皆様こんばんわ。皆様の温かい感想に感謝の極みです。
人を選ぶジャンルではありますが、もし少しでも楽しんで頂けるならば嬉しい限り。
それでは、第2話をどうぞ。
ダイアゴン横丁。そこは魔法使いや魔女が必要とする、ありとあらゆる魔法道具が売られている横丁だ。
マグルから隠れるようにして存在しているその横丁に行くには、認識阻害魔法がかけられているパブ「漏れ鍋」の裏庭を経由しなければならないが、それは魔法的手段を用いない場合だ。
魔法使いならば自宅から
それは純血の名家であるベレスフォード家令嬢、ミラベル・ベレスフォードも例外ではなく、自宅からダイレクトにここまで飛んでこれるわけだ。
ミラベルはホグワーツで必要になる学用品を揃える為この横丁を一人で訪れており、そして迷う事なくオリバンダー杖店へと足を運んだ。
魔法使いにとって最も重要であるはずの杖を売っているにしては、店中は随分狭く、そしてみずぼらしい。
中に入ると奥のほうで鈴の音が響き、一人の老人が歩み出てきた。
「いらっしゃいませ。杖をお買い求めで?」
「ああ。杖はここの物が最も上質と聞く」
「いかにもいかにも。多くの杖がこの店から持ち主の手に委ねられ、そしてその生涯を共にしました。
さて、まずは採寸といきましょう。杖腕はどちらかな?」
「右だ」
ミラベルが右腕を出すと銀色の目をした店主はポケットから巻尺を取り出し、肩から指先、肘から肩、膝から脇の下、頭の周り、とあらゆる角度から長さを測り、ふむふむと一人で頷く。
途中、勝手に動く巻尺が無遠慮に顔に近付いてきたので握り潰してやったが、どうやら店主は気付いていないらしい。
「オリバンダーの杖は一本一本強力な力を持った物を芯に使っております。
一つとして同じものはない……ドラゴンの心臓の琴線、一角獣のたてがみ、不死鳥の尾の羽根……重要なのは、どれが自分に合っているかです。
例えば他の魔法使いの杖を使っても決して自分の杖ほどの力は出せないわけですな」
店主は杖に関してのうんちくを垂れながら一本の杖を取り出し、ミラベルの前に出す。
手に取れ、という事だろうか。
「赤松に不死鳥の羽根、23センチ。耐久性に優れる」
渡された杖を軽く振るとわずかに光が漏れるが、いまいち手に馴染まない。
店主はすぐにその杖をミラベルの手から取り上げ、次の杖を渡した。
「米杉にバイコーンのたてがみ、21センチ。軽くて軟らかい」
少し手にして、すぐにミラベルは杖を老人の手に返した。
振らなくてもわかる。これは話にならない。
老人も同意見だったのだろう。すぐに次の杖を出してミラベルに渡した。
「柊にヘルハウンドの毛、18センチ。炎の魔法に最適」
その杖を振るとなかなかの熱気が杖から放たれ、室内をまるで真夏のように暑くする。
店主の老人はそれを見て「素晴らしい」と頷いているが、ミラベルはまだ物足りなさを感じていた。
どうにも違う。これでは何かが足りていないのだ。
「店主、次だ」
「え? いやしかし、今の杖は」
「相性はよかっただろうな。だがそんな凡百の杖などに用はない」
言いながらミラベルは指先から炎を出し、老人を驚かせた。
それはそうだろう。まだ入学すらしていない少女が魔法を、しかも杖もなしで行使したのだ。
彼女はすぐに炎を消すと老人に言う。
「わかるか? 私にとって凡百の杖など在っても無くても変わらんのだ。
どうせ使うならば意味のある物でなければな」
「う、ううむ、しかし……そうなると後は……」
「ないのか?」
「い、いえ、あるにはありますが……」
店主は渋々といった様子で棚から何かを引っ張り出した。
それはかなり巨大な杖で、他とは一線を画するものだと一目でわかる。鈍器としても通用しそうなくらいだ。
彼はその無骨な杖の埃を手で叩いて払うとミラベルの前に差し出した。
「樹木子にヴァンパイアの髪の毛、72センチ。硬く重く融通が利かず、そして何より凶暴。
この店創業以来、一度も人の手に渡った事のない厄介な奴です」
「ほう」
ミラベルの身長からすればまさしく巨大、としか形容出来ないその杖を手に取り魔力を込める。
すると反発するような感覚と共に凄まじい破壊衝動のようなものが伝わってきた。
あろう事か杖の分際でミラベルの意思を無視し、勝手に魔力を暴発させようとしているのだ。
手の中で暴れるその杖を見てミラベルは実に楽しげに、ニィ、と口の端を歪める。
「……気に入った。私の杖になるからにはやはり、このくらい威勢がよくなくてはな」
これでこそ、このミラベル・ベレスフォードの杖に相応しい。
持ち主に逆らうくらいで丁度いい。反抗心剥き出しなぐらいが面白い!
