ハリー・ポッターと野望の少女   作:ウルトラ長男

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(*´ω`*)皆様こんばんわ。
そろそろ賢者の石編の本番に入れそうなウルトラ長男です。

感想版の皆さん、とりあえず横レスや煽りは止めて深呼吸しましょう。


第9話 動き出した悪

 両親との会話を終えたミラベルは2階にある自室へと入り、鍵を閉めた。

 部屋の中は意外にもシンプルで装飾なども比較的大人しい。

 基本派手好きなミラベルではあったが、部屋の内装などはどちらかというと上品さを優先してあまり煌びやかにはならないように気を付けている。

 これはあまり金ピカなどにすると成金のように見えて嫌だという単純な理由からだ。

 だが生来の気質は隠しきれる物ではなく、よく見れば部屋の至る所に目立たない程度に金や宝石が使われていた。

 

「ホルガー、いるか?」

「ここに」

 

 密室の中で己の忠実な従者を呼べば、低い声と共に暖炉の中から声が聞こえてきた。

 煙突飛行であらかじめ中に隠れていたらしい。

 恐らくはミラベルが部屋に戻った後自分を呼ぶだろう、と予測して先回りしていたのだろう。

 呼ばれるのを待っていたように暖炉から飛び出し、ミラベルの前に跪いた。

 

「貴様に頼みたい事がある」

 

 ポケットから紙を出し、ホルガーに投げ渡す。

 そこには様々な薬や魔法生物の身体の一部、入手困難な道具の名前などがズラリと並んでいる。

 中には所有自体が非合法である危険な物も混じっており、それを見たホルガーは目を細めた。

 

「3年半でそのリストに載っている物を全て集めて欲しい」

「……3年半でございますね?」

「そうだ。出来るな?」

 

 “出来るか?”ではなく“出来るな?”というこの問いはホルガーが完遂出来る事前提の言葉だ。

 そしてホルガーもまた主の期待に応えるべく、静かに頷く。

 主がそれを必要だというのなら、どんな物であろうと入手してみせるしどんな無茶難題でも完遂してみせよう。

 それがミラベルという滅茶苦茶な主に仕える彼の誇りだった。

 

「お嬢様、お渡ししたい物がございます」

 

 ホルガーが着ている枕カバーに手を入れ、何かを取り出す。

 それは小さな、ミニチュアのような飾り棚だ。

 一見するとただの玩具にしか見えないが、それが何を意味するのかミラベルには理解出来た。

 いや、出来ないはずがない。元よりそれを入手するよう命じたのはミラベルなのだから。

 

「現存する数少ない一つにございます」

「完璧だ、ホルガー」

「感謝の極み」

 

 それは単品ではただのミニチュア飾り棚でしかないが、ある二つの呪文と併用する事で真価を発揮する。

 それは“レデュシオ”と“エンゴージオ”だ。

 今はこのようなサイズになっているが、これは物体を小さくする呪文、“レデュシオ”によって小さくしているに過ぎない。

 その正体は『姿をくらますキャビネット棚』といい、“離れた場所からの移動が可能な飾り棚”である。

 元々はヴォルデモート全盛期、彼やその配下から逃げる為の非常用手段として重宝されていた品であったが、彼が失墜してより14年経ち、今ではほとんど残っていない。

 使い方は至って単純だ。

 まず物体を誇大させる“エンゴージオ”の呪文を使う事で本物の飾り棚と同じサイズになり、遠距離移動が可能となる。そうすれば後はどこからでも目的地に飛ぶ事が出来る。

 そう、例え“姿現し”などで侵入出来ないようになっているホグワーツ内でさえも。

 そして移動は魔法省が管理している煙突飛行ネットワークなどは一切用いない、飾り棚のみが持つ独自の経路を通って行われる。

 故に足取りを掴まれる恐れもない。

 今となっては限りなく貴重な、世界でもほんの少ししか存在しない代物だ。

 

「しかし、何故そんなものを? そんなのなくてもお嬢様は“姿現しが出来る”のに……」

「確かにその通りだ」

 

 ホグワーツでは姿現しは出来ない……と、思われているが実はそうではない。

 何事にも例外があるように、ホグワーツにも思わぬ穴が存在しているのだ。

 それはあまり知られていないが、ホグワーツが防ぐ姿現しは“人間の使う魔法”に限定される。

 つまり妖精などの人間と異なる魔法を使う者は姿現しで侵入出来てしまうのである。

 そしてミラベルはその屋敷妖精であるホルガーから杖を使わない魔法の使い方……即ち、妖精の魔法を教わっていた。

 つまり、ミラベルは妖精流の魔法を使う事により、ほとんどの包囲をすり抜ける事が可能なのだ。

 

