ハリー・ポッターと野望の少女   作:ウルトラ長男

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(「‐|‐) 皆様こんばんわ。夢の中で永琳に柱に縛り付けられ、ひたすら目の前でヤゴコロダンスを見せ付けられたウルトラ長男です。
永琳……私に一体何を伝えたかったんだ……。

そして貫咲賢希様がまた素晴らしい絵を沢山書いて下さいました。
ttp://www.pixiv.net/member_illust.php?id=691258
この場を借りて感謝いたします。


第46話 強さへの一歩

 今年の『闇の魔術に対する防衛術』は論外だ。そう誰もが思った。

 担任となったドローレス・アンブリッジは実践を不要と断じ、ただ本を読み続けるだけの座学のみを生徒に強いたのだ。

 勿論、こんな授業が役に立つはずもない。

 この授業が本来持つ目的は、もし闇の魔術で襲われた時にどうやって対処するかを教える事にある。

 つまりその本質は実践なのだ。座学ではない。

 例えばマグルの授業において『音楽』がある。当然その授業に座学はあるだろうし本を読んで学ぶ事もあるだろう。

 だが楽器を全く使わず、歌いもしない音楽の授業などはない。

 要はそういう事なのだ。

 

 しかしスリザリン生でこの授業に不満を持つ生徒は驚く程少なかった。

 それというのも、スリザリン生がどちらかと言えば闇の陣営寄りで、実際に死喰い人の親を持つ生徒すらいるからだ。

 闇の陣営から見れば、自分達に対抗する術を学べなくするアンブリッジの無能さはむしろ歓迎すべき物だった。

 そのせいかスリザリン生達はこの座学を受け入れており、むしろアンブリッジに取り入って他の寮の足を引っ張る事すら出来た。

 イーディスにとって意外だったのは、ミラベルが特に行動を起こさず大人しくしている事だ。

 彼女の苛烈さを考えるならば、理論だけで十分と説明するアンブリッジに「なら理論だけで本当に防げるか試してやろう」と闇魔法の1、2発くらい撃っても不思議ではないと思っていたのだが。

 彼女も昔ほど滅茶苦茶ではなくなってきた、という事だろうか。

 

 防衛術の授業は論外だったが、だからと言って他の授業が素晴らしいわけではない。

 今年はOWL試験を間近に控えているという事もあって、どの科目も例年にない厳しさを以て生徒達を苦しめた。

 しかし一方でいい事もある。

 魔法生物飼育学は何故かハグリッドがいなかった為、代理のグラブリー・プランク先生が担当したのだが、これぞまさしく魔法生物の飼育学だと思えるような充実した内容だったのだ。

 ハリー達はハグリッドがいいと口で言っていたが、その表情を見れば心から言っていないのは明白であった。

 また、その授業においてマルフォイが例の如くハリー達にちょっかいをかけていたが、これはまあ、いつもの事だ。今更気にする事でもないだろう。

 それより気にすべき事は他にあるのだから……。

 

 

 

「『ドローレス・アンブリッジ、初代高等尋問官に任命』だってさ。本当にロクな事しないなあ、魔法省は!」

 

 スリザリンの女子寮で、イーディスは新聞を読みながら憤慨していた。

 大半のスリザリン生はアンブリッジに肯定的だが、中には彼女を否定する生徒もいる。

 イーディスはそんな少数派の一人であった。

 闇の陣営に属しているわけでもなく、至って良識派な彼女は勉強を無駄に妨げる魔法省のやり方にイラつきを感じているのだ。

 いや、彼女が腹を立てている理由はそれだけではない。

 

「ハリーも毎日罰則を受けているっていうし! 何で考えもせず嘘だと断定するかなあ!

本当に復活してたら、とか少しは思わないわけ!?」

 

 ビリビリと新聞を破り、怒りに任せて暖炉に放り込む。

 その様子を見ながら、ミラベルはただ可笑しそうにクスクス笑っているだけだ。

 

「おやおや、ご立腹だなライナグル」

「当然よ! ああもう、何でここまで馬鹿なのよあの人達は!」

「まあ落ち着け。お前が怒っても事態は好転しないぞ」

 

 ミラベルは愛用の杖を振ると、イーディスの前にハーブティーを出した。

 これを飲んでまずは気を鎮めろという事なのだろう。

 彼女にしては珍しく気遣いが出来ている。

 

「残念だがポッターとダンブルドアはしばらく嘘吐き呼ばわりされ続けるよ。

奴等の味方は今、驚く程少ない」

「……どうにかならないの?」

「なるさ。闇の陣営に魔法省が陥落させられれば嫌でも事実に気付く」

「そうじゃなくって!」

 

