ハリー・ポッターと野望の少女   作:ウルトラ長男

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(「‐|‐) 皆様こんばんわ。魔法界の人口とかをちょっと真面目に考えているウルトラ長男です。
イギリス魔法界って学校がホグワーツしかないんですよね。
生徒数は1000人くらいと作者様が明言しており……つまり、それだけ子供が少ないという事になります。
イギリスの小学校、22000校くらいあるらしいんですけど、1校の生徒数を大体500くらいと考えた場合、子供の比率がマグルと比べて1/11000人になります。
大人も似たようなもんだろう、という事で総人口を11000で割ると……イギリス魔法界の人口は5700人…………マグル生まれ排除してる場合じゃねえ!


第54話 三つ巴

 まず最初に仕掛けたのは、ヴォルデモートだった。

 まるで空気を吐くかのように繰り出される、最大の魔法たる死の呪文。

 それがダンブルドア目掛けて飛ぶも、彼が身を逸らす事で守衛のデスクに当たり、机が砕ける。

 その隙を見逃さずにダンブルドアが素早く杖を動かす。

 彼の杖から発せられる呪文の強さたるや、遠巻きに戦いを見ているだけのハリーでさえ、髪の毛が逆立つのを感じた。

 だがヴォルデモートは空中から銀色の盾を生み出す事でそれを弾き、ミラベルは人間離れした速度で回避する。

 そのまま彼女の姿がぶれ、金色の閃光になったと思った瞬間、すでにヴォルデモートは背後を取られていた。

 だが帝王はその場で回転し、姿を消し去る。

 そしてミラベルの背後に現れて炎を放つも、ミラベルはこれを難なく素手で弾き飛ばした。

 

「俺様を殺そうとしないのか? ダンブルドア」

 

 この期に及んで、まだ死の呪文を使わないダンブルドアに苛立ったようにヴォルデモートが唸る。

 

「そんな野蛮な行為は似合わぬとでも?」

「お前も知っての通りトム、人を滅亡させる方法は他にもある」

 

 ダンブルドアは落ち着いた声で言い、杖を振る。

 すると周囲に転がっていた銅像が一斉に立ち上がり、動き出した。

 魔法界で最も偉大と称される男が操る数多の戦士の銅像。

 それは魔法を弾き、力において人間を圧倒する魔法使い殺しとも呼べる秘術だ。

 強固なる戦士達が旧き魔法使いの命を受け、勇ましく突撃する。

 

「確かに、お前の命を奪う事だけではわしは満足せんじゃろう」

「死よりも酷な事は何も無いぞ、ダンブルドア!」

「お前は大いに間違っておる」

 

 ヴォルデモートの呪文を防ぐようにケンタウロスの銅像がダンブルドアの前を駆ける。

 だがこの場で彼と戦っているのは帝王だけではない。

 黄金の少女が迫り来る戦士の像達を無造作に砕き、千切り、壊し、叩き伏せる。

 

「なるほど、それが貴様が不死を求めた理由か。

下らん……下らんな、闇の帝王。

要するに貴様はただ死にたくないだけの臆病者という事か」

 

 ミラベルが10の指全てを杖に見立てての呪文の連発を行う。

 死、麻痺、武装解除、石化、爆破、破壊。

 一発一発に必殺の威力を与えられたそれが、無節操にマシンガンの如き速度で打ち込まれ、銅像を蹂躙する。

 壁を砕き、床を抉り、盾の呪文すらも軋ませ破壊する。

 その威力を防ぎながらヴォルデモートは歯を食い縛り、苦悶に顔を歪めた。

 

 ――こいつ……この小娘……!

 以前戦った時よりも、強くなっている!?

 

 ダンブルドアやヴォルデモートとミラベルには違いがある。

 それは至極単純な事で、彼女は『若い』という事だ。

 いわば未成熟な成長期。未だ完成には至っていない、最も成長する黄金の時期。

 そして彼女は、そこで己の時を止めてしまった。

 それは二度と成長しないという事であり、成長を放棄したという事だ。

 しかし、こうは考えられないだろうか?

