ぼくも聞いた事ないです」

 

 そして女神以外の協力者たちも聞き覚えが無いと零す。ラステイションで仲間になった日本一。ルウィーのキラーマシン戦の際に仲間になっていた錬金術師ガスト、そして、リーンボックスの歌姫5pb.だった。一人一人経緯は違えど、女神たちを助けたいと言う思いの下に集った仲間だった。

 

「そうですか……、ノワールさんは知っていたのですか」

「はい。ユウから聞きました。自分はこの世界の人間じゃないって。此処じゃない世界から呼び出された人間だって」

「え……?」

 

 困ったように零すイストワールの言葉に、ノワールは頷く。二人は共通の認識を持っていたようであるけど、一人だけ呆けた声を出した者がいた。ユニである。

 

「どういう事なの、お姉ちゃん? ユウが、この世界の人間じゃないって」

「それをこれから話すところよ。聞いて貰えるわね」

「う、うん」

 

 予想だにしていなかった事態に、ユニは困惑しながらも頷く。そして、ノワールの言葉に耳を傾ける。

 

「私たちがマジックに負ける直前に行った異界の魂召喚の儀式。それによって呼び出されたのが、四条優一。私とユニの大事な友達だったの」

 

 それは、追い詰められた女神が行った一つの儀式。この世界を何としてでも救いたいと言う一心が生んだ、救世の為の一つの悲劇。この世界を救うために呼び出された人間の話だった。強大な力を与えられ、身一つで何も知らない世界に放り込まれていた。そして、関係の無い世界で命を賭けさせられた人間の話だった。

 

「そんな……。なら、そんな状態だったのにユウはアタシを気に掛けてくれたの……?」

「ええ。あの人は、自分の事を蔑にしてまで、私たちを女神を助けてくれたの」

 

 ノワールの話を聞き、ユニは悲しそうに呟く。確かに、頷けることがあった。出会ったばかりの四条優一は、女神の事すら良く解っていなかった。だけど、それも異世界人だと言うのならば、辻褄は合う。他にも持ちる魔法や剣技、武器だって見た事が無いものしかなかった。全部は知らなくとも、その絶大な効果は何度も目の当たりにしていた。一つぐらい知っているモノがあっても不思議では無いのに、誰も知らなかった。それも良く考えてみたら、不可解な事ではあった。

 

「なんで……アタシには何も教えてくれなかったのよ……」

「ユニ……」

 

 だけど、ユニの悲しみの大部分はそれとは関係の無いところから来ていた。悲しみの理由。それは、姉には教えた秘密を、自分には語ってくれなかった事。四条優一とは、誰よりも近いと思っていた。だけど、それは違ったのだと思い知らされた気分になったのだ。少なくとも、姉は教えて貰っている。そして自分は知らされていなかった。その事実に打ちのめされていた。

 

「私が教えて貰えたのも、不可抗力なの」

「……どういう事?」

「最初に聞いたのは、マジックからだった。ユウと一緒にマジックと戦った時に、マジックに言われたの。だから、ユウも隠し通す事が出来なくなったから教えてくれたんだと思う」

「そう、なんだ」

 

 ノワールの言葉を聞いて、ユニは少しだけ落ち着く事が出来ていた。自分より姉を信頼して話したわけでは無い。話さざる得ない状況にされたのだと言う事が、幾分か落ち着く理由になっていた。そしてその事実に、ユニは少しだけ自己嫌悪に陥る。自分は、自分が思っているより嫌な子なのかもしれないと。それは、姉が自分より信頼されている訳では無いかも知れないと思えた途端、冷静になれたからだった。

 

「ノワールさんが四条さんに教えて貰えたのは、それが全てですか?」

「え? ええ、そうよ」

「そう、ですか……」

 

 ノワールの言葉を聞いたイストワールは一瞬だけ考える素振りを見せる。その顔はどこか愁いを帯びている。

 

「異界の魂。それは世界を制する可能性を持つ力です」

 

 イストワールが皆に説明する様に言葉を続ける。異界の魂召喚の儀式を教えたのは彼女である。その事実を知っている事に、女神たちが異を挟む事は無い。

 

「そしてその力を持つユウは言ったの。この世界を壊すって……」

「そんな……」

 

 そしてノワールが辛そうにしながら、最後に優一と出会った時の事を語る。世界を壊すと語ったことを。理不尽を許せるはずがないと言った事を。ユニが信じられないと言った様子で零す。

 

「女神の命を奉げる魔剣、ゲハバーン。それを手にしていたの。自分の目的を果たす為には必要だって。それに、次に会う時が最期だとも……」

「きっと、きっと何か訳があるんだよお姉ちゃん」

「そうだよノワールさん。きっと四条さんにも考えがあるはずです。四条さんがユニちゃんを傷付けるなんて、考えられません!」

 

 四条優一は本気で敵になってしまったと辛そうに語るノワールに、彼を知るユニとネプギアは擁護の言葉を重ねる。それだけ二人にとって、有り得ないと思える事だったから。

 

「私だってそう思うわよ! だけど、聞いたのよ。聞いちゃったのよ……。本人から、この世界を壊したいって……。理不尽を許せるはずがないって!」

「そんな……。それでもユウは――」

「っ!? これは宣戦布告……!?」

 

 アタシを支えてくれるって言ったもん! ユニがそう続けようとしたところで、不意にイストワールが焦ったように声を上げた。直後に爆音。凄まじい衝撃が、プラネテューヌの教会を襲った。

