ハリー・ポッターと野望の少女   作:ウルトラ長男

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第60話 暴露

 アルバニア郊外にあるベレスフォード邸。

 そのリビングでメーヴィスは杖を振り、テーブルの上に紅茶を出していた。

 普段は屋敷妖精などにやらせるはずのそれを、何故屋敷の主である彼女がやるのかは不明だ。

 あるいは、滅多に訪れぬこの来客へのせめてもの誠意なのだろうか。

 紅茶を出された相手――アルバス・ダンブルドアは朗らかに笑いながらカップに口を付ける。

 

「それで、本日はどのようなご用件でしょうか?」

 

 正直なところ、メーヴィスは今は誰とも会いたくない気分であった。

 夫と長男が死に、娘と末弟が行方不明。

 こんな事態になって平静でいられる人間の方が少ない。

 ダンブルドアはそれを知ってか知らずか、いつも通りの落ち着き払った様子で話す。

 

「うむ、実はのう……わしは今、君の娘、ミラベルの過去を調べておるのじゃ」

「……何の為に?」

「彼女の、恐ろしい企てを防ぐ為じゃ」

 

 いきなりの直球だ。

 これは、言葉にこそしていないものの、「貴女の娘は私が警戒するほどの事をやっています」と言っているに等しい。

 その事にメーヴィスの眉が上がり、あからさまに不機嫌になる。

 

「まあ、それはそれは……私が信じるとでも?」

「無論、わしはそう思っておる」

 

 メーヴィスは娘を愛している。

 それ故にこんな話をすぐには信じない、と普通は思うだろう。

 しかしダンブルドアは、すでにメーヴィスが答えに辿り着いていると判断していた。

 

「去年貴女の夫であるヒースコートさんを襲った――あー、悪く思わんで下され――悲劇についてじゃが、これについてわしらの見解は一致しておるとわしは確信している」

「……夫は、ただの病気ですわ。あるいは『例のあの人』の手下に何かされたか……」

「勿論、貴女は最初そう思った事じゃろう。

しかし娘が突然いなくなり、また家の屋敷妖精達や使用人がいなくなった事で別の確信を抱いたはずじゃ」

 

 ダンブルドアの指摘にメーヴィスの肩が揺れる。

 言い逃れの出来ない事だ。

 彼女は普段ならば屋敷妖精にやらせている事を、今日に限って自分でやっていた。

 それはダンブルドアへの誠意などではなく、自分でやるしかなかったからだ。

 そう……この屋敷には今、使用人や妖精が一人もいない状態なのだ。

 

 娘であるミラベルが行方不明になり、それと同時にまるで示し合わせたかのようにシドニーと使用人達も消え、役目を終えたかのようにヒースコートとサイモンが死んだ。

 こうなれば流石のメーヴィスもこれらの出来事が連なっている事に気付かないわけにはいかない。

 何せ彼女もまたベレスフォードの苛烈さを知る存在であり、その妻なのだ。

 ならばヒースコートの血を引く娘がそういう行動に出かねない危険さを孕んでいた事くらい、誰よりも知っていたはずだ。

 故に彼女は結論に達してしまう。

 ――自分達は、娘に捨てられたのだ、と。

 

「あ、貴方は……貴方は、あの子が夫やサイモンを殺した、と思っているのですか?」

「悲しい事じゃが」

 

 紅茶を一口飲み、無情にダンブルドアは告げる。

 今更事実の確認をしたいわけではない。

 この事実を飲み込み、その次へと会話を進めたいのだ。

 

「あの少女は昨年、魔法省で多くの死喰い人と闇払いを殺め、ファッジすら殺した」

「…………っ」

「特にファッジを殺める時は尋常ではなかった。まるで探し求めた獲物を見付けたかのように、憎悪を露にして飛びかかったのじゃ」

 

 コーネリウス・ファッジ……前任の魔法省首相にして、魔法界を腐敗させた男。

 彼へのミラベルの怒りは、彼女の主張を見れば納得出来る話ではある。

 無能を排除すると豪語するあの少女にとって、まさにファッジは潰すべき人間の代表格のような存在だろう。

 だが果たしてあそこまでの怒りを露にする程のものか?

