皆様こんばんわ。息抜きでSSを書いたらカオスになったウルトラ長男です。
このSSでは全く反映していない……というより意図的に無視しているダンブルドアのホモ設定を全開にした「ダンブルドアッー!と賢者のタイム」というSSを書いてみたのですが、賢者の石編でくそみそテクニックネタを使いきってしまい、秘密の部屋以降どうすればいいかわからなくなり、結局没りました。
私のパソコンにはこういう1話だけ書いて即没った残骸が結構転がっています。
ジャスティンとほとんど首なしニックが襲われてから、すでに4ヶ月が経過していた。
その間、新たに襲われた者はおらず、次第にホグワーツは活気を取り戻しつつあった。
喉元過ぎれば熱さ忘れる、とは日本の諺だが生徒達もそれと同じように継承者の恐怖を忘れようとしていたのだ。
犯人は未だに見付かってすらいないが、きっともう出てこないのだろう、と。
そう何の根拠も無く大半の生徒が信じ込んでしまったのだ。
だがそんな中にあってハリー、ロン、ハーマイオニー、そしてイーディスの4人は変わらず継承者の正体を探り、調査を続けていた。
イースター誕生祭であるこの日も例外ではない。今日もまた普段と同じように図書館に篭り、机を囲んで意見を交す4人の姿があった。
「やっぱりハグリッドに聞いた方がいいんじゃないかな? 今のままじゃ手詰まりだ」
ロンが持っていた本を閉じて、言う。
現在彼らの調べている内容は怪物の正体だ。
今の所の候補は二つ、ハリーが日記で見た毛むくじゃらの生物とイーディスが推測した蛇……可能性が高いのは前者だ。
何せ蛇はイーディスの予測に過ぎないのに対し、毛むくじゃらの方はハリーが過去の映像で実際に見ている。
即ち、少なくとも“実在する”事だけは確かなのだ。
そして毛むくじゃらがスリザリンの怪物だとすれば、一番それに詳しいのはハグリッドという事になる。
「でもハグリッドに学校を追放された時の事を聞くの?」
「なんか、あまり気は進まないわね」
あまり乗り気ではない声でハリーが言い、イーディスもそれに同意する。
追放された時の記憶など、ハグリッドにとっては最も思い出したくない事だろう。
実際ハリー達が何度かその事を聞こうとした時はわざとらしく話題を逸らしていたものだ。
それをわざわざほじくり返す、という真似は極力避けたい事であった。
「うーん……私としてはイーディスの言ってた『蛇』の方向で調べたいんだけどね」
「おいおいハーマイオニー。それは所詮憶測だけのものだろ? それよりハリーが見た毛むくじゃらの方を調べるべきだ」
「確かにロンの言う通りなんだけど……何か引っかかるのよ」
本をパラパラと捲りながらハーマイオニーがうーむ、と唸る。
ハリーが見たと言う毛むくじゃらとイーディスの推測である蛇。
ハーマイオニーは後者の可能性が高いと考えていた。
何故そう思っているのか自分でもわからないが、『蛇』と聞いた時何かが頭の隅で引っかかった気がするのだ。
しかしそれが何なのかがわからない。まるで完成間近のパズルの、たった1ピースを失くしてしまったような不快感。それがハーマイオニーの心にあった。
「まあ、このまま怪物が大人しくしていてくれるのが一番なんだけどね。来週にはクィディッチもあるんだしさ」
「グリフィンドールとハッフルパフだっけ。あーあ、今年はグリフィンドールに優勝杯持って行かれたかなあ……」
今から試合が待ちきれない、という風に話すハリーに、気落ちしたようにイーディスが相槌を打つ。
スリザリンはすでにグリフィンドールに負けており、このまま進めば優勝杯を取られてしまうのが目に見えている。
無論グリフィンドールがレイブンクローやハッフルパフに負けたならまだスリザリン優勝も狙えるが、正直それは淡い期待というものだろう。
何せハリーの才能はあのミラベルすら認めるレベルなのだ。生半可な選手では太刀打ちすら出来ない。
そうして色々な話をしているうちに時間が過ぎ、ハーマイオニーが時計を見て立ち上がった。
「そろそろ授業の時間だわ」
「あ、もうそんな時間?」
「ええ。それじゃあまたね、イーディス」
ハリーとロンを連れてハーマイオニーが図書館を後にし、続いてイーディスも退館した。
次の授業はレイブンクローとの合同授業だ。
無駄に長い渡り廊下を歩き、無意味な仕掛けだらけの階段を登って教室へと向かう。
その途中、イーディスは何かが這いずるような不気味な音を耳にした。
「……?」
顔をあげて周囲を見渡すも、特に何も見当たりはしない。
いや、それどころかすでに大半の生徒が教室への移動を済ませたのか、生徒の姿すら周囲には見えなかった。
だがそんな中で再びズルリ、と何かが這いずる音が耳に響き、イーディスの心臓が跳ねる。
(……気のせいじゃない!)