楽しげな笑みを浮かべたままミラベルは掌に魔力を集め、杖の暴走を強引に力尽くで捻じ伏せにかかる。
紫電が迸り、店内のあちこちに火花が散る。
オリバンダー杖店創業以来の、まさかの店内での魔女と杖のガチンコ勝負だ。
だがその戦いはすぐに終息の時を迎え、やがて紫電が収まり魔力の胎動も感じられなくなってきた。
戦いの勝者が決定したのだ。
「……店主、こいつを貰うぞ。言い値で買おう」
戦いの勝者はこの幼い少女だった。
持ち主が長年現れなかった杖を強引に捻じ伏せたのだ!
その事に店主は畏怖を感じつつ、ズリ下がっていた眼鏡を持ち上げる。
とはいえ、客は客でこれは商売だ。ならば彼女の言う通り値段を提示しなくてはならない。
「10ガリオンです」
「ふむ。いい買い物をさせてもらったぞ」
代金を置き、その身長には不釣合いな杖を肩に抱えて少女は店の外へと出て行った。
その背を見送りながら店主の老人は、何か不吉な予感を感じずにはいられなかった。
これほどの胸騒ぎは『例のあの人』の杖を選んだ時でさえ感じなかったものだ。
願わくば……願わくばどうか、あの杖が悪事に使われませんよう……。
心のどこかでその期待は裏切られるだろう、と確信めいたものを感じながら、しかし老人はそれでも祈り続けていた。
杖を買ったミラベルが次に向かったのはフローリシュ・アンド・ブロッツ書店だ。学校で使う教材を買い揃えなくてはならない。
それが済めば次は鍋屋に向かい、魔法薬の授業などで用いる鍋を購入する。
買う物が多くて全く面倒だが、まあ仕方あるまい。学校とはそういうものだ。
途中箒店が目に付いたが、そこは無視して素通りした。一年の箒所持は認められていないからだ。
ついでに途中で「ギャンボル・アンド・ジェイプス」という名の悪戯専門店にも立ち寄る。
ここは悪戯専門に特化した魔法道具を売っている店で、なかなか興味を引かれる場所だ。
それが終わり、一通り使えそうな物を揃えた彼女は次にペットを購入する為に魔法動物ペットショップへと足を運んだ。
ペットとして最も人気があるものと言えばやはりフクロウだが、ミラベルはフクロウに興味がない。
確かに魔法使いの間での郵便配達などに役立つかもしれないが、ミラベルは進んで家族に手紙を送る事はしないし、何かあれば向こうからフクロウを飛ばしてくるのがわかっているからだ。
店に入るとカウンターの向こうに座っている魔女がミラベルへ声をかける。
「いらっしゃいお嬢ちゃん。ペットをお求めで?」
「うむ。何かいい物はないか?」
「そうだね、あのシルクハットに化ける兎などはどうだい? 最近入ったばかりのお勧めだ」
言われてケージの中の兎を見る。
確かに魔女の言う通り兎がシルクハットに化けたり元の兎に戻ったりを繰り返していた。
なるほど、なかなか愉快な動物だがしかしこれを連れて行く事は出来ない。
ミラベルは入学許可証をポケットから取り出すと中身を確認する。
「……駄目だな。ホグワーツに連れていけるのは猫、ヒキガエル、フクロウ、ネズミだけのようだ」
シルクハットになる兎とはなかなか面白いが許可されていない物を持っていっても役には立つまい。
ならばここは持ち運びが便利で、かつ小回りの効くネズミが最適だろうか。
ネズミならば普通は通れないような場所も通れるだろうし、探索役としてはこの上なく便利だ。
「ネズミをもらおう。なるべく活きのいい奴を頼む」
「それならこれなんてどうだい?」
そう言って魔女が指差したケージの中には黄色いネズミが入っていた。
大きさはネズミとは思えないほどに大きく、人の頭以上のサイズがある。
黄色い体毛につぶらな瞳、頬に付いている赤色の丸模様が可愛らしい。
「ピカチュー」
「最近入荷したばかりの電気ネズミ。頬の電気袋からは最大で10万ボルトの電気が……」
「いらん、次」
小回りの効くネズミを求めているのであって猫並の大きさのネズミなどに用はない。
続いて魔女が指差したケージの中にあったのは黒いネズミだ。
