ハリー・ポッターと野望の少女   作:ウルトラ長男

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(*M*)<カカッタナ!
皆様こんばんわ。今頃になってGジェネDSをやり始めたウルトラ長男です。
スパロボはよくやるのですが、今までGジェネには手を出してなかったんですよね。
ヒャッハー! エルメスを解体してジオング作成だー!


第21話 未来の帝王

 トム・リドルは語る。一連の事件の犯人はジニー・ウィーズリーであった、と。

 彼女はふとした事からトムの日記を手に入れ、そこに様々な事を書き込んだという。

 例えば学校で起こった事、兄達がからかう事、お下がりの用品で学校に行かなければならない事。

 そして、有名で偉大なハリー・ポッターが自分を好きになってくれる事は決してないだろう、という淡い恋の悩みなどだ。

 それに対しトムは親身になり、時に同情し、時に親切にしてやる事で彼女の信頼を得ていった。

 だがそれこそジニーを破滅させる為の悪魔の罠。

 彼女が日記に心を寄せれば寄せるほど、友情を感じれば感じるほどに彼女の魂は日記に注ぎ込まれ、トムは力を得ていった。

 それどころか遂には実体化出来るだけのエネルギーを手に入れ、今度は逆にジニーの中に己の魂を注ぎ込み始めたのだ。

 そうする事で彼女を操り、何の罪もない少女に一連の事件を引き起こさせてきたのだ、この男は。

 

「っ、許せない!」

 

 会話の途中だというのに杖を振り上げ、声を荒げたのはハーマイオニーだ。

 もうこの男の話など聞く必要はない。この外道は今すぐ倒してしまうべきだ。

 そう判断した彼女は躊躇なく呪文を放つ。

 

「フリペンド! 破壊せよ!」

「おっと、せっかちなお嬢さんだ」

 

 ハーマイオニーの杖から放たれた青い光球を、トムは杖を軽く薙ぐだけで振り払う。

 しかし彼女の攻撃は終わらない。二発、三発と連続で光が放たれ、トムを狙い撃った。

 だが、通じない。その全てが杖の一振りで弾かれてしまっている。

 

「無駄だよ。2年生にしてはやるようだが、僕には通じない。

それともハリー・ポッター、君が何とかするかい? 偉大な闇の帝王を打ち破った力をここで見せてくれるのかい?」

「闇の帝王……ヴォルデモート? 何であいつの名前がここで出てくる!」

「僕は見たいのさ。何ら特別な魔力を持たない赤ん坊がどうやって偉大な不世出の魔法使いを打ち破ったのか!」

 

 ハリーにはわからなかった。トム・リドルは50年も前の魔法使い。即ちヴォルデモートよりも前の世代の人間だ。

 その彼がどうして後年に出てきた魔法使いを気にし、ましてや偉大な存在などと呼ぶのか。

 その疑問に答えるように、トムは言う。

 

「わからないかい?

ヴォルデモートとは僕の過去であり、現在であり、そして未来なのだ、ハリー・ポッターよ」

 

 言いながらトムは杖を振るい、空中に文字を書いた。

 描かれたそれは彼自身の名前だ。

 

 “TOM MARVOLO RIDDLE(トム・マールヴォロ・リドル)”

 

 彼はもう一度杖を振る。

 すると空中に書かれた文字が動き、その並びが変わっていく。

 かくして出来上がった文字を見てハリーとハーマイオニーは小さな悲鳴をあげた。

 

“I AM LORD VOLDEMORT(私はヴォルデモート卿だ)”

 

 その瞬間全てに合点がいった。

 何故秘密の部屋を開けるような事をしたのか。

 何故マグル生まればかりを狙っていたのか。

 何故、ハリーに疑いがかかるように仕向け、ヴォルデモートの事を気にするのか。

 彼こそがヴォルデモートだったのだ! この少年が後に成長し、ハリーの両親や多くの魔法使いを殺すのだ!