最初に考えたのは、これがピーブズの悪戯である可能性だ。
だがイーディスはその考えをすぐに脳内から排除した。
ピーブズは1年の頃、ミラベルにこっぴどく叩きのめされており、その友人である自分にも基本近付こうとしない。
次にマルフォイの悪戯も考えたがそれも違う、とイーディスは考えた。
よくは説明出来ないが、何か底知れぬ悪寒を感じる。自分の中の何かが叫んでいるのだ。
これは悪戯なんて生半可なものではない、と。
(何だかわからないけど、この場を離れないとまずい!)
本能的な直感に従い、イーディスはその場から駆け出した。
とにかく、どこでもいいから教師のいる場所へ行かなくては駄目だ。
息が切れるのも構わず全力で疾走し、廊下を駆け抜ける。
しかし這いずるような音は依然として消えず、それどころか自分の後をついてきているようにすら思えた。
「こうなったら……!」
イーディスは方向を転換し、窓へ向かって走った。
こうなった以上授業など二の次、減点されても止む無しだ。
窓から外に出て、まずは倉庫へ向かう。あそこには1年生の飛行訓練で使うシューティングスターが沢山あるはずだ。
その箒で上空にまで離脱する! そうすればこの気配の主も追ってはこれまい。そう考えたのだ。
そして窓の前に到着し、窓枠に手をかける。
後は窓を開けて外に出るだけだ、と思ったその時だ。
まるで鏡のように窓に映し出された、自身の背後の光景。それをイーディスは見た。
“見てしまった”。
「……あ」
イーディスは小さく、絶望したような呻き声を出す。
背後にあったもの。それは巨大な蛇の姿であった。
全長15メートルはあろうかという巨体に口先から出ている赤い舌。
緑色のヌルヌルした体表、そして縦に割れた黄色の瞳孔。
それを見てしまった瞬間、イーディスの身体からは自由が失われた。
手と足の指先からジワジワと失われていくように感覚が消えていき、意識すらが遠のいていく。
ここにきてイーディスは確信した。やはり自分は間違えてなどいなかったのだ、と。
だが気付くのがあまりにも遅すぎた。今からではもう、ハーマイオニー達に真実を知らせる時間すら取れそうに無い。
「ミラ……ベル……」
最後に掠れた声で呟いた名には一体どんな意味があったのか本人にもわからない。
無意識で助けを求めたのか、それともただ口から出ただけなのか。
それすらわからぬままにイーディスの意識は閉ざされ、身体は石になったように動かなくなる。
そして、ゆっくりと床に倒れ込んだ。
*
校内は、4ヶ月前と同様に騒然としていた。
いや、あるいは4ヶ月前よりも更に混乱の坩堝に陥っていたかもしれない。
大人しくなったと思っていた怪物が再び動いた事もそうだが、何より生徒達を不安がらせたのは犠牲者がスリザリン生だった、という事だ。
『スリザリンの怪物』というくらいなのだからスリザリン生だけは襲われないと、そう無条件に考えていたのに、それがあっさりと覆された。
その事によりスリザリン生までもが恐慌状態に陥り、収拾のつかないパニック状態になってしまったのだ。
「ど、どうしてだ!? スリザリン生は襲われないんじゃなかったのか!?」
「何でスリザリンの継承者がスリザリン生を攻撃するんだよ!」
「もうこんな学校にいられるか! 俺は帰るぞ!」
あちこちで恐怖の叫びがあがり、全員が口々に騒ぎ立てる。
その騒ぎの中心にあるのは物言わぬ石と化したイーディスの身体だ。
目を見開いたまま床に横たわるそれに近付く者は誰もおらず、全員が囲むように距離を取っている。