 言い方は悪いが、あれ以上に無能な男など今までにもいた。

 例えば、ギルデロイ・ロックハートなどがそれだ。

 それらに対し、怒りを露見させなかったミラベルがあそこまで憎悪を見せたのは、本当に無能というだけの理由か?

 

「わしは、貴女ならばその理由を知っていると考えた。

そして恐らく、それこそがあの少女をあそこまで歪めてしまった原因じゃろうとも思っておる」

 

 メーヴィスは答えない。

 口を噤み、何かに耐えるように肩を震わせている。

 それを見てダンブルドアは、いよいよ自分の推測が正しい事を確信した。

 間違いない……この女は知っている……。

 ミラベルの内に潜む憎悪の炎、その出所を……。

 

「……帰って、下さい」

「……ミセス・メーヴィス」

「お話出来る事は、何もありません……」

 

 しくじったか?

 ダンブルドアは少しばかり内心で焦り、何とか会話を続けようと言葉を探す。

 

「そう言わずに、紅茶を飲み終えるまででも話さぬかね?」

「何も、話す事はありません」

 

 ダンブルドアはわずかに皺を寄せ、己の迂闊さに舌打ちしたくなった。

 どうやら、少し性急に踏み込みすぎたらしい。

 らしくもなく焦ってしまい、メーヴィスの心の余裕を測り間違えた。

 恐らくこう意固地になられては如何なる説得も右から左……まるで意味を成さない。

 どうやら、今日はここまでにしておいた方がよさそうだ。

 

「……また来よう」

 

 飲みかけの紅茶をそのままに、ダンブルドアは席を立つ。

 次辺りは紅茶に何か盛られそうな気がしないでもないので、蜂蜜酒でも持参した方がいいだろう。

 何はともあれ、時間はあまり残されていない。

 何とか次か、その次くらいには彼女から記憶を引き出したい所だが……全く、ままならぬものだ。

 

 

*

 

 

「終わった……何もかも終わった……」

「……イーディス、貴女一体何やったの」

 

 図書館で、打ちひしがれたようにぶつぶつ呟くマルフォイを見て、ハーマイオニーが呆れたように言う。

 今までにも何度かマルフォイが落ち込んだり、ミラベルに落ち込まされたりしたところを見てきたがここまで重症なのは始めてだ。

 何せハーマイオニーとハリーが近くにいる事すら気にせず絶望しているのだから相当だろう。

 

「あの……何か彼の計画を根本から台無しにしちゃったみたいで」

「どうせロクな計画じゃなかったんだろう? イーディスが気にする必要なんてないよ」

 

 バツが悪そうに話すイーディスへ、ハリーが強い語気で言う。

 マルフォイが考えた計画など一度としてよかった試しがない。

 だから今回も悪いに決まっている。

 そう断定する彼の考えは偏見であったが、しかし悲しい事に事実でもあった。

 マルフォイは全ての計画が瓦解したヤケクソからか、叫ぶように言う。

 

「ああそうさ! 『選ばれし者』のポッターにはわからないだろうよ、僕の苦労なんか!

ダンブルドアを殺さなければならない僕の苦しみなんか、誰にもわかるはずない!」

「何だって……じゃあやっぱり、お前はダンブルドアを殺そうとしていたのか!」

「そうだよ! そうしなければならないって『あの人』に命じられた!

