ハリー・ポッターと野望の少女   作:ウルトラ長男

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(「‐|‐) 皆様こんばんわ。未だにGジェネDSをクリアしていないウルトラ長男です。
さて、今回は神秘部での戦いとなりますが、果たして何人生き残る事やら。
原作でもここから凄い勢いで死人が出るので物語の境目とも言えます。
このSSもまた、この戦いより空気が変わってしまいます。
ヒャッハー!世紀末だー!


第51話 混戦

「ハリー! ハーマイオニー! そんな……誰も着いてきてない!

どうしよう、私のせいだ……私が手を離したから……!」

「いや、お前のせいじゃない。手を離したのはポッターの方だ。

それにシリウス・ブラックが現れるタイミングも悪かった……」

 

 魔法省の外でイーディスは慌てふためいていた。

 ハリー達を死喰い人達のど真ん中に残してきてしまった!

 しかもハリーと手を繋いでいたのは自分だ。

 ミスの原因は、死喰い人に気付かれる危険を恐れて触れる程度の接触しかしていなかった事だ。

 もっとしっかりハリーと手を繋いでおけば……死喰い人に気付かれる恐れなど無視してガッシリと掴んでおけばこうはならなかったのに。

 

「も、戻ろう! ハリー達を助けないと!」

「落ち着け、ライナグル。すでにあそこは乱入してきた一団と死喰い人の戦場になっているはずだ。

今、迂闊に飛び込むのは危険過ぎる」

「でも、でも! 私達が何とかしないと!」

 

 涙目でうろたえるイーディスの肩をミラベルが掴む。

 それは指が食い込むくらいに強く、そしてだからこそ彼女の心配が伝わってくるものだった。

 

「自惚れるなッ! お前が行ったところで何が出来る?!」

「ッ!」

「いいか、よく聞け……一瞬だが、入ってきた一団の顔を私は見た。

シリウス・ブラックの他にいたのは闇払いのマッドアイ・ムーディと、その秘蔵っ子として有名なニンファドーラ・トンクス。

更に3年度に私達を教えていたリーマス・ルーピンとキングズリー・シャックルボルトも見えた。

どれも一流の魔法使いだ……経験も実力もお前を上回る」

 

 ここからでは神秘部の様子は分からない。

 しかし混戦になっている事は間違いないだろう。

 そこに、いかに訓練を積んでいようと学生に過ぎないイーディスを放り込んで無事で済むとは思えないのだ。

 だからこそ、ミラベルはイーディスを行かせたくはなかった。

 

「けど……そんな場所にハーマイオニー達はいるんだよ!?

もし皆の身に何かあったら、私……」

「連中は、まだポッターを殺す事はない。そしてグレンジャーは優秀な女だ……生き抜く術を持っている」

「じゃあジニーとセドリック先輩は? ロンとルーナとネビルは?」

 

 イーディスの泣きそうな声に、しかしミラベルは無情に答える。

 嘘を吐いて安心させるような事はしたくないし、恐らくすぐバレる。

 だからこそ、残酷な事実だけを口にした。

 

「さあ……な。もしかしたら死ぬかもしれん」

「だったら!」

「もう一度言うぞ……! “お前が戻った所で何が出来る”?」

 

 それは酷くシビアで、しかし一つの正論であった。

 自分の身すら満足に守れない者が他者を心配し、あまつさえ危険の渦中に飛び込むなどあまりに蛮勇が過ぎる。

 否、それはもう蛮勇ですらなくただの無謀だ。

 イーディスもそれは理解出来るはずだ。

 しかし、理解しても尚、彼女の瞳の輝きは変わらない。

 

「……わからない。何も出来ないかもしれない」

「…………」

「けど、ここで見捨てて、それでハーマイオニー達が死んだりしたら私きっと一生後悔する。

だから、私……」

 

 ミラベルは唇を噛み、イーディスを見る。

 そして考えるのは、いっそ気絶でもさせてやろうか? という強行手段であった。

 だが一方で、そんな事をしたら彼女の心に悔いと傷を残すだろう事も分かった。

 ならばどうする? どう動くのが正解だ?

