ハリー・ポッターと野望の少女   作:ウルトラ長男

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ハー子「この、卑怯で下劣で汚らわしい悪党!」
マルフォイ「フォォォォォォイ!?」
ハリー「あ、あれは!?
相手の背後から両足を内側から引っ掛け、両手をチキンウイングで絞り上げるあの間接技こそは紛れも無くパロ・スペシャル!
すでにマスターしていたのか、ハーマイオニー!」
イーディス「ストップ! ストーップ! 折れちゃう、それ以上やると折れちゃうから!?」

|・ω・)∩  (((┌┤´д`;├┐<オ,オレハオマエノケンポウデハシナン!サラダバー!
皆様こんばんわ。伏線っぽいものは大体後付け設定のウルトラ長男です。
今回はイーディスが参加する原作イベント、という番外編でお送りします。
といっても凄い微妙な活躍なんですけどね。


番外 ワームテール

 バックビーク処刑の話を聞き、いてもたってもいられなくなったハリー達であったが、結局のところ彼等に出来る事など何もなかった。

 すでに決定した事を覆す力など、13歳の少年少女に過ぎぬ彼等が持ち合わせているはずなどなかったのだ。

 意気消沈したようにハリーとハーマイオニーが歩き、二人を元気付けようとイーディスが肩を叩く。

 ハグリッドはせめて残酷な最後をハリー達に見せぬよう彼等を追い払ったが、それがまたハリー達には辛かった。

 痛みを共有する事すら適わない。きっと今頃はバックビークが処刑され、その首を落としている頃だろう。

 遠くから聞こえてくるハグリッドの涙混じりの雄叫びが嫌でもそれを教えてくれる。

 

「どうしてあの人達、こんな事が出来るの?」

 

 ハーマイオニーは嗚咽を漏らしながら、魔法省の残酷さを非難する。

 ハリーやイーディスはそれに答える術を持たず、ただ沈黙だけを守っていた。

 これが学生の限界なのか? 本当に出来る事はなかったのか?

 何度自問しても答えは出ず、暗い気持ちになるだけだ。

 そうして歩いていると、ふとハリーは視界の端に懐かしいものを見付けた。

 それはこの1年全く見なかった、そして今この学校にいるはずのない生き物の姿だ。

 

「……スキャバーズ?!」

 

 視界に映ったそれは鼠であった。

 スキャバーズと名付けられた、今は聖マンゴに入院しているはずのロンのペットであった。

 ロンがいないのに、何故スキャバーズが?

 そう疑問に思うハリーの前でスキャバーズは走り出し、暴れ柳へと向かう。

 それを見るや、ハリーは思わず走り出していた。

 

「ちょ、ハリー!? どうしたの?!」

「スキャバーズだ! スキャバーズがいたんだ!」

 

 驚いたようにハリーを呼ぶハーマイオニーに、スキャバーズの事を話す。

 イーディスだけは事情が飲み込めていないようだが、ハリーの後を追うように少女二人も慌てて駆け出した。

 小さな鼠は暴れ柳の根元にあった穴の前へと走り、ハリー達もその後に続こうとする。

 だが、枝を振り回す暴れ柳が邪魔でそれ以上進む事が出来なかった。

 

「くそっ、どうすれば……」

 

 ハリー達が近づけないでいると、まるでそれを見かねたかのようにスキャバーズが木の節の一つに飛び乗った。

 するとどうだろう。暴れ柳は先ほどまでの暴れぶりが嘘のように大人しくなり、動かなくなったではないか。

 呆然とするハリー達の前でスキャバーズは再び走り出し、穴の中へと入り込んでしまった。

 ……いけない、見失ってしまう。

 慌てて駆け出そうとしたハリーだったが、そこにイーディスが待ったをかけた。

 

「ハリー、待って! あの鼠、何だか貴方を誘い出そうとしてない?」

「きっと僕達に見せたいものがあるんだよ!」

 

 イーディスは鼠の妙な動きに警戒を抱いたようだが、あれはロンのペットだった鼠だ。

 自分にとって悪い結果を運んでくるはずがない。

 そうハリーは考え、イーディスの制止を振り切って穴の中へと入っていった。

 ハーマイオニーとイーディスも、腑に落ちないものを感じながらも仕方なくハリーの後に続く。

 

 穴の中は狭く暗いトンネルであった。

 3人は杖に明かりを灯してゆっくりと進み、スキャバーズを探す。

 かなり長い通路だ……少なくとも数十分は歩いている気がする。

 やがてトンネルを抜けた3人は雑然とした、小さな部屋へと到達していた。

 家具という家具は壊れ、窓には全て板が打ち付けられている。

 

「ハリー……ここ、『叫びの屋敷』の中だわ」

 

 ハーマイオニーが小さな声でそう言った事で、ようやくハリーは自分達の現在地を理解した。

 『叫びの屋敷』……ホグズミード村の観光地の一つで、満月の晩に人の気配もないのに叫び声が聞こえる事からそう名付けられたという場所だ。

 しかし何故スキャバーズはこんな場所を知っているのだろうか?