僕はそれを成し遂げないといけなかったんだ! なのに……なのに、そこの裏切り者があ!」

 

 裏切り者も何も最初からイーディスはマルフォイの味方などした覚えはない。

 しかしヤケクソを起こし眼が曇ったマルフォイにそんな説明をしたところで意味はないだろう。

 彼は狂ったようにわめき、杖を出そうとする。

 だが悲しいかな、杖はすでにイーディスによって取り上げられた後だった。

 ならば、と殴りかかろうとするもハリーの武装解除魔法が直撃し、無様に床を転がる。

 

「聞いたかハーマイオニー! やっぱり僕の思った通りだった!」

「え、ええ……でも、ちょっと待って。それならマルフォイ……まさか、ケイティとロンの件も貴方の仕業だったの?」

 

 見たか、といわんばかりのハリーから視線を外しつつハーマイオニーが遠慮がちに尋ねる。

 するとマルフォイは、どうせ全てが破綻して捨て鉢になっているのか、ペラペラと語り始めた。

 

「ああそうさ。呪いのネックレスはマダム・ロスメルタに『服従の呪文』をかけてあの女に渡すよう指示した。

毒入りの蜂蜜酒もロスメルタにやらせた」

「で、でも、どうやってやり取りをしたの? 学校に出入りする通信手段は全て監視されていたのに」

 

 どうやって外と連絡を取り合ったのか。

 そのハーマイオニーの疑問に、マルフォイは嘲るように鼻で嗤う。

 

「はんっ、両方ともお前からヒントを得たんだよ『穢れた血』め!

僕はコインに魔法をかけたのさ。一枚は僕が持ち、それでいつでも命令出来た」

 

 それは、去年のDA軍団の連絡手段としてハーマイオニーが思い付いたやり方だった。

 自分のアイデアがそんな悪事に使われるなど思ってもいなかったのか、ハーマイオニーは酷く傷ついたような顔をし、マルフォイが嫌味ったらしく笑う。

 

「毒を入れるアイデアもお前からだ。図書室でお前がフィルチは毒物を見付けられないと話しているのを聞いた。

ざまあみろ、穢れた血め! そうさ、全部お前のアイデアだ! 僕のアイデアじゃない!

血を裏切る馬鹿のウィーズリーもケイティ・ベルもお前が殺しかけたんだ!」

「……ッ」

「あーあ、泣くのかい? 全く嫌だねえ、人間こうなっちゃ終わりだよ!

泣きたいのは僕のほうだっての……お前達みたいな『穢れた血』がいるから――」

 

 マルフォイの暴言が続いたのは、そこまでだった。

 ハーマイオニーの心を抉るその汚い罵りに、当の本人より先にハリーが限界を迎えたのだ。

 気付けば彼は固く握った拳をマルフォイの顔面に叩きこんでおり、彼の鼻と前歯をへし折って床に叩き付けていた。

 

「黙れマルフォイ!」

 

 床に倒れたマルフォイにハリーが馬乗りになり、力の限り殴りまくる。

 マルフォイも抵抗しようとするがハリーは止まらない。

 そもそもからして、潜った修羅場の数が違うのだ。

 1年の時から幾度となく命の危険に晒され、磔呪文すら浴びた事があるハリーと、常に手下に守られてぬくぬくと過ごしてきたマルフォイ。

 その体格は互角だったとしても、痛みに対する耐性がまるで違う。

 加えて言うとハリーとハーマイオニーはかなり親しく、もはや恋人関係と言っても過言ではない程に接近していた。

 その彼女を侮辱された怒りも加わって、今のハリーはまさしく怒れる獣と化していたのだ。

 

「わかってるのかよ!? お前のせいで二人は死にかけたんだぞ!

ケイティもロンも運がよかっただけだ! それをわかってるのかよ!?

なのに悔いもせずヘラヘラヘラヘラ笑って! 命を何だと思ってるんだ!」

 

 殴る、殴る、殴る!

 前歯がへし折れ、鼻血が飛び散り、マルフォイの抵抗が止んでもハリーは止まらない。

 顔が血に染まり、殴っている腕の方が痛もうが知った事か。

 どうせこんな傷はマダム・ポンフリーの所にいけば何事もなかったように完治するのだ。

 だが一度失われた命は戻って来ない。失った家族はどんな方法を以てしても取り戻せないのだ。

 こいつはそれをやろうとした! 家族を失う痛みを、ケイティの家族やウィーズリー家に味合わせようとした!