 

「…………」

「……ミラベル?」

 

 目を閉じたまま動かなくなったミラベルに、イーディスが不思議そうに声をかける。

 するとミラベルはゆっくりと目を開け、そして友を正面から見据えた。

 

「……危険な場所だ……私がいても必ず守れるという保障はない」

「……うん」

「死ぬかもしれん。捕まれば拷問されるかもしれん。それでも行くのか?」

「……うん」

 

 これは駄目だ、とミラベルは思った。

 こいつは正真正銘、超が付く程のお人よしだ。

 純血主義以外スリザリン要素が全くない。むしろ2年生の時に純血主義ですらなくなったので、今では本当に何でスリザリンにいるのか分からない。

 スリザリン生のくせに無駄に澄んだ瞳を持つ友人を前に、ミラベルはわざとらしく溜息を吐く。

 そして手に持っていた予言を近くの茂みに隠し、隠蔽魔法をかけた。

 戦場にこんな物を持って行っても邪魔になるだけだ。

 

「…………馬鹿者が」

「う、うん……」

「底抜けのお人よしのアンポンタンが。ド阿呆、自分を大事にしないトンマが。

ボケ、馬鹿、ドジっ子、トーヘンボク、マーリンの髭」

 

 とりあえず思い付いた罵倒を適当に口にし、溜飲を下げる。

 そろそろイーディスが泣きそうだが知った事か。

 この底抜けの馬鹿にはこれくらい言ってやった方がいいというものだ。

 

「……絶対に私の側から離れるなよ」

「!」

「まあ、その、なんだ……約束だしな……守ってやるよ、お前の事をな」

 

 照れくさそうに頬を赤くするミラベルに、イーディスは目に見えて表情を変えた。

 そして感極まったようにその細い腰に抱き付き、喜びと感謝を表現する。

 

「有難うミラベル! 大好き!」

「……っ」

 

 ミラベルは驚いたように目を丸くするが、しっかりとイーディスを受け止め、そして微笑む。

 『友達』。その響きとはずっと、無縁だった。

 どういうものか理解すら出来ていなかったし、自分には関係ないと思っていた。

 だが今なら分かる。そうか――これが――。

 

「なあライナグル……」

「ん?」

「お前が好きなのは……1年の頃から過ごしていた『私』か?

それとも、今の私なのか?」

 

 それは、不思議な問いだった。

 まるで、過去の自分と今の自分が別人であるかのような問い。

 しかしイーディスは迷う事なく、笑顔で言う。

 

「そうだね……ミラベルって何か今年になって急に優しくなった気がするし、時々別人なんじゃないかって思う事もあるよ」

「そ、そうか?」

「でもね……仮に別人だったとしても――どっちも、大事な友達だよ」

 

「…………」

 

 ミラベルは、その答えを聞いて目を細めた。

 まるで眩しいものを見るように泣きそうな笑顔を浮かべ、そしてイーディスの頭を撫でる。

 そして、彼女に聞こえないくらい小声で「ありがとう」と呟いた。

 

「なあ、ライナグル……」

「ん?」

「私な……お前に、隠している事があるんだ。

神秘部から戻った後でいい。聞いてくれるか?」

「え? うん、いいけど……」

 

 ミラベルはその答えに嬉しそうに「そうか」と返し、イーディスの手をとった。

 これから行く場所は危険極まりない死地だ。

 だが彼女は死なせない。傷付けさせない。

 誓いを此処に、生まれて始めて『友』の為に覚悟を決める。

 

「いくぞ……イーディス」

「うん……って、え!? ミラベル、今、私の事名前で……」

 

 驚きに目を見張るイーディスに、ミラベルは笑顔を向ける。

 その顔は今まで浮べたどの笑顔よりも優しく、そして少女らしい可憐なものだ。

 思わず見惚れそうになるイーディスに、ミラベルが弾んだ声で言った。

 

「友達は、名前で呼び合うものなのだろう?」

 

 

 イーディスはほんの一秒ほど呆気に取られ――そして、笑顔を浮べて大きく頷いた。

 

 

*

 

 

 イーディスとミラベルの退場により、場の膠着は破られた。

 予言を持っているミラベルが居なくなった事で死喰い人が攻撃を躊躇う必要がなくなり、ハリー以外の全員が殺害対象へと変わってしまったのだ。

 だがハリーの動きも素早かった。

 即座に予言の棚に魔法を叩き込み、数多の予言を隠れ蓑にし駆け出したのだ。

 ハーマイオニーの腕を掴んで予言部屋の入り口に戻り、メンバー全員、そしてシリウスが扉を潜るのを確認してからドアを閉めた。

 ドアの外にはルーピンやマッドアイなどもおり、それだけで心強さを与えてくれる。

 

