ハリー・ポッターと野望の少女   作:ウルトラ長男

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エピローグ

 その年の秋は、例年に比べてとても寒い秋であった。

 9月1日の朝は黄金色に染まり、行き交う人々が雲のような白い息を吐いている。

 その中を一つの家族が進み、駅へと向かう。

 眼鏡をかけた父親は額に稲妻型の傷を持ち、ボサボサの黒髪をしている。

 その隣の母はウェーブのかかった栗色の豊かな髪の女性だ。

 カートの上ではヘドウィグのジュニアであるフクロウがホーホーと鳴き、母親似の少女が泣きべそをかきながら父親の腕にしがみついていた。

 

「もうすぐだよ、リリーも行くんだからね」

「2年先だわ、私は今すぐ行きたいの。魔法の本も沢山読んで、一杯予習したわ。

もう私、簡単な魔法なら使えるのよ」

 

 父……ハリー・ポッターの言葉に娘は反発するように口を尖らせる。

 その様子を見てハーマイオニーはクスリと笑った。

 なんとも、自分の若い頃に随分似てしまったものだ。

 自分もホグワーツに初めて行く時はああしてはしゃいでいたのを思い出す。

 駅まで付くと、そこにはネビルとルーナのロングボトム夫妻やリーマスとニンファドーラのルーピン夫妻の姿が見えた。

 どうやら彼等も息子、あるいは娘の見送りに来ているらしい。

 

「夢みたいだ」

 

 ハリーが懐かしむように呟き、ハーマイオニーが少しだけ遠くを見るように目を細めた。

 

「こうして息子達をホグワーツに送り出せる日が来るなんて、あの時は思いもしなかった」

 

 ハリーの脳裏には、今でもあの悪夢の一日が刻み込まれている。

 魔法界を滅ぼしたあの決戦が、昨日のように思い出される。

 

 あの時――イーディスがミラベルを逆転時計で連れて行った後。

 隕石は、止まらなかった。

 ミラベルを止めるのがあまりに遅すぎたのだ。

 ハリーは今までに幾度も死を覚悟した事があるが、あの時ほど死を身近に感じた事はない。

 もう駄目だ、とハリーのみならずその場の誰もが強く感じた事だろう。

 

 しかし一体如何なる奇跡か、世界は滅びなかった。

 確かに大気圏を越えたはずの流星は、まるで冗談のように空へ向かって飛び立ち、再び大気圏の外へ出て行ってしまったのだ。

 ダンブルドアが推測するには誰かがアクシオの対極呪文である『デパルソ』で隕石を押し返したのではないか、との事だが……そんな事が出来る魔法使いはハリーの知る限り一人もいない。

 あのミラベルすら不可能だろう。

 もっとも、あの進化する怪物なら数年の時間を与えれば可能になるかもしれないが……。

 

 世界は救われた。

 しかしそれで魔法界が救われたわけではない。

 魔法の事を知ってしまったマグルとの確執や、ミラベルに心酔していた者達との衝突。

 時には小競り合いを通り越した紛争にまで発展し、多くの血が流れた。

 ダンブルドアを始めとする教師陣や騎士団の面々が日夜駆け回って事態の収束に務めるもそう簡単にはいかず、一時魔法界はその機能を完全に停止してしまった。

 ホグワーツも閉校となり、もはやイギリス魔法界は魔法界として成立しなくなってしまったのだ。

 

 ――天秤は戻らない。

 

 結局、破滅の予言を覆す事は不可能だった。

 だがこれを何とかしたのもまたダンブルドアだ。

 破滅を覆す事は出来ない。だがその後の事は予言に記されていないのだ。

 ならば一度運命に従ってしまうのも手、と考えた彼はあえて魔法界を閉鎖し、イギリス魔法界の終焉を宣言した。

 つまりは、イギリス魔法界の破滅である。

 そうして予言を成就させてから、新たな出発として新イギリス魔法界と名を変えて魔法界を再スタートさせる事に成功したのである。

 まるで屁理屈だ、とハリーは思ったが確かに予言は成就している。

 何とも、食わせ者の老人であった。

 ……もっとも、ダンブルドア曰く『妙に上手く事が運んだ』との事で彼自身も不思議に思うほど立て直しがスムーズに進んだらしい。

 まるで誰かが裏で協力してくれたかのようだ、と不思議そうに語っていた。

 

 あの戦いで失われた者はあまりに多い。

 ハリーの知る人々も何人かは帰らぬ人となり、その事実が胸を締め付ける。

 もう何処に行ってもパーシー・ウィーズリーとは会えない。

 タフで頼りがいのあるマッドアイも、ハゲ頭のキングズリーももういない。

 トンクスとネビルはかろうじて命を繋いだが、それすら後少し治療が遅かったら失われていただろう。

 また、ダンブルドアは腕を治せるはずなのに今でも隻腕だ。

 彼なりに思う所があるのかもしれない。

 