 

「ハリー、聞かせてもらおうか。二度も君は僕と出会った。そして2回とも僕は君を殺し損なった。

君はどうやって生き残った? 全て聞かせてもらうぞ……長く話せば君とそこの友人はそれだけ長く生きていられる事になる」

「1度目は、わからない……どうして君が力を失ったのか、僕が知りたいくらいだ。

でも何故殺せなかったかはわかる。母が僕を庇って死んだからだ! 母は普通のマグル生まれの母だ!」

 

 ハリーは怒りを抑えるように、ワナワナと震えながら言う。

 

「君が僕を殺すのを、母が食い止めたんだ! 僕は本当の君を見たぞ、去年の事だ。

落ちぶれた残骸だ、かろうじて生きている。そして……そして、その醜い残骸はスリザリン生のミラベル・ベレスフォードによって踏み潰された! 今の君は1年生の女子生徒にも勝てない、汚らわしい残骸だ!」

 

 その罵倒を聞き、トムの顔が醜悪に歪む。

 だがすぐに取り繕い、ぞっとするような笑みを浮かべた。

 

「なるほどなるほど、君の母が君の為に死んだか。それは確かに呪いに対する強力な反対呪文だ。

結局君自身に特別なものは何も無い……実は何かあると密かに思っていたが、それがわかれば十分だ。

ならば早々に君を片付けて、次はミラベル・ベレスフォードを殺す事にしよう」

 

 トムがハリーへと杖を向け、それと同時にハーマイオニーが動く。

 今ハリーは丸腰だ。ならば自分が守るしかない。

 その思いから恐怖をねじ伏せ、ハーマイオニーは若かりし頃の闇の帝王と対峙した。

 

「ほう、僕と戦う気かい? 僕がヴォルデモート卿と知って尚、名前を聞くだけで震えるか弱い小娘が!?」

「…………!」

 

 トムの言う通り、ハーマイオニーは震えていた。

 闇の帝王の名前は魔法界では禁忌だ。その恐ろしさから呼ぶ事さえ恐れられ、ハグリッドすらその巨体を震わせて耳を塞ぐ。

 マグル生まれのハーマイオニーとてそれは例外ではなく、名前を聞いただけで足が言う事を聞かなくなる有様であった。

 それでも立ち塞がるのは、もう友を失いたくないという一心からだ。

 

「フリペンド! 破壊せよ!」

「無駄だ!」

 

 先程と同じく光を放つが、やはり通じない。

 だがそれでいい。これは自分を振るい立たせる為だけの攻撃だ。

 恐怖に怯える自分への叱咤だ。

 闇の帝王が何だ! その若き日の姿がどうした!

 自分はそれより恐ろしい、あの悪夢のような光景を見たではないか!

 あの時の、返り血で朱に染まり、狂ったように嗤い続けるミラベルの事を思い出せばこの程度の恐怖が何になる!

 

「エヴァーテ・スタティム! 宙を踊れ!」

「イモビラス、動くな」

 

 ハーマイオニーの呪文に対し、トムも魔法で応戦する。

 二人の呪文が中央で衝突し、そして一方的にハーマイオニーの呪文が打ち砕かれた。

 障害物のなくなったトムの呪文が直進するも、ハーマイオニーは即座にそこから飛び退く事で回避し、次の攻撃に移る。

 

「グレイシアス! 氷河よ!」

「フフ……インセンディオ、燃えろ」

 

 放たれた冷気を炎で防ぎ、トムは余裕の笑みを浮かべる。

 やはりレベルが違い過ぎる。

 今のはハーマイオニーが頼りとする呪文の一つだったのだが、いとも簡単に防がれてしまった。

 動揺するハーマイオニーへと向けて、今度はトムが呪文を放つ。

 ただの呪文ではない。無言呪文だ。

 攻撃の正体すら掴めず、ハーマイオニーは地面を転がるようにして避けるしかなかった。

 

「サーペンソーティア! 蛇よ出よ!」

「ヴィペラ・イヴァネスカ、蛇よ消えろ」

 

 ハーマイオニーが反撃で呼び出した蛇を、やはりトムは容易く掻き消す。

 そして再度無言呪文を放ち、避けそこなったハーマイオニーの肩を浅く切り裂いた。

 

 

 

 ――何とかしなくては!

