皆様こんばんわ。最近ハリポタSSが増えて嬉しいウルトラ長男です。
これはハヤル。
「今年も……終わりがやってきた」
3校対抗試合はハリーの優勝に終わり、今年1年に終わりが訪れた。
例年通り最後の学期末パーティーが開かれ、生徒達が大広間に集められるのもいつも通りだ。
だが、皆に語りかけるダンブルドアの口調は重く、鈍く、いつもの朗らかさがまるでない。
まるで話したく無い事を話さねばならないように、彼自身も言葉にして現実と認めるのを恐れているかのように。
しっかりと、一言一言を噛み締めて言葉を発していた。
「今夜は皆に色々と話したい事がある」
ダンブルドアは一度大広間を見回し、生徒達全員の顔を見る。
これから話す事は辛い現実だ。有り得て欲しくなかった、しかしいつか起きると予見していた未来だ。
後ろに控える教師陣全員も厳しい顔をして見守っており、校長の言葉を待っている。
ダンブルドアは一度大きく息を吸い込み、そしてゆっくりと、起こってしまった現実を口にした。
「――ヴォルデモート卿が、蘇った」
最初に大広間を支配したのは、沈黙。
全員がダンブルドアの言葉をすぐには理解出来ず、頭の中で繰り返す。
次に聞き間違いではないか、と疑い周囲を見る。
そしてようやく言葉の意味を理解し、恐怖と動揺から間の抜けた声を発し、隣の生徒が自分と同じ言葉を聞いたのかを確認しようと声を出すのだ。
そのざわめきが収まるまでダンブルドアは声を出さず、再び静かになるまで待った。
そして生徒達が次の言葉を待つようにダンブルドアを見てから、ようやく話を再開させた。
「魔法省は、わしが皆にこの事を話すのを望んではおらぬ。皆の両親にはわしが話したという事で驚愕なさる方もおられるじゃろう。
その理由はヴォルデモートの復活を信じられぬから、または皆のように年端のゆかぬ者に話すべきではないと考えるからじゃ。
しかし、わしは大抵の場合真実は嘘に勝ると信じておる」
嘘を吐き、隠し、今まで通りの生活を送る事は出来る。
何も心配はない、今年もいつも通り平和に終わり、そして来年以降もそれが続いて行くのだと言う事は簡単だ。
だがそうして隠し、欺き、騙した先に何がある? 脅威を先延ばしにして、何の対策もしないのは賢い事なのか?
否だ、それはただの現実逃避に過ぎない。そうダンブルドアは考えた。
だから話すのだ。対抗試合の最後に起こった恐るべき出来事を。
それを逃れたハリー・ポッターの勇気を。
そして今まで以上に皆が力を合わせ、結束する事の大切さを。
どうか、暗く困難な道にあっても進む先を間違えないで欲しいと。我々は一人ではない、側には仲間がいると。そう、強く、言い聞かせるように、老人は語った。
「『例のあの人』が復活……そ、そんな事って……」
「驚く事はあるまい。来るべき時が来た……それだけの話だ」
顔を青褪めさせ、震える声で言うイーディスに、いつも通りの冷静な声でミラベルが言う。
彼女は手に持ったワイングラスを弄び、それから唇をつけて赤い液体を飲み干す。
「奴が生きている事は1年の時、すでに解っていた。ならばいずれ蘇るだろうと本当は誰もが予想出来たはずなのだ」
「で、でも……」
「“でも”考えたくなかった。有って欲しくはなかった。その甘えが目を曇らせ、今日という日を招いたのだ。
そして未だ、魔法界上層部の眼は曇ったままだ」
グラスをテーブルに置き、ミラベルは面白くなさそうに舌打ちをする。
起こってしまった事はどうしようもない。
しかしこれから起こるだろう数々の問題はまるで違う。
そこから眼を逸らし、何の対策を取ろうともしない魔法界には失望しか感じなかった。
「これから、どうなっちゃうんだろう……」
「どうもならんさ。魔法省はこの件に関して目を閉じているのだ。
何も起こらなかったように明日以降も“平穏”が続き、平和に“見える”穏やかな時間が続いていくだろう。
その水面下で準備を整える闇の勢力に対し何の行動も起こさぬまま、な」
嘲るような笑みを浮かべ、ミラベルは語る。
何も変わらない。変わるべき時が今だというのに変わらない。
動かなければいけないのに、動かない。愚者の群れで構成された今の魔法省は何もせず、指を咥えて事態を静観するしか出来ないのだ。
「そしてある日突然壊されるだろう。全ての準備を整えた闇の陣営に横合いから殴りつけられてな。