 

 “彼女は、永遠に成長期なのだと”。

 

 決して完成に辿り付く事のない未成熟な状態。

 それはつまり完成という終着点がないという事だ。

 大人という完全体になる為の最も飲み込みがよく、最も力が伸びる少女時代。

 その特性がそのまま残っているとしたら――?

 

 それは、無限に成長し続ける化物という事にはならないだろうか。

 

「……馬鹿なっ!」

 

 己の脳裏を過ぎった不吉な想像をヴォルデモートは振り払う。

 違う、そんなはずがない。

 そんな化物がいるはずがない。

 恐れを振り払うようにヴォルデモートは盾の呪文を強める。

 

 凄まじい、などという言葉すら生温い呪文の連撃。それでもダンブルドアに恐れはない。

 杖の一振り。

 たったそれだけの攻撃で魔法の連撃を弾き、押し返す。

 異常とも言える魔法の威力を前にミラベルが弾かれ、壁に叩き付けられた。

 続けて鞭のように振るった杖の先から細長い炎を出し、少女を絡め取る。

 だが彼女はそれさえも引き千切り、薄ら笑いを見せる。

 

「理解したよ。やはり貴様等は私には勝てん」

 

 疾走――瞬き一瞬の間すらなくダンブルドアの前へと到達し、その腕を振り上げる。

 鋼鉄すら紙切れのように引き裂く悪魔の爪。だがダンブルドアに触れる直前、ほんのわずかな杖の動きで生み出された盾の呪文が現れ、攻撃を弾く。

 更にその隙を縫うようにミラベルの腕に絡み付いたのは、数多もの蛇だ。

 闇の帝王が百を数える蛇を呼び出し、暴帝へと向けたのだ。

 殺到する毒牙、逃げ場のない空間。刹那の交差。

 

『Time Stay』

 

 その果てに待っていたのは、コンマ一秒の差もなく同時に引き裂かれた蛇の死骸であった。

 それは少女が編み出した異能。世界の『時』を止める、理を超越した絶技によるものだ。

 そのまま細い足での蹴りが繰り出され、ダンブルドアの身体を吹き飛ばす。

 盾の呪文の上から強引に弾くパワー。それは彼女が人間でない事の証だ。

 ダンブルドアでなければ今の一撃で死んでいただろう。

 

「どれだけ綺麗なお題目を掲げようが、所詮貴様は過去に囚われただけの男だ、ダンブルドア。

過去の過ちから逃げ、恐れ、前進を止めただけの老人に過ぎん。

そんな貴様が、常に前を往くこの私を止められるものか」

 

 少女の背後から炎の蛇が襲いかかる。

 だがそれを黄金の9頭竜が迎え撃ち、捻じ伏せた。

 更に一瞬で帝王の前に移動し、右腕に複数の呪文を作り出す。

 当然ヴォルデモートもすぐに姿現しで逃げるが、それを予測していたようにミラベルも転移し、帝王の前に躍り出た。

 

「そして貴様は所詮、死を恐れるだけの子羊に過ぎん。

だが私は違うぞ! 私は永久の支配を実現する為に不死の道へ入ったのだ!

死から逃れる為に不死になった貴様が、支配の為に不死となった私に勝てるわけがない!」

 

 咄嗟に防御した盾の呪文を砕き、杖に皹を入れてその身体を吹き飛ばす。

 その背に体勢を立て直したダンブルドアの麻痺呪文が炸裂した。

 だが黄金は止まらない。身体ごと吹き飛ばされながらも魔法による報復を放つ。

 咄嗟に盾の呪文を張るも盾が軋み、床を削りながらダンブルドアは後ろへと追いやられた。

 

 あらゆる呪いを受け付けず、『武装解除』せず、『麻痺』する事もなく。

 『服従』せず、『磔』に表情を変えず、『死』すら通じない。

 炎も、水も、冷気も、そのことごとくを跳ね返す。

 この三つ巴という状況が既に彼女にとってこの上なく有利な戦場であった。

 ダンブルドアもヴォルデモートも、身体能力は人間のそれだ。

 必然、この戦いでは常に四方を気にしながらの戦いとなる。

 だがミラベルは違う。

 風をも追い抜くスピードは一瞬で距離を詰め、杖すら用いぬ魔法は予備動作を必要としない。

 吸血鬼の抗魔力は多少呪文を受けたところでビクともせず、2人よりも自由に動く事が出来る。

 一見互角に見える天蓋の闘争。

 だがその天秤はゆっくりと、ミラベルに傾きつつあった。

 