 それらの過去を振り返り、改めてハリーは今が夢のようだと思った。

 もう二度とホグワーツに向かう汽車を見る事など出来ないと思っていた。

 こうして息子達を送り出す事など出来ないと嘆いていた。

 だからこそ、今ここにある幸福に心から感謝していた。

 

「見て、あそこにいるのロンよ」

 

 ハーマイオニーに声をかけられ、意識が過去から今へと戻る。

 言われた通りに前を見れば、確かにそこには以前から一層逞しくなったロン・ウィーズリーの姿が見えた。

 マグルのスーツをビシッと着こなしており、サングラスをかけたその佇まいには隙がない。

 更にその向かい側にはマルフォイがおり、その頭部は今や完全に禿げ上がって眩しく輝いている。

 隣にいる息子はまるで若き日のマルフォイの生き写しで、偉そうにふんぞり返っていた。

 

 皆変わった。

 だがそれこそ人というものなのかもしれない。

 変わらない者などいない。皆、いつかは変わって行くのだ。

 

「ねえお父さん。僕、スリザリンだったらどうしよう?」

 

 小さな頃のハリーに生き写しの、セブルス・ポッターが心配そうに言う。

 スリザリンはあまりいい印象を聞かない。

 多くの闇の魔法使いがスリザリン出身と聞くし、かつて『例のあの人』と呼ばれたヴォルデモート卿もスリザリン生だった。

 何より、一度世界を滅ぼしかけた『暴帝』ミラベル・ベレスフォードもそこ出身だというのだ。

 しかしそんな息子に、ハリーは優しく語る。

 

「セブルス・アラスター」

 

 それは息子に付けた、勇気の名前だ。

 自分の知る限り最も勇敢な男と、最も頼りになる男。

 その二人からもらった名前である。

 

「お前は僕の知る二人の偉大な魔法使いから名前をもらっている。

そのうちの一人はスリザリン生で、父さんの知る限り最も勇気ある人だった。

それに……」

 

 ハリーは今度は娘の頭を撫で、語る。

 

「リリー・イーディス・ポッター。

こっちは父さんの友達からもらった名前で、誰よりも優しい人だった。

スリザリンである事は決して恥じるべき事じゃない。それを恥と思う心と、馬鹿にする人間こそが恥なんだ。

父さんはその事に気付くのに、何年も費やしてしまった」

「だけど、もしも……」

「もしそうなったら、スリザリンは素晴らしい生徒を一人獲得したという事だ。

だけど、もしそれがお前にとって大事な事ならお前はスリザリンではなくグリフィンドールを選べる。

組み分け帽子はお前がどっちに入るかを考慮してくれるよ」

 

 グリフィンドールかスリザリンか。

 昔はそんな事に拘り、随分偏見を持って接していた。

 スリザリンというだけで敵視し、悪いイメージも持った。

 だが今になって分かる事がある。

 人間の価値はどの寮に入るかなどで決まらない。

 どの寮でも、その人だけの素晴らしい部分が必ずあるのだ。

 

「さあ、お行き。皆が待ってる」

「うん!」

 

 息子を送り出し、彼を乗せた汽車を見送る。

 それはまるで子供の頃の自分達のようで、何だか無性に懐かしくなった。

 子供達の出発を見届けたハリーは駅から出てマグルの世界に戻り、ハーマイオニーと共に歩く。

 

 だがその時、彼は確かに見た。

 反対側の道路を歩く、3人の少女を。

 白銀の髪をなびかせた少女と、茶色の髪をショートカットにした友人。

 そして何よりも見間違えるはずのない、金色の少女を。

 その後には一人の男と、一匹の屋敷妖精が続いている。

 

「――!」

「ハリー!?」

 

 ハリーは思わず走り出し、信号が青になってないのも無視して道路を突っ切る。

 そして反対側の道路に躍り出たが、すでにそこに彼女達の姿はなかった。

 ……幻だったのだろうか?

 いや、あんな幻があってたまるか。彼女は確かに今、ここにいたのだ。

 

「ハリー、一体どうしたの!? いきなり道路を渡るなんて危ないじゃない!」

「……ベレスフォードだ」

「え?」

「ミラベル・ベレスフォードがいた。それに、イーディスも……」

 

 一瞬だった。

 だが間違いない。確かに彼女達はここにいた。

 

「生きていたんだ」

「そう……それで、貴方は今どんな気持ちなの?」

「……わからない。

色々と、複雑だからね……」

 

 ミラベル・ベレスフォードは生きている。

 生きて、この同じ時代に存在している。

 それをどう思っているのか、ハリー自身にも分からなかった。

 怖いのは間違いないだろう。

 だがその反面、イーディスが生きている事に嬉しさも感じていた。

 

