異界の魂   作:副隊長

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38話 交わされる刃

「終わったよ」

 

 ギャザリング城城門前、ブレイブとマジックがその場で僕が帰ってくるのを待っていた。ブレイブは外装に少し損傷があるようだが、その程度では何の問題も無いようだ。マジックに至っては、戦いの痕すら見えない。相変わらず、その実力はすさまじいの一言だ。

 

「手にしたのか、魔剣を」

「ああ、手に入れたよ。これが、それだ」

「ほう……、確かにすさまじい力を感じるが……、戦いに耐えられるのかそれは?」

 

 ブレイブにゲハバーンを見せる。何もない場所から、剣を呼び出していた。古の魔剣とは言え、ゲイムギョウ界の武器であった。長釣丸と違い、ゲハバーンは女神たちが持つ武器と同じく、出し入れが自由にできた。

 

「その点に関しては問題ないよ」

 

 ブレイブの疑問に答える。長き時間戦いに暮れた魔剣だった。その消耗は普通の剣では耐えきれないものがある。だが、信仰を喰らう事で強くなる魔剣だった。最早、その存在がシェアの塊と言っても良い。ならば、やりようはあった。両の手で魔剣を握り、その記憶を読み取っていく。女神たちの記憶が流れ、魔剣ゲハバーン本来の姿を見る。それを元に、魔剣を再構築してく。魔剣ゲハバーン。悲劇の連鎖が始まる最初の姿に、作り直していた。否、元に戻していた。

 

「……ほう、そこまで出来るようになったのか」

「お陰様でね。過去の物を再現する事なら、完全にできる」

「つまり、この剣がゲハバーン本来の姿」

 

 鮮やかな、紫色の刀身だった。劣化していた魔剣が本来の姿に戻り、よりその力も肌に感じた。マジックが僕を見て、感心したように零した。過去の剣を再現する。八億禍津日神を降した時、自分の持つ能力を、完全なモノにする事が出来ていた。正確にはまだその上があるのだけど、剣を読み取り再現する能力としては、完成したと言ってよかった。剣を通して、ありとあらゆる過去の使い手たちの全てを用いる事が出来る。人を極めし闘神の記憶を再現した時、その境地に至っていた。

 ブレイブが再構築した魔剣を見詰め、感嘆の言葉を上げる。確かに、魔剣と呼ぶにふさわしい力を秘めている。

 

「犯罪組織のブレイク・ザ・ハードとしてならば、貴様は完成したわけか」

「……そうなるね。異界の魂として、十全に力を振るえる」

 

 薄い笑みを浮かべ、マジックは僕を見る。確かに、女神を倒し世界を壊すと言うのが目的ならば、僕はこの時点で完成したと言える。事実上、僕の能力は剣を持つもの全てを相手にするのと同じだから。ブレイク・ザ・ハードと戦うと言う事は、存在する全ての剣士の経験を相手にすると言う事だった。それは、こと近接戦に置いて、今の僕ならば例えマジックが相手でも互角以上に戦えると言う事だった。

 

「強く、なったのだな。弱き人間が、私と肩を並べるまでに育った、か」

「そうだね、人は弱いよ。だからこそ、強くなろうと手を伸ばすんだ。僕ですら此処まで届く事が出来た。なら、女神たちがこれ無い訳が無い」

「ふふ、お前が言うならばそうなのだろうな。だが、私は負けはしない。私が負けると言う事は、お前にとっても希望が潰えると言う事に他ならない」

 

 マジックの言葉に小さく頷く、マジックが破れる。それは、恐らく犯罪組織が潰える時だろう。その時が来るのならば、確かに僕に希望は無くなると言えた。

 

「そのような時、来させはしない。子供たちの為、そして我が友の未来の為、俺が遮って見せよう」

「ブレイブ……」

 

 ブレイブが、自慢の剣を掲げ力強く宣言する。思わず、涙が零れそうになる。迷いも無く、僕の事を友と言ってくれた。それが、ただ嬉しかった。

 

「だいたいな、ユーイチ。女神たちがまともにやって、今の犯罪組織に勝てるわけがねーよ」

「そうだね、クロワール」

「ああ、だから誰かさんが(・・・・・)何か狙わない限り女神に勝機は無いってもんだ」

 

 クロワールには僕の目的を告げていた。恐らくマジックもブレイブもそれは解っているだろう。と言うよりも僕が犯罪組織に入った経緯から、それが解らない筈が無い。その上でなお、女神に勝つと宣言している。それが犯罪組織としての目的だからだろうが、他の理由もあるように感じられるのは気のせいでないのかもしれない。