 そう疑問に思っていると、ふとイーディスは部屋の隅の暗がりに誰かが隠れている事に気が付いた。

 

「インカーセラス! 縛れ!」

「……ッ」

 

 突如飛来した3本のロープがハリー、ハーマイオニー、イーディスに巻き付き、その動きを封じた。

 予想だにしなかった事態にハリーは倒れ込み、自分達に魔法をかけた犯人を睨む。

 暗がりの中から出てきたそれは、小柄で痩せ細った男であった。

 色褪せた髪はクシャクシャに乱れ、頭の天辺は禿げている。

 皮膚は薄汚れ、尖った鼻や小さな目がなんとなく鼠を思わせた。

 手にしている杖は去年ロンが使っていた学校支給の杖だ。

 

「お、お前は誰だ!?」

 

 地面に倒れた姿勢のまま、ハリーはせめて気持ちだけは強く持とうと強気に叫ぶ。

 だが男はニタニタと嫌らしい笑みを浮べたまま、まるで動じた様子を見せない。

 

「誰だ、とは挨拶だ……私は君が入学してからずっと、一緒にいたというのに」

「何の事だ?! 僕はお前なんか知らないぞ!」

 

 入学してからずっと? 何を馬鹿な、とハリーは思った。

 入学以来ずっと一緒にいたのはハーマイオニーや、今はここにいないロンだ。

 断じて目の前の小汚い男などではない。

 しかし彼は「いや、いや」と馬鹿にしたように言葉を続ける。

 

「私はずっと一緒にいた……君の目の前でロナルドに魔法をかけられそうになった事もあった……。

ロナルドはいつも私を役立たずと言い、君のフクロウを羨ましがった」

「……何を、馬鹿な事を……」

「わからないかい? 私はスキャバーズだよ、ハリー・ポッター」

 

 自らをスキャバーズ、と名乗った男にハリーとイーディスが息を飲む。

 一方、ハーマイオニーは驚いたように「動物もどき」と呟いていた。

 

「そして私はかつてピーター・ペティグリューという生徒でもあった」

「! 嘘だ! 彼は死んだはずだぞ!」

 

 ハリーは思わず、大声で彼の言葉を否定していた。

 ピーターペティグリュー……かつて父の親友だった男の名だ。

 そして、父と母が殺された時、無謀にも単身でシリウス・ブラックに挑み、指一本だけを残してこの世から消されてしまった哀れな男の名前だ。

 それがここにいて、自分達を攻撃などするはずがない!

 しかし、そのハリーを嘲笑うように男は語る。

 

「そう、私は死んだと周囲に思わせた……指一本を引き換えに、まんまとシリウスを出し抜いた……。

あの、何をするにも優秀で皆の羨望の的だったシリウスを、私が初めて上回ったのだ」

 

 ハリーの知る情報が正しいならば、この男は味方のはずだ。そうでなくてはならない。

 しかし何故だろう、ハリーは彼が味方などとまるで思えなかった。

 その暗く濁った目には、薄汚い邪心しか見えて来ない。

 

「どういう、ことだ? お前は父さん達の仇を討つためにシリウス・ブラックに挑んだんじゃないのか?」

「そう世間には思われている……我ながら素晴らしい機転だったと思う。

私が本当の秘密の守人だった事を知るのは、シリウスだけだ」

 

 ……ハリーは、一瞬彼の言葉が理解出来なかった。

 サラリと口にしたその事実を、飲み込みたくは無かったのだ。

 今こいつは何と言った?

 本当の守人? この鼠のような男はそう言ったのか?