「だが私の妖精魔法は未だ不完全……自分一人ならともかく、他者を連れてはいけん」

「いわば保険、と?」

「そんな所だ」

 

 杖を使わない魔法の使い方はマスターした。

 だが彼女がいかに天才といえどやはり人間である事に変わりはない。

 羽を持たぬ人間が魔法なしで空を飛べないのと同じように、どうしても生物としての限界がそこに存在する。

 いや、本来ならば人間の身で妖精の魔法を会得出来た事そのものが奇跡だったのだ。

 それこそ、ダンブルドアやヴォルデモートでさえ成しえていない程の、だ。

 だが奇跡にも上限は存在していた。

 杖を使わない時のミラベルの姿現しや姿くらましは己一人だけを対象とした不完全なものであるし、悪霊の火や許されざる呪文などの上位魔法も時間をかけねば発動出来ない。

 故に、だからこそミラベルは考えるのだ。

 

 ヴォルデモートに対抗するには、こちらも人間を超越する必要がある、と。

 

*

 

 クリスマス休暇が終わってしばらくは何事もなく日々が過ぎ去った。

 クィディッチでグリフィンドールがハッフルパフを破ったりしたが所詮他寮同士の試合だ。気にするような事ではない。

 相変わらずスネイプはスリザリンを贔屓するし、ミラベルはそれを利用して点数を荒稼ぎしている。

 彼女が稼いだ得点はすでに合計で70点を超えており、そろそろ手に負えない点差になる頃だ。

 禁じられた棚から持ち出した本もすでに返却してある。

 これは実に簡単で図書室内の、適当な場所に置いておくだけで事が済んだ。

 というのも、クリスマス休暇中に閲覧禁止の本棚に侵入した生徒がいたらしく(言うまでもなく我らがハリー・ポッターである)疑いはその『侵入した何者か』に向けられたのだ。

 休暇中、ずっと自宅にいたミラベルには当然疑いなどかかるわけもない。

 

 そんな退屈な日々が何週間も過ぎ、そして突然変化が訪れた。

 ある日の朝廊下に行くと、そこに大勢の生徒達が集って騒ぎ立てていたのだ。

 

「あら? 何かしらね、あれ」

「行ってみるか」

 

 少しばかりの興味を引かれ、イーディスとミラベルもその輪に近付いていく。

 そして近くにいた適当なスリザリン生を捕まえ、話を聞くことにした。

 

「おい、これは何の騒ぎだ?」

「あ、ベレスフォードのお嬢! へへ、吉報ですぜ。

何と、あの有名なハリー・ポッターがグリフィンドールの点数を下げたんですよ! それも150点も!」

 

 「150点!?」とイーディスが驚いている横でミラベルは何だそんな事か、と白けていた。

 そういえばそんなイベントがあったような気がしないでもない。

 確かハリーとハーマイオニー、ネビルの3人が夜中にウロウロして減点を喰らう、というものだったはずだ。

 その原因はハグリッドが法律違反を犯してドラゴンを飼った事にある。

 あの森番は自分の趣味のみを優先して満足に飼えもしないドラゴンを飼育してしまい、結局手に負えなくなってハリーとハーマイオニーが夜中にコッソリ逃がしてやったのだ。

 だがそこをフィルチとマクゴナガルに捕まり、ついでに二人を止めに出ていたネビルすらも巻き込んで3人仲良く50点の減点をされた……と、確かこんな内容だっただろう。

 要するにこの一件の問題は全てハグリッドにあり、むしろハリーやハーマイオニーは被害者と言えるだろう。

 放っておけばハグリッドは法律違反でアズカバン送りになり(元々要領の悪い男だ。隠し通せるわけもない)、学校を立ち去っていたはずだ。

 それを見過ごす事が出来ずにお節介を焼いた結果がこれなのである。

 

「これでグリフィンドールは最下位確定! スリザリンの寮杯獲得も間違いなしですよ、お嬢!」

「……どうかな」

「え?」

 

 興味を失った、とばかりにミラベルはそこを立ち去り、慌ててイーディスが後を追った。

 正直な話、ポッターの減点などどうでもいい事だ。

 そんな事を気にしているくらいならまだ、学年末試験の事でも考えていた方が有意義である。

 しかしこれで、いよいよクィレルが動く時が近づいてきたという事がわかった。

 記憶通りならば学年末試験後の、ダンブルドアがいなくなる一日……そこで奴は勝負をかける。

 唯一の不安は今回の件でハリー達が懲りて何もしなくなってしまう事、だろうか。

 