そうしてようやく手遅れだと気付いて目を覚まし……すぐに死ぬだろう。チェックメイト寸前に起きた所で待つのはゲームセットのみだ」
今の魔法省は赤子の群れだ。いい年した中年、老人、熟女、老婆の外見をした赤ん坊が集り、揃って指とおしゃぶりを咥えて間抜け面を並べている。
黙っていれば誰かが希望という名の哺乳瓶を運んできてくれると思っている。
何もせず乳母車の中で丸まっていれば嵐が過ぎると信じている。
何とも馬鹿な事だ。
「ライナグル、ここから先魔法省は当てにするな。奴らは何も守れんし、何も守らん。
生き延びたくば自らの力で身を守るしかないのだ」
「……出来るのかな、私に……」
「出来なければ私が教えてやる。ダンブルドアの謳う“結束”などという不確かな物では無く、信じるに足る確かな、己だけの『力』、その使い方をな」
ミラベルは小さな微笑みを浮かべ、イーディスへと言う。
「無能の害悪共も魔法省も、どうなろうが私の知った事ではない。
だがライナグル……お前一人くらいなら、守ってやらん事もない」
イーディスはわずかに驚いたように目を見開き、ミラベルを見る。
彼女が笑うのを見るのはこれが初めてではない。いや、むしろふてぶてしい笑みを常に浮べているのが彼女だ。
だが、こうまで何も含むもののない“微笑み”など、果たしてこの4年で何度見た事か。
恐らく、片手で足りる程度の回数なのは間違いないだろう。
「ねえ……変な事、聞いていい?」
「ん?」
「貴女……本当にミラベルよね?」
イーディスの言葉にミラベルは顔をしかめ、気分を害したように眼を鋭くする。
そして指で輪を作ると、イーディスの額に思いきり指を叩き付けた。
俗に言うデコピンである。
「たわけ。お前のその眼は飾りか? それともマッドアイのような義眼なのか?
いっそこの場で取り外してみるか?」
「ご、ごめん! やっぱミラベルはミラベルだった!」
「何を当たり前の事を……お前は一度聖マンゴに入院した方がいいかもしれんな」
ふん、と不機嫌そうに鼻を鳴らし、空になったグラスを置く。
その姿を見ながらイーディスは思う。彼女がここまで不機嫌になるとは、今は本当に不味い時期なのだと。
ミラベルは横暴で、人としては間違えているとしか言えない少女だ。
だが彼女が言う事は何だかんだで常に真実を突いていたのだ。
その彼女がここまで言うのだから、恐らくヴォルデモート復活は事実なのだろう、と何よりも強く信じる事が出来た。
「ねえ……いつ頃、『あの人』は動くと思う?」
「……1年はこの仮初の平和が続くと読んでいる。
そして魔法省の馬鹿共は最低限の警戒心すら失うだろう」
「その後は、魔法界は『あの人』の物になるの?」
「確実にそうなる……誰かが何とかしない限りな」
誰か、とミラベルは言うが現状で闇の陣営に対抗して動く人物など限られている。
魔法省が頼れない以上闇祓いもほとんど機能しないだろう。
そんな中で闇の陣営相手に反旗を翻す誰かがいるとすれば、それはやはりダンブルドアを置いて他にいない。
「ダンブルドア先生は、どうする気なのかな?」
「……さあな。だが、奴もすでに魔法省を見限っているはずだ。
ならば魔法省に気付かれぬ程度に、裏で動くはずだ」
魔法省はもう当てにならないし脅威でもない。
ダンブルドアもヴォルデモートも、そこは共通認識のはずだ。
ならば後は、どちらがより素早く裏で動けるかだ。
「すでに水面下での戦いは始まっている……覚悟しておけライナグル。来年は、荒れるぞ」
今までにない真剣さで告げられた言葉。
その重みに、イーディスは唾を呑んで顔を強張らせた。
帰りの列車は、暗い雰囲気で満ちていた。
無理に明るく振舞おうとする者、一言も話せぬ者。
彼等の脳内を占めるのは唯一つ、ヴォルデモートの事だ。
ダンブルドアが嘘を言っているとは思えない。
しかし今回ばかりは嘘であって欲しい。
そうした思考が車内を暗く淀ませているのだ。
「やっぱり日刊預言者新聞にも『あの人』の事は一文も書かれてない、かあ」
はあ、と溜息をついてイーディスは新聞を鞄へ押し込む。
クシャクシャという紙が潰れる独特の音が響き、新聞紙は鞄の口に飲み込まれていった。
「リータ・スキーターならあるいはスクープとして取り上げるかもしれない、と思ってたんだけどね」