 

 『秘密の守人』。

 それは親しい者を身を隠す鉄壁の護りだ。

 建物などにかける認識阻害の最上位であり、その場所を知る『守人』が口を割らぬ限り決して誰もそこには立ち入れない。

 かつてジェームズとリリーはこの魔法によって安寧を手に入れ、その守人にシリウス・ブラックを選んだ。

 だからこそ、世間は……そしてハリーはシリウスが両親を裏切ったと信じて疑わなかったのだ。

 

「お、お前が? お前が、父さんと母さんを……?」

「仕方が無かったのだ……闇の帝王は逆らうにはあまりに恐ろしい相手だった……。

だから私は帝王に秘密を打ち明け、お許しを頂いた……。

しかし帝王は幼い君に敗れ、私は居場所を失ってしまった」

 

 先ほどまで惨めに見えていた男が、急に途方もなく醜いものに見えてきた。

 こいつが……こいつが、両親を裏切った! こいつが両親を殺した!

 憎悪で視界が歪み、血が滲むほどに掌を握り締める。

 

「シリウスは私を殺そうと追いかけてきた……だが、私が勝った。

彼はアズカバンに入れられ、私は安寧を手にした」

 

 小汚い男はニヤニヤと笑いながら、勝ち誇るように言う。

 ハリーはすぐにその顔をブン殴ってやりたい気持ちになったが、身体がまるで動かせない。

 今ほど自由に動きたいと思った事はなかった。

 自分の身を守るためではなく、相手を殺す為に自由が欲しかった。

 

「しかし私は追われていた。シリウス・ブラックだけではなく、他の死喰い人から……。

仕方の無い事だった……私の情報で帝王は力を失った。だから私が敵意を持たれるのは当然の事だ。

だから私は身の安全を計る為に魔法使いの家にペットとして飼われる事にした……惨めな生活だったが、それでも私は安心を得て幸福だった」

 

 友を裏切って得たのは、そんな人間以下の生であった。

 しかしそれでも彼にとっては幸福だったらしい。

 何者にも脅かされぬ生。それ以上に彼が望むものなどなかったのだ。

 

「しかし、それももう終わりだ……シリウスが私を殺す為にホグワーツにやってきてしまった。

この学校の外に出れば死喰い人に見付かる……ここに残り続ければシリウスに殺される……。

私はもう、君の命を手土産にして帝王に下る以外に道がない」

「この……下衆野郎……!」

 

 淡々と語るピーターに、ハリーが殺意を募らせる。

 両親の仇が目の前にいる。なのに何も出来ない!

 こんな悔しい事があっていいのか。

 

「恨まないでくれ……私は、こうするしかないんだ」

 

 自分は悪くない。仕方の無い事だ。

 そう言い訳をしながらピーターは杖を上げる。

 恐らくここから、何らかの闇の魔法が撃たれるのだろう。

 それがわかっていても何も出来ない。

 ハリーは悔しさに歯を噛み閉め、ピーターを睨み続ける。

 そして――。

 

 ――イーディスが、ピーターを横から蹴り飛ばした。

 

「おごっ!?」

 

 きりもみ回転しながらピーターが地面に墜落し、イーディスを見る。

 縄が、ない。

 確かにハリーやハーマイオニーと一緒に捕らえたはずなのに、完全に脱出してしまっている。

 ピーターはこの理由がわからず混乱するも、イーディスにしてみれば何ら難しい事ではなかった。

 彼女がやった事は唯一つ、『縛られる前に杖を手にした』……ただそれだけであった。

 ほんの1秒の差でピーターに気付いたイーディスは杖を持ち、しかし間に合わずに縄に縛られた。

 だが杖を手にしているならば魔法は使える! だからこそピーターの縄を切り裂き、ただ一人こうして立ち上がる事が出来たのだ。

 

「この……邪魔を、するなァ!」

 

 ピーターが怒りの形相で杖を抜き、それと同時にイーディスも魔法を使う。

 

「ステューピファイ!」

「ロコモーター・アイ!」

 

 イーディスが唱えたのは、物質移動の呪文だ。

 ロコモーターという汎用性の広い魔法で、呪文名の後には運びたい物の名称が入る。

 イーディスはその対象に自らを選択する事で飛翔!

 赤の閃光を避け、空中で回転! 落下の速度も合わせた回し蹴りをピーターの肩に叩き込んだ。

 

「がっ!?」

 

 痩せ細った男は苦痛に呻きながらもイーディスに杖の照準を合わせようとする。

 だがそれより速くイーディスは彼の視界から消えていた。

 一体何処に?