「シリウス! この馬鹿者、先走りおって!」

 

 マッドアイが怒声を飛ばすも、今はそんな場合ではない。

 ハリーは簡潔に、なるべく早く今の状況を伝えるべく口を開く。

 

「死喰い人が追って来る! すぐに逃げないと!」

「わかっている! お前達は出口へ向かえ、ここはわしら騎士団が食い止める!」

 

 シリウス達を残していく事にハリーは反発しようとした。

 だがその肩をセドリックが掴み、厳しい視線を向けてくる。

 まずは自分達がここから逃げなければ、シリウス達はいつまでも離脱する事が出来ない。

 そう咎めるようなセドリックの目に晒され、ハリーは悔しそうに拳を握った。

 

「アロホモーラ!」

 

 ドアを破り、死喰い人が雪崩れ込んでくる。

 それを正面から騎士団が迎え撃ち、神秘部は一瞬にして幾筋もの閃光が飛び交う戦場へと早変わりした。

 それを背にハリー達は出口を目指すが、ここで問題が生じた。

 円形ホールとなっているこの部屋は周囲にいくつもの扉があり、出入りするたびに回転する。

 つまり――どこが元来た場所に通じる扉なのか分からないのだ。

 

「ど、どうするの、ハリー?」

「立ち止まってたって仕方がない! どこでもいいから入るぞ!」

 

 ハリー、ハーマイオニー、セドリックは適当な部屋に飛び込み、鍵を締めた。

 だが事前の打ち合わせがなかったのがまずかったのか、ジニー、ネビル、ロン、ルーナが別の部屋に入ってしまった。

 勿論引き返している暇はない。ここは二手に別れて出口を探した、と思う事にしよう。

 だがハリー達が入った部屋は……残念ながら元来た場所ではないようだ。

 周囲には机や椅子、それから孵化を繰り返している小さな卵の釣鐘に、様々な形の砂時計が入ったガラスの戸棚が見えた。

 

「タイムターナーよ!」

「ここに保管されていたのか……」

 

 ハリーはわずかな迷いの後に、棚に手を入れてタイムターナーを一つ取り出す。

 これが盗みである事は分かっている。

 だが、そんなものを気にしていられる状況はとうに過ぎているのだ。

 それにこのタイムターナーは切り札に成り得る。

 どうしようもない状況を、これが覆してくれるかもしれない。

 ハーマイオニーも咎めるような視線こそ向けてくるものの、何も言わないのを見ると、今が非常時だから止むを得ないとは思っているようだ。

 それとほぼ同時にドアに何かがぶつかる音が響き、ハリー達は慌ててテーブルの下に隠れた。

 

「ポッター! 何処だ!」

 

 3人の死喰い人が部屋に飛び込み、ハリー達を探す。

 騎士団は突破されてしまったのだろうか? シリウスは無事なのだろうか?

 そんな不安を感じながらハリーは杖を握り、机の下から呪文を唱える。

 

「ステューピファイ!」

 

 まずは一人!

 先頭にいた死喰い人に命中し、失神させた。

 それと同時に残った二人の死喰い人がハリーに杖を向けるも、セドリックとハーマイオニーの方が早い。

 流石は学年2位の秀才と代表選手というべきか。

 素早い杖捌きで呪文を放ち、死喰い人二人を弾き飛ばした。

 そのうち一人は仰向けに倒れ、釣鐘に倒れ込んだ。

 ところが男の頭はシャボン玉でも突き抜けるかのように釣鐘の中に潜り込み、大の字に倒れてしまった。

 しかもおかしな事は続くもので、何と男の頭は見る見るうちに縮み、髪も髭も引っ込み、赤ん坊の頭になってしまったのだ。

 

「と、時だわ……時が、逆行したのよ」

 

 あまりに不気味な姿にハリー達が顔を青褪めさせ、すぐにセドリックが杖を向けて即座に止めの麻痺呪文を叩き込んだ。

 ハーマイオニーがあっ、と声を出すも赤ん坊頭の死喰い人は吹き飛び、今度こそ気を失った。

 

「赤ちゃんを傷付けるなんて!」

「冷静になれ、グレンジャー。あれは赤ん坊なんかじゃない」

 

 やはりこういう所でハーマイオニーは善性を捨て切れないのだろう。

 セドリックが冷静に諭し、すぐに油断なく周囲を警戒する。

 死喰い人の第2陣は今の所来ないようだが、いつ来ても不思議はない。

 それにここに居ないという事は、他の誰かの所にいるという事だ。

 どちらにせよ、気を抜く事は出来ない。

 