 許せない……許してはならない! 許されてはならない!

 

「仲間の為にハーマイオニーが考えた事を、薄汚い事に使って!

お前みたいのがいるから、悲しむ人はいなくならないんだよ!

歯ァ食い縛れ! 今日という今日はその腐った根性叩きなおしてやるッ!」

「う、うるさい……うるさい、うるさい、うるさいッ!

僕だって、こんな事やりたかったわけじゃない!!」

 

 マルフォイが涙を浮べながらも拳を突き出し、ハリーの顔に当てる。

 ああ、こいつの言っている事は正しいだろう。紛れも無い正論だろう。

 だが、ならば自分はどうすればよかったのだ!?

 父と母を人質に取られ、こうする以外にどう動けばよかったのだ!?

 そんな悔しさから夢中でハリーを殴り、殴った分だけ殴り返される。

 二人は床を何度も転がり、互いに怒りの赴くままに拳をぶつけ合った。

 

「やめなさい! やめなさい! これは何の騒ぎですか!?」

「ポッターやめなさい! 何をしているのですか!?」

 

 流石に図書館で喧嘩などすれば目立って同然だろう。

 騒ぎを聞き付けてきたマダム・ピンスとマクゴナガルの声が聞こえるが、それでもハリーは殴るのをやめない。

 こんな痛みが何だというのだ。この馬鹿にはもっと徹底的に痛みを刻み込んでやるべきだ。

 これですら、家族や友達に二度と会えない痛みと比べれば蚊のようなものだ。

 

「やめなさい! やめろと言っているのです、ポッター!」

 

 マクゴナガルの怒声と共に、魔法で弾かれたのを感じる。

 ハリーが痛みを堪えて起き上がると、怒ったようにこちらを見下ろすマクゴナガルとマダム・ピンス。オロオロしているハーマイオニーにイーディス、そして蹲ってヒンヒン泣いているマルフォイが見えた。

 

「一体これは何事ですかポッター! 一方的に相手を殴るなど、あるまじき事です!」

「これでも、足りないくらいですよマクゴナガル先生……そいつは、ケイティとロンを殺しかけたんだ」

「なん、ですって?」

 

 怒りで顔を赤くしていたマクゴナガルだが、怒りも冷めやらぬハリーの言葉によって逆に驚愕させられてしまった。

 その彼女へとハリーは叩き付けるように言う。

 

「今しがたマルフォイが白状しました。そいつはマダム・ロスメルタに服従の呪文をかけてケイティに呪いのネックレスを渡し、スラグホーン先生に毒入りの蜂蜜酒を送ったと!」

「な、なんと……それは由々しき告発です、ポッター! しょ、証拠はあるのですか?」

 

 証拠、と聞いてハリーがすぐに思い出したのは先程のマルフォイの言葉だ。

 彼はすぐにマルフォイに掴みかかり、彼のズボンのポケットに手を入れて中を探る。

 すると……あった! 指の先にコインの感触を感じる!

 ハリーは即座にそれを取り上げ、そして一瞥した後マクゴナガルに見せる。

 

「このコインを調べて下さい! それには魔法がかかっていてマダム・ロスメルタと連絡が取れます!

それに8階の『必要の部屋』にはこいつがダンブルドアを殺そうと修理していたキャビネット棚の残骸が残ってる!」

「か、貸しなさい!」

 

 ハリーの差し出したコインを震える手でマクゴナガルが握る。

 それからしばらく調べ、杖の先で数回叩いた。

 するとコインの向こうから確かに『何かご用でしょうかマルフォイ様』とロスメルタの声がするではないか。

 一転してマクゴナガルは厳しい顔つきになり、マルフォイを見下ろす。

 