(今回の減点でポッター達が尻込みしなければいいが……)

 

 実の所、ミラベルは現時点でも賢者の石の前まで到達する事は不可能ではない。

 石を守る三頭犬やその他様々な仕掛けの突破法も覚えているし、鏡の前まで行く事は決して難しくない。

 だがそれだけだ。ミラベルでは絶対に賢者の石は入手出来ない。

 最後の最後、ダンブルドアの仕掛けた鏡こそが何よりも厄介で、これは“石を見付けたい者”だけが石を入手出来るという仕組みなのだ。

 “使いたい者”ではなく、“見付けたい者”……つまり、石を使う事を考えていては絶対に手に入れられないのである。

 そしてミラベルは残念ながら前者の“使いたい者”だ。

 見付けてはいお終い、と手放すくらいなら最初から入手しようなどと思わない。

 そういう意味ではダンブルドアの取ったこの防御策はこの上なく機能していると言えるだろう。

 ミラベルやヴォルデモートのような悪意に染まった者への防御としては素晴らしく効果的だ。

 

 つまり結論から言うと、実は石を護る必要など欠片もないのである。

 ハリーがその場に行かない限り、ヴォルデモートはどう頑張っても石を入手する事など出来ないのだ。

 むしろハリーがそこに行く事でこそミラベルやヴォルデモートが喜ぶのだから何とも皮肉な話である。

 

(……そうだな、少し発破をかけてやるか……)

 

 とにかく、このままハリーに引きこもられてはまずい。

 ならば少しばかり梃入れをしておくべきだろう、と。

 そう判断し、ミラベルは行動を起こす事を決意した。

 

*

 

 150点も減点されたハリー達であったが、彼らの受難はまだ続いた。

 処罰として禁じられた森に行くよう命じられ、夜の11時にハグリッドの小屋前に集合していたのだ。

 森を熟知しているハグリッド同伴とはいえ、危険な事に変わりはない。一歩間違えば危険な生物と遭遇して殺されてしまっても不思議はない、そんな処罰内容だ。

 その事からもいかにこの処罰を考えたフィルチが歪んでいるかわかるだろう。

 

「あそこを見ろ。地面に光った銀色の物が見えるか?

ユニコーンの血だ。何者かに傷付けられたユニコーンがこの森の中にいる。今週になって2回目だ。

皆でかわいそうな奴を見付けるんだ、いいな?」

 

 処罰の内容は禁じられた森のどこかにいるユニコーンを保護する事だ。

 怯えるマルフォイ(彼も夜中に出歩いた一人だ)を何とか説得し、ハリー達は二手に別れて行動を開始した。

 ハリーとハーマイオニーはハグリッドと。マルフォイとネビルはファングという名のハグリッドのペットと同行し、森の中へと進んでいく。

 だがマルフォイとネビルの相性が悪すぎた。マルフォイがネビルを軽い気持ちで驚かした所ネビルがパニックを起こし、緊急を知らせる赤い火花を発射して探索を一時中止させてしまったのだ。これでは見付かる物も見付からない。

 そこで止むを得ずハグリッドはハーマイオニー、ネビルと行動を共にし、ハリーとファングにマルフォイを任せた。

 

 それから30分は経っただろうか。

 ハリーとマルフォイは森の奥で信じられないものを目にした。

 純白に光り輝くユニコーンが死骸となって地面を転がっており、その血を何者かが啜っていたのだ。

 それは頭をフードで覆った、おぞましい何かだ。

 暗闇でよく見えないがその顔はユニコーンの血で染まっており、目だけが暗闇でもギラギラと光っている。

 

「ぎゃああああああ!!」

 

 マルフォイはその姿に恐れをなして一目散に駆け出し、続いてボディガード代わりのはずのファングも逃げ出した。

 後に残されてしまったのは恐怖のあまり身動きが取れなかったハリーのみだ。

 ユニコーンの血を吸っていた影はハリーを見付けると、スルスルと彼に這いよってくる。

 するとどうだろう。その影が近付いてくるごとに額の傷跡が痛み、まるで警報のようにガンガンと頭を貫くではないか。

 そのハリーへ、影が無遠慮に近付いてくる。

 

 10メートル、8メートル、6メートル……。

 

 誰か助けて! ハリーはそう叫ぼうとしたが声が出ない。恐怖と痛みで喉が麻痺してしまっている。

 

 4メートル、3メートル、2メートル……。

 

 そしていよいよ影がハリーの目の前まで近付き……。

 