 そう思うも、杖がない現状では何も出来ない。

 友人……それも少女をたった一人で戦わせてしまっている現状にハリーは歯噛みした。

 何かないのか、戦う術は。何でもいい、少しでもハーマイオニーの力にならなくては!

 そう思いながら周囲を見渡すも、見付かるのは石くらいのものだ。

 投げてみるか? しかし、通じるとは思えないし最悪ハーマイオニーに当たる。

 

(杖……杖はないのか!? くそ、僕の馬鹿! どうして杖を投げ捨てたりなんかしたんだ!)

 

 そうして焦っている間にもハーマイオニーとトムの間を何度も魔法が行き来し、閃光を散らす。

 しかし追い詰められているのはハーマイオニーだ。

 トムはその気になれば彼女などいつでも倒せるのを、単に甚振って遊んでいるに過ぎない。

 

(今から戻ってロンの杖を……いや、駄目だ! 間に合わない!)

 

 戦う術がないというのがこんなにもどかしいとは。

 己の無力さにハリーが打ちひしがれ、拳を握る。

 今、戦わなくてはならないのだ。ハーマイオニーを救う為に今、戦う為の力が欲しい。

 

 その思いに応えたのか、それともただの偶然か。付近の柱から炎が燃え上がり、何かがハリー目掛けて飛んできた。

 

 それは不死鳥だった。

 燃えるような真紅の体毛に孔雀のように長い金色の尾羽。

 同じく黄金に輝く爪と嘴を持つ、世界でも有数の美しい生き物。

 ダンブルドアのペットでもあるそのフォークスが、何かをくわえて飛翔していた。

 

「これは……組分け帽子?」

 

 不死鳥が持ってきたのは、ただの組み分け帽子だ。

 あの入学の時に使われる、入るべきクラスを分けるためだけに存在する魔法のアイテム。

 それがハリーの手に落とされ、不思議な重さを手に伝えた。

 ハリーが不思議に思って帽子の中に手を入れれば、一体どうやって入っていたのか、眩い光を放つ白銀の剣が姿を現した。

 手にした瞬間、ハリーは理解する。これはあのトム・リドルやミラベルにすら対抗し得る不思議な力を秘めた剣であると。

 見た目通りのただの剣ではない。それはまさしくハリーが求めて止まなかった友を助ける為の武器である、と。

 

 ハリーは知らないだろう。今自分が手にしているものこそがバジリスクと対になる『グリフィンドールの遺産』である事を。

 かの偉大な魔法使いの意思を継いだ帽子。それが真のグリフィンドール生と認めた者のみが手にする事を許した、勇気の剣である事を!

 

「てええええい!」

 

 ハリーが剣を両手で持ち、ハーマイオニーとトムの戦いに割り込んだ。

 傷だらけの友を庇うように立ち、剣を滅茶苦茶に振るってトムの魔法を次々と切り捨てる。

 普通の剣ならば無論、そんな事は絶対に出来ない。魔法は剣では切り裂けない。

 だがこのグリフィンドールの剣のみが、その神技を可能としてくれる!

 

「ハリー……その剣は!?」

「わからない! フォークスが持って来てくれたんだ!」

 

 ハーマイオニーの疑問に答える術をハリーは持たない。

 だがこれはフォークスが持ってきたものだ。ダンブルドアのペットが運んできてくれた武器なのだ。

 ならば自分はそれを信頼し、全ての力をこの剣に注ぐのみだ。

 こういう時の決断力においてハリーは他の追随を許さない。すでに彼の思考は切り替わっており、何ら迷いなく剣を構えてトムとの距離を詰めた。

 

「でやあ!」

「おっと」

 

 横薙ぎ!