 

「な、なになに、クライマックスまで一直線って感じだったのに、何があったの!?」

「ちょ、お姉ちゃん! こんな時までふざけないでー」

「いやいやいやいや、今のは冗談じゃないんだけど!」

 

 地震が起きたような揺れに、その場で倒れて頭を打ったネプテューヌの悲鳴に、ネプギアが抗議の声を上げる。それでも平常運転なネプテューヌだった。

 

「くぅ……、み、皆さん聞いてください!」

「は、はい!」

 

 イストワールの切羽詰まった声に、ネプギアが応える。

 

「犯罪組織からの宣戦布告が届くと同時に、プラネテューヌが襲撃され始めました。教会から見て北部と南部に同時に犯罪組織の方たちが現れ、侵攻しているようです」

「ええー!! ちょ、ちょっとそれ、かなりピンチなんじゃないの!?」

 

 イストワールの言葉を聞き、プラネテューヌの女神、ネプテューヌは悲鳴を上げる。図っていたかのようなタイミングが、驚きに拍車を掛ける。

 

「北部にブレイブ・ザ・ハードが現れ、南部にはマジック・ザ・ハードの姿が確認できると、情報が入りました。……え? ブレイブは女神候補生を指名し、マジックは女神を指名しているとの事です」

 

 次々に送られてくる情報を開き、イストワールは困惑気味に皆に告げた。二手に分かれた敵が、敵を指名してきている。それは、明らかに罠であると言えた。

 

「馬鹿正直に敵の思惑に乗ってあげる理由は無いけど……」

「そうですわね。現実的に戦力を分け無い訳には参りませんわ」

「そうね、二手に分かれている以上、此方も二手に分かれるしかない、か」

「って、ことは、乗っちゃうの? だが行っちゃう感じ?」

 

 それでも戦力を分けざる得ない。そして、連携と言う面で言えば、女神同士と候補生同士で解れるのが理想と言える。戦力的にも、女神たちにとってマジックは一度足りとも勝てたためしが無く、厄介な相手な為妥当だと言える。

 

「癪だけど、敵の思惑に乗りましょう」

「大丈夫なの、ノワール?」

「辛いのなら抜けても良い、とは言えない相手ですわね」

「問題ないわよ。ちゃんとやれるわ。心配してくれてありがとう」

「おー流石ノワちゃん! 期待してるよー」

「アンタは少しぐらい心配しなさい!」

 

 未だ本調子ではなさそうなノワールを心配そうに二人の女神は見、残りの一人は何時ものように接する。

 

「ユニちゃんは大丈夫?」

「アタシだって大丈夫よ。それに敵はあのブレイブなの、アイツとは決着を付けなきゃいけない」

「ユニちゃん……。解ったよ、私がユニちゃんを支えてあげる!」

「……っ!? ネプギア、アンタ……」

「えへへ、四条さんじゃないけど、私だってユニちゃんの友達なんだから!」

 

 同じく辛そうなユニは、ネプギアに励まされていた。友達の暖かい気遣いに、ユニは涙が出そうになるのを慌てて拭う。 

 

「あー! 二人だけで盛り上がってる! 私たちだって忘れないでよね!」

「皆で一緒に頑張る(ぐっ)」

「ラムちゃんとロムちゃんが居れば心強いよ! ね、ユニちゃん」

「そうね、皆友達……だからね」

 

 ラムとロムも加わり、ユニを支えていた。

 黒の姉妹は各々の友達に支えられていた。仲間とは暖かく、良いものだと二人は思う。

 

「私たちも忘れないでって言いたいところだけど……」

「もう、私たちじゃお役には立てないです……」

 

 アイエフとコンパが悔しそうにつぶやく。構成員なら相手にする事はできるが、女神ですら勝てない幹部が相手である。人間の彼女たちに手に負える相手では無かった。女神たちと共に闘う事だけが、やるべき事では無かった。各々の出来る事を成すのが、最善だった。

 

「構成員の相手は任せてよ!」

「ガストは便利なアイテムを錬金して配るですの」

「ボクは、皆の避難誘導をします!」

 

 それぞれがそれぞれのやる事を見つけ、散って行く。

 

「コンパさん、街の人たちの救護をお願いします。アイエフさんは、私の補佐をお願いします」

「解りました」

「あいちゃん、頑張ってくださいです!」

「こんぱもね」

 

 そしてその場にはイストワールとアイエフだけが残っていた。イストワールの指示を、アイエフが現場の人間に割り振っていく。唐突に表れた犯罪組織の襲撃にも、皆の活躍が在り何とか態勢を立て直す事が出来ていた。

 

「アイエフさん、此処はもう大丈夫ですのであなたも……」

「残念だけど、それはダメだよ」

 

 一区切りがつき、アイエフにも現場に出て貰おうとイストワールが声を掛けた時、聞き覚えのある声に遮られていた。二人が驚き視線を移す。そこには、

 

「久しぶりだね。それと、ごめんね。此処は押さえさせてもらうよ」

 

 黒と紅の神器を纏った犯罪組織に残る最後の幹部ブレイク・ザ・ハード。女神に呼び出された異界の魂、四条優一だった。二人が何か言う前に、黒と紅の軌跡が煌めく。

 そして、女神達が犯罪組織の幹部とぶつかる直前、プラネテューヌの教会は陥落したのだった。

 

 

 

 




ラストバトル開始。女神と犯罪組織最後の戦い。
この物語に救いはあるのか

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