 

 

 ――化物だ。

 そう、ハリーは心から思った。

 あのヴォルデモートが、ダンブルドアが。

 魔法界でも最強と称される二人が本気で戦っているのに、一人の少女に押されている。

 あるいは一対一ならば、まだ違ったかもしれない。

 しかしこの三つ巴という状況が限りなく二人にとって不利であった。

 それでもここまで戦えているのは、あの二人だからこそだろう。

 他の魔法使いならばとっくに死んでいるはずだ。

 

 怖い。恐ろしい。

 ハリーは、自分が怯えている事を理解しなくてはならなかった。

 足がガクガクと震え、歯がカチカチと鳴る。

 かつて復活したヴォルデモートその配下に囲まれた時すらここまでの恐怖は感じなかったというのに、今はあの少女を見ているだけで怖い。

 自分に何が出来る?

 生き残った男の子などと言われて、だが結局自分がやっているのは怯えて震える事だけだ。

 だがそれでも、ここで動かなくてはきっと何もかもが手遅れになる。

 少しでもいい……ダンブルドアの助けになる、何かがしたい。

 その焦った心に突き動かされるように杖を向け、そして叫ぶ。

 

「え、エクスペリアームス!」

 

 それは明らかに冷静さを欠いた攻撃であり、そして自殺行為だ。

 あの3人の戦いに、ハリーの技量で割り込むなど愚か以外の何者でもない。

 呪文が直撃したミラベルは、まるでダメージを受けた様子もなくハリーを見る。

 

「今、何かしたか?」

「……ッ!!」

 

 駄目だ、怖い。

 眼が合っただけで、自分が酷く小さな生き物になったように思えてくる。

 ライオンの前に差し出されたマウスのような気持ちになってくる。

 何か……何でもいい! この化物を止める魔法を!

 

「クルーシオ! 苦しめ!」

 

 恐怖の末にハリーが撃ったのは、決して人に向けてはいけないと言われていた磔呪文であった。

 いかに魔法界に仇なす存在であろうと、普段のハリーならまず選択しないだろう愚行。

 しかしその魔法を受けたミラベルは怒るでもなく、それどころか愉快そうに哂う。

 もしかしたら痛覚の操作すら出来るのかもしれない。

 

「クククク……いいぞ、ポッター。貴様のそういう所が私は大好きだよ。

どんな綺麗事を並べていようと、やるべき時はやる。下らん道徳に縛られず、非道な攻撃も行える。

だが温いなあ、まだまだ温い。いいかポッター? 磔呪文を行う時というのは相手を苦しめようという加虐心が必要なんだ――手本を見せてやるよ」

「ッ!?」

 

 ミラベルはそう説明し、ハリーに向けて閃光を放つ。

 当たると同時にハリーが感じたのは、今までに感じた事もないような激痛であった。

 痛い、苦しい、気持ち悪い。全身の皮をナイフで削がれ、指の先に針を突き立てられ、爪を剥がされ、焼けた鉄板を押し付けられたかのような耐え難い苦痛。

 焼けた鉄の中で火あぶりにされるような熱さ、全裸で氷の中に閉じ込められたかのような冷たさ。

 神経を剥き出しにされ、ヤスリで削られているような激痛。生きたまま内臓を抉り出されるような恐怖。

 それらが一斉にハリーの身を襲い、正気を削って行く。

 痛い、痛い、痛い……頼む、殺してくれ。

 こんな痛みに比べれば死など何でもない……頼むから……。

 そんな哀願が心を支配するほどの痛みがようやく終わり、荒く息をつきながら床を転がった。

 

「これが本当の『磔呪文』だ。次からは撃つ前にこの痛みをイメージするといい」

 