 ハリー本人の剣の腕は素人そのものだが、剣の性能がその差を埋め合わせる!

 強引に振りぬかれた刃が柱をバターのように切り裂き、トムの鼻先を掠める。

 だが当たってはいない。トムは余裕の笑みを崩さぬままそれを避けている。

 

「いい剣だねハリー・ポッター。確かにそれなら、当たれば僕とて無事じゃ済まないだろう」

 

 縦、横、斜めと連続で眼前を経過する剣を前にしてリドルはまるで動じない。

 全ての攻撃を軽く回避しながら、彼は馬鹿にしたように笑う。

 

「だがね、あまりに攻撃がお粗末だ。子供のお遊戯かい? それは」

「くっ!」

「いかに優れた剣だろうと、やってる事は所詮“武器を振り回す”という野蛮で原始的なマグルの戦い方に過ぎない。

そんなものにこの僕がやられるとでも?」

 

 トムが杖を前に出し、ハリーは咄嗟に剣を構える。

 それと同時に魔法で吹き飛ばされ、ハリーは地面を転がった。

 もし剣で防御しなければ今の一撃で意識が飛んでいた事だろう。

 

「たとえ竜を殺せる剣であろうと、当たらなければ意味はない。

どれだけ切れ味がよかろうと剣は剣。子供用の杖にすら劣る代物さ!」

 

 トムの無詠唱魔法が連続で放たれ、それを咄嗟にハーマイオニーが張った障壁が防いだ。

 続けて撃ち出された魔法を今度はハリーの剣が切り裂くが、間髪入れず次の攻撃が襲いかかる。

 2対1の戦いだというのに、二人は完全に後手に回っていた。

 

(勝てない! このままじゃ……!)

 

 ハーマイオニーは刻一刻と失われていく体力に焦りながら、この状況の突破口を探そうとする。

 だが、そんなものはない。使える呪文は全て試したし、出来る事は全部やった。

 その上で通用しなかったのは単純に相手が全ての面で彼女を上回っていたからに過ぎないのだ。

 正面から魔法の撃ち合いを続ける限り、絶対にハーマイオニーはトムに勝てない。

 まるで、決闘クラブでミラベルと戦っていた時のようだ、とハーマイオニーは考える。

 あの時は相手が遊んでいたから何とかやり合えていたものの、今回はそれがない。

 だが、ミラベルの事を思い出した時、ハーマイオニーの脳裏に少女の声が思い出された。

 

――大したものだ。だが戦い方が少しお利口すぎるな――

――フ……ロックハート教諭が言っていたのは“相手の杖を取り上げる事”だけ。ならばこれも立派な戦略だよ、グレンジャー――

 

(どんな方法でも……杖さえ奪えば!)

 

 ハーマイオニーは何かを決断したように目を細め、杖にありったけの魔力をかき集める。

 持てる全てのエネルギーを集束させたフリペンドだ。

 未だ未熟な彼女の魔法といえど、残りの全魔力を込めたそれは熟練の魔法使いの一撃に比肩し得る魔力を秘めていた。

 

「ほう、一撃に賭けたか。無駄な事を」

「無駄かどうか……受けてから言いなさい!」

 

 そう叫び、魔法を発動!

 そして、それと同時に杖をブン投げる!

 

「な!?」

 

 回転しながら飛ぶハーマイオニーの杖はフリペンドを杖先から放ち、周囲全てを無差別に攻撃した。

 その予想だにしなかった攻撃に多少驚いたのか、トムの動きが一瞬硬直した。

 しかしそれでも彼の反応の方が早い! トムはすぐに無詠唱魔法で回転するハーマイオニーの杖を叩き落とした。

 

 だが、今度はその隙を狙いハーマイオニー自らが飛び込んできた!

