例えば、世界がいくつもあったとしよう。
例えば、世界に神がいたとしよう。
例えば、神はとても慈悲深かったとしよう。
例えば、神はとても厳しかったとしよう。
例えば、世界のどこかにとても貧しいところがあるとしよう。
例えば、そこに貧しい少年がいたとしよう。
例えば、その少年はほかの孤児を育てていたとしよう。
例えば、少年は今にも死にそうになりながら孤児たちを育てていたとしよう。
例えば、そんな少年を見兼ねた神がいたとしよう。
例えば、ある日少年のもとに神が舞い降りたとしよう。
例えば、その神が少年にこう問うたとしよう。
「貴様は、貴様たちは何を望む?」
例えば、少年がこう答えたとしよう。
いくつもの世界の、幾人もの少年が、こう答えたとしよう。
「食べ物、食べ物が欲しい。おなかいっぱい食べれるだけの食べ物」
「服、服が欲しい。冬の厳しい寒さにも耐えられる服が」
「お金、お金がほしい。そうすればあの子たちに食料も衣服も買ってあげられる」
「安寧、安寧がほしい。心も体も傷つかなくていいような」
「力、力がほしい。あの子たちを守れる力。この世界を変えられる力」
例えば、その神が少年に救いを与えたとしよう。
例えば、その神が少年に試練を与えたとしよう。
例えば、その答えに神はこう言ったとしよう。
「ならば、貴様が育てているすべての孤児を殺せ。さすれば望みのものをくれてやろう」
「ならば、自らを殺せ。さすれば望みの物をくれてやろう」
「さぁ、どちらでも選ぶがよい」
例えば、 少年は こう答えを出したとしよう。
いくつもの世界の、幾人もの少年が、こう答えを出したとしよう。
「私は私を殺しましょう。そして、どうか、あの子たちに恵みを」
「私はあの子たちを殺しましょう。そしてどうか私に恵みを」
そして、少年は殺したとしよう。
いくつもの世界の、幾人もの少年が、自らを、あの子たちを。
そして、神は恵みを与えたもうた。
とても厳しく、だが、とても慈悲深く。
ある世界では、望むものは何もないと、今のままで十分幸せだと。そう答えた少年がいた。
ある世界では、誰かが死ぬなら、誰かを殺さないといけない恵みなら、私はいらない。そう答えを出した少年がいた。
でも、世界は無数にある。
もしかしたら、神の救いに心を折られ、孤児たちを、そして自分を、一緒に殺したかもしれない。
もしかしたら、神の試練に怒りを覚え、反逆したかもしれない。
もしかしたら、神が少年の前に現れなかった世界もあったかもしれない。
これは、とある世界の、ありえたかもしれない世界のお話。
これは、運の良かった世界のお話。
最後まで読んでいただきありがとうございました。