「これは……これは、とんでもない事ですよ、マルフォイ……。

貴方は『服従の呪文』を人に使うという事が、何を意味するのか分かっているのですか?」

 

 先程までも怒りを見せていたが、今の怒りは種類が違う。

 言うならば先程までの怒りは、悪さをした子供を叱る母親の怒りであった。

 どんなに激怒しているように見えても、そこには一定の優しさが残されていた。

 しかし今マクゴナガルの顔にあるのは、本物の怒りだ。

 だがマルフォイはヒンヒン泣くだけで満足に答える事も出来ない。

 

「とにかく、すぐにロスメルタにかかっている呪文を外しましょう。

それから、ダンブルドア先生にもお知らせしなければなりません。

ハリー、グレンジャー、それからライナグル! 貴方達も私と一緒に校長室へ来なさい!」

 

 

*

 

 

「誰か……誰かあいつを止めろ!」

「む、無理です、止まりません! 盗人落としの滝も突破されました!」

「ドラゴンは何をしている!?」

「ドラゴンは懐柔されました! 敵の命令に従って動いております!」

 

 グリンゴッツの銀行はその日、大混乱であった。

 魔法界で2番目に安全と言われるその場所は、今までにも確かに何度か盗人が入った事はある。

 非常に不名誉ながら、盗みを成功させた罪人がいるのも否定出来ない事実だ。

 だが、未だかつてこんな方法で……正面からの押し入りで突破しようとした馬鹿はいない!

 

「警備のトロールはどうした!」

「ぜ、全滅しました!」

「全滅!? 38匹のトロールがか!?」

 

 それは過去類を見ないほどに大味で、そして史上例を見ない程に凶悪であった。

 突如銀行に攻め込んだ少女……ミラベル・ベレスフォードは立ちはだかるゴブリンを蹴散らし、トロールを壊滅させ、頑強な扉を破壊し、ドラゴンを手懐け、力ずくで奥へ奥へと踏み込んだのだ。

 いかなる罠も防御も呪いも彼女には通じない。

 呪いのかかった道を我が物顔で進み、防護のかかった壁を砕き、罠で全身に炎を受けても動じない。残念ながら、この不死身の怪物を止める手段はこの銀行に存在していなかった。

 

 勿論、穏便に済ます手はあっただろう。

 服従の呪文とクィレルのトロール使いの才能を使えば、荒波を立てずに盗みに入り、気付かれずに目的地に入る事は出来ただろう。

 しかしミラベルは己の力に絶大な自信を持ち、今の己ならばグリンゴッツ程度わけもないと判断した。

 ゴブリン如きを相手にコソコソと隠れるような手段を好ましいとは思わなかった。

 故に取った手段が、この歴史上でも類を見ない程馬鹿げた、正面からの銀行強盗!

 止めれるものなら止めてみろと言わんばかりの、大胆不敵な力押しだったのだ!

 

「と、止めろ! グリンゴッツの名誉にかけてこの先にいかせるな!」

 

 魔法で動く警備ゴーレムが数十体、ゴブリンの命令で一斉にミラベルへと突貫する。

 だがミラベルの余裕は崩れない。

 悪魔の笑みを浮べたままゴーレムを砕き、切り裂き、消し飛ばし、瞬く間に蹂躙する。

 最後に地面を殴ると、彼女を中心として全包囲に渡る爆発が起こり、全てのゴーレムが吹き飛んでしまった。

 

「あ、あわわわわ……」

 

 炎上する銀行。舞い散る破片。

 あまりに現実離れした光景に腰を抜かすゴブリンの前で、炎の中から何事もなかったかのように悪魔が現れる。

 炎の照り返しを受けながらも傷一つない美貌は己の力への陶酔感に歪み、万物全てを見下すように嘲笑っている。

 

「おい貴様」

「は、はいっ!」

「選べ。ここで死ぬか、服従するか」

 