 

「四条優一、お前はまだ、女神の肩を持つのか?」

「持つよ。それが、僕の選んだ道だから」

 

 ブレイブが諭すように言った。小さく首を振るう。気持ちは嬉しいけど、それだけは譲れない事だった。ユニ君やノワール、ギアちゃんと友達と言うのも大きな理由だけど、もう一つ理由が出来ていた。魔剣ゲハバーンを得た時、見てしまった。女神たちの悲壮な決意を。誰一人として死にたくは無かった。それでも、大好きな世界を守る為、命を賭けて散って逝った。そんな女神たちの記憶を、見せられ続けた。想いを、託されてしまった。僕に、その想いを踏み躙れるだけの気概は無かった。

 

「そうか。変わらなかった、か……」

「……ごめん」

「いや、謝らなくても良い。友がそう決めたと言うのならば、俺がとやかく言う事では無い。だが、これだけは覚えていてくれ」

 

 ブレイブが幾許か気落ちしたようにするが、直ぐに気持ちを切り替え僕を見る。

 

「例えお前がどのような覚悟をしようとも、俺は友としてお前を救う気でいる。例え、お前にどう思われようとな。お前の身に課せられた不条理を、無くしてやりたいのだ」

「ああ、ありがとう。僕も、君に出会えてよかった」

 

 ブレイブの言葉が胸を衝いた。僕の思いを聞いてそれでも手を差し伸べてくれる。友と、言ってくれた。そんなブレイブに、何処か気を許してしまう自分がいた。奇妙な友情が確かに芽生えていた。ブレイブもまた犯罪組織の幹部であり、女神たちの敵だ。僕にとっては倒すべき相手である。だけど、それとは違う次元で、友と呼んでも良い相手になっていた。

 

「魔剣が手に入ったなら、此処にはもう用はねーよな。さっさと帰ろうぜ」

「そう言って、僕に本を持たせるのはやめてくれないかな」

「はは、いーじゃんか。お前に運んでもらう方が早いんだし」

 

 クロワールがそう締めくくる。魔剣を手に入れていた。そして、自分が取る道も決まっている、なら、やるべき事は解っていた。女神と戦う。それが、僕の決めた事だった。

 

 

 

 

 

 

「馬鹿な、この吾輩がこんなところで敗れるだと……、まだ、幼女を少ししかペロペロしていないのに……、此処で終わりだと言うのか……、幼女、最後に一目見たかった……、だが、我が生涯に悔いは無し! ようじょ……幼女、バンザーイ!!」

 

 プラネテューヌ協会、その建物を占拠し、プラネテューヌに被害を与えていた犯罪組織の幹部、トリック・ザ・ハードは断末魔を上げた。その巨体には幾重にもの斬撃を受け、全身に夥しい攻撃を受けていた。幼女を愛する至高の紳士、トリック・ザ・ハード。その命が終わりを迎えようとしていた。それにしても酷い辞世の句である。

 

「はぁはぁ、色んな意味で途轍もない強敵だったわね……」

「ネプテューヌさん、ネプギアさん!!」

「いーすんさん、大丈夫ですか!?」

 

 トリックによって捕えられていたプラネテューヌの教祖イストワールを救い出し、ネプギアと、その姉であるネプテューヌは喜びを表す。小さな体を縛られていたイストワールの体をネプギアは即座に開放し、心配そうに尋ねていた。

 

「……っ!? き、聞かないでください……、あんな、あんな事をされるなんて……」

「ど、どうしたのかしらいーすんは」

「わ、解んないけど、聞いたら駄目な気がするよ」

 

 瞬間、イストワールの表情がどんよりと曇りきる。ネプテューヌとネプギアは、そんなイストワールの変わり様に心配そうに表情を曇らせるも、あまりの落差にそれ以上聞く事が出来ない。良く見れば、倒れたトリックは、色々と満足したような表情を浮かべている。

 

「ネプギアこっちは終わったわよ」

「此方も、あらかた倒し終えましたわ。犯罪組織の下っ端には逃げられてしまいましたが……」

「それで、イストワールは助けられたのかしら?」

 

 二人の女神に合流する様に、三人の女神が舞い降りる。ルウィーの5pb.強襲により、白の女神三姉妹は怪我をしていた為、それを除いた女神たちがプラネテューヌに救援に来ていた。新たに表れた幹部、ブレイク・ザ・ハード。ソレによって、犯罪組織の幹部の強さを女神たちは再認識したため、万全を期したと言う事だった。そして、その甲斐もあって、幹部の一人を倒す事が出来たと言う訳であった。