 

 

「そこまでだ、汚らわしい俗物が」

 

 

 

 鈴の鳴るような声と共に浴びせられたのは、その声に似合わぬ威圧的な罵声。

 そして飛来した、金色の閃光。

 それがフードの何者かに直撃し、バチッ、という甲高い音を伴って彼を弾き、大木へと叩き付けた。

 

「あ……き、君は……」

 

 ハリーは痛みを堪えながら、自らを助けてくれたその声の主を見る。

 木の上に立つそれは、満月を背負った美しい少女だ。

 黄金の髪が月光に照らされて幻想的に輝き、夜でも尚目立つ黄金の瞳は隠しもしない侮蔑を孕んだ目で影を見下している。

 それはハリーの知る限り同学年では最も優秀で最も強く、そして最も危険で恐ろしい人物であった。

 だが、この場においてはその姿がどれほど頼もしく思えたことか……。

 

「ミラベル……ベレスフォード……!」

「災難だったな、ポッター。こんなモノと出くわすとは」

 

 腕を組んだまま、いつもと同じ余裕を感じさせる声でミラベルが話す。

 マルフォイと同じスリザリンの嫌な奴だが、どちらを味方にするか、と問われたらハリーは間違いなくミラベルを選ぶだろう。

 何せ、彼女はマルフォイのように悲鳴をあげて逃げ出す姿が全く想像出来ないのだから。

 こんな得体の知れない何かと相対するならば、いっそハグリッドよりも頼もしいかもしれない。

 

「さて……ここはとりあえず初めまして、とでも言うべきか?」

「…………」

 

 ミラベルの言葉に影は返さない。だがそれが彼女には不満だったようだ。

 一瞬で木の上から影の前に移動するとその首を掴む。

 ハリーには何が起こったのか分からなかった。

 そしてわからなくて当然だ。

 この年齢ではまだ姿現しという魔法すら知らないのが大半であり、しかもミラベルが使っているのは普通とは異なる妖精の姿現しなのだから。

 

「下郎が。このミラベルが挨拶をしてやっているのだぞ?」

「…………ッ!」

「返事を返すのが礼儀というものだろうッ!」

 

 酷い俺様理論を見た!?

 そう呆れ果てるハリーの前でミラベルは影を地面に叩き付け、空いていた手を懐に入れて杖を取り出す。

 それは、杖と呼ぶにはあまりに巨大で太く、何よりも無骨であった。

 一体どうやって懐にそんな物を収納していたというのか……長さ70センチを超えるその規格外の杖を、ミラベルは影の顔目掛けて思い切り振り下ろす!

 

「――ッ!!」

 

 間一髪で逃れた黒フードだったが、ミラベルは攻撃の手を緩めない。

 すぐに杖をフードへと向け、呪文名を唱えた。

 

インセンディオ!(燃えよ)

「アグアメンティ! 水よ!」

 

 ミラベルの放った炎と黒フードの放った水が中央で衝突し、互いを打ち消し合う。

 その魔法の規模は明らかに一年生の放つものではない。

 ハリー達の中で最も魔法の扱いに長けているハーマイオニーですら、まだこんな業火を放つ事は出来ないというのに、すでにミラベルはその域に達してしまっている。

 

「ほう、少しは出来るようだな? ならこれはどうだ! エクスパルソ!(爆破)

「……っ、プロテゴ! 護れ!」

コンフリンゴ!(爆発せよ)

「プロテゴ・トタラム! 万全の護り!」

「そらッ、もう少し速度を上げるぞ! 付いてこれるか!?」

「ぐっ! お、おのれ……!」

 

 ミラベルが次々と杖から魔法を放ち、黒ローブがそれを防ぐ。

 最初のうちこそ呪文名を唱えていたが、やがてミラベルは呪文名すら唱えなくなり無言で、そして凄まじい速度で呪文を連発し始めた。

 するとあっと言う間に黒ローブは防戦一方となり、それどころか防御すら間に合わなくなっていた。

 防御魔法にも限界があるのだろう。彼の出した魔法防壁が軋み、ミラベルの魔法に突破されかけている。

 このままミラベルの攻撃が続けばどちらが勝つかは明らかだ。

 

「ハハハハハハハッ、どうした!? 防戦一方ではないか!」

「ぐっ……クルーシオ! 苦しめ!」

 

 黒ローブの杖からこの戦いが始まって初めての攻撃魔法が放たれる。

 だがその魔法はミラベルに届かない。

 魔法が当たるよりも速くミラベルの姿が掻き消え、突如黒ローブの背後に出現したのだ。

 そして素早く彼の持っていた杖を掠め取る

 