 

「!」

 

 これにまたも驚かされるも、やはり遅い。

 トムはすぐに体勢を立て直し、杖を彼女へと向けた。

 それと同時にハーマイオニーがトムの腕を取るが、所詮は少女の細腕。杖もなくした今、ここから出来る事など何もない。

 ……何もない、はず……であった。

 

――私は素手でも十分強い。格闘では貴様の勝ちはないぞ――

 

 あの決闘クラブでのミラベルの動きを思い出しながら、ハーマイオニーはトムの腕を捻る。

 ミラベルが使った技の名称は知らないが、その動きは身体で覚えている。

 痛みという対価を払い、あの“マグルの技”をミラベルから(本人にそんな気はなかっただろうが)伝授されている!

 

 正面から杖を突き出してきたトムの腕を取り!

 手首を掴んで、最小限の力で外側に反し、投げ崩す!

 これこそミラベルが使った技の正体。力の無い女子供でも大の大人を投げ飛ばす護身術だ。

 トム・リドルが歯牙にもかけない『マグルの技』だ!

 

「ぐっ!? おのれ、マグル如きの技でこの僕を……!」

 

 まさかの反撃で地面に打ち付けられてしまったトムが屈辱に呻くが、それが間違いだった。

 形振り構わずハーマイオニーが後ろから腰に抱き付き、トムの動きを止める。

 無論年齢でも体格でも劣る彼女がトムの動きを抑え続けるなど、出来るわけがない。

 これはほんの少しの時間稼ぎしか出来ない無意味な、そして無謀な行いなのだ。

 ……一人だった、ならば。

 

「ハリーーーッ!!!」

「わかってるッ!」

 

 ハーマイオニーの叫びに呼応し、ハリーが剣を振りかぶって突進した。

 慌ててトムが杖を構えようとするも、杖が無い。さっき投げられた拍子に落としてしまった。

 そして逃げる事も出来ない。後ろから腰にしがみついているこの少女がいるからだ!

 

「こいつ、離ッ……」

 

 斬ッ!!

 

 ハリーの振り下ろした剣が肩から腰にかけて斜め一直線に斬り裂き、トムの身体から赤い血飛沫が吹き出した。

 殺しを躊躇ったのか、それとも後ろのハーマイオニーを気遣ったのかはわからない。

 だが結果としてトムの身体を両断するには至らず、しかし深い痛手を与える事には成功した。

 ゴプリ、と血の塊を吐き出してトムの身体が傾き、顔から血の気が引く。

 それでも倒れなかったのは、この世ならざる者だからこそ、か。

 

「……馬鹿な……こんな、こんな事……。

この僕が……未来の闇の帝王が、たった二人の2年生に……?」

 

 トムから離れたハーマイオニーとハリーの見ている前で、信じられない、とトムは呟く。

 これは何だ?

 何故自分は無様に血を流しているのだ?

 未来の帝王たるトム・リドルが何故こんな醜態を晒さねばならない!?

 

「何かの間違いだ……あってはならない……こんな、馬鹿げた事……」

 

 ヨロヨロとよろめきながら、トムはハリー達から距離を取る。

 そして手を前に付き出すと、地面に転がっていた彼の日記が浮かび、その手の中に納まった。

 ここは忌々しいが退却するしかない。混乱し切った頭の中で、かろうじてトムはその答えを導き出していた。

 未だブツブツとうわ言のように繰り返しながらも、彼の一部分は冷静なままであった。

 混乱の極地にあってなお、取るべき行動がわかっていた。

 

「忘れないぞ……この屈辱は……!」

 

 激しい憎悪の篭った視線をハリー達へと向け、トムはそこから消え去った。

 姿を隠す透明の魔法だ。

 こんなダンブルドアの得意技を使ってまで逃げるなど、全くもって屈辱の極みだ。

 この怒りはあの二人をただ殺すだけでは到底収まらない。

 叩きのめし、力の差を理解させ、恐怖にその顔を歪ませ、無様にお辞儀させ、その頭を踏み躙って、それでようやく収まる程の耐えがたい怒りだ。

 