 

「皆さん、お陰様でこうして助け出されました。ありがとうございます」

 

 ノワールの質問に、イストワールはぺこりと頭を下げる。が、何処となくその目が虚ろな光を放っているのは気のせいでは無い。三人の女神はそれ以上聞いてはいけないとそれと無く察し、それ以上何かを聞く事は無かった。

 

「……けど、今回も手掛かりは無し、ね」

「どうかしたの、ノワール」

「少し、ね……」

 

 落胆に肩を落とすノワールに、ネプテューヌは不思議そうに尋ねた。ノワールは困ったように小さく笑うと、何でもないと答える。

 

「ノワールさん……。ユニちゃん、やっぱり四条さんが居なくなったからなの?」

 

 ネプギアはそんなノワールの様子を見て、傍らに立つ友達に声を掛けた。ノワールと四条優一の関係は詳しくは知らないが、ユニがネプギアと旅に出るとその代わりに傍に居た。それが関係しているのは容易に解ったから。

 

「うん……、ユウが居なくなってから、ずっとあんな感じ。だけど、アレでも立ち直ったほうなのよ。私が目覚めた時なんて、見ていられなかったんだから」

 

 ユニはネプギアに困ったように言った。

 

「そうなんだ。……、でも、ユニちゃんは大丈夫なの? ユニちゃんも、四条さんに凄くお世話になっていたはずだよ」

「アタシは、大丈夫よ。そりゃ、アイツが居なくなったって聞いた時は悲しかったけど……」

「なら、どうしてユニちゃんは平気なの?」

「別に平気って訳じゃないわよ。けどね、ユウはアタシと約束してくれたんだから。支えてくれるって。アイツはそう言う事で嘘はつかないって知ってるから。だからアタシは平気なの、ちょっとだけ寂しけど、と、友達のアンタもいるしね」

 

 ネプギアの問いに、ユニは少し考え込みながら答える。それは、ユニとユウイチがした約束だった。

 

「……、ユニちゃんは四条さんの事を信じてるんだね」

「そ、そんな事ないわよ……、ううん、そうね、アタシはユウの事を信じてるんだ。だから、頑張れるの」

 

 嬉しそうに笑うネプギアに、ユニは慌てて訂正しようとして、やめた。ユウは何時もアタシを信じてくれた。なら、アタシが信じてあげないでどうするの。そう思える程、ユニは成長していたから。

 

「だから、アタシはユウが居なくても大丈夫。きっと、諦めなかったらまた会えるから」

 

 それまでにもっと強くならないと。そう言ってネプギアに向けユニは笑いかけた。

 

「ふふ、健気なものだな。女神ともあろう者が、ただの人間一人に心を乱されるとはな」

 

 不意にそれは現れた。真紅の女神、マジック・ザ・ハード。絶望の体現者だった。

 

 

 

 

 

「貴女は……!?」

 

 不意に現れたマジックに、ノワールとプラネテューヌの女神が驚きの声を上げる。五人の女神の中心に舞い降りたマジックは、ただ泰然と女神を見渡す。真紅の大鎌を携え、小さく嗤っている。五人に囲まれていながら、女神たちを圧倒していた。

 

「久しいな、女神たち。束の間の平穏を堪能する事は出来たか?」

「お陰様で、三年ぶりに自分の国を堪能できましてよ」

 

 女神の一人、緑の女神が優雅に答えた。

 

「まったく、一人倒したと思ったら、厄介な奴が出て来たものね」

「そうね、ネプテューヌ。だけど、私にとっては都合が良いわ」

 

 ネプテューヌと呼ばれた紫の女神の言葉に、ノワールがそう言う。あの子がノワールの言っていた友達か、と少し興味深く見てしまった。プラネテューヌの女神であり、ギアちゃんの姉でもあると言う事だった。二人ならんでマジックを見据える姿は確かに戦友と言うに相応しい。

 

「あれが、あの子の友達か……。それにギアちゃんとユニ君もいる」

 

 呟く、マジックの強襲に教会の上に立つ僕にはまるで気付いた様子が無い。既にプロセッサユニットを展開していた。黒と紅の神の衣を身に纏い、黒と紅の大剣を手にしている。ブレイク・ザ・ハード。それが、犯罪組織の幹部としての名だった。

 

「トリックを倒したようだな。その仇、取らせて貰うぞ」

「アンタはブレイブ!?」

「この人が……、ユニちゃんを倒したって言う。大丈夫だよユニちゃん! ここには私やお姉ちゃんもいるから!!」

 