 次があればな、と呟きミラベルはハリーに手を翳す。

 彼は主人公であり、そして殺してしまえば物語の行く末が分からなくなる。

 だがミラベルはそんな事を気にしない。この世界がどうなろうが知った事ではない。どのみち一度滅ぼすのだからどう転ぼうと関係ない。

 通常、『原作』の知識があるならばまずやらないだろう行動、『主役殺し』。

 しかしそれは物語を良くしようとするからだ。

 だがミラベルはそうではない。彼女は物語を『破壊』しようとしている。

 故に、躊躇う理由などない。

 

「ヴォルタージュイレイド!」

「!」

 

 青い電光がミラベルを撃ち、わずかにその身体を硬直させる。

 今放たれたそれは、ミラベル自身が編み出した彼女の十八番だ。

 そして彼女以外にその使い手がいるとすれば、それは彼女自身に限りなく近い偽りの肉体を与えた従者、メアリー・オーウェルただ一人のはず。

 だがここに、ミラベルすら知らない3人目がいる事を彼女は初めて知った。

 ミラベルは少しばかり意外そうに呪文を放った相手……イーディスを見る。

 彼女は涙で濡れた瞳で、しかし折れぬ心を以てミラベルを睨んでいた。

 

「……驚いたぞライナグル。貴様いつの間にその呪文を身に付けたのだ?」

「この子が……私の、大事な友達が、教えてくれたのよ……」

「大事な友達、か。

……なるほど、私に無断でその魔法を教える辺り、余程貴様に入れ込んでいたらしいな、メアリーは」

 

 攻撃された事に憤るでもなく、ミラベルは穏やかに話す。

 ミラベルにしてみればイーディスの電撃など可愛い抵抗に過ぎぬのだ。

 それを微笑ましく思いこそすれ、怒りの感情を抱く事などない。

 そして微笑ましいと思いながらも、敵対するならば容赦なく攻撃出来るのがミラベルだ。

 ミラベルは指先をイーディスへと向け、素早くイーディスも杖を構える。

 

「ステューピファイ!」

「プロテゴ・マキシマ! 万全の護り!」

 

 紅に輝く失神の光を、イーディスの前に現れた透明な膜が弾く。

 防御魔法としては最大の力を誇る万全の護り。

 それは本来ならば、まだこの年齢で覚えるような魔法ではない。

 その事からもメアリーの指導力の高さが伺えた。

 

「ほお、そいつも教わっていたか。なかなか難易度の高い魔法のはずなのだがな……。

メアリーの奴め……存外、教師に向いていたのか?」

 

 すでに命亡き従者を見やり、ミラベルは彼女への評価を改める。

 正直、意外な才能だった。

 そんな才があると分かっていれば別の使い方もあっただろう、と思う程には素晴らしい素質だ。

 

「ならば次だ。物理防御なぞ、すり抜けるぞ」

 

 続けてミラベルが出したのは白銀の腕であった。

 相手を襲う攻性守護霊の魔法だ。

 しかしイーディスは素早く守護霊を出すと、ミラベルの守護霊と相殺させる。

 そうして攻撃を防がれたミラベルは、しかし愉快そうに笑い声をあげる。

 

「なるほど……大したものだ。

いかに私の代わり身が教えたとはいえ、たかが1年でここまでになるとは」

「……何を……!」

「だが、なまじ力を付けたからこそ理解したはずだ。私と貴様との間にある絶対的な差をな」

 

 それはどうしようもない事実であった。

 下手に力を付けてしまったからこそ、以前は漠然としか感じられなかった差がはっきりと分かる。

 このままでは届かない……イーディスの心は既にその事を認めてしまっていた。

 

「私に従え、イーディス・ライナグル。その若い命と才能、ここで散らすのは忍びない」

「……!」

「ダンブルドアやヴォルデモートと共に貴様まで死ぬ必要はない。

……私と共に来い! 貴様にはその資格がある」

 

 ミラベルから差し出されたその手を、掴みたいと思った。

 何も考えずに掴めたらどれだけ幸せだろうと思った。

 イーディスの脳裏にはミラベルと共に過ごした4年間の映像が流れ、彼女の心を揺さぶる。

 

「貴様もこの1年で悟ったはずだ。今、魔法界のトップを名乗っている連中がいかに愚かなのか。

その無能ぶりに憤りを感じたはずだ」

 

 イーディスの思考が止まった。

 それは、図星であった。

 確かに魔法省の無能ぶりに怒りを感じたのは否定しようのない事実だ。

 新聞を見て怒り、その馬鹿さ加減に呆れ、全員辞職してしまえとすら思った。

 いっそ、辞めてくれたほうがまだマシだと……。

 

「そ、それは……」

「今こうして私やヴォルデモートを容易く侵入させているのも、ひとえに奴等が無能だからだ。

そんな奴等にどうして魔法界を担う資格がある?