掌に乗りそうなくらいのサイズで元気よくケージの中を走り回っている。
なるほど、活きがよさそうだ。
「黒ネズミ。少し凶暴で扱い難いけど活きはいいよ」
「ふむ、それにするか」
代金の3ガリオンを渡すと魔女がケージの中からネズミを取り出す。
するとネズミは狂ったように暴れ始め、散々魔女の手を引っかいたり噛み付いたりしてようやく外へと持ち出された。
そのネズミはミラベルの手に渡っても相変わらずで彼女の手の中で暴れ続けていたが、ミラベルが金色の瞳で冷たく睨むと動きが収まる。
そして負けじと小さな目で彼女を睨み返した。
「…………」
「…………」
10秒くらいそうして睨み合っていただろうか。
やがてネズミがおずおずと視線を外し、完全に大人しくなったのを見てミラベルが満足気に笑った。
どちらが上かよく理解したようだ。なかなか賢いネズミではないか。
「これは驚いた。ピョートルを大人しくさせちまった」
ミラベルはポケットにピョートルと呼ばれた鼠を放り込み、店の外へと出た。
これで後は制服とローブのみだ。
それを買い求める為にマダム・マルキンの洋装店へと訪れてみれば、店の外には2mを超える大男が立っていた。
ボサボサとした髪に針金のような髭、黄金虫のような瞳。少し……いや、かなり不潔なイメージを抱かせる男だ。
恐らくは彼が森番のハグリッドだろう。
しかしミラベルは森番などには興味を示さず、素通りして店の中へと入っていく。
すると店の中では二人の少年が何やら言葉を交わしていた。
*
ハリー・ポッターは不機嫌だった。
このマダム・マルキンの洋装店で初めて同い年の魔法使いの男の子と出会って嬉しくなったのも束の間、彼の話を聞けば聞くほど彼を嫌いになっている自分に気付いたのだ。
少年はそんなハリーの不機嫌に気付く事も無く偉ぶった口調でハリーに話しかける。
「ほら、あの男を見てごらん! 森番のハグリッドだ! 言うならば野蛮人だって聞いたよ。
学校の領地内にほったて小屋を建ててそこに住んでるんだ」
ハリーの前に立つ青白い顔をした少年はしきりにその尖った顎を動かし、不愉快な言葉を述べる。
その内容はハグリッドを侮辱するものであり、一層ハリーを苛立たせた。
ハグリッドはハリーをダーズリー家から連れ出し、この素晴らしい魔法の世界を教えてくれた恩人だ。
その彼への暴言、というだけでハリーはこの少年に殴りかかりたい衝動に襲われた。
「彼って最高だと思うよ」
「へえ? どうして君と一緒なの? 両親は?」
「死んだよ」
「おや、ごめんなさい。でも君の両親も僕らの同族なんだろ?」
「魔法使いと魔女だよ。そういう意味で聞いてるんならね」
話しながらハリーは、さっさと会話を切り上げたいと思っていた。
何だかわからないが、ハグリッドの事を抜きにしてもこの少年とは馬が合わない気がしていたのだ。
これ以上不快になる前にこの場を離れてしまいたい。
だが事態はハリーの望みに反し、収束するどころか更に厄介な存在を招き入れてしまっていた。
「おや、君もホグワーツかい?」
「ん? ああ、そうだ」
新しく店に入ってきた少女に対し、少年が口を開く。
その姿を見てハリーは思わずほう、と溜息を漏らしていた。
まるで月の光のように輝く金色の髪に同じく暗い店内でも不思議と目立つ黄金の瞳。
完璧なバランスで整った顔立ちにスラリと均整の取れた肢体。
それは恐らくハリーの11年の生涯の中で見た中で、最も美しい生き物だっただろう。
普段彼が見る女性といえば首が無駄に長いペチュニアおばさんくらいのものであり、これ程美しい少女を彼は見た事がなかった。
「ねえ、君の両親は僕らと同じかい?」
「純血という意味ならばそうだな」
どうやらその少女もハリーや少年と同じく純血の魔女らしい。
その事に気をよくしたのか、少年は得意気に語る。
「それはよかった。やはり魔法族は純血じゃないとね。
僕はね、他の連中は入学させるべきじゃないと思っているんだ。そう思わないか?