「でも、それならどうしてイーディスは会ってくれないのかしら」

「さあね、向こうも複雑なんだろう」

 

 ハリーは穏やかな顔でそう言い、額の傷跡に触れる。

 傷はこの19年間一度も痛まなかった。

 だが、頭痛の種は増えそうだ。

 

 

 

 

 

「ねえ、皆に会わないの?」

「貴様一人で会えばいいだろう。私が今更顔を出せるか」

「全く、相変わらず素直じゃないんですねえ……」

 

 

 少女達は雑踏の中に紛れ、消えて行く。

 向かうその先は、明るい光で満ちていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――グリフィンドールに入るなら、

勇気ある者が住まう寮。

勇猛果敢な騎士道で。

ほかとは違うグリフィンドール。

 

 

 

――ハッフルパフに入るなら、

君は正しく忠実で。

忍耐強く真実で、

苦労を苦労と思わない。

 

 

 

――古き賢きレイブンクロー。

君に意欲があるならば、

機知と学びの友人を、

必ずここで得るだろう。

 

 

 

――どんな手段を使っても、

目的遂げる狡猾さ。

スリザリンではもしかして――。

 

 

 

 ――君はまことの友を得る。

 

 

 




というわけで皆様、今までありがとうございました。
これにてハリー・ポッターと野望の少女は完結となります。
かなり賛否両論なSSだったとは思いますが、こうして無事完結させる事が出来たのも皆様のおかげです。
この後の展開についてはぶっちゃけ何も考えていないので、各自の想像にお任せするとしましょう。
とりあえず、各キャラについての軽い捕捉説明でも入れて締めくくらせて頂きます。

・ハリー・ポッター
ホグワーツ決戦後、ダンブルドアと共に魔法界の立て直しに奔走する。
その後ハーマイオニーと結婚し、3子を授かる。
新たに設立された新魔法省に闇払いとして就職し、今では闇払い局長。
性格は若い頃の猪突猛進ぶりが薄れ、かなり落ち着いた模様。

・ハーマイオニー・グレンジャー
決戦後にハリーと結婚し、ハーマイオニー・ポッターとなる。
夫同様新魔法省に就職し、魔法界を建て直すのに奔走。
その能力を余す所なく発揮し、次期魔法大臣に最も近いとまで言われるように。
性格は若い頃からあまり変わっていないらしい。

・ロナルド・ウィーズリー
魔法省に就職し、それと同時にマグルの政治にも関わる。
何故かネビルのカエルと仲がいい。

・アルバス・ダンブルドア
魔法界の立て直しに最も貢献した男。
しかしその立て直しは余りにもスムーズに進んだ為、彼自身疑問に思っている。
今は魔法大臣だが、年齢的に限界なので早く後任にバトンタッチしたいのが本音。

・ネビル・ロングボトム。
決戦後に生死の境をさ迷うが生存。ルーナと結婚しホグワーツの薬草学教師となる。
尚、トレバーは今でもよく行方不明になるらしい。

・シリウス・ブラック
決戦後ハリーと共に暮らすも、彼は結婚と同時に出て行ってしまった為結局3年しか一緒に暮らせなかった。
ハリーがいなくなった後も親馬鹿ぶりを発揮してよくハリーに会いに来る。
ルーピン曰く「子離れ出来ていない」

・リーマス・ルーピン
決戦後にトンクスと結婚。
皮肉にも魔法界が一度壊れた事で人狼の彼でも就職先に困らず、今では魔法省で人間とその他の生き物の間にある壁を取り除こうと奮闘中。

・ウィーズリーブラザーズ
念願の店を立ち上げ、大繁盛している模様。
時々パーシーの墓参りをする姿が目撃されている。

・セドリック・ディゴリー
クィディッチプロに就職。ビクトール・クラムとはよきライバル。

・ビクトール・クラム
今でも現役トッププロ。独身。

・フラー・デラクール
ビル・ウィーズリーと結婚し幸せな家庭を築く。

・リータ・スキータ
呪いの爪は“誰か”に解除してもらえた模様。
今では真実を報道する綺麗なマスコミ。
何故か爪を真っ青に塗る癖がある。

・ドラコ・マルフォイ
ストレスで剥げた。フォーイ。



・ミラベル・ベレスフォード
不明。

・イーディス・ライナグル
不明。

・レティス・ヴァレンタイン
不明

・クィリナス・クィレル
不明

・ホルガー
不明


とまあ、他にもキャラはいますが大体メインはこんなところでしょうか。
あんまりグダグダ長くしても仕方ないのでここらで終わりにしましょう。
それでは皆様、今までありがとうございました。
また機会があれば、どこかでお会いしましょう。

(0|0)ノシ。oO(今更ながら最後が味気なかった気がしてコッソリ加筆。
尚、スリザリンの歌は微妙に原作と組み換えてたり)

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