それとも……なあ、ライナグル――」

 

 

 ――そんな馬鹿共に肩入れして、私と敵対したいか?

 

 

 その言葉に、揺れた。

 イーディスの意思が、覚悟が、そして決意が。

 全てが揺れ、善悪が分からなくなった。

 その心の隙間に差し込むように、ミラベルが語る。

 

「私が作ってやる。私が築いてやる。

生まれの差で差別される、腐り果てるばかりのこの世界を、私が変えてやる。

貴様はその世界で生きる資格がある……この手を取れ――イーディス・ライナグル」

 

 自分の中の感情が言う。この手を取れ、友とまた笑い合いたいだろう、と。

 自分の中の理性も言う。逆らうだけ無駄だ、手を取るのが賢い選択だ、と。

 しかし、自分の中の何かが言う。

 彼女と共に歩む道は……ハリー達を裏切る道だ、と。

 

 そんな、どうすればいいか分からず揺れるイーディスの耳に、慌てたような声が響いてきた。

 

「こ、これは一体何事だ!? 我が魔法省で一体何が……」

 

 それは闇祓いを多数引き連れた魔法大臣コーネリウス・ファッジであった。

 その顔を見た途端、ミラベルは豹変する。

 まるで長年追い求めた獲物を前にした狩人のように残虐に、怒りと憎悪に満ちた笑みを張り付け、肉食獣のように飛び出したのだ。

 

「いかん! 逃げろ、コーネリウス!」

 

 ダンブルドアの声が届くも、混乱した鈍間なファッジは動けない。

 咄嗟に迎撃に出た闇祓いがミラベルに呪文を放つも、まるで通じない。

 呪文に当たりながら黄金の悪魔は疾走し、道を塞ぐ闇祓いを切り捨てる。

 首を刎ね、心臓を貫き、五体を裂き、喉を切り、左右生き別れにし、頭を潰し。

 真紅の地獄絵図を作りながらファッジに肉薄し、そしてその全身を引き裂き、挽肉へと変えてしまった。

 

「あ……あ……」

 

 唯一難を逃れた哀れなパーシー・ウィーズリーはガタガタと震えながら腰を抜かし、止める事の出来なかった惨劇にダンブルドアは床を叩く。

 そんな惨状の中にありながらミラベルは全く顔色を変えず、魔法で返り血を消していた。

 それからパーシー・ウィーズリーに気付き、手を翳す。

 

「やめろおおおおおおお!!」

 

 ハリーが、怒りに喉を奮わせて飛び出す。

 杖から咄嗟に放たれたのは『切断』の呪文だ。

 そして、その選択は今までで一番の正解であった。

 無我夢中で放ったそれは今までにない威力を発揮し、ミラベルの手首から先を切り飛ばしたのだ。

 

「……ッ」

 

 この戦いが始まって以来、ミラベルの顔が始めて本当の驚きに染まる。

 まさかハリーの技量で自分の腕を切れるとは思っていなかったのだろう。

 ミラベルはしばし手首から先を失った自分の腕を凝視し――ハリーに見せ付けるように腕を『再生』した。

 

「!?」

「なっ!?」

 

 在り得ざる光景。あってはならない光景。

 斬られた腕が生えるなど、人間にあってはならない事だ。

 そして今こそダンブルドアは、ハリーは、そしてイーディスは理解した。

 こう言う事だったのか、と。

 彼女の発言は全て真実だった。あの少女は本当に、もう人間ではないのだ。

 

「驚いたぞハリー・ポッター……心から認めよう、私は貴様を過小評価していたらしい。

その爆発力を十分に評価していたつもりだったが、貴様は更にその上を行った」

「……ば、化物……」

「いかにも。貴様等では決して勝てない化物だよ、私は」

 