 バン、と机を叩いたイーディスにミラベルはキョトンとし、すぐにまた可笑しそうに微笑む。

 そして優雅にハーブティーを飲むと、ゆっくりとした声で言葉を発した。

 

「ふふ、本当に友人想いなのだなお前は。何故スリザリンにいるのか解らんくらいだよ」

「む~……」

「ま、冗談はさておき現状ではどうにもならんよ。

だが誰しもがポッターの言葉を疑っているわけではない」

 

 イーディスは不満そうな顔をしながらハーブティーに口を付ける。

 そしてまず思った事は、『美味い』という事だった。

 お茶というものは淹れ方一つで味が変わると聞いた事があるが、普段飲む物とはまるで別だ。

 ミラベルに紅茶の心得があったとは思わなかった。

 

「グレンジャーならば現状がいかに不味いかを理解し、近い内に行動を起こすはずだ。

そうしてポッターを信じる者達が奴を守るだろうさ」

 

 ハリーはあれで多くの者を味方に付ける才能がある。

 こんなどうしようもない状況でも路を拓いてくれる友がいる。

 彼は今、確かに苦しい状況にあるだろう。

 だが決して独りではないのだ。

 

「そしてスリザリンにも一人、お前という味方がいるわけだ。奴は恵まれているよ」

「でも私なんかじゃ何の力にも……」

「なれるさ」

 

 ミラベルは優しくイーディスの肩を叩き、柔らかな笑みを浮べたまま言う。

 その声には普段のような問答無用の強制力染みた説得力こそないものの、不思議と心を落ち着かせる響きがあった。

 

「以前言っただろう? 己を守る為の力の使い方を教えてやる、と。

その力で大事な者達を、今度はお前が守ればいい」

「……私、が? 私に、出来るのかな?」

「出来るさ、お前なら」

 

 自分がハリー達を助ける。

 そんな事、イーディスは出来るわけがないと思っていた。

 彼等は特別で、才能に溢れた生徒だ。自分とは違う。

 ハリーやハーマイオニー、ミラベルといった天才に自分が並べるわけはない。ずっとそう考えていた。

 そんな自分がハリーを守る?

 

「この私が教えるんだ。1年でこの学園の教師より優れた使い手にしてやる。

ただし相当厳しいが……ついてこれるか?」

 

 イーディスは少しばかり考えるように目を閉じる。

 だが考えるまでもなく、すでに答えは出ていた。

 ……強くなりたい。置いていかれるだけの自分はもう嫌だ。

 2年生の時に感じたあの無力感を、決して忘れはしない。

 

 ――強くなれ、イーディス・ライナグル。そうすれば悔しい思いをせずに済む。

 

 脳裏に過ぎるのはあの時かけられたミラベルの言葉。

 あれから、勉強には身を入れてきたし魔法の訓練も積んだ。

 ミラベルに教わって守護霊の呪文も使えるようになった。

 だが、まだまだ届いて居ない。この友人の隣に自分は並べていない。

 だから……。

 

「どんなに辛くてもついていく。だからお願いミラベル! 私を、強くして」

「……その返事が聞きたかった」

 

 イーディスの決意を込めた眼に、ミラベルが満足そうな笑顔を見せる。

 そしてイーディスの肩を掴んだまま何かの呪文を唱えた。

 すると引っ張られるような感覚と共に周囲の景色が一変し、まるで洞窟のような場所に立っていた。

 突然の事にイーディスは眼を白黒させて周囲を見渡す。

 

「こ、ここは?」

「『秘密の部屋』だ。かつてバジリスクが住んでいた、ホグワーツでもほとんどの人間が知らない場所だ。

隠れて練習するには持って来いだと思わんか?」

「い、いや! 一体どうやってここに来たの!? 『姿くらまし』は校内じゃ使えないんだよ!?」

「フフフ……お前が思う程この学校の守りは完璧ではないという事さ」

 

 ミラベルの言葉にイーディスがポカン、とした顔になる。

 それはまあ、人間が作ったものな以上完璧なんて事はないだろう。

 しかしそれでも、ここはダンブルドアの張った護りで覆われているのだ。

 それを無視して転移するなど、一体どういうカラクリかは知らぬが、とんでもない事だ。

 しかしその非常識を通してしまうのがこのミラベル・ベレスフォードという少女でもあった。

 付き合い5年目にして、またしても出鱈目ぶりを見せ付けられた気分だ。

 