 マジックを取り囲んでいた女神たちの背後を取る様に、ブレイブが現れる。ユニ君が驚いた声を上げる。ギアちゃんが、ユニ君を気遣うように声を掛ける。それで、少しだけ震えていたユニ君から、緊張がほぐれていた。

 

「ブレイク様、アタイたちは本当に戦わなくてもいいんですか?」

「そうっちゅよ、オイラたちもまだ戦えます」

 

 傍で見ているリンダとワレチューが聞いて来た。トリックと共に戦ったせいか、いたる所に怪我をしている。それが痛々しい。

 

 ――月光聖の祈り

 

「構わないよ。此処はまだ、命を賭ける場所じゃない」

「しかし」

 

 癒しの魔法を掛け、窘める。リンダがなおも食い下がろうとする。

 

「君たちにはこれから先、助けてほしい事がある。だから、今は退いて欲しい」

「ブレイク様」

「アニキ……」

 

 だから、お願いしていた。僕の味方足り得る人は、それほど多くない。だから、こんなところで二人を失いたくは無かった。

 

「解りましたっちゅ」

「アタイも」

「そうか、ありがとう」

 

 頷いてくれた二人に安心する。

 

「だけど、後で教えてくださいよ」

「ん?」

「ブレイク様が戦う理由っちゅよ。ブレイブ様が言ってたっちゅ、アニキだけはおいら達とは違う理由で戦ってるって」

「ブレイブが……。解った、この戦いが終わったら、少し話すよ」

「約束ッちゅ!」

 

 ネズミ君とリンダの二人と、そんな約束を交わす。やられた。マジックとは違いブレイブには警戒していなかった為、まさかこんなところから話す事になるとは思わなかった。

 

「それじゃ、行ってくるよ」

 

 二人にそう告げる。黒と紅の神の力を纏い、舞い降りた。

 

 

 

 

 

「初めまして、女神達」

 

 ブレイブとマジックに女神たちが気を取られているところに舞い降りた。目の前に居るのは紫の女神姉妹だった。ブレイブが黒の女神姉妹と対峙し、マジックは緑の女神と睨み合っている。闘いの相手が、明確に別れていた。ちらりと、黒の姉妹を見る。こちらを気にしているようではあるが、それは僕の正体がばれたと言う訳では無い様だ。新たに表れた敵、ブレイク・ザ・ハード。それに警戒していると言った感じだった。

 

「貴方は……?」

「僕はブレイク・ザ・ハード。女神を壊すものだよ」

 

 プラネテューヌの女神、パープルハートの言葉に淡々と答えていた。この場に居る五人の女神に聞こえるように言った。それは、引き返す事が出来ない始まりだった。

 

「ブレイク。貴方が、ブランやロムちゃんラムちゃん、5pb.を襲ったって言う」

「そうだよ、僕がそのブレイクだ」

 

 黒と紅の大剣をパープルハートに突きつけながら答える。同時に、異界の魂としての魔力を解き放った。その場にいる全員に、圧力を加えていた。

 

「これは、犯罪組織の幹部に力……。成る程、さっきの奴と比べても遜色が無いわ……。厄介な奴が現れたものね」

「どうするの、お姉ちゃん」

「どうするも何も、戦うしかないわよネプギア。こっちが連戦だからって、相手は待ってくれないわ」

「そう、そうだよね、解ったよお姉ちゃん。私も、全力で行きます!」

 

 そう言い、紫の女神姉妹が刃を構えた。小さな笑みが浮かんだ、これで良いんだ。小さく自分に言い聞かせた。

 

「私たちの相手は、ブレイブ・ザ・ハードね」

「うん。お姉ちゃん、悔しいけどコイツは凄く強い。アタシに力を貸して」

「当たり前よ、それで、二人で倒してユウの居場所を聞かなきゃいけないんだから!」

 

 遠くから聞こえる二人の言葉に、少しだけ罪悪感が募る。直ぐ傍に居る、そう言いたいけど、まだ言う訳には行かなかった。

 

「準備は整ったようだな、では、行くぞ!!」

 

 ブレイブの気迫の篭った声が響き渡る。黒の女神姉妹と、ブレイブ、僕の友達同士が刃を重ねようとしている。そうなる様に導いたのは僕だった。三人に心の中で謝罪する。それでも、止まる事は出来なかった。

 

「そろそろ、わたくしたちも始めましょうか。以前の様には行きませんわよ」

「精々抗って見せろ」

 

 緑の女神に、マジックは淡々と言い放つ。マジックは自分が負ける事などあり得ないと言う自信が見て取れた。実際にマジックは強い。だけど、女神達もまた強くなる可能性を秘めていた。