教師達が近付こうとしてもパニックを起こした生徒達は言う事を聞かず騒ぐのみだ。
しかしその混乱を一声でねじ伏せる少女が、この場に到着していた。
「うろたえるな、愚か者共」
この騒ぎの中にあっても不思議と全員の耳に届く、透き通った声。
それが生徒達を沈黙させ、わずかばかりの冷静さを取り戻させた。
まるで声そのものに魔法がかかっているかのような人心支配力。王者の一喝の如き制圧力。
こんな事が出来る人物などこの学校には一人しか存在しない。
「道を開けろ」
「お、お嬢!」
声の主……ミラベルが周囲の生徒を強引にどかしながら輪の中に入り、倒れているイーディスの横に膝をつく。
そしてその症状を確認し、とりあえず死んではいない事を確かめた。
スリザリンの怪物……バジリスクの眼は直視してしまえば即死を免れないという危険極まりない代物だ。
しかし直視を避ける事でその効果は落ち、即死を免れて石化で済ます事も出来る。
イーディスが見たのは窓に映ったバジリスクの眼だ。だから彼女は死なずに済んだ。
だが問題は彼女が何故狙われてしまったか、だ。
「ベ、ベレスフォード! これはどういう事なんだい?!」
「……簡単な事だ。怪物は“純血以外を襲う”……スリザリン生だろうと例外ではなかったという事だ」
恐怖を滲ませたマルフォイの問いにミラベルは静かに答える。
何故イーディスが攻撃されたか、は冷静に考えれば簡単な事だ。
“彼女は純血ではなかった”。
思えば最初からヒントは転がっていた。
去年の入学式の際、ミラベルはイーディスと初めて出会ったわけだが、その時の言葉は今でもハッキリと覚えている。
『ねえ貴女。組分けの時、風格が凄かったけど……何か特別な生まれだったりする?
あ、私イーディス・ライナグルっていうの。3代続いてる純血の家系よ』
第一声でいきなりこちらの生まれを気にして、その次は自分が純血の家系である事のアピール。
今にして思えばこれがもうおかしかった。
あれは「自分は純血だから差別しないでくれ」と、必死に言い繕っていたのだろう。
純血でなければ『穢れた血』と言われて差別されるのがスリザリンの風潮だ。恐らくイーディスはそれを知っていたのだろう。
だからあんな不自然な自己紹介をしていたのだ。
『スリザリンにも、純血じゃない生徒はいる。けどそういう生徒は自分からは絶対にその事を言わないの』
『そう、すっごく下らない。でもその下らない事が重いんだよ。
自分を偽って、純血だって嘘付いて、周囲と一緒にマグル生まれを馬鹿にしながら内心ではいつバレるのかとビクビクして……何人かは、そうして学校生活を過ごしてる』
彼女の言葉を思い返せばなるほど、ヒントはいくらでもあった。
いや、むしろ気付いてくれと言わんばかりのこの露骨さを考えれば本当は嘘を付き続けるのが苦痛だったのだろう。
誰かに気付いてもらい、そして肯定して欲しかったのだろう。
だがその弱気を……曝け出したイーディスの本心をミラベルは無情にも一刀で切り捨ててしまった。
だから心の距離が開き、疎遠になってしまったのだ。
「そ、そうか! ライナグルは穢れた血が混じっていたという事か。
ふ、ふん、それは襲われて当然だな。純血を騙る汚らしい――っ!!?」
得意気に話していたマルフォイだったが、突如その言葉が止まった。
何の前触れもなく、彼の首が飛んだからだ。
「…………ッッ!!」
……いや、違う! 首はちゃんとある! 切れてなどいない!
ただ一瞬、本当に首が切断されたかと思うほどの濃密な『殺意』を感じただけだ!