連中は僕らと同じじゃない。手紙をもらうまではホグワーツの事を知らなかった奴だっている。
入学は昔から魔法使い名門に限ると思うよ」
酷い選民思想だ、とハリーは思った。
それからこの少女はどう思っているのだろうと考えてたところ、どうやら彼女は違う考えの持ち主らしく、面白くなさそうに鼻を鳴らす。
そして口の端を歪めて己の持論を語り出した。
「それは違うな。マグル生まれだろうが何だろうが優秀な者はどんどん入れるべきだ。それこそ輝かしい発展に繋がる。
真に不要なのは実力もないくせに血筋だけで成り上がる無能の害悪共だよ。
純血だろうが名門だろうが関係ない。無能の豚共こそ処分してしまえ」
こっちも選民思想だった!?
少女の愛らしい口から飛び出した暴言にハリーは眩暈を覚え、額を押さえる。
方向性こそ少年とは真逆だがこちらも間違いなく危険な選民思想の持ち主だ。
いや、むしろ「処分」などという単語が飛び出す時点で少年よりも過激かもしれない。
「なっ!? それじゃあ何だい、君は純血の名門を追い出せと言うのか!」
「違うな。有能ならばマグル、純血問わずチャンスが与えられるべきであり、無能ならば名門だろうがマグルだろうが失せろ、と言っているのだ。
血筋など関係ない。真に優秀な者だけが栄光を手にし、劣等種は排除される。これこそ正しく美しい有り方だとは思わんか?」
どちらも酷い思考だ。とてもハリーのついていける考え方ではない。
方向性の異なる二つの選民思想。それを聞きながらハリーは、魔法使いってこんなのばかりなのか? と不安に思っていた。
そのハリーを他所に少年は興奮したように声を荒げる。
「そ、そんな考え方は絶対におかしい! 間違ってる!」
「違うな。私が間違っているのではなく貴様の思想が古いのだ」
「……っ、話にならない! 失礼するよ!」
ハリーからすればどっちもどっちだが、少年にしてみればこの金色の少女は得体の知れない危険な相手に思えたようだ。
彼は元々青い顔を更に青くしながら踵を返し、足早に店から出て行ってしまう。
その後姿をつまらなそうに見送り、それから少女はカウンターへと足を運んだ。
だが途中で振り返り、何が面白いのか含み笑いをしながらハリーへと言う。
「どうしたハリー・ポッター。私の背がそんなに気になるか?」
どうやら凝視していたのが気付かれたらしい。
ハリーは顔を赤くして視線を逸らし、そこでふと、まだ名乗ってもいないのにこの少女が自分の名を呼んだ事に気が付いた。
まあ、この横丁に来てからはそんなの別段珍しくも無い。
何せ会う人会う人全てがハリーの事を知っており、まるで英雄に接するかのように近寄ってくるのだ。
しかしこの少女の眼にある剣呑な輝きは明らかにそれまで出会った人々とは異なっていた。
「あ、いや、その……」
「フ、噂の英雄様はなかなかシャイと見える。そんなのではこの先辛いだろうに」
服を買い揃えたらしく、少女はローブや制服を袋に詰めていく。
丈合わせなどをしていないようだが、どうやら前もって店に予約を入れていたらしい。
彼女はハリーの隣を横切り、別れ際に一言、告げる。
「それではなポッター。ホグワーツでまた会おう」
それがハリー・ポッターと黄金の少女……ミラベル・ベレスフォードとのファーストコンタクトであった。
(*´ω`*)<ナントバクセイハ!
今回はミラベルの買い物タイムでお送りしました。
杖はハグリッドの物よりもでかい杖で鈍器にも使えます。
ペットはフクロウにしようかとも思いましたがそれもありきたりなので思い切ってネズミにしてやりました。
そしてハリー、ドラコと遭遇しいきなりマイナスイメージ植え付けです。何やってるんでしょうこの主人公。
これでハリー、ドラコ両陣営から危険人物認定です。というか実際危険人物です。
ミラベルの原作知識は最初に明記した通り5巻の「不死鳥の騎士団」までです。
これはミラベルの行動を制限する為のストッパーと思って下さい。
何せ7巻までの知識を与えてしまうとヴォルデモート登場前にナギニ以外の分霊箱全部破壊(ハリー含む)、とかが可能になり物語が木っ端微塵になってしまいますので。
後、どうでもいい事ですがミラベルの容姿はロリカードを金髪金眼にして前髪を前分けにした感じをイメージしております。
※樹木子とは。
現実には存在しない架空の木。
外観こそ普通の木と変わらないものの、多くの戦死者を出した戦場跡などに生えている為血に飢えて妖怪化しており、通りかかった人を捕まえては血を啜る。
そうして血を得る事でいつまでもみずみずしい姿を保つ。