「戻ろう。ここは出口じゃない」

「うん……」

 

 戻るのは危険だが、ここに留まる意味もない。

 3人は慎重に進み、ドアを開けて円形の部屋へ戻る。

 すると、死喰い人のうち2人と目があい、彼等が嬉々としてこちらに向かってきた。

 騎士団は……大分劣勢のようだ。

 トンクスが階段から転げ落ちるのが見え、ベラトリックスの勝ち誇った笑い声が響いている。

 マッドアイも床に倒れ、残ったシリウスとルーピン、キングズリーが必死に応戦しているようだ。

 

「シレンシオ! 黙れ!」

 

 ハーマイオニーの呪文が死喰い人の一人に当たり、その声を封じる。

 男は口をパクパクさせ、しかし嘲るように笑うと杖を一振りした。

 紫色の炎が横切り、ハーマイオニーの胸を打つと、彼女は糸が切れたように崩れ落ちる。

 

「ハーマイオニー!」

 

 ハリーは慌てて彼女の身体を抱きかかえる。

 息は……ある。

 だが完全に意識を断ち切られたようで、ピクリとも動かない。

 更に杖を振ろうとした男にセドリックが杖を向け、閃光を放つ。

 それは一人の死喰い人を倒すも、ハーマイオニーを倒した死喰い人は掠っただけだ。

 覆面が吹き飛び、素顔が露になる。

 アントニン・ドロホフ……確か以前、新聞で見た事がある。

 プルウェットという一家を殺害した魔法使いだ。

 彼が杖を振ると今度はセドリックが倒れ、勝ち誇ったように笑った。

 

 だが、その時彼の後ろの扉が開き、ルーナが飛び出してきた。

 ルーナはアントニンの頭に失神呪文を叩き込み、彼を気絶させる。

 まさに間一髪……まさか彼女に助けられるとは思わなかった。

 

「ハリー、無事?」

「ルーナ!」

 

 倒れた死喰い人の顔を踏み付けて確実に意識を奪いながら、ルーナが駆け寄ってくる。

 その後ろにはネビル、ジニーが続くも、全員様子が変だ。

 ジニーはヒョコヒョコと歩いているし、ネビルは何がおかしいのかヘラヘラ笑っている。

 ロンに至っては姿が見えない。

 どうやらルーナだけが無傷らしい。

 

「ルーナ、一体二人はどうしたんだ?」

「それが……ネビルは何か呪文を受けてこうなって、ジニーは私の粉々呪文の余波でこうなっちゃったの。

死喰い人がジニーの踵を掴んだから、あたし、そいつの目の前で粉々呪文を使って……。

なんとか死喰い人はロンが倒したんだけど、こっちも被害が大きいよ」

「そうか……ところで、そのロンは?」

「まだ、死喰い人と戦ってる」

 

 合流は出来た……だがダメージも大きい。

 ハーマイオニーとセドリックは気絶、ジニーとネビルは戦闘不能。

 残るは自分とルーナだけだが、正直あまりにも頼り無い面子だ。

 自分達は本当に生きてここを出る事が出来るのか……。

 ハリーの心を、これまでにない恐怖が覆っていた。

 

 

*

 

 

 魔法省の前。

 茂みに隠されていた予言の球を、誰かの細い腕が掴む。

 真紅のローブに身を包んだ小柄な人物だ。

 ローブの端からは金色の髪が覗き、金色の眼が輝いている。

 その人物は予言をローブの中に仕舞い、魔法省を見上げる。

 

 

 そして口元を釣り上げ――魔法省に向かって歩き始めた。

 

 

 




死喰い人「」×10
死喰い人A「ええい、ロマンドーはまだ見付からんのか!?」
死喰い人B「イェアアア、10人の死体だけです!まだ他にもあると?!」
死喰い人A「奴が生きていればまだ死体は増えるはずだ」

(「‐|‐) というわけでそれぞれの思惑が動く神秘部バトルでお送りしました。
なんか死喰い人が結構蹴散らされていますが、名無し死喰い人は沢山いるので問題ありません。
彼岸島の忍者のように無限に沸いてきます。
それではまた明日、お会いしましょう。

……いや、あの忍者達、本当にどこから沸いてきてるんでしょうね。

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