 そう困惑するピーターの背後から、魔法によってのみ成立する高速移動でイーディスが肘打ちを叩き込んできた。

 

 魔法による戦いとは、その大部分が魔法による射撃である。

 杖を向ける、呪文を唱える(場合によっては唱えなくてもいい)、そして魔法を撃つ。

 この3動作、あるいは2動作を挟んで成立する攻撃がほとんどだが、逆を言えば照準を合わせられなければどうしようもない。

 地面に倒れ込んだピーターは咄嗟に上体を起こしてイーディスを探すも、すでにイーディスは彼の視界から消えていた。

 そして再び死角からの打撃が彼を吹き飛ばした。

 

「がっ……!? ま、魔法使いのくせに何て原始的な……!?」

「悪かったわね」

 

 イーディス・ライナグルは元々実技を得意とする生徒である。

 もっと突き詰めて言うならば、実際に身体を動かすのが得意な感覚型の魔法使いである。

 頭で考えるよりもまずは動く。

 『これはこう使う物だ』、『これは本来こういう用途に用いるものだ』。

 そういう思考の制約が彼女にはない。授業中に語られるそれらの事を半分くらいは脳の外に出してしまっている。

 テスト前の3日漬けで覚える事もあるが、テストが終わればやはり忘れてしまう。

 そんな彼女だからこその、この出鱈目な魔法の使い方であった。

 

 しかし――しかしやはり、経験においてはピーターが勝る。

 痩せ細った狡猾な男はハリー達を視界の端に捕らえ、ニタリと怪しく笑った。

 それを見て意図を察したのだろう。

 イーディスが慌ててハリー達を庇うように回りこみ、それと同時にピーターは魔法を撃ちこんでいた。

 

「ステューピファイ!」

「ッか、は……!」

 

 ハリーとハーマイオニーを見捨てる事が出来なかったイーディスは正面から失神呪文を受け、吹き飛ばされてしまった。

 杖を取り落とし、壁に激突してそのまま力無く崩れ落ちる。

 意識はかろうじて保っているようだが、放っておけばすぐに落ちることだろう。

 ピーターはゼイゼイと息をつきながらも、勝ち誇ったように笑う。

 

「終わりだ……これで、今度こそ終わりだ……!」

 

 ハリーとハーマイオニーを縛っているロープは相変わらず解けないままだ。

 何とかほどこうともがきながら、ハリーはただ己の無力さに歯噛みしていた。

 イーディスが戦っている間、自分が何も出来なかった……それどころか足を引っ張ってしまった!

 何て無力! 何と情けない!

 そんな己への怒りに滾るハリーに向け、ピーターは杖を向ける。

 

 だが、その頭を何者かが突然鷲づかみにした。

 

「ああ、そうだな。終わりだよ……お前がな」

 

 拳が、ピーターの顔にめり込んだ。

 哀れな小男を殴り飛ばしたのは、ピーター以上に痩せ細った男だ。

 髪は薄汚れ、顔は髑髏のように痩せ細っている。

 髭は伸び放題で、服もボロボロだ。

 彼はピーターが落とした杖を拾い、一振りする。

 するとハリーとハーマイオニーの自由を奪っていた戒めが嘘のように解け、彼等を自由にした。

 

「ハリー……ハリー・ポッター……ハリー・ジェームズ・ポッター。

会いたかった……一目君に会いたいと願っていた……我が友の忘れ形見よ」

 

 男は感動に打ち震えるようにそう言い、ハリーの手を取る。

 それはまるで、長年捜し求めた宝物を見付けたような、歓喜に満ちた仕草であった。

 

 

 

 そして、イーディスが見たのは、ここまでであった。

 シリウス・ブラックとハリー・ポッターの邂逅を見届け……彼女の意識は闇に沈んだのだ。

 




∩(・ω・)∩<ソレニシテモアナタハユリアニヨクニテイル
ハリー「!?」

というわけでイーディスの微妙な参加編でした。
この後は原作とあまり変わり無く、ルーピンが来たりスネイプが来たりしながらワームテールを捕らえ、途中でルーピン先生が狼になって事態をかき乱し、ハリーとハー子がタイムターナーで過去に戻り……となります。
イーディスはその間ずっと気絶しっぱなしで参加すらしません。
実は守護霊魔法そこそこ使えるので、居たら役に立ったんですけどね。
これぞ脇役補正。

明日から炎のゴブレット編に入ります。
とりあえず夏休み編を朝に上げて、18時に通常の投稿をしましょう。

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