「やめておけ、あの女は期待するだけ無駄だ」
どうやらミラベルはリータの事を快く思っていないらしい。
まああの捏造まみれの記者はミラベルの好みからは程遠いだろう。
そう納得し、イーディスは背もたれに体重をかける。
何か遠くでマルフォイの悲鳴と爆発音のような音が聞こえたが、列車内は平和なものだ。
叶うならば、こんな平和がずっと続いて欲しい、とイーディスは思う。
グリフィンドールとスリザリンがいがみ合って、クィディッチに学校中が狂喜する。
自分の隣には尊大で我の強すぎる友人がいて、ハーマイオニーやハリーと一緒に厄介ごとに首を突っ込む。そんな日々が、来年からは失われるかもしれない。
そう思うと、何だかやりきれない気持ちになってしまう。
「ねえミラベル」
「何だ?」
「……私達さ、来年以降もずっと友達だよね?」
「さあな。お前が闇の陣営や魔法省に与するなら、友と思わんかもしれん」
割と真面目に言ったはずのイーディスの問いを、ミラベルは冗談めかして返す。
だがこれは逆を言えば上記の条件さえ満たさなければ友達と思ってくれるという事だろうか。
ミラベルの本心は掴み難い。
だが、何となく。
今回は、嘘も誤魔化しも口にしていないような気がした。
*
同時刻――監獄、ヌルメンガード。
そこはかつて闇の魔法使いグリンデルバルドが作り上げた、敵対する者を閉じ込める為の場所だ。
しかし1945年にダンブルドアとの決闘で敗れ、以降は魔法省管理の監獄として利用されている。
その最下層、最深部を歩く影があった。
顔立ちなどは分からない。
その人物は全身を血のような真紅の外套で覆っているからだ。
頭もすっぽりとフードで隠されており、かろうじて分かるのはフードからはみ出ている金色の髪のみだ。
身長はやや低めだろうか。恐らく150程度だろう。
コツン、コツン、と外套の人物が歩くたびに乾いた足音だけが監獄の中に響き渡る。
普段ならばそこにいるはずの看守や警備兵はどこにいったのだろう? 何故誰も彼、ないしは彼女に付き添っていないのか。
その理由は床に転がる大量の死体が教えてくれた。
それらこそ、この監獄を守っていたはずの看守達だ。
彼等は例外なく、まるで巨人にでも掴まったかのように、常識外れの力で首を“捻じ切られて”いたのだ。
恐らくはそれを為したのであろう小柄な影は一つの牢の前に立つと、口を開く。
「ゲラート・グリンデルバルドだな?」
「……何者だ?」
思いの他高い声に反応し、返されたのはしゃがれた声だ。
長い監獄生活ですっかり衰弱したのだろう、その声にはかつて魔法界全体を震撼させた凄味はない。
しかし暗闇の中で、目だけがギョロギョロと不気味に動き、来訪者の正体を掴もうと輝いていた。
「名などどうでもいいが……そうだな、呼び名がないと不便か。
では『ノスフェラトゥ』とでも名乗っておこう」
「不死の王、だと? 大それた名だ」
「ふふ、やはり不死の名を冠されるのは不服か? かつて死の超越を望んだ男よ」
嘲るように話すフードの人物……ノスフェラトゥにグリンデルバルドは厳しい視線を向ける。
数秒の沈黙の後、先に口火を切ったのはやはりノスフェラトゥだ。
ソレは口角を持ち上げ、不敵に言い放つ。
「貴様を迎えに来た、ゲラート・グリンデルバルド。
今一度、貴様の雷名を魔法界に轟かせる気はないか?」
マルフォイ「もう手遅れだポッター! 闇の帝王が戻ってきたからにはそいつらは最初にやられる!
言った筈だ、友達は選ぶべきだと! 穢れた血や血の裏切り者は真っ先に殺されるだろう!
いや、2番目か……1番目はセドリック・ディゴリー……」
ディゴリー「生きてるわボケェェェェェ!!」
マルフォイ「フォォォォォイ!?」
※ハリーPTにセドリックが加入しました。
コーホー(「‐|‐)今回はダンブルドアの話とミラベル&イーディスの会話、そして新キャラのノス何とかさんとグリ何とかさんの会話でお送りしました。
原作ではあっさりヴォルさんに殺されてしまったグリ何とかさんですが、このSSでは健康状態回復させて戦場に放り込みます。
ダンブルドアVSグリンデルバルドとか、一度でいいからやってみたいですし。
え? グリさんいないとヴォルさんがニワトコの杖に辿り付けない?
……別にいいんじゃないでしょうか? あれ持ってるとヴォルさん自滅しちゃいますし。