「さて、私が教える事だが……今更、この学年で習うような箇所を教える気などない」

「ええ!?」

「それではあまりに遅すぎるからな。だから実際に戦う事を想定した魔法のみに絞って教えていく気だ。

具体的には攻撃1種類、防御2種類、移動1種類。それと無言呪文の使い方。

最低限これだけは身に付けておけ、と私が判断したものを中心に教えてやる。

死喰い人との戦い以外なら今までに身に付けた呪文で大体何とかなるから後回しだ」

 

 全部でたったの4つ。

 それだけを最低限必要、と言いきるミラベルにイーディスは怪訝な顔をする。

 本当にそれでいいのだろうか? 呪文というのは数が多ければ多いほど選択肢が増え、戦略に幅が出るはずだ。

 その視線に気付いたのか、ミラベルはわずかに苦笑した。

 

「言いたい事は分かるぞライナグル。より多くの呪文と手札を持ってこその魔法使いではないのか……そうだな?」

「う、うん」

「それは正しい。無数の呪文と知識を抱え、あらゆる事態に対応するのが理想の魔法使いだ」

 

 魔法使いは呪文が多ければ多いほどいい。

 それがほとんどの者が持つ共通認識であり、そして事実だ。

 ミラベルもそこは認めているらしく、正しいと断言した。

 

「だが……ハッキリ言うぞ。お前はまだその域にない」

「!」

「例え100の手札を持っていたとしても、状況に応じてそれを瞬時に選定出来るだけの『土台』がないのだ。

無数の手札とは、それを使いこなせる思考速度と十分な知識があって始めて強力な武器になる。

だが使いこなせない札など、いくら持っていたところで足枷にしかならん」

 

 ミラベルが杖を振ると、どこからかホワイトボードが出現する。

 更にペンが一人でに動き、矢印を書き込んだ。

 その矢印の先に更に多くの矢印が書き足され、無数に分岐している。

 そしてその分岐先には全て『?』と書かれていた。

 これはどの選択肢が正しいのか分からない状況を図にしたものなのだろう。

 

「普通はこうならないように、まず土台からしっかりと固めさせて行く。

幾度にも渡る座学、実習を通して、『どういう時にどうするべきか』、『この状況ではどういう魔法を使うべきなのか』というのを脳と身体に擦りこむのだ。

そして、魔術学校とはそれを教える為に存在する。ここまではいいな?」

「う、うん」

「更に卒業後も経験と勉強を積み、先達の指導や実戦を経て失敗と成功を学び、札を使いこなせるだけの土台を固めていく。

そうして数年に渡る研磨の後、ようやく無数の呪文を使いこなせるようになったのが『闇祓い』と呼ばれるスペシャリスト達だ。この領域に届くにはお前は後5年足りん」

 

 何ともハッキリ言ってくれるものだ。

 5年も足りないと言われても、まあ納得は出来る。

 しかしそれなら今こうして話しているミラベルは何なのだろう?

 ……まあ、彼女なら『天才だから』の一言で済ましてしまいそうなのが恐ろしいところだが。

 この説明を聞けば聞くほど、ミラベルがどれだけ化物染みているか分かるというものだ。

 

「しかし先程言ったように時間が足りん。お前は1年足らずでこの5年の距離を埋め、死喰い人を倒せるようになる必要がある」

「ど、どうやって?」

「まあ焦らず聞け。ここまで長々と説明したが魔法使い同士の戦いというのは究極的には早撃ちだ。

要は相手より先に呪文を当てて意識を奪えば勝ちが決まる」

 

 どれだけの呪文を覚えていようと、意識がないなら使えない。

 それは至極当然、誰でも知っている事だ。

 つまり『魔法を当てる』、『意識を奪う』、この2点さえ成立してしまえば勝ちが確定するのだ。

 

「故にこそ、対抗呪文が存在せず、それでいて当たれば必殺の『死の呪文』が最強とされるわけだ。

これさえあれば『武装解除』も『失神』もいらん。

ならば当然、お前に身に付けて欲しいのはこの呪文なわけだが……」

 

 ブルブルブル、とイーディスは首を振る。

 冗談ではない、と思った。

 当たれば確実に相手を殺す魔法など、覚えていても怖くて使えない。

 ミラベルもその反応は予想していたのか可笑しそうに笑う。

 

「……まあ、当然ながらお前はその優しさから使いこなせないだろう。

使えない札など邪魔なだけ……故にこれは選択肢から捨てよう。

ならば次点として私がおまえに教えるのは、私のオリジナルスペルとなる」

 

 ミラベルは遠くの岩を指差し、イーディスの視線をそちらに向ける。

 彼女がここで教えようとするスペルとは一体何なのだろうか?