 

「では、行こうか」

 

 左手に魔力を収束させ、言葉を紡ぐ。そのまま紫電を左手に帯電させ、空を駆け紫の女神に肉薄した。

 

「そう簡単に、やらせはしない!」

 

 紫の女神も一直線に向かってくる。それに向け、左手を無造作に振り払った。

 ――天魔・轟雷

 紫電が紫の女神に向かい、雷迅を以て襲い掛かる。

 

「くぅ!」

「え……?」

 

 それでも流石に女神と言うべきか、両手に持つシェアで構築された刀を翻し、パープルハートは雷迅を斬り裂いていた。ギアちゃんが呆然とした声を上げる。顧みず、紫の女神に斬りかかる。

 

「く、はやい……」

 

 完全に弾ききれなかったのだろう、雷による痺れに耐えながらも、パープルハートは斬撃を受け止め続けている。が、

 

「君が遅いんだよ」

「しまっ!?」

 

 それ程打ち合う気は無かった、痺れて力の入らない両手から、刀身で女神の持つ武器を巻き上げる形で上空へ弾き飛ばした。

 

「っ!? ダメ、お姉ちゃんはやらせません!」

 

 呆然と僕を見詰めていたギアちゃんが我に返り、姉との間に割って入る。この子もまた、僕の友達の一人だった。目が合う、困惑の色を宿していた。それはそうだろう。先にはなった紫電、それはこの世界にはない魔法だから。それでも、僕の前に立ちふさがるのは、彼女に確信が無く、姉思いであるからだろう。

 

「音速剣、フォーミュラーエッジ!!」

 

 高速を超える、音速の連撃。無数の斬撃が、僕を、犯罪組織のブレイクを阻むため立ち塞がる。斬撃の壁とも言えるそれは、以前見た時よりも早く正確になっていた。この子もまた、ユニ君と一緒に成長しているのが感じられ、嬉しく思う。だけど、

 ――フォーミュラーエッジ

 

「――っ!?」

 

 今は戦うべき相手だった。だから、一切の手加減も無く、彼女の刃をそれ以上の完成度を以て叩き落とす。刃と刃が音速でぶつかり合い、凄まじい衝撃と斬撃音を響かせる。ギアちゃんがもう一度驚きに目を見開いていた。小さく呟く。

 

「まだ、終わらないよ」

「ま――」

 

 ――エクス・コマンド。

 それは身体能力を底上げする魔法。かつてギアちゃん達にも施した、強化の呪法だった。それを自分に施し、恩恵を得る。そのまま、ギアちゃんの持つ銃剣を打払った。瞬間的に背後に回り、その背に向かって蹴りを放ち、追撃の為刃に魔力を込める。

 

「早々好きにやらせはしないわ!」

「それは、そうだろうね」

 

 風の刃を放とうとしたところで、立て直したパープルハートが踏み込んできていた。即座に反転し、その斬撃を受け止める。火花が散り、ぎりっと刃同士が鈍い音を立てる。

 

「まって、待ってください!」

 

 そんな中、ギアちゃんの言葉だけが届いた。パープルハートが僕を見据えながらも、困惑の色を宿した。

 

「ネプギア?」

「なんで、なんで貴方がその魔法を使えるんですか……。なんで、貴方が私の剣技を使えるんですか……」

 

 そんな姉の言葉に応える事をせず、ギアちゃんは僕に尋ねる。

 

「何故かって?」

「そうです、その魔法はあの人が……、それに剣技だって」

 

 ギアちゃんの問いに、小さく笑う。確信を持てていないようだけど、一つの答えに行き当たったのだろう。ユニ君とノワールを一瞥した。ブレイブが相手で、こちらの会話を気にする程の余裕は無く、空を駆けまわりながら戦っている。

 

「そうだね……、僕に勝てたら教えてあげるよ」

「本当ですか?」

「ああ、本当だよ。君に出来るなら、ね」

「絶対聞き出します。ユニちゃんとノワールさんの為にも」

 

 ギアちゃんの目から困惑の色が消えた。それは、本気で相対すると言う事だった。

 

「ネプギア、どうしたのよ?」

「まだ、確証は無いけどもしかしたらあの人は……。お姉ちゃん、今は言えないけど、力を貸して」

「ええ、解ったわ。良く解らないけど、可愛い妹に頼られたら頑張らなきゃいけないわね」

 

 ギアちゃんとパープルハートが言葉を交わすと、もう一度僕に向き直った。それが、第二ラウンドの始まりだった。

 

 

 

 




プラネテューヌ女神戦開始。

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