 言いながら、ミラベルは更なる輝きを発し、神秘部を覆う。

 黄金の髪が波打ち、呪文を発してすらいないのに重圧が全員にのしかかる。

 遂にここに化物は本性を現し、狂気に彩られた瞳を輝かせた。

 血に染まった神秘部で化物はローブを翻し、英雄の少年目掛けて滑空する。

 

「っ、いかん!」

 

 ダンブルドアが杖から魔法を放ち、ヴォルデモートがそれに続く。

 だがミラベルはそれを容易く避け、邪魔だとばかりにヴォルデモートへと進路を変え、腕を薙いだ。

 鮮血が飛び散り、ヴォルデモートの腕が動かなくなる。

 恐らくは骨ごと断ち切るほどの攻撃だったのだろう。ヴォルデモートの魔法ならば治癒は容易いだろうが、この戦いの中での腕一本はあまりに大きすぎた。

 続けてダンブルドアへ武装解除を放つ事で杖を取り上げ、拾う暇もなく接近するや、その心臓を貫くべく腕を突き出す。

 間一髪で避けるも、人間と化物では速度の差が在り過ぎる。

 すぐに第2撃が放たれ、足を深く切り裂き老人を地面に沈める。

 

 そして止めの第3撃を繰り出そうとし――その腕を何者かが掴んだ。

 

「……何故止める、グリンデルバルド」

「遊びすぎだ、ベレスフォード。いい加減、人が集まり過ぎてきた」

 

 それはグリンデルバルド、と呼ばれた金髪の美しい青年であった。

 ミラベルと同じように真紅のローブに身を包み、その口からは牙が生えている。

 そして、その青年の姿を認めるやダンブルドアの顔が驚愕に染まった。

 

「お、お主はまさか……そんな……」

「……久しいな、我が旧友よ。

だが今は、多くを語るべき時ではない」

 

 信じられない、と呟いているダンブルドアを無視し、青年はミラベルの腕を掴み上げる。

 せっかくのお楽しみを邪魔された事で納得がいかないような顔をしているミラベルだが、青年も退く気はないようだ。

 ミラベルは爪を青年の首に当て、ゆっくりと突き入れる。

 すると真紅の血が首を伝い、青年の顔がわずかに苦痛に歪んだ。

 

「説明してもらおうか……何故邪魔をする?」

「こんな所で遊んでいる場合ではないだろう、と言っているのだ。

目的を忘れたのか? フランスとドイツを率いてイギリス魔法界を滅ぼすのだろう?」

「いや……分からないな。何故ダンブルドアを殺すのを止めた? こいつさえいなければイギリス魔法界を滅ぼすのも格段に容易くなるはずだぞ?」

 

 ミラベルは更に伸ばした爪を深く突き入れる。

 青年の口から血が吐き出され、顔には汗が滲んだ。

 だがそれでも冷静さを保ち、静かに語る。

 

「そいつは、私の獲物だからだ。私は、ダンブルドアとの決着を付けるためにお前の誘いに乗った。

それを奪うというのなら……私も黙ってはいない」

「…………」

 

 数秒の睨み合い。

 ミラベルが殺気を放ち、グリンデルバルドが涼しげに受け流す。

 だが、やがてミラベルの方が先に折れたのか、小さく溜息を吐いた。

 爪を喉から引き抜き、つまらなそうに背を向ける。

 

「ふん……何を考えているかは知らんが、ここで同士討ちしても仕方ない。

今回は貴様の意見を優先してやる」

「感謝しよう」

「だが次に私の邪魔をしたならば無事では済まぬと思え」

「……ああ、わかっているさ」

 

 つまらなそうにミラベルは目を閉じ、爪を戻す。

 今しがたまで神秘部全体を覆っていた黄金の光が消え、全員が重圧から解放された。

 

「寿命が伸びたな、ダンブルドア。この場は退いてやるよ。

だがこれで理解しただろう……私と貴様等の間にある差というものを」

 

 ミラベルは優雅にターンをし、背を向ける。

 後ろから攻撃されないと思っているわけではない。

 攻撃されようが問題ないと思っているのだ。

 自分を殺す事などどうせ出来ない。そう確信しているからこその強者の油断だ。

 