そしてそれは気のせいではない。もしあのまま言葉を続けていたら本当に“そう”なっただろうと確信出来る程の恐怖。それをマルフォイは感じていた。
ミラベルはそんな硬直してしまったマルフォイを一瞥もせずに、動かないイーディスの身体を抱き上げ、小さく呟く。
「……私は前言を撤回せんぞ、ライナグル。貴様のそれは唾棄すべき弱者の思考だ」
イーディスを持ち上げて周囲を睨み、眼力だけで退かせる。
そうして何事もなかったかのように歩き出し、その場から立ち去って行った。
声をかける者は誰もいない。
今の彼女は、触れれば切断されてしまいそうな、そんな剣呑さを持っていたのだから。
*
そして、それから1週間後。
全校生徒が待ち望んだクィディッチの日がやってきた。
応援席にはすでに生徒達が集っており、選手達もスタンバイしている。
そんな日だというのに、ハーマイオニーは応援席にも行かずに図書館で調べ物をしていた。
勿論、ただ手探りで調べているわけではない。確たる理由がそこにはあるのだ。
スリザリンの怪物の正体がわかったのである。
「やっぱり……イーディスは正しかったんだわ」
彼女が見ている本に描かれているのは巨大な蛇の怪物だ。
名をバジリスクと言い、蛇の王として恐れられている存在である。
目を合わせるだけで命が奪われるおぞましい化物。その解答に行きつくまでに随分かかってしまった。
本当ならば最初にイーディスが蛇という答えを提示してくれた時、ここに行き着いてもよかったはずなのだ。
だがハーマイオニーは彼女を信じきれていなかった。スリザリン生であるイーディスの意見を心のどこかで「自分達を混乱させようとしているのでは?」と疑っていたのだ。
何とも皮肉な話だ。そのイーディスが襲われた事でようやく信じる気になったというのは。
「あら? 貴女は確かグリフィンドールの……こんな所で何をしているの? もうクィディッチの試合が始まっちゃうわよ?」
そうして本を読んでいると隣から声をかけられた。
声の主はハーマイオニーよりも年上のレイブンクロー生だ。
名前は確かペネロピー・クリアウォーターといったか。
胸には監督生バッジが付いており、恐らくは図書館の巡回をしていたのだろう。
その表情はどこか不満げで、本当は試合を見に行きたかった、という本心が透けて見える。
「監督生……! いい所に!」
「え?」
「すぐに先生に伝えてください! スリザリンの怪物の正体はバジリスクだって!」
ハーマイオニーの口から出た予想外の言葉に監督生の女子生徒は息を呑む。
「そ、それは本当なの!?」
「はい! すぐに先生達に知らせる必要があります!」
正体がわかっていれば対策もし易くなる。
ならばすぐにでもマクゴナガル先生に伝え、全校に呼びかけてもらうのが一番だ。
直視さえしなければ死にはしない、とわかってさえいれば生存率はぐっと上昇するのだから。
「よ、よし、行きましょう」
「あ、その前にこれを」
早速移動しようとした監督生に、ハーマイオニーは手鏡を一枚渡す。
バジリスクを警戒する上で一番怖いのは曲がり角だ。
角を曲がった先に待ち構えていては眼をどうしても直視してしまう。
だが鏡さえあれば角を曲がる前に確認出来るし、万一本当にいたとしても石化するだけで済む。
「角を曲がる時はこれを見るようにして下さい」
「わ、わかったわ」
対策は万全。後は競技場まで移動するだけだ。
二人は鏡を片手にソロソロと移動し、図書館から出て行く。
そして最初の曲がり角に差し掛かり、鏡を見ようとした。
しかしそのタイミングを見計らったかのように、横から声が割り込む。
「やめておけグレンジャー」
この声には聞き覚えがある。まさかと思って見てみれば案の定、そこにいたのはミラベルだ。
彼女は相変わらずの不敵な笑みを浮かべており、腕を組んで壁に寄りかかっている。
邪魔をされた事で目くじらを立てるハーマイオニーに苦笑し、親指でレイブンクローの監督生を指差した。
「そこの女のようになりたくはあるまい?」
「え?」
言われて、慌てて監督生を見てみればミラベルの言う通り彼女は微動だにせず床に転がっていた。
先ほどまで確かに動いていたというのに、今はまるで死体のようだ。
これが何を意味するのかわからぬほど、ハーマイオニーは鈍くない。
彼女は青い顔をして、まさか、と呟く。
「ああ、そこの角に“いる”ぞ。わかったらさっさと目を閉じろ」
「!!」
言われるまでも無い。ハーマイオニーは即座に瞼を閉ざし、その場に蹲った。