 というかこの人普通にオリジナル呪文作ってるんだけど本当に同じ5年生だろうか?

 そんな事を考えつつ、イーディスは岩を凝視する。

 

「決闘で魔法に必要とされる事は、相手より『早く』当て、『回避されず』、『防げず』、そして確実に『意識を断つ』事。更に単純に言えば防御や回避も出来ないほど早ければそれで足りる。故に――」

 

 ミラベルの指先が一瞬光る。

 直後、岩を撃ち貫いたのは黄金の閃光であった。

 後には電気の残滓だけが残り、焦げた岩が『攻撃があった』事実を教えてくれる。

 

「――『雷速』。これが私がお前に教えるたった一つの攻撃魔法だ」

 

 唖然とするイーディスにニヤリと笑みを見せ、ミラベルは言葉を続ける。

 

「人間という生き物は、たった0.02アンペアの電流で自由を失い、0.05アンペアで呼吸を止める。

心臓に当てれば心臓が止まり、0.1アンペアもあれば死に至る」

「…………」

「つまりこいつを相手の呪文完成より速く撃てば絶対に防御は間に合わず、回避も不可能。

そして電流の調節次第で簡単に意識不明から即死まで決める事が出来る。

ま、電流が少なかろうと運が無ければやはり死ぬが……こればかりはな」

「ちょ、ちょっと……」

 

 ドヤ顔で言い放つミラベルに、しかしイーディスは我慢出来ず掴みかかる。

 肩を掴んでがっくんがっくんと揺さぶるもミラベルは笑みを止めない。

 

「ちょっと! なんてもん教えようとしてるのよ!

それ、相手を殺しちゃうじゃない!!」

「殺したく無ければ電流を調節する事だな。簡単だろう?」

「あなた今、電流少なくても死ぬかもって言ったじゃない!」

「そんなものは失神呪文とて同じだ。どう加減しようと人間なんて死ぬ時は死ぬんだよ」

 

 ミラベルはやんわりとイーディスの手を離し、諭すように言う。

 

「それにこいつは攻撃だけじゃない。調節次第では止まった心臓を動かす事も出来る。

上手く使えば命を助ける事にも使えるんだ」

「……!」

「ライナグル、お前のその優しさを捨てろとは言わん。

だがな、戦場で引き金に指をかけたなら決して躊躇うな。

お前と、お前が守りたいと思う者の為にな」

 

 イーディスはミラベルの眼を見る。

 今まで何度も見てきた黄金の瞳だ。

 だがそれは、今までにないほど真剣で、こちらの身を案じているように思えた。

 イーディスはゴクリと唾を飲み、掠れた声で返す。

 

「わ、わかった……」

「いい返事だ。じゃあ早速こいつの使い方を教えるぞ、さっさと杖を出せ」

 

 

 こうして、この日よりミラベルとイーディス二人だけの秘密訓練が開始された。

 また同時期、ハーマイオニーが生徒を集めての自習を計画していたのだが、この時のイーディスにそれを知る由はない。

 

 




ハー子「防衛術を使う事が何も書かれていません!」
アンブリッジ「まあ、このクラスで防衛術を使うような事態になるとお思いですか?」
ハー子「けど、それじゃあOWLの実技はどうするんですか? ぶっつけ本番でやれと?」
アンブリッジ「理論さえ勉強していれば、呪文が使えないという事はありません」
ロマンドー「試してみよう」
アンブリッジ「え?」
ロマンドー「理論だけで守れるか試してみよう」
アンブリッジ「ちょ、やめ、なにをするのですミスターウィーズリー!
やめなさい! 窓から私を突き出して何をする気です!? 離せ、離しなさい!」
ロマンドー「わかった」パッ
アンブリッジ「え? あ、ああああああぁぁぁぁぁぁ……(エコー」
ロマンドー「離してやった」
ハリー「( ゚д゚)」
ハー子「( ゚д゚)」
女生徒達「やだ……格好いい……」

グリフィンドール、50点減点。

(「‐|‐) というわけでイーディス魔改造タイムに入りました。
また、ミラベルが1年度から使っていた黄金ビームの正体判明です。
以下、オリ魔法説明でも乗せておきます。

ヴォルタージュ・イレイド
ミラベル創作の電撃魔法。
わずかなモーションから発射される雷速の一撃。
特にこれといった追加効果などはなく、単純に速く撃つ事だけを突き詰めた魔法。
サラマンダーよりもはやーい!
名前の由来は電圧だか電流だかを適当に翻訳して曲解したような気がする。

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