「断言しよう……私に歯向かった先にある貴様等の末路は『死』一択だと。

だが、私は有能な者は大好きだ。

配下に下るならばヴォルデモート以外はその命、奪わぬと約束しよう。

望むなら永遠の命を与えてやってもいい」

 

 それはいっそ、慈悲すら感じさせる声色だ。

 優しく、甘く、そしてどこまでも身勝手に。

 相手の都合や感情など考えない暴君の誘惑。だが、それでも尚惹かれる不思議な魅力と恐ろしさがあった。

 

「よく考える事だ……私に歯向かって死ぬのと、従って新たな未来を生きるのと。

どちらが賢い選択であるのかをな」

 

 イーディスとミラベルの眼が一瞬交差する。

 今の言葉はヴォルデモートと死喰い人を除くこの場の全員に向けた物であるが、特にイーディスに宛てた割合が強い。

 ミラベルはローブを翻し、最後に一度だけイーディスへと振り返る。

 

「ライナグル……私の言った事、よく考えておくといい」

 

 それは情からか、それとも能力だけを見ての言葉か。

 二転三転する事態に思考が麻痺しかけている今のイーディスでは分からない。

 ミラベルもそれを分かっているのか、それ以上言及する事はせずに視線を外す。

 そしてイーディスの見ている前で、影武者の遺体を抱きかかえる。

 イーディスはそれに思わず、「待って」と叫ぶ。

 『彼女』を連れて行かないで――!

 そんなイーディスの切なる叫びは、しかしミラベルに届かない。

 イーディスの眼前で従者の遺体を抱えたかつての友は消え去り……そして、嵐は過ぎ去った。

 

「……どうやら、助かったようじゃな」

 

 ダンブルドアは安堵の息を吐き、それからヴォルデモートを見る。

 まだ戦るか、という合図だ。

 それに対しヴォルデモートは近くに落ちていたベラトリックスの杖を拾うが、しかし彼を邪魔するように魔法省の役人達が雪崩れ込んできた。

 どうやら先ほどミラベルが殺した役人がここにきた全てではなかったらしい。

 ヴォルデモートは舌打ちだけをすると、無言で『姿くらまし』をした。

 流石にこの人数を相手に戦う気などなかったのだろう。

 

「恐ろしい……本当に恐ろしい少女じゃ。

紛れも無く、イギリス魔法史上最悪の……」

 

 たったの1戦。

 それだけで、多くの被害が出てしまった。

 死喰い人も闇祓いも関係なく、歯向かった者のことごとくを血祭りにあげ、命を刈り取る様はまさにどの勢力にも属さない新たな脅威だ。

 これから魔法界はヴォルデモートに加えてあの少女の動向にも警戒しなくてはならない。

 

「これから、どうなってしまうんでしょう、ダンブルドア先生」

「分からぬ……こんな事は初めてじゃ。

しかしそれでもわしらは戦わねばならん。護るべき、未来の為に」

 

 

 ダンブルドアのその言葉は、まるで自分に言い聞かせているかのようであった。

 

 




(「‐|‐) というわけで三つ巴の50話でお送りしました。
以下、捕捉を入れていきます。

・結局、誰が一番強いの?
単純な戦力ならばニワトコ装備ダンブルドアです。
しかしミラベルとヴォルデモートには不死身という特性があるので最終的に負けるのはダンブルドアです。
ついでにお爺ちゃんなので体力のなさも問題です。
ルールを決めての決闘ならばダンブルドアが勝つでしょうが、時間無制限の殺し合いだとミラベルが勝ってしまいます。
というか殺す方法を見付けないと勝てません。頑張れダンブルドア。

・ロマンドーどこいった?
画面外でプレデターと戦っています。

・日本は今どうなってる?
日本に初代ゴジラがログインしました。
日本に3代目ゴジラがログインしました。
日本にゴジラジュニアがログインしました。
日本にスペースゴジラがログインしました。
日本に総進撃ゴジラがログインしました。
日本にSOSゴジラがログインしました。
ゴジラ×10、睨み合い中……。

日本「人間同士で喧嘩してる場合じゃねえ!」

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