それを確認してからミラベルも目を閉じ、角から姿を現してバジリスクと対面する。
視界こそ閉ざされているが、何ら問題はない。
肌に感じる圧迫感、突き刺すような殺意、そして蛇が這いずる耳障りな音。その全てが敵の存在を教えてくれる。
「ようやく会えたな、スリザリンの遺した愚物よ」
「■■■、■■■!」
シュー、シュー、と蛇の口から言葉らしき音が出るがあいにくパーセルマウスではないミラベルにその言葉を理解する事は適わない。
だが言葉を介さずとも、何を言っているのかは予測できる。この突き刺すような殺気が教えてくれる。
「フン……殺したくて堪らない、といった所か?」
「■■■■■■!」
閉じた視界の中で相手の気配が動き、圧迫感が強まる。
風圧が髪をなびかせ、膨れ上がった殺意が押し寄せる。
どうやらこちらを敵と認識したらしく、飛びかかってきたようだ。
だがミラベルに動揺はない。彼女は身体をわずかにずらす事でバジリスクの噛み付きを回避し、それどころか即座に杖を向けた。
「オブスクーロ(視界よ閉じろ)!」
「!!」
相手の視界を塞ぐ呪文をかけ、バジリスクの眼を塞ぐ。
これで条件は五分と五分。互いに閉ざされた暗闇の中での戦いとなった。
だがまだだ。視界を塞いでもバジリスクには鼻がある。ならばそれを封じる事で初めて優位に立てるのだ。
ミラベルは懐から悪戯専門店で買った爆弾を取り出し、気配と物音を頼りに投げつける。
鼻先で爆発し、その鼻がひん曲がるような悪臭がバジリスクとミラベルの嗅覚を狂わせた。
ウィーズリーの双子も愛用する悪戯のお供、『糞爆弾』だ。
すると突然周りが見えなくなり、匂いもわからなくなったバジリスクが動揺し、動きが止まった。
バジリスクは視覚と嗅覚が発達した蛇で、ピット器官は備えていない。つまりこれでミラベルを見つける手段はほぼ無いという事だ。
その一瞬の隙をミラベルは決して逃しはしない。
「そこか!」
無詠唱で切断の呪文を発動し、杖に纏って薙ぎ払う。
すると鋭利な剣と化した杖は易々とバジリスクの鱗を切り裂き、鮮血を迸らせた。
バジリスクのこの世の物とは思えない絶叫が響き、ハーマイオニーがより一層縮こまる。
「■■■■■■ーーーッ!!」
「どこを狙っている!」
見当違いの方向に突進するバジリスクへ、気配を頼りに再び杖で切り付ける。
1撃! 2撃! 3撃!!
次々と振るわれる斬撃にバジリスクの身体が血に染まり、廊下を赤で装飾していく。
だがミラベルに容赦はない。
跳躍してバジリスクの前に飛び出し、その顔目掛けて連続で呪文を叩き込んだ。
「■■■■■ーッ!!」
あまりにも一方的な戦いだが、実の所ミラベルとバジリスクの差はそこまで大きくない。
では何が明暗を分けたのか。
それはバジリスクが50年もの間、ほとんど何も食しておらず、すでに弱りきっていた事。
そしてミラベルを今までの相手と同列に見て、舐めてかかった事が原因だ。
その代償として視界を塞がれ身体中を裂かれ、そして遂に最大の武器である眼球までもを切り裂かれてしまったのだ。
それを天井裏で観戦していたネズミ……ミラベルのペットであるピョートルが彼女の肩に飛び乗り、鳴き声を発する。
するとミラベルが勝利を確信したような笑みを浮かべ、その金の眼を開いた。
もう視界を塞ぐ必要はない。蛇の王の眼はすでに失われているのだから。
「フ……無様だなバジリスク。こうなっては蛇の王と言えど、そこいらの大蛇と何ら変わらん」
残忍さを前面に押し出したような壮絶な笑みを浮かべながら、ミラベルがバジリスクを見下す。
血に塗れた身体、潰された瞳、そして方向感覚すら失って逃げようとする姿。
それを見ればもはやどちらが勝者であるかは考えるまでも無い事だろう。
しかしミラベルは手を緩めない。
もし彼女が蛇語を理解出来るならばきっと、今バジリスクが命乞いをしていた事を理解出来ただろう。
「自分の意思ではなかった」「継承者に操られていた」と、そう言っていた事を知る事が出来ただろう。
しかし仮に知った所でミラベルは止まらない。微塵の躊躇も、一欠けらの慈悲も見せず攻撃を続行する。
何故なら彼女は、一度敵対したが最後、何が相手であろうと徹底的に蹂躙しなければ気が済まないからだ。
むしろ相手が強ければ強いほど、上位の存在であればあるほど、その無様な姿を愛でずにはいられない。
上から引き摺り下ろされ、哀れにも恐怖に打ちのめされる姿に恍惚を感じずにはいられない!