「残念、ハズレだ」

「!?」

 

 突如背後に現れたミラベルに驚き、黒ローブの男が素早く後退する。

 だが杖がミラベルの手に渡ってしまった今、もはやその行動に意味はないだろう。

 魔法使い同士の戦いで杖を奪われるというのは、そのまま敗北に直結する程致命的なものなのだ。

 この時点でほぼ勝利が確約されたミラベルは、冷笑を浮かべながらローブの男へと語る。

 

「さて黒ローブ……一つ面白い魔法を見せてやろう。貴様は直前魔法というものを知っているか?」

「……杖が最後に使った魔法をリピート再生するだけの魔法だ。それがどうした?」

「そう。本来ならばただ立体映像のように魔法の幻影が出てくるだけの魔法。しかし私のは一味違うぞ。

私の使う直前魔法は杖が最後に使った魔法を“本当に繰り返す”のだ」

 

 ミラベルの言葉に黒ローブが息を呑むのをハッキリとハリーは聞いた。

 それは何か、とんでもなく恐ろしい魔法なのだろうか?

 直前に使った魔法を繰り返すだけなど、別に怖いとは思わないのだが。

 そう思うハリーへ、冷笑しながらミラベルが解説を入れる。

 

「ポッター、問題はこの男が先ほど使った魔法にこそある。

あれは磔呪文といってな……相手に死よりも辛い苦痛を与える拷問魔法だ。魔法省は“許されざる呪文”として人に対する使用を固く禁じている」

 

 そこまで聞いてハリーは理解した。

 何故あの黒ローブがあそこまで恐れているのか。

 これから何が行われるのか。それを知ってしまった。

 普通、人としての倫理観があるならばそれは使えない魔法だろう。

 少なくとも一年生の、わずか11歳の少女が使っていい魔法ではない。

 しかしミラベルは一切の躊躇いなく、一片の遠慮すらなく杖を振り上げた。

 

「さあ、豚のような悲鳴をあげろッ!」

「……ッ!」

「プライオア……」

 

 咄嗟に黒ローブが逃げ出すが、それよりもミラベルが呪文を放つ方が速いだろう。

 これが決まれば終わる!

 その決着の瞬間をハリーもミラベルも、そして黒ローブすらも予感した。

 だがそこに水を差すようにガサガサと草を揺らす音が響き、続いて「ハリー!」とハグリッドの大きな声が割り込んだ。

 どうやらファングが逃げ出してきたのを見て駆けつけてくれたらしい。

 その声を聞くとミラベルは舌打ちをし、杖を引っ込めた。

 

「ちっ……これから面白くなる所だったのだが……」

 

 ミラベルが呪文を中断した、その隙を突いて黒ローブは無事に逃げおおせてしまった。

 ハリーが「あ」と声をあげるがもう遅い。

 あっと言う間に夜の闇の中に消えてしまい、後にはミラベルとハリーだけが残される。

 

「逃げたか……私もここは下がるとしよう」

「……あ、あの、ベレスフォード……」

「ポッター、あの影のことについて知りたければ……処罰が終わった後に3階女子トイレまで来い」

 

 どうやら今ここで話す気はないらしい。

 恐らくハグリッドに姿を見られたら面倒な事になる、と思ったのだろう。

 ミラベルは一方的にそれだけ話すとまたしてもその場から霞のように掻き消え、余韻すら残しはしなかった。

 残されたハリーはしばらく呆然としていたが、やがてハグリッドとハーマイオニーが到着し、そこでようやく我に返った。

 そして、彼女の言葉を振り返る。

 

(3階女子トイレ……? まさかベレスフォードは、あの影について何か知っているのか……!?)

 




ケンタウロス「あれ……私の出番……」
ミラベル「大人しく火星でも見てろ」

(*´ω`*)<キサマニフサワシイシニカタガヨウイシテアル
今回は自宅で悪巧み、ハリー減点、ミラベルVSクィレルの3本でお送りしました。
以前「ミラベルは4年間は大人しいよ!」「たまに味方に見えるよ!」「綺麗なミラベルだよ!」と言いましたが、今回それが出ました。
これがこのSSにおける「綺麗なミラベル」ですが、いかがでしたでしょうか?
この危ない所を助けてくれた優しい少女がまさか後々に悪役化するとは、ハリー少年も夢にも思うまい……。

ちなみに気付いたかもしれませんが、魔法を使う際、誰が喋ってるか分かりやすくする為にミラベルだけはルビを使用しております。

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