 ミラベルから与えられた二択に、ゴブリンは迷う事なく平伏した。

 本能で分かる。こいつは逆らってはならない怪物だ。自分では絶対に勝てない化け物だ。

 そう理解してしまえば、プライドなど無いに等しかった。

 そのゴブリンの首根っこを掴み、ミラベルは更に先へ先へと歩を進める。

 やがて目的地であるマルフォイ家の金庫前に到達すると、特殊な魔法で防御されているその扉を、強大な魔力にモノを言わせて吹き飛ばした。

 ただの鉄屑となった扉を踏み越え、悪魔はとうとう金庫の中へと侵入する。

 

「……ふん。手こずらせてくれたな」

 

 ミラベルは宝の山の中から迷わず一つのカップを拾い上げる。

 これぞヴォルデモートが部下に託していた彼の分霊箱、ヘルガ・ハッフルパフのカップだ。

 本来ならレストレンジ家の金庫にあったはずのそれだが、昨年ミラベルがレストレンジ家を皆殺しにしてしまった事で急遽マルフォイ家に移されたのだ。

 だが皮肉な事にその動きがミラベルの興味を惹いた。

 レストレンジからマルフォイ……死喰い人の中でもトップに位置する家同士での金庫内の物品移動。

 これは何かある、と踏んだミラベルは更に死喰い人を数人捕らえて拷問・殺害し、ここにヴォルデモートの重要な何かが隠されている事を突き止めてしまったのだ。

 

「いくら金庫に隠しているとはいえ……随分温い守りだな」

 

 カップには呪いがかかっていた。

 といっても大したものではない。

 触れた物全てを焼く『燃焼の呪い』と無数に増える『双子の呪い』だ。

 しかし化物であるミラベルの手を焼くには火力が足りず、本物を手にしているのだからいくら偽者が増えようと関係ない。

 本来なら熱さに驚いて手放したところで増えるはずだったのだろうが……分霊箱の護りにしてはいささか手緩いと言わざるを得ないだろう。

 いや、それだけこの金庫の守りを過信していたという事か……どちらにせよ、もう少し厳重に守っておくべきだったな、とミラベルは呟く。

 

「悪霊の火よ!」

 

 ミラベルは手にしたカップを悪霊の火で抹消し、もう用はないとばかりに上を見る。

 そして魔法で天井を吹き飛ばすと、手招きでドラゴンを近くに呼び寄せた。

 これは長年この銀行に拘束され、使役されていた哀れなドラゴンだ。

 竜という上位種でありながら自由を許されぬその惨めな姿を哀れんだミラベルによってその傷を癒され、彼女の甘言に乗って配下へと下ってしまったのだ。

 ミラベルはゴブリンを掴んだままドラゴンの頭に乗ると、合図を送る。

 

 

 そして自らが破壊し尽した銀行を振り返る事もなく、大空へと飛び去って行った。

 

 




マルフォイ「何が死にかけただ! そいつピンピンしてるじゃないか!」
ロマンドー「……」←そいつ
ハリー「……あー、うん、そういやそうだ」

┌(┌^o^)┐ 皆さんこんばんわ。
今回はマルフォイの計画全バレ回でした。
結局マルフォイって原作だとこの件で全くお咎め受けてないので、こっちではハリーさんに殴っていただきました。
まあ普通に考えたら殺人未遂2件と殺人計画1件なんぞアズカバン直送でしょうが、このくらいでダンブルドアはきっと許してくれるでしょう……多分。

そして(一応)主人公ミラベル、今回は銀行強盗をしでかしました。
書いてる私自身、「駄目だこいつ……早く何とか(ry」状態です。

現在の分霊箱。
ゴーントの指輪=ダンブルドアによって破壊。
トム・リドルの日記=ミラベルによって破壊。
レイブンクローの髪飾り=ミラベルによって破壊。
スリザリンのロケット=ミラベルによって破壊。
ハッフルパフのカップ=ミラベルによって破壊。逃げきれなかったようです。
ナギニ=ミラベルがロックオン。ナギニ逃げて!
ハリーポッター=健在。

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