 その怒りを胸に抱いたまま、トムは逃走した。

 スリザリンの継承者を自称した未来の帝王が、たった二人の少年少女に敗れたのだ。

 

*

 

「ハァ……ハァ……」

 

 ハリー達から無様に敗走したトムは、姿を消したままトンネル内を歩いていた。

 随分な深手を負ってしまったが、これで死ぬ事はない。

 何せ彼は本体ではなく、所詮は日記の残留思念が実体化しただけのものに過ぎないのだから。

 本体である日記さえ破壊されない限り、トム・リドルが死ぬ事はない。

 それはすなわち、彼に奪われたジニーの魂も戻らない事を意味していた。

 トムはゆっくりと歩きながら、顔に愉悦を滲ませた笑みを浮かべる。

 

(クッ、ククッ……敗走は屈辱だが……すぐに奴等は思い知るだろう。

結局、何も解決出来ていなかった事に……)

 

 今回の事件は、結局のところ何も解決などしていなかった。

 確かにバジリスクは死に、トムも敗走を余儀なくされた。

 だがそれだけなのだ。肝心のトムが滅ぼされていない以上、ハリー達は結局ジニーを救えておらず、事件も解決していない。

 戦いにこそ負けたが、勝負自体はトムの勝利だったのだ。

 

(とりあえず、しばらくは身を隠そう……まずは弱っているだろう本体と合流し、そして今度こそ……)

 

 今は、屈辱を呑んで逃げる。それが最良だ。

 トムは大きく溜息を吐き、そして前に進む為に顔をあげた。

 そして、ふと、気付く。

 

 

 

 ――自らの胸から生えている、血に塗れた真紅の腕に。

 

 

 

「……え?」

 

 呆然と、トムは胸から出ているその腕を見下ろした。

 白い肌の、スラリとした小さな腕だ。

 染み一つない、まるで芸術のような腕が血に塗れ、そしてトムの心臓である日記を鷲づかみにしていた。

 その腕の元を辿って後ろを振り返れば、そこにいたのは返り血で紅に染まった黄金の少女の姿。

 バジリスクを殺してのけたもう一人の怨敵――ミラベル・ベレスフォード。

 嘲るような表情で、悪鬼が哂っていた。

 

「やれやれ、バジリスクを始末したツケが回ってきたな。こうして私が『後始末』に出向かねばならんとは」

「き……さ、ま……!」

 

 ゴフ、と血の塊を吐きながらトムが鬼の形相を浮かべるが、全てが手遅れだった。

 力を失った腕から、ハリーの杖がこぼれ、地面に落ちる。

 最大出力まで高めた悪霊の火が日記を掴んだ腕から放たれ、トムの身体ごと日記を焼却しトムの意識を赤で塗りつぶしていく。

 トムに抗う術などありはしない。

 

 未来の闇の帝王は、何の抵抗も出来ぬままに……一切の痕跡を残さず消滅した。

 




ハー子「身体で技を覚えたわ!」
ミラベル「なにそれ怖い」

(*M*)<カテバイイ……ソレガスベテダ!
今回はハリー&ハー子VSトムでお送りしました。
原作とは違いバジリスクがすでにリタイアしている為、トムさんご自身がボスになってくれましたがいかがでしたでしょうか。
そしてグリフィンソード弱体化のせいで生き残ってしまったトムさんですが、彼が生き残るとジニーが死んでしまうので最後の締めを主人公にやってもらう事にしました。
やはりラスボスにトドメを刺すのはヒーローのお仕事ですからね。

矛盾だらけだったのでちょっと修正。
トムが実体ないから石効かないって言ってるのにハー子が普通に投げてる件→トムもハリーの杖持ってるし、普通に触れる事に変更。

杖ないのに透明化してる件→杖持ったまま逃げた事に変更。多分後でダンブルドアが回収してハリーに渡すよ。

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