ましてや彼はミラベルの数少ない『お気に入り』に手を出してしまったのだ。
そんな存在をミラベルが見逃すはずもない。
「さあ、みっともなく逃げ回れバジリスク! これより行われるのは戦いではない。
私がただ貴様を痛めつけるだけの、一方的な殺戮ショーだ!」
そう宣言し、杖を振り下ろす。
血飛沫がミラベルの身体を汚し、廊下中に飛び散る。
「泣け!」
横薙ぎ!
胴体を裂き、露になった肉に杖を突き立ててグリグリと抉り、悲痛な叫びをあげさせる。
「叫べッ!」
炎の呪文で身体を焼く。電撃を口の中に送り込む。氷漬けにして踏み砕く。
殴り、蹴り、裂き、叩き伏せてまた殴る。
戦意を失った相手を一息では殺さずに、より長く苦しむように凄惨な攻撃を加え続ける。
「そして死ねえええッ!」
ハーマイオニーは相変わらず伏せてガタガタと震えていた。
だが恐怖の対象はすでに変わっている。
先程までは確かにバジリスクに怯えて身を伏せていた。
だが今は、それを捻じ伏せ痛めつけている底知れぬ少女にこそ怯えていた。
彼女の圧倒的な残忍さに、涙すら流してただハーマイオニーは怯え続けるしかなかった。
この少女こそが本当の化け物だ!
彼女の心こそがどこまでも底のない真っ黒なクレバスだ!
『スリザリンの怪物』とはバジリスクの事などでは断じて無い。
このミラベル・ベレスフォードこそが本物の『スリザリンの怪物』だったのだッ!
「アーッハハハハハハハハハ!! アーッハッハッハッハッハッハッハッハ!!」
美しい少女の姿をした怪物は、ただ嗤い続ける。
何が面白いのか、心の底から愉快そうに嘲笑し、必死に逃げようとする蛇の王をねじ伏せ、叩きのめし、蹂躙し、その返り血を自らの化粧としながら残酷極まる処刑を長々と続ける。
それを止める者は誰もいない。
いや、仮にいたとしても手出しなど出来ない。
彼女こそがこの場を支配する化け物なのだから。
バジリスクがようやく息を引き取り、その苦しみから解放されたのは実に8分後。
その間、一度としてバジリスクの悲鳴と少女の狂笑が止む事はなかった。
バジリスク「操られてただけなんだ!」
普通のオリ主「それは可愛そうだ! 俺の仲間になれ!」
バジリスク「ありがとう! 何て優しいんだ! 忠誠を誓うよ!」
バジリスク「操られてただけなんだ! 助けて!」
ミラベル「知らん。死ね」
バジリスク「Σコイツ最悪だ!?」
(*M*) イーディス……脇役が画面に映りすぎるから……。
皆様こんばんわ。今回はイーディス石化とミラベルVSバジリスクでお送りしました。
ハリーが秘密の部屋に突入する前にまさかのバジリスク処刑。何やってるんでしょう、こいつ。
まあ一応ラスボスであるトムさんがまだいるので何とかなるでしょう……多分。
戦いになるとテンションが上がってやりすぎるのがミラベルの悪いクセです。
酷い主人公だ……。
一応バジリスクを味方にするのも考えていたのですが、それはほら、他のSSのオリ主さんが散々やっている事ですし……。
善良なオリ主=バジリスクを味方にする
ならば、悪役なミラベルはその逆を、と思った結果がこの大惨事です。